お人好しな僕とものぐさ姉さん
スーパーの袋を2つ、両手にぶら下げながら少し日が暮れかけた道を目的のアパートへ向けて歩いて行く。
袋の中にはじゃがいも、人参、玉葱……いわゆるカレーの材料が入っている。もう一つはカンチューハイなどのお酒がゴロゴロ。
目的地……古びたアパートの錆びた階段をカンカンと高い音を立てながら上がり、手前から二番目の部屋のドアをノックする。
「はぁ〜い……」
ドアの中からは気の抜けるような女の人の声。ギシギシと軋みを上げながら木目調の塗装が施されているドアがゆっくり開いていく。
中から出てきたのは陰気な顔をした……それでいて一目で美形と呼べる女性だった。
だぼっとした大きめの白いTシャツを着ており、片方の肩がはみ出してしまっている。
「夕飯の材料買ってきたよ、花梨さん」
「あ、よーすけ。入って入って」
通されて入った部屋の中は、やはり『また』散らかっていた。
「もう……昨日片付けたばかりなのにまた散らかして……」
「だってぇ、いちいちゴミ箱とか洗濯機まで行くの面倒なんだものぉ」
軽くため息を吐きながらスーパーの袋をかろうじてスペースのある台所へと退避させ、台所の床に散らばったチューハイやビールの缶(一晩でこれだけ飲んだのだろうか?)を軽く潰してゴミ箱へ放り投げ、ベッドの周りに落ちている脱ぎっぱなしの服を洗濯物籠へ放り込む。
そしてふと、入れた洗濯物の種類を思い起こして嫌な予感がした。
「花梨さんちょいこっち」
「なぁに〜?」
ふらふらと近づいてきた花梨さんのだぼだぼのTシャツをまくり上げる。
はたして、その下にあった下半身は……
─何も着ていなかった─
殻を剥いた茹で卵のようにつるりとした丘に縦スジが走り、丘を二分している。
文字通りまっぱである。何を考えているのだこの人は。
「よーすけ、えっち」
「男が来るのに下着も何も付けないでTシャツ一枚でふらふらする人に言われたくないよ」
せめて下着だけでも着させようとタンスを漁って丸め込まれた……というより、僕が片付けた下着を彼女へと軽く放ってあげる。
とりあえず散らかっているのが衣服とゴミ程度だったので片付けは終了。掃除機……は無いから箒とちりとりで掃除して、あとは夕飯の仕度を……
「よーすけ」
「何?花梨さん」
「パンツ履かせて」
「………………」
事の始まりは1週間程前になる。
学校の帰り道、いつもとは違う道で帰ろうと寄り道をした時の事だ。
「……ん?」
進む先の脇道の路上を見ると、地面に人の手が。
面倒な事に巻き込まれそうだ、と思ったけれどこのまま見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪い。ということでとりあえず様子を見るために近づくことに。
「大丈夫です……か……」
そこには路上で車に轢かれたカエルがごとき恰好で倒れている女性がいた。
長く伸ばされた髪が辺りに広がっており、下手をするとB級ホラー映画などより恐ろしい光景である。
「も、もしもーし」
屈んで軽く肩を揺すってみると、かすかに呻いて反応を返してくる。
そして、吐く息がやたらお酒臭い。
「ぅ…………」
「意識はある……かな?」
このまま轢かれたカエル状態にしておいても見た目が悪いので抱き起こす。
そして、彼女の顔に一瞬見とれてしまった。タレ目気味で目に隈までできているものの、顔そのものはものすごく美人だった。
「……き……」
「き?」
微かにだが、彼女が口を動かす。もっとよく聞き取ろうと口元に耳を近づけると……
「きもち……わるい……」
「……へ?」
ガシィッ!という音が聞こえそうなぐらい強い力で肩を掴まれる。
振りほどくこともできず、彼女が顔を僕の胸元へと押し付け、そして……
ナイアガラリバース
その後、吐瀉物とアルコールの匂いに苛まれながら彼女の曖昧な案内の元アパートまで連れて行き、泥酔してまともに体を動かせない彼女を風呂に入れて(無論リバースされた僕も一緒に入れてもらい)、ゴミ屋敷と化した部屋の中を片づけ、ついでに冷蔵庫の中にかろうじてあった野菜と米を使ってその日の夕食の雑炊を作ってあげたのが一週間前の事の顛末だ。
一緒に風呂に入ってドキドキしなかったのかって?
例えどんなに美人であろうと道端でカエルプレス状態の女にゲロ浴びせかけられた時点で女性と見る選択肢は消えていると思うんだ。
それからというもの、その日から通い妻(夫?)状態になって彼女の身の回りの世話などをしている。
コトコトと鍋の中の黄褐色の液体が泡を立てて煮立つ。
こうして聞くとなんだか怪しい物を作っているみたいだけれど、実際に作っているのはただのカレーだ。
炊飯器──僕が来るまではホコリを被っていた──からは白米が炊けるいい匂いが漂ってくる。
キッチンからさらに奥、居間では花梨さんが原稿用紙に向かって鉛筆を走らせている。
彼女は小説家だそうで、常日頃はこうして机に向かっているか気分転換にお酒を飲みに行くかしているそうだ。
外出するのが面倒な日は冷蔵庫の中に買いだめしてある缶ビールなどで済ませる辺りこの人の酒好きは相当である。
「(そういえば……花梨さんってどういう話を書いてるんだろ)」
以前どんな話を書いているのか気になって覗きこんでみた所、ものすごい勢いで原稿を隠されてしまった。よほど見せたくなかったのだろうけれど、ちょっと傷ついたのは秘密だ。
「ご馳走様でした」
「ごちそうさまぁ」
僕が作ったカレーを二人で食べ、食後の時間をまったり過ごす。
テレビからはゴールデンタイムのバラエティ番組が流れ、芸人が喧しく騒ぎまくる。まぁ、そういう趣旨の番組なのだから文句を言ってもしかたがないけど。
「ねぇ、よーすけ」
「なんでしょ?」
テレビを眺めながら半分生返事気味に返答する。テレビでは細身の芸人がタカアシガニの真似をして観客の笑いを取っていた。
「よーすけってえっちしたことある?」
「無いよ」
花梨さんがまたぞろ変なことを聞き出した。この前は確か『おっぱいは大きいのと小さいのどっちが好きか』だった気がする。真面目に答えるのも面倒だったので『そんなことよりうどんが食べたい』と返しておいたけど。
「してみたい?」
「機会があったらね〜」
太眉のセーラー服芸人が山を登っている。なんだかこの人に要求される事が年々ハードになっている気がするんだよね。そのうち宇宙とか行ってしまったりしないだろうか。
じゃあ、してみる?
一瞬耳を疑った。錆びつくような音をたてている気がする首を無理矢理花梨さんの方へと向けると、いつもの様に眠たそうな目で僕を見ていた。
「よく聞こえなかったらもう一回聞いてもいい?」
「よーすけは機会があったらえっちしてみたいんだよね?」
「まぁ、うん」
言い淀んでしまうのは仕方がないだろう。なんだか、色々逃げられないような空気だし。
「じゃあ、わたしとえっちしてみる?」
「それは冗談で言っているのかい?」
「ほんき。わたし、よーすけに嘘ついたこと、ない」
心臓が変な感じにバクバクと波打っている。彼女の事は女性として見ていなかった筈なのに……何故だろう?今の彼女は妙に艶っぽく見えてしまう。
テレビの音が近くなのに遠くに聞こえ、しゃべっている事がまるでわからない。
1秒が10分にも、1時間にも引き伸ばされたかのような静寂。
僕は……
「……その気になったらね」
ヘタレた。土台気の弱い童貞に据え膳添えて食べさせようなど無理があるのだ。
もう、この事は聞かなかったことにしよう。明日からはもう世話焼きの少年とものぐさなお姉さんの関係にもど……
「じゃあ、噛んでいい?」
「……え?」
ほとんど音はしなかったと思う。気がつくと花梨さんの顔がほぼ目の前まで来ていた。
抵抗する暇もなく彼女の口元が僕の首筋に埋まり……
「っ……!?」
甘痒いような痛みが首筋を貫く。軽く恐怖を感じて彼女の肩を押して引き剥がそうとする、が。
両腕に満足な力が入らない。それどころか噛まれたところからじわじわと熱いしびれに似た悪寒が体全体へと回ってくる。
「一体……何を……」
未知の感覚で朦朧とする意識をつなぎ止め、霞む視界で彼女の姿を見た途端、思考が凍りついた。
彼女がTシャツを脱ぎ捨てている。それは、いい。
白磁でできたような裸身に走るあの毒々しい紫の筋。
頭頂から伸びる甲殻に包まれた触覚のようなもの。
そして何より……ギチギチと怪音を鳴らす発生源は……まるで蟲。言ってしまえばムカデのような物が彼女の上半身から伸びている。
「かい……ぶつ……?」
それは古来より日本に伝わる異形……妖怪と呼ぶにふさわしい姿だった。
「よーすけ、えっち、しよ」
「何、言って……」
「よーすけのそこ、その気になってる」
言われてみて初めて気づく。僕のあそこがガチガチになるまで張り詰めて軽い痛みを発するぐらいになっている。
硬くなっているだけにとどまらず、その先端からはカウパーが垂れ流しになっていてジーンズの前すら軽くシミができていた。
「なん、で……!」
「くるしいよね?せつないよね?大丈夫、いっぱい出せばおさまるから」
彼女が僕の体を抱きしめ、蟲の体の足が蠢いて僕の体を彼女と密着させるように拘束する。
ベルトの留め具を外され、ジーンズを脱がされると一瞬だけカウパーに濡れたあそこがひやりとした空気に触れる。
しかしほとんど間隔を置かずに今度はさらにぬるりとした温かい物が押し付けられた。
「わたしのおまんことよーすけのおちんちんがこすれてるよ?きもちいいね?」
「まっ……てぇ……!」
あそこを擦り上げる感触一つ一つがとんでもないほどの快感となって全身を苛む。
それでなくても彼女は人生の中で見たことが無いほどの美人なのだ。その人が密着しているだけで─たとえそれが普段女性として意識したことが無いとしても─昂ってしまう。
「くぁっ……で、るぅ……!」
どくどくと、まるで暴発するかのように白濁が僕と彼女のお腹の間で溢れだし、糸をひく。
彼女はその温かさに目を細めて恍惚とした表情になり、その感触をすりあわせて確かめている。小さく体を揺する度にねちゃり、という水っぽい音が狭い室内に響き渡る。
「いっぱい、でた。でもまだまだできるよね?よーすけ」
一度出したにも関わらず、一向に萎える気配を見せない僕のあそこ。
まるで別の生き物のようにどくどくと脈打ち、もっと欲しいとでも言うかのようにびくびくとその身を震わせている。
「ね、入れちゃってもいいよね?よーすけとえっちしちゃってもいいよね?」
「かり……さん……!まって、イったばかりだから敏感で……!」
硬度を保ったままのあそこが彼女の割れ目のなかにずるり、ずるりと徐々に飲み込まれていく。そして、ある程度の場所まで行くと柔らかな抵抗が加わり、無くなった。
初めて入れる女の人のそこは温かく、ぐねぐねと無秩序にうねり、襞の一つ一つがねっとりとあそこに絡みついてくる。
我慢の仕方も分からず、ただひたすらに快感に翻弄されるぼくのあそこ。
「んくぅぅぅう……♥」
「かりん、さん!うごかないで……でちゃ、ぅ……!」
最低限中に出さないようにと彼女の腕の中から抜けだそうともがいた、が。
「だめ。はなさないよ、よーすけ」
がぶり、と。またしても首筋に歯が突き立てられる。
全身に悪寒が走る……いや、これは度を越した快感だった。
あそこが消えてしまったのではないかというほどの射精感がこみ上げ、抗うことも出来ずに彼女の胎内へ精液をぶちまける。
「うぐ、ぁぁぁぁぁ……!」
「あぁ……♥よーすけ、よーすけぇ……♥」
まだろくに動かしていないにも関わらず、その締め付けと正体不明の快楽で強制的に絶頂まで登らせられる。
さらに彼女は腰まで使い始め、無数の襞と溢れだす粘液で僕のあそこをしごきはじめたのだ。
「もっとぉ……よーすけのお汁がほしいの……♥よーすけのえっちなお汁で赤ちゃん孕むのぉ……♥」
「───っ!はーっ!はーっ!……かりんさん!とめて、こしとめてぇ!おかひく、なるぅ……!」
容赦なく蠢く膣壁、絡みつく襞、ねっとりと扱き上げる淫らな腰使い。
それだけでなく、濡れた瞳に宿る燃えたぎるような情欲。甘くとろけるような息遣い。
全てが僕を堕とすようにと最適化されたような痴態。僕はただ、その全てに喘ぐ他は無くなっていた。
「きもちいい?ね、きもちいい?よーすけ♥」
「いい、から……うごかないで……!こわれる、こわれるぅ!」
もはや自分が射精しているのかしていないのかすらわからない。
感覚が麻痺し、永続的にもたらされる感覚にあそこの先が溶け落ちてしまったのではないかという錯覚さえ覚えてしまう。
「ね、よーすけ。ちゅーしていい?いいよね?」
「ちゅー、って……んむっ!?」
拒否も何も無く、殆ど衝動的に唇が奪われる。初めて経験するそれは温かく、まるでマシュマロのような柔らかさと弾力を持って心を溶かし尽くしていく。
そして、唇を割り開いて彼女の下が侵入してきた直後の事だ。
「んっ!?ん〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
急に彼女の体がびくびくと痙攣し、下腹部に何か生暖かいものが吹き付けてきた。
挿入されたままのあそこが複雑にうねり蠢く膣壁によって急激に締め付けられる。
今までと全く違う刺激があそこに襲いかかり、予期せぬ刺激で暴風に嬲られるような感覚だ。
「(これ、今までと違う……。花梨さん……イっているのかな……?)」
「ひぅ……あ゙……あ゙ー……」
今までの彼女の表情が甘美なごちそうに舌鼓をうつよう、とするのであれば今は飲んだお酒が思いの外度数が高くてびっくりしているという風な印象を受ける。
試しに暴発しそうなあそこをぞりぞりとゆっくり引きぬいてみる。
「ひ……いや……ぁ……」
「っ……!」
引き抜いた僕のあそこに桃色の肉襞が絡みついてめくれ上がっている。愛液と精液と彼女の破瓜の血が混ざって泡立ち、蛍光灯の光を反射して艶かしく光る。
それと同時に空気に触れた部分が冷たくなり、温かい膣内が恋しくなって慌てて突き込むと、どちゅりという擬音がぴったりな程深々と突き刺さった。
「ひきぃぃぃぃいいいいい!?」
「くぁ……!?」
亀頭の先端が子宮口を擦って脇に逸れ、結果的に子宮口を抉る形になって頭が焼けるような快感が体全体を犯す。
しかしその快感に焼かれているのは僕だけでは無いらしい。
彼女も断続的にあそこから潮を吹いて全身を痙攣させて悶えている。
半分白目を剥き、口をあんぐりと開いて喘ぐ様は成人漫画などでしか見たことのないような俗に言う『アヘ顔』になっていた。
「ひゃ……りゃめ、これりゃめぇ……」
「はぁ……はぁ……かりん、さん……もっと……」
ある程度刺激に慣れてくると、じっくりと彼女の中を味わう余裕が生まれてきた。
再びゆっくりと引き抜くと、無数の襞がねっとりとあそこに絡みついてくる。
入り口近くの天井、そこを敏感な亀頭が通過するとつぶつぶとした感触がゾクゾクするような刺激をもたらしてくる。
強く突き込めば子宮口が綻んで亀頭を咥え込み、その状態から引き抜こうとすると名残惜しげに吸い付いてくる。その度に腰砕けになりそうな快感が腰の奥にずんと迫ってくる。
「よー、すけ、そこりゃめ……しんりゃう……きもひよすぎて、しんりゃう……♥」
「かりんさん、エッチすぎるよ……こんなに喘いで、あそこからお汁だらだら垂らして……」
ゆっくり引き抜き、強く突き込み、深く押し付けて子宮口をぐりぐりと押しつぶす。
経験なんて皆無な僕の技術でも花梨さんは面白いように乱れてくれる。それが嬉しくて限界を忘れて一心不乱に彼女の中を抉って行く。
「かりんさん、もっとキス……」
「りゃめ、ちゅーいや、おかしくなっちゃうからいや、ぁ……ん〜〜〜〜〜〜!」
弱々しく抵抗する彼女の唇を貪るように口づけを落としていく。
何故か彼女はキスに弱いらしく、触れた途端にあそこに突き入れるより激しく感じるようだ。
舌をねじ込んでねっとりと構内をねぶり回すと全身に鳥肌が立つほどの快感に襲われるらしい。仕組みは……よくわからない。
「も、出そう……!かりんさん、このまま中に出していい?」
「や、いまらされたら……らされたらぁ……♥とけひゃう、とけひゃうーーーー!♥」
言葉とは裏腹に彼女の膣内があそこを逃がすまいと強く締め付けてくる。
その誘いに乗るように精液を、それこそ今までで一番濃いのを彼女の中へとぶち撒けた。
「い、きゅ……きゅぅぅぅぅうううううう!」
「――――――――!」
全身がざわざわと泡立つ。魂が溶けて彼女の中に流れだしていくような錯覚さえ覚える射精は僕の心と彼女の心を内側から溶かし、沸騰させていった。
もはや彼女は指一本動かすことができないらしく、脚、腕ともにぐったりと床へと投げ出して仰向けに倒れている。
僕も全身を動かすのが億劫で、半ば横へ転がるように彼女の中からあそこを抜き出す。
秘部を動かす力も無いようで、中に溜まった精液がこぼれ落ちずにこぷりと泡を立ててはじけた。
「……あぁ、それでなのか」
そこで僕は、ようやく彼女がいつもノーパン状態なのかに思い至る。
この姿じゃ人間用のパンツなんて履けないよね。
「……ん?」
今の交わりの衝撃で棚が揺れたのか、原稿が一枚はらりと落ちてくる。
そこに書かれていた一文を見て妙に納得してしまった。
『よーすけのここ、凄く腫れてる。苦しい?』
どうやら彼女は自分自身と僕をモデルに官能小説を書いていたらしい。そりゃ見せたくないよね。
快感の余り気絶してしまった彼女にタオルケットを掛けると、様々な体液で汚れてしまった体をシャワーで洗い流すべく立ち上がる……
「……れない」
事もできずにまともに力の入らない体を奮い立たせ、這いずりながらバスルームまで行くことに。
花梨さんは……あの姿じゃ運べないよね。どう考えても荷が重すぎる。
あの日の出来事から数週間経った。
「よーすけ、今日の晩御飯は?」
「きんぴらごぼうに焼鮭と味噌汁だよ。もうすぐできるからお茶碗出しておいて」
あんなことがあってからも僕は彼女の家へ通い妻を続けている。
と言うより、一日でも行かないと部屋の中が酷い(散らかる)上に彼女が押し倒してしこたま毒(どうやら噛み付いた時に注入するようだ。これも後で知った事)を流し込まれるので、いかざるを得ない状況になってしまったのだけど。
「よーすけ」
「何?」
鮭を少し切り取ってご飯と一緒に食べる。うん、油の乗った魚にはやっぱ白ご飯だよね。
「結婚しよ」
「げふっ!ゴホッゴホッ!」
むせた。突拍子もない事を言い出すのは以前からだったけど、ここ最近は妙にストレートな事が多い気がする。
「花梨さん、僕まだ学生。あんだーすたん?」
「愛があればだいじょうぶ」
サムズアップして自信満々に答える花梨さんと、頭痛が酷くて頭を抱える僕。
多分この人は人間の常識が文字通り通用しないのだろう。
「愛があっても法律は曲げられません。せめて僕が高校を卒業するまで待っていてほしいな」
「ぇー……」
「不満ならご飯抜きね」
「やだ」
ぷくりと膨らませた頬が可愛らしい。膨らんだ頬を人差し指でつつくと気の抜けるような音がして頬から空気が抜けていく。
「あと一年半、我慢してよ。ね?」
「……うん」
櫻井 陽介
職業:高校生
進路希望:専業主夫
「櫻井、これ書き直しだ」
「そんな!?」
袋の中にはじゃがいも、人参、玉葱……いわゆるカレーの材料が入っている。もう一つはカンチューハイなどのお酒がゴロゴロ。
目的地……古びたアパートの錆びた階段をカンカンと高い音を立てながら上がり、手前から二番目の部屋のドアをノックする。
「はぁ〜い……」
ドアの中からは気の抜けるような女の人の声。ギシギシと軋みを上げながら木目調の塗装が施されているドアがゆっくり開いていく。
中から出てきたのは陰気な顔をした……それでいて一目で美形と呼べる女性だった。
だぼっとした大きめの白いTシャツを着ており、片方の肩がはみ出してしまっている。
「夕飯の材料買ってきたよ、花梨さん」
「あ、よーすけ。入って入って」
通されて入った部屋の中は、やはり『また』散らかっていた。
「もう……昨日片付けたばかりなのにまた散らかして……」
「だってぇ、いちいちゴミ箱とか洗濯機まで行くの面倒なんだものぉ」
軽くため息を吐きながらスーパーの袋をかろうじてスペースのある台所へと退避させ、台所の床に散らばったチューハイやビールの缶(一晩でこれだけ飲んだのだろうか?)を軽く潰してゴミ箱へ放り投げ、ベッドの周りに落ちている脱ぎっぱなしの服を洗濯物籠へ放り込む。
そしてふと、入れた洗濯物の種類を思い起こして嫌な予感がした。
「花梨さんちょいこっち」
「なぁに〜?」
ふらふらと近づいてきた花梨さんのだぼだぼのTシャツをまくり上げる。
はたして、その下にあった下半身は……
─何も着ていなかった─
殻を剥いた茹で卵のようにつるりとした丘に縦スジが走り、丘を二分している。
文字通りまっぱである。何を考えているのだこの人は。
「よーすけ、えっち」
「男が来るのに下着も何も付けないでTシャツ一枚でふらふらする人に言われたくないよ」
せめて下着だけでも着させようとタンスを漁って丸め込まれた……というより、僕が片付けた下着を彼女へと軽く放ってあげる。
とりあえず散らかっているのが衣服とゴミ程度だったので片付けは終了。掃除機……は無いから箒とちりとりで掃除して、あとは夕飯の仕度を……
「よーすけ」
「何?花梨さん」
「パンツ履かせて」
「………………」
事の始まりは1週間程前になる。
学校の帰り道、いつもとは違う道で帰ろうと寄り道をした時の事だ。
「……ん?」
進む先の脇道の路上を見ると、地面に人の手が。
面倒な事に巻き込まれそうだ、と思ったけれどこのまま見て見ぬふりをするのも寝覚めが悪い。ということでとりあえず様子を見るために近づくことに。
「大丈夫です……か……」
そこには路上で車に轢かれたカエルがごとき恰好で倒れている女性がいた。
長く伸ばされた髪が辺りに広がっており、下手をするとB級ホラー映画などより恐ろしい光景である。
「も、もしもーし」
屈んで軽く肩を揺すってみると、かすかに呻いて反応を返してくる。
そして、吐く息がやたらお酒臭い。
「ぅ…………」
「意識はある……かな?」
このまま轢かれたカエル状態にしておいても見た目が悪いので抱き起こす。
そして、彼女の顔に一瞬見とれてしまった。タレ目気味で目に隈までできているものの、顔そのものはものすごく美人だった。
「……き……」
「き?」
微かにだが、彼女が口を動かす。もっとよく聞き取ろうと口元に耳を近づけると……
「きもち……わるい……」
「……へ?」
ガシィッ!という音が聞こえそうなぐらい強い力で肩を掴まれる。
振りほどくこともできず、彼女が顔を僕の胸元へと押し付け、そして……
ナイアガラリバース
その後、吐瀉物とアルコールの匂いに苛まれながら彼女の曖昧な案内の元アパートまで連れて行き、泥酔してまともに体を動かせない彼女を風呂に入れて(無論リバースされた僕も一緒に入れてもらい)、ゴミ屋敷と化した部屋の中を片づけ、ついでに冷蔵庫の中にかろうじてあった野菜と米を使ってその日の夕食の雑炊を作ってあげたのが一週間前の事の顛末だ。
一緒に風呂に入ってドキドキしなかったのかって?
例えどんなに美人であろうと道端でカエルプレス状態の女にゲロ浴びせかけられた時点で女性と見る選択肢は消えていると思うんだ。
それからというもの、その日から通い妻(夫?)状態になって彼女の身の回りの世話などをしている。
コトコトと鍋の中の黄褐色の液体が泡を立てて煮立つ。
こうして聞くとなんだか怪しい物を作っているみたいだけれど、実際に作っているのはただのカレーだ。
炊飯器──僕が来るまではホコリを被っていた──からは白米が炊けるいい匂いが漂ってくる。
キッチンからさらに奥、居間では花梨さんが原稿用紙に向かって鉛筆を走らせている。
彼女は小説家だそうで、常日頃はこうして机に向かっているか気分転換にお酒を飲みに行くかしているそうだ。
外出するのが面倒な日は冷蔵庫の中に買いだめしてある缶ビールなどで済ませる辺りこの人の酒好きは相当である。
「(そういえば……花梨さんってどういう話を書いてるんだろ)」
以前どんな話を書いているのか気になって覗きこんでみた所、ものすごい勢いで原稿を隠されてしまった。よほど見せたくなかったのだろうけれど、ちょっと傷ついたのは秘密だ。
「ご馳走様でした」
「ごちそうさまぁ」
僕が作ったカレーを二人で食べ、食後の時間をまったり過ごす。
テレビからはゴールデンタイムのバラエティ番組が流れ、芸人が喧しく騒ぎまくる。まぁ、そういう趣旨の番組なのだから文句を言ってもしかたがないけど。
「ねぇ、よーすけ」
「なんでしょ?」
テレビを眺めながら半分生返事気味に返答する。テレビでは細身の芸人がタカアシガニの真似をして観客の笑いを取っていた。
「よーすけってえっちしたことある?」
「無いよ」
花梨さんがまたぞろ変なことを聞き出した。この前は確か『おっぱいは大きいのと小さいのどっちが好きか』だった気がする。真面目に答えるのも面倒だったので『そんなことよりうどんが食べたい』と返しておいたけど。
「してみたい?」
「機会があったらね〜」
太眉のセーラー服芸人が山を登っている。なんだかこの人に要求される事が年々ハードになっている気がするんだよね。そのうち宇宙とか行ってしまったりしないだろうか。
じゃあ、してみる?
一瞬耳を疑った。錆びつくような音をたてている気がする首を無理矢理花梨さんの方へと向けると、いつもの様に眠たそうな目で僕を見ていた。
「よく聞こえなかったらもう一回聞いてもいい?」
「よーすけは機会があったらえっちしてみたいんだよね?」
「まぁ、うん」
言い淀んでしまうのは仕方がないだろう。なんだか、色々逃げられないような空気だし。
「じゃあ、わたしとえっちしてみる?」
「それは冗談で言っているのかい?」
「ほんき。わたし、よーすけに嘘ついたこと、ない」
心臓が変な感じにバクバクと波打っている。彼女の事は女性として見ていなかった筈なのに……何故だろう?今の彼女は妙に艶っぽく見えてしまう。
テレビの音が近くなのに遠くに聞こえ、しゃべっている事がまるでわからない。
1秒が10分にも、1時間にも引き伸ばされたかのような静寂。
僕は……
「……その気になったらね」
ヘタレた。土台気の弱い童貞に据え膳添えて食べさせようなど無理があるのだ。
もう、この事は聞かなかったことにしよう。明日からはもう世話焼きの少年とものぐさなお姉さんの関係にもど……
「じゃあ、噛んでいい?」
「……え?」
ほとんど音はしなかったと思う。気がつくと花梨さんの顔がほぼ目の前まで来ていた。
抵抗する暇もなく彼女の口元が僕の首筋に埋まり……
「っ……!?」
甘痒いような痛みが首筋を貫く。軽く恐怖を感じて彼女の肩を押して引き剥がそうとする、が。
両腕に満足な力が入らない。それどころか噛まれたところからじわじわと熱いしびれに似た悪寒が体全体へと回ってくる。
「一体……何を……」
未知の感覚で朦朧とする意識をつなぎ止め、霞む視界で彼女の姿を見た途端、思考が凍りついた。
彼女がTシャツを脱ぎ捨てている。それは、いい。
白磁でできたような裸身に走るあの毒々しい紫の筋。
頭頂から伸びる甲殻に包まれた触覚のようなもの。
そして何より……ギチギチと怪音を鳴らす発生源は……まるで蟲。言ってしまえばムカデのような物が彼女の上半身から伸びている。
「かい……ぶつ……?」
それは古来より日本に伝わる異形……妖怪と呼ぶにふさわしい姿だった。
「よーすけ、えっち、しよ」
「何、言って……」
「よーすけのそこ、その気になってる」
言われてみて初めて気づく。僕のあそこがガチガチになるまで張り詰めて軽い痛みを発するぐらいになっている。
硬くなっているだけにとどまらず、その先端からはカウパーが垂れ流しになっていてジーンズの前すら軽くシミができていた。
「なん、で……!」
「くるしいよね?せつないよね?大丈夫、いっぱい出せばおさまるから」
彼女が僕の体を抱きしめ、蟲の体の足が蠢いて僕の体を彼女と密着させるように拘束する。
ベルトの留め具を外され、ジーンズを脱がされると一瞬だけカウパーに濡れたあそこがひやりとした空気に触れる。
しかしほとんど間隔を置かずに今度はさらにぬるりとした温かい物が押し付けられた。
「わたしのおまんことよーすけのおちんちんがこすれてるよ?きもちいいね?」
「まっ……てぇ……!」
あそこを擦り上げる感触一つ一つがとんでもないほどの快感となって全身を苛む。
それでなくても彼女は人生の中で見たことが無いほどの美人なのだ。その人が密着しているだけで─たとえそれが普段女性として意識したことが無いとしても─昂ってしまう。
「くぁっ……で、るぅ……!」
どくどくと、まるで暴発するかのように白濁が僕と彼女のお腹の間で溢れだし、糸をひく。
彼女はその温かさに目を細めて恍惚とした表情になり、その感触をすりあわせて確かめている。小さく体を揺する度にねちゃり、という水っぽい音が狭い室内に響き渡る。
「いっぱい、でた。でもまだまだできるよね?よーすけ」
一度出したにも関わらず、一向に萎える気配を見せない僕のあそこ。
まるで別の生き物のようにどくどくと脈打ち、もっと欲しいとでも言うかのようにびくびくとその身を震わせている。
「ね、入れちゃってもいいよね?よーすけとえっちしちゃってもいいよね?」
「かり……さん……!まって、イったばかりだから敏感で……!」
硬度を保ったままのあそこが彼女の割れ目のなかにずるり、ずるりと徐々に飲み込まれていく。そして、ある程度の場所まで行くと柔らかな抵抗が加わり、無くなった。
初めて入れる女の人のそこは温かく、ぐねぐねと無秩序にうねり、襞の一つ一つがねっとりとあそこに絡みついてくる。
我慢の仕方も分からず、ただひたすらに快感に翻弄されるぼくのあそこ。
「んくぅぅぅう……♥」
「かりん、さん!うごかないで……でちゃ、ぅ……!」
最低限中に出さないようにと彼女の腕の中から抜けだそうともがいた、が。
「だめ。はなさないよ、よーすけ」
がぶり、と。またしても首筋に歯が突き立てられる。
全身に悪寒が走る……いや、これは度を越した快感だった。
あそこが消えてしまったのではないかというほどの射精感がこみ上げ、抗うことも出来ずに彼女の胎内へ精液をぶちまける。
「うぐ、ぁぁぁぁぁ……!」
「あぁ……♥よーすけ、よーすけぇ……♥」
まだろくに動かしていないにも関わらず、その締め付けと正体不明の快楽で強制的に絶頂まで登らせられる。
さらに彼女は腰まで使い始め、無数の襞と溢れだす粘液で僕のあそこをしごきはじめたのだ。
「もっとぉ……よーすけのお汁がほしいの……♥よーすけのえっちなお汁で赤ちゃん孕むのぉ……♥」
「───っ!はーっ!はーっ!……かりんさん!とめて、こしとめてぇ!おかひく、なるぅ……!」
容赦なく蠢く膣壁、絡みつく襞、ねっとりと扱き上げる淫らな腰使い。
それだけでなく、濡れた瞳に宿る燃えたぎるような情欲。甘くとろけるような息遣い。
全てが僕を堕とすようにと最適化されたような痴態。僕はただ、その全てに喘ぐ他は無くなっていた。
「きもちいい?ね、きもちいい?よーすけ♥」
「いい、から……うごかないで……!こわれる、こわれるぅ!」
もはや自分が射精しているのかしていないのかすらわからない。
感覚が麻痺し、永続的にもたらされる感覚にあそこの先が溶け落ちてしまったのではないかという錯覚さえ覚えてしまう。
「ね、よーすけ。ちゅーしていい?いいよね?」
「ちゅー、って……んむっ!?」
拒否も何も無く、殆ど衝動的に唇が奪われる。初めて経験するそれは温かく、まるでマシュマロのような柔らかさと弾力を持って心を溶かし尽くしていく。
そして、唇を割り開いて彼女の下が侵入してきた直後の事だ。
「んっ!?ん〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
急に彼女の体がびくびくと痙攣し、下腹部に何か生暖かいものが吹き付けてきた。
挿入されたままのあそこが複雑にうねり蠢く膣壁によって急激に締め付けられる。
今までと全く違う刺激があそこに襲いかかり、予期せぬ刺激で暴風に嬲られるような感覚だ。
「(これ、今までと違う……。花梨さん……イっているのかな……?)」
「ひぅ……あ゙……あ゙ー……」
今までの彼女の表情が甘美なごちそうに舌鼓をうつよう、とするのであれば今は飲んだお酒が思いの外度数が高くてびっくりしているという風な印象を受ける。
試しに暴発しそうなあそこをぞりぞりとゆっくり引きぬいてみる。
「ひ……いや……ぁ……」
「っ……!」
引き抜いた僕のあそこに桃色の肉襞が絡みついてめくれ上がっている。愛液と精液と彼女の破瓜の血が混ざって泡立ち、蛍光灯の光を反射して艶かしく光る。
それと同時に空気に触れた部分が冷たくなり、温かい膣内が恋しくなって慌てて突き込むと、どちゅりという擬音がぴったりな程深々と突き刺さった。
「ひきぃぃぃぃいいいいい!?」
「くぁ……!?」
亀頭の先端が子宮口を擦って脇に逸れ、結果的に子宮口を抉る形になって頭が焼けるような快感が体全体を犯す。
しかしその快感に焼かれているのは僕だけでは無いらしい。
彼女も断続的にあそこから潮を吹いて全身を痙攣させて悶えている。
半分白目を剥き、口をあんぐりと開いて喘ぐ様は成人漫画などでしか見たことのないような俗に言う『アヘ顔』になっていた。
「ひゃ……りゃめ、これりゃめぇ……」
「はぁ……はぁ……かりん、さん……もっと……」
ある程度刺激に慣れてくると、じっくりと彼女の中を味わう余裕が生まれてきた。
再びゆっくりと引き抜くと、無数の襞がねっとりとあそこに絡みついてくる。
入り口近くの天井、そこを敏感な亀頭が通過するとつぶつぶとした感触がゾクゾクするような刺激をもたらしてくる。
強く突き込めば子宮口が綻んで亀頭を咥え込み、その状態から引き抜こうとすると名残惜しげに吸い付いてくる。その度に腰砕けになりそうな快感が腰の奥にずんと迫ってくる。
「よー、すけ、そこりゃめ……しんりゃう……きもひよすぎて、しんりゃう……♥」
「かりんさん、エッチすぎるよ……こんなに喘いで、あそこからお汁だらだら垂らして……」
ゆっくり引き抜き、強く突き込み、深く押し付けて子宮口をぐりぐりと押しつぶす。
経験なんて皆無な僕の技術でも花梨さんは面白いように乱れてくれる。それが嬉しくて限界を忘れて一心不乱に彼女の中を抉って行く。
「かりんさん、もっとキス……」
「りゃめ、ちゅーいや、おかしくなっちゃうからいや、ぁ……ん〜〜〜〜〜〜!」
弱々しく抵抗する彼女の唇を貪るように口づけを落としていく。
何故か彼女はキスに弱いらしく、触れた途端にあそこに突き入れるより激しく感じるようだ。
舌をねじ込んでねっとりと構内をねぶり回すと全身に鳥肌が立つほどの快感に襲われるらしい。仕組みは……よくわからない。
「も、出そう……!かりんさん、このまま中に出していい?」
「や、いまらされたら……らされたらぁ……♥とけひゃう、とけひゃうーーーー!♥」
言葉とは裏腹に彼女の膣内があそこを逃がすまいと強く締め付けてくる。
その誘いに乗るように精液を、それこそ今までで一番濃いのを彼女の中へとぶち撒けた。
「い、きゅ……きゅぅぅぅぅうううううう!」
「――――――――!」
全身がざわざわと泡立つ。魂が溶けて彼女の中に流れだしていくような錯覚さえ覚える射精は僕の心と彼女の心を内側から溶かし、沸騰させていった。
もはや彼女は指一本動かすことができないらしく、脚、腕ともにぐったりと床へと投げ出して仰向けに倒れている。
僕も全身を動かすのが億劫で、半ば横へ転がるように彼女の中からあそこを抜き出す。
秘部を動かす力も無いようで、中に溜まった精液がこぼれ落ちずにこぷりと泡を立ててはじけた。
「……あぁ、それでなのか」
そこで僕は、ようやく彼女がいつもノーパン状態なのかに思い至る。
この姿じゃ人間用のパンツなんて履けないよね。
「……ん?」
今の交わりの衝撃で棚が揺れたのか、原稿が一枚はらりと落ちてくる。
そこに書かれていた一文を見て妙に納得してしまった。
『よーすけのここ、凄く腫れてる。苦しい?』
どうやら彼女は自分自身と僕をモデルに官能小説を書いていたらしい。そりゃ見せたくないよね。
快感の余り気絶してしまった彼女にタオルケットを掛けると、様々な体液で汚れてしまった体をシャワーで洗い流すべく立ち上がる……
「……れない」
事もできずにまともに力の入らない体を奮い立たせ、這いずりながらバスルームまで行くことに。
花梨さんは……あの姿じゃ運べないよね。どう考えても荷が重すぎる。
あの日の出来事から数週間経った。
「よーすけ、今日の晩御飯は?」
「きんぴらごぼうに焼鮭と味噌汁だよ。もうすぐできるからお茶碗出しておいて」
あんなことがあってからも僕は彼女の家へ通い妻を続けている。
と言うより、一日でも行かないと部屋の中が酷い(散らかる)上に彼女が押し倒してしこたま毒(どうやら噛み付いた時に注入するようだ。これも後で知った事)を流し込まれるので、いかざるを得ない状況になってしまったのだけど。
「よーすけ」
「何?」
鮭を少し切り取ってご飯と一緒に食べる。うん、油の乗った魚にはやっぱ白ご飯だよね。
「結婚しよ」
「げふっ!ゴホッゴホッ!」
むせた。突拍子もない事を言い出すのは以前からだったけど、ここ最近は妙にストレートな事が多い気がする。
「花梨さん、僕まだ学生。あんだーすたん?」
「愛があればだいじょうぶ」
サムズアップして自信満々に答える花梨さんと、頭痛が酷くて頭を抱える僕。
多分この人は人間の常識が文字通り通用しないのだろう。
「愛があっても法律は曲げられません。せめて僕が高校を卒業するまで待っていてほしいな」
「ぇー……」
「不満ならご飯抜きね」
「やだ」
ぷくりと膨らませた頬が可愛らしい。膨らんだ頬を人差し指でつつくと気の抜けるような音がして頬から空気が抜けていく。
「あと一年半、我慢してよ。ね?」
「……うん」
櫻井 陽介
職業:高校生
進路希望:専業主夫
「櫻井、これ書き直しだ」
「そんな!?」
13/05/31 21:07更新 / テラー