第三章 「New town and meeting new people」
「……リリィ?何をしている?」
朝起きると目の前に女性がいた。正確に言えば、目の前に顔だ…。
その女性が覗き込むようにして俺を見ているせいで彼女の金髪が俺の顔にかかっているせいでリリィだと分かったのだが…。俺が起きていることに気付くと顔が赤くなっていく。
「べ、別に寝顔を拝見してたわけではなくて!朝食に呼びに来ただけで……、その!」
「……落ち着け、リリィ。」
俺が返事をすると、彼女が勢いよく頷いたが顔はまだ赤かった。
落ち着くために時間が必要だな…。
「…顔を洗ったら行くから先に行っててくれ。」
俺が言うとリリィは急いで出て行った。こけなければいいのだが……。
「おはよう。」
「おはようございます。隊長。」
顔を洗ってリビングに行くとリリィは机に座って待っていた。どうやら落ち着いけたようだ。俺が座ると、同時に祈りを捧げるように手を合わせて、食べ始める。
朝食を食べ終えた俺たちはレミリアのところに行くために大通りを歩いている。
このまま行けば、約束の時間より着くのは早くなるだろうが問題ないだろう。
仕事に向かっている人たちを見ながら、俺はリリィと話していた。
「リリィがどんな仕事してるんだ?」
「私がやっているのはレミリアさんと他の部隊との連絡役でしょうか。」
「つい最近まで敵だった人にそんな仕事をさせてるのか?」
「私もそう思ってましたが、そんなに大した情報じゃないですよ。」
そう言うとリリィはため息をする。
「会議の通達であったり、それこそ自分の夫に対する愚痴だったりしますからね。」
「想像してたものとは違うな。」
俺はその言葉に苦笑しながら言った。
「ええ。基本的にはいい人たちですよ。……たまに同性でも襲ってきますが…。」
「……何かあったのか?」
「ええ、少し……。ですから隊長も気を付けた方がいいですよ。
彼女たちは気に入った物を手に入れるためには手段を選びませんから。」
どうやらすでに何かあったのだろう。リリィは真剣な目でこちらを見ていた。
俺も魔物たちに襲われた経験あるからな……。
「そんなことのないよう、俺も気を付けておこう…。」
「約束ですよ。」
そんなことを話しているうちにレミリアの部屋の前に着いた。
しかしノックしても返事がない。
「いないのか?もう約束の時間だが?」
「おかしいですね?レミリアさんは時間帯にはいつもいるのですが…。」
首をかしげながらドアノブを回してみる。……ドアは開いている。鍵がかかってない。
「開いてるな……。レミリアいるか?」
室内に声をかけるも返事がなく、誰もいなかった。
しかし奥の部屋からは何かごそごそと音が聞こえる。
「リリィ。奥の部屋には何がある?」
「いえ、私も入るなと言われていたので知りません。」
「そうか…。レミリアいるか?」
その扉の前まで近づいて、ノックする。
「ん〜。」
声をかけるとレミリアの声が返ってきた。何故か口調がいつもと違うがいるらしい。
「入るぞ。」
「どうぞ〜。」
ガチャと扉を開けて入るとその部屋は寝室だった。おそらく先ほどまで寝ていたのだろう。寝間着と思しき服が着崩れて彼女の大きな胸が少し見えてしまっている。そんな彼女が寝ぼけ眼をしながら、大きな熊のぬいぐるみを抱えてこっちを見ている。
『…。』
黙って見詰め合っていた俺たちだったが、次第にレミリアの目が正気を帯びてきた。
自分がどんな格好をしているのか理解し、恥ずかしさで顔が徐々に赤くなっていく。
「で、出てけー!!」 ブホッ(`ε([熊]=3 ブンッ(゜д゜*)
持っていたぬいぐるみが俺に飛んでくる。体は反応できなかった。
当然俺は避けれず、勢いよく飛んできたそれが顔に直撃した。
「すまなかったな。」
「いや、俺も悪かった。」
あったのは柔らかいぬいぐるみだが、投げたのは魔物であるデュラハンだ。そんなものを顔に受けた俺は少しの間気絶してしまった。意識を取り戻すとレミリアは着替えたのだろう、すでにいつもの鎧を着ていた。
「だが見かけによらず、レミリアは可愛いもの好きなんだな…。」
「う、うるさい。忘れろ!…だから普段から部屋に入れないようにしてたのに…。」
俺がからかうとレミリアは照れたように顔をそむける。
「で、では準備もできましたし、行きましょう。」
リリィが気を取り直して言った。レミリアも誤魔化す様に勢いよく頷く。
「そ、そうだな。ではまず城内を案内しよう。」
そう言って部屋を出て歩き始めたレミリアに俺とリリィは着いて行く。
前日に情報を得ていたが、この街はスペランザと呼ばれている城塞都市らしい。
大きさは小さい国ほどの大きさがあり、魔界と反魔物国家との最前線に建っている。
20年前に建てられ、それ以降最前線の基地として使われるとともに反魔物国家から逃げてきた魔物たちの一時受け入れ先として機能している。
この都市全体は小高い丘に建てられていて、高い城壁からは遠くがよく見えた。
またこの都市には領主などはおらず、すべての作業を軍人と市民代表が協力して行っているらしく、そのため城の1から3階は受付や部署ごとのオフィス、そして休憩室が設置され、4階より上は部署の責任者ための個室があるとのことだ。さっきいたレミリアの部屋も4階にあった。
城内を案内し終わったレミリアは俺たちを連れて、入り組んだ路地を歩いていく。
「さて、最初はどこに行くんだ。」
「行けばわかる。この先の店に紹介したい人がいるんだ。」
「レミリアさん、ここを通るということはあそこですか?」
「ああ。そう言えばリリィは何回か行ったことがあったな。」
「ええ。あそこには何度かお世話になりました。」
俺たちは少し古ぼけた様子の店で止まった。レミリアとリリィが扉を開けて入っていく。俺も少し遅れて入った。彼女たちはカウンターの奥に入っていく。
「サリー、いるか?」
レミリアとリリィが呼びに行っている間に俺は店内を見学していた。両側の壁には多種多様な剣や短槍、そして防具では盾、籠手がかけてある。そのうちの一本を手に取ってみるとそれが一級品の剣であることが分かる。
俺がいないことに気付いたのか、奥からレミリアが顔を覗かせた。
「どうした?はやくこっちへ来い。」
「ああ、悪い。」
俺が奥に入るとそこにはレミリアとリリィ、そして少女がいた。彼女は青色の肌をしており、額には先が欠けた大きな角がある。そして顔の中央にある大きい単眼を見て俺は彼女が何の魔物であるか理解した。
「紹介しよう。サイクロプスのサリーだ。」
「アキラだ。よろしく。サイクロプスということはこの店は鍛冶屋か。」
「…、よろしく。」
「ああ。サリーとは技術部隊の隊長なんだ。私の装備はここで作ってもらっている。」
「…、何か必要なものがあったら言って。…作ってあげる。」
レミリアが誇らしそうに言うと、サリーが後を引き継いだ。
「わかった。その時はお願いする。」
そう言うとサリーは満足そうに頷いた。
「評判がいいだけあってさすがにうまいな。」
「そうですね。このコクといい、まろやかさといい、癖になっちゃいました。」
「そうだろう。ここのシチューはシイナの料理と並んでお勧めだ。」
サリーの店を出た俺たちはある店で昼食をとっていた。その店は魔界の情報誌でお勧めの店として有名であり、中でもホルスタウロスの牛乳を使ったシチューが評判であった。
「この後はどこに行くんだ?」
「そうだな。とりあえずお前を紹介しようと思っている。」
「俺を?誰に?」
「私の騎士団のみんなに、だ。同僚になるのだから、知っておいた方がいいだろう。」
「彼女たちですか?あの人たちは少し苦手です…。」
「そう言うな。悪い者たちではない。…少し性格は悪い奴もいるが…。」
レミリアは苦笑しつつ、答えた。リリィが苦手というくらいだ。
おそらく朝言っていたのと何か関係があるのだろう…。
俺たちは食事を終え、城の奥にあるという訓練所に向かっていた。
今の時間帯は模擬試合を行うため、みんなそこに集まっているそうだ。
「ここだ。」
「思ったより大きいな。ここがさっき言っていた訓練所か?」
「今もあそこで模擬試合が行っているはずだ。」
「ああ。だから歓声が聞こえるのか。ではあれは何だ?」
「あそこは魔術部隊が実験ついでに作った森なんだが…。ある時間帯になると地形が変わる妙な森なんだ。下手に入ると出られなくなるから行くなよ。」
話しながら俺たちは目の前にある2階建ての建物に着く。入ってみると1階は医務室や休憩するためのスペースらしく、くつろいだ様子の魔物が多くいた。彼女たちはレミリアを見ると会釈している。レミリアはそれに答えて、奥の階段を上っていく。
階段を上がると並んでいる部屋の一つに入って行った。その部屋は窓が片側全面に張られており、向こう側にある訓練所の様子を見れる。そこでは今も何組かに分かれて試合が行われている。それを休憩している魔物たちが見物しているようだ。その様子をここから見覚えのある魔物が見ていた。
「ライラ。調子はどうだ?」
「団長、今日は休むと言っていたのでは?」
レミリアが声をかけると部屋にいたライラは驚いたように言った。
「そうだったんだが、アキラに街を案内していたんだ。それで訓練の方はどうだ?」
レミリアが聞くとライラはため息をついた。どうも彼女は感情が尻尾と耳に出るようで
耳は伏せられ、尻尾は元気なく垂れていた。
「今日やる予定の半分が終わりましたが、あまりかんばしくないですね。」
「まぁ、戦いが終わったばかりだ。あまり厳しくしなくていい。」
「副団長たちをここに呼んでくれないか?」
「わかりました。ではマミーたちに呼ばせます。」
そう言うと錫杖を額に当て、集中する。おそらく錫杖を通じて命令しているのだろう。
その様子を見ながら、俺はレミリアに質問する。
「副団長っていうのは?」
「ああ、騎士団は5つの部隊に分かれているんだ。それぞれが500人ほど兵士を受け持っている。全員そろったら紹介しよう。」
「団長、呼びました。おそらく5分ほどでこっちに着くと思います。」
ライラがレミリアに報告した。俺はライラに言うべきことがあることに気付いた。
「ライラだったか?」
「……何だ?」
俺が話しかけるとライラは尻尾をまっすぐに立てて、眉間にしわを寄せた。
「いや、レミリアに聞いたんだが、寝ている間看病してくれてたと聞いた。それにこの服も直してくれたらしいな。感謝する。」
「べ、別にたいそうなことをした訳ではない!礼などいらん!」
赤くした顔を向こうに向けているが感情がよく出る尻尾は360度振られている。
まぁ、俺の気持ちが伝わっているのならいいか……。待っていると扉がノックされる。
「入っていいぞ。」
レミリアが答えると扉を開け、5人の魔物が入ってきた。
一人目はおそらくサキュバスだろう。豊満な肉体を最低限の衣服で隠している。
黒色の長髪からねじれた角が生えており、目も同じ黒色。腰から蝙蝠のような羽、鏃のような細い尻尾が生えていた。
二人目は急所を守るような鎧を身に着けたリザードマンだった。栗色の髪を赤色の長い紐でポニーテールにまとめており、目は金色で凛とした顔で、魚の鰭のような耳が生えている。両手両足は緑色の鱗に包まれており、爬虫類のような尻尾をゆらゆらと揺らしている。
三人目はミノタウロスだ。赤っぽい髪から牛の角と耳がある茶色の目をした勝気そうな顔によく映えている。牛の蹄のような足と尻尾が生えている下半身は茶色の毛で覆われていた。大きい胸と局部を集めの布と革のベルトで止めて隠している。
四人目はラミアだろうか?緑の髪を腰までそのまま伸ばし、その髪からは二匹の蛇が顔を出している。リザードマンとは少し違う金色の目と額に模様が描かれている顔からは多大な知識を持っていることがわかる。また胸を水着のような服で隠し、局部を長い腰布で隠している。その下半身は髪と同じ色をした蛇体で5m以上ある蛇体は長すぎて部屋に収まっていない。
五人目はケンタウロスだ。リザードマンと同じで栗色の髪をポニーテールでまとめていた。綺麗な青い目だが視力がよくないのか、小さい眼鏡を鼻に乗せている。またスレンダーな体にそでの短い服を着て、その上から胸を守るように鎧をつけている。腰から下は髪と同じ栗色の馬の体をしており、小さいナイフをいくつか入れた小物入れを鐙のように下げている。
「みんなそろったな。」
そんなことを考えているとレミリアが話し出した。
「集まってもらったのは彼を紹介するためだ。
とは言っても彼のことは知っていると思うが、改めて紹介してもらおう。」
そう言うとレミリアは俺に目を向けてきたので話し始める。自己紹介しろという事か…。
「俺の名前はアキラ・ハヤカワという。前の戦いまでは教団にいたが事情が変わったので魔王軍に入ることになった。知らないことばかりで迷惑をかけると思うがこれからよろしく頼む。」
当たり障りのない自己紹介をして終わると、今度は彼女たちが紹介し始める。
「じゃあ、私も自己紹介をするわ。私の名前はサキって言うわ。
見ての通りサキュバスよ。これからよろしく♪」
「ああ、よろしく。」
そう言いつつも彼女の目はリリィの方を向いていた。リリィは目をそらしているが…。
どうやらリリィに何かしたのはサキのようだ。
「では次は私の番だな。私の名前はリズだ。見ての通り、リザードマンだ。
今度手合わせしてくれるとありがたいのだが…。」
「ああ、構わない。」
握手しつつ、了承すると、嬉しそうにほほ笑んだ。
「じゃあ、お次はあたしだな。あたしの名はミラだ。これからよろしく頼むぜ!」
「おう、よろしくな。」
ニカッっと笑いながら自己紹介してくる。
「それでは次は私ですわね。私はアイリーンと言いますわ。
ラミア種のエキドナです。以後よろしくお願いいたします。」
生えている蛇がこちらを値踏みするように見られているなか、彼女と握手した。
「最後は私だな。私はカティアという。見ての通りケンタウロスだ。わからないことがあったら、聞いてくれ。できる限り答えよう。」
「ああ、頼りにしてる。」
「さて、一通り紹介も終わったな。以降アキラは私直属の部下になる。なにか質問は?」
自己紹介が終わったのを見計らって、レミリアが言った。
すると、はーいと言いながらサキが手を挙げる。
「サキか。何かあるのか?」
「その質問ってアキラ君への個人的な質問もいいの?」
サキがそう聞くとレミリアは俺の方をちらりと見る。
「答えれる範囲ならかまわない。」
俺がそう言うと全員手を挙げていた。ここは学校か?後ろを見るとちゃっかりとリリィ、ライラ、レミリアまで手を挙げている。いったい何なんだ?
サキ:「年はいくつ?」
アキラ:「25歳だ。」
リズ:「得意な武器は?」
アキラ:「基本的には何でも使えるが、一番使うのは剣だな。」
ミラ:「苦手なものは?」
アキラ:「特にないな。」
アイリーン:「好きな料理は何でしょうか?」
アキラ:「肉料理だな。特にハンバーグが好きだ。」
カティア:「趣味は?」
アキラ:「自己鍛錬と家事全般。」
リリィ:「好きな人はいますか?」
アキラ:「今のところいないな。」
ライラ:「管理されるのは嫌いか?」
アキラ:「されたことないからわからん。」
レミリア:「家事ができる女性の方がいいか?」
アキラ:「できないよりはできる方がいいとは思うが。」
アイリーン:「胸は大きい方がいいかしら?」
アキラ:「…黙秘する。」
サキ:「童貞?「待て!」」
サキの質問にさすがにおれは叫んだ。何を聞いてくるのか…?
「さすがに答えられる内容ではないだろう。」
「童貞なんだ。」
「…。黙秘権を行使する。」
その様子を見てサキ、アイリーン、ミラはにやにやとしている。その顔を見るのが嫌で顔を背けていたせいで後ろでリズ、ライラ、リリィ、レミリアの4人が嬉しそうにガッツポーズをしているのに俺は気づかなかった。
とりあえず互いに自己紹介が終わったところで聞くことがあった俺はレミリアを見る。
「レミリア、今後俺は何をしたらいい?」
「週2、3回ある訓練には参加してすること。あと街の夜間の警邏があるからこれにも参加することだな。そのあたりはライラに聞いてくれ。」
「わかった。」
「あとこれも渡しておく。」
そう言うとレミリアは懐から袋を渡してきた。受け取ると見た目より重く、振るとじゃらじゃらと鳴った。どうやら通貨が入っている様だ。
「これは?」
「こっちに来て何かと必要になるだろうと思ってな。必要なときに使ってくれ。」
「すまないな。いつか返そう。」
「何。渡した分はこれからの仕事で返してくれるんだろう。」
「ふっ。当然だろう。」
ツンツン…(´・ω・)σ( ・_・)ん?
後ろを向くとなぜか不安そうに尻尾を揺らしているライラが俺の肩を指で突いていた。
「団長が言っていた警邏のことなんだが。明日私とお前でやらないか?」
「明日か?思ったより早いな。」
「うむ。教えなければいけないこともあるからな。……それとも私とでは嫌か?」
耳を伏せ、尻尾をだらんとたらしながら不安そうな目で聞いてくる。
…こんな顔をされたら断れんな…。もとより断る気はなかったが。
「いや、俺としてはありがたい。よろしく頼む。」
「う、うむ♪♪では明日の夜8時に城門に集合だ。遅れたら呪うからな!」
「わかった。」
ライラはうれしそうな顔で尻尾をぶんぶんと振っている。何がうれしいのだろうか…?
そのとき俺はレミリアたちが集まって相談を始めていることに気付かなかった。
朝起きると目の前に女性がいた。正確に言えば、目の前に顔だ…。
その女性が覗き込むようにして俺を見ているせいで彼女の金髪が俺の顔にかかっているせいでリリィだと分かったのだが…。俺が起きていることに気付くと顔が赤くなっていく。
「べ、別に寝顔を拝見してたわけではなくて!朝食に呼びに来ただけで……、その!」
「……落ち着け、リリィ。」
俺が返事をすると、彼女が勢いよく頷いたが顔はまだ赤かった。
落ち着くために時間が必要だな…。
「…顔を洗ったら行くから先に行っててくれ。」
俺が言うとリリィは急いで出て行った。こけなければいいのだが……。
「おはよう。」
「おはようございます。隊長。」
顔を洗ってリビングに行くとリリィは机に座って待っていた。どうやら落ち着いけたようだ。俺が座ると、同時に祈りを捧げるように手を合わせて、食べ始める。
朝食を食べ終えた俺たちはレミリアのところに行くために大通りを歩いている。
このまま行けば、約束の時間より着くのは早くなるだろうが問題ないだろう。
仕事に向かっている人たちを見ながら、俺はリリィと話していた。
「リリィがどんな仕事してるんだ?」
「私がやっているのはレミリアさんと他の部隊との連絡役でしょうか。」
「つい最近まで敵だった人にそんな仕事をさせてるのか?」
「私もそう思ってましたが、そんなに大した情報じゃないですよ。」
そう言うとリリィはため息をする。
「会議の通達であったり、それこそ自分の夫に対する愚痴だったりしますからね。」
「想像してたものとは違うな。」
俺はその言葉に苦笑しながら言った。
「ええ。基本的にはいい人たちですよ。……たまに同性でも襲ってきますが…。」
「……何かあったのか?」
「ええ、少し……。ですから隊長も気を付けた方がいいですよ。
彼女たちは気に入った物を手に入れるためには手段を選びませんから。」
どうやらすでに何かあったのだろう。リリィは真剣な目でこちらを見ていた。
俺も魔物たちに襲われた経験あるからな……。
「そんなことのないよう、俺も気を付けておこう…。」
「約束ですよ。」
そんなことを話しているうちにレミリアの部屋の前に着いた。
しかしノックしても返事がない。
「いないのか?もう約束の時間だが?」
「おかしいですね?レミリアさんは時間帯にはいつもいるのですが…。」
首をかしげながらドアノブを回してみる。……ドアは開いている。鍵がかかってない。
「開いてるな……。レミリアいるか?」
室内に声をかけるも返事がなく、誰もいなかった。
しかし奥の部屋からは何かごそごそと音が聞こえる。
「リリィ。奥の部屋には何がある?」
「いえ、私も入るなと言われていたので知りません。」
「そうか…。レミリアいるか?」
その扉の前まで近づいて、ノックする。
「ん〜。」
声をかけるとレミリアの声が返ってきた。何故か口調がいつもと違うがいるらしい。
「入るぞ。」
「どうぞ〜。」
ガチャと扉を開けて入るとその部屋は寝室だった。おそらく先ほどまで寝ていたのだろう。寝間着と思しき服が着崩れて彼女の大きな胸が少し見えてしまっている。そんな彼女が寝ぼけ眼をしながら、大きな熊のぬいぐるみを抱えてこっちを見ている。
『…。』
黙って見詰め合っていた俺たちだったが、次第にレミリアの目が正気を帯びてきた。
自分がどんな格好をしているのか理解し、恥ずかしさで顔が徐々に赤くなっていく。
「で、出てけー!!」 ブホッ(`ε([熊]=3 ブンッ(゜д゜*)
持っていたぬいぐるみが俺に飛んでくる。体は反応できなかった。
当然俺は避けれず、勢いよく飛んできたそれが顔に直撃した。
「すまなかったな。」
「いや、俺も悪かった。」
あったのは柔らかいぬいぐるみだが、投げたのは魔物であるデュラハンだ。そんなものを顔に受けた俺は少しの間気絶してしまった。意識を取り戻すとレミリアは着替えたのだろう、すでにいつもの鎧を着ていた。
「だが見かけによらず、レミリアは可愛いもの好きなんだな…。」
「う、うるさい。忘れろ!…だから普段から部屋に入れないようにしてたのに…。」
俺がからかうとレミリアは照れたように顔をそむける。
「で、では準備もできましたし、行きましょう。」
リリィが気を取り直して言った。レミリアも誤魔化す様に勢いよく頷く。
「そ、そうだな。ではまず城内を案内しよう。」
そう言って部屋を出て歩き始めたレミリアに俺とリリィは着いて行く。
前日に情報を得ていたが、この街はスペランザと呼ばれている城塞都市らしい。
大きさは小さい国ほどの大きさがあり、魔界と反魔物国家との最前線に建っている。
20年前に建てられ、それ以降最前線の基地として使われるとともに反魔物国家から逃げてきた魔物たちの一時受け入れ先として機能している。
この都市全体は小高い丘に建てられていて、高い城壁からは遠くがよく見えた。
またこの都市には領主などはおらず、すべての作業を軍人と市民代表が協力して行っているらしく、そのため城の1から3階は受付や部署ごとのオフィス、そして休憩室が設置され、4階より上は部署の責任者ための個室があるとのことだ。さっきいたレミリアの部屋も4階にあった。
城内を案内し終わったレミリアは俺たちを連れて、入り組んだ路地を歩いていく。
「さて、最初はどこに行くんだ。」
「行けばわかる。この先の店に紹介したい人がいるんだ。」
「レミリアさん、ここを通るということはあそこですか?」
「ああ。そう言えばリリィは何回か行ったことがあったな。」
「ええ。あそこには何度かお世話になりました。」
俺たちは少し古ぼけた様子の店で止まった。レミリアとリリィが扉を開けて入っていく。俺も少し遅れて入った。彼女たちはカウンターの奥に入っていく。
「サリー、いるか?」
レミリアとリリィが呼びに行っている間に俺は店内を見学していた。両側の壁には多種多様な剣や短槍、そして防具では盾、籠手がかけてある。そのうちの一本を手に取ってみるとそれが一級品の剣であることが分かる。
俺がいないことに気付いたのか、奥からレミリアが顔を覗かせた。
「どうした?はやくこっちへ来い。」
「ああ、悪い。」
俺が奥に入るとそこにはレミリアとリリィ、そして少女がいた。彼女は青色の肌をしており、額には先が欠けた大きな角がある。そして顔の中央にある大きい単眼を見て俺は彼女が何の魔物であるか理解した。
「紹介しよう。サイクロプスのサリーだ。」
「アキラだ。よろしく。サイクロプスということはこの店は鍛冶屋か。」
「…、よろしく。」
「ああ。サリーとは技術部隊の隊長なんだ。私の装備はここで作ってもらっている。」
「…、何か必要なものがあったら言って。…作ってあげる。」
レミリアが誇らしそうに言うと、サリーが後を引き継いだ。
「わかった。その時はお願いする。」
そう言うとサリーは満足そうに頷いた。
「評判がいいだけあってさすがにうまいな。」
「そうですね。このコクといい、まろやかさといい、癖になっちゃいました。」
「そうだろう。ここのシチューはシイナの料理と並んでお勧めだ。」
サリーの店を出た俺たちはある店で昼食をとっていた。その店は魔界の情報誌でお勧めの店として有名であり、中でもホルスタウロスの牛乳を使ったシチューが評判であった。
「この後はどこに行くんだ?」
「そうだな。とりあえずお前を紹介しようと思っている。」
「俺を?誰に?」
「私の騎士団のみんなに、だ。同僚になるのだから、知っておいた方がいいだろう。」
「彼女たちですか?あの人たちは少し苦手です…。」
「そう言うな。悪い者たちではない。…少し性格は悪い奴もいるが…。」
レミリアは苦笑しつつ、答えた。リリィが苦手というくらいだ。
おそらく朝言っていたのと何か関係があるのだろう…。
俺たちは食事を終え、城の奥にあるという訓練所に向かっていた。
今の時間帯は模擬試合を行うため、みんなそこに集まっているそうだ。
「ここだ。」
「思ったより大きいな。ここがさっき言っていた訓練所か?」
「今もあそこで模擬試合が行っているはずだ。」
「ああ。だから歓声が聞こえるのか。ではあれは何だ?」
「あそこは魔術部隊が実験ついでに作った森なんだが…。ある時間帯になると地形が変わる妙な森なんだ。下手に入ると出られなくなるから行くなよ。」
話しながら俺たちは目の前にある2階建ての建物に着く。入ってみると1階は医務室や休憩するためのスペースらしく、くつろいだ様子の魔物が多くいた。彼女たちはレミリアを見ると会釈している。レミリアはそれに答えて、奥の階段を上っていく。
階段を上がると並んでいる部屋の一つに入って行った。その部屋は窓が片側全面に張られており、向こう側にある訓練所の様子を見れる。そこでは今も何組かに分かれて試合が行われている。それを休憩している魔物たちが見物しているようだ。その様子をここから見覚えのある魔物が見ていた。
「ライラ。調子はどうだ?」
「団長、今日は休むと言っていたのでは?」
レミリアが声をかけると部屋にいたライラは驚いたように言った。
「そうだったんだが、アキラに街を案内していたんだ。それで訓練の方はどうだ?」
レミリアが聞くとライラはため息をついた。どうも彼女は感情が尻尾と耳に出るようで
耳は伏せられ、尻尾は元気なく垂れていた。
「今日やる予定の半分が終わりましたが、あまりかんばしくないですね。」
「まぁ、戦いが終わったばかりだ。あまり厳しくしなくていい。」
「副団長たちをここに呼んでくれないか?」
「わかりました。ではマミーたちに呼ばせます。」
そう言うと錫杖を額に当て、集中する。おそらく錫杖を通じて命令しているのだろう。
その様子を見ながら、俺はレミリアに質問する。
「副団長っていうのは?」
「ああ、騎士団は5つの部隊に分かれているんだ。それぞれが500人ほど兵士を受け持っている。全員そろったら紹介しよう。」
「団長、呼びました。おそらく5分ほどでこっちに着くと思います。」
ライラがレミリアに報告した。俺はライラに言うべきことがあることに気付いた。
「ライラだったか?」
「……何だ?」
俺が話しかけるとライラは尻尾をまっすぐに立てて、眉間にしわを寄せた。
「いや、レミリアに聞いたんだが、寝ている間看病してくれてたと聞いた。それにこの服も直してくれたらしいな。感謝する。」
「べ、別にたいそうなことをした訳ではない!礼などいらん!」
赤くした顔を向こうに向けているが感情がよく出る尻尾は360度振られている。
まぁ、俺の気持ちが伝わっているのならいいか……。待っていると扉がノックされる。
「入っていいぞ。」
レミリアが答えると扉を開け、5人の魔物が入ってきた。
一人目はおそらくサキュバスだろう。豊満な肉体を最低限の衣服で隠している。
黒色の長髪からねじれた角が生えており、目も同じ黒色。腰から蝙蝠のような羽、鏃のような細い尻尾が生えていた。
二人目は急所を守るような鎧を身に着けたリザードマンだった。栗色の髪を赤色の長い紐でポニーテールにまとめており、目は金色で凛とした顔で、魚の鰭のような耳が生えている。両手両足は緑色の鱗に包まれており、爬虫類のような尻尾をゆらゆらと揺らしている。
三人目はミノタウロスだ。赤っぽい髪から牛の角と耳がある茶色の目をした勝気そうな顔によく映えている。牛の蹄のような足と尻尾が生えている下半身は茶色の毛で覆われていた。大きい胸と局部を集めの布と革のベルトで止めて隠している。
四人目はラミアだろうか?緑の髪を腰までそのまま伸ばし、その髪からは二匹の蛇が顔を出している。リザードマンとは少し違う金色の目と額に模様が描かれている顔からは多大な知識を持っていることがわかる。また胸を水着のような服で隠し、局部を長い腰布で隠している。その下半身は髪と同じ色をした蛇体で5m以上ある蛇体は長すぎて部屋に収まっていない。
五人目はケンタウロスだ。リザードマンと同じで栗色の髪をポニーテールでまとめていた。綺麗な青い目だが視力がよくないのか、小さい眼鏡を鼻に乗せている。またスレンダーな体にそでの短い服を着て、その上から胸を守るように鎧をつけている。腰から下は髪と同じ栗色の馬の体をしており、小さいナイフをいくつか入れた小物入れを鐙のように下げている。
「みんなそろったな。」
そんなことを考えているとレミリアが話し出した。
「集まってもらったのは彼を紹介するためだ。
とは言っても彼のことは知っていると思うが、改めて紹介してもらおう。」
そう言うとレミリアは俺に目を向けてきたので話し始める。自己紹介しろという事か…。
「俺の名前はアキラ・ハヤカワという。前の戦いまでは教団にいたが事情が変わったので魔王軍に入ることになった。知らないことばかりで迷惑をかけると思うがこれからよろしく頼む。」
当たり障りのない自己紹介をして終わると、今度は彼女たちが紹介し始める。
「じゃあ、私も自己紹介をするわ。私の名前はサキって言うわ。
見ての通りサキュバスよ。これからよろしく♪」
「ああ、よろしく。」
そう言いつつも彼女の目はリリィの方を向いていた。リリィは目をそらしているが…。
どうやらリリィに何かしたのはサキのようだ。
「では次は私の番だな。私の名前はリズだ。見ての通り、リザードマンだ。
今度手合わせしてくれるとありがたいのだが…。」
「ああ、構わない。」
握手しつつ、了承すると、嬉しそうにほほ笑んだ。
「じゃあ、お次はあたしだな。あたしの名はミラだ。これからよろしく頼むぜ!」
「おう、よろしくな。」
ニカッっと笑いながら自己紹介してくる。
「それでは次は私ですわね。私はアイリーンと言いますわ。
ラミア種のエキドナです。以後よろしくお願いいたします。」
生えている蛇がこちらを値踏みするように見られているなか、彼女と握手した。
「最後は私だな。私はカティアという。見ての通りケンタウロスだ。わからないことがあったら、聞いてくれ。できる限り答えよう。」
「ああ、頼りにしてる。」
「さて、一通り紹介も終わったな。以降アキラは私直属の部下になる。なにか質問は?」
自己紹介が終わったのを見計らって、レミリアが言った。
すると、はーいと言いながらサキが手を挙げる。
「サキか。何かあるのか?」
「その質問ってアキラ君への個人的な質問もいいの?」
サキがそう聞くとレミリアは俺の方をちらりと見る。
「答えれる範囲ならかまわない。」
俺がそう言うと全員手を挙げていた。ここは学校か?後ろを見るとちゃっかりとリリィ、ライラ、レミリアまで手を挙げている。いったい何なんだ?
サキ:「年はいくつ?」
アキラ:「25歳だ。」
リズ:「得意な武器は?」
アキラ:「基本的には何でも使えるが、一番使うのは剣だな。」
ミラ:「苦手なものは?」
アキラ:「特にないな。」
アイリーン:「好きな料理は何でしょうか?」
アキラ:「肉料理だな。特にハンバーグが好きだ。」
カティア:「趣味は?」
アキラ:「自己鍛錬と家事全般。」
リリィ:「好きな人はいますか?」
アキラ:「今のところいないな。」
ライラ:「管理されるのは嫌いか?」
アキラ:「されたことないからわからん。」
レミリア:「家事ができる女性の方がいいか?」
アキラ:「できないよりはできる方がいいとは思うが。」
アイリーン:「胸は大きい方がいいかしら?」
アキラ:「…黙秘する。」
サキ:「童貞?「待て!」」
サキの質問にさすがにおれは叫んだ。何を聞いてくるのか…?
「さすがに答えられる内容ではないだろう。」
「童貞なんだ。」
「…。黙秘権を行使する。」
その様子を見てサキ、アイリーン、ミラはにやにやとしている。その顔を見るのが嫌で顔を背けていたせいで後ろでリズ、ライラ、リリィ、レミリアの4人が嬉しそうにガッツポーズをしているのに俺は気づかなかった。
とりあえず互いに自己紹介が終わったところで聞くことがあった俺はレミリアを見る。
「レミリア、今後俺は何をしたらいい?」
「週2、3回ある訓練には参加してすること。あと街の夜間の警邏があるからこれにも参加することだな。そのあたりはライラに聞いてくれ。」
「わかった。」
「あとこれも渡しておく。」
そう言うとレミリアは懐から袋を渡してきた。受け取ると見た目より重く、振るとじゃらじゃらと鳴った。どうやら通貨が入っている様だ。
「これは?」
「こっちに来て何かと必要になるだろうと思ってな。必要なときに使ってくれ。」
「すまないな。いつか返そう。」
「何。渡した分はこれからの仕事で返してくれるんだろう。」
「ふっ。当然だろう。」
ツンツン…(´・ω・)σ( ・_・)ん?
後ろを向くとなぜか不安そうに尻尾を揺らしているライラが俺の肩を指で突いていた。
「団長が言っていた警邏のことなんだが。明日私とお前でやらないか?」
「明日か?思ったより早いな。」
「うむ。教えなければいけないこともあるからな。……それとも私とでは嫌か?」
耳を伏せ、尻尾をだらんとたらしながら不安そうな目で聞いてくる。
…こんな顔をされたら断れんな…。もとより断る気はなかったが。
「いや、俺としてはありがたい。よろしく頼む。」
「う、うむ♪♪では明日の夜8時に城門に集合だ。遅れたら呪うからな!」
「わかった。」
ライラはうれしそうな顔で尻尾をぶんぶんと振っている。何がうれしいのだろうか…?
そのとき俺はレミリアたちが集まって相談を始めていることに気付かなかった。
11/09/30 20:19更新 / まるぼろ
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