Act.3<Alone Party>
〜冒険者ギルド ロビー〜
今日の仕事の情報を得るため、クロアはギルドの中へ入って行った。
入れ違いに青いジャケットの冒険者が出ていく。
彼は極最近名前を上げ始めた冒険者だ。いつもスタンドアローンで行動するクロアにとってさほど関係のない話だったが。
「よう、ネズっ子。何か例の物に関する情報は入っているか?」
「あんた何時も失礼だね。今現在は特に入っていないよ。知らせが入るまでゆっくりしていったら?」
クロアは訳あって普通のクエストを受けることができない。
それもそのはず、彼は正式な冒険者ギルドのメンバーではないからだ。
故に冒険者として旅の館を使うことができず、交通費などの支給もされない。
その分1回の依頼で入る収入は莫大な物があったが。
ちなみにどこから出ているかというとギルドの裏経費からだ。
どの組織でも叩けば埃は出るものである。
「あんたも難儀だよねぇ……正式に冒険者になっちゃえばそんな苦労しなくて済むのに。」
「ふん……追いかけている物が物だからな。ギルドとしても目の上の瘤だろうよ。」
冒険者ギルドは基本的に中立の立場だ。
特別魔物側へも肩入れしないが、教会相手でも特別に角を突き合わせることもない。
それだけに教会の暗部を追い掛け回すクロアが組織内にいると色々と不都合なのだ。
しかし、彼がその暗部を突き詰めることをやめると、魔物側へのダメージは計り知れない物がある。
どちらの不利益も出さずに、彼を支援し、対教会へもアクションを起こさない為にはクロアに軍資金をこっそりと渡して彼任せにする他は無いのだ。
「あ、あの!」
クロアが手を後ろで組んで頭を乗せてくつろいでいると、背後から少女の物と思わしき声がした。
頭だけ後ろに逸らしてそれを確認すると、ボーイッシュな少女……アルプがそこにいた。
「(っち……魔物か……このパターン、何度も何度も見飽きたな)」
「あなた、たまにこのギルドで見かけますよね?私はレマと言います!」
サキュバス種が冒険者となることは珍しくない。
伴侶が見つかった時の結婚資金や生活のための金を稼ぐために何か仕事をするというのは割とよくある事だ。
性の技に長けているものは娼婦になったり、人間だった頃に戦士の経験がある者は冒険者や傭兵になったりもする。
前者が8割、後者が2割程度だろうか。
恐らく彼女も男だった頃は冒険者か、もしくはどこかで傭兵でもやっていたのかもしれない。
「もし宜しければ友達に……」
「失せろ」
ホルスターからナハトを引きぬいて彼女の顎に突きつける。
まさかの行動に彼女は凍り付いている。
「っ……!」
「聞こえなかったか?さっさと失せろ。頭を吹き飛ばされる前にな。」
彼女は泣きながら仲間であろうサキュバスの冒険者に抱きついていた。
彼女は仕方ないな、という顔をしつつレマの頭を撫でている。そしてクロアの方を見ると、片手を縦にしてゴメンとサインを送ってきた。
何を隠そう、彼女もクロアに振られたクチなのだ。尤も、その理由も後で仲間に聞かされたので諦めてくれたのだが。
「相変わらず酷いね。事情を知らなきゃただの外道だよ。」
「事情を知らずに話しかけてくる方が悪い。相手がどういう奴なのか事前に調べるのは基本中の基本だ。」
彼は何度もこの方法で言い寄ってくる魔物娘を跳ね除けていた。
別に悪意があっての事ではない。彼女たちの最終的な目的は意中の男性と結ばれる事であり、彼と結ばれるということはイコール、彼女達の死を意味する。
ならば最初から嫌われるように仕向ければ言い寄ってくる者もいなくなる。
尤も、何も知らずに声を掛けてくる輩も居ない事もないのだが。
「ったく……胸糞わりぃ……」
「その言葉、そのままそっくりお返しするよ……」
何時ものラージマウスの情報屋が同時に悪態を吐いた。
「姐さん!入りましたよ!」
「例の?」
「はい!」
夕方頃、ギルドの中へとラージマウスが一人飛び込んできた。
彼女は情報屋の方へまっすぐと掛けてきて、例の敵に関する情報を報告する。
「緑の集落って所にガーディアンが大挙して押し寄せています!数は24!奇妙な装置も一緒です!」
報告のあった例のガーディアン……彼は報告を受ける前から何度か交戦したことがあるが、仮称を知ったのはあの青いジャケットの冒険者の報告を受け取ってからだ。
「奇妙な装置……ということは例のアレか?」
「らしいな。師匠は待機していてくれ。俺一人で行く。」
彼は金貨を1枚情報屋の方へ弾くと、ギルドの外へと飛び出していった。
「話を聞いたら即行動、か。ホント似ているね。アルに。」
「素行や外見は変わってしまったが……中身は昔のあいつのままだ。誰かが悲しむのを良しとしないおせっかい焼きだ。表には……出さないがね。」
〜緑の集落〜
彼が集落に着くと、既に異変は始まっていた。
真夏の筈なのに気温が氷点下近くまで下がり、雪が降っている。
「何度か見てはいるが……厄介なモンを作りやがったなぁ、クソが!」
この異変を起こしているのは十中八九例の機械のようなゴーレムだ。
天候や気温を操る装置で気温を下げ、爬虫類、ビー類などの低温に弱い魔物を捕まえてはどこかへと連れて行く。
無論、連れていかれた魔物は二度と戻ってこない。
見ると、複数のガーディアンが民家の一つを集中砲火している所だった。
もしかしたら中に誰かがいるのかもしれない。
「おーい、ポンコツどもぉ!デビルバグでも見つけて癇癪でも起こしてんのか?あぁ!?」
声を張り上げて注意を自分へと向ける。
すると、ガーディアン達は素早くクロアを取り囲んだ。これで当面はあの家に攻撃を加えられることはないだろう。
「よ〜し、いい子だ。下手にバンバン撃ちまくると怪我するからな。」
軽い挑発にも反応せず、1機が彼へと砲身を向ける。
砲撃タイプのガーディアンだ。
有無を言わさず発射されるが、彼はその砲弾を片手で受け止めていた。
「言ったろ?下手にバンバン打つと……」
それを彼は振りかぶり……
「怪我ぁするってなぁ!」
砲撃を行ったガーディアンへと投げつけた。
胸部を砲弾が貫通し、そのガーディアンが地面へと崩れ落ちる。
「悪い子にゃあお仕置きが必要だなァ?そうは思わねぇか?えぇ?」
戦士タイプのガーディアンが得物を抜き放ち、ジリジリと彼へ迫ってくる。
「尻叩きじゃ済まさねぇぞ?皆殺しだ!」
その内の1体へ一瞬で肉薄。拳で胸部装甲を突き破り、中のコアを握りつぶす。
さらに腕を振り回して団体へ残骸を投げつける。
「失せろ!」
斬りかかってきた1体をナハトの表面を滑らせるようにいなし、背中へ銃口を突きつけ、発砲。
内部のコアを砕かれ、機能を停止するガーディアン。
さらにその残骸を蹴り飛ばして近場の1体の足元を掬う。
倒れた1体にヴァーダントを突き立てる。
「お休み」
四方八方から砲撃タイプのガーディアンから砲身を突きつけられる。
「っとぉ!」
身をかがめた瞬間、頭上を大威力の砲弾が通り過ぎる。
綿密に弾道を計算していたのか、互いの砲弾で相打ちになることはないようだ。
「プレゼントだ!」
ヴァーダントを引き抜き、砲撃タイプの1体へ投げつける。
動体を貫かれて機能停止へと追い込んだ。
背後から戦士タイプが1。
振り下ろされた武器を躱して奪い取り、力任せにメッタ切りにする。
「遅い!」
ズタズタに切り裂かれた残骸を蹴り飛ばし、ミタクとナハトを抜き放つ。
それぞれ違う方へ向け、正確に砲撃タイプを打ち抜いていく。
胸部を撃ちぬかれたガーディアンは黒煙を上げながら雪の中へと倒れた。
「さて、残るはお前らだけだなァ……降参するか?許すつもりはさらさら無いがな。」
残るガーディアンは3体。
それぞれが意思疎通を図っているのか兜の奥の光がキラキラと瞬いている。
意見が一致したのか、3体はクロアに背を向けて逃げ出した。
「ゲームオーバーだな。」
そこいらに落ちていたガーディアンの槍を拾い上げ、逃げる彼らの背中へと投げつける。
1列になって綺麗に逃げていたガーディアンはまとめて貫かれ、物言わぬ鉄の塊と化した。
「さて、今日の仕事はこれまで……っと。」
ヴァーダントを引きぬいてホルダーへ戻し、帰りの道を歩み始める。
降っている雪も誰かが天候制御装置を破壊すれば直に収まる。
ふと、背後に視線を感じて振り返ったが、彼は何も見つけることはできなかった。
〜冒険者ギルド ロビー〜
彼がギルドマスターへの報告の為に戻ってくると、中は酷い言い合いの応酬が行われていた。
「だから!クロアと私は何も無いと言っているだろうが!」
「8年も同棲してて何にもないなんてありえないでしょうが!?実は気になったりしているんじゃない?」
情報屋とサラが言い争っている。
どうやらクロアと彼女の仲について喧々囂々の争論になっているらしい。
「ったく……どいつもこいつも……」
「仕方ないじゃないの。アレが私たちの本質なのだから。」
音もなく歩み寄ってくるミリア。
今回の襲撃者の事に関して聞かせろと言うことだろう。
「今回も証拠品無し。あんたのお気に入りの報告書にもあった天候制御装置を使っていた。数は24。それだけだ。」
「全部破壊したの?」
「あぁ。何か質問は?」
彼女は少し躊躇い、そして口を開いた。
若干声が震えている。
「その村に……アルテアはいなかった?」
「さぁな。俺は見ていない。くたばってなきゃそのうち帰ってくるだろ?」
それで話は終わりだとばかりに彼は自分の家の方へと帰っていく。
彼女はその背中を黙って見つめていた。
「で、貴方達はいつまで言い争いをしているつもり?」
見るに見かねたミリアが二人の仲裁へ入る。
おそらく放置すれば夜が明けるまで言い争っているだろう。
「「だってこいつが!」」
「どうでもいいけど、クロアはもう帰ったわよ?サラは帰らなくていいの?」
それを聞いてサラはあんぐり、情報屋は目をパチクリさせている。
「あいつ……面倒臭がってさっさと帰ったな……?」
「本当に付き合っているわけじゃないんだ……普通置いて帰るなんて無いもんね。」
どうやらその事実で決着が付いたらしく、サラは家路へ、情報屋はテーブルの上のお菓子をかじり始める。
一度区切りがついてしまえばあっけないものだと、ミリアは溜息をつくのだった。
11/11/20 00:14更新 / テラー
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