連載小説
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第一章 「Beginning of the story」
「まずいな…。」
教団の魔界攻略軍司令官のダウル卿は悩んでいた。
彼はディスペラツィオネ(disperazione)という反魔物国家にある教団の幹部であった。
そして今回の作戦では自ら立候補し、兵を率いてきた。
もちろん今後も教団での発言力を維持するために参加したのだ。
今回の侵攻作戦では教団直属の騎士団10000人、そして傭兵が5000人ほど雇った。
対する相手は魔物と人含め、5000人ほどだった。
さすがに3倍の兵力差があればそれなりに戦果は出せると考えていた。
しかし結果は無残だった。最初の戦いで甚大な被害を出したわが軍は少しずつ勢いをなくし、1か月もの魔王軍との戦いで騎士団5000人、傭兵はほとんどがやられるという結果になった。現在こもっている拠点を守るだけで精一杯の状況である。
「このまま帰還してはわたしが責任を取らねばならない。それだけは避けねば…。」
そしてジオはある策を考え付いた。うまくすれば責任を問われずに済むかもしれないと考えたジオはある男を思い出した。

夜の作戦会議後、ジオはそいつを呼び出した。
そいつとは教団第1軍団長ハインツの副官である。
そいつは貴族でも何でもないが下からのし上がってきた男だった。
副官を任されているだけあって、腕が立ち、状況判断もできる。
そしてその戦いぶりから味方から信頼されている。
しかし、何を考えているかわからない彼は上からは疎んじられていた。
「教団第1軍 軍団長副官 アキラ・ハヤカワです。」
「おぉ、入ってくれ。」
声をかけるとそいつは入ってきた。
見たところ、そいつはどこにでもいそうなやつだった。
灰色の長い髪を紐でまとめた中肉中背の男で中性的な顔立ちをしていた。
しかしその体には大小さまざまな傷があり、幾多の戦場をくぐり向けてきたことを証明していた。
「おまえを呼んだのはある任務をやってもらうためだ。」
「どのような任務ですか?」
「先ほどの作戦会議で決まった通り、我が軍は明朝撤退することになった。
おそらく魔王軍はそれを察知し、追撃してくるだろう。
そこでだ。お前には追撃してきた敵軍を止めてもらいたい。」
「つまり、殿をしろと?」
「ああ、そうだ。これ以上我が軍に被害を与えるわけにはいかんのだ。
そこで後方1km先に両側が深い森になっていて軍隊を動かしにくく、
待ち構えるにはちょうどいい隘路がある。
ここで待ち受け、奴らの追撃を阻止してもらいたい。」
「…。」
「この撤退を成功させ、帰還したならば望む報酬をやろう。」
「…、わかりました。引き受けましょう。」
「よろしい。では頼んだぞ。」
そしてハヤカワは一礼した後、退室した。
「さて、あいつが敵を止めれればよし、失敗したとて兵士一人の命で済む。
 万が一、無事に帰還した場合のことを考えねば…。」
そういってジオは自分直属の部下を呼び出した。


俺は自分の陣に帰りながら考えていた。
撤退するのは賛成だが、一人で殿を務めるとは考えていなかった。
あまり味方がいたところで邪魔なだけなのだが…。
いろいろ考えているうちに自分の陣についた。もう部下たちは寝ているようだ。
「アキラ・ハヤカワです。ただいま帰還しました。」
「入れ。」
声を聞き、ひときわ大きな幕舎に入ると、そこには巌のような人がいた。
彼はハインツ・クルーズといい、この部隊の指揮官である。190cmほどの身長で、70歳とは思えないほどの筋骨隆々の体を持っている。大きめの教団の鎧に身の丈ほどのクレイモアの使い手で、総省のころから多くの武勲を立てた英雄である。
「ジオ殿に呼ばれていたようだが、何があった。」
「司令官にh「今はわしとお前しかおらん。普段の口調でいい。」」
「…、わかったよ。じいさん。」
「それで、なにがあった?」
ハインツが促すと俺は答えた。
「明日の撤退の時、俺一人で追撃してきた敵を食い止めろと…。」
そういうとハインツは眉毛をピクリと動かした。
普段、ほとんど無表情のじいさんだ。それなりに驚いたということか。
「そうか…。」
そういうとじいさんは立って、上を見上げた。
「わしらのために苦労を掛ける。」
「かまわねぇよ。どっちにしろ5年前あの森であんたに拾われた命だ。
 あのときの恩を返せるなら本望だ。」
「もう5年もたつのか…。」
そう、あのとき死にかけていた俺はこの人に助けられた。
そしていろいろなことを教えてもらった。
それから俺はこの恩を返すため、教団に入り、自分を磨いてきた。

「アキラ。」
しばらく目を閉じて、何か考えていたじいさんが目を開けて呼んだ。
「なんd「敵の足止めに成功しても帰ってくるな。」」

「どういうことだ?」
怒った俺は座っていた椅子を蹴倒して立ち上がった。それを見てじいさんは
「…、すまん、言い方が悪かった…。」
「だから!どういうk「何があっても教団には帰ってくるなということだ。」」
その言葉に俺は少し考えた。
「…、なんか裏があるってことか?」
じいさんは頷き、
「さすがに一人に殿をさせるというのは腑に落ちん。」
「…。」
俺はまた考え込んだ。
「どちらにしろ、この戦いから帰ったらわしは引退する。
 お前はわしへの恩ではなく、自分のために生きろ…。」
「だが!!おr「これは命令だ。わかったな。」」
反論しようとすると、じいさんはいつになく強い口調で俺の目を見ながら言った。
少しの間にらみ合うが目線を外し、倒れた椅子を戻して座る。
「…、わかった。これで会うのが最後ってことか。」
「かもしれん。」
そして少しの間、二人は黙る。
「…、明日は早い。今日はもう寝ろ。」
「…ああ。おやすみ。」
俺はそれだけ言うのが精いっぱいだった。


翌朝、起きると部下たちは食糧などをまとめていた。
近くにいる部下にリリィを呼ぶように伝えると彼女はすぐに来た。
「隊長、お呼びでしょうか?」
彼女はリリィ・ロゼンタールといい、騎士養成のための学校で知り合った仲である。
金髪の髪をポニーテール、凛々しい顔立ちに碧眼の女性だ。
武器はジパングから伝わってきた刀を使い、教団内ではハインツを除き俺と戦える数少ない人である。容姿も腕前も良い彼女はいろいろな人に結婚を申し込まれていると噂を聞くが、すべて断っているらしい。
なぜ断るのかと部下たちに聞くと彼らは呆れた顔でため息ばかりする。
まぁ、その話は置いといて…。
「ああ、実は司令官から任務を受けたのでな。撤退の指示はお前に任せる。」
「わかりました。」
彼女は頷くが、なにか聞きたそうな目で見ている。
「…。何か聞きたいのか?」
「!!なぜわかったのですか!」
「そんな目で見てくればわかるさ…。」
そう言うと彼女は顔を赤くした。
「で、何を聴きたい?」
「いえ、ただどのような任務なのかと思いまして。」
「…。なに、ちょっとした任務だ。」
「…、了解しました。」
リリィはまだ聞きたそうだったが、一礼すると去っていた。
朝日が昇るころ、準備を終えた部隊から撤退していき、俺は指令通りに隘路で敵軍が来るのを待つことにした。


一方、魔王軍のいる城塞都市では…

騎士団長であるレミリア・ボールドウィンは自分の部屋で書類を整理していた。
そのとき扉が大きな音を出して開き、部下のハーピーが息を切らして入ってきた。
「どうした?何があった?」
「教団の部隊が撤退してます!!」
その報告を聞くと、レミリアは
「すぐに騎士団300人、そして他の部隊から500人選べ!編成しだい追撃する!急げ!」
「りょ、了解しました!」
数十分後、総勢800人の魔物で構成された追撃部隊が陣地を出発した。
1時間ほど進み、教団宿営跡地を通り過ぎ、道が狭くなっているところに人影がいるのを私は感じた。


「ようやく、お出ましか…。」
前方に騎馬隊の土煙を見つけるとアキラは”それ”を構えた。
異様な武器だった。全長は3mを超える大剣であり、真っ青な外観、そして白銀に輝く刀身をしていた。また武器には幾何学的な模様が彫られており、ぼんやりと光っていた。
アキラはそれを上段に構え、それを敵の数m前を横切るように叩きつける。
ドパァン!

大地が割れた。幅は人一人分、下が見えないほどの深さの地割れができていた。
それを見て、騎馬隊は止まった。
「残念だが、ここを通すわけにはいかない。」
アキラが言うと騎馬隊から一人の女騎士が出てきた。
その女騎士はたくさんの目が付いた異様な鎧を着ており、幅広の剣を下げていた。
銀髪、赤眼の綺麗な顔立ちをしている美女だった。
しかし今その眼は警戒するように細められていたが…。
「私は魔王軍騎士団長 レミリア・ボールドウィンだ!お前の名は!」
「名乗るほどの者でもない…。」
こちらが名乗らなかったことに不快感を露わにしながらもレミリアはいぶかしげな顔で周りを見た。
「言っとくが、ここにいるのは俺だけだ。」
「正気か?たった一人で我らを止められると思っているのか?」
「できるさ。」
と俺が自虐のような笑みをして答えるとレミリアは笑みをさらに深めて
「ほぅ。どうやってだ。」
「では試そうか?」
俺は言い終えると自身の背後の空間に無数の剣を具現化させる。
そのうちの1本を飛ばす。その剣は付近の地面を知らしながらレミリアの前に突き刺さる。
その周囲は小さいクレーターになっていた。
彼女の驚いた顔を見ながら俺は
「これらを使えば可能ではないか?」
レミリアは少し考えると怒った顔で
「…、ふざけるな!!」
「ん?」
「足を止めた後有無を言わさずに打てば我々は負けていた!なぜだ!答えろ!」
「そんなのは単純だ…。殺したくないからだ…。」
「なに?」
俺が告げると彼女はいぶかしげに聞き返す。
「俺はあんたらを殺したくないからだよ。」
「お前は教団に所属しているのだろう?」
「違う。俺の命の恩人が教団にいるから教団についているだけだ。
 別に教団の教義に賛同しているわけじゃない。」
「ならばこちら側につかないか?」
「今はお断りだな。教団を無事に撤退させるとその人に約束した。
 その約束を違えるわけにはいかない。」
「そうかならこれしかあるまい。」
そう言うと剣を抜き、こちらに向ける。
「私たちは武の道を選んだ。なら話合い以外の方法で決着を着けよう。」
「一騎打ちか?」
「そうだ。私と一騎打ちをして勝ったほうが退くということにすればいい。」
俺としても無駄な犠牲を出したくない。
一騎打ちならデュラハンにも勝てる自信はある。
「いいだろう。無駄な犠牲を出したくないからな。」
そういうと俺は持っていた武器を消し、新たに槍を出し、構える。
彼女もさきほどの地割れを飛び越え、腰の剣を抜く。
「「ではやろうか。互いの我を通すために…」」
「「勝負!!」」


私と奴は互いに武器を構えると同時に地を蹴った!
ヒュッ!
奴がいた場所に振り下すも、手ごたえがない。サッと周りに目を走らすと
左前方から槍が突き出されていた!
ギィィン!
剣の腹で槍を受け止める。しかしその感触はすぐに消えた。
「…青ス倚天【遮るもの無き天を貫く青き双剣】…!」
奴はそのまま懐に潜り込み、両手に持った双剣を斬り上げる!
私は仰け反って剣戟をかわし、距離を開けるため、後ろに跳ぶ。
「…アッキヌフォート【騎士の使いし必中の弓】…!」
それを見た奴は弓を出現させ、着地地点に目掛けて放つ!
それを弾くと私たちはにらみ合う。
「やっかいな戦い方だな。」
「そうかもな。」
「…エッケザックス【巨人狂わす小人の剣】…」
そう言いながら奴は武器を大剣に持ち替えていた。
「負けを認めるか?」
「そんなわけあるか!!」
私はそう言い、奴目掛けて突進する。
ガキィン!
上段からの奴の大剣と下段から斬り上げる私の剣が衝突した!


そこからは死闘だった。もうどのくらい戦い続けているかわからない。
私は大小さまざまな傷を負っているが奴はさほど傷を負っていない。
これほどまでに強いとは…!!
「さて、もうそろそろ終わりにするか。」
奴は剣を肩に担ぎながら、私に言った。
「ふ、ふざけるな!!」
私が奴に突進しようとするとそれよりも早く懐に入られた!
「そらっ!!」
声とともに私の剣が宙を舞った。
「しまっ・・。」
「そこだ!!」
剣に気を取られた隙に体のひねりを加えた強烈な蹴りが腹部に入った。
私はなすすべもなく味方のほうに吹っ飛んだ。
受け身を取れずに地面を転がっていると急に地面がなくなった。
そう、奴が作った地割れがあった。
なんとか左手を掛けるが落ちるのも時間の問題だろう…。
「おい!大丈夫か!!」
声のしたほうを見上げると奴は右手をこちらに伸ばしていた。
「早くつかまれ!!」
奴の右手をつかむと私は引き上げられた。私は地割れの淵に横たわりながら
「なぜ助けた?」
「ハァ・・、ハァ・・、人が死ぬのは嫌だからな、救える命なら救うのが当り前だろう?」
私は唖然とした。そして、おかしくなって笑った。
「くくく…、教団にいた奴からそんな言葉を聞くとは思わなかった。」
「さっきも言ったが俺は教団の教義に賛同しているわけといっただろう。」
「そうだったな。」
なおも話そうとするも奴の後ろから風切り音が聞こえた。
それに反応して奴はかばうように私に覆いかぶさってきた。
ドドドッ!
複数の矢が彼の背に突き刺さった!!


油断したな…。
吹っ飛ばした彼女に気を取られ過ぎた。
後ろを見ると10m先の森の中に20人くらいの教団兵が弓を構えていた。
「ご苦労だったな、お前のおかげで撤退は無事に終えることができたよ。
教団第1軍 軍団長副官 アキラ・ハヤカワ、いや異端者 アキラ・ハヤカワよ。」
「異端者だと…。」
「お前には敵と内通の容疑がかかっている。いや先ほども魔物を助けおって!!
教団に拾われた恩を忘れたか!!」
「ふん。初めから教団なんてどうでもよかった。そこにハインツがいたからいただけだ…。」
「まぁ、今となってはそんなことはどうでもよい。どちらにしろお前はここで死ぬのだからな。避ければどうなるかわかっているな?」
そうだ。俺が避ければ俺との戦いで負傷して動けない彼女に当たる。
かといって負傷した俺では彼女を抱えることは無理だった。
矢が俺目掛けて引き絞られる。
せめて彼女だけは守って見せる!!


「させんぞ!!」
奴らの背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
すると奴らは何が起きたのか判断できず、慌て始めた。
「キャッ!!」
注意が逸れた隙にレミリアを魔王軍のほうに投げ飛ばし、
俺はそばに落ちていた剣を拾いつつ、奴らに襲い掛かった!
教団兵は挟撃され、10人ほどの犠牲を出したのを見ると耐え切れず転送魔術を使い、その
場から消えていった。
そこで俺たちを救ってくれた人と対面する。
「やはりお前か…、リリィ。」
「大丈夫ですか!!隊長!」
そういってリリィはこちらに向かってくる。
そう、救ってくれたのは部下のリリィだった。
「ここにいる理由はあとで聞かせてくれ。先にすることがある。」
「ッッ!!ですがその傷では!!」
彼女の言葉を無視し、俺は言う。
「俺の任務は終わったようだが、一騎打ちの決着はつけなければな…。」
「…。」
「すまんが、その刀を貸してくれ。」
「…、わかりました。勝ってくださいね。」
そう言うと彼女は持っていた刀を差しだす。
俺は頷くと刀を受け取る。後ろを振り向くとレミリアは武器を構えて待っていた。
さすがは魔物というべきか回復力は大したものだ。
「お互い限界の様だな。」
「そうだな。俺も全力が出せるのは一太刀だけだろう。」
「ならば私も全力で答えよう。」
彼女は剣を構える。俺もそれに応じて刀を鞘に入れ、左腰から抜くように構える。
見つめ合ったのは一瞬、呼応したように同時に地を蹴る!!
「「ハッ!!」」
互いの剣が交差する!!
刀を振りぬくとその刀身が折れ、先が宙を舞っていた。
・・、俺の負けか…。
そう思った瞬間限界が来たのか、俺は意識をなくした…。
11/09/27 23:58更新 / まるぼろ
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■作者メッセージ
どうも!まるぼろです!
初投稿でしたが、いかがだったでしょうか!

この小説は約4か月前にこのサイトを知り、皆さんの小説を読んでいた時に
衝動的に書いたものを最近になって少し修正したものです。
一応どのようなエンドにするかまでは考えているのですが
何分大学生なので執筆スピードは遅いので、いつ完結するかわかりません。

また何か修正したほうがいいところは感想欄にお願いします。
できるだけ早く反映したいので…。

あとエロは今のところ書く予定はないです。(っていうか書けません!)
そんなまるぼろですが、これからよろしくお願いします!

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