読切小説
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勇者になれなかった少年たち
俺は勇者になりたかった。



俺の名前はアルフレッド。年齢はまだ成人したばかりだが相当鍛えてる自信はある。
夢は勇者になること。そして魔王を倒し、世界を平和にすること。

鍛えているって言ったのは剣も魔法も冒険に必要な技術も全部鍛えてるんだ。
勇者になった時に困ることが無いように、実家の手伝いの傍らに鍛える日々を送っていた。
俺の実家は冒険者の酒場で、俺は気に入られていたから色んな人に技術を教えてもらえた。

戦士の兄ちゃんからは色んな武器の扱いを師事してもらった。
槍や弓、盾のの扱い方も教えてもらったけれど一番熱心だったのは剣の稽古だった。
教えてもらった後、それを身体に染み込ませるために毎日の素振りと型稽古は欠かさなかった。

魔術師の兄ちゃんにも魔法を教えてもらおうと必死に勉強した。
あまり良いことじゃないらしいけど、俺の熱意に負けたらしく幾つか魔法を教えてくれた。
教えてくれた魔法を使いこなせるように何度も練習し、実践で使えるくらいまで鍛えた。

森と街を行き来する狩人の兄ちゃんにも冒険に必要なことを教えてもらった。
どんな険しい地形でも生き延びられるように必要な技術を叩きこまれた。有料だったけど。
食べられるものの見分け方や獣の捌き方、いざというときの薬の作り方まで教えてもらった。

神父様のところにも毎日顔を出して主神様に祈りを捧げるのも日課になっていった。
勇者っていうのは主神様の力を授かってなるものだから、祈りを欠かすなんてことは出来ない。
どうか勇者にしてください、と毎日熱心に願った。

俺は一人で冒険が出来るくらいの色んな技術を教えてもらった。
いつでも勇者に任命されて、魔王を倒しに行ける準備は全部整っていた。





でも。
俺なんかを主神様が選んでくれるわけが無い。心の片隅でそう思っていた。
どうせ夢は夢のまま終わって、冒険者になるか騎士を目指すことになる。
出来ることが増えて、逆に現実が見えてきたのだ。

実力は未熟者。心も半端者。中途半端なのだ。
そもそもにして教団の推薦などはありえない。コネクションは無い。
冒険者の宿の息子なんてそこらにうじゃうじゃいる一人に過ぎない。
そこらにいるガキに神様は振り向いてくれないと思っていたのだ。

だから信託に頼るしか無いと思っていた。
神様から直接選ばれるようになると思っていたのだ。


そして、信託により教団から勇者となるべき人物が選ばれた。


新たな勇者が誕生したのだ。


俺は、それに納得できなかった。


選ばれたのは俺の幼なじみのリヒト。
ガキの頃から俺と一緒に遊んでる幼なじみの一人だ。
幼いころから俺の背中に隠れているようなうじうじなよなよしてるやつ。
いや、もう女みたいなやつなのだ。
背は低く、非力で、小柄で、色白。顔も女顔で髪がちょっと長くやっぱり女っぽい。
臆病で泣き虫、内気で人見知りの引っ込み思案。初対面の人とまともに話せない。
記憶力は良いけど、機転は効かなくてどんくさくてあまり頭もいい印象が無い。
虫の一匹でも殺すことが出来ない。そんな奴なのだ。
男の癖にとは言わないが、およそ戦うには向かないようなやつ。それがリヒトだ。


俺はこいつに懐かれている。
昔こいつがいじめっ子たちにいじめられてた時助けたのだ。
いじめなんて勇者がすることじゃないからな。人を助けるのは当然だ。
その後、俺にひっついて遊ぶようになった。
俺はガキ大将だった。ガキたちの間での勇者ごっこはいつも俺が勇者をやっていた。
リヒトはいつもそれに混ざって僧侶の役をやっていた。
こいつが殴るだの蹴るだの出来るやつじゃないと知っていたからだ。
俺が守ってやらないとすぐ魔物にやられちゃう奴だからな!っていつも守っていた。
リヒトは勇者のパーティの一員というよりは、守るべき人たちだったのだ。
だから、俺は納得できなかったのだ。


なんでこいつが。
俺が知らない誰かだったらまだ諦めがつく。
ああ、俺は神様に選ばれなかっただけなんだって。
俺より優れた人が勇者になって世界を救うんだと、言い訳が出来たかもしれない。




でも、なんでこんな勇者に似合わないような奴が。
よりにもよって、俺の後ろに居たような奴が勇者になってしまったんだ。




恨むぜ、神様。




*  *  *




「 ・・・あ、アル兄ちゃん。 」

「 ようリヒト。 いや、勇者様とでも呼んだほうがいいか? 」

「 やめてよ、僕なんかに勇者なんか務まらないよ・・・ 」

「 おいおい、べそべそすんなよ。泣き虫なのは変わらねぇな。
  それと勇者が務まらないなんて言うけど、勇者になることを受け入れたんだろ?
  なら、お前が勇者だよリヒト。 」

「 うん・・・でも、アル兄ちゃんのほうがなるべきだと思うんだよ、やっぱり。 」

「 ああ。そうだろうな。
  お前より百倍、いや千倍、いやいや一万倍は向いてるな。 
  だけどよ、選ばれたんだろう?そんでもって勇者の勤めを受け入れたんだろ?
  ならそれはお前にしか出来ねぇんだよ。だから胸張って勇者を名乗れよ。 」

「 ・・・あ、アル兄ちゃんは僕が勇者になったことどう思ってるの? 」

「 羨ましい。 」

「 え? 」

「 めちゃめちゃ羨ましいよ。ほんとお前に嫉妬してるよ。
  俺が本当に欲しかったものをお前に目の前で奪われた気分だぜ。
  でもよ。
  羨むだけで力が手に入るんだったら俺はそうするが、そうじゃないだろ?
  なら嫉妬はするけど、俺は選ばれなかっただけ。
  それだけだ。だから気にすんな。
  というか、その段階でグダグダしてたらぶっ飛ばすぞ。 」

「 ・・・うん、分かったよアル兄ちゃん。でも、やっぱり不安だよ。 」

「 任命されて即、魔界へ行くってのは正気じゃねぇよな。教団も何考えてんだか。
  でも、勇者の力や魔力を手に入れたとしても争いなんか出来なかったもんな。
  俺だったらどうにかなるが、お前がそこら辺で野垂れ死にしてもおかしくないぜ。 」

「 ・・・出来るのかなぁ。 」

「 安心しろリヒト。 」

「 ・・・? 」



「 俺が付いて行ってやるよ。 」



「 ・・・え? 」

「 何言ってんだ。俺の剣の腕、魔法の実力、冒険の技術。どれをとっても役に立つぜ。 
  お前がぶらぶら旅をするだけじゃ仲間なんか見つからないだろうしな。
  俺が仲間になってやるって言ってんだよ。 」

「 ・・・本当に?本当にいいの? 」

「 つべこべ言うなよ。 なんだ俺が嘘をついたことでもあるか? 」

「 ・・・ううん。嬉しい。ありがとうアル兄ちゃん。 」

「 全く、まるで女みてーな喜びかたしやがって。それでも男だろしゃきっとしろ! 」

「 えへへ、ごめんよアル兄ちゃん。 」




*  *  *




そうして俺とリヒトの二人旅が始まった。
はじめのうちはリヒトはてんで役に立たなかった。
こいつのどんくささは何も無いところで転ぶくらいだったもんで、旅はゆっくりと進んだ。
だけど危険な魔物が居ないうちに、剣と魔法を少しずつリヒトに教えなければならなかった。

上達は、早かった。早すぎた。

これが勇者の恩恵とでも言うべき速度でリヒトは上達していったのだ。
剣の技術は長年の特訓の成果もあり、まだリヒトより俺の方が戦えると思う。

だけど、勇者の純粋なステータス。この差がどうしても出てしまう。

軽く剣を振るだけで小さい岩を砕くような一撃を繰り出すこともできるし、とても俊敏だ。
魔法に関しては完全に魔力の差が歴然と開いているようにしか思えなかった。
記憶力はもともと良かったので俺が教えた魔法をすぐ覚え、それをすぐに使いこなした。
途中でよった魔術師のギルドで幾つか本を読みあさり、それも幾つか覚えることが出来た。
更に信仰による奇跡まで使える。これはもう俺にはさっぱり手が出せない領域だった。
リヒトはもともと信仰熱心だったし勇者は主神様の力を借りている。
だから、かなり多くの奇跡を授かることが出来たんだと思う。

俺は、冒険の技術だけはリヒトに教えなかった。



わかってるよ。


俺にしか出来ないことを作りたいんだって、これが本当に醜い嫉妬だってのは。


自分が一番良くわかっていた。




*  *  *




魔界に入り俺達は幾つかの魔物に襲われた。
「 へっへっへー。ここはおにーちゃんたち二人を置いていかないと通さないぜ! 」
どうやらゴブリンという魔物らしい。あの、かわいい女の子たちなんですが。
教団が教えていた魔物の容姿は歪められているという事実を今やっと知った。
複数いるゴブリンは完全に強盗のソレであり、俺たちに襲いかかってきたので撃退した。


ぼこ!すか!ばき!どか!勝利!〜暴力表現はオブラートに包ませて頂きました〜

「 ばたんきゅ〜 」(×□×)


なんだ俺もやるじゃないか。
魔物との初めての実践ではあったがゴブリンを見事に撃退できたのだ。

が。

「 アル兄ちゃん、ぼ、僕うまくやれたかな・・・? 」

「 ・・・ああうん、なんか剣を振り下ろすだけで吹き飛んでいったな。
  すげぇな勇者。俺形無しじゃねぇか・・・さすがにへこむぜ・・・ 」

リヒトは魔力込めての攻撃だけで半分くらいのゴブリンを撃退していたのだ。





「 男のひとだー。 たーべーちゃーうーぞー。 」

次はスライムらしき軟体の魔物の集団に出会った。
うん、スライムだと思うんだけど女性形だから自信がない。
だが割と物騒なことを口走っているのこちらを餌として見ているのだろう。
ちょっと観察しているうちに襲いかかってきたので撃退した。


ばりばり!めらめら!じゅーじゅー!勝利!〜暴力表現のオブラート包み〜

「 もうだめー 」(×_×)


スライムには武器の効果が薄いと思ったから雷と炎の魔法を試してみたが有効だった。
見事に実践で通用するくらいに鍛えた甲斐があったってものだ。

が。

「 アル兄ちゃん、ぼ、僕の魔法どうだった・・・? 」

「 ・・・あー、魔力をつぎ込んで爆発させてたな。すげぇ威力だったぜ。
  俺の魔法の数倍の威力はあったな・・・とんでもねぇな・・・ 」

リヒトの魔法があれば俺の魔法なんか必要無かったんじゃないかと思う。





「 うー。あー。ひとー。 たべうー。 」

次はゾンビか!なんだこのエンカウント率!それと毎回数が多いな!
アンデッドの割に理性は残っているようだがそれでも魔物なのだろう。

「 アル兄ちゃん、ここは僕に任せて・・・! 」

とリヒトが前に出て奇跡の祈祷を行った。


ぴかぴか!しゅわー!ぱああ!勝利!〜夏のオブラート祭り、ゾンビホラーを添えて〜

「 あうー。 」(×Д×)


リヒトは亡者退散の奇跡を用いゾンビたちを撃退した。

「 アル兄ちゃん、ぼ、僕頑張れてるかなぁ・・・? 」

「 ・・・おう、正直俺なんか居なくてもやれてるよ。
  お前一人でなんだってやれるんじゃねぇか?見事なもんだ。 」

「 えっ、いや。僕なんかまだまだだよ。アル兄ちゃんが居てくれたからだよ。 」

「 俺なんか何もしてねぇよ。勇者を目指したってのにこのザマだからな・・・ 」

「 アル兄ちゃん・・・ 」





次はトカゲの尻尾が生えた女性に出会った。翼は無いからリザードマンかな?

「 ん?何だ。 」

単独だが、ここ最近襲い掛かられてばっかりだから先手必勝と行こう。
俺はともかくリヒトなら多少強い相手でもなんなく勝てるだろう。
剣を抜いて戦闘の態勢を整えてリザードマンとの戦闘を開始した。

「 ・・・? 手合わせというのならば構わないが・・・突然だな。 」

リザードマンは背中に背負っていた両刃の戦斧を手に持ち俺たちを迎え撃った。



ぼこ!すか!ばき!どか!

がす!どさ!ごす!べし!がし!ぐし!ばき!べき!がき!ぴし!ぱし!ぺし!

ごすごすごすがすどかばきべしぃ!どかぁ!ずしゃあああ!がきん!がこぅ!ぱきーん!

キン。   ヒュン。ど、ご、っ。ばきばきばきばき!どさぁ・・・



「 ・・・未熟だな。」



・・・嘘だろ。
こっちは全身ボロボロで身体のあっちこっちが悲鳴を上げてるのに息すら乱れてねぇ・・・
まともに打ち合うことすら出来ずに剣もブチ折られている。なんて技量だ・・・
魔法はまともに効かないし、避けられるしそもそも詠唱してる暇が無い。冗談だろ・・・
リヒトは今、尻尾の一撃をまともに喰らい吹き飛ばされて倒れている。
勇者のステータスだけじゃ一切通用しない領域の強敵。

俺達は死を覚悟した。



「 アル・・・兄ちゃん・・・逃げて・・・ 」
「 ば、馬鹿野郎・・・! お前だけを置いて逃げれるかよ! 」
「 僕が、兄ちゃんを連れてこなければ・・・ 」
「 言うなリヒト!俺はここで死んでも悔いはねぇ。だがお前くらいは守ってみせるぜ! 」








「 ・・・私のほうがどちらかと言うと襲われた側なんだが・・・ 」


そうですね。やべぇ恥ずい。


「 別に取って食いはしないし、そもそも命を取るつもりは毛頭ない。
  そこの勇者の彼は防御の加護もあるのでな。少し強めにやらせてもらった。
  命に別状は無いし、骨や内蔵も大丈夫だ。

  少年、筋は良いが練度不足だ。修行し直せばもっと強くなれるだろう。精進せよ。
  それと勇者の少年。他者のために戦うには覚悟が足りない。生半可な剣で戦えると思うな。

  では私達はこれで失礼する。 」



戦い方の容赦は一切なかったけど意外といい人でした。
いつの間にかリヒトの近くに魔法の傷薬が置いてあった。
それを利用してもらって回復することにした。


切り傷が一切無いのを見てやっと手加減されていたことを知った。マジかよ・・・





*  *  *





今夜は雨が振りそうだ。俺達は小さい洞穴のようなところで野宿することにした。

「 リヒト。 果物取ってきたぞ。 今日はこれ夕飯代わりにするぞ。 」

「 ・・・ありがとうアル兄ちゃん。火、つけておいたよ。 」

「 ありがとな。 」

リヒトがつけた火に拾ってきた枝などをくべて調整をする。
予想通り雨が降ってきた。その雨は冷気を含んでいて相当冷え込んできた。
無言の時が流れた。

「 ・・・ 」
「 ・・・ 」


「「 あのさ。 」」


被った。

「 ・・・ リヒトから先いいぞ。 」

「 うん。ありがと、アル兄ちゃん。あのさ、僕と一緒に旅するの、辛い? 」

「 ・・・ 」
即答、出来ない。
辛いかどうかと問われた時に俺はそれに対する明確な答えを持っていなかったのだ。
しかし、答えは出さねばならない。
リヒトは俺なんかとっくに超えているのに、まだ年長である俺を慕ってくれているのだ。
そう。勇者という力を手に入れたところでずっと変わらないことにやっと気がつけた。
だとしたら、俺はリヒトに対して、誠実さで答えなければならない。

「 ・・・辛い、というよりはさ。情けなくてさ。
  俺はさ、未だにお前の勇者の力に嫉妬し続けてるんだよ。割り切ったつもりでさ。
  お前は俺をひょいひょいと越えていって、それで置いてけぼりにされた気分なんだよ。
  でもさ。わかってるんだよ。俺が、中途半端なだけなんだって。 」

「 アル兄ちゃん・・・ 」

「 さっき言われたよ。まだ修行すれば強くなれるってさ。
  つまり俺は努力が足りないんだよ。まだ、勇者と肩を並べられるくらいになってないんだよ。
  どこかで諦めてたんだな。どうせ勇者になれない、って。
  俺、お前に慕われるくらい、自分自身を誇れる男になれてないって事がやっと分かった。
  だから勇者の力を持ったお前に超えられても当然なくらいの弱い男なんだ、俺は。 」

「 そんな、そんなことないよ!
  アル兄ちゃんが居たから僕はここまでこれた!
  僕はアル兄ちゃんが目指していたから勇者になろうと思った!
  アル兄ちゃんはずっと僕の憧れなんだよ・・・! 」

「 ・・・リヒト 」

「 僕は・・・アル兄ちゃんに褒めてもらいたかっただけなんだ。
  僕が選ばれたのなら、アル兄ちゃんの代わりに勇者になって。
  アル兄ちゃんの代わりに世界を救って。
  それで、僕が頑張れたのはアル兄ちゃんのお陰ですって、言いたかったんだ・・・ 」

「 ・・・そうか。 」
リヒトが勇者になった理由。それを今まで聞いたことは無かった。
さきほどリヒトが他者のために戦っていると言われ、俺はそれを聞きたかったのだ。
まさか、こいつが俺のために戦うことを決意したなんて・・・
俺は、とても自分が小さいやつだと思うようになった。

「 なんでこんな小さいことに悩んでいたんだろ。俺、馬鹿じゃねぇの・・・ 」

「 どうしたのアル兄ちゃん。 」

「 いや何、やっと諦めついたと思ってさ。ふー。 」
自分で自分の両頬をばしんと叩いて気合を入れた。

「 あー! うだうだするのは性に合わねぇ! よし!明日から切り替えるか!
  ありがとなリヒト。 ようやく吹っ切れたわ。 」

「 ・・・?どういたしまして?  でも、こちらこそありがとう、アル兄ちゃん。
  僕、アル兄ちゃんが着いてきてくれるって言ってくれて、すごく嬉しかったんだ。
  アル兄ちゃんがいるならなんでも出来るって、僕はそう思えた。だから頑張れるんだ。 」

「 ・・・そうか、なら俺の努力も無駄じゃなかったわけだな。良かったぜ。
  よし、もう夜も更けてるし、さっさと飯食って寝ようぜ。 疲れたろ。 」

「 うん、そうだねアル兄ちゃん。 」

雨がしとしとと降る中、俺たちはしばしの語らいをした。
この夜の語らいが俺たちの絆を強くしたんだ。




・・・魔界の果物って美味いな。
瑞々しくてとろけるように甘いけど、くどくなくていくらでも食べれる。
完全に主食にはならないけど、まぁ一日くらいはいいだろう。そう思って俺達は貪り食った。


「 あるにーちゃん。 今日は近くで寝ていい? 」
「 おう、いいぞリヒト。 安心して眠んな。 」
「 ・・・にーちゃん・・・ 」
今日は雨で肌寒い。火の始末をして、リヒトと一緒にマントで包まって眠った。







魔界の食物がどれほど恐ろしいものか、狩人の兄ちゃんからも教えて貰っては居なかった。





*  *  *





朝起きたら超可愛い女の子が俺の腕の中で寝てた。





















うぇいと。
落ち着け。俺。ヘイ落ち着いたかいアルフレッド?いい匂いするね?まて。
魔法使いの兄ちゃんがやってた精神統一の秘術を思い出せ。
素数を数えるんだ。1、4、6、8、10!やべえ一個もあってねぇ逆にすげぇ!
はっ、リヒトはどこだリヒトは!
この洞穴の状況は昨日の夜と変わってない。いや、リヒトが居なくて女の子がいる。
落ち着け、すでに俺が寝ている間に事件は終わっていた。ならば俺がやるのは事後処理。
まずは、戦士の兄ちゃんにも言われた戦いの技術。下手に攻撃するよりしっかり観察を実行だ。
よしならまず、俺の腕の中ですやすや幸せそうに寝てる異物をしっかり見極めよう。
角が生えてて、翼が生えてて、ズボンから尻尾が出てる。
どう見ても魔物です。

でも。

この服、この顔、この髪、見覚えがあるな・・・?
見覚えがある、どころじゃない。俺は。知っている。ただ答えを出したくなかっただけだ。

「 ふぁ。 おはよう・・・アル兄ちゃん。 」

正直、答えはひとつしか無かった。腕の中の女の子が俺を見上げた。

「 ・・・リヒト、だよな。  お前、どうした、それ。 」

「 んー? 」
リヒトは寝起きが悪い。
低血圧気味なのだ。ああこれ絶対答え帰ってこない。頭に血が巡ってない。

「 あーごめんにーちゃんー。今なんだかすごくくっつきたい―。 」
リヒトが俺の胸に抱きついてきた。あの、なんだかふよんふよんしたものがあたってるんですが!

「 にーちゃーん。あるにーちゃーん。えへへー。 」
俺の胸に顔をすりつけて幸せそうにしているリヒト。あれなにこのかわいいいきもの。
これこのまますりすりさせておいたほうが幸せなんじゃないかな。俺もリヒトも。
まて、起きろ俺、ウェイクアップ俺。大丈夫だマイサン、そっちは起きなくていい。


「 リヒト。起きろ! 」

「 ふえ、は、はい! アル兄ちゃんどしたの!? 」
やっと起きた。俺から離れてぺたんと女の子座りで座り込んだリヒトをしっかり見る。
うん、着ている服は同じだけど、それでも昨日とは明らかに違う女の子の曲線。
髪もちょっと長くなって声が少し高くなった。あと女っぽかった顔が更に女らしくなった。
あれこいつこんなにかわいかったっけ。まて。おちつけ。おちつくんだおれ。

「 リヒト。お前ホントどうしたんだ!?女の子になってるぞお前。 」


「 ・・・え? え。   え    えええええええええ!?
  なんで? なんで僕、女の子になってるのぉぉ!?  」


どうやらリヒトにも原因はさっぱりわからないらしい。いやうんわかったら驚きだよ。

「 ・・・もしかすると昨日食べたあの果実か。マズったな。そんな副作用があるとは・・・ 」

大量に魔物に襲われたこともあったが割と簡単に撃退出来ている。
最後の人は完全物理型だったし・・・原因はあの実くらいしかなかった。
それもそうだ、魔界の土地で育った果実なのだから魔物の影響があって然るべきなのだ。
それくらいを考えつかず、警戒心を持たないまま食物を食べたのだから自分の不覚を思い知る。

「 ・・・僕に角も羽も尻尾も生えてる・・・ これ、どうみても、魔物、だよね。 」

「 どっからどう見てもな。これ、どうすりゃいいんだ・・・ 」

「 流石に魔物になるとは思いもしなかったなぁ・・・どうしようアル兄ちゃん。 」

「 正直どうしようもねぇよ。魔界にも街があるし、それで元に戻せるか聞いてみないとな。 」

「 ・・・僕、討伐されちゃうのかな。 」

「 大丈夫だリヒト。少なくとも俺はお前の味方だ。
  俺がお前を守ってやるから安心しろ。ちょっと力不足なのは勘弁してくれよな。 」

「 アル兄ちゃん・・・ 」
なんだか俺の名前を呼ぶときの声がとても色っぽかったのはよく覚えている。





*  *  *





「 あ、あのねアル兄ちゃん。すごく言いづらいんだけど・・・ 」

「 どうしたリヒト。何か身体の調子が悪かったりするのか?なんでも言ってくれ。 」

「 あ、の。 お、 おしっこ行きたい・・・ 」

「 ・・・お、おう。 そうか。 待ってるから。そこらの草むらでしてきてくれ。 」

「 ある、にいちゃん。 あのね。




  一緒に来て欲しいんだけど・・・ 」




「 いやちょっとまてお前マジ何いってんの。 」

「 わかってるよ!でも女の子の身体になってするんだからわからないんだよ! 」

「 俺だってわからねぇよ! 」

「 うー、このままじゃ漏れちゃう・・・お願い、一緒に来てぇ。 」

「 あ、いやでも。ほら女の子の身体見るのは悪いというか。 」

「 ・・・だ、だって僕リヒトだよ。 子供の頃、おしっこ飛ばしとかしたじゃん・・・
  アル兄ちゃん、もしかして僕に欲情しちゃうの・・・?僕襲われちゃうの・・・? 」

「 お前いつの話持ちだしてんだよ!?三歳とかそのくらいの時の話だろ!
  というかなんだその話!わかったよ行けばいいんだろ!行くよついていってやるよ! 」

「 あ、ありがとう・・・  えへへ。 」







「 あ、あのさ。 」

「 何だ? 」

「 お、女の子の身体に、興味、無い、かな?
  おしっこ、失敗しちゃうかもしれないから、みてて欲しいんだけど。 」

「 お前ソレマジで言ってんの・・・? 」

「 嫌ならいいけど・・・ 
  失敗してズボンにおしっこかけた情けない僕を連れて歩くならいいよ。 」

「 ・・・お前なんか女になってから凄い喋るようになってないか?
  
  ま、まぁ、見て、やっても、い、いい、いいぜ。 」

マジなんだこれー。

               なんだこれー。

                               なんだこれー。

リヒトはズボンのベルトをかちゃかちゃと外して、ズボンを脱ぎ始めた。

「 えっと、たぶん、こうすればいいんだよね。 」

「 なんでズボンごと脱ぐんだお前。 」

「 だって、かかっちゃうかもしれないでしょ。
  やだよ僕、おしっこで濡らしたズボン履くの。 」

以前のリヒトの面影を残したまま、相当魅力的な女の子の身体つきになった足があらわになる。
男物の下着をつけているが、ちょっとサイズが合ってないらしくちょっとぱんぱんだ。

「 ええっと、なんかおしりも大きくなってる・・・ 今から脱ぐからね。 」

「 お、おう。 」

しゅるしゅる、という音が聞こえた。
リヒトの何もついてない綺麗な割れ目が俺の目の前に現れた。
少し股のあたりが濡れている?漏らしたのか?と思ったが多分違うのだろうと思った。
下着をわざわざ脱いで、ズボンと一緒に投げ捨てるように置く。

やばいくらいに背徳的な光景だった。

こんな野外の草むらで、下半身だけ丸出しの女の子とその目の前に立つ俺。
俺の息子も暴走しそうだった。

「 クス。アル兄ちゃん凝視し過ぎだよ、でも、よく、見ててねアル兄ちゃん・・・? 」

屈んで、男たちの間では大きい方を出すような座り方をリヒトはした。
いや、そうじゃない。リヒトは両膝を自分の手で広げ、俺がよく見えるようにしたのだ。
俺は今まで見たことも無い女性の秘部をこの両の眼でガン見しているのだ。

「 ・・・んっ、んんん。 」

ちょろ、ちょろちょろじょぼじょぼじょぼ。

俺は一切、その光景から目が離せなかった。目の前にいるのはリヒトのはずだ。
でもおしっこをしているだけなのにこんな変態的な光景になるとは。
排出の快楽を得たリヒトはぶるぶると震えて、俺の顔を見た。
その時のリヒトの顔を俺はよく覚えている。


よだれを垂らすように蕩けて、絡みつくように淫らで、でも俺だけを見ている一途な女の貌。
ああこいつと俺は昨日の夜のような関係には戻れないんだろうな、と心の何処かで思った。
いや、リヒトは。戻る気が無いんだろうな、と。俺は直感的に知った。

しゅるしゅると後始末を終え、下着とズボンを履きかけながらリヒトは言う。






「 アル兄ちゃん。  女の子の身体に、興味、無い? 」

「 ・・・ッ  から、かうのもいい加減にしろよ。 」

「 んーん。からかってなんか無いよ。僕もこの身体のこと、まだ詳しく知らなくてさ。
  だから兄ちゃんと一緒に調べなきゃって思ってるんだ。どう?

  興味   無い?   全部   見れるよ?   」

リヒトが何に変わったのかはもう直感で分かった。これは淫魔の誘惑なのだ。
俺は・・・

「 ダメダメ、ダメだ。 次の街ついてからお前の身体治せるかもしれねぇんだから。 」
こころのないことを言っている自覚はある。そんな手段は無いと理解している俺が居る。

「 そう、分かった。無理強いはしないよ。  でも。

  いつでも。どこでも。どんなときでも。 言ってね。
  
  触って調べたいっていうなら、直接触ってもいいよ。

  触るどころか、僕にどんなことをしても良いからね。
 
  僕は絶対に怒らないし、気持ち悪いとも思わないよ。

  アル兄ちゃん。           だけは、ね。   」



俺の目の前に立っているのは。

俺の幼なじみでも無く。

俺に憧れた勇者でも無く。

俺と語り合った親友でも無く。



俺を盲目的に愛する、一人の女がそこに立っていた。





*  *  *





旅を再開した。
リヒトは俺に露骨に近づいてきて、かなり接触が多くなってきた。
腕に抱きついてきたり、わざと胸を押し当てたり、俺の手をお腹やおしりに当てたりしてきた。
ちょっとばかり抵抗はしたが、いくつか逆らうことが出来ずにリヒトの感触を楽しんでしまった。

一夜にして急激に変化したリヒトであったが、どうやら変化はあれで終わりではなかったらしい。
もともと小柄だった背丈はともかく、全体的に魅力的な女性としての肉付きがなされてきたのだ。
もしかすると以前より肉は多いかもしれない。

いや、少なくとも女性的な部分に関しては間違いなくボリュームが増えている。

変化直後はちょっとした胸の膨らみだったが、今はシャツからあふれんばかりに大きくなっている。
実際、シャツのボタンが幾つか閉められないのだ。
だから今リヒトは胸の谷間で強烈に俺を誘惑してくる。

尻のラインもそうだ。
前は動きやすいように身体にフィットしたサイズになっていたが今はパンパンになっている。
ズボンが脱げなくなるから、という理由でベルトを外し、ズボンのボタンも外している。
以前の小柄な姿を維持したまま、そのままグラマラスに変化しているとも思える。

ここまでなぜ急激な変化があったのか。理由は簡単である。
あの果実が旅の道中に生えており、度々リヒトは口にしているからだ。
一応俺は食べるな、といったはずなのだがこれに関しては聞いてもらえる様子がない。
どんどん身体も肌も顔つきも美しく魅力的に、蠱惑的になっていった。
だから、俺はこの成長する魅力的な肉体の攻撃を日々味わう旅を送っていた。



「 子供の頃みたいに、みずあび しよう? みんなはだかだったよね。 」

「 アル兄ちゃん。おっぱいの形、変じゃないかな?  触って確かめてみてよ。 」

「 また、おしっこ、行きたいな。 一緒に行こう? 飛ばしっこっとかもしようよ。 」

「 ズボンもシャツもきつくなってきたから、両方脱いじゃっていいかな。次の街まで。 」



この攻撃に半分耐えて、半分耐えれませんでした。

結果から言って。

女の子になったリヒトの全身をくまなく見ることができてしまった。
誘いまくる柔らかいおっぱいを堪能して、いつでも触っていい許可を得れた。
俺は完全にリヒトで欲情するようになってしまって、それを抑えるのが大変だった。
そして男がちょっと考えたようなエロいことをリヒトは全部してくれる、と俺は知ってしまった。




俺は、それでも。我慢を貫いた。





*  *  *





やっと魔界の街についた。
ここまでで魔物に襲われることは殆どなかった。リヒトが居たからだと思う。
いや、何回か遭遇はしたのだが「 いいなぁ。 」とか何とか言われて去っていった。
俺はこの街でリヒトを元に戻せる手段があるかどうかを探さなきゃならなかった。

「 アル兄ちゃん。  さすがに服、キツイから。 買ってくるね。 」

といってリヒトと分散して行動した。今の俺にはリヒトを止めるようなことが出来ない。
俺は必死になって魔界の図書館で資料を閲覧し、魔術師に話を聞いて調査したのだ。
結果は。元に戻す方法は無い。の一点張りだった。
ああ、やっぱり。心に残ったのは絶望感でも喪失感でもなく、納得だった。
もう、俺は女の子になったリヒトと一緒に旅を続けるしか無いのだろう。
その情報を元にリヒトと合流した。

「  アル、兄ちゃん。  その   似合うかな・・・?  」

それは勇者の衣装ではあった。
一般的な勇者の衣装というものは存在しないが、レスカティエ公国で用いられるものに似ている。
清楚・潔白・高貴を表す白をベースにした衣装。
全体的にレースが編まれていて質の良さが伺える。
だがところどころ派手なピンク色に染まっているのは魔界特有なのだろうか。
胸のところはあまり開くような形にはなっていないがその豊かなものを強調するようになっている。
戦いに備えてか柔軟性の高い柔らかい素材で出来ており、スカートはひざ上までしか無い。
足は長いソックスで覆われており、女性的な曲線美を強調していた。

そう、まごうことなき、女勇者が着る衣装。それに似たものではあった。

「 ・・・あ、ああ。似合ってる、本当に似合ってるよ。 」

「 そう?アル兄ちゃんに真っ先に見せたかったんだ。えへへへへ。似合ってるのかー。 」
俺が似合っている、と言っただけでとても幸せそうにするリヒト。
どこからどうみても、可愛い女の子にしか見えなかった。

「 アル兄ちゃん。 元に戻す方法。見つかった? 」
リヒトは柔らかく微笑みながら俺に聞いてきた。
やっぱりそんな方法なかったよね?諦めよう?一緒に堕ちよう?と問うような笑顔だった。

俺は、リヒトに嘘をつきたくなかった。
「 無かったよ・・・ ごめんな。リヒト。 お前を戻すことが出来なくて。 」

「 ううん。アル兄ちゃんが僕のことでこんなに頑張ってくれて僕すごく嬉しいんだ・・・

  でも、ないものはしかたがないよね。あきらめて、きょうのところはやすもう? 」

「 ・・・そう、だな。 」


俺達は、魔物が経営するような異様に安い宿に二人で宿泊し、そこで一夜を過ごすことにした。





*  *  *




「 アル、兄ちゃん。 」
リヒトが俺の肩にもたれ掛かってきて俺の耳元で囁いた。


「 僕のこと、嫌い? それとも、好き? 」
蕩けるような息を吐きながら、リヒトは俺に選択肢を突きつけてくる。

「 ・・・嫌いなわけ無いだろ。好きな方だよ。 」


「 僕のこと、魅力的だと思う? 」
いつの間にか香水でも買ったのだろうか、ふんわりとした甘い香りが漂ってくる。

「 魅力的だ。 」


「 僕のこと、気持ち悪くない? 」
リヒトは少し怯えながら言った。ふんわりとした髪が俺の肌に触れて、それが俺を誘惑してくる。

「 気持ち悪くなんか無いぞ。 」






「 アル兄ちゃん、僕ね、  アル兄ちゃんが、好きなの。愛してるの。独り占めしたいの。 」





「 ・・・ 」

「 僕はね、ずっとアル兄ちゃんに憧れてて、今もアル兄ちゃん居ないとやっていけないの。
  でもこの身体になって、憧れてた心は残したまま、女の子として欲しくなったの。
  今まで通りにアル兄ちゃん慕うだけじゃなくて、アル兄ちゃんから愛して欲しかったの。
  襲われたいと、変わってからずっと思ってたんだ。
  気持ち悪いよね。気色悪いよね。だって、僕、もともと男だったのに。変だよね。
  だから、アル兄ちゃん。


  僕の事、嫌いって言って。


  勇者の勤めを果たせって、言って。


  アル兄ちゃんのために勇者になったのに、アル兄ちゃんしか見ない僕は勇者じゃない。


  僕は、アル兄ちゃんから嫌われて、見放されて、軽蔑されて、見捨ててほしいの。


  そうしたのならば僕は、アル兄ちゃんの理想に勇者になれるから。     」


リヒトは笑みを浮かべた。それはとても悲しい笑顔だった。


「 ・・・ 」

俺は、なんでリヒトを苦しめているんだ。なんでリヒトは苦しんでいるんだ。


俺は。


「 ・・・ 言え、る、か。




そんなこと、言えるかよ・・・!




リヒト、俺はお前に勇者になってもらいたいなんて思ってない。

俺の代わりなんかやらなくて良いんだ。俺の夢なんかでお前を縛ってほしくないんだ。

お前が俺のために勇者になってくれたなんてことは嬉しいし、俺も誇りに思ってる。

でも、何が何でもやり抜けなんて俺は絶対に言わない。

止めたっていい、逃げたっていい、見て見ぬふりをしてもいい、泣いたっていい。

俺のためなんかにお前を潰して欲しくないんだ・・・!

だから、俺の理想の勇者になんかなるな。お前はここにいていいんだ・・・!  」



リヒトは、俺を見て、嬉しくなったように涙を流した。

「 ・・・ アル兄ちゃん・・・   やっぱり、アル兄ちゃんは。



          僕の大好きな、勇者様だ。            」




俺に抱きついてきたリヒトを受け止めて、子供をあやすように髪を撫でる。

「 ・・・泣き虫だなリヒトは。 子供の時から変わらないな、ホント。 」

「 えへへ。アルにーちゃんー。 」

リヒトはおもいっきり俺の腕の中で甘えてきた。子供のように幸せそのものの笑顔をしていた。


「 ねぇ、アル兄ちゃん・・・あのね・・・ 」

リヒトは、俺の腕の中で。甘く。蕩けるように囁いてきた。


「 ・・・ ぼく、もう、がまんできないんだ。 」

俺は、ゆるやかに、ベッドに押し倒された。


「 リヒト・・・ 」

「 嫌、かな?  やっぱ、気持ち悪い・・・? 」

「 ・・・ 」

「 兄ちゃんが嫌なら・・・ やめる、よ。 」

「 ・・・いや、そうじゃない。嫌じゃない。

  俺はお前のことが好きだと思う。
  
  でも、それは昔のような幼なじみに対するものだ。
  
  女の子のお前を愛せているかって程好きになれてるか、と言うと正直、自信がない。 」

「 ・・・そっか、なら。まだ、僕を愛せてなくてもいいよ。
  僕が、アル兄ちゃんから愛されるように努力すればいいだけの話だからね。

  でも、兄ちゃん。   僕の愛情を    受け取って    もらえますか。  」

リヒトの精一杯の告白。それを無碍に出来るほど、俺は駄目なやつでは無かった。


「 ・・・ こいよ、リヒト。 精一杯。 お前を受け止めてやるよ。 」

その言葉を告げたあと、俺は完全に歯止めが効いてないリヒトに押し倒された。




*  *  *




「 んむっ♥・・・ちゅっ、あっ・・・ 」

リヒトは感情を爆発させるかのように、俺を無理やり押し倒し、そして俺にキスをしてきた。
俺の唇を塞いで、リヒトは無理やり口の中に舌を押し込んできてお互いの舌を絡ませてくる。
甘い。リヒトの唾液からは魔界の果実のように濃厚な甘さを感じ、いくらでも味わえる。
俺の方もリヒトの舌に合わせるように、果実をむさぼるようにリヒトの舌を絡ませる。

「 んんっ!? んぅ・・・♥  じゅる、ちゅ、はぁっ♥・・・んむ。 」

俺の方が動いたことにリヒトは驚いたようだが、すぐに蕩けた目で俺に答えた。
熱い。リヒトの舌で俺の唇が蕩けそうな程に甘く熱い。リヒトはその舌で俺の口を犯しているのだ。
口の中全体にリヒトの味が染み込み、俺のほうがリヒトを食べている感覚に襲われていた。
リヒトを離したくなかったのか、俺はいつの間にかリヒトの頭を抱きしめていた。
無意識のうちの行動、だがこれほど甘い果実を俺は手放すことが出来なかったのだ。
リヒトの方も、俺の背中に腕を回し、まるで愛しあう恋人同士のようになっていた。


「 れろ・・・ちゅるじゅる・・・ぴちゃ・・・  ぷはぁ・・・♥ ある兄ちゃん・・・ 」

俺達はやっと唇を離すことに成功した。理由は単純、まともに呼吸をしていなかったからだ。
リヒトの方はというと、呆けたような蕩けた目をしており、キス一つで完全に出来上がっていた。
その肢体から誘うような女の体臭が俺を誘惑する。いや、もう俺も完全にリヒトを求めていた。
この匂いの元を探るべく、リヒトの様々なところを調査せねばならない。



そうだ。俺はリヒトの身体を調べねばならなかったんだ。



まだ女の子になって日が浅いリヒトの身体を、見て、触って、調べねばならない。
リヒトはいつでも、どこでも、どんなときでもして良いと言ってくれた。
俺にはもうためらう理由は無かった。

リヒトのたわわに実ったそのおっぱいを。俺を誘惑し続けたおっぱいを鷲掴みにした。

「 あっ・・・♥ アル兄ちゃん・・・ちょっと乱暴だよ♥ でも、いいよ。
  アル兄ちゃんならどんなに僕を乱暴に扱ってもいいからね・・・♥ ああん♥ 」

乱暴に扱って良いということなので俺は欲望のままにリヒトの胸を堪能する。
服の上からだというのに、それは俺の指に力を入れるとその形に変形する。
柔らかさと弾力の絶妙なバランス。ボリュームに関しては俺は大満足すぎるシロモノだ。

「 布一枚だけの柔らかさだな・・・ ブラは買わなかったのか? 」

「 あん♥ だってぇ♥ 僕、ブラの付け方知らないしぃ♥
  それに、きゃん♥ アル兄ちゃん、喜ぶかなってぇ♥ 思ってたのぉ♥ あん・・・♥ 」

リヒトの反応を確かめたくて、喋るたびにおっぱいを揉みしだく。
このおっぱいは俺のものだと証をつけるように強く揉んで、俺の征服欲は満たされていく。
いや、こんなもので征服欲が満ちるわけが無い。まだ全然コレを味わっていない。
まるでカラカラに乾ききった喉のように満たされていないのだ。

今まで意識的にとっておいた、おっぱいの先端部分、それを俺は服の上から強く摘んだ。

「 んあぁぁぁ♥にいひゃん・・・それきもちいい・・・♥もっと乱暴してぇ♥
  でも、服の上からじゃなくてぇ、直接触ってぇ・・・♥ 」

リヒトは口から涎を垂らしながら俺に懇願した。
もうすでに快楽に身体が支配されているらしく全く力が入ってないことがよく分かる。

「 魔物のおよーふくだから、すぐエッチなこと出来る服なんだ♥ 」

ほう。俺はリヒトの服の胸のところを少し剥いだ。
ぽろん。と、道中何度も見たリヒトのおっぱいが俺の目の前に現れた。
改めて見るとすげぇ。間違いなく巨乳の部類なのだろう。
リヒトの色白の肌は瑞々しくなめらかな肌触りをしており、いくらでも触りたくなってしまう。
肌とは対照的に鮮やかなピンク色をしている乳首はビンビンに立って弄ってと主張していた。




これを、俺が、好き勝手にしていいんだよな。



ごくり、と唾を飲み込んだ。




俺は、もうリヒトを完全に俺色に染めるために、欲望のままこの胸を揉みしだいた。
胸を揉んで、乳首をこりこりと転がして、乳房全体を撫でて、焦らした後強く乳首を摘んだ。

「 ああああああ♥ あるにいひゃん♥ それ♥だめぇぇぇ♥ 」

全く抵抗になってない淫乱な笑顔でそんなことを言われても止まる理由にはならないな。

俺はリヒトの乳首を咥えて、舌で乳首を舐めまわし、吸って、甘咬みした。

「 きゃん・・・んひっ♥ 逆も♥ 舐めてぇ♥ 」

逆側にも同じことをしたが、手が余ってたので、舐めてない方の乳首を手で弄ってあげた。

「 あっ♥あっ♥あっ♥ あるにいひゃぁぁん♥ すかーとのなかも♥いじってぇぇ♥ 」

欲望全開でリヒトを貪っていたが、そうだなそこの観察もしっかりしないとな。
もう濡れまくってすこし染みているスカートの中に手を入れ、中を見ずにまさぐった。



ぬるん。



「 ひゃぁあぁあん♥ 」

「 ・・・  リヒト。 」

「 ・・・なにぃ、にいひゃん。 」
息を荒らげてベッドに身体を預けているリヒトはそれだけで性欲を唆らせる。
だが、俺はそれよりもこいつの性癖に気がついてしまい、もうブレーキが壊れてしまいそうだった。

俺はスカートを捲って意地悪にリヒトに聞いた。
「 コレは何だ。 説明しろリヒト。 」

「 えへへへへ。 あるにいひゃん。喜ぶかと思って・・・♥ あん♥
  説明しますぅ♥ それは、オープンショーツって言って♥ 大事なところ隠さないパンツなんですぅ♥
  セックスするためだけのパンツですぅ♥ あるにいひゃんとえっちするために買いましたぁ♥
  短いスカート履いたのもそれが理由ですぅ♥ 」

俺はリヒトが説明している時に乳首をいじりながら解説を聞いた。

「 ・・・まるで変態だな。 」

「 あああん♥ あるにいひゃん、へんたいきらい? えっちなのいや? 」

「 きらいじゃねぇよ。まさか女になってすぐさま痴女になると思わなかったけどな! 」

俺はリヒトの割れ目を指で撫でた。

「 あああぁあぁあ♥ ごめんなさいぃぃぃ♥ 」

そのまま俺は念入りにリヒトのアソコを指で弄くり回して、かき回して、めちゃくちゃにした。
さらに俺は告げた。

「 リヒト。 観察が終わってない だから。 足広げな。 俺によく見えるようにな。 」

「 ぁ・・・・   はい、  アルにいひゃん・・・♥
  どうぞ。 女の子の、見ちゃいけないところだよ。  よーく、見てね♥ 」

リヒトは自分の足を大きく開いた上で、自分の割れ目を両手で広げた。
それは淫乱以外の何物でもない俺という雄に媚びた穴であり、ぐちゃぐちゃに濡れていた。

「 暗くてよく見えないな。 もっと明かりをつけろリヒト。 」
俺はわざわざリヒトに命令した。

「 はぁい、アル兄ちゃん。 どーぞ♥ 」
リヒトは、奥まで見えるように明かりの魔法を使った。
リヒトが自ら広げているお陰で、穴の中がよく見える。
ひくひくと俺を誘いながら、女のフェロモンを洪水のように垂れ流している。
それはまさしく淫魔が男を食べるために"使う"ものである。奥は流石に見えづらい。
穴の奥の観察は取りやめ、俺はリヒトの女性器をじっくりと観察した。

「 ある、にいちゃん・・・  もっと。   もっと見てぇ・・・♥ 」

淫靡だがその穴の周りは思ったより綺麗なもの、という印象だった。
だが、俺はいくつか弄りたいところがあった。

「 きゃん♥ そこぉ、おしっこするところぉ♥ 」

「 リヒトはおしっこ大好きだもんな。 なんなら備え付けの風呂場でするか? 」
魔物御用達の宿は思ったより設備が充実していてお風呂もついていました。安いのに凄い。

「 あとでしゅる。 でもいまはべつのところいじってぇ・・・♥ 」

別の所。これか。この ぷっくり膨れ上がった小さい豆のようなもの。
俺は、これを。  摘んで、少し乱暴にこりこりと転がした。

「 ひゃあああああああああああぁあぁあ♥♥♥♥ 」

リヒトの身体がびくんと跳ねて身体がつま先まできゅっと硬直した。

「 あ、あたま、まっしろになってイッちゃったぁ♥いまのだめぇ♥ 」

だめかーそうかーじゃあしかたがないなー。








さわさわすりすりつんつんくりくりぺちぺちこりこりこり、きゅっきゅっきゅーっ。







「 ッ    ァ              ぁ・・・  ♥♥♥♥♥♥ 」
吹っ飛んだ。という表現が適切だろうか。リヒトは当分の間帰ってこなかった。
強い快楽で身体が固まっていてまともに呼吸をできていない。
でも俺はその間、俺とリヒト両方を楽しませるために胸とアソコをしっかり弄ってあげた。

「 ッ はー♥はー♥はー♥はー♥♥ あるにいひゃん・・・♥
  もうだめえっちしよう♥せっくすしよう♥こづくりしよう♥♥ 」

リヒトはもうまともな理性が無いらしく、すぐさま俺を押し倒して服を脱がせ始めた。
俺はそれに全く抗うことが出来ず、すぐに俺の一物をリヒトの前にさらけ出した。

「 ・・・ アル兄ちゃんの♥ 大きい♥ 僕で興奮してくれてる♥ 
  兄ちゃん、もうだめ僕兄ちゃん犯すよ。絶対犯す、もう僕えっちできないと死んじゃう♥ 」

そそり立つ俺の一物の上にリヒトはまたがって、俺の一物を手で添えて、女性器に当てた。
やばい、ちょっとリヒトの手が触れただけでなにか出そうだ。俺も限界だった。
これはリヒトの中に入ったら確実に俺の欲望を全部吐き出してしまう。


ああでも、もう俺も深く考えらんねぇや。
抵抗は全然しないどころかリヒトに早く降りてきて欲しかった。
リヒトの中で思いっきり出せる、その先の快楽を想像するだけで俺は全部出してしまいそうだ。
でも、その前に俺は。


「 リヒト。 」

「 なに、やめないよ。ぜったいやめない。 」

「 違うよ。  リヒト。  


       好きだぜ。     」



「 ・・・  !   アル、にいちゃん。    うん、大好きだよ・・・♥ 」


俺は上半身を起こし、リヒトと少しの間、口付けを交わした。

そしてリヒトの腰に手をおいた。それに反応するかのようにリヒトは一気に腰を降ろした。


「 っ、  ぁ、  ぁぁああ、  ああぁあああ♥♥♥ 」
「 ぐ・・・リヒト! 」

少しの抵抗感、なにかブチっと破ったような感触、溶けるような粘性の熱。
きゅうと絞りとるような絡みつくような、快感しか生み出さない締め付け。
これを同時に味わった俺に我慢など一切できなかった。
俺はリヒトの腰に手を当て、奥へ奥へと一物を押し込んだ。
そして、俺はリヒトの一番奥に精を勢い良くぶちまけた。

「 にいひゃん!にいひゃん!あるにいひゃあああん!♥♥ 」
リヒトの方も完全に俺を離さないつもりなのか、俺の身体を手足で強く掴んだ。
まるでひとつの生命になったように溶けて混ざり合い、俺とリヒトは繋がっていた。
射精が止まらない。リヒトの身体も俺の一物を絞りとることだけしかできていない。
人生で今まで溜め込んでいたものを、全部。ここに出している。そんな快感。
尋常じゃない大量の精を俺はリヒトの一番奥へとぶちまけたのだ。


「 ある、にい、ひゃん・・・♥ 」
「 リヒト・・・ 」


完全に力が抜けてしまった。俺たちの全部を今ここにつぎ込んだと思う。
疲れ果てた俺とリヒトは、繋がったそのままの姿で、そのまま眠りへ落ちた。








*  *  *







翌朝起きた俺達は、一応俺たちは次の街を目指すということに決めた。
勇者の旅はまだ終わっていない。だから俺達の旅はまだ続けなければ行けなかったからだ。

だけど。
俺の腕にリヒトは恋人のように抱きついてきている。それはもはや勇者の旅では無かった。

そして、少しの旅ではあったけどいろんなことをした。

「 この旅の間。 アル兄ちゃんは僕の身体をどこでもいつでも触っていいからね♥ 」

「 ムラムラしたらすぐにでも言ってね♥ 手でも口でもアソコでもしてあげるからね♥ 」

「 おっぱい揉みながら冒険するのはどんな気分?あるにーちゃん♥ 」

「 えへへ。すかーと捲るだけで僕のあそこ見えるのは、どう?冒険中にも見えちゃうね♥ 」

「 一切脱がずにセックスできるし、毎日しようねアル兄ちゃん♥ 」

「 ひゃん♥ にいちゃんにいじられるたびに僕の弱点増えていっちゃうよ・・・♥ 」

「 今日は一日中、裸でいようか? 上下だけ脱ぐってのもエッチだね♥ 」

「 ・・・冒険しながらアソコだけいじられまくって頭おかしくなっちゃうよ♥  しよ? 」

「 セックスしながらおしっこするの、きもひぃぃぃぃ♥ お外でするときは毎回しよ? 」

「 ・・・!人がいる・・・! ん、わかった、こえださないようにするから・・・♥ 」

「 雨降ってるし、今日は移動せず、一日中セックスしよアル兄ちゃん♥ 」

「 寝てる時に僕を犯すなんてひどいよ・・・えっちな夢みちゃったじゃん・・・♥ 」

「 今日は、つながったまんま移動するの?  えへへ。いっぱいみんなに見られちゃうね♥ 」


それはもうお互いの欲望を満たすための旅だった。





*  *  *





「 ・・・ アル兄ちゃん。 あのさ。 」

「 ・・・ どうした? 」

「 まだ、戦い続けられる自信。ある? 」

「 ・・・ 」

「 次の街でさ。僕達の勇者の旅は、もう終わりな気がするんだ。
  僕の所為かもしれないけど、僕はもう完全に魔物に堕ちちゃったし。
  兄ちゃんが続けるって言うから、僕は旅をつづけているんだ。 」

「 そうだな。 知ってる。 」

「 だから、アル兄ちゃんさ。 これからどうしたい? 」

「 ・・・ 」





俺は空を見上げて、ため息を付いた。





「 リヒト。 」


「 何、アル兄ちゃん。 」










「 魔界で暮らさないか。 」










「 ・・・・・・・・・・・・・ うん。いいよ。 でもアル兄ちゃん。いいの? 」


「 俺はさ。勇者になりたかったんだよ。


  でも俺を神様は選んでくれなかった。だから勇者になれないとずっと思ってたんだ。


  それでも、俺はやっぱり勇者になりたかったんだ。


  バカみたいな話だよな。


  勇者になんて誰にでもなれるのに、神様から選ばれないとなれないと思い込んでいたんだ。


  だからさ。







  俺は、お前だけの勇者になるよ。







  リヒト。俺と一緒に、幸せになってくれないか?     」








「 アル、兄ちゃん・・・   はい。   喜んで・・・! 」










そして俺達は魔界の次の街につき。そこで旅を終えた。
いや、長い二人の旅が始まったのだ。






*  *  *




俺は勇者になりたかった。


でも、俺達は勇者になれなかった。


だけど、もう俺はそれで構わないと思っている。


人は誰かのために勇者になれると知った。なら、俺はこいつの為の勇者になる。


俺はそれを、そう先の事でもない俺達の未来に誓ったのだ。


俺の勇者としての戦いはまだ終わりそうにない。


この記録はこれで終いだ。これ以上は俺は話せない、決まってないからな。


でもたまには思い出してくれよ。



二人の勇者の物語をさ。

15/07/16 16:35更新 / うぃすきー

■作者メッセージ
アルプのリベンジでもあります。


毛屋様の作品を読んで甘々エッチを目指しました。
でもどうやら私はえっちシーン、向いてないんじゃないかと思います。

途中まで「 あれ。男の子同士でもべつにいいんじゃないかな。 」とすら思ったのは秘密だ!

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