第四章 「Slapstick riot and first job」
「で、このざまか?」 (`д´*)
「…面目ない。」 (;´・ω・`)
今、午後8時…30分。そうライラと約束した時間を過ぎている。
そう俗に言う遅刻という事だ。夜間の警邏と考え、仮眠したのがまずかった。
昼を過ぎ、2時ごろに寝たのだが、起きると夜7時30分を回っていた。
当然寝ていた俺は着替えてもおらず、慌てて用意して出発した。
しかし、城の正門までは片道30分はかかる。挙句少し道に迷ってしまった俺は間に合わなかった。
結果遅刻した現在、俺はライラに睨まれている。
「さて、遅刻した理由を聞かせてもらおうか?場合によっては許してやろう。」
「……寝坊した。」
ミシッ
うそをついても仕方ないと思い、本当のことを言ったが、どうもミスだったらしい。
ライラの持つ錫杖が軋んだ音を立てる。顔も見てみると青筋が立っている。
「すまない。何かできることするから許してくれないか。」
慌てて言うと、錫杖から出るミシミシという音が止まった。
同時に後ろから何か倒れる音がした。振り返ると路地入口にあるごみ箱が倒れている。
なにやら、その路地からドスン、バタンという音がしているような……。
「……できることをするといったな?」
「……できることならな。」
重ねるように俺が言うと、ふむ、と言いながらライラは何か考え始める。
尻尾を少し振っているから機嫌も少しは良くなったのだろうか。
「…、仕方ない今回だけだ。次遅刻したら……。」
「…したら?」
「お前に呪いをかけて、そこに放置してやる。」
「……よくわかった。二度とやらないと誓おう。」
「ならいい。警邏する地域を教えるぞ。着いて来い。」
そう告げると俺は歩き始めたライラを追いかけるように歩き出した。
また、そんな俺たちの姿を見て、俺たちを追いかけ始めた影が複数あった。
「で、この通りは大通りからも外れていて、よく事件が起きるから注意しろ。」
「ふむふむ。なるほど。」 ((φ(・д・。)フムフム
警邏中、ライラの言葉を聞きながら手にした地図に書き込んでいく。
この時点で通ってきた場所のほとんどにチェックされているのだが、多過ぎだろう…。
「ここの路地もよく男が連れ込まれて、強姦されることがある。ここも注意だ。」
「男が強姦されるってなんか違和感があるが……。」
普通立場は逆だろうに…。そう言いつつもまた地図にチェックをつける。
夜間の警邏とはいえ、魔界は太陽がなく、いつも夜みたいなので昼夜はほとんど変わらない。
そのせいか通りには少なからず人がいて、一緒に居る人と談笑している。
ふとその中から視線を感じて横目で視線のする方を見てみると……。
( ´゚д゚) ジー (・ω| 本|
俺 |つ| 屋|
……あいつは何をしている?
本屋と書かれている看板の影に隠れるようにこちらを見る女性…レミリアがいた。
とは言ってもいつもの鎧ではなく、できるだけ地味な服をしているようだが…。
「どうかしたか?」
「…いや、なんでもない。」
ライラが不思議そうに聞いてくる。
言うほどのことでもないだろうし、レミリアの好きにさせておこう。
そう考えた俺はレミリアを無視して歩き出した。
ふふふ。逃がさんぞ。
私以外にも彼女たちがあらゆる方面から監視しているから見失うことはないだろう。
私はライラたちを見逃さないようにしながらも懐から小さな水晶玉を取り出す。
これは魔術を応用した遠距離通話用の水晶だ。小さい物なら転送もできる優れものだ。
「リリィ、そちらはどうだ?」
『特に変わりないです。』
私が話しかけると水晶からリリィの声が聞こえる。それを確認して、私は報告する。
「対象は中央広場南の路地を南に進んでいる。」
『こちらも確認した。引き続き尾行頼む。』
「わかっている。」
抜け駆けはさせんぞ、ライラ。リズの声を聴きながら私はくくく、と笑い、尾行を続ける。
余談であるが、レミリアはこの都市の騎士団長として有名である。
そんなな彼女がこんなことを本屋の看板に隠れながらしているのを見て、周囲の人が彼女のことを誤解してしまったのは当然であった。
後日、そんな誤解をもとに広まった噂をなくすことに彼女は苦労したそうな……。
「さて、回るべきところはこんなものだな。」
「なかなか広かったな。」
警邏地域をし終えるころにはもう夜12時を回っていた。
その間にレミリアの他にもこっちを見ている2人の女性を俺は見つけた。
一人目はどうやっているのかわからないが、屋根の上からこちらを見ているリリィ。
もう一人はリザだ。レミリアとは別の道から隠れもせず一定の距離を保ってついてきていた。
ライラはなぜ気づかないんだろうか。
「じゃあ今日の仕事はこれで終わりだな「待て!」」
帰ろうとする俺の腕はライラは掴む。
その肉球のある黒い毛で覆われた手で逃がさないぞと言わんばかりに握りしめていた。
「…何をする?」
「決まっているだろう。今日の遅刻の詫びに何でもしてくれると言っていたではないか。」
「確かに言ったが、あくまで俺にできることだけだぞ。」
「なら大丈夫だ。問題ない。」 テクテク(゜ω゜ )つ( ゚Д゚ ) ズルズル
首根っこをつかまれ、そのままどこかへ引きずられていく。
何故か、デジャビュを感じるのだが…。
「さて着いたぞ。」
「ここって?」
止まった場所は2階建ての建物だ。入り口には[Lyla=Amir]と書かれてた札が架けてある。
「私の家だ。」
ライラに目で確認すると彼女は誇るように言った。
表札がかけられているからそうなのだろうが、問題は何のために連れてきたのかだ…。
それを聞くために俺は慎まやかな胸(レミリアたちと比べてだが…)を張っているライラに話しかける。
「で?なぜここに連れてきた?」
「………ここで話すのはちょっとな…。とりあえず上がってくれ。」
「そうだな。お邪魔させてもらうか。」
ライラがカギを開け、俺を招き入れる。そして玄関の扉が閉まると俺はライラに聞いた。
「で?何をしたらいいんだ?」
「うむ。実はな…。」
ライラが俺の耳元で言った内容に俺は少なからず驚いた。
その様子を見ていた私は慌てて通信する。
「リリィ!リズ!緊急事態だ!」
『何があったんですか!』
「アキラがライラの家に入っていった!」
『何ですって!?』
「早く来てくれ!私は先に潜入する!」
『わかりました!こちらもすぐ合流します!』
彼らがライラの家に入って少し経った。
私も魔術で姿を隠しながら家に侵入したが彼らの姿はない。いったい、どこにいる?
「…で……だか………」
「ふ…………かた……」
そうこうしていると奥の部屋から声が聞こえてきた。近づいていくとどうやら風呂場らしい。
足を忍ばせて、会話を聞こうと脱衣所で耳を澄ませた。
「そう、そこだ。そこにいれろ。」
「し、しかしこんな大きなものがはいるのか?」
「やってみればわかる。しかし注意しろ。」
「キャウン!!」
「だから言ったろう…、大丈夫か?」
「ハァ…ハァ…大、丈夫だ…。」
「無茶するな。あと少しで終わりだ。」
「わ、わかってる。う、動かすぞ。」
「ああ。ゆっくりだぞ…。」
ま、まさか…。風呂場でするとはマニアックな!私も混ぜろ……ではなく、止めなければ!
そう考えると私は勢いよく扉を開けた。
バンッ!!
「そんなところで何をしてる!」
「きゃうん!!」
「うぉ!!な!何だ!」
私が彼らを止めるために扉を開けると…そこは想像した通り風呂場だった。
ただシャワーの下側のパネルが外されて、水道管と何かの器具が露出していている。
風呂場に座っている二人は工具を持って、外したパネルを覗き込むようにしていた。
アキラはこっちを見て驚いた顔を、ライラは恨めし気な顔を私に向けていた。
その二人は水道管から噴き出た水でびしょびしょだった…。
その後、その場を片付けた俺はリビングに戻った。
リビングにはすでに戻っていたライラと逃げないように縄で縛られているレミリアがいた。
「…聞きたいのだが?二人はあそこで何をしてたんだ?」
「ん?ああ。警邏が終わった後に、ライラに頼みごとをされたんだ。
どうも家のシャワーの調子が悪いから見てくれとな。ライラが機械苦手と知って少し驚いたが…。」
「う、うるさい。誰だって苦手なものくらいあるだろう!」 ((( ̄へ ̄ ) プイッ
ライラが恥ずかしそうに顔を背けるのを見て俺は苦笑する。
一見何でもできそうに見えていたので驚いただけなのだが…。
「……話を続けるぞ。それで見てみたんだが、大した故障ではなかった。
幸い、工具はあったから俺が教えながらライラに修理をさせてたんだが…。」
チラッとレミリアの方に目を向けると彼女は申し訳なさそうに下を向いた。
「さてと団長?あなたはなぜここにいるのでしょうか?」
「えーと…それはだなぁ…。」
「「レミリアさん!状況は!」「団長!来たぞ!」
アイリーンが言おうとした瞬間、玄関が開き、リリィとリズが入ってきた。
「なるほど…。お前らも共犯か……。」
『……。』
こっちを見て状況が分かったのか、リリィとリズが逃げようと後ろを向くのとライラが錫杖を振り上げて呪いをかけるのはほぼ同時だった。
「ふぅ…。」
俺はライラに言われた2階の部屋のベッドに寝ていた。
あの後、彼女らは拘束され、ちょっとした罰を与えると言ってライラが連れて行った。
手荒な真似はしないように言ったから大丈夫だろう……たぶん……。
今日はいろいろあって疲れていた俺は寝ることにした。
「……寝すぎたな。」
前日、寝たのが遅かったせいか、起きて横の窓を見るとすでに日は登りきっていた。
明らかに寝坊だな…。そう思いつつ、体を起こそうとしたが何かが腕に乗っているようだ。
俺の身体にかかっている布団からは犬耳が出ている。
めくってみるとやはりというべきか、ライラが俺の腕を枕に寝ていた。
「おい、起きろ…。」
話しかけるとライラは耳をピクピクさせ、目を開ける。
「む。起きたか。朝起こしに来ても起きなかったから寝てしまったではないか。」
「それは俺のせいか?」
「当然だ。あんな寝顔をしてるお前が悪い。」
ふわぁとあくびをして体を起こす。寝ていたせいか服が乱れ、胸が少し見えている。
そんな格好しているとわかっていないのか、そのまま話し始めた。
「むぅ、もうこんな時間か。食材はあるから昼食を食べていくか?」
「そうだな。ではお言葉に甘えていただこうかな。」
「ではリビングにいる彼女たちも起こしてくれ。」
「彼女たち?」
「ああ、おそらくまだ寝ているだろうからな。その間に作っておく。」
「わかった。」
階段を下りてリビングに行くとそこはひどい光景だった。
昨日何をされたのかわからないが、思い思いの場所に寝そべってぐったりとしていた。
「どんな罰だったんだ? …おーい。生きているか?」
「うぅ、もうやめてくれ……。」
「…そこはぁ…」
少しゆすると呻いてた彼女たちは起き出した。顔を洗って来いというと危なっかしい足取りで洗面所に向かっていった。洗面所に行くのを見届け、ライラを手伝おうとキッチンに向かった。
キッチンのカウンターにはサラダ、そしてパンがすでに用意してあった。
ライラはスクランブルエッグを作っているようだ。
「あいつら起こしたぞ。」
「ありがとう。こっちもそろそろできるから待っててくれ。」
できた料理をリビングに持っていくと顔を洗ってきた彼女たちが待っていた。
大きめの机に並べると各人思い思いの場所に座っている。
「ではみな揃ったから食べるか。」
レミリアが言うと各々自分の前にある取り皿に必要な量取って食べ始める。
「それでアキラ今日はどうするんだ?」
「どうとは?」
「いや、何かする予定あるのかと思ってな。」
食べ終わった後、レミリアが聞いてくる。
「そうだな。ひさしぶりに体を動かそうと思ってる。3日も寝ていたからな。」
「なら私とやるぞ!!」
俺が言うとガタンッと椅子を倒しながらリズが立ち上がる。
その眼はすでに戦う気満々で俺を見てくる。
「断っても無駄そうだな。」
「当り前だ。お前と戦うのを今まで我慢してたのだからな。」
「それはすまなかった。では早速やろうか。」
「望むところだ。」
「ライラ、どこか近くに広い場所はあるか?」
「裏の庭がある。そこなら十分な広さがあるぞ。」
ライラが言うのを聞いて、俺が玄関に向かうとリズが大剣を持って着いて来る。
言っていたその裏庭は言葉通り大きめの家が一軒建つくらいの広さがあった。
俺は庭の向こう側に歩いき、ある程度距離を離して俺とリズは向き合った。
「ここなら問題ないな。」
「ああ、お前の武器はどうした?」
リズは大剣を構えると聞いてきた。俺は考え、武器を召喚する。
選んだのはリズと同じような幅広の大剣だ。
俺が何をしたのかわからないのだろう。リズは驚いた顔をしている。
「…グラム【龍隣貫く死の刃】…」
「そう言えば団長と戦っていたときも出していたな!どうやって出したんだ!」
「これについてはリリィかレミリアに聞いてくれ。何度も説明するのが面倒なのでな…。
あと安心しろ。この戦いでは俺はこの剣しか使わん。」
俺はそう言いながら体を半身にして、片手でグラムを構える。
後ろでは俺の能力を知らないライラにリリィとレミリアが説明しているのが見えた。
「ふざけるな!手加減のつもりか!?」
「そうではない。だが、あの時とは目的が違うのでな。」
「いいだろう!お前の実力を出させてやろうではないか!ライラ、合図を!」
憤慨したリズが言うとライラは話を中断し、腰の袋からコインを出し指で宙にはじく。
コインが地面に落ちた瞬間、リズは一直線にこちらに向かってきた。
リズは自分の間合いに入ると俺にその剣を振り下してくる。
その振り下される剣を体の軸をずらすことで躱す。
しかし、彼女は持ち前の力で振り下した剣を強引に横薙ぎに変化させてきた。
それを剣で受け、同時に後方に跳ぶことで威力を殺しつつ、彼女と距離を取る。
「さすが魔物だな。途中で剣筋を変えるとは…。人間にはできないな。」
「お前こそ、さすが団長とやりあっただけあるな!あんな躱し方されたのは初めてだ!」
「大剣との戦い方はよく知っているからな。」
当然だ。じいさんとは大剣を使って頻繁に手合わせしてた。
「だが今はそんなことはどうでもいい!ようやく私と同等に戦える男がいたのだからな!」
「そうか。今度は俺から行くぞ!」
今度は俺から向かい、興奮してるのか、尻尾を激しく揺らしているリズにグラムを振り下す。
リズはそれを弾きつつ、突きを放つ。空いている左手の甲で剣先を殴り、突きの軌道をずらす。
振り下ろしたグラムと横薙ぎに振るわれた大剣がぶつかり、鍔迫り合いの体勢になる。
ギリギリッと音を立てているが、少しずつ押されている。
さすがは魔物というべきか、力はリズの方が上のようだ……!
「どうしたアキラ!押されているじゃないか!」
リズの方は余裕そうに話しかけるが、俺は答えられる状態ではない!
このままではまずいと思った俺は力を抜き、リズの力に逆らわないように受け流す。
受け流した形のまま、柄で彼女の肘を打つことで隙を作り、距離を取る。
「痛いじゃないか、アキラ。」
「手加減できる状況じゃなかったからな。」
「そうか。うれしいぞ。こんな戦いができて!」
「そうか…。しかしこれで終わらせる。」
「何?」
「次で終わらせると言ったんだ。」
そう言うと俺は両手は下げ、その場で足を開き、腰を少し落とした。
自分の鈍り具合を確かめるにはこれは最適だった。間違えれば死ぬだろうが……。
「何だ?その構えは?」
「来ればわかるさ…。」
この技はあくまで返し技だ。リズから来てくれなければ意味がない。
そこでリズからこっちに向かってくれるようにするため、少し挑発する。
「いいだろう。ではその技を正面から破ってやる!」
挑発に乗ったのか、リズはそう告げると足に力を溜めながら大剣を構えた。
「行くぞ!」
リズが剣を振り上げ、駆けて来ながら俺目掛けて剣を振り下す!
俺は振り下してきた剣先に合わせ、左腕を構える。
彼女はそれを見ても止める様子無く振り切った。
ドンッ!
「…終わりだな…。」
「…ああ、私の負けだな…。」
勝負はついていた。彼女の剣を俺は左手の二本の指で挟むように止めていた。
そして空いている右手でリズの喉元にグラムが突きつけていた。
彼女が負けを認めると俺はグラムを消した。
ふと、リズを見るとなぜか興奮したようにそして息を荒げている。
心配になった俺が声をかけようと近づくとリズはいきなり飛びついて来た。
飛び掛かってきたリズを避けれなかった俺はリズに馬乗りになっていた。
「なぁ!今のってどうやったの!教えて!」
「と、とりあえず上からどいてくれ。」
「ああ!わかった!!」
上からどくとリズはを金色の目輝かせて、そこに座った。
まだ戦いの興奮が続いているのか、尻尾を激しく振っている。
そんな彼女に俺は何をしたか、話し始めた。
「さっき俺がいた地面を見てみろ。それが答えだ。」
「足があった付近がへこんでいるな。」
そう、俺の両足があった地面に二つの浅いクレーターができていた。
しかも地面が砕けているのではなく、粉状に粉砕されていた。
普通、こんな状態にはならないだろう。
「俺が使った技は震砕脚という技だ。この技は体への衝撃を地面に逃がすことができる。」
「へぇ〜。だから地面はこうなったのか!」
……本当はこんなにはならないのだがな。
それだけリズから受けた衝撃が大きかったという事だろうな。
そんなことを思っていると興奮が幾分収まったリズは俺に近寄ってきた。
「すごいな。さすがというべきk「…いや…そうとも言えない。」」
「??どういうことだ?」
剣を受け止めた左手の中指と人差し指をリズに見せた。その指の間に小さい傷がある。
「小さい傷があるな。それがどうしたんだ?」
「こんな傷がついているってことは衝撃をうまく逃がせてないってことだ。
正確に言えば目で見えていても反応が遅れているってことだ。」
「??つまりどういうことだ?」
「俺の体は想像以上に鈍っているという事だ。この技を失敗するほどにな。」
そう、3日も寝ていたことで想像以上に体が鈍っているのだろう…。
なんとかして以前の状態に戻さなければならないな………。
そう考えている間にどうやら俺はリズに話しかけられていたようだ。
「…おい、聞いてるか?」
「ん?ああ、すまん。考え事をしてたので聞いてなかった。」
「ちゃんと聞いてくれよ。もう一度言うぞ。毎日私と戦ってくれないか?」
「ああ。構わんぞ。俺としても願ってもないことだ。」
早めに体の感覚を取り戻したい俺としても毎日戦えることは好ましい。
了承するとリズは嬉しそうに抱きついてきた。
「これからよろしくな。旦那様♪」
「………待て、旦那様って何だ?」
「リザードマンについて知らないのか?」
「いや。戦闘技術に秀でた種族ということは知っているが。」
「大事なことが抜けているな。リザードマンは負けた男に生涯尽くすんだ。」
「……何だと?」
「つまり負けた男の妻になるという事だ。という訳でこれから末永くよろしくな♪」
「待て…。俺は結婚する気はないぞ。」
「そんなこと言うなよ♪旦那様ぁ〜」
そう言ってさらにギュッと抱きついているリズの首に剣と錫杖が突きつけられていた。
突きつけていたのはレミリア、リリィ、ライラだった。
「……邪魔しないでください。」
「そうはさせん!」「隊長はだれにも渡しませんよ!」「アキラはだれにも渡さん!」
俺を囲みながら4人がにらみ合う。そのうち斬り合いでも発展しそうだった。
俺はため息をつきながら止めるために声をかけようとした。
「おい、お前t「団長〜!大変です〜!」」
俺が話しかけようとした瞬間、空からハーピーが叫びながら下りてきていた。
「どうした!何があった!」
「そ、それが…。この都市の近くに武装した人間が来てるんです!」
『な!何だと!!』
その報告に驚いたレミリアたちの声が魔界特有の空に響き渡った。
「…面目ない。」 (;´・ω・`)
今、午後8時…30分。そうライラと約束した時間を過ぎている。
そう俗に言う遅刻という事だ。夜間の警邏と考え、仮眠したのがまずかった。
昼を過ぎ、2時ごろに寝たのだが、起きると夜7時30分を回っていた。
当然寝ていた俺は着替えてもおらず、慌てて用意して出発した。
しかし、城の正門までは片道30分はかかる。挙句少し道に迷ってしまった俺は間に合わなかった。
結果遅刻した現在、俺はライラに睨まれている。
「さて、遅刻した理由を聞かせてもらおうか?場合によっては許してやろう。」
「……寝坊した。」
ミシッ
うそをついても仕方ないと思い、本当のことを言ったが、どうもミスだったらしい。
ライラの持つ錫杖が軋んだ音を立てる。顔も見てみると青筋が立っている。
「すまない。何かできることするから許してくれないか。」
慌てて言うと、錫杖から出るミシミシという音が止まった。
同時に後ろから何か倒れる音がした。振り返ると路地入口にあるごみ箱が倒れている。
なにやら、その路地からドスン、バタンという音がしているような……。
「……できることをするといったな?」
「……できることならな。」
重ねるように俺が言うと、ふむ、と言いながらライラは何か考え始める。
尻尾を少し振っているから機嫌も少しは良くなったのだろうか。
「…、仕方ない今回だけだ。次遅刻したら……。」
「…したら?」
「お前に呪いをかけて、そこに放置してやる。」
「……よくわかった。二度とやらないと誓おう。」
「ならいい。警邏する地域を教えるぞ。着いて来い。」
そう告げると俺は歩き始めたライラを追いかけるように歩き出した。
また、そんな俺たちの姿を見て、俺たちを追いかけ始めた影が複数あった。
「で、この通りは大通りからも外れていて、よく事件が起きるから注意しろ。」
「ふむふむ。なるほど。」 ((φ(・д・。)フムフム
警邏中、ライラの言葉を聞きながら手にした地図に書き込んでいく。
この時点で通ってきた場所のほとんどにチェックされているのだが、多過ぎだろう…。
「ここの路地もよく男が連れ込まれて、強姦されることがある。ここも注意だ。」
「男が強姦されるってなんか違和感があるが……。」
普通立場は逆だろうに…。そう言いつつもまた地図にチェックをつける。
夜間の警邏とはいえ、魔界は太陽がなく、いつも夜みたいなので昼夜はほとんど変わらない。
そのせいか通りには少なからず人がいて、一緒に居る人と談笑している。
ふとその中から視線を感じて横目で視線のする方を見てみると……。
( ´゚д゚) ジー (・ω| 本|
俺 |つ| 屋|
……あいつは何をしている?
本屋と書かれている看板の影に隠れるようにこちらを見る女性…レミリアがいた。
とは言ってもいつもの鎧ではなく、できるだけ地味な服をしているようだが…。
「どうかしたか?」
「…いや、なんでもない。」
ライラが不思議そうに聞いてくる。
言うほどのことでもないだろうし、レミリアの好きにさせておこう。
そう考えた俺はレミリアを無視して歩き出した。
ふふふ。逃がさんぞ。
私以外にも彼女たちがあらゆる方面から監視しているから見失うことはないだろう。
私はライラたちを見逃さないようにしながらも懐から小さな水晶玉を取り出す。
これは魔術を応用した遠距離通話用の水晶だ。小さい物なら転送もできる優れものだ。
「リリィ、そちらはどうだ?」
『特に変わりないです。』
私が話しかけると水晶からリリィの声が聞こえる。それを確認して、私は報告する。
「対象は中央広場南の路地を南に進んでいる。」
『こちらも確認した。引き続き尾行頼む。』
「わかっている。」
抜け駆けはさせんぞ、ライラ。リズの声を聴きながら私はくくく、と笑い、尾行を続ける。
余談であるが、レミリアはこの都市の騎士団長として有名である。
そんなな彼女がこんなことを本屋の看板に隠れながらしているのを見て、周囲の人が彼女のことを誤解してしまったのは当然であった。
後日、そんな誤解をもとに広まった噂をなくすことに彼女は苦労したそうな……。
「さて、回るべきところはこんなものだな。」
「なかなか広かったな。」
警邏地域をし終えるころにはもう夜12時を回っていた。
その間にレミリアの他にもこっちを見ている2人の女性を俺は見つけた。
一人目はどうやっているのかわからないが、屋根の上からこちらを見ているリリィ。
もう一人はリザだ。レミリアとは別の道から隠れもせず一定の距離を保ってついてきていた。
ライラはなぜ気づかないんだろうか。
「じゃあ今日の仕事はこれで終わりだな「待て!」」
帰ろうとする俺の腕はライラは掴む。
その肉球のある黒い毛で覆われた手で逃がさないぞと言わんばかりに握りしめていた。
「…何をする?」
「決まっているだろう。今日の遅刻の詫びに何でもしてくれると言っていたではないか。」
「確かに言ったが、あくまで俺にできることだけだぞ。」
「なら大丈夫だ。問題ない。」 テクテク(゜ω゜ )つ( ゚Д゚ ) ズルズル
首根っこをつかまれ、そのままどこかへ引きずられていく。
何故か、デジャビュを感じるのだが…。
「さて着いたぞ。」
「ここって?」
止まった場所は2階建ての建物だ。入り口には[Lyla=Amir]と書かれてた札が架けてある。
「私の家だ。」
ライラに目で確認すると彼女は誇るように言った。
表札がかけられているからそうなのだろうが、問題は何のために連れてきたのかだ…。
それを聞くために俺は慎まやかな胸(レミリアたちと比べてだが…)を張っているライラに話しかける。
「で?なぜここに連れてきた?」
「………ここで話すのはちょっとな…。とりあえず上がってくれ。」
「そうだな。お邪魔させてもらうか。」
ライラがカギを開け、俺を招き入れる。そして玄関の扉が閉まると俺はライラに聞いた。
「で?何をしたらいいんだ?」
「うむ。実はな…。」
ライラが俺の耳元で言った内容に俺は少なからず驚いた。
その様子を見ていた私は慌てて通信する。
「リリィ!リズ!緊急事態だ!」
『何があったんですか!』
「アキラがライラの家に入っていった!」
『何ですって!?』
「早く来てくれ!私は先に潜入する!」
『わかりました!こちらもすぐ合流します!』
彼らがライラの家に入って少し経った。
私も魔術で姿を隠しながら家に侵入したが彼らの姿はない。いったい、どこにいる?
「…で……だか………」
「ふ…………かた……」
そうこうしていると奥の部屋から声が聞こえてきた。近づいていくとどうやら風呂場らしい。
足を忍ばせて、会話を聞こうと脱衣所で耳を澄ませた。
「そう、そこだ。そこにいれろ。」
「し、しかしこんな大きなものがはいるのか?」
「やってみればわかる。しかし注意しろ。」
「キャウン!!」
「だから言ったろう…、大丈夫か?」
「ハァ…ハァ…大、丈夫だ…。」
「無茶するな。あと少しで終わりだ。」
「わ、わかってる。う、動かすぞ。」
「ああ。ゆっくりだぞ…。」
ま、まさか…。風呂場でするとはマニアックな!私も混ぜろ……ではなく、止めなければ!
そう考えると私は勢いよく扉を開けた。
バンッ!!
「そんなところで何をしてる!」
「きゃうん!!」
「うぉ!!な!何だ!」
私が彼らを止めるために扉を開けると…そこは想像した通り風呂場だった。
ただシャワーの下側のパネルが外されて、水道管と何かの器具が露出していている。
風呂場に座っている二人は工具を持って、外したパネルを覗き込むようにしていた。
アキラはこっちを見て驚いた顔を、ライラは恨めし気な顔を私に向けていた。
その二人は水道管から噴き出た水でびしょびしょだった…。
その後、その場を片付けた俺はリビングに戻った。
リビングにはすでに戻っていたライラと逃げないように縄で縛られているレミリアがいた。
「…聞きたいのだが?二人はあそこで何をしてたんだ?」
「ん?ああ。警邏が終わった後に、ライラに頼みごとをされたんだ。
どうも家のシャワーの調子が悪いから見てくれとな。ライラが機械苦手と知って少し驚いたが…。」
「う、うるさい。誰だって苦手なものくらいあるだろう!」 ((( ̄へ ̄ ) プイッ
ライラが恥ずかしそうに顔を背けるのを見て俺は苦笑する。
一見何でもできそうに見えていたので驚いただけなのだが…。
「……話を続けるぞ。それで見てみたんだが、大した故障ではなかった。
幸い、工具はあったから俺が教えながらライラに修理をさせてたんだが…。」
チラッとレミリアの方に目を向けると彼女は申し訳なさそうに下を向いた。
「さてと団長?あなたはなぜここにいるのでしょうか?」
「えーと…それはだなぁ…。」
「「レミリアさん!状況は!」「団長!来たぞ!」
アイリーンが言おうとした瞬間、玄関が開き、リリィとリズが入ってきた。
「なるほど…。お前らも共犯か……。」
『……。』
こっちを見て状況が分かったのか、リリィとリズが逃げようと後ろを向くのとライラが錫杖を振り上げて呪いをかけるのはほぼ同時だった。
「ふぅ…。」
俺はライラに言われた2階の部屋のベッドに寝ていた。
あの後、彼女らは拘束され、ちょっとした罰を与えると言ってライラが連れて行った。
手荒な真似はしないように言ったから大丈夫だろう……たぶん……。
今日はいろいろあって疲れていた俺は寝ることにした。
「……寝すぎたな。」
前日、寝たのが遅かったせいか、起きて横の窓を見るとすでに日は登りきっていた。
明らかに寝坊だな…。そう思いつつ、体を起こそうとしたが何かが腕に乗っているようだ。
俺の身体にかかっている布団からは犬耳が出ている。
めくってみるとやはりというべきか、ライラが俺の腕を枕に寝ていた。
「おい、起きろ…。」
話しかけるとライラは耳をピクピクさせ、目を開ける。
「む。起きたか。朝起こしに来ても起きなかったから寝てしまったではないか。」
「それは俺のせいか?」
「当然だ。あんな寝顔をしてるお前が悪い。」
ふわぁとあくびをして体を起こす。寝ていたせいか服が乱れ、胸が少し見えている。
そんな格好しているとわかっていないのか、そのまま話し始めた。
「むぅ、もうこんな時間か。食材はあるから昼食を食べていくか?」
「そうだな。ではお言葉に甘えていただこうかな。」
「ではリビングにいる彼女たちも起こしてくれ。」
「彼女たち?」
「ああ、おそらくまだ寝ているだろうからな。その間に作っておく。」
「わかった。」
階段を下りてリビングに行くとそこはひどい光景だった。
昨日何をされたのかわからないが、思い思いの場所に寝そべってぐったりとしていた。
「どんな罰だったんだ? …おーい。生きているか?」
「うぅ、もうやめてくれ……。」
「…そこはぁ…」
少しゆすると呻いてた彼女たちは起き出した。顔を洗って来いというと危なっかしい足取りで洗面所に向かっていった。洗面所に行くのを見届け、ライラを手伝おうとキッチンに向かった。
キッチンのカウンターにはサラダ、そしてパンがすでに用意してあった。
ライラはスクランブルエッグを作っているようだ。
「あいつら起こしたぞ。」
「ありがとう。こっちもそろそろできるから待っててくれ。」
できた料理をリビングに持っていくと顔を洗ってきた彼女たちが待っていた。
大きめの机に並べると各人思い思いの場所に座っている。
「ではみな揃ったから食べるか。」
レミリアが言うと各々自分の前にある取り皿に必要な量取って食べ始める。
「それでアキラ今日はどうするんだ?」
「どうとは?」
「いや、何かする予定あるのかと思ってな。」
食べ終わった後、レミリアが聞いてくる。
「そうだな。ひさしぶりに体を動かそうと思ってる。3日も寝ていたからな。」
「なら私とやるぞ!!」
俺が言うとガタンッと椅子を倒しながらリズが立ち上がる。
その眼はすでに戦う気満々で俺を見てくる。
「断っても無駄そうだな。」
「当り前だ。お前と戦うのを今まで我慢してたのだからな。」
「それはすまなかった。では早速やろうか。」
「望むところだ。」
「ライラ、どこか近くに広い場所はあるか?」
「裏の庭がある。そこなら十分な広さがあるぞ。」
ライラが言うのを聞いて、俺が玄関に向かうとリズが大剣を持って着いて来る。
言っていたその裏庭は言葉通り大きめの家が一軒建つくらいの広さがあった。
俺は庭の向こう側に歩いき、ある程度距離を離して俺とリズは向き合った。
「ここなら問題ないな。」
「ああ、お前の武器はどうした?」
リズは大剣を構えると聞いてきた。俺は考え、武器を召喚する。
選んだのはリズと同じような幅広の大剣だ。
俺が何をしたのかわからないのだろう。リズは驚いた顔をしている。
「…グラム【龍隣貫く死の刃】…」
「そう言えば団長と戦っていたときも出していたな!どうやって出したんだ!」
「これについてはリリィかレミリアに聞いてくれ。何度も説明するのが面倒なのでな…。
あと安心しろ。この戦いでは俺はこの剣しか使わん。」
俺はそう言いながら体を半身にして、片手でグラムを構える。
後ろでは俺の能力を知らないライラにリリィとレミリアが説明しているのが見えた。
「ふざけるな!手加減のつもりか!?」
「そうではない。だが、あの時とは目的が違うのでな。」
「いいだろう!お前の実力を出させてやろうではないか!ライラ、合図を!」
憤慨したリズが言うとライラは話を中断し、腰の袋からコインを出し指で宙にはじく。
コインが地面に落ちた瞬間、リズは一直線にこちらに向かってきた。
リズは自分の間合いに入ると俺にその剣を振り下してくる。
その振り下される剣を体の軸をずらすことで躱す。
しかし、彼女は持ち前の力で振り下した剣を強引に横薙ぎに変化させてきた。
それを剣で受け、同時に後方に跳ぶことで威力を殺しつつ、彼女と距離を取る。
「さすが魔物だな。途中で剣筋を変えるとは…。人間にはできないな。」
「お前こそ、さすが団長とやりあっただけあるな!あんな躱し方されたのは初めてだ!」
「大剣との戦い方はよく知っているからな。」
当然だ。じいさんとは大剣を使って頻繁に手合わせしてた。
「だが今はそんなことはどうでもいい!ようやく私と同等に戦える男がいたのだからな!」
「そうか。今度は俺から行くぞ!」
今度は俺から向かい、興奮してるのか、尻尾を激しく揺らしているリズにグラムを振り下す。
リズはそれを弾きつつ、突きを放つ。空いている左手の甲で剣先を殴り、突きの軌道をずらす。
振り下ろしたグラムと横薙ぎに振るわれた大剣がぶつかり、鍔迫り合いの体勢になる。
ギリギリッと音を立てているが、少しずつ押されている。
さすがは魔物というべきか、力はリズの方が上のようだ……!
「どうしたアキラ!押されているじゃないか!」
リズの方は余裕そうに話しかけるが、俺は答えられる状態ではない!
このままではまずいと思った俺は力を抜き、リズの力に逆らわないように受け流す。
受け流した形のまま、柄で彼女の肘を打つことで隙を作り、距離を取る。
「痛いじゃないか、アキラ。」
「手加減できる状況じゃなかったからな。」
「そうか。うれしいぞ。こんな戦いができて!」
「そうか…。しかしこれで終わらせる。」
「何?」
「次で終わらせると言ったんだ。」
そう言うと俺は両手は下げ、その場で足を開き、腰を少し落とした。
自分の鈍り具合を確かめるにはこれは最適だった。間違えれば死ぬだろうが……。
「何だ?その構えは?」
「来ればわかるさ…。」
この技はあくまで返し技だ。リズから来てくれなければ意味がない。
そこでリズからこっちに向かってくれるようにするため、少し挑発する。
「いいだろう。ではその技を正面から破ってやる!」
挑発に乗ったのか、リズはそう告げると足に力を溜めながら大剣を構えた。
「行くぞ!」
リズが剣を振り上げ、駆けて来ながら俺目掛けて剣を振り下す!
俺は振り下してきた剣先に合わせ、左腕を構える。
彼女はそれを見ても止める様子無く振り切った。
ドンッ!
「…終わりだな…。」
「…ああ、私の負けだな…。」
勝負はついていた。彼女の剣を俺は左手の二本の指で挟むように止めていた。
そして空いている右手でリズの喉元にグラムが突きつけていた。
彼女が負けを認めると俺はグラムを消した。
ふと、リズを見るとなぜか興奮したようにそして息を荒げている。
心配になった俺が声をかけようと近づくとリズはいきなり飛びついて来た。
飛び掛かってきたリズを避けれなかった俺はリズに馬乗りになっていた。
「なぁ!今のってどうやったの!教えて!」
「と、とりあえず上からどいてくれ。」
「ああ!わかった!!」
上からどくとリズはを金色の目輝かせて、そこに座った。
まだ戦いの興奮が続いているのか、尻尾を激しく振っている。
そんな彼女に俺は何をしたか、話し始めた。
「さっき俺がいた地面を見てみろ。それが答えだ。」
「足があった付近がへこんでいるな。」
そう、俺の両足があった地面に二つの浅いクレーターができていた。
しかも地面が砕けているのではなく、粉状に粉砕されていた。
普通、こんな状態にはならないだろう。
「俺が使った技は震砕脚という技だ。この技は体への衝撃を地面に逃がすことができる。」
「へぇ〜。だから地面はこうなったのか!」
……本当はこんなにはならないのだがな。
それだけリズから受けた衝撃が大きかったという事だろうな。
そんなことを思っていると興奮が幾分収まったリズは俺に近寄ってきた。
「すごいな。さすがというべきk「…いや…そうとも言えない。」」
「??どういうことだ?」
剣を受け止めた左手の中指と人差し指をリズに見せた。その指の間に小さい傷がある。
「小さい傷があるな。それがどうしたんだ?」
「こんな傷がついているってことは衝撃をうまく逃がせてないってことだ。
正確に言えば目で見えていても反応が遅れているってことだ。」
「??つまりどういうことだ?」
「俺の体は想像以上に鈍っているという事だ。この技を失敗するほどにな。」
そう、3日も寝ていたことで想像以上に体が鈍っているのだろう…。
なんとかして以前の状態に戻さなければならないな………。
そう考えている間にどうやら俺はリズに話しかけられていたようだ。
「…おい、聞いてるか?」
「ん?ああ、すまん。考え事をしてたので聞いてなかった。」
「ちゃんと聞いてくれよ。もう一度言うぞ。毎日私と戦ってくれないか?」
「ああ。構わんぞ。俺としても願ってもないことだ。」
早めに体の感覚を取り戻したい俺としても毎日戦えることは好ましい。
了承するとリズは嬉しそうに抱きついてきた。
「これからよろしくな。旦那様♪」
「………待て、旦那様って何だ?」
「リザードマンについて知らないのか?」
「いや。戦闘技術に秀でた種族ということは知っているが。」
「大事なことが抜けているな。リザードマンは負けた男に生涯尽くすんだ。」
「……何だと?」
「つまり負けた男の妻になるという事だ。という訳でこれから末永くよろしくな♪」
「待て…。俺は結婚する気はないぞ。」
「そんなこと言うなよ♪旦那様ぁ〜」
そう言ってさらにギュッと抱きついているリズの首に剣と錫杖が突きつけられていた。
突きつけていたのはレミリア、リリィ、ライラだった。
「……邪魔しないでください。」
「そうはさせん!」「隊長はだれにも渡しませんよ!」「アキラはだれにも渡さん!」
俺を囲みながら4人がにらみ合う。そのうち斬り合いでも発展しそうだった。
俺はため息をつきながら止めるために声をかけようとした。
「おい、お前t「団長〜!大変です〜!」」
俺が話しかけようとした瞬間、空からハーピーが叫びながら下りてきていた。
「どうした!何があった!」
「そ、それが…。この都市の近くに武装した人間が来てるんです!」
『な!何だと!!』
その報告に驚いたレミリアたちの声が魔界特有の空に響き渡った。
11/10/04 13:47更新 / まるぼろ
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