連載小説
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第五十七話〜束縛を嫌う者〜

自由を得るには必ず責任がつきまとう。
自由だからといって好き勝手をするのは許されないし、他人の自由を奪ってもいけない。なんともややこしい事だ。
それでは、自由を奪われたらそいつには責任を免除する権利が与えられるのだろうか?
俺がこの問いの応えるとしたら、『自由がある内に束縛されることを回避する責任を怠った』と答えるだろう。
だから自身が自由の身だからといって決して警戒を怠ってはいけない。
油断していると……進む事も戻る事もできなくなるぜ?



〜カルラの家〜
AM5:00

少し離れた所でもぞもぞと動き出す気配に目が覚める。
ようやく日が昇り始めた時刻、カルラが起き出していた。

「っと……起こしちゃった?」
「ん……別にいい。家主より遅く起きるわけには行かないからな。」

軽く伸びをして残った眠気を飛ばす。澄み切った朝の空気と共に外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。

「朝ごはんはどうする?リクエストがあるならそれにするけど……」
「手軽にできるものでいいだろう。俺も手伝う。」



朝食のベーコンエッグとトーストを頬張りながら今日の予定をカルラから聞かされる。

「本当だったらこの家から出しちゃいけないんだけど……貴方もアマゾネスになるなら狩りの仕方を覚えなくちゃね。という訳で朝ごはんを食べたら一緒に狩りに行きましょ。」
「りょーかい……と」

俺の返答に何故か変な顔をしてじっと凝視してくる彼女。
……まずい、狩りに出た時に隙を見計らって逃げ出そうとしたのがバレたか?

「ねぇ、何でいつも男言葉なの?」
「あ?あ〜……」

まさか正直に実は男ですなんて言うわけにも行くまい。
そんな事を口走ったが最後、姿が戻った時にフルボッコにされて即婿入りだ。
おまけに鵺も無いので勝てる見込み無し。強制婿入りルート一直線だ。

「実は軍隊に入っていた事があるんだ。その時に口調がうつってね。」

ウソは言っていないぞ?ウソは。

「その割には体力がなさそうだけど……」
「事務仕事ばっかりだったんだよ……悪いか。」

うん、これはウソ。



「そう言えば名前を聞いてなかったよね。すっかり忘れていたけど……」
「あぁ……そうだな。俺は……」

流石に本名はまずいだろう。さて、咄嗟に出さないとまずいよな。

「アルト。アルト=グランテだ。」
「おっけ、アルトね。よろしく。」

あぁ、またウソが一つ積み重なってしまった。


ま、いいか。



〜メルガの森〜

そんな訳でカルラに連れてこられてハンティングをする事になった。
カルラの持ち物は短弓……狩りの時に長剣は逆に邪魔になるらしい。
そりゃ剣振り回して追っかけてきたら逃げるわな。
対して俺はというと……

「なんでナイフ1本……?」
「ま、これが俺のスタイルとだけ言っておく。」

そう、元々持っていたナイフ1本のみ。
別に伊達や酔狂ではない。これ1本あれば南米のジャングルの中でも生きていける。
今は体力的に厳しいかもしれないけどね……。

足跡や落し物(糞)などを辿って追跡すると、1匹の鹿がもしゃもしゃと草を食んでいた。
やれやれ……これから狩られると知らずに呑気なものだ。

「慎重に……慎重に……」

やけに緊張しながらカルラが弓に矢をつがえ、鹿に対して狙いを定める。おい、手が震えているぞ。

「っ!」

手を離して弓を射るが、矢はあらぬ方向へ飛んでいって木立の中へ消えていった。
鹿はというと無関心で今も草を食んでいる。

「お前下手糞な。」
「あうぅ……」

どうやら長剣以外の武器の扱いは苦手らしい。まぁ、俺も弓は使ったことが無いから人のことを言えないけどね。

「それじゃあアルトはどうやって仕留めるのさ……」
「ん〜……できるかな。少しやってみよう。」

俺はナイフを引き抜くと手の上で回転させて刀身を指で挟む。
体勢を整えて狙いを付け……

「………………っ!」

投げた。
ナイフはクルクルと回転しながら綺麗な直線を描き、鹿の首……気管あたりに突き刺さる。
鹿は喉に異物が刺さって恐怖に跳ねまわるが、ナイフが刺さった喉で呼吸ができるわけもなく、暫くするとパタリと倒れた。

「すご……」
「ま、ざっとこんなもんだ。」

死骸に近寄ってナイフを回収すると、鹿の喉を掻き切って中の血を抜き始める。

「ほれ、ロープ。吊り下げないと効率よく血抜きできないだろうが。」
「あ、うん。」

流石に女性化した腕力では鹿1頭持ち上げるのは無理だったので、吊り下げるのはカルラに任せた。彼女は……どこか複雑な表情をしていたが。



「ねぇ。」
「ん?どした。」

血抜きには結構時間が掛かる。のんびりと持ち寄った干し肉をかじりながら空を見上げていると、彼女が唐突に切り出した。

「あのナイフ投げって……誰に教わったの?投擲フォームも綺麗だったし……軍隊経験って本当に事務だけ?」
「あ〜……姉さんからな。それプラス独学だ。姉さんから教わったのは人体に対して効果的な物だが俺の場合はそれに動物を仕留める事も念頭にいれてある。」
「何故に動物も……。」
「熱帯のジャングルに……ナイフ1本で放り出されましたから。」

それを言った時の彼女の顔と言ったら無かった。
何か非常に不憫な物を見るような目で俺を見て来るのだ。いたたまれないったらない。

「……まずいかも。」
「何が……なるほど。」

彼女の様子に緊張が交じる。何かと思えば、周囲に無数の気配。人……ではない。
これは……

「狼か……。」
「血の匂いに釣られてやってきたみたいね。まずいなぁ……剣置いてきちゃったし。」

背中合わせになって周囲を警戒する俺とカルラ。やれやれ……別に予想をしないわけでは無かったがこうも早いとは。

「カルラ、お前は俺の後方を援護しろ。俺は襲いかかってきた奴を迎撃する。」
「いや、私の弓の腕知ってるでしょ!?無理、当てられないって!」
「当てる必要はない。威嚇で十分だ。」

ナイフを逆手に持ち、気配に対して構える。数は圧倒的に不利だが……なんとかなるか?
ザワザワと薮をかき分けながら狼が姿を現し始める。その数、8頭。

「ついてないなぁ……久々に大物を手に入れたと思ったらこれだもん。」
「問題ない。こいつら南米のジャガーに比べたらチワワだ。」

あいつと鉢合わせした時は本気で死ぬかと思った。なにせ完全に戦闘態勢に入って食い殺される5秒前だったからな。
にらみ合いをしていたら向こうが飽きたのか去っていったけど。

「さて、来いよワンコロ。人間様の飯を横取りしようとするとどうなるか教えてやる。」

唸り声を上げていた1匹が俺へと飛び掛ってくる。恐らくは若いオス……血の気が盛んなのだろう。
噛み付こうと飛びかかってきた頭をアッパーでカチ上げ、身を翻して爪を避けつつ肋骨の間にナイフを突き入れる。一瞬で引き抜き、蹴り飛ばして遠くへと押しやった。

「まず一つ……。次はどいつだ。」

刺された狼は口から血の泡を吹きながらのた打ち回り、息絶えた。
それを見たのか他の狼達が警戒心を強め、少し距離を取る。

「わぁお……押さえつけた時は非力だと思ったけど案外やるのね……」
「こんな物力の入れ方と方向の問題だ。自分より無駄に力の強い相手との訓練なんて腐るほどしたからな。」

あの大男の先輩はどうしているだろうか。
感傷に浸りながらも目線は常に残りの襲撃者へと向けられていた。



「……来ないね。」
「あぁ、警戒しているんだろう。」



あれから1時間ほど経ったが、未だに襲いかかってこない。
普段ならこれぐらいはどうということは無いのだが……今は体力がごっそりと落ちている。流石に立ちっぱなしは疲れてきた。

「まずいな……このままじゃジリ貧だ。」
「下手に正面突破もダメだよね……絶対に追いつかれる。」

そんなこんなで立ち往生していたのだが……意外な事に思いもかけない形で援軍が来た。
背後で痛々しげな狼の叫び声が聞こえてきた。
なるべく視界を正面から逸らさないようにしながら後ろを伺うと、一匹の狼に矢が突き刺さっていた。さらにまた一匹、また一匹と矢が突き刺さっていき、不利を察した狼は散り散りに撤退していく。

「助かった……のか?」
「みたいだけど……誰だろ。私達が使っている矢じゃないよ、これ。」

引きぬいた木製の矢と彼女が持ってきた矢を比べると、鏃や羽の構造などがいろいろと違う。
というか……この矢の形どこかで見たような……。

「全く……やたら血の匂いがすると思ってきてみれば何をしてるのよ。狼のテリトリーで血抜きとか自殺行為もいい所ね。」

ガサガサと少し離れた所の木が揺れて、上から女性が飛び降りてきた。
長い耳に金色のストレート……エルフか。

「済まない、助かった。まさかあそこまで集まってくるとは思わなかったからな。」
「本当にもう……寿命が縮むかと思ったわよ。対して影響ないけど。」
「はは……ナイスジョーク。」

感謝すると同時に、彼女に対する違和感が強くなってきた。
なんというか……以前どこかで会ったような……。

「…………あ゙!」
「ん……?どうかした?」

素っ頓狂な声を上げる俺に不審気な目線を向けてくる二人。
まぁ、確かに会っていた。それも大して時間を置かずだ。
そう、彼女の首にはチェーンで吊り下げられた指輪が掛けられていた。
もうお分かりだろうか?

「アイシャ……!」
「何で私の事を……って……え゙!?」

たとえ女性化したとしても面影は消えない物だ。当然知り合いに気付かれない筈もなく……一発で見ぬかれましたよ、彼女に。

「アルt……

俺の名前を叫ぶ前に彼女の口を押さえるける。ここで俺の本名を出されるのはマズい!

「アルト、その子は知り合い?」
「あぁ〜……うん、ちょっとした友達だよ。な?」

目で『合わせろ』と合図を送る。
彼女は若干面倒くさそうな表情をしたが、俺の必死さが伝わったようで頷いてくれた。

「えぇ、彼女に助けられたことも結構あるしね。一応仲はいいわ。」

おい、仲がいいとか言いながら見えない所で足の小指を踏みつぶすな。地味に痛いぞ。

「それにしてもどうしてここに……?」
「べ、別にアルテアに会いに来たとかそんなんじゃなくて……そう、クエストのついでに寄っただけ!」

なんというか……愛されてるなぁ、俺。応える事はできないけど。
だっていつ死ぬかわからないし。どのみちエクセルシアを全て回収したら向こうに帰らなきゃならないし。

「へぇ……好きなんだ、その人の事。」
「な、そんな訳ないじゃない!あんな節操なしで女たらしで無鉄砲で鈍感な奴の事なんか!」

おい、本人隣にいるのにその言い草はねぇだろ。
しかも節操なしと女たらしは大して意味が変わらんぞ。自慢じゃないが。

「ん〜……でも女たらしって事は周囲に結構女の子がいるって事だよね?」
「そ、それがなんだって言うのよ……」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらカルラが一言。

「うかうかしていると本当に取られちゃうよ?」
「うぐ!?」

あぁ、もう。火をつけるなよそこ。
それにしても……助けを求める隙が無い……ここは少し話の矛先を変えてみるか。

「ま、何だかんだで血抜きも済んだみたいだし……戻るか?」
「あぁ、獲物の事を忘れていたね。今日は久しぶりにごちそうになりそうだなぁ……」

カルラが木に下げてある鹿を取り外す隙を突いてアイシャに耳打ちをする。

「(モイライの冒険者ギルドへ行って鵺をニータっていうラージマウスに持ってこさせてくれ。場所はここから北西にあるアマゾネスの集落、南東の玄関に白く目印を付けてある家だ。)」
「…………はぁ。」

彼女は一つため息を吐くと、俺に向き直る。
一体何をする気だ、と思う間もなく両方の頬を抓られた。

「いひゃひゃひゃ!なにほふる!」
「ふんだ……知らない。」

そう言って彼女は口を尖らせて走り去ってしまった。
やれやれ……女っていうのは本当に面倒くさい。いや、今は俺も女だったか。誠に面倒くさい事だ。



〜パティット族集落 中央広場〜

集落の中にぽつんと生えている木に寄りかかって座りながら暮れなずむ空を見上げる。
空は綺麗な茜色に染まり、東の空にはうっすらと星々が見え始めていた。
本来であればカルラの家の中でじっとしていなければいけないのだが、俺が鹿を仕留めたことをカルラが仲間に伝えると歓迎のランクが一つ上がった。そのおかげでこうして自由に集落の中で動き回れる訳だ。尤も……集落の外には出して貰えそうにないが。
特に何を考えるでもなく、ぼ〜っと空を見上げているとカルラが皿を2つ持ってこちらへ近寄ってきた。

「食べる?」
「ん……?なんだ、それ。」

皿からは少し煙っぽいような、香ばしい香りが漂ってくる。

「鹿肉の燻製。アミって子の旦那さんがこういうのを作るの得意だから作ってもらったんだ。」
「へぇ……それじゃ一ついただこうかな。」

皿を受け取って香ばしく火が通っている燻製を一つまみ口の中に放り込む。
咀嚼すると燻製独特の香りと共にハーブの香りやしっとりと乗った油が口の中に広がっていく。塩加減もいい塩梅だ。酒が欲しくなるな、これは。

「っと……はい、これも。」
「お、気が利くな。赤ワインか。」

腰に紐で結わえつけてあった赤ワインを解いて俺の隣に置くと、彼女も俺の隣に腰を下ろす。

「コップは?」
「回し飲みでいいでしょ。どうせ飲みきっちゃうだろうし。」
「さよか……」

彼女がコルク抜きでワインの栓を抜くと、そのまま口をつけてラッパ飲みし始めた。
一口飲み終わった彼女から瓶を受け取って俺も一口呷る。
絶妙な甘みと渋みが燻製とよく合う。

「ふぅ……」
「ん……おいし。」

二人揃ってぼぅっと夕焼けの空を見上げる。
どこの家の煙突からも夕食の煮炊きする煙が立ち上り、帰ってきたアマゾネス達とその夫達の談笑する声が聞こえてきた。
……若干嬌声も混じっているが。

「……ねぇ。」
「ん〜……?」

ポツリと、カルラが俺に声を掛けてきた。
俺もそれに気のない返事を返す。もう一口ワインに口を付けた所で、彼女が言葉を続けた。

「結婚って、考えた事ある?」
「…………っ!?」

思わず噴きかけた。いやはや……本当に彼女達はこういう話が好きだな。
結構耐性が付いたほうだと思っていたのだが……まだまだ甘いな。

「いんや……明日誰が死ぬか分からない状況で結婚なんて考えられる訳がないだろう。戦いの後に結婚するなんて死亡フラグの代名詞と言っても良いぐらいだ。」
「死亡ふらぐ?」
「そいつを言うと必ず死ぬジンクスがあるんだよ。」
「ふぅん……」

彼女にワインの瓶を渡す。
すると彼女はそれに口をつけて2,3口飲み干した。
殆どどこを見ているかわからない目で遠くを見て再び彼女が口を開いた。

「私は……したいかな。旦那を持つ仲間を見ると羨ましいって思うし……そういう……事、してみたいし。何より自分の子供も欲しいじゃない。」
「そういうもんかねぇ……。」
「そうだよ。やっぱり女の幸せってかわいい子供を愛する旦那と一緒に育てる事だと思うんだ。」

酒のせいだろうか。それとも自分が女だという異常事態のせいなのか、妙に感傷的になってしまう。

「子供、か。考えた事も無かったな。子供なんてできたらそれこそ一大事だっただろうし。軍にもいられなくなる。」
「でも……愛し合った結果に生まれた物なら軍とかそういう物一切合財投げ出してもいいと思うけどな。多分私なら……世界を敵に回しても旦那と子供を取ると思う。」
「無鉄砲だな。」

彼女から瓶をひったくるように受け取ると、ぐいと呷る。
瓶の中身はもう半分以上無くなっていた。

「だが、そういう考えは嫌いじゃない。何もかもを犠牲にしても守りたい物があるっていうのは……良い事だ。」
「……うん。アルトは……何か守りたい物はあるの?」

守りたい物……か。

「みんなで美味いもの食って……笑って……当たり前のように平和を享受できる世界。そんな物を守れたらいいなって思うけどな。俺の手には……ちと荷が重すぎるかもしれない。」

沈みかける夕日に残り少ない瓶の中のワインをかざして見透かす。
赤い夕陽がさらに赤く色づき、フラフラと光が屈折して揺れている。

「ま、最後まで諦める気はさらっさらねぇよ。荷物が重けりゃ誰かと一緒に持てばいい。分けられるなら分けて一緒に運べばいい。」

俺のハートにグサグサと突き刺さる言葉を投げつけても、何だかんだで俺の事を考えてくれているラプラス。
いつも笑顔で見送りと出迎えをしてくれるアニスちゃん。
俺をからかいながらもいつもサポートしてくれるミリアさん。
茶化しながらも俺の気負いを解してくれるプリシラ。
大怪我をした魔物を運び込んだ時に文句一つ言わずに治療してくれるヒロト。
普段はどこか抜けているが、いざという時に頼もしいフェルシア。
ありとあらゆる情報に精通し、俺をサポートしてくれるニータ。
魔術・呪術に詳しく、魔道具の解析から戦闘に至るまで様々な形で助力してくれたエルファ。
その槍術と空中の機動性で俺を何度も助けてくれたチャルニ。
類稀な怪力で窮地を救ってくれたメイ。
鉄壁の防御で俺を守ってくれたミスト。
そして、今日のアイシャもだ。



「俺は……一人じゃないんだからな。」



ふと、横から視線を感じて顔を向けると、カルラが若干顔を赤くして俺の方を見ていた。
さらに気まずい事に目線も合ってしまった。

「あー……えっと……」
「どうした?」

何も言わないのは失礼なので声を掛けてみたが、物凄い勢いでそっぽを向かれてしまった。
……何か気に触っただろうか。

「(何で……私そっちの気は無いはずでしょ!?アルトを魔物にしようとしたのだって必要だからだし!って何で私言い訳しているの!?)」

なんだか物凄い速度でぶつぶつと独り言を言っている。少し……怖い。

「もう大分日が落ちたな……。戻るか?」
「え!?あ、うん……そうだね。帰って寝ようか……。」

燻製の残り一欠けを口の中へ放り込み、のんびりと彼女の家まで歩いて行く。
……何でこの子は顔を赤くしてそっぽを向いているんでしょうね。今の俺は女だぜ?

彼女を先に家に上げ、焚き火の近くで調達した灰で家の戸口にX印を付ける。これで合図は十分……あとはニータが探し出してくれるのを待つだけだ。



安らかな眠りが耐えがたい苦痛によって中断される。
思わず叫びそうになったが、ぐっと堪えた。この痛みは……恐らく性別が変わる時の物。
肩や背骨、腰など、ありとあらゆる場所がミシミシと軋みを上げている。

「……っ……はぁ……はぁ……終わったか?」

全身を蝕む痛みが嘘のように引いていく。
全身が妙に窮屈だ……って今着ているものは女物だったな。
とりあえず着ているものを脱いでいると、裏手の窓から小さな人影が家の中へと入り込んできた。

「来たか。」
「うん、とりあえず着替えと鵺は持ってきた……って、うわぁ。」

あぁ、そういえば下着も女物だったか。
ゴツい男が女物の下着を着ていればそれは確かに絶句するだろう。

「呆けてないで着替えを寄越せ。すぐに出るぞ。」
『記念写真でも撮っておきますか?』
「やめい」

いつものように茶化してくるラプラスを諌めつつ、渡された着替えに袖を通していく。

「ホント大変だったんだよ?アニーはアルがいなくなったって大泣きしながら帰ってくるし、フィーやチャルニは探しに行くって勝手に出ていっちゃうし……ミストなんかは自分の部下連れてくるって飛び出しちゃうし。」
「そりゃ済まなかった。なにしろあの体じゃろくに抵抗もできなかったもんでな。」

鵺を受け取るとベルトを肩に掛けて背負う。さぁ、脱出だ……。
ふと、カルラの事が気になって彼女が寝ている方へと目を向ける。

「……ほんの少しの間の事だったけど……楽しかったぜ。」
「アル、行くよ。夜明けまで時間がない。」

立ち止まっていた俺をニータが促す。確かにあまり時間は残されていない。
彼女が入ってきた窓から俺も出ていく。
時刻は明け方……真っ暗闇という程でもないが、視界はさほど良くない。

「サーモスキャン」
『了解。サーモスキャン起動。』

視界表示を赤外線方式に切り替える。
すると、周囲の地形が鮮明に浮かび上がってきた。ナイトビジョンモード完備のハイブリッドタイプ……俺は特殊部隊か何かか。

「十時方向の家の前に哨兵二人……合図と同時にやるぞ。左の奴をやれ。」
「りょーかい……」

右前方の家の前にアマゾネスが二人向き合っておしゃべりをしている。
大方見回りに飽きて駄弁り始めたのだろう。こちらとしては……好都合か。
オクスタンライフルの銃弾を麻酔弾へ変更。ニータも隣で吹き矢を構える。

「3、2、1」

脇腹に狙いを定めてトリガーを引く。
火薬方式ではないのか、発射時の発砲音はせずに空気が抜ける音しかしなかった。
二人はそのまま力が抜けたように崩れ落ちる。

「Good night…」
「もうすぐ明け方だけどね。」

誰かが見回りに来て気づくのもまずいので、物陰へと引っ張り込む。
遮蔽物の間を縫うように進みながらモイライ側への出入り口へ。

「入り口の左右にそれぞれ哨兵が一人ずつ……飛び道具じゃ狙いづらいな。近寄って仕留めるか。」
「静かに……それでいて大胆にってね……」

二人で足音を立てないように忍び寄り、彼女達の背後へ立つ。
パラケルススを展開し、口元を手で押さえて背中から麻酔薬を打ち込んだ。
暫くもがもがともがいていたが、急に力が抜けたようにその場へと崩れ落ちた。
隣からも似たような音が聞こえてきたので、おそらくは成功したのだろう。
ニータがサムズアップしている姿が浮かび上がっていた。

「うし……とっととずらかるぞ。」
「おっけ……スタコラサッサ〜ってね……」



「待ちなよ。」



背後で明かりが灯り、ナイトビジョンが一瞬白っぽくなる。
解除して振り向くと、松明に照らしだされたカルラが仁王立ちしていた。
腰には長剣を帯びている。

「まさか……男だったなんてね。どこか変だとは思っていたけどそういう事だったんだ。」
「カルラ……」

彼女が腰から剣を抜き放ち、俺へ構えてくる。
こいつとは争う理由が無い筈だが……。

「私は……おかしくなかったんだ。アルトの外見を見ていたわけじゃない……内面を見ていただけなんだから。」

その顔が、歓喜に染まる。まるで待ちわびていたものを見つけたかのように。

「アルト、私と戦って。そして……私の物に!」
「ちょっと、何勝手なことを!」

意気込むニータを手で制して1歩進み出る。
多分、ここで逃げたら負けを認めたという事でしつこく付け狙われるだろう。
ならば……ここで御しておいたほうが後々楽なはずだ。

「いいだろう。但し……俺が勝ったらきっぱりと諦めてくれ。」
「望む所……!」

デザートイーグルにゴム弾を装填し、展開する。
さらにフェアリーも展開して戦闘の準備は完了……。いつでも行ける。

「本当の名前を言ってなかったな……。」

デザートイーグルを彼女に向けて構える。
剣を相手に飛び道具は卑怯と思われるかもしれないが、彼女達魔物相手ならばこれぐらいはハンデがあってもいい筈だ。

「アルテア=ブレイナー……傭兵だよ。」
「ふふ……そっか、アルテアか。君は私が貰ってあげる。目一杯男の幸せを教えてあげるよ。」

彼女が深く身を沈め、ロケットか何かのようにこちらへ突っ込んでくる。
姿勢が低いので正面からでは狙いにくいが……

「別に俺しか攻撃ができないと決まったわけじゃ無いんでな。」

フェアリーが彼女の真上へと移動し、ショートビームの雨を降らせる。
フェアリーの出力自体は表皮を軽い火傷状態にするぐらいに押さえてある。
本来の戦闘であればする意味はないが、この状態になったフェアリーはまた別の側面を見せる事になる。

「熱っ!何これ、熱!」

火傷の痛みと闘いながら戦闘をするというのは存外に苦労するものだ。
そう、これも一種の非殺傷兵器だ。しかも射出速度は文字通り光速……避けることなどできない。

……なぜフィーとの戦いで使わなかったって?
あいつだとビットを破壊されそうで怖かったんだよ。替えが無いし。

「こん……のぉ!」

カルラが長剣を背後に振りかぶって……その場で思いっきり振り下ろした。
無論、そんな距離では当たるはずもない。彼女が狙った物……それは、

「あっぶね!おま、剣を投げつけんな!」

持っていた長剣による投擲攻撃だ。慌てて躱すも、右肩を浅く切り裂かれてしまった。
多少の痛みは無視できるが……利き腕を潰されるのは好ましくない。
しかし、これで相手は丸腰。フェアリーとの斉射でカタを……

「誰がもう一本剣を持っていないって言った?」

暗くてよく見えなかったのが災いした。
彼女は長剣とは他に小剣も隠し持っていたようだ。
そりゃ予備の武器が無いと武器を投げつけるなんて暴挙には出られないよな。

「クソッ!間に合うか!?」

咄嗟に狙いを彼女に定め、フェアリー共々彼女へ弾丸と光弾の嵐を浴びせる……が、その嵐の中を彼女は縫うように見を翻しながらこちらへ迫ってくる。
このままではまずい!
しかもトリガーを引いた時にカチカチと音がして何も出てこない。こんな時に弾切れである。

「リロ……」
「させないよ!」

カルラが俺の喉元目掛けて小剣を突き出してくる。
無論、寸止めはされるだろうがこちらも黙ってやられる訳にはいかない。
咄嗟にデザートイーグルを手放し、腰のナイフを引きぬいて小剣と打ち合わせて軌道をそらす。
同時に襲いかかってきたボディブローを食らいつつも打点をずらして軽減し、肘打ちを彼女の肩に叩き込む。ここまで至近距離だとフェアリーも誤射防止のために反応しない。
なんとかして反撃を……!

「南無三!」

地面に落ちかけたデザートイーグルを蹴り上げ、目の高さまで打ち上げる。
肩に掛けてある鵺から予備のマガジンを射出、さらに空のマガジンをデザートイーグルから強制射出(ある程度電子制御でこちらから操作ができる)。
マガジンが滞空時間に入っている内に拳銃を掴みとり、空中でワンハンドリロード。
さらに1歩踏み込んで彼女の襟元を引っ掴み、ゼロ距離へと持ち込む。
デザートイーグルの射撃タイプをフルオートへ変更。

「ぉぉぉおおおおおおお!」

銃口を腹に押し付け、トリガーを引き絞る。
断続的かつ高速に銃弾が射出され、彼女の腹に叩き込まれる。
威力はさながらヘビー級ボクサーのジャブを連続で食らっているような物だ。
いくら身体能力に優れているアマゾネスといえど無事では済むまい。

「っか……は……」
「はぁ、はぁ……っつ……てぇ……」

それだけの威力、と言う事は反動も凄まじいと言う事だ。
ただでさえ大威力のデザートイーグル……それをフルオートなんかでバースト射撃を行ったのだ。こちらの手首も悲鳴を上げている。

「ゴム弾とはいえ……ちったぁ効いただろ……?」
「かひゅ……ふ……くふ……けほ……」

それでも意識がある辺りに魔物のタフさが伺える。
俺がこんなもん貰ったら確実に意識が刈り取られているぞ。

「っ……足が……」

足がブルブルと震えて力が入らない。流石の俺も喉元へ刃物が迫ってきて恐怖を感じない程人間を辞めてはいない。その場でへたり込むように座り、痛めた右手首をぶらぶらと振って痛みを誤魔化す。
やれやれ……情けないったらありゃしないな。もう少しスマートに行きたかったものだ。

「アル……大丈夫?」
「ま、何とかな……。本気で殺されるかと思ったぞ。向こうは殺す気なんて無かっただろうけどさ。」

試合とは言え向こうは真剣だ。当たり所が悪ければお陀仏になっている。
今は大きな怪我もしなかった己の幸運に感謝するとしよう。

「約束通り……俺の事は諦めてくれ。俺はまだ結婚をするつもりはさらさら無い。」
「う〜ん……アルが誰かの物にならなかったのはほっとしたけど……それを聞くとどこか複雑だなぁ。」

既に周囲は銃声を聞きつけてアマゾネスやら男達やらがゾロゾロと集まってきていた。
こっそりと出ていくつもりだったのに……

「まさかアルト殿が男だったとは……男にして置くには惜しい逸材だな。」
「やめてくれ……俺はもう女になる気は無いぞ。」

取り囲む輪の中から族長が進み出てきた。
俺が男だと解った以上アマゾネスにしようとは思わないだろうし、俺に目を付けたカルラも打ちのめしてあるのでこの村に俺を引き止める奴は恐らく居ないだろう。

「そんじゃ、俺は行くわ。短い間だったが世話になった。」
「またいつでも来てくれ。若い女衆共々歓迎するぞ。」
「その歓迎の意味は婿探しだろうが……。悪いが俺は専業主夫になるつもりはさらさら無い。」

力の抜けた足を叩いて何とか復帰させ、皆に背を向けてモイライへ向けて歩き出した。
しかし、後ろで誰かが立ち上がる気配。まさか……

「ある……てあ……まって……」
「おいおい……マジか。」

若干よろめきながらカルラが再び立ち上がっていた。
タフにしても程があるだろ、これは。

「おむこ……さんに……わたしの……」
「……お前は。」

なんというか……強いな。俺なんかよりもずっと。
ほんの数日前……それもほんの十数分前は女だと思っていた奴をそこまで愛する事ができるとは。
俺には到底……真似ができそうにない。

「もう、やめておけ。」
「ぇ…………」

立っている事すら覚束ない彼女に近寄り、頭を撫でてやる。この好意は……俺に向けられるべきではない。

「お前は俺みたいなクズと一緒にいるべきじゃない。命令一つで人殺しも厭わないような異常者といるには……お前は真っ直ぐ過ぎる。」
「でも、私は君の事が……!」
「それに……」

好き、と言わせる前に言葉を被せて遮る。他人の好意を断るのは……やはり辛い。

「俺は、カルラの事が見ていられない。眩しすぎるんだよ……何の変哲もない幸せを追いかけるお前の姿が。」

普通なだけに、俺が手を伸ばそうとすると遥か彼方なまでに遠い。
血に染まりきったこの手では触れるだけで壊してしまいそうで……。

「だから、ごめんな。もっと普通な奴を好きになってやってくれ。」



「アルが誰かの好意を明確に断ったのってさ……。これが初めてじゃない?」

モイライへの帰り道の途中、ニータがポツリと漏らした。

「ん……そうだったか?」
『あまりに相手が多すぎて記憶すらも麻痺してしまいましたか。』
「うるせぇよ!?」
「あはは……少なくとも好きって言われて困ったような顔はしたりするけど……相手を振ったのってこれが初めてじゃない?」

そう言われれば確かにそんなような気もしてくる。
何故俺は今回彼女の好意を断ったのだろうか。

「…………あぁ、そうか。」
「何か理由が?」

俺の周囲にいる奴で大体共通するもの。
それが朧気ながら見えてきた気がする。

「似たもの同士が欲しかったんだろうな……きっと。」
「似たもの同士?」

俺は無意識的に女に後ろ暗い物を求めていたのかもしれない。

「フィーは冒険者だ。警備とか荒事とか……まぁ腕っ節が強くて常時その身を戦いに置いている。」
「ふむふむ」

「ニータはシーフだろ?情報を集めたり物を盗み出したり……命令に従って後ろ暗い事をする訳だ。」
「否定できないのが悔しいね……」

「エルファは以前誰かを完全には助ける事ができなかったらしい。これはごく最近知った事なんだがな。」
「ふ〜ん……それで?」

「まぁ待て。チャルニはE-クリーチャー化していた時にかなりの人を殺している。これも血の匂いとかそういうのだな。」
「あ〜……なんだか近郊の森でそんな事件が多発した事もあったねぇ。彼女の仕業だったんだ……」

「メイは強盗だった。人を傷つけたりはしていないだろうが……やはり人の物を奪ったりしていたんだろうな。」
「なんだか強盗が成功しているイメージが沸かないんだけど……」

「ミストは軍人だ。必要に迫られれば人を傷つけたりもするだろう。殺しをしたことがあるかは……わからんがね。」
「今の魔物の気質じゃ進んで人殺しをしたがる子はいないからねぇ……。って、あたしにもなんとなくだけど見えてきたような……」

そう、本当に常に俺の身の回りにいる奴は何かしらで自分の手を血に染めたり、後ろ暗い事をしていたり、誰かを助けられなかったり……そんな奴が多いのだ。

「その他にもいない訳じゃないんだが……今挙げた中にいないのは大体やんわりと距離を置いたりしているな。」
「他にもいるんだ……」

あぁ、墓穴掘った。ニータが思いっきりジト目でこっち見てるし。
しかし、ふと妙な事に気づく。

『アニス様はどうなのですか?』
「あれ……どうしてだ?」
「そう言われてみると特に何もないような……」

其処ではない。彼女に関する事はほぼ何も知らないに等しい。
普段は画家をしている事は知っているが……それ以外の事は殆ど知らない。

「ニータは何か知っているか?」
「いや……何もない筈だよ。むしろアリスでそこまでヤバそうな過去があったら逆に目立つと思うんだけど……」

思い起こせば思い起こす程何もない。
結局何も思い当たらず、結果的に俺達が出した結論はというと……

「貴重な癒し系キャラだな。」
「だね。」

全てを丸投げして白と付けるという投げやりな物だった。



「でもさ、いくらアルといえどもいつかは身を固めなきゃならないよね?」
「そう、だな。こんなクズでも貰ってくれる奴がいたら……まぁ万々歳といった所だろう。」

ニータが自分を指さしてガン見してくる。
調子に乗るなとデコピンしてやると、ベロをだしておどけていた。こいつの場合は冗談半分、本気半分程度なのだろうが。
彼女は照れたように道を走って行く。全く……今の今でそういう冗談は無いだろう。

「もし、俺がいた世界に仮初でもいいから平和が訪れて……傭兵としての仕事が無くなったら考えてもいいかもな。」
『難しい話ですね。マスター一人では到底成し得ないでしょう。』
「あぁ、だろうな。しかし、望みが全く無い訳じゃないだろ?平和へ向けて歩き出すが多ければ多い程可能性も出てくる。後は……俺達(軍隊)の動き方次第だろうな。」

「アルー!早く帰ってご飯にしようよ〜!もうお腹ペコペコだよ!」

少し先を小走りで駆けていくニータに苦笑しながら、俺はモイライへ向けて帰っていく。
今はまだ、この問題には結論を付けられないだろう。
全ての問題に決着が付き、その時に大切に思えるかもしれない人ができたら……その時は改めて大切な人に関して真剣に向き合ってみよう。そう、本当にそう思うのだった。
12/02/18 11:23更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
久々にここまで長い分を書いたなぁ……一万三千字もあるよ。
最初はどこかふざけたノリで書き始めたのですが、最終的にはシリアスになってしまいました。

恒例の感想返信。この場を借りて謝辞をば。

>>TATさん
残念ながら襲撃は0。潜入からの脱出という穏便な方法が採用に。
結果的に最後は大立ち回りしていますがね……w

>>流れの双剣士さん
無事脱出。流石に話の流れ上ここで終わるというわけには行きませんでしたから。
それはそうと、エロも文才も書かなければ上達しません。まずはワードなどに取り敢えず書き起こし、ガイドラインに抵触する部分を削って上げてみて、助言をもらって再び書きなおす……というプロセスを踏んでみてはどうでしょう。
そうすれば少なくとも人の感想欄をメモ書きみたいに使うことはもう無くなるかと。

>>ドS目指して3000年さん
これだけ多くの魔物と関わってもげろコールが1回も無いのは逆に不自然だと思うんだ。

>>マイクロミーさん
彼女はアルテアの命の危険が及ばない範囲であればいくらでも弄りますよ?なにせ半分はアルテアの分身のようなものですから。

>>銀さん
嫁候補ならず。きっぱりと関係を絶ったという今まででは異例の回でしたとさ。
少なくともユニコーンとラミア種は絶対に関わることができなさそうです。

>>ネームレスさん
出る所が出て、引っ込む所が引っ込むモデル体型。しかし、顔に元の性別の面影がうっすら残っているので分かる人にははっきり分かるそうな……

>>名無しさん
何だかメタクソに言われている気になってきた……
どれだけ彼が嫌いなんですか貴方は。

>>Wさん
全体的な身体能力が下がるだけで体の動かし方や力の効率的な入れ方に関しては失われていませんからね。
これで記憶も性格も失われるような代物だったら完全にアウトだったかもしれません。

「いつもの癖で自分でチョコレート買って自分で食ってるよ……」
『フェンリルでは貰えるような相手がいませんでしたからね。基本皆男性ですし、少佐は渡す側というより渡される側でしたから。』
「俺も1回渡した事あるんだけど滅茶苦茶怒られたんだよなぁ。何でだろ。」
『(単なる照れ隠しだったような気がしなくもありませんが……)』

>>『エックス』さん
ある意味ハプニング。しかし男に戻れないかも知れないあたり地味にピンチ。

「美味しいか?」
「うん!」
『流石に今回の事で彼も懲りたでしょう。撃たれる覚悟の無い人は銃を持つべきではありませんから。』
「微妙に意味が違うけどな……」

次回の相手は見えざる者……?見えているのに見えない物なーんだ。それではまた次回、土曜日にお会いしましょう。

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