ダークプリーストのブラザーコンプレックス
「ユー君〜、聞いてますかぁ…起きてください〜」
眠りに落ちていた僕の耳にとても静かで温かい声が聞こえる。慣れ親しんだ女性の声はどことなく困ったような響きをしていた。寝ぼけた意識のままぼんやりと目を開けると、紫色の瞳が僕をじっと見つめていた。
「あ…ユー君〜やっと起きましたねぇ〜。もう、相変わらずお寝坊さんなんですから」
目の前の女性が口元に手を当てて控えめに笑っている。彼女が笑う度に、長い銀髪がサラサラと揺れていた。
「あれ…義姉さん…?」
「そうですよ〜。ユー君のかわいいお姉さんですよ〜」
リディア義姉さんが無邪気に笑う。年上とは思えないとても可愛らしい笑顔に、僕を思わず見ほれてしまう。それがとても気恥ずかしくて、甘えるように顔をすり寄せてくる義姉さんを押しのけて体を起こした。
毛布の中で義姉さんが「いやぁん♪」と甘い声を漏らすのを耳にしながら大きく体を伸ばす。名残惜しそうに体にまとわりついていた眠気が薄れていき、曖昧だった『僕』という感覚が、次第に『ユーリ』という個性を目覚めさせていく。
「義姉さん、今何時?」
「えーっとですね。ついさっき、11時になったぐらいですねぇ」
「あー…ごめん…寝すぎた…ご飯まだ食べてないよね」
『家族の団欒は明るい朝食から。朝食は家族が揃って食べるべし』
それが我が家の家訓であり、義父さんが生前ことある度に口をすっぱくして繰り返していた事でもあった。僕も義姉さんもそれを今でも律儀に守って、互いが起きるまで朝食を取らないようにしている。だから僕が寝過ごしたという事は、義姉さんはまだ朝食を食べていないという事になる。
しかし義姉さんは柔らかい微笑を湛えたまま、首を横に振った。
「いいんですよぉ。おかげで今日はずーっと、ユー君のかわいい寝顔が見れましたからぁ」
「…今度からきちんと起こしてくれると助かります」
「ぇ〜。それじゃあ、お姉さんつまんないですよぉ〜」
義姉さんが毛布に包まったまま、不満そうに身をよじらせる。義姉さんが動く度、細くしなやかだけど女性らしい丸みを帯びたボディラインに沿って、毛布がその形を変えていく。
……ん?
「ていうかなんで義姉さん同じベッドで寝てるの?」
「それはですねぇ…ユー君のかわいい寝顔を見てたらですねぇ。なんかお姉さんも一緒に寝たくなっちゃって…だから添い寝をしちゃいました〜」
「…出来ればもうしないでください。お願いします」
「ぶ〜ぶ〜。今日のユー君かわいくないです〜。ユー君が反抗期でお姉さんかなしいのです」
「もういいから、ほらっ…早く起きて。顔洗ってきたらご飯食べるから」
「はぁ〜い」
義姉さんは不服そうな態度を隠そうともせずベッドから体を起こした。義姉さんの体にまとわりついていた毛布が肌蹴け、白く透き通った上半身が僕の視界を埋め尽くす。わずかに寝汗が浮かぶ肌は上気したように少し赤みを帯びていて、それがとても艶かしい。首と臍の中間に位置する二つの膨らみは、義姉さんが息を吸うのに合わせてわずかに上下を繰り返していた。
「って、なんで義姉さんハダカなの!?」
「ユー君の人肌で暖めてもらおうと思ってぇ〜」
「いま夏だよ! 暑いでしょ!」
「だからぁ、暑くないようにハダカになったんですよぉ〜。それにこれならぁ、服が汗で汚れる心配もないですしぃ」
口を尖らせる義姉さんの尻尾が毛布の中で不満そうに揺れている。
そう、義姉さんは人間ではない。
サキュバスの特徴である頭角とお尻から伸びる長い尻尾。腰の辺りから生える短く黒い羽根。そしてエルフみたいに尖った耳。義姉さんは人間の父親とダークプリーストの母親の間に生まれた、れっきとした魔物娘だった。
「僕が寝てる間に何してるの!」
「ナニもしてないですよぉ〜。ほんとですよぉ〜」
「さりげなくいかがわしい言い方しないで! 仮にも聖職者でしょう!」
「お姉さんは堕落神様に仕えるダークプリーストですから〜。平気です〜」
「そういう問題じゃないの! ああ、もういいから! 僕、顔洗ってくるから! それまでに服着ておいてよ!」
それだけ言い残して僕はすばやく部屋を後にした。荒々しく自分の部屋のドアを閉めながら、僕は大きくため息をついた。
…勃ってたの…バレてないよね…。
いや、でもこれは別にやましいものじゃないから。義姉さんに欲情したとかそういうんじゃないから。朝立ちっていう立派な生理現象だから。だから別に義姉さんのハダカを見たからって動揺してるわけないし、ずっと一緒に寝てたせいで服から義姉さん甘い匂いがするとかそんなことどうでもいいし、ましてや義姉さんの大きな胸に顔をうずめたいとか思ってもいないし――
「って、僕は誰に言い訳しようとしてるんだ…」
大きく深呼吸するように強引に息を整えながら、僕は洗面所へと向かった。
冬の冷え切った水で乱暴に顔を洗うと気分もだいぶ落ち着いてきた。と同時に、僕をここまで育ててくれた義姉さんと義理の両親に大変申し訳ない気分になってくる。
「ほんと、朝から何してるんだか…」
僕はいわゆる戦争孤児と呼ばれる存在だ。
親魔物国家のこの街に教団の軍隊が押し寄せてきたのは、僕がまだ5歳ぐらいの時だったと思う。
自警団と活躍と、近隣都市の援護もあって、戦争は長くは続かなかった。
ただし街が無傷だったわけではない。突然の襲撃に街は混乱を極め、一部では市街戦も発生した。少なくはない戦死者が出て、その中に僕の両親も含まれていた。その時の事はほとんど覚えていないけれど、死んだ両親の顔と燃える町並み、煤だらけになって瓦礫の中を泣きながら歩いていた事だけは、今でも鮮明に覚えている。
身寄りを失った僕はその後、昔から両親と交流のあった人たちの養子となった。それが義姉さんの両親だった。
小さかった僕は、ずっと義姉さんの後を追いかけて育った。よく覚えていないけれど、当時は義姉さんの姿が見えなくなるとすぐに泣き出し、その癖に義姉さんが飛んで戻ってくると、あっという間に泣き止んだらしい。
義姉さんは突然出来た泣き虫で手のかかる義弟に文句一つ言わず、ずっと傍にいてくれた。環境の変化に戸惑っていた僕が新しい家族を素直に受け入れられたのは、間違いなく義姉さんのおかげだろう。
両親を失った僕が言うのも変な話だけど、当時はとても幸せだった。
しかしそんな幸せな生活が始まって6年経ったある日、今後は義父さんと義母さんが突然姿を消した。事故か失踪か。幼ない僕には理由が分からず、また義姉さんも何も語ってくれず、幸せな生活は崩壊してしまった。
『大丈夫。ユー君のことは、ちゃぁんとお姉さんが守ってあげますからねぇ』
不安げに見つめる僕に対し、義姉さんはいつもの温和な笑みを浮かべ、大丈夫だと言わんばかりに頷いて見せたのだった。
それから僕が15歳に至る現在まで、義姉さんはたった一人の家族として、教会の仕事の傍ら、女手一つで僕を支えてくれていた。
(そんな義姉さんに欲情するなんて…僕はどうかしている…)
僕は義姉さんの事を家族以上に思っている。つまり異性として、義姉さんに好意を抱いている。
悲しい時も辛い時も、ずっと傍に居て慰めてくれる義姉さんの存在は、僕にとってかけがえのない存在だ。義姉さんを義理の姉としてではなく、一人の女性として見るようになったのがいつかは僕自身にも定かではない。けれど僕にとって姉さんが世界で一番大事な女性であることに間違いはない。
しかしその恋心を自覚すると同時に僕が覚えたのは、申し訳なさだった。
だって僕たちは義理とはいっても姉弟で、血は繋がっていないけど家族だ。義姉さんは僕にとてもよくしてくれるけれど、それはあくまでも義理の弟という関わりがあるからだ。
世話のかかる義弟の歪んだ思いを知ったら、義姉さんだって困るに違いない。いや、困るなんてものじゃなく、実際は気持ち悪がられるだけだろう。
今まで弟だと思っていた男が、実は自分を異性として見ていたなんて知れば、不快に思う事は想像に難くない。
だから僕のこの思いは、義姉さんに決して伝えてはいけないものだ。
(それに…僕が居たら、いつまでたっても義姉さんは自分の幸せを探せないだろうしなぁ…)
義姉さんはとても思いやりに溢れる素敵な女性だ。何があっても常に自分よりも血の繋がっていない弟を優先してくれるし、出来るだけ僕が寂しくないようにと一緒にいてくれる。
そんな義姉さんはその内面同様に美しい。優れた容姿を持つ魔物娘であるという点を差し引いても、義姉さんは僕が知る限り街一番の美人だ。
義姉さんが街中を歩けば大半の男が振り返るし、告白めいた事を受けているのも、僕が知る限り一度や二度ではない。しかし、義姉さんは過去から現在に至るまで特定の相手がいた気配はない。
僕の知っている魔物娘は大抵、恋人や配偶者を見つけて幸せそうにしている。
にも関わらず、姉さんに最愛の相手がいない理由は、間違いなく僕にある。教会での仕事、家事、そして僕の世話という三足の草鞋を義姉さんに履かせている限り――つまり手のかかる弟がいる限り、義姉さんは自分の時間を作る事は出来ないだろう。
配偶者を見つけることが最大の幸せである魔物娘の義姉さんにとって、これほど苦痛な事はないのではないだろうか。僕は自分が自覚しているにしろ、していないにせよ、義姉さんの重荷になっているのだ。
「ユ〜く〜ん。随分遅いけどぉ、どうしたんですかぁ?」
リビングから聞こえる間延びした言葉に僕は我に返った。ついつい考え事をしていて洗面所で時間をかけすぎていた。
僕は慌てて顔を拭き、リビングへ向かった。
朝食の用意を終えた義姉さんは、自分の席に座っている。その姿を見て、僕は内心で安堵の息を零した。
(よかった…ちゃんと服を着ている…)
今の義姉さんは白いシャツに黒のロングスカートという、いつもの控えめな服装に身を包んでいた。
いくら義姉さんが僕という存在を異性として見ていないとしても、年頃の僕としては一糸まとわぬ女性の――しかも自分が恋焦がれる女性の――裸に耐えられるわけがない。もしも義姉さんがまだ裸のままだったりしたら、僕はきっと顔を赤くして逃げてしまっていただろう。
そんな僕の内心には気づかず、義姉さんは薄紫色の目を細めて笑っている。
「やっと来ましたね〜。遅かったじゃないですかぁ」
「ごめん義姉さん」
「いいんですよぉ〜大好きなユー君なら、お姉さんいくらでも待てちゃいますからぁ」
義姉さんの告白じみた言葉に顔が熱くなる。たとえそれがラブではなくライクだと分かってはいても、異性に対するものではなく手にかかる義弟へのものだとしても、好きな女性から大好きと言われて嬉しくない男なんて存在しない。
「ユー君、美味しいですかぁ?」
「うん、義姉さんの料理はいつも美味しいよ」
「ユー君にそう言って貰えて、お姉さん幸せです〜。これからもま〜いにち、ユー君のために、ご飯を作ってあげますからねぇ」
僕の言葉に、リディア義姉さんは文字通り尻尾を振って喜んでいた。
これからもずっと義姉さんの食事が食べられるなら、どんなに幸せだろう。
でもそれじゃあ駄目なんだ。いつまでも甘えてばかりではいられない。僕が甘え続ける限り、義姉さんは僕という呪縛から解き放たれず、魔物娘としての幸せを追うことすらままならない。
だから僕は、前々から一つの決断をしていた。
「…今日のユー君、本当に何か苦しそうです…悩みなら、お姉さんが相談にのりますよ…?」
さっきまでニコニコ笑っていた義姉さんが、こちらを心配そうに覗き込んできた。不安げな表情からは、心の底から僕を案じてくれているのが伝わってくる。これはもしかしたらいい機会なのかもしれない。そんな気持ちに後押しされて、心配させている事に申し訳なさを覚えながら、僕はぽつりぽつりと口を開いた。
「うん…義姉さん…ちょっと…聞いて欲しい話があるんだ」
「なんですかぁ?」
「…僕…この家を出て、自立しようと思う」
義姉さんを楽にするにはどうすればいいだろう。ずっと考えていたことだけど、結論は一つしか出なかった。
僕が独立すれば、義姉さんは僕という重荷から解放される。今までは家事と仕事と僕に追われていた義姉さんにも、時間的な生まれる。
そうすれば、多分義姉さんも安心して恋人を作れると思う。そしてやがて結婚して、子供を作って幸せな家庭を築く事だって出来る。義姉さんがそんな風に他の男と添い遂げる未来図を想像すると胸が痛いけれど、これが僕に数少ない恩返しだと確信していた。
「…何か…あったんですか?」
「ずっと前から…考えてたんだ…このままじゃいけないって…」
「ユー君…好きな『女』が出来たんですか…?」
「ち、ちがうよっ!」
「なら…いないんですか…?」
「あ、いや…」
リディア義姉さんの言葉に僕は即答出来なかった。だって僕が好きな女の人は――世界で最も大事で、最も傍にいて欲しい女性は――いま目の前にいるんだから。僕がそれ以外の女性を好きになるなんてありえない。例え、義姉さんへの恋を伝える事が出来ないとしても、僕はそれを捨てるつもりなんてないんだから。
しかしそんな思いを丈を告げることも出来ずに声を詰まらせる僕を見て、義姉さんはみるみるうちに顔を歪ませていった。
「あの…その…僕がいなければ…きっと義姉さんだって自由な時間が出来るだろうし…そうすればほら…好きな人を見つける事だって出来るし……その…これ以上、僕は義姉さんの重荷になりたく――
「そんな話聞きたくないです!」
僕の言葉を遮って、リディア義姉さんが大声で叫ぶ。いつもは何があってもニコニコしている温和な義姉さんの、そんな感情を荒げた声を聞くのは生まれて初めてだった。
義姉さんの頬を涙が伝う。両親の失踪の時ですら泣かなかった義姉さんが、いま目の前で泣いていた。
「ひぐっ…ユー君はぁ…何にも分かってないですっ…ひっくっ…」
「えっ…あ…」
「お姉さんは…お姉さんはぁっ…ユー君の…ユー君がぁっ…っ」
「ごっごめんっ、義姉さんっ…!」
感情が漏れ出すように泣きじゃくる義姉さんに慌てて手を伸ばす。
その腕に鈍く熱い痛みが走った。
義姉さんに伸ばした僕の手は、義姉さん自身によって振り払われていた。
義姉さんにここまで明確に拒絶された事なんて今まで一度として記憶になかった。それほどまでに義姉さんは悲しんでいた。
僕はショックを覚えた。拒まれた事ではなく、義姉さんをそこまで悲しませてしまった事に後悔していた。
義姉さんのためを思って言った事で義姉さんを悲しませるなんて。なんて僕は駄目なんだ。
こんな事だから、義姉さんは僕の自立に泣くほど抵抗したんだろう。これでは、義姉さんが安心して自分の幸せを追うなど夢のまた夢ではないか。
「ごめん…義姉さん…」
僕はただ義姉さんに謝る事しか出来なかった。
涙が枯れたリディア義姉さんは目元を真っ赤に腫らしたまま、何も言わずに教会の手伝いに出かけてしまった。
おぼつかない足取りで歩く義姉さんが心配だったが、拒絶されてしまった僕には、黙って見送る事しか出来なかった。
教会から帰ってきても義姉さんの気持ちが晴れることなく、むしろ朝よりも酷く憔悴した様子で、そのまま自室に引きこもってしまった。何度声をかけ、食事を用意しても義姉さんが部屋から出てきてくれることはなかった。
既に太陽は沈んでしまい、街は夜の静けさに包まれている。僕はベッドの上で途方に暮れていた。
僕が義姉さんを怒らせたのは間違いない。そしてその原因が自立の一件であるのも合っているだろう。だけどなぜ、それで義姉さんが泣いてしまうほど怒ったのかが分からなかった。
僕が自立出来るほど一人前ではないと怒られるなら理解できる。けれど、義姉さんの様子を見ている限り、そういうことではなさそうだ。
「義姉さんも…僕と離れたくない…なんてあるわけないか…」
もしそうだったらどんなに嬉しいか、などと思うのは僕の我侭だろう。
おそらくは僕が理解していないだけで、義姉さんが許せないと思う何かがあったのだ。それが分からない限り、義姉さんは許してはくれないだろう。
「問題は…それが何かなん…だけど…」
気づけば瞼が閉じていた。今日一日、ずっと糸を張り詰めたような雰囲気の中にいたせいだろうか。僕の体は予想以上に疲れているようだった。
(あぁ…でも…理由が分からないと…明日もこのままだ…)
そんな思考が脳裏をよぎったが、僕の体は、そのまま眠りに落ちてしまっていた。
ピチャピチャとした水音とむずがゆい刺激に、僕の意識はおぼろげに覚醒を始めた。
まだカーテンを閉めた部屋は暗く、夜であることが分かった。おそらくは眠りに落ちてからそれほど時間も経っていないだろう。
「…寝ちゃったか…」
「…おきましたかぁ?」
「あぁ…義姉さ…え…あれ…?」
声のする方に顔を向けると、そこにはなぜか僕の勃起した怒張を握る、一人の女性の姿があった。
闇に覆われているためその顔はかすかにしか伺いしれない。しかし、彼女が身にまとうタイトで扇情的な黒い服と、その隙間から顔を覗かせる透けるような白い肌、それから長い艶やかな銀髪だけは闇夜の中でも鮮明に浮かび上がっていた。
その色の落差は見る者の劣情を刺激し、視線を釘付けにするために作られているとしか思えなかった。
腰まで入った深いスリットは柔らかそうな太腿が大胆に覗かせ、胸元の隙間は豊満な谷間の存在を十二分に主張している。黒い羽根のような腰飾りは風もないのに小さく揺れていた。
全体としては礼拝服を模しているにも関わらず、女の魅力を強く強く前面に押し出した衣装は、神聖さとはかけ離れた娼婦みたいな淫靡さをかもしだしていた。
「あ、あの…どちら様でしょう?」
「分かりませんかぁ…?」
問いかけに答える事なく、彼女は意味深な笑みを浮かべながら、鎖の巻きついた尻尾を揺らしている。ということは魔物娘であることは間違いない。顔見知りの魔物娘の顔を思い浮かべてみたが、そのどれもが彼女の特徴とは一致しなかった。
一番近いのは義姉さんだけど…義姉さんがあんな色気を前面に出すような服を着ている姿は、今まで一度として見た事がない。
「だったらぁ…こうすれば分かりますかぁ…?」
彼女がベッドの上の僕に覆いかぶさる。突然の事に抵抗する暇さえ与えられなかった僕は、そのまま彼女の柔らかな胸元に顔を埋めていた。その途端、彼女の温かい体温と共に、嗅いだ覚えのある独特の甘い香りが鼻腔を刺激した。
「っ…もしかして…」
「ふふっ…ユー君、温かいです…」
「ね…義姉さんっ!?」
「はーい…正解で〜す。ユー君の…ユー君だけのお姉さんですよぉ…」
僕の頭にリディア義姉さんの掌の感触が伝わってくる。柔らかい指先が僕の髪を優しく撫でている。押し倒されているせいで表情は分からないけれど、きっといつものように慈愛に満ちた笑みを浮かべているはずだ。
なんで義姉さんが僕のものを握っているのか。そんな疑問が脳裏をよぎったが、僕の口を出た言葉は謝罪だった。
「義姉さん…今朝は…その…ごめん…」
「ううん、いいですよぉ。あの時はビックリしましたけど、解決方法を思いつきましたからぁ」
「解決…方法…?」
「そうですよぉ。だからぁ、それを実践してるのです」
「それってどういう…んんっ!?」
顔をあげた僕に口の中に、温かい何かが侵入してくる。それが義姉さんの小さな舌だと気づいた時には、既に義姉さんは熱心に僕に舌を絡ませていた。
柔らかい唇がふにふにと形を変えて吸い付いてくる度に、温かい吐息が顔にかかる。義姉さんの匂いを更に濃くしたような蟲誘的な甘い吐息を嗅いでいるうちの僕の頭は次第に霞がかかったようにぼんやりとしていった。
(あぁ…義姉さんの唇が…)
すっかり抵抗する気力を失った僕の口の中を義姉さんの舌が踊っていた。歯茎を舐め回される度、義姉さんと僕の唾液が混ざり合い、二人の口の間から零れ落ちていく。義姉さんの唾を飲めば飲む程に体は火照っていき、抵抗する意思を奪っていった。
「んっ…ちゅっ…ちゅるっ…はぁ…ユー君の唇奪っちゃいましたぁ…♪ キスってぇ…こんなに素敵なものだったんですねぇ…♪」
唾液で糸を引きながら唇を離した義姉さんが恍惚な表情を浮かべながら体を細かく痙攣させている。唾液で塗れて唇は凄く艶かしくて、僕はそこから眼を離せなかった。
「ふふっ…お姉さん…ユー君とキスしただけで…ちょっとイっちゃったみたいですぅ…♪」
「義姉さん…」
「ユー君のここも…すごく苦しそうですねぇ…♪」
細くしなやかな指が僕の露になっていたペニスへと再び伸びていく。
指先が裏筋をなぞり、掌が亀頭を撫で回す。既に先走りを垂らしながら硬く大きくなっているそれの反応を、義姉さんは確かめるに弄び続けている。その度に脊髄に今まで経験した事ないような電気が走った。
「くっ…んぁっ…ね、義姉さんっ…」
「ふふ、ユー君すごく気持ちよさそ〜な顔してるです…お姉さんの指で…感じちゃってるんですねぇ…♪」
リディア義姉さんはカリ裏を擦るように、丹念に亀頭をし続けている。義姉さんがもたらす背徳的な快楽に呑み込まれ、腰は独りでに痙攣を繰り返す。
睾丸に溜まっていた精液がペニスの根元に集まっているのが嫌というほど自覚できた。今まで、こんなに早く射精しそうになったのは初めてだ。自分でしているときだって、ここまで早く絶頂に達しそうになることなんてなかった。
「義姉さん、だ、だめだよっ…こんな事…」
「そうですよぉ…まだ、出しちゃぁ…だめですよぉ♪」
僕が強い射精感を覚えたその瞬間。今にも白濁した欲望を撒き散らしそうな脈打つペニスの根元に義姉さんの尻尾が強く巻きついた。行き場を失った精液が尿道の中で荒れ狂う感覚に僕は焼けきれるような快感と苦痛を感じた。
「ぐっ…ううぅっ…」
思わず「何で止めるの」と言いそうになるのを、僕は寸前の所で唇を噛んで堪えた。そんな僕の様子をお見通しだといわんばかりに、義姉さんは微笑を浮かべている。
胸を押し付けるように抱擁を強めた義姉さんが、耳元で吐息を吐くように小さな声で囁いてきた。
「ユー君はぁ…いったいどこの『女』が好きなんですかぁ…?」
「えっ…」
「お姉さんのぉ…お姉さんだけのユー君を奪った『メス』はぁ…一体どこの誰なんですかぁ?」
「そっ…そんなの…」
「いないなんて言いませんよねぇ…今朝…お姉さんの質問に口ごもってましたもぉん…」
「それはっ…」
義姉さんは怒張の根元を尻尾でしっかりと抑えたまま、器用に指だけで亀頭を撫で回している。
その度に耐え難い刺激が走り、狂おしいまでの射精感と出せないという葛藤が僕を苛んでいく。そんな反応に悦びを示すように、義姉さんは白い胸と柔らかい太腿を僕に絡み付けてきた。
「ほらぁ…言わないといつまで〜も、出させてあげませんよぉ…」
「だ…だめっ…言えない…」
「なんでですかぁ…お姉さん、大切なユー君を盗んだ『メス』の名前が聞きたいですぅ…♪」
甘えるような声が耳元に伝わる度、義姉さんの吐息が耳にかかる。
最愛の人が体中を使って与えてくる刺激に、『射精したい』という解消されない欲求だけが募っていった。
普段は意識していないが、義姉さんは魔物娘で、僕は未だに女を知らない男だ。彼我の差は歴然で、もとより我慢など出来る余地はなかったのだと自分を納得させる事だけが、僕に出来る唯一の抵抗だった。
「ほらぁ…早くぅ…♪ ユー君のおチンチン、ザーメン出したい〜って言ってますよぉ…♪」
「義姉さん…もう許してっ…」
「だ〜めですよぉ…ユー君が素直になるまで…許さないんですよぉ…♪」
(ああ…出したい…! なんでもいいからもう出したい…!)
「ユーく〜ん、まだ我慢しちゃうんですかぁ…? 我慢は体に毒ですよぉ…」
「ぐぅぅぁぁ…んんっ!」
「ほらぁ…こぉんなに苦しそうにおチンチンピクピクさせて…お姉さん、ユー君が心配ですぅ…♪」
「うぐっ…っ…分かったっ…言うからっ…」
「本当ですかぁ…? 嘘だったらお姉さん許さないですからねぇ…♪」
弱点を的確につくような愛撫に、僕の理性は呆気なく決壊した。
自分の恋心を秘めようとしていた決意も、嫌われたくないという思いも、義姉さんがどうしてこんな事をしているのかという疑問も、こんな呆気なく精を撒き散らしたくないという男としてのプライドも。すべては精液を吐き出して気持ちよくなりたいという欲望によって上書きされていく。
「絶対に言うっ…だからっ…だから許してっ…!」
「ふふっ…じゃあ素直に言ってくださいねぇ…そしたら好きなだけ…ザーメンをドピュドピュしていいですからねぇ…♪」
「僕が…僕が好きなのは…っ! ね…義姉さん…リディア義姉さんだっ…!」
「は〜い、よく言えました〜♪ って…えっ…嘘…」
歪んだ劣情を告白すると同時に義姉さんの指と尻尾が僕のペニスから離れた。その瞬間、行き場を求めていた精液が尿道を駆け上がる。焼け付くような絶頂が腰を登り、経験した事がないほどの量の白く濁った熱を吐き出していく。尿道口から溢れる精液は勢いよく飛んでいき、それが義姉さんの黒く卑猥な衣装を白く染めていった。その淫靡な光景を、僕はどこか遠くから見つめるように眺めることしか出来なかった。
(ああ…言っちゃった…)
あれほど強く心に誓ったのに。義姉さんへの思いを隠そうと決めていたのに。僕の理性は、与えられた快楽の前にあっけなく屈してしまった。もうこれで…二度と今までのように義姉さんを暮らす事は出来ない。
(終わったんだ…僕は…一人になったんだ…)
僕は両手で顔を覆った。義姉さんがどんな顔をしているのか…僕は怖くて見ることすら出来なかった。
「ユー君…さっきの…嘘じゃないですよね…?」
「…うん」
「ユー君は本当にお姉さんの事…好きなんですよね…?」
「……うん」
「姉としてではなく…一人の女として…お姉さんのこと…意識してたんですよね…?」
「…ごめん…気持ち悪いよね…」
体中から汗が吹き出し、体が震えていく。
向けられているであろう侮蔑の眼差しを想像するだけで、僕の視界は涙でぼやける。両親を戦争で失い、義理の両親すら行方が知れず、そのうえ義姉さんにすら見捨てられた人生に、一体どれほどの価値があるというのか。僕はこの瞬間、たった一人の家族であり、最も好きな女性を失ったのだ。
しかし義姉さんの反応は、僕が想像していたものとはまったく異なっていた。
「何言っているんですかぁ♪ 嬉しいに決まっているじゃないですかぁっ♪」
義姉さんが僕の胸に今まで以上に必死で顔をすり寄せる。動物のようなその仕草は、いつもの義姉さんの癖の一つだけど、その動作はいつも以上に激しく、まるで必死に自分の匂いを染みこませようとしているかのように感じられた。
僕は顔を覆っていた両手を離して義姉さんを見た。耳先まで真っ赤に染めた義姉さんの顔は満面の笑みを浮かべていた。
「ユー君っ♪ ユー君っっ♪ ユーくぅぅんっ♪ お姉さんもユー君のこと大好きですよぉっ♪」
「…僕が義姉さんを好きだってこと…気持ち悪くないの?」
「何言ってるんですかぁっ♪ 嬉しいに決まってますよぉっ♪」
「でも…だって…僕は義姉さんと…血は繋がってないけど…姉弟だよ…?」
「そんなの愛の前では大した問題じゃないですよぉっ♪ ああっ…お姉さん嬉しいですぅ…ユー君と相思相愛だったなんてぇっ♪」
熱っぽく潤んだ瞳がじっと僕を見つめてくる。その顔は悦びに満ち溢れ、緩んだ表情で僕に微笑みかけている。
「…義姉さん…それ…本当に…?」
「お姉さんはユー君に嘘なんかつきませんよぉ。毎日あれだけ言ってたじゃないですかぁ。ユー君のことが大好きだってぇっ♪」
「弟として好きって意味だと思ってた…」
「ぇ〜…あれだけ愛を込めて伝えてたのにぃ。ユー君ひどいです」
「ご、ごめん…」
じっとこちらに向けられていた眼差しをぷいと背け、義姉さんが口を尖らせるふてくされる。そんな仕草すら僕は愛おしく感じてしまう。
「そもそもユー君は鈍すぎます。今朝だって、一緒のベッドでハダカで寝て、あんなにアピールしてたんですよぉ。なんでユー君気づかないんですかぁ…あんなにユー君に犯されるのを期待して待っていたっていうのに」
「え…あっ…」
今朝の出来事を思い出され、顔が赤くなる。僕が必死に自分の劣情を抑えようとしていた時、義姉さんは犯されるのを期待していた。それを思うと体温が上がると同時に、さっきあんなに出した筈の股間に血が集まっていく。思わず腰を引く僕を見て、僕にしがみついていた義姉さんは唇の端を持ち上げた。
「ふふっ…ユー君、お姉さんが犯されたいって言っただけでぇ…こ〜んなにおチンチン勃起させちゃったんですねぇ…♪ 嬉しいですぅ…♪」
「あ…いや…そういうわけじゃ…」
「ならお姉さんのこと…犯したくないんですかぁ…? ユー君が望めば…いくらでもお姉さんのおマンコ使っていいんですよぉ…?」
「そ、それは…」
本心を言えば、凄くシたい。際どい淫語をこれみよがしに口にするリディア義姉さんの言葉は、僕を否応なしに興奮させている。おそらく義姉さんは意図的にそういう言葉で僕をその気にさせようとしている。
「お姉さんはぁ、大好きなユー君のものなんですからぁ…♪ ユー君が欲しいって言ってくれれば…いくらでも抱いていいんですよぉ♪」
言葉だけではない。
濡れた薄紫の瞳、物干しそうに開いている口、汗ばんだ純白の肌、赤く染まった頬、さっきから押し付けられ続けている胸、擦りつけられている豊かな太腿、僕の足に絡みついている尻尾。義姉さんは自分の持てるものすべてを使って僕を誘惑してきている。
そんな義姉さんは、淫らで、そして美しかった。
義姉さんが僕からゆっくりと体を離す。薄れていく義姉さんの香りと体温が名残惜しいと思う中、腰の上で馬乗りになった義姉さんはおもむろにスリットで切り分けられた裾を持ち上げた。
「それにぃ…ほらぁ、見てくださいよぉ…♪ お姉さんのおマンコ…ユー君のザーメンの臭いに反応して…こんなにグチャグチャになってるんですからぁ…♪」
長い前垂れの中には無毛の恥丘が存在していた。はじめて見る女性の秘部は糸を引きそうなほどに透明な愛液を溢れ出させ、ムワンとした甘く淫靡な匂いを充満させていた。その匂いを嗅いだ瞬間、僕は思わず生唾を飲み込んだ。
「お姉さん、ユー君に犯してほしくてぇ…パンツも履いていないんですよぉ♪ おかげでこんなにぃ…太腿に垂れるぐらいにぃ…濡れちゃっているんですぅ…♪」
「あっ…あ…ね…義姉さっ…」
喉が痛いぐらいに乾いていて言葉すら満足に出せない。唾をいくら飲み込んでも、その痛みは一向に消えてくれない。渇きを抑えたいという本能が、自然と義姉さんの溢れ出る愛液に結びついた。あのドロドロに濡れた義姉さんの体が欲しくて、僕は自然を腰を動かし、自分のペニスを義姉さんの恥丘に押し付けていた。
「あぁ…ユー君のぉ…ユー君のおチンチンがぁ…お姉さんのおマンコに当たってますよぉ…♪ こんなに必死に押し付けてぇ、お姉さんが欲しくて仕方ないんですねぇ♪」
「欲しい…義姉さんをっ…抱きたい…っ」
「嬉しいっ、嬉しいですぅ…♪ ユー君が、お姉さんを求めてくれるだなんてっ…♪ あぁ…堕落神様ぁ、ありがとうございますぅっ…♪」
僕は恥も外聞もかなぐり捨てて義姉さんを求めた。そんな僕を見てもリディア義姉さんは嫌悪するどころか、むしろ嬉しそうに頬を染めて体を震わせている。
その間も僕は懸命に腰を振り続けていた。義姉さんの恥丘を開くように性器同士を重ねるだけで、秘裂から溢れた愛液が僕の腰をしとどに濡らしていく。
「あっ…んんっ…ふぁあぁぁ…♪ もう、ユー君ったら…悪戯さんですねぇ…♪」
「義姉さん…義姉さんっ…!」
「分かってますよ、ユー君…♪ 今から…も〜っと気持ちよくしてあげますからねぇ…♪」
義姉さんが体を持ち上げ、僕の一物の真上で自らの秘裂を開いてみせる。糸を引いて開いたそこは、驚く程綺麗なピンクをしていて、艶かしく蠢いている。あまりに淫靡な光景に僕は眼差しを外すことが出来ない。僕の熱い視線に応えるかのように、奥から泡だった愛液がコポリと溢れ出た。
「あぁ…ユー君にじっと見られて、お姉さんの子宮がキュンキュンしちゃってますぅ…♪ もう我慢できないからぁ、ユー君のこと…食べちゃいますねぇ…♪」
秘部の入り口が肉棒にあたり、クチュリと小さな水音をたてる。十分すぎるほど蜜を湛えているにも関わらず未だに硬さを感じる義姉さんの秘裂に僕のものが呑み込まれていく。
ペニス全体に絡みつく肉の感覚に、手でされていた時の数倍の刺激が走った。
「うぁっ…くぅっ…」
「んっ…はぁぁぁ…ユー君…気持ちいいですかぁ…?」
「う…うん…気持ちいいよ、義姉さん」
「それはよかったですぅ…お姉さんはじめてだからぁ…下手かもしれないですけど…頑張りますねぇ」
義姉さんは微笑を浮かべている。しかし眉をしかめた表情には珠のような汗が浮かび、明らかに苦しそうだった。はっとして接合部を見ると、貫かれた義姉さんの秘裂からは純潔の証である赤い鮮血が零れていた。
「あっ…ごめん、義姉さん!」
聞いた話だと、男と違って女の人は初めての時は凄く痛いらしい。あの鮮血はその痛みの証拠だろう。僕は咄嗟に義姉さんから離れようと腰を引いた。しかし義姉さんはそんな僕を押さえつけ、更に肉棒を呑み込んでいく。
「大丈夫、ユー君…お姉さんは平気ですから」
「ご、ごめん…痛いよね」
「ちょっとだけ…痛いですけどぉ…それよりもユー君と繋がっているんだって思うと、凄く幸せですからぁ…♪」
そんな健気な義姉さんの言葉に僕は胸が締め付けられる。申し訳なさと愛おしさ。その二つを混ぜ合わせたような感情が心の中で入り乱れ、気づけば僕は義姉さんの腕を引いて、自分の元へ引き寄せていた。義姉さんはなんの抵抗も示さず、その柔らかい体を預けてくれる。
僕は顎を軽く持ち上げ、義姉さんの瑞々しい唇に吸い付いた。舌を入れると、義姉さんはなんの躊躇いもなく僕に舌を絡ませてくれた。
「義姉さん…僕は義姉さんが好きだ…」
「あぁ…ユー君…酷いですよぉっ…こんな時に愛の告白されたらっ…お姉さん…感じちゃうじゃないですかぁ…♪」
「義姉さん…世界で一番、義姉さんが好きだ…だから義姉さんにもっと感じて欲しい…」
「あぁ…嬉しいです、ユー君…♪ お姉さんもユー君が、ユー君だけが好きなんですぅっ…んっっ…ちゅっ…ちゅっ…♪」
舌を絡ませ、ただひたすらに唇を貪る。義姉さんはうっとりとした様子で目を閉じてキスに応じてくれている。僕が義姉さんの舌に吸い付く度、一物も同様に義姉さんの膣肉に吸い付かれた。
既に義姉さんの表情に苦しみはなかった。そこには僕との性交を純粋に楽しんでいる、一人の美しい女性がいた。
「んっ…んっ…ちゅるっ…んっ…ゆーくぅん…ゆーくぅんっ…♪」
甘く媚びた声をあげながら、義姉さんは僕の上でゆらゆらと腰を揺らしている。
蠢動を繰り返す膣肉は僕の一物を捏ね上げながら、巧みに奥へ奥へと誘っていく。
先端が何か硬い所に当たった。そこが義姉さんの最も大事な場所だということを、僕は瞬時に理解した。
「ほらぁ…分かりますかぁ…♪」
「うん…義姉さんの一番奥に当たってる…」
「そうですよぉ、ここが…お姉さんの子宮ですぅ…♪ ここに…ユー君の子種が欲しくて…さっきからお姉さんの体が疼いて仕方ないんですぅ…♪」
どこよりも最も蜜をふんだんに湛えたその場所は、僕の精液を欲して貪欲に蠢いていた。射精を促すような強烈な吸い付きに応えるように、僕は絡みつく膣肉の奥に竿を強く押し付けた。
「んぁっ…ふぁっ…♪ だめっ♪ らめれすよ、ゆー君っ♪ そんなにっ子宮口をっ♪ グリグリしにゃいでくださいっ♪」
僕が腰を叩きつける度、義姉さんがかわいらしい嬌声をあげる。既に義姉さんは処女消失の痛みを感じておらず、泡だった愛液を垂らしながら腰を躍らせ続けている。僕を包み込む肉襞はまるで精の渇きを満たそうと蠕動を始めていた。
義姉さんが感じてくれている。それがとても嬉しくて、僕は何度も義姉さんを持ち上げるように腰を振るった。
「義姉さん、ここが…ここが気持ちいいの…?」
「んあぁっ♪ そうれすっ♪ その奥っ♪ おマンコの奥の子宮をグリグリ〜ってしゃれるのがっ♪ しゅごく気持ちいいんれすぅっ♪」
口をだらしなくあけて恍惚の表情を浮かべる義姉さんの体が、腰を揺らす度に小さな痙攣を起こす。最奥を突く度に、義姉さんの愛蜜で溢れた膣中は驚くほど熱く強く、精を求めて熱烈に絡みついてくる。
「ああっ…義姉さんっ…」
「ふぁぁぁっ♪ ユーくぅんっ♪ いいっ♪ 気持ちいいれしゅっ♪」
「ぼ、僕も…僕も気持ちいいっ…!」
「あぁぁっ♪ いいっ♪ いいれしゅっ♪ もっとっ♪ もっろおマンコちゅいてっ♪ お姉さんをっ♪ ユー君専用のっ、体にしてくださいぃぃっ♪」
子宮を持ち上げるような強引な挿入にも義姉さんは白い喉を仰け反らせて悦んでいる。義姉さんの蕩けきった喘ぎ声をもっと間近で聞きたくて。僕は義姉さんを強く抱き締めた。
「義姉さんっ…好きだ…大好きだっ…!」
「ふぁぁっ…♪ お姉さんもっ…♪ お姉さんもユー君のことだいしゅきですぅっ♪」
肉棒を包み込む快楽に、僕は我を忘れて義姉さんを貫き続ける。義姉さんはだらしなく開いた唇から涎を垂らしながら、僕の怒張を受け入れている。粘膜と粘膜が絡み合い、互いの汗が混ざり合う。耐えなく襲う快楽の波に、既に僕と義姉さんは肉欲に溺れる雄と雌と化していた。
「ユー君はぁっ♪ お姉さんにとって、『弟』じゃないんれすぅっ♪ 最も愛する『男』なんれすぅっ♪ らからっ♪ らからお姉さんの事ぉっ♪ 名前で呼んで欲しいんですぅっ♪」
「リディアっ…リディアぁっ…!」
「あぁ…嬉しいですぅっ…ユー君に名前を呼ばれてっ…嬉しいですぅっ♪ ひぅぅぅっ♪」
思いの丈を届けるように、僕は力強く義姉さん――リディアの子宮に肉棒を押し付けた。
ただ腰を叩きつけるだけの拙い性技。しかしそれでも、僕の最も愛する女性は恍惚の表情で涙を浮かべながら、体全体で悦んでくれている。降りきった子宮はその口をわずかに開き、今か今かと射精の時を心待ちにしながら、僕に吸い付いてきていた。
「んあっ♪ しゅごいっ♪ これしゅごいれしゅっ♪ あぁっ…らめっ…もうらめですっ…っ♪ イくっ…イっちゃいますぅ♪」
「リディアっ…イって…イってくれっ…!」
既に限界は間近に迫っている。尿道を埋め尽くす精液は、解放の時を待ちわびている。それでも、僕はリディアにもっと悦んでもらいたくて、最高の絶頂を味わって欲しくて、ただひたすらに抽送を続けた。
「ユー君もっ、ユー君も『私』と一緒に言ってくだしゃいぃっ♪ 『あなた』のザーメンをっ♪ 私の奥に注ぎ込んでっ♪ あなたの印を刻みこんでくだしゃいぃ♪」
「くぁぁぁっ…リディアっ…もうだめだっ…イく…!」
「ああぁっ♪ ふぁぁっ♪ わらしもっ♪ わらしもイきましゅぅっ♪ あっ…――ふぁぁぁぁあああっ♪♪」
リディアの膣肉が今まで以上に強烈に絡みつき、子宮口が鈴口を吸い上げる。その刺激に堪えきれず、とうとう僕は射精していた。激しく体を震わせて絶頂を迎えるリディアの最奥に、ありったけの精液が注がれていく。絡みつく精液に歓喜を示すように、リディアの膣肉は蠢き、一滴の残りもないようにと貪欲に脈動を繰り返す。
「んんぁっ♪ あにゃたのっ♪ ザーメンがっ♪ しょしょがれてましゅうぅぅっ♪」
ドクドクと脈打つペニスに、膣肉はいつまでも吸い付いている。その快感に、わずかに残っていた白濁液が子宮の奥へと飲み込まれていく。
「あぁぁっ♪ 子宮れっ♪ ザーメン受け止めてましゅっ♪ わたっ、私っ♪ しあわせれしゅぅっ♪ やっとっ♪ やっと、あにゃたのっ♪ 女になれましたぁっ♪」
いつまでも続くかと思われた射精も、すべての精を出しつくしたことでようやく終わりを告げた。全身を覆う気だるさに襲われながらも、僕は甘い汗の香りを放つ体を抱き締めた。
僕の白濁とした欲望を注ぎ込まれた最愛の女性は、時折体を小さく痙攣させながら、恍惚の表情を浮かべていた。
「あぁ…私…幸せれしゅぅ…♪ やっとあにゃたと…一つになれましたぁ…♪」
「僕も幸せだ…リディア…愛してる…」
だらしなく体を弛緩させるリディアに、僕は改めて愛を告げた。
まさかこんな結末を迎えるとは僕は予想もしていなかった。血が繋がってはいないとはいえ、僕と義姉さんは姉弟であり、それは人間の常識で考えれば決して結ばれる事はない思いだった。
けれど義姉さんはそんな僕の事を好きだと言ってくれた。僕の好意を受け止めてくれた。そして僕の事を好きだと言ってくれた。
今日から僕らは姉と弟ではなく、愛する恋人同士になったのだ。
それがたまらなく嬉しくて、気づけば僕の目から涙が止め処なく流れ出てきた。
「あっ…あれ…ごめん…」
僕は慌てて謝罪した。悲しかったわけじゃない。嬉しかったのだ。だから、それを誤解されたくなくて、僕は謝っていた。
しかし義姉さんは――僕の愛するリディアは、僕の腕の中でいつものように温和な笑みを浮かべながら、指先で僕の涙をそっと拭ってくれた。見ればリディアも僕と同じように涙を流していた。
「いいんでしゅよ、分かってますからぁ…。だから…もう絶対に、離しゃないですからぁ…♪ ずっとずーっと、一緒でしゅからね、あなた…♪」
その言葉がとても嬉しくて、愛おしくてたまらない。
だから僕はリディアのその涙を舌で掬い、彼女の唇にキスをした。
「リディア…僕の顔に何かついてる…?」
食卓を挟んで熱心に見つめる私に気づき、彼――ユー君がパンを口に含みながら怪訝な表情を浮かべています。いつもは『夫』として私を支えてくれていますが、こういう時の彼はとても幼く見えてしまいます。だから私はなんとなくそれが面白くて、笑みを浮かべながら答えるのでした。
「ううん、なんでもないですよぉ。ただ幸せだなぁ、と思っただけです」
「ああ…うん。僕も幸せだよ」
彼が頬をわずかに赤く染め、私の答えに賛同してくれました。それがとても嬉しくて、自分でも頬が緩んでいくのが分かります。
「ところで、リディアは食べないの?」
「私はいいですよぉ。だって朝からあんなに美味しいものを頂きましたからぁ…♪」
寝起きと共に彼の朝立ちした立派なおチンチンを頬張って、新鮮な子種を喉に注ぎ込んでもらうのが、最近の日課となっています。今日もしっかりその日課を行った私は、もうお腹一杯で、ご飯を食べる余裕がありません。
何より、折角頂いた愛する人の濃厚な味わいと感触を、普通の食べ物で薄めてしまうなど、とても勿体のない事です。
「ならいいんだけど…その、出来ればもう少し頻度を抑えてくれると嬉しいというか…」
「ぇー…だってぇ、私たちの主食は愛する人の子種ですからぁ♪ そういうわけにはいかないですよぉ♪」
「いやぁ…でも…」
彼の顔はすっかり赤くなってしまいました。
私たちが結ばれてから、毎日のように暇さえあれば激しく求め合っているというのに、未だに彼は当時のまま初心で、ちょっと私がからかうとすぐに顔を真っ赤にしてしまいます。それがついつい楽しくて、こうやって彼が恥ずかしがるような事を言ってしまうのは私の悪い癖でしょう。
(…でも照れる彼は本当に可愛いのです…♪)
「だからって朝から三発も出すのはさすがに疲れるというか…」
「でもぉ…あなたのザーメンすごくプリップリで美味しいんですよぉ♪ だから我慢が出来ないのです♪」
実際に彼の精液が美味しいのは事実なのです。あれほど甘美な飲み物を私は他に知りません。甘く絡みつく精液を喉で受け止めながら口いっぱいに出してもらうだけで、えも言われぬ幸福感に包まれ、それだけで私は軽い絶頂に達してしまうのです。
あれを我慢して一日を過ごすなど、彼の味を全身で覚えてしまった私には、もう無理な相談というわけです。
そもそも、本当なら直接子宮に注いで種付けして頂きたい所を、そのまま二人とも時間を忘れて貪りあってしまうからと、お口でするだけで我慢しているわけですから。これ以上お預けされてしまっては、私は乾いて死んでしまいます。
「…まあ、リディアがしたいって言うならいいか…」
顔を真っ赤にしながらも、彼はちゃんと答えてくれます。彼はとても優しい素敵な旦那さんです。私が嫌がる事は絶対にしませんし、要望には可能な限り応えてくれます。
彼自身は自分を臆病な人間だと思っているみたいですけれど、私はそう思いません。
たしかに内に篭る傾向がありますが、それは優しさの裏返しでもあります。自分の好きな人を傷つけたくないからこそ、彼は自分から一歩引いてしまうのです。だから今にして思えば、あの時も彼は私のことを思って自立しようなんて言い出したのでしょう。
でも、当時の私はそこまで気が回りませんでした。
「ふふっ、相変わらず優しいです。そういうあなたが好きですよ」
「…うん、僕も好きだよ」
優しい彼に好意を抱いていた人は少なくありません。
それに彼自身――惚れた弱みというわけではなく――ハンサムで格好いいのです。中性的な顔立ちはよく整っていますし。栗色の短い髪はサラサラで清潔感を感じさせます。まだ幼さの強く残る雰囲気の中からわずかに逞しさを匂わせる体つきは、これから立派な男性になるであろうという期待を強く感じさせます。
そんな彼と二人で街中を歩いていると、多くの女が彼を見ようと振り返ります。その中には熱っぽい眼差しを向ける魔物娘も少なくはありませんでした。――彼女たちはその後必ず、私を恨めしげな表情で見るのです――彼自身は気づいていないようでしたが、告白めいた事を受けたのも一度や二度ではなかったようです。
その度にかつての私は、いつ彼がどこかの女に取られるのではとヤキモキしたものです。
基本的に魔物娘は、他人の『夫』を奪わないという暗黙の了解のようなものがあります。しかしそれとて、本気になった魔物娘や元から一夫多妻制を常とする種、そんな暗黙の了解を持たない人間の女にはなんの意味もありません。
毎日出来るだけ傍にいて、必死に彼に私自身の匂いを付けていましたが、それで確実というわけではないのです。
だから私はお姉さんとして振る舞いながらも、懸命に自分をアピールしていました。もし私の愛するユー君を誰かに奪われたら、もしユー君が誰か別の女を好きになってしまったら。そんな「もしも」を考えて涙が出そうになるのを堪えながら。
(そしてそんな私の恐怖は、あの日、現実となったのです)
彼が自立を訴えてきた時に真っ先に思いついたのは、知らない間に最愛の女を見つけた彼が私を置いてここを出て行く、という可能性でした。そうでなければいきなり家を出て行きたいなんて言い出すとは到底思えなかったのです。
常に目を光らせていたといっても、私が教会を手伝っている間や彼が家を空けている間に何かがあったら、私には察知する事が出来ません。だから知らない間に既にユー君は最愛の女を見つけていたのだと私が勘違いしても、なんら不思議はないと思います。
(まぁ…それらはすべて私の早とちりだったわけですけれど……でもあれはユー君も悪いと思います)
私がユー君を好きになったのは、たぶん彼よりも早い段階だと思います。
常に私の後ろをついてきたかわいいユー君。私が少しでも見えなくなると泣いていたユー君。その癖、私が飛んで戻っていくと満面の笑顔で出迎えてくれるユー君。怖い夢を見たと泣いて私の部屋にくるユー君。私の体に顔を埋めて柔らかい表情で眠るユー君。髪を撫でると嬉しそうに頬を緩めるユー君。
ここまで私を必要としてくれる存在に、私は愛おしさを覚え、気づけば私自身にとってもユー君はなくてはならない存在となっていたのです。
自分の恋心に気づいてからは、必死に彼にアピールを続けていました。寝起きにキスをしたり、抱きついてみたり、匂いをつけてみたり、好意を告げてみたり、あの時みたいに裸になって横で眠ってみたり…にも関わらずユー君は、恥ずかしがるだけでそれ以上の反応を示さないのです。
いくら性に奔放な魔物娘とはいえ、私だって女の子です。女の子っていうのは、好きな人から愛を告げられて、それで抱いてもらうのを何よりの幸せとする存在なのです。だからこう、自分からモーションをかけつつもユー君からプロポーズされるのを期待していたりしたんですけれど…
(…まさか…あれが全部、姉弟のスキンシップだと思われていたのは想定外でした…)
一般の姉弟がどういう関係かは詳しく知りませんが、あそこまで過度なスキンシップは一般的な姉弟なら絶対にやらないと思います。私がしていた行動は、間違いなく、恋人に行うはずのものです。だから普通なら、あれが過度の愛情表現だと気づいてもおかしくはないと思うのです。
「ユー君の鈍さは異常です」
「え…リディア…?」
私だって一応はれっきとした魔物娘ですから、女としての魅力にはそれなりに自信があります。
胸は彼のものを包めるぐらいに大きいですし、腰のくびれには余計な肉がありません。少しお尻が大きいのが――彼はそんなお尻も好きだと言ってくれます――気にはなっていますが、すらっと伸びた脚がそれを帳消しにしてくれていると信じています。顔だって悪くないと思いますし、母譲りの長い銀髪は毎日手入れを欠かしていないのでサラサラなのがちょっとした自慢です。
だからこそ、あれだけ熱烈にアピールをしていたのにユー君が全然その気になってくれなかったのは、少し――実際はかなり――不安でした。
「もしもーし…あの、リディア…義姉さん?」
もしかしたら私の魅力は彼に届いていないのかもしれない。もしかしたら彼の思い人は私以上に素敵な女なのかもしれない。そんな事を考えるだけで、私の胸は押しつぶされそうに痛むのです。
けれど同時に、例え女としての魅力が他の誰かに劣っていたとしても、ユー君への愛だけは、誰にも負けないという自信もありました。
ユー君を世界で一番長く見ていたのは私なのです。つまりユー君の魅力を私以上に知る人なんて、この世にはいないのです。
「えーと、義姉さーん…聞こえてますかー…」
ユー君の魅力を私よりも理解していない、どこの誰とも知らない女に彼が取られるかもしれないと考えると、それがとても悲しくて…だからつい、あの時は我慢出来ずに、自分から襲ってしまったのです。本当はユー君から求められる方がよかったのですが、誰かに取られるぐらいなら私自身がユー君を奪ってしまって虜にしてしまった方が何倍もマシです。それに堕落神様もそんな考えに賛同してくださいましたし。
まあ、その甲斐あって、私は無事にユー君と結ばれたわけですけれども…キャッ♪
「あの…義姉さん…もしかして怒ってる…?」
「え?」
軽いトリップから思考を現実に戻すと、彼が不安そうにこちらを伺っていました。もしかしたら知らず知らずのうちに思っていた事が口に出たのかもしれません。愛する人を不安にさせてしまうなんて。お姉さん大失敗です。
「なんでもないですよぉ。ちょっと昔の事を思い出していただけです〜」
「そ、そう? 何か隠してない?」
「もちろんですよぉ〜私がユー君に隠し事をするなんて、あるわけないじゃないですかぁ」
「ならいいけど…何かあったらすぐに相談してね。僕が出来る事ならなんでもするから」
「うふふ、分かってますよぉ♪」
そう言って笑いながらも、彼を騙しているという事に私の良心のチクリと痛みます。
実は私は、彼に隠している事が一つだけあります。それは両親の失踪の理由と行き先です。
私の両親は万魔殿(パンデモニウム)にいます。本当はもう少しユー君が大きくなってから行く予定だったのですが――お母さんが我慢出来なかったようで――私に最低限の事だけ伝えるとそのまま二人は旅立ってしまいました。
愛する人とただ欲望のままに交わり続けたいという気持ちは痛いほど理解できますし、私にもそういう気持ちは少なからず存在します。だから私は突然告げられたそれを自然に受け止め、二人を送り出しました。
でも両親を失った傷のまだ癒えきっていなかったユー君は、親が情欲に任せて自分を置いていったという事を知れば、ショックを受けてしまう事でしょう。そこで私は彼がもう少し成長して私と共に堕ちきってくれるその日になるまでは、両親の行き先を隠しておこうと決めています。
いつか彼が、身も心も私に溺れて両親を失った傷も忘れた頃、私たち二人は互いに手を取り合って、万魔殿へと旅立つのです。無限に続く時間の中で、一匹の雄と雌の番となる至福の時は、きっと私たちに甘美な陶酔をもたらす違いありません。
だからそれまでは、私はそんな恍惚に満ちた未来に思いを馳せながら、今の生活を続けるのです。
(それにもう少し…この甘い新婚生活を続けたいっていう気持ちもありますし…♪)
「リディア、そろそろ出かける時間だけど、大丈夫?」
「あ〜、そうですねぇ。そろそろ出かけないとですね〜」
見れば彼は既に食事を終えていました。私は慌てて立ち上がり、食器を台所へと持っていきます。
「今日は何時くらいに帰ってくる予定ですかぁ?」
「んー…今日は少し帰りが遅いかもしれない」
私たちは互いに手を取って家を出ました。
私はそれが嬉しくて、彼の胸元に自分の匂いを残すように顔を擦り付けるのです。
「それでは今晩も腕によりをかけますから、楽しみにしていてくださいねぇ」
「うん、楽しみにしているよ、リディア」
「はい…あなた…♪」
私は今、とても幸せです。
眠りに落ちていた僕の耳にとても静かで温かい声が聞こえる。慣れ親しんだ女性の声はどことなく困ったような響きをしていた。寝ぼけた意識のままぼんやりと目を開けると、紫色の瞳が僕をじっと見つめていた。
「あ…ユー君〜やっと起きましたねぇ〜。もう、相変わらずお寝坊さんなんですから」
目の前の女性が口元に手を当てて控えめに笑っている。彼女が笑う度に、長い銀髪がサラサラと揺れていた。
「あれ…義姉さん…?」
「そうですよ〜。ユー君のかわいいお姉さんですよ〜」
リディア義姉さんが無邪気に笑う。年上とは思えないとても可愛らしい笑顔に、僕を思わず見ほれてしまう。それがとても気恥ずかしくて、甘えるように顔をすり寄せてくる義姉さんを押しのけて体を起こした。
毛布の中で義姉さんが「いやぁん♪」と甘い声を漏らすのを耳にしながら大きく体を伸ばす。名残惜しそうに体にまとわりついていた眠気が薄れていき、曖昧だった『僕』という感覚が、次第に『ユーリ』という個性を目覚めさせていく。
「義姉さん、今何時?」
「えーっとですね。ついさっき、11時になったぐらいですねぇ」
「あー…ごめん…寝すぎた…ご飯まだ食べてないよね」
『家族の団欒は明るい朝食から。朝食は家族が揃って食べるべし』
それが我が家の家訓であり、義父さんが生前ことある度に口をすっぱくして繰り返していた事でもあった。僕も義姉さんもそれを今でも律儀に守って、互いが起きるまで朝食を取らないようにしている。だから僕が寝過ごしたという事は、義姉さんはまだ朝食を食べていないという事になる。
しかし義姉さんは柔らかい微笑を湛えたまま、首を横に振った。
「いいんですよぉ。おかげで今日はずーっと、ユー君のかわいい寝顔が見れましたからぁ」
「…今度からきちんと起こしてくれると助かります」
「ぇ〜。それじゃあ、お姉さんつまんないですよぉ〜」
義姉さんが毛布に包まったまま、不満そうに身をよじらせる。義姉さんが動く度、細くしなやかだけど女性らしい丸みを帯びたボディラインに沿って、毛布がその形を変えていく。
……ん?
「ていうかなんで義姉さん同じベッドで寝てるの?」
「それはですねぇ…ユー君のかわいい寝顔を見てたらですねぇ。なんかお姉さんも一緒に寝たくなっちゃって…だから添い寝をしちゃいました〜」
「…出来ればもうしないでください。お願いします」
「ぶ〜ぶ〜。今日のユー君かわいくないです〜。ユー君が反抗期でお姉さんかなしいのです」
「もういいから、ほらっ…早く起きて。顔洗ってきたらご飯食べるから」
「はぁ〜い」
義姉さんは不服そうな態度を隠そうともせずベッドから体を起こした。義姉さんの体にまとわりついていた毛布が肌蹴け、白く透き通った上半身が僕の視界を埋め尽くす。わずかに寝汗が浮かぶ肌は上気したように少し赤みを帯びていて、それがとても艶かしい。首と臍の中間に位置する二つの膨らみは、義姉さんが息を吸うのに合わせてわずかに上下を繰り返していた。
「って、なんで義姉さんハダカなの!?」
「ユー君の人肌で暖めてもらおうと思ってぇ〜」
「いま夏だよ! 暑いでしょ!」
「だからぁ、暑くないようにハダカになったんですよぉ〜。それにこれならぁ、服が汗で汚れる心配もないですしぃ」
口を尖らせる義姉さんの尻尾が毛布の中で不満そうに揺れている。
そう、義姉さんは人間ではない。
サキュバスの特徴である頭角とお尻から伸びる長い尻尾。腰の辺りから生える短く黒い羽根。そしてエルフみたいに尖った耳。義姉さんは人間の父親とダークプリーストの母親の間に生まれた、れっきとした魔物娘だった。
「僕が寝てる間に何してるの!」
「ナニもしてないですよぉ〜。ほんとですよぉ〜」
「さりげなくいかがわしい言い方しないで! 仮にも聖職者でしょう!」
「お姉さんは堕落神様に仕えるダークプリーストですから〜。平気です〜」
「そういう問題じゃないの! ああ、もういいから! 僕、顔洗ってくるから! それまでに服着ておいてよ!」
それだけ言い残して僕はすばやく部屋を後にした。荒々しく自分の部屋のドアを閉めながら、僕は大きくため息をついた。
…勃ってたの…バレてないよね…。
いや、でもこれは別にやましいものじゃないから。義姉さんに欲情したとかそういうんじゃないから。朝立ちっていう立派な生理現象だから。だから別に義姉さんのハダカを見たからって動揺してるわけないし、ずっと一緒に寝てたせいで服から義姉さん甘い匂いがするとかそんなことどうでもいいし、ましてや義姉さんの大きな胸に顔をうずめたいとか思ってもいないし――
「って、僕は誰に言い訳しようとしてるんだ…」
大きく深呼吸するように強引に息を整えながら、僕は洗面所へと向かった。
冬の冷え切った水で乱暴に顔を洗うと気分もだいぶ落ち着いてきた。と同時に、僕をここまで育ててくれた義姉さんと義理の両親に大変申し訳ない気分になってくる。
「ほんと、朝から何してるんだか…」
僕はいわゆる戦争孤児と呼ばれる存在だ。
親魔物国家のこの街に教団の軍隊が押し寄せてきたのは、僕がまだ5歳ぐらいの時だったと思う。
自警団と活躍と、近隣都市の援護もあって、戦争は長くは続かなかった。
ただし街が無傷だったわけではない。突然の襲撃に街は混乱を極め、一部では市街戦も発生した。少なくはない戦死者が出て、その中に僕の両親も含まれていた。その時の事はほとんど覚えていないけれど、死んだ両親の顔と燃える町並み、煤だらけになって瓦礫の中を泣きながら歩いていた事だけは、今でも鮮明に覚えている。
身寄りを失った僕はその後、昔から両親と交流のあった人たちの養子となった。それが義姉さんの両親だった。
小さかった僕は、ずっと義姉さんの後を追いかけて育った。よく覚えていないけれど、当時は義姉さんの姿が見えなくなるとすぐに泣き出し、その癖に義姉さんが飛んで戻ってくると、あっという間に泣き止んだらしい。
義姉さんは突然出来た泣き虫で手のかかる義弟に文句一つ言わず、ずっと傍にいてくれた。環境の変化に戸惑っていた僕が新しい家族を素直に受け入れられたのは、間違いなく義姉さんのおかげだろう。
両親を失った僕が言うのも変な話だけど、当時はとても幸せだった。
しかしそんな幸せな生活が始まって6年経ったある日、今後は義父さんと義母さんが突然姿を消した。事故か失踪か。幼ない僕には理由が分からず、また義姉さんも何も語ってくれず、幸せな生活は崩壊してしまった。
『大丈夫。ユー君のことは、ちゃぁんとお姉さんが守ってあげますからねぇ』
不安げに見つめる僕に対し、義姉さんはいつもの温和な笑みを浮かべ、大丈夫だと言わんばかりに頷いて見せたのだった。
それから僕が15歳に至る現在まで、義姉さんはたった一人の家族として、教会の仕事の傍ら、女手一つで僕を支えてくれていた。
(そんな義姉さんに欲情するなんて…僕はどうかしている…)
僕は義姉さんの事を家族以上に思っている。つまり異性として、義姉さんに好意を抱いている。
悲しい時も辛い時も、ずっと傍に居て慰めてくれる義姉さんの存在は、僕にとってかけがえのない存在だ。義姉さんを義理の姉としてではなく、一人の女性として見るようになったのがいつかは僕自身にも定かではない。けれど僕にとって姉さんが世界で一番大事な女性であることに間違いはない。
しかしその恋心を自覚すると同時に僕が覚えたのは、申し訳なさだった。
だって僕たちは義理とはいっても姉弟で、血は繋がっていないけど家族だ。義姉さんは僕にとてもよくしてくれるけれど、それはあくまでも義理の弟という関わりがあるからだ。
世話のかかる義弟の歪んだ思いを知ったら、義姉さんだって困るに違いない。いや、困るなんてものじゃなく、実際は気持ち悪がられるだけだろう。
今まで弟だと思っていた男が、実は自分を異性として見ていたなんて知れば、不快に思う事は想像に難くない。
だから僕のこの思いは、義姉さんに決して伝えてはいけないものだ。
(それに…僕が居たら、いつまでたっても義姉さんは自分の幸せを探せないだろうしなぁ…)
義姉さんはとても思いやりに溢れる素敵な女性だ。何があっても常に自分よりも血の繋がっていない弟を優先してくれるし、出来るだけ僕が寂しくないようにと一緒にいてくれる。
そんな義姉さんはその内面同様に美しい。優れた容姿を持つ魔物娘であるという点を差し引いても、義姉さんは僕が知る限り街一番の美人だ。
義姉さんが街中を歩けば大半の男が振り返るし、告白めいた事を受けているのも、僕が知る限り一度や二度ではない。しかし、義姉さんは過去から現在に至るまで特定の相手がいた気配はない。
僕の知っている魔物娘は大抵、恋人や配偶者を見つけて幸せそうにしている。
にも関わらず、姉さんに最愛の相手がいない理由は、間違いなく僕にある。教会での仕事、家事、そして僕の世話という三足の草鞋を義姉さんに履かせている限り――つまり手のかかる弟がいる限り、義姉さんは自分の時間を作る事は出来ないだろう。
配偶者を見つけることが最大の幸せである魔物娘の義姉さんにとって、これほど苦痛な事はないのではないだろうか。僕は自分が自覚しているにしろ、していないにせよ、義姉さんの重荷になっているのだ。
「ユ〜く〜ん。随分遅いけどぉ、どうしたんですかぁ?」
リビングから聞こえる間延びした言葉に僕は我に返った。ついつい考え事をしていて洗面所で時間をかけすぎていた。
僕は慌てて顔を拭き、リビングへ向かった。
朝食の用意を終えた義姉さんは、自分の席に座っている。その姿を見て、僕は内心で安堵の息を零した。
(よかった…ちゃんと服を着ている…)
今の義姉さんは白いシャツに黒のロングスカートという、いつもの控えめな服装に身を包んでいた。
いくら義姉さんが僕という存在を異性として見ていないとしても、年頃の僕としては一糸まとわぬ女性の――しかも自分が恋焦がれる女性の――裸に耐えられるわけがない。もしも義姉さんがまだ裸のままだったりしたら、僕はきっと顔を赤くして逃げてしまっていただろう。
そんな僕の内心には気づかず、義姉さんは薄紫色の目を細めて笑っている。
「やっと来ましたね〜。遅かったじゃないですかぁ」
「ごめん義姉さん」
「いいんですよぉ〜大好きなユー君なら、お姉さんいくらでも待てちゃいますからぁ」
義姉さんの告白じみた言葉に顔が熱くなる。たとえそれがラブではなくライクだと分かってはいても、異性に対するものではなく手にかかる義弟へのものだとしても、好きな女性から大好きと言われて嬉しくない男なんて存在しない。
「ユー君、美味しいですかぁ?」
「うん、義姉さんの料理はいつも美味しいよ」
「ユー君にそう言って貰えて、お姉さん幸せです〜。これからもま〜いにち、ユー君のために、ご飯を作ってあげますからねぇ」
僕の言葉に、リディア義姉さんは文字通り尻尾を振って喜んでいた。
これからもずっと義姉さんの食事が食べられるなら、どんなに幸せだろう。
でもそれじゃあ駄目なんだ。いつまでも甘えてばかりではいられない。僕が甘え続ける限り、義姉さんは僕という呪縛から解き放たれず、魔物娘としての幸せを追うことすらままならない。
だから僕は、前々から一つの決断をしていた。
「…今日のユー君、本当に何か苦しそうです…悩みなら、お姉さんが相談にのりますよ…?」
さっきまでニコニコ笑っていた義姉さんが、こちらを心配そうに覗き込んできた。不安げな表情からは、心の底から僕を案じてくれているのが伝わってくる。これはもしかしたらいい機会なのかもしれない。そんな気持ちに後押しされて、心配させている事に申し訳なさを覚えながら、僕はぽつりぽつりと口を開いた。
「うん…義姉さん…ちょっと…聞いて欲しい話があるんだ」
「なんですかぁ?」
「…僕…この家を出て、自立しようと思う」
義姉さんを楽にするにはどうすればいいだろう。ずっと考えていたことだけど、結論は一つしか出なかった。
僕が独立すれば、義姉さんは僕という重荷から解放される。今までは家事と仕事と僕に追われていた義姉さんにも、時間的な生まれる。
そうすれば、多分義姉さんも安心して恋人を作れると思う。そしてやがて結婚して、子供を作って幸せな家庭を築く事だって出来る。義姉さんがそんな風に他の男と添い遂げる未来図を想像すると胸が痛いけれど、これが僕に数少ない恩返しだと確信していた。
「…何か…あったんですか?」
「ずっと前から…考えてたんだ…このままじゃいけないって…」
「ユー君…好きな『女』が出来たんですか…?」
「ち、ちがうよっ!」
「なら…いないんですか…?」
「あ、いや…」
リディア義姉さんの言葉に僕は即答出来なかった。だって僕が好きな女の人は――世界で最も大事で、最も傍にいて欲しい女性は――いま目の前にいるんだから。僕がそれ以外の女性を好きになるなんてありえない。例え、義姉さんへの恋を伝える事が出来ないとしても、僕はそれを捨てるつもりなんてないんだから。
しかしそんな思いを丈を告げることも出来ずに声を詰まらせる僕を見て、義姉さんはみるみるうちに顔を歪ませていった。
「あの…その…僕がいなければ…きっと義姉さんだって自由な時間が出来るだろうし…そうすればほら…好きな人を見つける事だって出来るし……その…これ以上、僕は義姉さんの重荷になりたく――
「そんな話聞きたくないです!」
僕の言葉を遮って、リディア義姉さんが大声で叫ぶ。いつもは何があってもニコニコしている温和な義姉さんの、そんな感情を荒げた声を聞くのは生まれて初めてだった。
義姉さんの頬を涙が伝う。両親の失踪の時ですら泣かなかった義姉さんが、いま目の前で泣いていた。
「ひぐっ…ユー君はぁ…何にも分かってないですっ…ひっくっ…」
「えっ…あ…」
「お姉さんは…お姉さんはぁっ…ユー君の…ユー君がぁっ…っ」
「ごっごめんっ、義姉さんっ…!」
感情が漏れ出すように泣きじゃくる義姉さんに慌てて手を伸ばす。
その腕に鈍く熱い痛みが走った。
義姉さんに伸ばした僕の手は、義姉さん自身によって振り払われていた。
義姉さんにここまで明確に拒絶された事なんて今まで一度として記憶になかった。それほどまでに義姉さんは悲しんでいた。
僕はショックを覚えた。拒まれた事ではなく、義姉さんをそこまで悲しませてしまった事に後悔していた。
義姉さんのためを思って言った事で義姉さんを悲しませるなんて。なんて僕は駄目なんだ。
こんな事だから、義姉さんは僕の自立に泣くほど抵抗したんだろう。これでは、義姉さんが安心して自分の幸せを追うなど夢のまた夢ではないか。
「ごめん…義姉さん…」
僕はただ義姉さんに謝る事しか出来なかった。
涙が枯れたリディア義姉さんは目元を真っ赤に腫らしたまま、何も言わずに教会の手伝いに出かけてしまった。
おぼつかない足取りで歩く義姉さんが心配だったが、拒絶されてしまった僕には、黙って見送る事しか出来なかった。
教会から帰ってきても義姉さんの気持ちが晴れることなく、むしろ朝よりも酷く憔悴した様子で、そのまま自室に引きこもってしまった。何度声をかけ、食事を用意しても義姉さんが部屋から出てきてくれることはなかった。
既に太陽は沈んでしまい、街は夜の静けさに包まれている。僕はベッドの上で途方に暮れていた。
僕が義姉さんを怒らせたのは間違いない。そしてその原因が自立の一件であるのも合っているだろう。だけどなぜ、それで義姉さんが泣いてしまうほど怒ったのかが分からなかった。
僕が自立出来るほど一人前ではないと怒られるなら理解できる。けれど、義姉さんの様子を見ている限り、そういうことではなさそうだ。
「義姉さんも…僕と離れたくない…なんてあるわけないか…」
もしそうだったらどんなに嬉しいか、などと思うのは僕の我侭だろう。
おそらくは僕が理解していないだけで、義姉さんが許せないと思う何かがあったのだ。それが分からない限り、義姉さんは許してはくれないだろう。
「問題は…それが何かなん…だけど…」
気づけば瞼が閉じていた。今日一日、ずっと糸を張り詰めたような雰囲気の中にいたせいだろうか。僕の体は予想以上に疲れているようだった。
(あぁ…でも…理由が分からないと…明日もこのままだ…)
そんな思考が脳裏をよぎったが、僕の体は、そのまま眠りに落ちてしまっていた。
ピチャピチャとした水音とむずがゆい刺激に、僕の意識はおぼろげに覚醒を始めた。
まだカーテンを閉めた部屋は暗く、夜であることが分かった。おそらくは眠りに落ちてからそれほど時間も経っていないだろう。
「…寝ちゃったか…」
「…おきましたかぁ?」
「あぁ…義姉さ…え…あれ…?」
声のする方に顔を向けると、そこにはなぜか僕の勃起した怒張を握る、一人の女性の姿があった。
闇に覆われているためその顔はかすかにしか伺いしれない。しかし、彼女が身にまとうタイトで扇情的な黒い服と、その隙間から顔を覗かせる透けるような白い肌、それから長い艶やかな銀髪だけは闇夜の中でも鮮明に浮かび上がっていた。
その色の落差は見る者の劣情を刺激し、視線を釘付けにするために作られているとしか思えなかった。
腰まで入った深いスリットは柔らかそうな太腿が大胆に覗かせ、胸元の隙間は豊満な谷間の存在を十二分に主張している。黒い羽根のような腰飾りは風もないのに小さく揺れていた。
全体としては礼拝服を模しているにも関わらず、女の魅力を強く強く前面に押し出した衣装は、神聖さとはかけ離れた娼婦みたいな淫靡さをかもしだしていた。
「あ、あの…どちら様でしょう?」
「分かりませんかぁ…?」
問いかけに答える事なく、彼女は意味深な笑みを浮かべながら、鎖の巻きついた尻尾を揺らしている。ということは魔物娘であることは間違いない。顔見知りの魔物娘の顔を思い浮かべてみたが、そのどれもが彼女の特徴とは一致しなかった。
一番近いのは義姉さんだけど…義姉さんがあんな色気を前面に出すような服を着ている姿は、今まで一度として見た事がない。
「だったらぁ…こうすれば分かりますかぁ…?」
彼女がベッドの上の僕に覆いかぶさる。突然の事に抵抗する暇さえ与えられなかった僕は、そのまま彼女の柔らかな胸元に顔を埋めていた。その途端、彼女の温かい体温と共に、嗅いだ覚えのある独特の甘い香りが鼻腔を刺激した。
「っ…もしかして…」
「ふふっ…ユー君、温かいです…」
「ね…義姉さんっ!?」
「はーい…正解で〜す。ユー君の…ユー君だけのお姉さんですよぉ…」
僕の頭にリディア義姉さんの掌の感触が伝わってくる。柔らかい指先が僕の髪を優しく撫でている。押し倒されているせいで表情は分からないけれど、きっといつものように慈愛に満ちた笑みを浮かべているはずだ。
なんで義姉さんが僕のものを握っているのか。そんな疑問が脳裏をよぎったが、僕の口を出た言葉は謝罪だった。
「義姉さん…今朝は…その…ごめん…」
「ううん、いいですよぉ。あの時はビックリしましたけど、解決方法を思いつきましたからぁ」
「解決…方法…?」
「そうですよぉ。だからぁ、それを実践してるのです」
「それってどういう…んんっ!?」
顔をあげた僕に口の中に、温かい何かが侵入してくる。それが義姉さんの小さな舌だと気づいた時には、既に義姉さんは熱心に僕に舌を絡ませていた。
柔らかい唇がふにふにと形を変えて吸い付いてくる度に、温かい吐息が顔にかかる。義姉さんの匂いを更に濃くしたような蟲誘的な甘い吐息を嗅いでいるうちの僕の頭は次第に霞がかかったようにぼんやりとしていった。
(あぁ…義姉さんの唇が…)
すっかり抵抗する気力を失った僕の口の中を義姉さんの舌が踊っていた。歯茎を舐め回される度、義姉さんと僕の唾液が混ざり合い、二人の口の間から零れ落ちていく。義姉さんの唾を飲めば飲む程に体は火照っていき、抵抗する意思を奪っていった。
「んっ…ちゅっ…ちゅるっ…はぁ…ユー君の唇奪っちゃいましたぁ…♪ キスってぇ…こんなに素敵なものだったんですねぇ…♪」
唾液で糸を引きながら唇を離した義姉さんが恍惚な表情を浮かべながら体を細かく痙攣させている。唾液で塗れて唇は凄く艶かしくて、僕はそこから眼を離せなかった。
「ふふっ…お姉さん…ユー君とキスしただけで…ちょっとイっちゃったみたいですぅ…♪」
「義姉さん…」
「ユー君のここも…すごく苦しそうですねぇ…♪」
細くしなやかな指が僕の露になっていたペニスへと再び伸びていく。
指先が裏筋をなぞり、掌が亀頭を撫で回す。既に先走りを垂らしながら硬く大きくなっているそれの反応を、義姉さんは確かめるに弄び続けている。その度に脊髄に今まで経験した事ないような電気が走った。
「くっ…んぁっ…ね、義姉さんっ…」
「ふふ、ユー君すごく気持ちよさそ〜な顔してるです…お姉さんの指で…感じちゃってるんですねぇ…♪」
リディア義姉さんはカリ裏を擦るように、丹念に亀頭をし続けている。義姉さんがもたらす背徳的な快楽に呑み込まれ、腰は独りでに痙攣を繰り返す。
睾丸に溜まっていた精液がペニスの根元に集まっているのが嫌というほど自覚できた。今まで、こんなに早く射精しそうになったのは初めてだ。自分でしているときだって、ここまで早く絶頂に達しそうになることなんてなかった。
「義姉さん、だ、だめだよっ…こんな事…」
「そうですよぉ…まだ、出しちゃぁ…だめですよぉ♪」
僕が強い射精感を覚えたその瞬間。今にも白濁した欲望を撒き散らしそうな脈打つペニスの根元に義姉さんの尻尾が強く巻きついた。行き場を失った精液が尿道の中で荒れ狂う感覚に僕は焼けきれるような快感と苦痛を感じた。
「ぐっ…ううぅっ…」
思わず「何で止めるの」と言いそうになるのを、僕は寸前の所で唇を噛んで堪えた。そんな僕の様子をお見通しだといわんばかりに、義姉さんは微笑を浮かべている。
胸を押し付けるように抱擁を強めた義姉さんが、耳元で吐息を吐くように小さな声で囁いてきた。
「ユー君はぁ…いったいどこの『女』が好きなんですかぁ…?」
「えっ…」
「お姉さんのぉ…お姉さんだけのユー君を奪った『メス』はぁ…一体どこの誰なんですかぁ?」
「そっ…そんなの…」
「いないなんて言いませんよねぇ…今朝…お姉さんの質問に口ごもってましたもぉん…」
「それはっ…」
義姉さんは怒張の根元を尻尾でしっかりと抑えたまま、器用に指だけで亀頭を撫で回している。
その度に耐え難い刺激が走り、狂おしいまでの射精感と出せないという葛藤が僕を苛んでいく。そんな反応に悦びを示すように、義姉さんは白い胸と柔らかい太腿を僕に絡み付けてきた。
「ほらぁ…言わないといつまで〜も、出させてあげませんよぉ…」
「だ…だめっ…言えない…」
「なんでですかぁ…お姉さん、大切なユー君を盗んだ『メス』の名前が聞きたいですぅ…♪」
甘えるような声が耳元に伝わる度、義姉さんの吐息が耳にかかる。
最愛の人が体中を使って与えてくる刺激に、『射精したい』という解消されない欲求だけが募っていった。
普段は意識していないが、義姉さんは魔物娘で、僕は未だに女を知らない男だ。彼我の差は歴然で、もとより我慢など出来る余地はなかったのだと自分を納得させる事だけが、僕に出来る唯一の抵抗だった。
「ほらぁ…早くぅ…♪ ユー君のおチンチン、ザーメン出したい〜って言ってますよぉ…♪」
「義姉さん…もう許してっ…」
「だ〜めですよぉ…ユー君が素直になるまで…許さないんですよぉ…♪」
(ああ…出したい…! なんでもいいからもう出したい…!)
「ユーく〜ん、まだ我慢しちゃうんですかぁ…? 我慢は体に毒ですよぉ…」
「ぐぅぅぁぁ…んんっ!」
「ほらぁ…こぉんなに苦しそうにおチンチンピクピクさせて…お姉さん、ユー君が心配ですぅ…♪」
「うぐっ…っ…分かったっ…言うからっ…」
「本当ですかぁ…? 嘘だったらお姉さん許さないですからねぇ…♪」
弱点を的確につくような愛撫に、僕の理性は呆気なく決壊した。
自分の恋心を秘めようとしていた決意も、嫌われたくないという思いも、義姉さんがどうしてこんな事をしているのかという疑問も、こんな呆気なく精を撒き散らしたくないという男としてのプライドも。すべては精液を吐き出して気持ちよくなりたいという欲望によって上書きされていく。
「絶対に言うっ…だからっ…だから許してっ…!」
「ふふっ…じゃあ素直に言ってくださいねぇ…そしたら好きなだけ…ザーメンをドピュドピュしていいですからねぇ…♪」
「僕が…僕が好きなのは…っ! ね…義姉さん…リディア義姉さんだっ…!」
「は〜い、よく言えました〜♪ って…えっ…嘘…」
歪んだ劣情を告白すると同時に義姉さんの指と尻尾が僕のペニスから離れた。その瞬間、行き場を求めていた精液が尿道を駆け上がる。焼け付くような絶頂が腰を登り、経験した事がないほどの量の白く濁った熱を吐き出していく。尿道口から溢れる精液は勢いよく飛んでいき、それが義姉さんの黒く卑猥な衣装を白く染めていった。その淫靡な光景を、僕はどこか遠くから見つめるように眺めることしか出来なかった。
(ああ…言っちゃった…)
あれほど強く心に誓ったのに。義姉さんへの思いを隠そうと決めていたのに。僕の理性は、与えられた快楽の前にあっけなく屈してしまった。もうこれで…二度と今までのように義姉さんを暮らす事は出来ない。
(終わったんだ…僕は…一人になったんだ…)
僕は両手で顔を覆った。義姉さんがどんな顔をしているのか…僕は怖くて見ることすら出来なかった。
「ユー君…さっきの…嘘じゃないですよね…?」
「…うん」
「ユー君は本当にお姉さんの事…好きなんですよね…?」
「……うん」
「姉としてではなく…一人の女として…お姉さんのこと…意識してたんですよね…?」
「…ごめん…気持ち悪いよね…」
体中から汗が吹き出し、体が震えていく。
向けられているであろう侮蔑の眼差しを想像するだけで、僕の視界は涙でぼやける。両親を戦争で失い、義理の両親すら行方が知れず、そのうえ義姉さんにすら見捨てられた人生に、一体どれほどの価値があるというのか。僕はこの瞬間、たった一人の家族であり、最も好きな女性を失ったのだ。
しかし義姉さんの反応は、僕が想像していたものとはまったく異なっていた。
「何言っているんですかぁ♪ 嬉しいに決まっているじゃないですかぁっ♪」
義姉さんが僕の胸に今まで以上に必死で顔をすり寄せる。動物のようなその仕草は、いつもの義姉さんの癖の一つだけど、その動作はいつも以上に激しく、まるで必死に自分の匂いを染みこませようとしているかのように感じられた。
僕は顔を覆っていた両手を離して義姉さんを見た。耳先まで真っ赤に染めた義姉さんの顔は満面の笑みを浮かべていた。
「ユー君っ♪ ユー君っっ♪ ユーくぅぅんっ♪ お姉さんもユー君のこと大好きですよぉっ♪」
「…僕が義姉さんを好きだってこと…気持ち悪くないの?」
「何言ってるんですかぁっ♪ 嬉しいに決まってますよぉっ♪」
「でも…だって…僕は義姉さんと…血は繋がってないけど…姉弟だよ…?」
「そんなの愛の前では大した問題じゃないですよぉっ♪ ああっ…お姉さん嬉しいですぅ…ユー君と相思相愛だったなんてぇっ♪」
熱っぽく潤んだ瞳がじっと僕を見つめてくる。その顔は悦びに満ち溢れ、緩んだ表情で僕に微笑みかけている。
「…義姉さん…それ…本当に…?」
「お姉さんはユー君に嘘なんかつきませんよぉ。毎日あれだけ言ってたじゃないですかぁ。ユー君のことが大好きだってぇっ♪」
「弟として好きって意味だと思ってた…」
「ぇ〜…あれだけ愛を込めて伝えてたのにぃ。ユー君ひどいです」
「ご、ごめん…」
じっとこちらに向けられていた眼差しをぷいと背け、義姉さんが口を尖らせるふてくされる。そんな仕草すら僕は愛おしく感じてしまう。
「そもそもユー君は鈍すぎます。今朝だって、一緒のベッドでハダカで寝て、あんなにアピールしてたんですよぉ。なんでユー君気づかないんですかぁ…あんなにユー君に犯されるのを期待して待っていたっていうのに」
「え…あっ…」
今朝の出来事を思い出され、顔が赤くなる。僕が必死に自分の劣情を抑えようとしていた時、義姉さんは犯されるのを期待していた。それを思うと体温が上がると同時に、さっきあんなに出した筈の股間に血が集まっていく。思わず腰を引く僕を見て、僕にしがみついていた義姉さんは唇の端を持ち上げた。
「ふふっ…ユー君、お姉さんが犯されたいって言っただけでぇ…こ〜んなにおチンチン勃起させちゃったんですねぇ…♪ 嬉しいですぅ…♪」
「あ…いや…そういうわけじゃ…」
「ならお姉さんのこと…犯したくないんですかぁ…? ユー君が望めば…いくらでもお姉さんのおマンコ使っていいんですよぉ…?」
「そ、それは…」
本心を言えば、凄くシたい。際どい淫語をこれみよがしに口にするリディア義姉さんの言葉は、僕を否応なしに興奮させている。おそらく義姉さんは意図的にそういう言葉で僕をその気にさせようとしている。
「お姉さんはぁ、大好きなユー君のものなんですからぁ…♪ ユー君が欲しいって言ってくれれば…いくらでも抱いていいんですよぉ♪」
言葉だけではない。
濡れた薄紫の瞳、物干しそうに開いている口、汗ばんだ純白の肌、赤く染まった頬、さっきから押し付けられ続けている胸、擦りつけられている豊かな太腿、僕の足に絡みついている尻尾。義姉さんは自分の持てるものすべてを使って僕を誘惑してきている。
そんな義姉さんは、淫らで、そして美しかった。
義姉さんが僕からゆっくりと体を離す。薄れていく義姉さんの香りと体温が名残惜しいと思う中、腰の上で馬乗りになった義姉さんはおもむろにスリットで切り分けられた裾を持ち上げた。
「それにぃ…ほらぁ、見てくださいよぉ…♪ お姉さんのおマンコ…ユー君のザーメンの臭いに反応して…こんなにグチャグチャになってるんですからぁ…♪」
長い前垂れの中には無毛の恥丘が存在していた。はじめて見る女性の秘部は糸を引きそうなほどに透明な愛液を溢れ出させ、ムワンとした甘く淫靡な匂いを充満させていた。その匂いを嗅いだ瞬間、僕は思わず生唾を飲み込んだ。
「お姉さん、ユー君に犯してほしくてぇ…パンツも履いていないんですよぉ♪ おかげでこんなにぃ…太腿に垂れるぐらいにぃ…濡れちゃっているんですぅ…♪」
「あっ…あ…ね…義姉さっ…」
喉が痛いぐらいに乾いていて言葉すら満足に出せない。唾をいくら飲み込んでも、その痛みは一向に消えてくれない。渇きを抑えたいという本能が、自然と義姉さんの溢れ出る愛液に結びついた。あのドロドロに濡れた義姉さんの体が欲しくて、僕は自然を腰を動かし、自分のペニスを義姉さんの恥丘に押し付けていた。
「あぁ…ユー君のぉ…ユー君のおチンチンがぁ…お姉さんのおマンコに当たってますよぉ…♪ こんなに必死に押し付けてぇ、お姉さんが欲しくて仕方ないんですねぇ♪」
「欲しい…義姉さんをっ…抱きたい…っ」
「嬉しいっ、嬉しいですぅ…♪ ユー君が、お姉さんを求めてくれるだなんてっ…♪ あぁ…堕落神様ぁ、ありがとうございますぅっ…♪」
僕は恥も外聞もかなぐり捨てて義姉さんを求めた。そんな僕を見てもリディア義姉さんは嫌悪するどころか、むしろ嬉しそうに頬を染めて体を震わせている。
その間も僕は懸命に腰を振り続けていた。義姉さんの恥丘を開くように性器同士を重ねるだけで、秘裂から溢れた愛液が僕の腰をしとどに濡らしていく。
「あっ…んんっ…ふぁあぁぁ…♪ もう、ユー君ったら…悪戯さんですねぇ…♪」
「義姉さん…義姉さんっ…!」
「分かってますよ、ユー君…♪ 今から…も〜っと気持ちよくしてあげますからねぇ…♪」
義姉さんが体を持ち上げ、僕の一物の真上で自らの秘裂を開いてみせる。糸を引いて開いたそこは、驚く程綺麗なピンクをしていて、艶かしく蠢いている。あまりに淫靡な光景に僕は眼差しを外すことが出来ない。僕の熱い視線に応えるかのように、奥から泡だった愛液がコポリと溢れ出た。
「あぁ…ユー君にじっと見られて、お姉さんの子宮がキュンキュンしちゃってますぅ…♪ もう我慢できないからぁ、ユー君のこと…食べちゃいますねぇ…♪」
秘部の入り口が肉棒にあたり、クチュリと小さな水音をたてる。十分すぎるほど蜜を湛えているにも関わらず未だに硬さを感じる義姉さんの秘裂に僕のものが呑み込まれていく。
ペニス全体に絡みつく肉の感覚に、手でされていた時の数倍の刺激が走った。
「うぁっ…くぅっ…」
「んっ…はぁぁぁ…ユー君…気持ちいいですかぁ…?」
「う…うん…気持ちいいよ、義姉さん」
「それはよかったですぅ…お姉さんはじめてだからぁ…下手かもしれないですけど…頑張りますねぇ」
義姉さんは微笑を浮かべている。しかし眉をしかめた表情には珠のような汗が浮かび、明らかに苦しそうだった。はっとして接合部を見ると、貫かれた義姉さんの秘裂からは純潔の証である赤い鮮血が零れていた。
「あっ…ごめん、義姉さん!」
聞いた話だと、男と違って女の人は初めての時は凄く痛いらしい。あの鮮血はその痛みの証拠だろう。僕は咄嗟に義姉さんから離れようと腰を引いた。しかし義姉さんはそんな僕を押さえつけ、更に肉棒を呑み込んでいく。
「大丈夫、ユー君…お姉さんは平気ですから」
「ご、ごめん…痛いよね」
「ちょっとだけ…痛いですけどぉ…それよりもユー君と繋がっているんだって思うと、凄く幸せですからぁ…♪」
そんな健気な義姉さんの言葉に僕は胸が締め付けられる。申し訳なさと愛おしさ。その二つを混ぜ合わせたような感情が心の中で入り乱れ、気づけば僕は義姉さんの腕を引いて、自分の元へ引き寄せていた。義姉さんはなんの抵抗も示さず、その柔らかい体を預けてくれる。
僕は顎を軽く持ち上げ、義姉さんの瑞々しい唇に吸い付いた。舌を入れると、義姉さんはなんの躊躇いもなく僕に舌を絡ませてくれた。
「義姉さん…僕は義姉さんが好きだ…」
「あぁ…ユー君…酷いですよぉっ…こんな時に愛の告白されたらっ…お姉さん…感じちゃうじゃないですかぁ…♪」
「義姉さん…世界で一番、義姉さんが好きだ…だから義姉さんにもっと感じて欲しい…」
「あぁ…嬉しいです、ユー君…♪ お姉さんもユー君が、ユー君だけが好きなんですぅっ…んっっ…ちゅっ…ちゅっ…♪」
舌を絡ませ、ただひたすらに唇を貪る。義姉さんはうっとりとした様子で目を閉じてキスに応じてくれている。僕が義姉さんの舌に吸い付く度、一物も同様に義姉さんの膣肉に吸い付かれた。
既に義姉さんの表情に苦しみはなかった。そこには僕との性交を純粋に楽しんでいる、一人の美しい女性がいた。
「んっ…んっ…ちゅるっ…んっ…ゆーくぅん…ゆーくぅんっ…♪」
甘く媚びた声をあげながら、義姉さんは僕の上でゆらゆらと腰を揺らしている。
蠢動を繰り返す膣肉は僕の一物を捏ね上げながら、巧みに奥へ奥へと誘っていく。
先端が何か硬い所に当たった。そこが義姉さんの最も大事な場所だということを、僕は瞬時に理解した。
「ほらぁ…分かりますかぁ…♪」
「うん…義姉さんの一番奥に当たってる…」
「そうですよぉ、ここが…お姉さんの子宮ですぅ…♪ ここに…ユー君の子種が欲しくて…さっきからお姉さんの体が疼いて仕方ないんですぅ…♪」
どこよりも最も蜜をふんだんに湛えたその場所は、僕の精液を欲して貪欲に蠢いていた。射精を促すような強烈な吸い付きに応えるように、僕は絡みつく膣肉の奥に竿を強く押し付けた。
「んぁっ…ふぁっ…♪ だめっ♪ らめれすよ、ゆー君っ♪ そんなにっ子宮口をっ♪ グリグリしにゃいでくださいっ♪」
僕が腰を叩きつける度、義姉さんがかわいらしい嬌声をあげる。既に義姉さんは処女消失の痛みを感じておらず、泡だった愛液を垂らしながら腰を躍らせ続けている。僕を包み込む肉襞はまるで精の渇きを満たそうと蠕動を始めていた。
義姉さんが感じてくれている。それがとても嬉しくて、僕は何度も義姉さんを持ち上げるように腰を振るった。
「義姉さん、ここが…ここが気持ちいいの…?」
「んあぁっ♪ そうれすっ♪ その奥っ♪ おマンコの奥の子宮をグリグリ〜ってしゃれるのがっ♪ しゅごく気持ちいいんれすぅっ♪」
口をだらしなくあけて恍惚の表情を浮かべる義姉さんの体が、腰を揺らす度に小さな痙攣を起こす。最奥を突く度に、義姉さんの愛蜜で溢れた膣中は驚くほど熱く強く、精を求めて熱烈に絡みついてくる。
「ああっ…義姉さんっ…」
「ふぁぁぁっ♪ ユーくぅんっ♪ いいっ♪ 気持ちいいれしゅっ♪」
「ぼ、僕も…僕も気持ちいいっ…!」
「あぁぁっ♪ いいっ♪ いいれしゅっ♪ もっとっ♪ もっろおマンコちゅいてっ♪ お姉さんをっ♪ ユー君専用のっ、体にしてくださいぃぃっ♪」
子宮を持ち上げるような強引な挿入にも義姉さんは白い喉を仰け反らせて悦んでいる。義姉さんの蕩けきった喘ぎ声をもっと間近で聞きたくて。僕は義姉さんを強く抱き締めた。
「義姉さんっ…好きだ…大好きだっ…!」
「ふぁぁっ…♪ お姉さんもっ…♪ お姉さんもユー君のことだいしゅきですぅっ♪」
肉棒を包み込む快楽に、僕は我を忘れて義姉さんを貫き続ける。義姉さんはだらしなく開いた唇から涎を垂らしながら、僕の怒張を受け入れている。粘膜と粘膜が絡み合い、互いの汗が混ざり合う。耐えなく襲う快楽の波に、既に僕と義姉さんは肉欲に溺れる雄と雌と化していた。
「ユー君はぁっ♪ お姉さんにとって、『弟』じゃないんれすぅっ♪ 最も愛する『男』なんれすぅっ♪ らからっ♪ らからお姉さんの事ぉっ♪ 名前で呼んで欲しいんですぅっ♪」
「リディアっ…リディアぁっ…!」
「あぁ…嬉しいですぅっ…ユー君に名前を呼ばれてっ…嬉しいですぅっ♪ ひぅぅぅっ♪」
思いの丈を届けるように、僕は力強く義姉さん――リディアの子宮に肉棒を押し付けた。
ただ腰を叩きつけるだけの拙い性技。しかしそれでも、僕の最も愛する女性は恍惚の表情で涙を浮かべながら、体全体で悦んでくれている。降りきった子宮はその口をわずかに開き、今か今かと射精の時を心待ちにしながら、僕に吸い付いてきていた。
「んあっ♪ しゅごいっ♪ これしゅごいれしゅっ♪ あぁっ…らめっ…もうらめですっ…っ♪ イくっ…イっちゃいますぅ♪」
「リディアっ…イって…イってくれっ…!」
既に限界は間近に迫っている。尿道を埋め尽くす精液は、解放の時を待ちわびている。それでも、僕はリディアにもっと悦んでもらいたくて、最高の絶頂を味わって欲しくて、ただひたすらに抽送を続けた。
「ユー君もっ、ユー君も『私』と一緒に言ってくだしゃいぃっ♪ 『あなた』のザーメンをっ♪ 私の奥に注ぎ込んでっ♪ あなたの印を刻みこんでくだしゃいぃ♪」
「くぁぁぁっ…リディアっ…もうだめだっ…イく…!」
「ああぁっ♪ ふぁぁっ♪ わらしもっ♪ わらしもイきましゅぅっ♪ あっ…――ふぁぁぁぁあああっ♪♪」
リディアの膣肉が今まで以上に強烈に絡みつき、子宮口が鈴口を吸い上げる。その刺激に堪えきれず、とうとう僕は射精していた。激しく体を震わせて絶頂を迎えるリディアの最奥に、ありったけの精液が注がれていく。絡みつく精液に歓喜を示すように、リディアの膣肉は蠢き、一滴の残りもないようにと貪欲に脈動を繰り返す。
「んんぁっ♪ あにゃたのっ♪ ザーメンがっ♪ しょしょがれてましゅうぅぅっ♪」
ドクドクと脈打つペニスに、膣肉はいつまでも吸い付いている。その快感に、わずかに残っていた白濁液が子宮の奥へと飲み込まれていく。
「あぁぁっ♪ 子宮れっ♪ ザーメン受け止めてましゅっ♪ わたっ、私っ♪ しあわせれしゅぅっ♪ やっとっ♪ やっと、あにゃたのっ♪ 女になれましたぁっ♪」
いつまでも続くかと思われた射精も、すべての精を出しつくしたことでようやく終わりを告げた。全身を覆う気だるさに襲われながらも、僕は甘い汗の香りを放つ体を抱き締めた。
僕の白濁とした欲望を注ぎ込まれた最愛の女性は、時折体を小さく痙攣させながら、恍惚の表情を浮かべていた。
「あぁ…私…幸せれしゅぅ…♪ やっとあにゃたと…一つになれましたぁ…♪」
「僕も幸せだ…リディア…愛してる…」
だらしなく体を弛緩させるリディアに、僕は改めて愛を告げた。
まさかこんな結末を迎えるとは僕は予想もしていなかった。血が繋がってはいないとはいえ、僕と義姉さんは姉弟であり、それは人間の常識で考えれば決して結ばれる事はない思いだった。
けれど義姉さんはそんな僕の事を好きだと言ってくれた。僕の好意を受け止めてくれた。そして僕の事を好きだと言ってくれた。
今日から僕らは姉と弟ではなく、愛する恋人同士になったのだ。
それがたまらなく嬉しくて、気づけば僕の目から涙が止め処なく流れ出てきた。
「あっ…あれ…ごめん…」
僕は慌てて謝罪した。悲しかったわけじゃない。嬉しかったのだ。だから、それを誤解されたくなくて、僕は謝っていた。
しかし義姉さんは――僕の愛するリディアは、僕の腕の中でいつものように温和な笑みを浮かべながら、指先で僕の涙をそっと拭ってくれた。見ればリディアも僕と同じように涙を流していた。
「いいんでしゅよ、分かってますからぁ…。だから…もう絶対に、離しゃないですからぁ…♪ ずっとずーっと、一緒でしゅからね、あなた…♪」
その言葉がとても嬉しくて、愛おしくてたまらない。
だから僕はリディアのその涙を舌で掬い、彼女の唇にキスをした。
「リディア…僕の顔に何かついてる…?」
食卓を挟んで熱心に見つめる私に気づき、彼――ユー君がパンを口に含みながら怪訝な表情を浮かべています。いつもは『夫』として私を支えてくれていますが、こういう時の彼はとても幼く見えてしまいます。だから私はなんとなくそれが面白くて、笑みを浮かべながら答えるのでした。
「ううん、なんでもないですよぉ。ただ幸せだなぁ、と思っただけです」
「ああ…うん。僕も幸せだよ」
彼が頬をわずかに赤く染め、私の答えに賛同してくれました。それがとても嬉しくて、自分でも頬が緩んでいくのが分かります。
「ところで、リディアは食べないの?」
「私はいいですよぉ。だって朝からあんなに美味しいものを頂きましたからぁ…♪」
寝起きと共に彼の朝立ちした立派なおチンチンを頬張って、新鮮な子種を喉に注ぎ込んでもらうのが、最近の日課となっています。今日もしっかりその日課を行った私は、もうお腹一杯で、ご飯を食べる余裕がありません。
何より、折角頂いた愛する人の濃厚な味わいと感触を、普通の食べ物で薄めてしまうなど、とても勿体のない事です。
「ならいいんだけど…その、出来ればもう少し頻度を抑えてくれると嬉しいというか…」
「ぇー…だってぇ、私たちの主食は愛する人の子種ですからぁ♪ そういうわけにはいかないですよぉ♪」
「いやぁ…でも…」
彼の顔はすっかり赤くなってしまいました。
私たちが結ばれてから、毎日のように暇さえあれば激しく求め合っているというのに、未だに彼は当時のまま初心で、ちょっと私がからかうとすぐに顔を真っ赤にしてしまいます。それがついつい楽しくて、こうやって彼が恥ずかしがるような事を言ってしまうのは私の悪い癖でしょう。
(…でも照れる彼は本当に可愛いのです…♪)
「だからって朝から三発も出すのはさすがに疲れるというか…」
「でもぉ…あなたのザーメンすごくプリップリで美味しいんですよぉ♪ だから我慢が出来ないのです♪」
実際に彼の精液が美味しいのは事実なのです。あれほど甘美な飲み物を私は他に知りません。甘く絡みつく精液を喉で受け止めながら口いっぱいに出してもらうだけで、えも言われぬ幸福感に包まれ、それだけで私は軽い絶頂に達してしまうのです。
あれを我慢して一日を過ごすなど、彼の味を全身で覚えてしまった私には、もう無理な相談というわけです。
そもそも、本当なら直接子宮に注いで種付けして頂きたい所を、そのまま二人とも時間を忘れて貪りあってしまうからと、お口でするだけで我慢しているわけですから。これ以上お預けされてしまっては、私は乾いて死んでしまいます。
「…まあ、リディアがしたいって言うならいいか…」
顔を真っ赤にしながらも、彼はちゃんと答えてくれます。彼はとても優しい素敵な旦那さんです。私が嫌がる事は絶対にしませんし、要望には可能な限り応えてくれます。
彼自身は自分を臆病な人間だと思っているみたいですけれど、私はそう思いません。
たしかに内に篭る傾向がありますが、それは優しさの裏返しでもあります。自分の好きな人を傷つけたくないからこそ、彼は自分から一歩引いてしまうのです。だから今にして思えば、あの時も彼は私のことを思って自立しようなんて言い出したのでしょう。
でも、当時の私はそこまで気が回りませんでした。
「ふふっ、相変わらず優しいです。そういうあなたが好きですよ」
「…うん、僕も好きだよ」
優しい彼に好意を抱いていた人は少なくありません。
それに彼自身――惚れた弱みというわけではなく――ハンサムで格好いいのです。中性的な顔立ちはよく整っていますし。栗色の短い髪はサラサラで清潔感を感じさせます。まだ幼さの強く残る雰囲気の中からわずかに逞しさを匂わせる体つきは、これから立派な男性になるであろうという期待を強く感じさせます。
そんな彼と二人で街中を歩いていると、多くの女が彼を見ようと振り返ります。その中には熱っぽい眼差しを向ける魔物娘も少なくはありませんでした。――彼女たちはその後必ず、私を恨めしげな表情で見るのです――彼自身は気づいていないようでしたが、告白めいた事を受けたのも一度や二度ではなかったようです。
その度にかつての私は、いつ彼がどこかの女に取られるのではとヤキモキしたものです。
基本的に魔物娘は、他人の『夫』を奪わないという暗黙の了解のようなものがあります。しかしそれとて、本気になった魔物娘や元から一夫多妻制を常とする種、そんな暗黙の了解を持たない人間の女にはなんの意味もありません。
毎日出来るだけ傍にいて、必死に彼に私自身の匂いを付けていましたが、それで確実というわけではないのです。
だから私はお姉さんとして振る舞いながらも、懸命に自分をアピールしていました。もし私の愛するユー君を誰かに奪われたら、もしユー君が誰か別の女を好きになってしまったら。そんな「もしも」を考えて涙が出そうになるのを堪えながら。
(そしてそんな私の恐怖は、あの日、現実となったのです)
彼が自立を訴えてきた時に真っ先に思いついたのは、知らない間に最愛の女を見つけた彼が私を置いてここを出て行く、という可能性でした。そうでなければいきなり家を出て行きたいなんて言い出すとは到底思えなかったのです。
常に目を光らせていたといっても、私が教会を手伝っている間や彼が家を空けている間に何かがあったら、私には察知する事が出来ません。だから知らない間に既にユー君は最愛の女を見つけていたのだと私が勘違いしても、なんら不思議はないと思います。
(まぁ…それらはすべて私の早とちりだったわけですけれど……でもあれはユー君も悪いと思います)
私がユー君を好きになったのは、たぶん彼よりも早い段階だと思います。
常に私の後ろをついてきたかわいいユー君。私が少しでも見えなくなると泣いていたユー君。その癖、私が飛んで戻っていくと満面の笑顔で出迎えてくれるユー君。怖い夢を見たと泣いて私の部屋にくるユー君。私の体に顔を埋めて柔らかい表情で眠るユー君。髪を撫でると嬉しそうに頬を緩めるユー君。
ここまで私を必要としてくれる存在に、私は愛おしさを覚え、気づけば私自身にとってもユー君はなくてはならない存在となっていたのです。
自分の恋心に気づいてからは、必死に彼にアピールを続けていました。寝起きにキスをしたり、抱きついてみたり、匂いをつけてみたり、好意を告げてみたり、あの時みたいに裸になって横で眠ってみたり…にも関わらずユー君は、恥ずかしがるだけでそれ以上の反応を示さないのです。
いくら性に奔放な魔物娘とはいえ、私だって女の子です。女の子っていうのは、好きな人から愛を告げられて、それで抱いてもらうのを何よりの幸せとする存在なのです。だからこう、自分からモーションをかけつつもユー君からプロポーズされるのを期待していたりしたんですけれど…
(…まさか…あれが全部、姉弟のスキンシップだと思われていたのは想定外でした…)
一般の姉弟がどういう関係かは詳しく知りませんが、あそこまで過度なスキンシップは一般的な姉弟なら絶対にやらないと思います。私がしていた行動は、間違いなく、恋人に行うはずのものです。だから普通なら、あれが過度の愛情表現だと気づいてもおかしくはないと思うのです。
「ユー君の鈍さは異常です」
「え…リディア…?」
私だって一応はれっきとした魔物娘ですから、女としての魅力にはそれなりに自信があります。
胸は彼のものを包めるぐらいに大きいですし、腰のくびれには余計な肉がありません。少しお尻が大きいのが――彼はそんなお尻も好きだと言ってくれます――気にはなっていますが、すらっと伸びた脚がそれを帳消しにしてくれていると信じています。顔だって悪くないと思いますし、母譲りの長い銀髪は毎日手入れを欠かしていないのでサラサラなのがちょっとした自慢です。
だからこそ、あれだけ熱烈にアピールをしていたのにユー君が全然その気になってくれなかったのは、少し――実際はかなり――不安でした。
「もしもーし…あの、リディア…義姉さん?」
もしかしたら私の魅力は彼に届いていないのかもしれない。もしかしたら彼の思い人は私以上に素敵な女なのかもしれない。そんな事を考えるだけで、私の胸は押しつぶされそうに痛むのです。
けれど同時に、例え女としての魅力が他の誰かに劣っていたとしても、ユー君への愛だけは、誰にも負けないという自信もありました。
ユー君を世界で一番長く見ていたのは私なのです。つまりユー君の魅力を私以上に知る人なんて、この世にはいないのです。
「えーと、義姉さーん…聞こえてますかー…」
ユー君の魅力を私よりも理解していない、どこの誰とも知らない女に彼が取られるかもしれないと考えると、それがとても悲しくて…だからつい、あの時は我慢出来ずに、自分から襲ってしまったのです。本当はユー君から求められる方がよかったのですが、誰かに取られるぐらいなら私自身がユー君を奪ってしまって虜にしてしまった方が何倍もマシです。それに堕落神様もそんな考えに賛同してくださいましたし。
まあ、その甲斐あって、私は無事にユー君と結ばれたわけですけれども…キャッ♪
「あの…義姉さん…もしかして怒ってる…?」
「え?」
軽いトリップから思考を現実に戻すと、彼が不安そうにこちらを伺っていました。もしかしたら知らず知らずのうちに思っていた事が口に出たのかもしれません。愛する人を不安にさせてしまうなんて。お姉さん大失敗です。
「なんでもないですよぉ。ちょっと昔の事を思い出していただけです〜」
「そ、そう? 何か隠してない?」
「もちろんですよぉ〜私がユー君に隠し事をするなんて、あるわけないじゃないですかぁ」
「ならいいけど…何かあったらすぐに相談してね。僕が出来る事ならなんでもするから」
「うふふ、分かってますよぉ♪」
そう言って笑いながらも、彼を騙しているという事に私の良心のチクリと痛みます。
実は私は、彼に隠している事が一つだけあります。それは両親の失踪の理由と行き先です。
私の両親は万魔殿(パンデモニウム)にいます。本当はもう少しユー君が大きくなってから行く予定だったのですが――お母さんが我慢出来なかったようで――私に最低限の事だけ伝えるとそのまま二人は旅立ってしまいました。
愛する人とただ欲望のままに交わり続けたいという気持ちは痛いほど理解できますし、私にもそういう気持ちは少なからず存在します。だから私は突然告げられたそれを自然に受け止め、二人を送り出しました。
でも両親を失った傷のまだ癒えきっていなかったユー君は、親が情欲に任せて自分を置いていったという事を知れば、ショックを受けてしまう事でしょう。そこで私は彼がもう少し成長して私と共に堕ちきってくれるその日になるまでは、両親の行き先を隠しておこうと決めています。
いつか彼が、身も心も私に溺れて両親を失った傷も忘れた頃、私たち二人は互いに手を取り合って、万魔殿へと旅立つのです。無限に続く時間の中で、一匹の雄と雌の番となる至福の時は、きっと私たちに甘美な陶酔をもたらす違いありません。
だからそれまでは、私はそんな恍惚に満ちた未来に思いを馳せながら、今の生活を続けるのです。
(それにもう少し…この甘い新婚生活を続けたいっていう気持ちもありますし…♪)
「リディア、そろそろ出かける時間だけど、大丈夫?」
「あ〜、そうですねぇ。そろそろ出かけないとですね〜」
見れば彼は既に食事を終えていました。私は慌てて立ち上がり、食器を台所へと持っていきます。
「今日は何時くらいに帰ってくる予定ですかぁ?」
「んー…今日は少し帰りが遅いかもしれない」
私たちは互いに手を取って家を出ました。
私はそれが嬉しくて、彼の胸元に自分の匂いを残すように顔を擦り付けるのです。
「それでは今晩も腕によりをかけますから、楽しみにしていてくださいねぇ」
「うん、楽しみにしているよ、リディア」
「はい…あなた…♪」
私は今、とても幸せです。
11/09/26 11:26更新 / メガンテ