連載小説
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占い師セティリア(前編)





「・・・・・・」




「ええっと。俺、嫌われてるのかな……?」


首を強く横にぶんぶんと振る。リアクションはかなりオーバーだ。
良かった。なにせ彼女から全く言葉を貰うことが出来ないから判断に困っていたところなのだ。


今日はセティリアの相手をすることになっていた。
彼女の愛称はセティ。皆に習って俺もそう呼ばせてもらう。
レティとは中の良い姉妹であり、どちらが先に子供を授かるか無邪気に競争しているという。
競争するような内容では無いとは思うけど、ツッコミをいれるのは野暮で無粋な気がした。


セティは無口で若干の引っ込み思案だという、まるで文学少女とでも言うべき風貌をしていた。
その無口さは徹底している。なにせ俺は未だに声を一回も聞いたことが無いほどなのだ。
セティは喋れないわけではない。喋ると危険だから喋ろうとしないのだ。

言葉には力が宿る。日本でも言霊という言葉が存在する程、言葉には影響力があるのだ。
魔法とか、よくわからない法則が存在する世界においてはそれは更に顕著になる。
彼女は呪い師としての能力が高いために軽々しく言葉を紡ぐことを避けているというのだという。


皆からは、喋らなくても伝わるから安心してと言われていた。
だから俺はゆっくりとセティを相手にして"会話"を始めた。


引っ込み思案と言われていたが、とても表情が豊かで俺の言葉にしっかりと反応してくれた。
上品に笑い、興味津々に話をねだり、話に聞き入って夢中になり、驚き、悲しい話で涙ぐむ。
静かに、しかし確かに俺の前に感情を曝け出してくれた。とても可愛らしく、女性らしい人だった。
無言ではあったが、とても真剣に俺との会話に集中してくれた。

いや。会話に集中しているというよりは……

頬を赤く染めながら、うっとりとしてとろんと蕩けた目で俺を見つめている。という表現が正しい。



……俺の勝手な思い込みでなければ、これは恋する乙女の目なんですが……



恋愛経験0だった高校生が女性の表情から相手の思考を読むスキルを持っているわけは無い。
しかし、こんな表情や仕草をスルーできるほど鈍感な男ではない。
これが漫画だったら目がハートになっているだろう、というくらいの熱い視線なのだ。
俺に完全に見蕩れている。気がついたらキスが出来そうなくらい顔が近かった時もある。


そして徐々にではあるが、セティは俺との距離を積極的に縮めていった。
さり気なく俺の手を握って、いつの間にか身体を寄せて、その豊かなおっぱいが腕に触れていた。
たゆんたゆんでぷよぷよでぷにゅぷにゅでふよふよでぷるんでやっぱりたゆんたゆんですよ。
俺の意識の7割がおっぱいで支配されていた隙にセティは更に急接近してきた。


だれだセティが引っ込み思案って言った人は。めちゃめちゃ積極的なんですけど。


セティは柔らかい手を俺の手に自然と重ね、指を絡めてきた。
セティに触れているところから熱が確かに伝わってくるのを感じる。
興奮しているというよりは、幸せで温かい、そんな感じのぬくもりをセティから感じた。
更にセティは俺の肩に頭を載せて、幸せそうにスリスリと俺に甘えてきた。



なんで?



話に聞いていたセティの性格とまるで違うような、積極的なスキンシップに俺は困惑していた。
いや、こう、魔物と化した状態で、性欲が非常に強くなっている、というのはわかる。
もしくは、一目惚れとかで、俺に対して多大な興味を持っているということも、理解できる。
しかし、セティの熱の入り方は、違うのだ。つい最近出会った相手に対して行うことではない。


セティが行っていることは、"最愛の恋人に対しての愛情の確認を行っている"ようなことだ。


そんな、妙な感覚。違和感。
俺は、恐る恐る疑問を口に出した。



「……セティ……さん?あの、何をしているのでしょう……か」

「・・・・・・」


当然ながら無言。
しかしセティは俺から少しだけ離れて、俺の顔、いや瞳をしっかりと見つめてきた。
その瞳が訴えるものを俺は察することは出来なかったが、とても、悲しそうに見えた。


そのまま、表情を変えず、ぽたり、と目から雫が滴り落ちた。

俺はその涙に驚き、硬直した。そして、セティに対して言葉を発する前に耳に音が届いた。








「 ごめんなさい 」









綺麗で、透き通る声をしていた。











「・・・ハヤト、さん。わたし、あなたが、すきでした。ずっと、すきでした。」










初めて聞いた透き通るような彼女の言葉は、確かに恐ろしい呪いの威力を持っていた。
その言葉は比喩でなく俺の心に伝わり、燃えるような激しい恋情を直接知ることが出来た。

















うまれるまえからすきでした。

であうまえからあいしていました。

あなたのことはずっとみていました。

あいにいこうとずっとおもっていました。

わたしだけをみてほしいとおもっていました。

どんなことでもあなたのことならしっています。

あなたをさいしょにすきになったのはわたしです。

たとえみんなをうらぎってもあなたがほしいのです。







でも。





いけないことだとしっていました。
ゆるされないことだとわかっていました。
それでもおもいをすてることができませんでした。







それほどに強い恋情。何故、と。そして、彼女から嘘偽りのない、真実を伝えられた。
これが真実だと理解できたのは、彼女は魔法ではなく、感情を魔力に伝えたからだと思う。

彼女は少しの言葉だけで、多くの感情を伝えてきた。

だから、その中に、偶然の正体が紛れ込んでいたのだ。





セティ、君が。







「   俺を呼び出したんだね   」







セティは首肯した。










*  *  *







俺はセティから俺を呼び出した経緯を伝えられた。
高度なことは分からないが先ほどの言葉だけで何かしらの魔法が成立したらしい。
セティは俺の頭の中に、直接情報を伝達することが出来るようになった。






セティは占い師だ。
この世界においての占いというのは魔法なども利用して未来を予測する技術らしい。
未来を直接見ることも可能で、俺が居た世界での占いなんかよりも的中率が段違いだ。
魔法の扱いに長けるエルフの中でも特に魔力が強いセティの占いは本当に百発百中なのだろう。

今後この里に男性が現れないというのは、ほぼ確定された未来だった。

だから、彼女達は召喚という手段で未来を変えたのだ。
未来はどうあがいても変更できないようなものではない。
観測した未来を変える手段は必ず存在するのだ。なにせ魔法の世界なのだから。
詳しいことは当然理解できていない。俺は専門家どころか魔法のマの字すら知らないのだから。


そして、セティは俺と一緒になる未来をずっと昔から見ていたらしい。
俺の人生も、夢で繋がってずっと見つめてきたのだという。
しかし、俺はこの世界の人でなくて、別の世界の人間だった。
だから通常の手段で俺がセティと結ばれるのはあり得ないこと、だったらしい。


俺が別の世界の人間だと知って、セティは一度は諦めようとしたのだ。
セティは確かに俺に対して強い憧れを抱いてくれていた、しかしそれでも理性的な女性であった。

本当は、俺の人生の邪魔はしたくなかったのだ。

そのままでいれば、平穏で平和な人生を送ることが出来るだろう国で育った男である。
此方に召喚するという事になってしまえば、彼の家族とも、友人たちとも離れてさせてしまう。
そして、セティも里を捨てて外に出る、ということは出来なかった。
滅び行く未来を迎えかねない里を見捨てることなどということはセティには出来なかった。
セティは里の皆が好きだったのだ。彼女達に力を貸す以外の未来は考えたことが無かった。


だから憧れは憧れのままで、俺を諦めようとしていたのだ。


しかし、里の皆は召喚という手段を選んだ。
セティが進言したわけでは無い。里の皆で悩みながら、これを罪と認識しながら出した答だった。

呼べる。

"呼べてしまう"

セティは、迷った。俺を呼べる状況が来てしまったのだ。
この召喚で呼び出した人が皆のお婿さんになる。それは皆で決めたことだった。
もう一度召喚する余裕は、無い。召喚の機会は一回だけなのだ。


私は知らない人のお嫁に行かなくちゃいけないかもしれない。
だけど、俺にも出会ったことは無い。召喚する際に俺を呼び寄せることは不可能ではない。
でも、俺のことを知っているからこそ、俺を呼ぶのをためらった。
どうしようと悩んだまま、召喚の日を迎えて、"誰か"を呼ぶ儀式を始めた。
そして、迷ったまま、たった一言。言葉を発してしまったのだ。




「  来て、ください  」




セティの言葉は絶大な力を持っている。
そのたった一言で、誰かを呼び出す召喚が、明確な人物を呼び出す召喚に変わってしまった。


たった一言。それが、セティが抱えていた、真実だった。






*  *  *







俺はセティから真実を伝えられた。





俺が呼び出されたのは、偶然では無かった、のか。
愕然とした気持ちになり、俺は同様を隠せず、怒りに似た感情が浮かんだ。
しかし、その怒りは直ぐに消えて、嬉しさがこみ上げてきた。

セティを抱え込むように抱きしめ、俺は彼女の頭に腕を回してぽんぽんと頭を撫でた。


「セティ、大丈夫だ。俺は望んで此処に残ったんだ。だから、君は悪くない」


そう、俺はここに召喚された際に、自分の意志で此処に残ることを選択したのだ。
だから彼女を怒る理由は無い。それは自分自身の選択への八つ当たりにほかならない。


「むしろ俺を此処まで思ってくれた人が居たなんて、嬉しいくらいだ。ありがとうセティ」


そして呼びだされた"誰か"に対してではなく、"俺自身"を望んだ人が居たという事実。
誰かに望まれたということで、救われた気がしたのだ。



「だから改めて言うよ。セティ、俺のお嫁さんになってください」



セティは感極まったようで嬉し泣きしてしまった。


15/10/02 00:33更新 / うぃすきー
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■作者メッセージ
長くなったのでエロオンリーの後編との分割です。

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