第8章 インキュバスさんお披露目パーティー 3
俺と有妃はただ互いの体を求めあう。何度もキスを繰り返し、滑らかな蛇体を愛撫し、ぎゅっと抱きしめ、豊かな双丘に顔を埋める…。そしてじっと見つめあった後に、照れたように視線を外して店内を眺めた。
いつしか店の真ん中にステージが置かれ、勇気あるカップルがそこで行為を見せつけている。皆熱い眼差しで注目しており、歓声を送ったり冷やかしたりと夢中になっている様だ。今は鍛え抜かれた姿態のアマゾネスが、ブーイングをものともせずに男に馬乗りになっている。
彼女は『我らの種族の伝統を弄ぶ貴様らに、男の犯し方というものを教えてやるッ！』と大音声で宣言したものだから、皆の猛反発を受けてしまっているのだ。男の方も散々野次を受けながらも必死に頑張っている様だ。
俺達はただその光景に見入る。周囲の濃く粘っこい空気が押し寄せてくるようで、知らぬうちに体が熱くなってきた。
「…ねえ…佑人さん…。」
「ごめん…。さっきも言ったけどちょっと無理…。」
「ですよね〜。私もさすがにステージ上では…。」
店の雰囲気にも馴染んで気持ちも高ぶっているが、まだみんなの前で見せつけるほど勇気はない。しかもこの熱演の後では余計二の足を踏んでしまう。俺と有妃は顔を見合わせて苦笑した。
だが…そこで妙に甲高い笑い声が耳に入った。俺と有妃の間のゆったりとした空気が乱されて思わず目をやる。何事かと思えば、そこには先ほどのラミアが蛇体を悠然と男に絡ませていた。彼女は相変わらず俺達を見つめて何やらパートナーに耳打ちしている。
まだこちらをじろじろ見ていたのか…。原因は俺達にある事は承知しているが、さすがに気持ちが苛立ってくる。有妃も不快そうにため息を着くと、幾分鋭くなった視線を彼女達に向けた。
「え〜と…。これは礼儀に反すると思うのですが…。いくら私たちが切っ掛けだとしても…。ちょっと一言言ってきますねっ。」
有妃は笑顔でそう言うと立ち上がろうとした。だがその瞳はエレンに向けていたのと同様か…それ以上に強い光を放っている。いけない！俺は慌てて有妃を引き留める。
「まあまあ有妃ちゃん！ほら…あのカップルも興奮しているんだよ…。状況が状況だし…。こんな事忘れて楽しもうよ！ね…お願い。」
「………そうですかあ？まあ…佑人さんがそうおっしゃるのなら私も事を荒立てませんが……。」
必死にしがみついて押しとどめる俺を見つめ、有妃は不承不承ながらも席に着いた。
「でも…。ずっとじろじろ見られっぱなしではどうも癪に障ります。ふふっ…。こちらも負けずに見つめてやりましょうっ！」
「有妃ちゃん…。だから、やめようよ…。」
悪戯っぽく笑うと有妃はラミアのカップルをじっと見つめる。まずい…。こんな眼をつけるような真似をして相手も黙っていないだろう。不安な俺を無視するように、有妃は挑戦的な笑みを送り続ける。俺と同様に困っているのだろう。ラミアの相方の男も慌てたようにパートナーをなだめている。
もしかして大蛇同士が身を絡みあわせての戦いになるのか…。そんな思いが一瞬頭をよぎったが事は意外な展開を迎えた。
ラミアは蠱惑的な笑顔をこちらに向けると番の男をぐるぐる巻きにしたのだ。そして頭を胸に抱いて優しく愛撫し、何度も何度も口づけする。思わぬ事になり俺達はあっけにとられて見つめるだけだった。
だが…その光景は淫らで嗜虐的だった。蛇体に拘束された男は愛撫を受けて何度も体を震わす。それを見たラミアは酷薄な笑みを浮かべ、決して男をイカせずに寸止めの快楽を送り続けるのだ。男はもっと深い快楽を求めて何度も哀願している。
しかし、ラミアは無視するかのように蛇体をさらに念入りに絡みつかせた。とうとう男は身動きできないほど拘束されてしまった…。快楽と焦燥感が交じった男の喘ぎ声が耳に絡みつく。
俺は半ば呆然としながらも以前見た映像を思い出した。それは大蛇が獲物をぐるぐる巻きにして丸呑みにするものだが…これもまるで男がラミアに食われているとしか見えないではないか…。
「すごい…。食われてるみたいだ…。」
知らぬうちに思いが呟きとなる。だが、ふと気が付いた。今見ている光景は俺と有妃の日常と全く同じではないのか？いつも有妃にしっかりと巻き付かれ、甘い安らぎに浸って、情けなくあえいでいるのだから…。
良く考えれば今まで自分たちの姿をこの様に客観視する事など無かった。そうか…。俺もこんな風に有妃に食われているんだ…。妙な興奮を抑えきれずに、恐る恐る有妃に聞いてしまう。
「ねえ…有妃ちゃん…。俺もああなの…。」
「ん？とんでもないっ！佑人さんの方がずっと可愛らしいですよぉ…。」
同じラミア属の痴態を目の当たりにして有妃も発情しているのだ…。とろける様な甘い瞳で俺を見つめた。俺はそっと俯いてかぶりを振る。
「ううん…。そうじゃないんだ。あのね…。」
「ああ…そう言う事ですか…。そうですよ。佑人さんもいつもあんな風に私に食べられているんですよ…。」
敏感に気持ちを読んだ有妃が俺の耳元で熱っぽく囁いた。自然と体がぞくぞくと震えてくる。さらにぬるぬるの舌で耳元を何度も舐められ、熱い息を吹きかけられ、有妃への欲望が高まって行く。
「それなのに佑人さんったら私がぎゅーってするたびにいっつも興奮して…。ずっと甘えちゃって…。本当にいけない子です…。ふふっ…。これはおしおきですよっ！」
ねっとりと語り終えると、有妃は俺の首筋に歯を立ててきた。甘噛みなので痛くは無いが、突然の事で呻いてしまう。そのまま首筋をぺろぺろと舐められ、唾液でべとべとになってしまった。
「あれを見ていたら…私も佑人さんを食べたくなっちゃいました…。いいですよねっ…。」
「待って…有妃ちゃん…。」
有妃は俺の答えも聞かずにまた蛇体を絡みつかせる。ラミアの番の男がされていたように蛇体でぐるぐる巻きにして、優しい圧迫で俺を締め上げた。甘い拘束にあえぐ俺を見て見下すかのように妖艶に笑う。
「大丈夫ですよっ。私はあのラミアとは違います。佑人さんを焦らして困らしたりはしませんからねっ。すぐに何度でもイかしてあげます…。」
「でも……。」
「あっ…。やっぱり嫌ですか？それなら無理にとは言いませんけど…。」
あまり乗り気で無さそうな俺を見て、有妃は優しく気遣う様に微笑んだ。あのステージ上では絶対に嫌だが、この場所だったらいいかもしれない。でも、周りから見られるのはやはり恥ずかしい…。そんな気持ちを正直に打ち明ける。
「ううん…。有妃ちゃんとはしたいんだよ。でもやっぱり恥ずかしいかな…。」
「ご安心ください！それなら…こうすれば佑人さんは他の人には見えませんよ…。」
安心させる様に有妃はにっこりする。そして俺を座席の背もたれに押し付けると覆いかぶさった。確かに蛇体と背もたれに隠されて俺の姿はほとんど見ることが出来ない。成程、と感心する間もなくズボンを下ろされた途端、猛り切ったモノがぶるんと飛び出した。これから有妃に搾り取られるんだ…。今から与えられる最高の快楽を期待して、何度も荒い息をついてしまう。
「まあ…こんなに大きくしてっ…。では早速いただきますね…。私もずっと我慢していたんですから…。」
濡れた様な赤い瞳が切なげだ。有妃は自らの秘裂に俺の怒張を押し当てると腰を落としていく。あたかも食われるかの様に、どろどろの淫唇の中にずぶずぶと呑み込まれていった。
「うっ…。ゆきちゃん…。」
「どうですかぁ…。おチンチン食べちゃいましたよぉ…。」
たちまちのうちに竿がきゅうきゅうと締め付けられ、亀頭がぺろぺろと舐められるような刺激が加わる。ぬるぬると包み込むような快感を加えられて、知らぬ間に悦楽の呻き声を上げていた。
「我慢しないでいいんですからね…。いつでも好きな時にイって、中にたくさん出して下さいね…。」
有妃は耳元でねっとりと囁いた。熱い吐息にまたしても体が震えて惨めな声が出てしまう。
「ああっ…。」
「ふふっ。佑人さんったら…。可愛いですっ！それじゃあもっと可愛くなって下さいね！」
愛らしくも嗜虐的な笑みを浮かべると腰を何度も打ち付け始めた。そのリズミカルな動作に俺の快楽も連動して高まって行く。いつしか知らぬ間に下から腰を突き上げていた。もっと快楽を得たくて何度も何度も有妃の秘肉に肉竿を叩き付ける。結合部からはどろどろの淫水が溢れ出て下半身をべたべたにする。
「ゆきちゃんっ…きもち…いいっ！」
「ふふっ。そんなに腰をへこへこして…お顔も素敵です…。私で感じてくれて嬉しいですよっ！……それではこれはどうですかぁ…。」
悦楽に溺れて我ながら情けない顔だったと思う。そんな俺を見て有妃は瞳を赤く輝かせると、嬉しそうに腰を押し付けた。すると、彼女の温かい肉洞の中から何かが下りてきて雁首を包み込み、優しく柔らかく吸い上げ続けた。
「それっ…いいよお…。」
「ですよねぇ…。いいですよね。佑人さんが大好きな子宮口ですよぉ…。じゃあ…。下のお口でおチンチンもぐもぐしちゃいますから…。もっともっと気持ち良くなって下さいね！」
有妃は子供をあやす様に語りかけた。たちまち子袋が蠢き裏筋を念入りに舐めあげる。鈴口にも肉襞が吸い付き尿道口を丹念に刺激する。まるで触手の様な動きで有妃の子宮口が肉竿を責め続けた。いつもこうして嬲られるとすぐに達してしまう。本当にこれはたまらない快楽だ。
「うあああっ…。」
「イキそうですか？いいんですよっ！……下さいっ。赤ちゃんのもとた〜くさん下さいねっ！」
有妃が泣くように精をねだると責めが激しさを増す。止めを刺すかのように亀頭が激しく吸引されると、もう我慢できなかった。
「でちゃう…。もうでるよお…。」
俺が叫ぶと同時に尿道口に熱い何かが走りぬけた。それは下半身が蕩けるような快楽を伴い子宮の中にぶちまけられた。激しすぎる快感のあまり射精が止まらない。痙攣するように体を震わす俺を、有妃はしっかりと抱きしめ優しく愛撫してくれる。抱擁と射精、安楽と淫楽がもたらす恍惚感に俺の心は蕩け切っていた。
「だめ…。止まらない…。」
「ああっ。いいですよお。もっと…もっと下さい。お願いです。赤ちゃんのお部屋にもっとせーえき注ぎ込んでください…。佑人さんの赤ちゃん妊娠させて下さいっ！」
喜びを爆発させたかのように有妃は恍惚とした笑顔だ。俺は頭が真っ白になる様な快感を味わいながらその艶やかな姿を見つめる。相変わらず子宮口は亀頭を吸い続け、我慢できず射精するその悦びに没頭する。そのときだ。不意に口を吸われて長い舌を入れられた。たちまち俺の舌を絡み取り何度も執拗に吸い続ける。
ぬるぬるでざらざらした舌に思う様に嬲られる。絡みつかれ、吸われ、口中のいたるところをかき回される。そのゾクゾクする様な感触にますます淫らな思いは膨らむ。有妃の胎内に包み込まれている俺の欲棒は萎える事を知らなかった。
身を避けようにも両腕で頭をしっかりと抱かれている。蛇体も全身に巻き付きうねる様に拘束されているので、体を動かす事すら出来ない。ただ有妃の柔らかく熱い唇と舌。それがもたらす至福の淫楽に溺れるだけだった。
俺が下になって舌を絡み合っているので、有妃の唾液は容赦なく口中に注ぎ込まれる。無論彼女をその事を知っているのだろう。少々意地悪な目つきをして反応を楽しんでいる様だ。でも、魔物娘の甘い唾液は呑んでも不快では無く、陶酔感と体の火照りを覚えるだけだ。そしてこれがまた心地よいのだ。いつしか有妃の舌を求めて自分から夢中になって吸っていた。
しばらくの間有妃がもたらす嗜虐の施しを喜んで受け入れていた。だが俺達双方とも息苦しくなったのだろう。どちらからともなく自然と唇を離した。有妃の唇からだらだらと滴る唾液が淫らだ。
「もうっ…佑人さんったら！いつも美味しそうによだれを飲んで…。本当に変態さんですねぇ！」
「そ、そんなこと…。」
淫らで加虐的な表情で嘲笑うが、本当の事なので反論は出来ない。俺は顔を赤らめて口ごもってしまう。
「言い訳はだ〜め！変態さんにはおしおきですからねっ！」
有妃は得意げに言い放つと再び胎内の蠢きを強める。その蕩けるような快楽に、僅かの我慢もならずに精を搾り取られた。情けなそうにあえぐ俺を見てますます刺激されたのだろう。有妃は強烈な眼差しを見せると、さらに何度も子宮に精を吸い取り続ける。
激しく嬲る様に、それでいて柔らかく包み込み、這い回り絡みつき…吸い付き舐めまわす様な…。そんな有妃の胎内がもたらす淫楽には耐えきれなかった。さらに全身に絡みつく蛇体もしっとりと温かく、俺を抱きしめるかのように包み込んでくれている。
俺の心身の全ては有妃が与えてくれる快楽によって支配されていた。真っ白になって、どろどろに溶解していく…そんな妄想に囚われてしまう。
「そんなにされたんじゃ駄目っ。とける・・・。もうとけちゃう…。」
たまらず哀願する俺に有妃は慰める様に優しく笑ってくれた。柔らかい手つきで頭を撫で、背中をぽんぽんと叩いてくれる。子供みたいで恥ずかしいのだが、いつもこうされると本当に落ち着く。
「よしよし…私がこうして抱きしめていてあげますから。何にも心配しないでいいんですよ…。さ、あともうちょっと頑張ってくださいね…。そして、私をママにして下さいね。」
「ゆきちゃん…。」
「佑人さん、かわいいですよ…。」
真紅の宝石のように輝く有妃の瞳が目に焼き付く。俺は深い快楽の底に沈んでいった………
「ふふっ。ほんとにもぉ…。こんなにた〜くさん出すなんて…。お○んこたぷんたぷんですよ。そんなに私をニンシンさせたかったんですかぁ…。」
「だ、だって…それなら有妃ちゃんもそうでしょ。」
お互いに抱き合いながら睦言を交わす。何度も吸精して十分に満たされたのだろう。有妃はとろけるような表情だ。自分のお腹を撫でるとからかうようにそっと言った。俺もつい恥ずかしげに反論してしまう。
「ですね…。私もまあ…佑人さんに散々お願いしちゃいましたが。もちろん…射してくれてとっても嬉しいです……。」
有妃は顔を赤らめるとばつが悪そうに笑った。
「ほんとうに？」
「もちろんですよぉ…。」
「有妃ちゃんも…可愛い。」
小声で恥ずかしそうにする有妃がとても愛おしい。思わず俺は豊かな胸に顔を埋めた。
「ごめんなさいね…。私も興奮しちゃって。あんな人前でつい…。」
「ううん！痴女みたいな有妃ちゃんも素敵だったよ！」
「ちょっと佑人さん！痴女は酷いですっ！」
「ははっ…。ごめんごめん。」
魔の饗宴はこれまで以上の盛り上がりを見せていたが、我に返った俺達はそそくさと店を後にした。色々恥ずかしい一日だったが、でもまあ心も体も解放されたようで清々しい。有妃もそうなのだろう。お互いはしゃぐようにして軽口を叩きあっている。
「ねえ。ちょっと待ってくれる？」
さてこれからどうしようかと思ったその時…背後からいきなり声を掛けられた。俺も有妃も驚いて振り返る。
「もお…。気が付いたらいなくなっているんだもん…。一言お礼言いたかったのよ。」
先ほど俺達にずっと視線を浴びせていたラミアが居た…。彼女は軽くウエーブのかかった金髪を背中まで垂らし、同じく金色で縦長の瞳孔が印象的だ。同じラミア属ゆえか顔立ちはどことなく有妃に似ているが、より小悪魔的な美貌を持っている。ラミアは妖しく笑うと長い蛇体を揺らした。
「佑人さん下がって！」
有妃は警戒するような低い声を上げる。そして俺を護る様にラミアの前に立ちはだかった。まさか先ほどの事が気に食わずに…喧嘩でも売りに来たのか？俺達二人の間に緊張の色が走る。
それを見たラミアは驚いたように両手を前に出して、まあまあと言った様な仕草をした。
「え？…待ってよ！違うからっ！別に立ち会えとか死合えとか好きな時にかかってきて一向に構わんッ！とか…そう言うのじゃないから！」
金色の瞳を白黒させて慌てるラミアは、とてもじゃないが悪意があるとは思えない。俺達は拍子抜けしてしまい顔を見合わせる。
「あの……私たちに何か御用ですか？」
だが、なおも不審そうな様子を隠さずに有妃は問いかけた。無理もない。俺だって相当警戒した眼差しでこのラミアを見ていたはずだ。
「ああびっくりした……ほら。あの店でラミアは私とあなただけだったでしょ。自分たちを見ているようでついあんな事しちゃって…ごめんなさいね。でもとっても興奮して楽しかったわ！」
ラミアはそう言って笑うと悪戯っぽく舌を出した。
「言いたかったのはそれだけ！」
「はあ……そうですか。それはどうも…ありがとうございます…。」
有妃は気が抜けた様な声を出した。なんだ。そうだったのか…。有妃にとってもきっと思いもしなかった事だったのだろう。ラミアは呆れた様な俺達を尻目に手を振って去って行こうとする。長く伸びた蛇体がうねうねと動いて艶めかしい。
ふとそんな姿を見ると、蛇体に何かを包むようにして器用に運んでいた。これは、先ほどラミアに責められていたパートナーの男ではないのか？俺の視線に気が付いたようにラミアは照れくさそうに笑う。
「ああ…ついやりすぎちゃって。ウチの人は疲れて寝ちゃったのよ。だからそこのホテルでお休みしていこうと思って…。」
うちの人と言うぐらいだ。彼はこのラミアの夫なのだろう。男は心から安心しきった様に弛緩してラミアの蛇体に包まれていた。よく聞くと穏やかな寝息を立てている。仕方ないなあ。と呟きながらも夫を見つめるラミアの眼差しは、とても優しく慈愛に溢れていた。
ああ…。そうだ。これは有妃の…俺を見つめる有妃の眼差しと同じじゃないか。気が付いた俺は妙な感動に囚われて、このラミアの夫婦をじっと見つめる。
「じゃあまたね！」
俺と有妃は隣のホテルに笑顔で入って行くラミアを見送る。しばらく言葉も無かったが、言いたいことは同じだったのだろう。どちらからともなく見詰め合うと、自然と言葉が出た。
「俺達もあんな風に…。」
「もうなってますよ。佑人さんっ！」
微笑んで宣言する有妃は先ほどのラミア同様優しい眼差しだった。彼女は白く滑らかな蛇体の先端を、そっと俺の手に絡ませる。俺も照れたように温かい蛇体を握りしめた。
「今日は来てよかったね…。」
「ええ…。本当によかったです！」
有妃が愛おしい…。はにかむような赤い瞳を言葉も無く見つめ続ける。優しい沈黙の時がしばらく流れたが、俺の視線に耐え兼ねたように有妃は明るく振る舞ってきた。
「え〜と。佑人さん明日もお休みですよね？」
「うん。」
「それじゃあ私たちもこのホテルでお休みしていきましょう！ほら…お互いべたべたになってしまいましたし…。それに」
「それに？」
有妃の体液の匂いに包まれるのは決して不快では無い。最近ではむしろ心地よくなってしまった。それでもこの状態で街を歩くのは気が引ける。ホテルでシャワーを浴びるのも良いなと思ったが、そんな俺に有妃は悪戯っぽい笑顔を見せる。だが、なぜだろう。妙に胸騒ぎがする…。
「はい…。いつもあれほど絞って差し上げているのに…やっぱり他の女を見て興奮してっ！ですから佑人さんの欲求不満を解消して差し上げますっ！」
「え…。そうか…。やっぱりそれか。」
まあ…ある意味予想はしていたが…。魔物娘が先ほど搾り取った精だけで満足しないのはある意味当たり前の事だ。悪い？予感が当たって俺は引きつった表情で有妃を見つめる。
「もちろん！でも…佑人さんが嫌なら…。」
「ううん…。そんな事無い。全然嫌なんかじゃないって！」
有妃は無理強いしようとはせずに気遣ってくれる。控え目な優しさが嬉しくて俺は笑顔でかぶりを振る。妻の望む時に精を捧げるのは魔物の夫として当然の務めだ。そして…何よりも有妃ならば、いつだって激しくも優しく、そして蕩ける様に搾り取ってくれるはずだ。
大好きなひとに求められて、そして一つになって悦楽に溺れる。それは俺にとってもたまらない興奮と快楽をもたらす事だ。拒むことなど考えられない。
「ありがとうございます。嬉しいですよ佑人さん…。じゃ…私たちも行きましょうか？」
有妃の瞳は先ほど以上に真紅に濡れていた。透き通るような肌も赤く染まっている。彼女は俺の体に蛇体を優しく巻き付けると、包み込むように抱きかかえた。そして俺をお姫様抱っこするようにしてホテルに連れて行ったのだった。
その後この日の情報を入手した咲さんから、興味津々に事情聴取されてしまったのは言うまでもない………。
いつしか店の真ん中にステージが置かれ、勇気あるカップルがそこで行為を見せつけている。皆熱い眼差しで注目しており、歓声を送ったり冷やかしたりと夢中になっている様だ。今は鍛え抜かれた姿態のアマゾネスが、ブーイングをものともせずに男に馬乗りになっている。
彼女は『我らの種族の伝統を弄ぶ貴様らに、男の犯し方というものを教えてやるッ！』と大音声で宣言したものだから、皆の猛反発を受けてしまっているのだ。男の方も散々野次を受けながらも必死に頑張っている様だ。
俺達はただその光景に見入る。周囲の濃く粘っこい空気が押し寄せてくるようで、知らぬうちに体が熱くなってきた。
「…ねえ…佑人さん…。」
「ごめん…。さっきも言ったけどちょっと無理…。」
「ですよね〜。私もさすがにステージ上では…。」
店の雰囲気にも馴染んで気持ちも高ぶっているが、まだみんなの前で見せつけるほど勇気はない。しかもこの熱演の後では余計二の足を踏んでしまう。俺と有妃は顔を見合わせて苦笑した。
だが…そこで妙に甲高い笑い声が耳に入った。俺と有妃の間のゆったりとした空気が乱されて思わず目をやる。何事かと思えば、そこには先ほどのラミアが蛇体を悠然と男に絡ませていた。彼女は相変わらず俺達を見つめて何やらパートナーに耳打ちしている。
まだこちらをじろじろ見ていたのか…。原因は俺達にある事は承知しているが、さすがに気持ちが苛立ってくる。有妃も不快そうにため息を着くと、幾分鋭くなった視線を彼女達に向けた。
「え〜と…。これは礼儀に反すると思うのですが…。いくら私たちが切っ掛けだとしても…。ちょっと一言言ってきますねっ。」
有妃は笑顔でそう言うと立ち上がろうとした。だがその瞳はエレンに向けていたのと同様か…それ以上に強い光を放っている。いけない！俺は慌てて有妃を引き留める。
「まあまあ有妃ちゃん！ほら…あのカップルも興奮しているんだよ…。状況が状況だし…。こんな事忘れて楽しもうよ！ね…お願い。」
「………そうですかあ？まあ…佑人さんがそうおっしゃるのなら私も事を荒立てませんが……。」
必死にしがみついて押しとどめる俺を見つめ、有妃は不承不承ながらも席に着いた。
「でも…。ずっとじろじろ見られっぱなしではどうも癪に障ります。ふふっ…。こちらも負けずに見つめてやりましょうっ！」
「有妃ちゃん…。だから、やめようよ…。」
悪戯っぽく笑うと有妃はラミアのカップルをじっと見つめる。まずい…。こんな眼をつけるような真似をして相手も黙っていないだろう。不安な俺を無視するように、有妃は挑戦的な笑みを送り続ける。俺と同様に困っているのだろう。ラミアの相方の男も慌てたようにパートナーをなだめている。
もしかして大蛇同士が身を絡みあわせての戦いになるのか…。そんな思いが一瞬頭をよぎったが事は意外な展開を迎えた。
ラミアは蠱惑的な笑顔をこちらに向けると番の男をぐるぐる巻きにしたのだ。そして頭を胸に抱いて優しく愛撫し、何度も何度も口づけする。思わぬ事になり俺達はあっけにとられて見つめるだけだった。
だが…その光景は淫らで嗜虐的だった。蛇体に拘束された男は愛撫を受けて何度も体を震わす。それを見たラミアは酷薄な笑みを浮かべ、決して男をイカせずに寸止めの快楽を送り続けるのだ。男はもっと深い快楽を求めて何度も哀願している。
しかし、ラミアは無視するかのように蛇体をさらに念入りに絡みつかせた。とうとう男は身動きできないほど拘束されてしまった…。快楽と焦燥感が交じった男の喘ぎ声が耳に絡みつく。
俺は半ば呆然としながらも以前見た映像を思い出した。それは大蛇が獲物をぐるぐる巻きにして丸呑みにするものだが…これもまるで男がラミアに食われているとしか見えないではないか…。
「すごい…。食われてるみたいだ…。」
知らぬうちに思いが呟きとなる。だが、ふと気が付いた。今見ている光景は俺と有妃の日常と全く同じではないのか？いつも有妃にしっかりと巻き付かれ、甘い安らぎに浸って、情けなくあえいでいるのだから…。
良く考えれば今まで自分たちの姿をこの様に客観視する事など無かった。そうか…。俺もこんな風に有妃に食われているんだ…。妙な興奮を抑えきれずに、恐る恐る有妃に聞いてしまう。
「ねえ…有妃ちゃん…。俺もああなの…。」
「ん？とんでもないっ！佑人さんの方がずっと可愛らしいですよぉ…。」
同じラミア属の痴態を目の当たりにして有妃も発情しているのだ…。とろける様な甘い瞳で俺を見つめた。俺はそっと俯いてかぶりを振る。
「ううん…。そうじゃないんだ。あのね…。」
「ああ…そう言う事ですか…。そうですよ。佑人さんもいつもあんな風に私に食べられているんですよ…。」
敏感に気持ちを読んだ有妃が俺の耳元で熱っぽく囁いた。自然と体がぞくぞくと震えてくる。さらにぬるぬるの舌で耳元を何度も舐められ、熱い息を吹きかけられ、有妃への欲望が高まって行く。
「それなのに佑人さんったら私がぎゅーってするたびにいっつも興奮して…。ずっと甘えちゃって…。本当にいけない子です…。ふふっ…。これはおしおきですよっ！」
ねっとりと語り終えると、有妃は俺の首筋に歯を立ててきた。甘噛みなので痛くは無いが、突然の事で呻いてしまう。そのまま首筋をぺろぺろと舐められ、唾液でべとべとになってしまった。
「あれを見ていたら…私も佑人さんを食べたくなっちゃいました…。いいですよねっ…。」
「待って…有妃ちゃん…。」
有妃は俺の答えも聞かずにまた蛇体を絡みつかせる。ラミアの番の男がされていたように蛇体でぐるぐる巻きにして、優しい圧迫で俺を締め上げた。甘い拘束にあえぐ俺を見て見下すかのように妖艶に笑う。
「大丈夫ですよっ。私はあのラミアとは違います。佑人さんを焦らして困らしたりはしませんからねっ。すぐに何度でもイかしてあげます…。」
「でも……。」
「あっ…。やっぱり嫌ですか？それなら無理にとは言いませんけど…。」
あまり乗り気で無さそうな俺を見て、有妃は優しく気遣う様に微笑んだ。あのステージ上では絶対に嫌だが、この場所だったらいいかもしれない。でも、周りから見られるのはやはり恥ずかしい…。そんな気持ちを正直に打ち明ける。
「ううん…。有妃ちゃんとはしたいんだよ。でもやっぱり恥ずかしいかな…。」
「ご安心ください！それなら…こうすれば佑人さんは他の人には見えませんよ…。」
安心させる様に有妃はにっこりする。そして俺を座席の背もたれに押し付けると覆いかぶさった。確かに蛇体と背もたれに隠されて俺の姿はほとんど見ることが出来ない。成程、と感心する間もなくズボンを下ろされた途端、猛り切ったモノがぶるんと飛び出した。これから有妃に搾り取られるんだ…。今から与えられる最高の快楽を期待して、何度も荒い息をついてしまう。
「まあ…こんなに大きくしてっ…。では早速いただきますね…。私もずっと我慢していたんですから…。」
濡れた様な赤い瞳が切なげだ。有妃は自らの秘裂に俺の怒張を押し当てると腰を落としていく。あたかも食われるかの様に、どろどろの淫唇の中にずぶずぶと呑み込まれていった。
「うっ…。ゆきちゃん…。」
「どうですかぁ…。おチンチン食べちゃいましたよぉ…。」
たちまちのうちに竿がきゅうきゅうと締め付けられ、亀頭がぺろぺろと舐められるような刺激が加わる。ぬるぬると包み込むような快感を加えられて、知らぬ間に悦楽の呻き声を上げていた。
「我慢しないでいいんですからね…。いつでも好きな時にイって、中にたくさん出して下さいね…。」
有妃は耳元でねっとりと囁いた。熱い吐息にまたしても体が震えて惨めな声が出てしまう。
「ああっ…。」
「ふふっ。佑人さんったら…。可愛いですっ！それじゃあもっと可愛くなって下さいね！」
愛らしくも嗜虐的な笑みを浮かべると腰を何度も打ち付け始めた。そのリズミカルな動作に俺の快楽も連動して高まって行く。いつしか知らぬ間に下から腰を突き上げていた。もっと快楽を得たくて何度も何度も有妃の秘肉に肉竿を叩き付ける。結合部からはどろどろの淫水が溢れ出て下半身をべたべたにする。
「ゆきちゃんっ…きもち…いいっ！」
「ふふっ。そんなに腰をへこへこして…お顔も素敵です…。私で感じてくれて嬉しいですよっ！……それではこれはどうですかぁ…。」
悦楽に溺れて我ながら情けない顔だったと思う。そんな俺を見て有妃は瞳を赤く輝かせると、嬉しそうに腰を押し付けた。すると、彼女の温かい肉洞の中から何かが下りてきて雁首を包み込み、優しく柔らかく吸い上げ続けた。
「それっ…いいよお…。」
「ですよねぇ…。いいですよね。佑人さんが大好きな子宮口ですよぉ…。じゃあ…。下のお口でおチンチンもぐもぐしちゃいますから…。もっともっと気持ち良くなって下さいね！」
有妃は子供をあやす様に語りかけた。たちまち子袋が蠢き裏筋を念入りに舐めあげる。鈴口にも肉襞が吸い付き尿道口を丹念に刺激する。まるで触手の様な動きで有妃の子宮口が肉竿を責め続けた。いつもこうして嬲られるとすぐに達してしまう。本当にこれはたまらない快楽だ。
「うあああっ…。」
「イキそうですか？いいんですよっ！……下さいっ。赤ちゃんのもとた〜くさん下さいねっ！」
有妃が泣くように精をねだると責めが激しさを増す。止めを刺すかのように亀頭が激しく吸引されると、もう我慢できなかった。
「でちゃう…。もうでるよお…。」
俺が叫ぶと同時に尿道口に熱い何かが走りぬけた。それは下半身が蕩けるような快楽を伴い子宮の中にぶちまけられた。激しすぎる快感のあまり射精が止まらない。痙攣するように体を震わす俺を、有妃はしっかりと抱きしめ優しく愛撫してくれる。抱擁と射精、安楽と淫楽がもたらす恍惚感に俺の心は蕩け切っていた。
「だめ…。止まらない…。」
「ああっ。いいですよお。もっと…もっと下さい。お願いです。赤ちゃんのお部屋にもっとせーえき注ぎ込んでください…。佑人さんの赤ちゃん妊娠させて下さいっ！」
喜びを爆発させたかのように有妃は恍惚とした笑顔だ。俺は頭が真っ白になる様な快感を味わいながらその艶やかな姿を見つめる。相変わらず子宮口は亀頭を吸い続け、我慢できず射精するその悦びに没頭する。そのときだ。不意に口を吸われて長い舌を入れられた。たちまち俺の舌を絡み取り何度も執拗に吸い続ける。
ぬるぬるでざらざらした舌に思う様に嬲られる。絡みつかれ、吸われ、口中のいたるところをかき回される。そのゾクゾクする様な感触にますます淫らな思いは膨らむ。有妃の胎内に包み込まれている俺の欲棒は萎える事を知らなかった。
身を避けようにも両腕で頭をしっかりと抱かれている。蛇体も全身に巻き付きうねる様に拘束されているので、体を動かす事すら出来ない。ただ有妃の柔らかく熱い唇と舌。それがもたらす至福の淫楽に溺れるだけだった。
俺が下になって舌を絡み合っているので、有妃の唾液は容赦なく口中に注ぎ込まれる。無論彼女をその事を知っているのだろう。少々意地悪な目つきをして反応を楽しんでいる様だ。でも、魔物娘の甘い唾液は呑んでも不快では無く、陶酔感と体の火照りを覚えるだけだ。そしてこれがまた心地よいのだ。いつしか有妃の舌を求めて自分から夢中になって吸っていた。
しばらくの間有妃がもたらす嗜虐の施しを喜んで受け入れていた。だが俺達双方とも息苦しくなったのだろう。どちらからともなく自然と唇を離した。有妃の唇からだらだらと滴る唾液が淫らだ。
「もうっ…佑人さんったら！いつも美味しそうによだれを飲んで…。本当に変態さんですねぇ！」
「そ、そんなこと…。」
淫らで加虐的な表情で嘲笑うが、本当の事なので反論は出来ない。俺は顔を赤らめて口ごもってしまう。
「言い訳はだ〜め！変態さんにはおしおきですからねっ！」
有妃は得意げに言い放つと再び胎内の蠢きを強める。その蕩けるような快楽に、僅かの我慢もならずに精を搾り取られた。情けなそうにあえぐ俺を見てますます刺激されたのだろう。有妃は強烈な眼差しを見せると、さらに何度も子宮に精を吸い取り続ける。
激しく嬲る様に、それでいて柔らかく包み込み、這い回り絡みつき…吸い付き舐めまわす様な…。そんな有妃の胎内がもたらす淫楽には耐えきれなかった。さらに全身に絡みつく蛇体もしっとりと温かく、俺を抱きしめるかのように包み込んでくれている。
俺の心身の全ては有妃が与えてくれる快楽によって支配されていた。真っ白になって、どろどろに溶解していく…そんな妄想に囚われてしまう。
「そんなにされたんじゃ駄目っ。とける・・・。もうとけちゃう…。」
たまらず哀願する俺に有妃は慰める様に優しく笑ってくれた。柔らかい手つきで頭を撫で、背中をぽんぽんと叩いてくれる。子供みたいで恥ずかしいのだが、いつもこうされると本当に落ち着く。
「よしよし…私がこうして抱きしめていてあげますから。何にも心配しないでいいんですよ…。さ、あともうちょっと頑張ってくださいね…。そして、私をママにして下さいね。」
「ゆきちゃん…。」
「佑人さん、かわいいですよ…。」
真紅の宝石のように輝く有妃の瞳が目に焼き付く。俺は深い快楽の底に沈んでいった………
「ふふっ。ほんとにもぉ…。こんなにた〜くさん出すなんて…。お○んこたぷんたぷんですよ。そんなに私をニンシンさせたかったんですかぁ…。」
「だ、だって…それなら有妃ちゃんもそうでしょ。」
お互いに抱き合いながら睦言を交わす。何度も吸精して十分に満たされたのだろう。有妃はとろけるような表情だ。自分のお腹を撫でるとからかうようにそっと言った。俺もつい恥ずかしげに反論してしまう。
「ですね…。私もまあ…佑人さんに散々お願いしちゃいましたが。もちろん…射してくれてとっても嬉しいです……。」
有妃は顔を赤らめるとばつが悪そうに笑った。
「ほんとうに？」
「もちろんですよぉ…。」
「有妃ちゃんも…可愛い。」
小声で恥ずかしそうにする有妃がとても愛おしい。思わず俺は豊かな胸に顔を埋めた。
「ごめんなさいね…。私も興奮しちゃって。あんな人前でつい…。」
「ううん！痴女みたいな有妃ちゃんも素敵だったよ！」
「ちょっと佑人さん！痴女は酷いですっ！」
「ははっ…。ごめんごめん。」
魔の饗宴はこれまで以上の盛り上がりを見せていたが、我に返った俺達はそそくさと店を後にした。色々恥ずかしい一日だったが、でもまあ心も体も解放されたようで清々しい。有妃もそうなのだろう。お互いはしゃぐようにして軽口を叩きあっている。
「ねえ。ちょっと待ってくれる？」
さてこれからどうしようかと思ったその時…背後からいきなり声を掛けられた。俺も有妃も驚いて振り返る。
「もお…。気が付いたらいなくなっているんだもん…。一言お礼言いたかったのよ。」
先ほど俺達にずっと視線を浴びせていたラミアが居た…。彼女は軽くウエーブのかかった金髪を背中まで垂らし、同じく金色で縦長の瞳孔が印象的だ。同じラミア属ゆえか顔立ちはどことなく有妃に似ているが、より小悪魔的な美貌を持っている。ラミアは妖しく笑うと長い蛇体を揺らした。
「佑人さん下がって！」
有妃は警戒するような低い声を上げる。そして俺を護る様にラミアの前に立ちはだかった。まさか先ほどの事が気に食わずに…喧嘩でも売りに来たのか？俺達二人の間に緊張の色が走る。
それを見たラミアは驚いたように両手を前に出して、まあまあと言った様な仕草をした。
「え？…待ってよ！違うからっ！別に立ち会えとか死合えとか好きな時にかかってきて一向に構わんッ！とか…そう言うのじゃないから！」
金色の瞳を白黒させて慌てるラミアは、とてもじゃないが悪意があるとは思えない。俺達は拍子抜けしてしまい顔を見合わせる。
「あの……私たちに何か御用ですか？」
だが、なおも不審そうな様子を隠さずに有妃は問いかけた。無理もない。俺だって相当警戒した眼差しでこのラミアを見ていたはずだ。
「ああびっくりした……ほら。あの店でラミアは私とあなただけだったでしょ。自分たちを見ているようでついあんな事しちゃって…ごめんなさいね。でもとっても興奮して楽しかったわ！」
ラミアはそう言って笑うと悪戯っぽく舌を出した。
「言いたかったのはそれだけ！」
「はあ……そうですか。それはどうも…ありがとうございます…。」
有妃は気が抜けた様な声を出した。なんだ。そうだったのか…。有妃にとってもきっと思いもしなかった事だったのだろう。ラミアは呆れた様な俺達を尻目に手を振って去って行こうとする。長く伸びた蛇体がうねうねと動いて艶めかしい。
ふとそんな姿を見ると、蛇体に何かを包むようにして器用に運んでいた。これは、先ほどラミアに責められていたパートナーの男ではないのか？俺の視線に気が付いたようにラミアは照れくさそうに笑う。
「ああ…ついやりすぎちゃって。ウチの人は疲れて寝ちゃったのよ。だからそこのホテルでお休みしていこうと思って…。」
うちの人と言うぐらいだ。彼はこのラミアの夫なのだろう。男は心から安心しきった様に弛緩してラミアの蛇体に包まれていた。よく聞くと穏やかな寝息を立てている。仕方ないなあ。と呟きながらも夫を見つめるラミアの眼差しは、とても優しく慈愛に溢れていた。
ああ…。そうだ。これは有妃の…俺を見つめる有妃の眼差しと同じじゃないか。気が付いた俺は妙な感動に囚われて、このラミアの夫婦をじっと見つめる。
「じゃあまたね！」
俺と有妃は隣のホテルに笑顔で入って行くラミアを見送る。しばらく言葉も無かったが、言いたいことは同じだったのだろう。どちらからともなく見詰め合うと、自然と言葉が出た。
「俺達もあんな風に…。」
「もうなってますよ。佑人さんっ！」
微笑んで宣言する有妃は先ほどのラミア同様優しい眼差しだった。彼女は白く滑らかな蛇体の先端を、そっと俺の手に絡ませる。俺も照れたように温かい蛇体を握りしめた。
「今日は来てよかったね…。」
「ええ…。本当によかったです！」
有妃が愛おしい…。はにかむような赤い瞳を言葉も無く見つめ続ける。優しい沈黙の時がしばらく流れたが、俺の視線に耐え兼ねたように有妃は明るく振る舞ってきた。
「え〜と。佑人さん明日もお休みですよね？」
「うん。」
「それじゃあ私たちもこのホテルでお休みしていきましょう！ほら…お互いべたべたになってしまいましたし…。それに」
「それに？」
有妃の体液の匂いに包まれるのは決して不快では無い。最近ではむしろ心地よくなってしまった。それでもこの状態で街を歩くのは気が引ける。ホテルでシャワーを浴びるのも良いなと思ったが、そんな俺に有妃は悪戯っぽい笑顔を見せる。だが、なぜだろう。妙に胸騒ぎがする…。
「はい…。いつもあれほど絞って差し上げているのに…やっぱり他の女を見て興奮してっ！ですから佑人さんの欲求不満を解消して差し上げますっ！」
「え…。そうか…。やっぱりそれか。」
まあ…ある意味予想はしていたが…。魔物娘が先ほど搾り取った精だけで満足しないのはある意味当たり前の事だ。悪い？予感が当たって俺は引きつった表情で有妃を見つめる。
「もちろん！でも…佑人さんが嫌なら…。」
「ううん…。そんな事無い。全然嫌なんかじゃないって！」
有妃は無理強いしようとはせずに気遣ってくれる。控え目な優しさが嬉しくて俺は笑顔でかぶりを振る。妻の望む時に精を捧げるのは魔物の夫として当然の務めだ。そして…何よりも有妃ならば、いつだって激しくも優しく、そして蕩ける様に搾り取ってくれるはずだ。
大好きなひとに求められて、そして一つになって悦楽に溺れる。それは俺にとってもたまらない興奮と快楽をもたらす事だ。拒むことなど考えられない。
「ありがとうございます。嬉しいですよ佑人さん…。じゃ…私たちも行きましょうか？」
有妃の瞳は先ほど以上に真紅に濡れていた。透き通るような肌も赤く染まっている。彼女は俺の体に蛇体を優しく巻き付けると、包み込むように抱きかかえた。そして俺をお姫様抱っこするようにしてホテルに連れて行ったのだった。
その後この日の情報を入手した咲さんから、興味津々に事情聴取されてしまったのは言うまでもない………。
17/03/12 22:04更新 / 近藤無内
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