番外編〜クリスマス大作戦!〜
クリスマスというのはむか〜し昔の聖人の誕生日だ。
今ではその意識も殆ど薄れて、家族や親しい人達が集まって贅沢をする……という風習に変わりつつある。
尤も、経験なクリスチャンなんかは本当の意味でクリスマスを祝うのだろうが、まぁ今回はこの話はどうでもいい。
貧乏暇なし、という言葉の通り、俺みたいな万年金欠野郎がクリスマスだからといって休める訳も無く、その日もせっせと仕事をこなしていた訳だ。
……あぁ、思い出しただけでも泣けて来るな。
〜交易都市モイライ 居住区〜
『(3字方向距離20にターゲット。)』
「了解!」
袋の中から目的のブツを取り出し、駆け寄って郵便受けへと放り込む。
別に宅配テロという訳ではない。ある意味ではアルバイトのようなものだ。
『(十字方向の白い家。数は2です。)』
「はいよっと……忙しいったら無いな。」
また袋の中から配達物を2つ取り出し、ポストの中に入れる。
何を配っているかって?これが何かというのは30分ほど前に遡る。
朝起きて支度を整え、ギルドのロビーに顔を出すとミリアさんがハーピーの女性と何かもめていた。
どちらかと言うとハーピーの方が立場は弱そうだが……
「本当にお願い!」
「そうは言われてもねぇ……こちらだって手が空いている子なんて殆どいないし。」
話から推測するに、人手でも探しているのだろう。
今日はまだクエストを受けていない。すなわち俺にお鉢が回ってくる確率は……
「あら、アルテア。いい所に来たわね。」
100%だ。
まぁこちらとしてもクエストを探す手間が省けるので願ったりかなったりなのだが。
「何か仕事の依頼かい?」
「えぇ……ハーピートレイラーからクリスマスプレゼントの配達の人手が足りないって言われてね。こっち(冒険者ギルド)としても輸送手段に彼女達を使っているから断りにくかったのだけど、生憎皆出払っていて頼める人がいなかったのよ。それで……」
そこから先を手で制する。まぁ、言われなくてもわかるからな。
「分かった分かった、俺にその手伝いをしろと。別に構わないぜ?給料さえ出るならな。」
「話が早くて助かるわ。詳細はその子に聞いて頂戴。」
ハーピーはというと救いの神と餌が一辺にやってきたかのような表情で俺の方を見ていた。
これは……うん、警戒しておくに越したことは無いな。
「(ラプラス、フラッシュバンを出してくれ。1個持っていく。)」
『(了解。)』
鵺からフラッシュバンを抜き取り、グレネードポーチへと移す。
いやはや……普通のポーチを改造してまで手に入れておいて正解だったな。
「あれ?おにいちゃんは?」
「あ……ごめんなさい、アニー。もう仕事に出しちゃった……」
「────」
「楽しみにしていたのにごめんね?いつもより良いケーキ買ってきてあげるから……」
「いちごも……」
「う……わ、解ったわ。探してみるから。」(この時期に苺ってどうやって探せばいいのよぉ!?)
「配る所は結構多いけど……覚えられる?」
地図を広げながら心配そうに聞いてくるハーピー。ちなみにモイライ周辺の配達チーフをしているらしい。名前はソラ、だそうだ。
「問題ない。記憶力に関しては自信がある。」
ちなみに半分嘘だ。
広げられた地図をツールで読み込み、ナビゲートさせればいい。
実に便利、文明の利器とは素晴らしきかな。
ちなみに今回配って回るのはハーピートレイラーのイベント企画、夫婦円満セットだそうだ。中身は……うん、言うまでもないね。間違いなくそっち系の道具だ。
独身男性向けのサービスもしているそうだが……こちらはどちらかと言うと独身のハーピーがパートナー探しとして行うものらしい。
やれやれ……あの手この手で婿探しに忙しい事だ。
「俺はこの一帯を担当すればいいんだな?」
「うん、ちょっと広いけど……」
「何、走るのは慣れている。荷物を持ってなら尚更にな。」
あぁ、そうさ。鵺の扱いに慣れるために毎日あれを担いで5,6キロは走らされたよ。
1ヶ月ぐらいで慣れたけど。
それからはトレイラーの支部へ配達物を取りに行き、専用のコスチューム(例のごとく赤と白のアレだ。これも異世界人が持ち込んだものらしい)を着せられた。
しかし……なんで男物も用意してあるんだ?
「毎年この時期は忙しいからねぇ……。アルバイトを雇った時用に置いてあるの。」
「なるほどな」
そんな訳で、冒頭へ。
「配っている家の中では誰かがイチャついてんだろうな〜っと。はぁ、気が滅入る気が滅入る。」
『(マスターも休みを取って誰かと過ごせばよかったではありませんか。引く手数多でしょうし。)』
「バカ言え、誰かと二人で過ごすとなったら他の奴らが炎上するぞ。そんな事になるなら一人で過ごした方がマシだ。」
『(モテる男は辛いという事ですか。)』
「若干嫌味っぽいが……そういう事だ。」
ちなみに鵺は自室に置いて来てある。通信のみであれば街中にさえあればどこででも可能だからな。
流石に余計な荷物を持って歩く程余裕はない。
もう一件のポストに配達物を突っ込む。
次へと行こうとした時、中から声が……
<わふっ……はぁん……
「………………はぁ。」
クリスマスって何だろうな。
『(祝い事にかこつけてアベックが子作りをする日です。)』
「それなら魔物達の祝日はほぼ毎回クリスマスだな。」
あともう少しで配達が終わろうかという時、一人のハーピーが慌てた様子でこちらの方へ飛んできた。たしかアレは……冒険者ギルドに助人を頼みに来た奴だな。
「た、大変大変!」
「どうした?誰かが配達を途中でバックレでもしたか?」
「何で解ったの!?」
大当たりかよ。
「未婚既婚を問わずこんな事やってられるかって……毎年こういう事をする子は一人二人いるんだけど今年は全員なの。私だって彼氏が欲しいのに……!」
ギリギリとハンカチを噛んで悔しがるハーピー……ってお前は一昔前の少女漫画か。
「で、俺にどうしろと?」
「もうこうなったら事態の収拾はつかない……。私達だけで全部配るしか無いわね。」
「うわ、マジか。」
彼女の顔は既に悲壮感が9割、諦念が1割を占めている。
まぁ……乗りかかった船だ。最後まで通してやるか。
「さっさと残っている荷物を配って取りに戻ろう。二人で全ての地域をカバーするとなったらグズグズはしていられない。」
「やって……くれるの?」
走りだした俺に彼女が空を飛んで付いて来る。
なんというか……うん、放って置けないな。
「ここで投げ出したら格好悪いだろ?最後まで付き合うぜ。」
「あ……ありがとう!私は事務所に戻って配り終わった所に印を付けておくから……なるべく早く戻ってきて!」
さて……いつ終わるともわからん耐久宅配レースのスタートだ。
まさかサンタクロースの苦労を身をもって味わうとは思わなかったな。
「確かに宅配は請け負ったけどさぁ……」
『(何ですか。)』
俺は今必至に走っている。無論宅配の仕事も忘れていない。
しかし、今俺が走っているのは宅配のためではない。逃げる為だ。
「無駄な鬼ごっこまでするとは聞いてねぇぞ!コンチキショウ!」
背後には俺を追いかけてくる魔物が無数に着いて来ている。
彼女達は相手がいないから家に引きこもっていようなどという後ろ向きな精神の持ち主は誰一人としていない。
いなかったら捕まえてくればいいじゃないという発想のもとに街中を徘徊し、独身っぽそうな男に声をかけているのだ。
そんな彼女達が袋を持って一人で街を駆け回っている男を見たらどう思うだろうか?
「クリスマスなのに仕事に忙殺される独身男性」だ。
あぁ、こんな時に以前誤飲した性別転換薬があればなぁ……
『(戻ってください。背後10メートル、青色の家に配達物を。)』
「配達物があるなら先に言え!」
『(こちらも逃走ルートを算出するのに忙しいのです。その位は自力で見つけて下さい。)』
土煙を立てながらターンし、ランニングバックよろしく捕まえにかかってくる魔物達をかいくぐってポストへ宅配物を投げ込む。
再び走りだした時、目の前に絶望(壁)が広がってきた。
さらに、左右から挟み込むようにワーウルフとワーラビット。
どちらも俊敏性が高く、引き返していたら減速中に捕まる。ならば……!
「諦めん!」
近くにあったゴミ箱の上に飛び上がり、それを足がかりにレンガの塀の上へと飛び乗る。
まだ逃げられる内はフラッシュバンは使わない……なにせ1個しか無いのだ。
『(丁度その塀から右を見た家がターゲットです。)』
ポストの方まで回っている暇はない。そして丁度その時家の窓が開いた。
おそらくは換気でもしようと窓を開けたのだろう。
「はい郵便!」
「うわぁ!?」
窓を開いた人物に荷物を軽く放ってやる。
受け取ったのを確認すると、素早く塀を渡って向こう側へと降り、次の目標へ向けて走りだした。
「最近の郵便ってずいぶんとアグレッシブだなぁ……」
「見失っちゃった……」
「意外と素早いよねぇ……でも俄然燃えてきた!」
「私こっちを探すよ。」
3人は友人同士なのか、寄り集まって俺がどこへ行ったのか辺りを探している。
その内二人が別々の方へと走っていく。
残ったのは……ワーキャットか。
「さて、あたしも探しますかにゃ……」
「悪いな、させないぜ。」
彼女の背後……すなわち藁山の中から俺が身を起こして肩を掴み、首筋にチョップを入れて意識を刈り取る。
そのまま藁山の中へ引きずり込み、入れ替わるように外へと飛び出した。
「おし……あと何件だ?」
『(あと327件ですね。あと5,6回ぐらい荷物を取りに戻る必要があるかもしれません。)』
聞くだけで気が滅入ってきた。
〜ハーピートレイラー モイライ支部〜
最終的に配達が終わったのは日が完全に沈み、夜中に差し迫ろうという時だった。
ソラはというと暗くなったら外を飛ぶことができない(鳥目だからだそうだ)ので、最終的に俺が全て配ることになった。
「お疲れ様〜。本当に助かったわ……。」
「何、いい訓練になったよ。」
クタクタに疲れてしまってはいたものの、追跡を巻く、痕跡を消す、隙を突いて無力化するなどスニーキングスキルは上がったような気がする。
普段の服に着替え終わり、呼ばれていた休憩室に行った俺を待っていたのは……
「頑張ってくれたからご褒美!色々と用意しておいたよ〜♪」
テーブルの上にあったのは小さいながらも綺麗に作られたケーキと、こんがりと焼けた七面鳥、シャンパンの瓶まで置いてあった。どうやら何もできなくなったのが申し訳なくて俺を労うために作ってくれていたようだ。しかし……
「共食いにならんのか?これは。」
「問題ない問題ない♪だって鷹とかだって自分より小さな小鳥とか捕まえて食べたりするでしょ?」
理屈的には問題ないのだが……いいのだろうか?
とは言え、一日中走りまわった上に吐くと困るからという理由で昼飯も満足に食べられなかったのだ。
とにかく腹が減って仕方がなかったので、大人しくテーブルに着く。
タオルで押さえながらシャンパンの栓を抜き(彼女の手では開けられなかった)、それぞれのグラスへと注いでいく。
さらに七面鳥を切り分けて食べやすく解体した。うん、良い匂いだ。
「ごめんね、本当ならいっぱい働いてくれた君へのご褒美だったのに……。」
「何、こんな旨そうなものを用意してくれていただけで嬉しいよ。」
取り皿に一切れ七面鳥を取り分け、かぶりつく。
皮がパリっと香ばしく焼け、中からジューシーな肉汁が染み出してくる。
グレービーソースの味付けも完璧だ。
「ん、美味いな。焼き加減も味付けも文句なしだ。」
「よかった……少し緊張してたから。」
もう一口頬張ろうとして、ふと我に返る。
本来であれば……俺は呑気にクリスマスパーティーなんてできる身分ではないのだ。
たとえパーティをしていたとしても、敵襲や出動命令が出ればすぐさま銃を手に取って戦わなければならない。
そんな奴がこうして女と二人で七面鳥なぞを啄いて談笑しているのだ。
緊張感が無いにも程がある。
「……?どうしたの?」
「いや……何でもない。少し……昔を思い出してね。」
100%の嘘ではない。
事実、クリスマスパーティーを開いていた時にE-クリーチャーが大量発生した事があり、取るものも取り敢えず出動となった事があった。
あの戦いは酷いものだったな……死者は出なかったものの、皆酔っ払っていたもんだから全員出動禁止。
俺と姉さんは緊急事態に備えて素面だったため、結局二人で全部片付けたんだっけ。
それ以来パーティで浮かれるということに対して若干抵抗を感じるようになってしまった。
「辛い事……?」
「辛い事というよりは馬鹿な話だよ。聞く価値も無い程度にね。」
再び七面鳥を口の中に放り込む。
しかし、先ほどとはうってかわってもそもそと味気なく感じてしまう……。
「(大丈夫だ……。この世界は現時点では大きな戦いも起こらない平和な世界なんだ。別に浮かれてもいいじゃないか。)」
「…………」
それでも険しい顔をしていたのか、彼女が心配そうにこちらを見ていた。あぁ、俺って最高に情けない……。
「大丈夫……だよ。」
「何……?」
唐突に、彼女が大丈夫と呟く。
一体どうしたことだろうか。彼女の意図がいまいちつかめないでいると、優しげに微笑んで彼女が言った。
「君に害をなす物はここには無いから……。安心していいんだよ?」
「──────」
心の中が、見透かされたような気がした。
まさか、考えている事を読まれたのだろうか。
「何故……」
「だって君、まるで捕食者に怯える小動物みたいだったんだもん。」
どうやら思っていた以上に深刻な表情をしていたらしい。しかも『怯える小動物』である。どれだけビビっていたのだ、俺は。
「大丈夫、大丈夫だから。」
いつの間にか、背後に回られて抱きしめられていた。気配を感じられなかった、というよりそれだけ俺が思いつめていたという事なのだろう。
若干ばつが悪かったが、振り払う気にもなれなかったので暫くの間大人しく抱きしめられていた。
何故か……普段よりも安らげた気がした。
「済まない、せっかくご馳走を用意してくれたのに。」
「気にしないの。私だって目の前に落ち込んでいる人がいて呑気に料理をパクつく程無神経じゃないんだから。」
そう言いながら彼女は椅子を俺の隣へと移動させてくる……って。
「何故隣に来る……?」
「いいじゃない、別に。」
どうやら取り合ってはもらえないようだ。変な雰囲気になる前に平らげるものを平らげて早めにお暇……
「ねぇねぇ」
「あん?」
呼びかけられて彼女の方を振り向くと、フォークに突き刺した七面鳥を俺の方へ突き出していた。これは……うん、間違いない。
「あ〜ん♪」
「やっぱりか。やるとは思っていたがやっぱりか。」
俺とこいつとは今日仕事で会ったばかりの筈なのに何故ここまで親密になっているのだろうか。
女たらし女たらしと言われはするが……今回は口説いた覚えは全く無いぞ。
ごく真面目に仕事をしていただけだ。……うん、自信を持って言える。
「頼む、勘弁してくれ。これ以上周りに異性が増えると流石に刺される。」
「全員まとめて面倒を見てあげれば〜?」
「俺にそこまでの甲斐性はねぇ!」
声が大きすぎたのか、彼女が肩をすくめて身を震わせた。
あぁ、少し言い過ぎた……って、この子目が潤み始めているんですけど!
「ごめんね……ちょっと馴れ馴れし過ぎたよね……迷惑だったよね?」
「あ、いや……別に迷惑とかそういうのじゃなくて……少し困って慌ててしまっただけというか……」
ますます俯いてしまう彼女。無理、こういう女性を見ていると放って置けない。
自分が追い詰められようが刺されようが知った事か。俺は悲しみ製造機じゃねぇ。
フォークを握ったままの彼女の手(翼?)を取って持ち上げさせ、その先に刺さっている鶏肉にかぶり付く。最初はきょとんと目を点にしていた彼女だが、何が起きたか理解すると嬉しそうに抱きついてきた。
「えへへ〜♪」
「(あぁ、もう……何やってんだ俺は。)」
今更ながらに後悔の念が襲って来るが、やってしまったものはしょうが無い。
せめてでも体を明け渡したりしなければ……!
「ね〜ぇ〜……」
「やらないぞ。」
「まだ何も言ってないのに……」
えぇ、予想していましたとも。彼女達がこういう雰囲気になった時に求めてくる物は一つだって。俺だって伊達にこの世界で過ごしてきた訳じゃないんだ。
これ以上何かを求められる前に立ち去る。これが一番クリーンな方法だろう。
「ま、料理美味かったよ。ごちそうさん。また人手が必要になったら呼んでくれ。」
「ま、待って!」
袖を引っ張られる感触。言わずもがな原因は彼女にある。
振り向くと彼女は泣きそうな顔ですがりついてきた。
「私……まだプレゼント貰ってないから……」
「いや、プレゼントって……」
プレゼントは、貴方です……という事なのだろう。しかし、ここで一回関係を持つとずるずると長引いてしまいそうだ。
その結果首を絞められるのは俺……。
逃げるのは簡単だ。腰に付けてあるグレネードポーチからフラッシュバンを取り出し、ピンを引きぬいて彼女の目の届く所に放り投げてやればいい。それが何か解らない彼女は無防備に閃光と爆音の餌食になって気絶するだろう。あとはさようなら……と。
グレネードポーチに片手を突っ込むが、その手が固まる。
今逃げるのは……最低の行いのような気がして。
結局俺は……
フラッシュバンを取り出せなかった。
〜ハーピートレイラー モイライ支部 休憩室〜
仮眠用のソファに彼女を横たえる。こんな事になってしまったが……もう今更か。
いい加減自分の行動に自制を掛けなければいけないのだが、どうも性分的に女性の涙とか気弱な仕草だとかそういう物に弱い。この先も一生治らないのだろうなぁ……。
「うぅ……よく見えない……」
「光源が蝋燭しか無いからな。」
燭台を持込み、テーブルの上に載せる。
俺はこの程度の明かりでも問題ないが、彼女にとっては恐らく真っ暗闇に近いのだろう。
「ね、不安だからぎゅってして……。」
「はいはい……これでいいか?」
羽などを踏まないように気をつけながら同じソファに座り、彼女の腰へと腕を回す。
ほっそりとした体躯は非常に細く、少し力を込めれば折れてしまいそうだ。
この体で重い荷物を運んでいるというのだからその内に秘められたパワーというのは凄まじいのだろうな。
「んで、次はキスか?」
「あ、うん……」
そっと彼女の唇へ自分の唇を重ねる。触れた瞬間ピクリと体が震えたのは闇の中では眼が見えていないからだろうか。
体も緊張でガチガチになっているあたり男性経験は無いに等しいのだろう。
優しく背中を摩ってやると、少しは緊張が解けたのかこちらへ体を預けてきた。
「はふぅ……何だか手馴れてない?」
「こういう街で生活して長い……と言えば察してくれるか?」
伊達に人数を抱いてきている訳ではない。大体喜びそうなツボというのは心得ているのだ。
まぁ……人間相手じゃ通じそうもないがね。
思えば人間の女性にまともに声を掛けられたのってミシディア潜入時ぐらいだなぁ……。ま、どうでもいいか。
「はぐ」
「あいでででで!」
鼻噛まれたよ鼻。ヤキモチか。ヤキモチなんか。
鼻が解放された感覚と同時に彼女が額に自らの額を当ててきた。あぁ、これって照れくさいな。
「今だけ……今だけでいいから私だけを見ていてよ。」
「……わかった。」
俺の答えにある程度は満足行ったのか表情を緩めるが、それでも少し不満があったようで俺の胸板にまた額をコツンとぶつけてきた。
コレ好きだなぁ……こいつは。
「ずっと見ていてやる、じゃないんだね。」
「済まないな……こればっかりはどうにも無理だ。」
ただでさえ俺争奪戦が激化しているのに、これ以上参加者を増やせば俺の心労はもはや虚数領域すらブチ破って人類がまだ観測できていない領域まで行ってしまいそうだ。
「いいですよーだ。絶対に振り向かせて見せるんだから。」
「あはは……まぁ頑張ってくれ。」
はい、恐らく彼女もこの先俺を追い回す事が決定されました。
本格的に誰にも会わないような孤島に移り住まなくちゃならなくなって来たかもしれないな。
どこかになかっただろうか、俺の総資産でも買えそうな無人島というのは。……人じゃなくて魔物が住んでいるというオチも無しでだ。
「ね、話はもういいから触ってよ。疼いちゃって仕方が無いよ……。」
「はいはい……。」
下腹部に手を這わせ、股の間……を通りすぎて菊座をグニグニと揉み上げる。
その感触にソラがビクリと身を竦ませて素っ頓狂な声を上げる。
「ひゃぁ!?い、いきなりお尻!?」
「冗談だ。」
手を秘部へと戻し、クリトリスを弄りながら中へと指を潜りこませる。
特に抵抗もなくずぶずぶと沈み込んでいく指。
中に入っている指を折り曲げ、ザラザラとした場所を弄り倒してやる。
すると、一際高い嬌声を上げて彼女が身悶えする。翼がバタバタと暴れたり、手が内股気味に押さえられたりと中々反応が激しい。いじり甲斐があるな、これは。
「まっれ、まっれぇ!そこ、びんかんりゃからぁ!」
「にしてはこっちは大喜びしているみたいだが?」
彼女の秘部からは止めどなく愛液がこぼれ落ち、俺のズボンとソファをぐしゃぐしゃに濡らしている。
「いく……いっひゃうよぉ……!ゆびやらあ!おひんひんで、おひんひんでいきらいよぉ!」
「ふむ……そうか。」
という訳で指を中から引きぬいてやる。
「ぁ……」
とたんに残念そうな声を漏らす彼女。まぁ俺としても寸止めは辛いからな。
ズボンのチャックを下ろし、トランクスをずり下ろしてガチガチになったモノを取り出す。しかし彼女にとっては俺がゴソゴソやっているようにしか分からないのだろう。
「こっち、だろ。」
「ぁ……うん。」
彼女の秘部にそれを押し付けてやると恥ずかしそうに頷いた。
蝋燭の明かりだけでは分からないが、おそらく彼女の顔は真っ赤になっているのだろう。
恐らく、本物を触るのは初めてなのだろうな。やべ、鼻血出そうだ。
「少し腰を上げてくれ。」
「うん……んっ、ふぁあ!?」
膣口に宛てがい、一気に貫いた途端に歓喜の声を上げる彼女。
全身に震えが走り、翼の部分の羽が膨れ上がって2倍くらいの大きさになっている。
俺もかなり気持ちが良かったのだが……如何せんイキそこねてしまった。
「はひゃ……これ、すご……。ほんもののおちんちん……」
「浸っている所悪いが……こっちがまだだっ!」
下から強く突き上げると、さらに高い嬌声を上げて俺にしがみついてきた。
彼女の中もまだ精が出ていない事が分かっているのか積極的に絡み付いてくる。尤も、本人は快楽で既に腰砕けになっているらしく、しがみついて声を上げる事ぐらいしかできなくなっているようだが。
「あ、ふぁ、こ、こわ、きもひよふぎて、こわひよぉ!」
「もう少し……もう少しだ!」
これでも経験を重ねてきたつもりだったが……うん、毎度の事ながら彼女達の中というのは気持よすぎて長続きがしない。
自分が早漏なのではないかと危惧したこともあったが、自分で処理しようとした所、全く達することができなくて逆に絶望した事もあったか。
中に出すのはまずい、という事で彼女の腰を抱えていつでも引き抜ける体勢に……って、腰に足が絡みついてきた!?
「ちょ、足離せ!出ちまうから……」
「やらぁ……らしてぇ、なかにらしてぇ!」
体は軽いくせに足の力は異様に強い。引き剥がそうとしてもがっちりとホールドされて梃子でも動かない状態だ。
流石に会って24時間も経たない相手に責任なんて持てそうもない。
「でる、から!早く、離せって……!」
「やぁの!しゅきなひともあかひゃんもほしぃのぉ!」
「お前と会ってから1日も経ってないだろうが!?もっと考えてから……!」
あぁ、何も学習してねぇな……俺は。
彼女達がそんな事気にするタマじゃないというのは身に染みてわかっているじゃないか。
「っは……か……でちま……った……」
「あはぁ……びゅくびゅく出てるぅ……♪」
抵抗も虚しく彼女の中に白濁液が吐き出される。いくら出来にくいとはいえ……可能性がゼロでは無い以上危険性が全く無いとは言えないのだ。
出来たら……責任取らなきゃならないんだろうなぁ、今更だけど。
「全く……相手の気持ちを無視すんなっての。」
「大丈夫、気持ちなんて後から付いて来るから♪」
満足そうに微笑む彼女を見ていたら怒るに怒れず、結局ため息を吐くだけに終わってしまった。
〜モイライ居住区 ソラ宅前〜
「泊まって行かないんだ……」
「ま、いろんな意味で危ないしな。」
あの後、食事の後片付けをして(性的な物を含む)彼女を家に送り届けた。
彼女は俺を自宅に留めておきたかったらしいが、置き去りにしたラプラスが後で何を言うか分からないので辞退。
「もっと滅茶苦茶にされてもいいのに……」
「本当に頭の中桃色な。」
空恐ろしいことをポツリと漏らす彼女に若干引いてしまうのは仕方ないと思って欲しい。
俺はまだまだ人間だし、人間は一晩ぶっ続けで致せるほど強くないし、これから先も俺は人間であり続けなければならないのだから。
「そんじゃ、また人手が足りなくなったら呼んでくれ。いつでも待ってる。」
「ぁ……」
その場から離れようとした時、彼女に袖を引かれた。
泊まらないと言っているのに未練がましくな……
「お別れの……キス、だけ……」
「あ〜……」
なんだろ、普通に求められるよりえらく恥ずかしいぞ、これは。
唇にするのはさらに恥ずかしかったので、抱き寄せて彼女の額に唇を落とす。
ヘタレとか言うなよ?……ごめん、やっぱヘタレだわ。
「んじゃ、またな。」
その場にいるのがいたたまれなくなり、逃げるようにその場を後にした。
後ろから変な鳴き声というか悶絶が聞こえたのは……無視だ、無視。
〜ギルド宿舎 アルテア自室〜
「ただいま、っと」
自室のドアを開けたが、もう一人の住人の声……ラプラスが何も答えない。
なんというか……ご機嫌斜めっぽい。
「あ〜……遅くなってすまん、ラプラス。仕事が長引いた上に夕飯までごちそうになってな……」
『それでソラ様まで美味しく頂いたという訳ですね、わかります。』
うわぁい、バレバレだ。
言うのが遅れたが、先ほどの俺争奪戦にはラプラスまで参加している。
驚くなよ?俺だって仰天しているんだから。
「いや〜あははは……ごめん。」
『……仕事であれば百歩譲って良しとしますが……プライベートまで一緒なのは頂けません。』
こいつの機嫌が傾くとそう簡単には治ってくれない。最長は1週間ぐらいだったなぁ……あれは大変だった。
『明日一日一緒に行動するというのであれば今回の事は水に流します。』
「オーケー……その程度で許してもらえるならお安い御用だ。」
今回はなんとか許してもらえたようだ。何だか尻に敷かれっぱなしだなぁ……。
死ぬまで続くんだろうな、この生活は。
「はぁ……寝よ。」
逃走と甘さと苦さの今日という日は、俺のため息で締めくくられたのだった。
〜おまけ〜
「お願い!彼をうちの配達員に転属させて!」
「いや、流石にそれは無理よ……」
なんかヘッドハンティングされていた。
今ではその意識も殆ど薄れて、家族や親しい人達が集まって贅沢をする……という風習に変わりつつある。
尤も、経験なクリスチャンなんかは本当の意味でクリスマスを祝うのだろうが、まぁ今回はこの話はどうでもいい。
貧乏暇なし、という言葉の通り、俺みたいな万年金欠野郎がクリスマスだからといって休める訳も無く、その日もせっせと仕事をこなしていた訳だ。
……あぁ、思い出しただけでも泣けて来るな。
〜交易都市モイライ 居住区〜
『(3字方向距離20にターゲット。)』
「了解!」
袋の中から目的のブツを取り出し、駆け寄って郵便受けへと放り込む。
別に宅配テロという訳ではない。ある意味ではアルバイトのようなものだ。
『(十字方向の白い家。数は2です。)』
「はいよっと……忙しいったら無いな。」
また袋の中から配達物を2つ取り出し、ポストの中に入れる。
何を配っているかって?これが何かというのは30分ほど前に遡る。
朝起きて支度を整え、ギルドのロビーに顔を出すとミリアさんがハーピーの女性と何かもめていた。
どちらかと言うとハーピーの方が立場は弱そうだが……
「本当にお願い!」
「そうは言われてもねぇ……こちらだって手が空いている子なんて殆どいないし。」
話から推測するに、人手でも探しているのだろう。
今日はまだクエストを受けていない。すなわち俺にお鉢が回ってくる確率は……
「あら、アルテア。いい所に来たわね。」
100%だ。
まぁこちらとしてもクエストを探す手間が省けるので願ったりかなったりなのだが。
「何か仕事の依頼かい?」
「えぇ……ハーピートレイラーからクリスマスプレゼントの配達の人手が足りないって言われてね。こっち(冒険者ギルド)としても輸送手段に彼女達を使っているから断りにくかったのだけど、生憎皆出払っていて頼める人がいなかったのよ。それで……」
そこから先を手で制する。まぁ、言われなくてもわかるからな。
「分かった分かった、俺にその手伝いをしろと。別に構わないぜ?給料さえ出るならな。」
「話が早くて助かるわ。詳細はその子に聞いて頂戴。」
ハーピーはというと救いの神と餌が一辺にやってきたかのような表情で俺の方を見ていた。
これは……うん、警戒しておくに越したことは無いな。
「(ラプラス、フラッシュバンを出してくれ。1個持っていく。)」
『(了解。)』
鵺からフラッシュバンを抜き取り、グレネードポーチへと移す。
いやはや……普通のポーチを改造してまで手に入れておいて正解だったな。
「あれ?おにいちゃんは?」
「あ……ごめんなさい、アニー。もう仕事に出しちゃった……」
「────」
「楽しみにしていたのにごめんね?いつもより良いケーキ買ってきてあげるから……」
「いちごも……」
「う……わ、解ったわ。探してみるから。」(この時期に苺ってどうやって探せばいいのよぉ!?)
「配る所は結構多いけど……覚えられる?」
地図を広げながら心配そうに聞いてくるハーピー。ちなみにモイライ周辺の配達チーフをしているらしい。名前はソラ、だそうだ。
「問題ない。記憶力に関しては自信がある。」
ちなみに半分嘘だ。
広げられた地図をツールで読み込み、ナビゲートさせればいい。
実に便利、文明の利器とは素晴らしきかな。
ちなみに今回配って回るのはハーピートレイラーのイベント企画、夫婦円満セットだそうだ。中身は……うん、言うまでもないね。間違いなくそっち系の道具だ。
独身男性向けのサービスもしているそうだが……こちらはどちらかと言うと独身のハーピーがパートナー探しとして行うものらしい。
やれやれ……あの手この手で婿探しに忙しい事だ。
「俺はこの一帯を担当すればいいんだな?」
「うん、ちょっと広いけど……」
「何、走るのは慣れている。荷物を持ってなら尚更にな。」
あぁ、そうさ。鵺の扱いに慣れるために毎日あれを担いで5,6キロは走らされたよ。
1ヶ月ぐらいで慣れたけど。
それからはトレイラーの支部へ配達物を取りに行き、専用のコスチューム(例のごとく赤と白のアレだ。これも異世界人が持ち込んだものらしい)を着せられた。
しかし……なんで男物も用意してあるんだ?
「毎年この時期は忙しいからねぇ……。アルバイトを雇った時用に置いてあるの。」
「なるほどな」
そんな訳で、冒頭へ。
「配っている家の中では誰かがイチャついてんだろうな〜っと。はぁ、気が滅入る気が滅入る。」
『(マスターも休みを取って誰かと過ごせばよかったではありませんか。引く手数多でしょうし。)』
「バカ言え、誰かと二人で過ごすとなったら他の奴らが炎上するぞ。そんな事になるなら一人で過ごした方がマシだ。」
『(モテる男は辛いという事ですか。)』
「若干嫌味っぽいが……そういう事だ。」
ちなみに鵺は自室に置いて来てある。通信のみであれば街中にさえあればどこででも可能だからな。
流石に余計な荷物を持って歩く程余裕はない。
もう一件のポストに配達物を突っ込む。
次へと行こうとした時、中から声が……
<わふっ……はぁん……
「………………はぁ。」
クリスマスって何だろうな。
『(祝い事にかこつけてアベックが子作りをする日です。)』
「それなら魔物達の祝日はほぼ毎回クリスマスだな。」
あともう少しで配達が終わろうかという時、一人のハーピーが慌てた様子でこちらの方へ飛んできた。たしかアレは……冒険者ギルドに助人を頼みに来た奴だな。
「た、大変大変!」
「どうした?誰かが配達を途中でバックレでもしたか?」
「何で解ったの!?」
大当たりかよ。
「未婚既婚を問わずこんな事やってられるかって……毎年こういう事をする子は一人二人いるんだけど今年は全員なの。私だって彼氏が欲しいのに……!」
ギリギリとハンカチを噛んで悔しがるハーピー……ってお前は一昔前の少女漫画か。
「で、俺にどうしろと?」
「もうこうなったら事態の収拾はつかない……。私達だけで全部配るしか無いわね。」
「うわ、マジか。」
彼女の顔は既に悲壮感が9割、諦念が1割を占めている。
まぁ……乗りかかった船だ。最後まで通してやるか。
「さっさと残っている荷物を配って取りに戻ろう。二人で全ての地域をカバーするとなったらグズグズはしていられない。」
「やって……くれるの?」
走りだした俺に彼女が空を飛んで付いて来る。
なんというか……うん、放って置けないな。
「ここで投げ出したら格好悪いだろ?最後まで付き合うぜ。」
「あ……ありがとう!私は事務所に戻って配り終わった所に印を付けておくから……なるべく早く戻ってきて!」
さて……いつ終わるともわからん耐久宅配レースのスタートだ。
まさかサンタクロースの苦労を身をもって味わうとは思わなかったな。
「確かに宅配は請け負ったけどさぁ……」
『(何ですか。)』
俺は今必至に走っている。無論宅配の仕事も忘れていない。
しかし、今俺が走っているのは宅配のためではない。逃げる為だ。
「無駄な鬼ごっこまでするとは聞いてねぇぞ!コンチキショウ!」
背後には俺を追いかけてくる魔物が無数に着いて来ている。
彼女達は相手がいないから家に引きこもっていようなどという後ろ向きな精神の持ち主は誰一人としていない。
いなかったら捕まえてくればいいじゃないという発想のもとに街中を徘徊し、独身っぽそうな男に声をかけているのだ。
そんな彼女達が袋を持って一人で街を駆け回っている男を見たらどう思うだろうか?
「クリスマスなのに仕事に忙殺される独身男性」だ。
あぁ、こんな時に以前誤飲した性別転換薬があればなぁ……
『(戻ってください。背後10メートル、青色の家に配達物を。)』
「配達物があるなら先に言え!」
『(こちらも逃走ルートを算出するのに忙しいのです。その位は自力で見つけて下さい。)』
土煙を立てながらターンし、ランニングバックよろしく捕まえにかかってくる魔物達をかいくぐってポストへ宅配物を投げ込む。
再び走りだした時、目の前に絶望(壁)が広がってきた。
さらに、左右から挟み込むようにワーウルフとワーラビット。
どちらも俊敏性が高く、引き返していたら減速中に捕まる。ならば……!
「諦めん!」
近くにあったゴミ箱の上に飛び上がり、それを足がかりにレンガの塀の上へと飛び乗る。
まだ逃げられる内はフラッシュバンは使わない……なにせ1個しか無いのだ。
『(丁度その塀から右を見た家がターゲットです。)』
ポストの方まで回っている暇はない。そして丁度その時家の窓が開いた。
おそらくは換気でもしようと窓を開けたのだろう。
「はい郵便!」
「うわぁ!?」
窓を開いた人物に荷物を軽く放ってやる。
受け取ったのを確認すると、素早く塀を渡って向こう側へと降り、次の目標へ向けて走りだした。
「最近の郵便ってずいぶんとアグレッシブだなぁ……」
「見失っちゃった……」
「意外と素早いよねぇ……でも俄然燃えてきた!」
「私こっちを探すよ。」
3人は友人同士なのか、寄り集まって俺がどこへ行ったのか辺りを探している。
その内二人が別々の方へと走っていく。
残ったのは……ワーキャットか。
「さて、あたしも探しますかにゃ……」
「悪いな、させないぜ。」
彼女の背後……すなわち藁山の中から俺が身を起こして肩を掴み、首筋にチョップを入れて意識を刈り取る。
そのまま藁山の中へ引きずり込み、入れ替わるように外へと飛び出した。
「おし……あと何件だ?」
『(あと327件ですね。あと5,6回ぐらい荷物を取りに戻る必要があるかもしれません。)』
聞くだけで気が滅入ってきた。
〜ハーピートレイラー モイライ支部〜
最終的に配達が終わったのは日が完全に沈み、夜中に差し迫ろうという時だった。
ソラはというと暗くなったら外を飛ぶことができない(鳥目だからだそうだ)ので、最終的に俺が全て配ることになった。
「お疲れ様〜。本当に助かったわ……。」
「何、いい訓練になったよ。」
クタクタに疲れてしまってはいたものの、追跡を巻く、痕跡を消す、隙を突いて無力化するなどスニーキングスキルは上がったような気がする。
普段の服に着替え終わり、呼ばれていた休憩室に行った俺を待っていたのは……
「頑張ってくれたからご褒美!色々と用意しておいたよ〜♪」
テーブルの上にあったのは小さいながらも綺麗に作られたケーキと、こんがりと焼けた七面鳥、シャンパンの瓶まで置いてあった。どうやら何もできなくなったのが申し訳なくて俺を労うために作ってくれていたようだ。しかし……
「共食いにならんのか?これは。」
「問題ない問題ない♪だって鷹とかだって自分より小さな小鳥とか捕まえて食べたりするでしょ?」
理屈的には問題ないのだが……いいのだろうか?
とは言え、一日中走りまわった上に吐くと困るからという理由で昼飯も満足に食べられなかったのだ。
とにかく腹が減って仕方がなかったので、大人しくテーブルに着く。
タオルで押さえながらシャンパンの栓を抜き(彼女の手では開けられなかった)、それぞれのグラスへと注いでいく。
さらに七面鳥を切り分けて食べやすく解体した。うん、良い匂いだ。
「ごめんね、本当ならいっぱい働いてくれた君へのご褒美だったのに……。」
「何、こんな旨そうなものを用意してくれていただけで嬉しいよ。」
取り皿に一切れ七面鳥を取り分け、かぶりつく。
皮がパリっと香ばしく焼け、中からジューシーな肉汁が染み出してくる。
グレービーソースの味付けも完璧だ。
「ん、美味いな。焼き加減も味付けも文句なしだ。」
「よかった……少し緊張してたから。」
もう一口頬張ろうとして、ふと我に返る。
本来であれば……俺は呑気にクリスマスパーティーなんてできる身分ではないのだ。
たとえパーティをしていたとしても、敵襲や出動命令が出ればすぐさま銃を手に取って戦わなければならない。
そんな奴がこうして女と二人で七面鳥なぞを啄いて談笑しているのだ。
緊張感が無いにも程がある。
「……?どうしたの?」
「いや……何でもない。少し……昔を思い出してね。」
100%の嘘ではない。
事実、クリスマスパーティーを開いていた時にE-クリーチャーが大量発生した事があり、取るものも取り敢えず出動となった事があった。
あの戦いは酷いものだったな……死者は出なかったものの、皆酔っ払っていたもんだから全員出動禁止。
俺と姉さんは緊急事態に備えて素面だったため、結局二人で全部片付けたんだっけ。
それ以来パーティで浮かれるということに対して若干抵抗を感じるようになってしまった。
「辛い事……?」
「辛い事というよりは馬鹿な話だよ。聞く価値も無い程度にね。」
再び七面鳥を口の中に放り込む。
しかし、先ほどとはうってかわってもそもそと味気なく感じてしまう……。
「(大丈夫だ……。この世界は現時点では大きな戦いも起こらない平和な世界なんだ。別に浮かれてもいいじゃないか。)」
「…………」
それでも険しい顔をしていたのか、彼女が心配そうにこちらを見ていた。あぁ、俺って最高に情けない……。
「大丈夫……だよ。」
「何……?」
唐突に、彼女が大丈夫と呟く。
一体どうしたことだろうか。彼女の意図がいまいちつかめないでいると、優しげに微笑んで彼女が言った。
「君に害をなす物はここには無いから……。安心していいんだよ?」
「──────」
心の中が、見透かされたような気がした。
まさか、考えている事を読まれたのだろうか。
「何故……」
「だって君、まるで捕食者に怯える小動物みたいだったんだもん。」
どうやら思っていた以上に深刻な表情をしていたらしい。しかも『怯える小動物』である。どれだけビビっていたのだ、俺は。
「大丈夫、大丈夫だから。」
いつの間にか、背後に回られて抱きしめられていた。気配を感じられなかった、というよりそれだけ俺が思いつめていたという事なのだろう。
若干ばつが悪かったが、振り払う気にもなれなかったので暫くの間大人しく抱きしめられていた。
何故か……普段よりも安らげた気がした。
「済まない、せっかくご馳走を用意してくれたのに。」
「気にしないの。私だって目の前に落ち込んでいる人がいて呑気に料理をパクつく程無神経じゃないんだから。」
そう言いながら彼女は椅子を俺の隣へと移動させてくる……って。
「何故隣に来る……?」
「いいじゃない、別に。」
どうやら取り合ってはもらえないようだ。変な雰囲気になる前に平らげるものを平らげて早めにお暇……
「ねぇねぇ」
「あん?」
呼びかけられて彼女の方を振り向くと、フォークに突き刺した七面鳥を俺の方へ突き出していた。これは……うん、間違いない。
「あ〜ん♪」
「やっぱりか。やるとは思っていたがやっぱりか。」
俺とこいつとは今日仕事で会ったばかりの筈なのに何故ここまで親密になっているのだろうか。
女たらし女たらしと言われはするが……今回は口説いた覚えは全く無いぞ。
ごく真面目に仕事をしていただけだ。……うん、自信を持って言える。
「頼む、勘弁してくれ。これ以上周りに異性が増えると流石に刺される。」
「全員まとめて面倒を見てあげれば〜?」
「俺にそこまでの甲斐性はねぇ!」
声が大きすぎたのか、彼女が肩をすくめて身を震わせた。
あぁ、少し言い過ぎた……って、この子目が潤み始めているんですけど!
「ごめんね……ちょっと馴れ馴れし過ぎたよね……迷惑だったよね?」
「あ、いや……別に迷惑とかそういうのじゃなくて……少し困って慌ててしまっただけというか……」
ますます俯いてしまう彼女。無理、こういう女性を見ていると放って置けない。
自分が追い詰められようが刺されようが知った事か。俺は悲しみ製造機じゃねぇ。
フォークを握ったままの彼女の手(翼?)を取って持ち上げさせ、その先に刺さっている鶏肉にかぶり付く。最初はきょとんと目を点にしていた彼女だが、何が起きたか理解すると嬉しそうに抱きついてきた。
「えへへ〜♪」
「(あぁ、もう……何やってんだ俺は。)」
今更ながらに後悔の念が襲って来るが、やってしまったものはしょうが無い。
せめてでも体を明け渡したりしなければ……!
「ね〜ぇ〜……」
「やらないぞ。」
「まだ何も言ってないのに……」
えぇ、予想していましたとも。彼女達がこういう雰囲気になった時に求めてくる物は一つだって。俺だって伊達にこの世界で過ごしてきた訳じゃないんだ。
これ以上何かを求められる前に立ち去る。これが一番クリーンな方法だろう。
「ま、料理美味かったよ。ごちそうさん。また人手が必要になったら呼んでくれ。」
「ま、待って!」
袖を引っ張られる感触。言わずもがな原因は彼女にある。
振り向くと彼女は泣きそうな顔ですがりついてきた。
「私……まだプレゼント貰ってないから……」
「いや、プレゼントって……」
プレゼントは、貴方です……という事なのだろう。しかし、ここで一回関係を持つとずるずると長引いてしまいそうだ。
その結果首を絞められるのは俺……。
逃げるのは簡単だ。腰に付けてあるグレネードポーチからフラッシュバンを取り出し、ピンを引きぬいて彼女の目の届く所に放り投げてやればいい。それが何か解らない彼女は無防備に閃光と爆音の餌食になって気絶するだろう。あとはさようなら……と。
グレネードポーチに片手を突っ込むが、その手が固まる。
今逃げるのは……最低の行いのような気がして。
結局俺は……
フラッシュバンを取り出せなかった。
〜ハーピートレイラー モイライ支部 休憩室〜
仮眠用のソファに彼女を横たえる。こんな事になってしまったが……もう今更か。
いい加減自分の行動に自制を掛けなければいけないのだが、どうも性分的に女性の涙とか気弱な仕草だとかそういう物に弱い。この先も一生治らないのだろうなぁ……。
「うぅ……よく見えない……」
「光源が蝋燭しか無いからな。」
燭台を持込み、テーブルの上に載せる。
俺はこの程度の明かりでも問題ないが、彼女にとっては恐らく真っ暗闇に近いのだろう。
「ね、不安だからぎゅってして……。」
「はいはい……これでいいか?」
羽などを踏まないように気をつけながら同じソファに座り、彼女の腰へと腕を回す。
ほっそりとした体躯は非常に細く、少し力を込めれば折れてしまいそうだ。
この体で重い荷物を運んでいるというのだからその内に秘められたパワーというのは凄まじいのだろうな。
「んで、次はキスか?」
「あ、うん……」
そっと彼女の唇へ自分の唇を重ねる。触れた瞬間ピクリと体が震えたのは闇の中では眼が見えていないからだろうか。
体も緊張でガチガチになっているあたり男性経験は無いに等しいのだろう。
優しく背中を摩ってやると、少しは緊張が解けたのかこちらへ体を預けてきた。
「はふぅ……何だか手馴れてない?」
「こういう街で生活して長い……と言えば察してくれるか?」
伊達に人数を抱いてきている訳ではない。大体喜びそうなツボというのは心得ているのだ。
まぁ……人間相手じゃ通じそうもないがね。
思えば人間の女性にまともに声を掛けられたのってミシディア潜入時ぐらいだなぁ……。ま、どうでもいいか。
「はぐ」
「あいでででで!」
鼻噛まれたよ鼻。ヤキモチか。ヤキモチなんか。
鼻が解放された感覚と同時に彼女が額に自らの額を当ててきた。あぁ、これって照れくさいな。
「今だけ……今だけでいいから私だけを見ていてよ。」
「……わかった。」
俺の答えにある程度は満足行ったのか表情を緩めるが、それでも少し不満があったようで俺の胸板にまた額をコツンとぶつけてきた。
コレ好きだなぁ……こいつは。
「ずっと見ていてやる、じゃないんだね。」
「済まないな……こればっかりはどうにも無理だ。」
ただでさえ俺争奪戦が激化しているのに、これ以上参加者を増やせば俺の心労はもはや虚数領域すらブチ破って人類がまだ観測できていない領域まで行ってしまいそうだ。
「いいですよーだ。絶対に振り向かせて見せるんだから。」
「あはは……まぁ頑張ってくれ。」
はい、恐らく彼女もこの先俺を追い回す事が決定されました。
本格的に誰にも会わないような孤島に移り住まなくちゃならなくなって来たかもしれないな。
どこかになかっただろうか、俺の総資産でも買えそうな無人島というのは。……人じゃなくて魔物が住んでいるというオチも無しでだ。
「ね、話はもういいから触ってよ。疼いちゃって仕方が無いよ……。」
「はいはい……。」
下腹部に手を這わせ、股の間……を通りすぎて菊座をグニグニと揉み上げる。
その感触にソラがビクリと身を竦ませて素っ頓狂な声を上げる。
「ひゃぁ!?い、いきなりお尻!?」
「冗談だ。」
手を秘部へと戻し、クリトリスを弄りながら中へと指を潜りこませる。
特に抵抗もなくずぶずぶと沈み込んでいく指。
中に入っている指を折り曲げ、ザラザラとした場所を弄り倒してやる。
すると、一際高い嬌声を上げて彼女が身悶えする。翼がバタバタと暴れたり、手が内股気味に押さえられたりと中々反応が激しい。いじり甲斐があるな、これは。
「まっれ、まっれぇ!そこ、びんかんりゃからぁ!」
「にしてはこっちは大喜びしているみたいだが?」
彼女の秘部からは止めどなく愛液がこぼれ落ち、俺のズボンとソファをぐしゃぐしゃに濡らしている。
「いく……いっひゃうよぉ……!ゆびやらあ!おひんひんで、おひんひんでいきらいよぉ!」
「ふむ……そうか。」
という訳で指を中から引きぬいてやる。
「ぁ……」
とたんに残念そうな声を漏らす彼女。まぁ俺としても寸止めは辛いからな。
ズボンのチャックを下ろし、トランクスをずり下ろしてガチガチになったモノを取り出す。しかし彼女にとっては俺がゴソゴソやっているようにしか分からないのだろう。
「こっち、だろ。」
「ぁ……うん。」
彼女の秘部にそれを押し付けてやると恥ずかしそうに頷いた。
蝋燭の明かりだけでは分からないが、おそらく彼女の顔は真っ赤になっているのだろう。
恐らく、本物を触るのは初めてなのだろうな。やべ、鼻血出そうだ。
「少し腰を上げてくれ。」
「うん……んっ、ふぁあ!?」
膣口に宛てがい、一気に貫いた途端に歓喜の声を上げる彼女。
全身に震えが走り、翼の部分の羽が膨れ上がって2倍くらいの大きさになっている。
俺もかなり気持ちが良かったのだが……如何せんイキそこねてしまった。
「はひゃ……これ、すご……。ほんもののおちんちん……」
「浸っている所悪いが……こっちがまだだっ!」
下から強く突き上げると、さらに高い嬌声を上げて俺にしがみついてきた。
彼女の中もまだ精が出ていない事が分かっているのか積極的に絡み付いてくる。尤も、本人は快楽で既に腰砕けになっているらしく、しがみついて声を上げる事ぐらいしかできなくなっているようだが。
「あ、ふぁ、こ、こわ、きもひよふぎて、こわひよぉ!」
「もう少し……もう少しだ!」
これでも経験を重ねてきたつもりだったが……うん、毎度の事ながら彼女達の中というのは気持よすぎて長続きがしない。
自分が早漏なのではないかと危惧したこともあったが、自分で処理しようとした所、全く達することができなくて逆に絶望した事もあったか。
中に出すのはまずい、という事で彼女の腰を抱えていつでも引き抜ける体勢に……って、腰に足が絡みついてきた!?
「ちょ、足離せ!出ちまうから……」
「やらぁ……らしてぇ、なかにらしてぇ!」
体は軽いくせに足の力は異様に強い。引き剥がそうとしてもがっちりとホールドされて梃子でも動かない状態だ。
流石に会って24時間も経たない相手に責任なんて持てそうもない。
「でる、から!早く、離せって……!」
「やぁの!しゅきなひともあかひゃんもほしぃのぉ!」
「お前と会ってから1日も経ってないだろうが!?もっと考えてから……!」
あぁ、何も学習してねぇな……俺は。
彼女達がそんな事気にするタマじゃないというのは身に染みてわかっているじゃないか。
「っは……か……でちま……った……」
「あはぁ……びゅくびゅく出てるぅ……♪」
抵抗も虚しく彼女の中に白濁液が吐き出される。いくら出来にくいとはいえ……可能性がゼロでは無い以上危険性が全く無いとは言えないのだ。
出来たら……責任取らなきゃならないんだろうなぁ、今更だけど。
「全く……相手の気持ちを無視すんなっての。」
「大丈夫、気持ちなんて後から付いて来るから♪」
満足そうに微笑む彼女を見ていたら怒るに怒れず、結局ため息を吐くだけに終わってしまった。
〜モイライ居住区 ソラ宅前〜
「泊まって行かないんだ……」
「ま、いろんな意味で危ないしな。」
あの後、食事の後片付けをして(性的な物を含む)彼女を家に送り届けた。
彼女は俺を自宅に留めておきたかったらしいが、置き去りにしたラプラスが後で何を言うか分からないので辞退。
「もっと滅茶苦茶にされてもいいのに……」
「本当に頭の中桃色な。」
空恐ろしいことをポツリと漏らす彼女に若干引いてしまうのは仕方ないと思って欲しい。
俺はまだまだ人間だし、人間は一晩ぶっ続けで致せるほど強くないし、これから先も俺は人間であり続けなければならないのだから。
「そんじゃ、また人手が足りなくなったら呼んでくれ。いつでも待ってる。」
「ぁ……」
その場から離れようとした時、彼女に袖を引かれた。
泊まらないと言っているのに未練がましくな……
「お別れの……キス、だけ……」
「あ〜……」
なんだろ、普通に求められるよりえらく恥ずかしいぞ、これは。
唇にするのはさらに恥ずかしかったので、抱き寄せて彼女の額に唇を落とす。
ヘタレとか言うなよ?……ごめん、やっぱヘタレだわ。
「んじゃ、またな。」
その場にいるのがいたたまれなくなり、逃げるようにその場を後にした。
後ろから変な鳴き声というか悶絶が聞こえたのは……無視だ、無視。
〜ギルド宿舎 アルテア自室〜
「ただいま、っと」
自室のドアを開けたが、もう一人の住人の声……ラプラスが何も答えない。
なんというか……ご機嫌斜めっぽい。
「あ〜……遅くなってすまん、ラプラス。仕事が長引いた上に夕飯までごちそうになってな……」
『それでソラ様まで美味しく頂いたという訳ですね、わかります。』
うわぁい、バレバレだ。
言うのが遅れたが、先ほどの俺争奪戦にはラプラスまで参加している。
驚くなよ?俺だって仰天しているんだから。
「いや〜あははは……ごめん。」
『……仕事であれば百歩譲って良しとしますが……プライベートまで一緒なのは頂けません。』
こいつの機嫌が傾くとそう簡単には治ってくれない。最長は1週間ぐらいだったなぁ……あれは大変だった。
『明日一日一緒に行動するというのであれば今回の事は水に流します。』
「オーケー……その程度で許してもらえるならお安い御用だ。」
今回はなんとか許してもらえたようだ。何だか尻に敷かれっぱなしだなぁ……。
死ぬまで続くんだろうな、この生活は。
「はぁ……寝よ。」
逃走と甘さと苦さの今日という日は、俺のため息で締めくくられたのだった。
〜おまけ〜
「お願い!彼をうちの配達員に転属させて!」
「いや、流石にそれは無理よ……」
なんかヘッドハンティングされていた。
13/02/24 00:21更新 / テラー
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