Draw me forever.
豪華な装飾の施された立派な両開きの扉を開けて、玄関に出る。この館はまるでヴァンパイアでも住んでるんじゃないかというくらい日の入りが悪い。 実際今は午後の4時。まだ日は沈んでいないのに、館の中は目の前に掲げた手の輪郭がかろうじて確認できる程度の明るさだ。 僕は泥棒のように抜き足差し足で玄関の外へと進もうとするが、途中で急に玄関の電気が点き、辺りが明るくなる。 その瞬間、僕は硬直した。 わずかに暗闇に慣れ始めていた目は、強烈な光に敏感に反応し、ろくに目を開けさせてはくれないが、そんなわずかな視界の中でも、飛び切り目立つ大きな翼とかわいらしい大きなリボンのついた金色の双角、紺色の鱗と甲殻に覆われた立派な尻尾が、今、正に僕の進もうとしていた玄関に立っているのだ。 リボンのそれよりももっと紅い瞳で僕を見つめ、彼女は静かに口を開いた。 「何処へ行くんだ祐樹?ちょうどお茶が入ったところだ。今日はお前が気に入っていたアップルティーだぞ。さぁ、居間へ行こう。」 はたから見れば単に同居人、あるいは恋人にお茶を勧めているようにしか見えないが、僕にはわかる。あの瞳の奥に、僕への怒りが満ちていることが。 「お茶をお持ちしました。イリアナお嬢様。」 そう言って、もうすぐ暑い季節になると言うのに堅苦しい執事服に身を包んだ若い執事さんがティーセットの乗ったお盆を持ってくる。純銀製の重いお盆に、熱々の紅茶が入ったティーポッド。さらには二人分のティーカップに、予備の分(床に落としたりしたときの為にある)も含めたこれまた純銀製のティースプーン、その他砂糖やミルクなど。全部あわせれば相当重いだろうに、それを片手で支え、プルプルと震えることなくまっすぐ歩いてくる彼の仕事振りは、何時見てもすごいものだと思う。これを女性のメイドさんなんかがやったら・・・ 「こほんっ!」 不意に思考を咳払いで中断され、軽く肩が跳ねてしまった。咳払いの主はもちろん、湯気と良い香りを漂わせるティーカップを持った、イリアナさんだった。 「お嬢様、砂糖は・・・」 「結構だ。今日はもう下がっていい。ありがとう。」 早口で冷たく言い放つ彼女の苛立ちを肌で感じたのか、一瞬ぎょっとした表情を浮かべてから、執事さんは退室して行った。 執事さんが出て行き、ドアが閉まった瞬間・・・ ガッシャアアアン!!! という大きな音を立てて僕の持っていたティーカップが砕け散る。理由は明白。僕の向かいに座る彼女が、目にも留まらぬ速さで椅子から立ち上がり、僕の胸倉を掴んで椅子から無理やり立ち上がらせたからだ。 「祐樹よ、どうして私の許可なしに外出しようとした?出かけるときは私に必ず許可をとるようにと言ったであろう?忘れたとは言わせないぞ?」 「ご、ごめんなざい!ちょっと出掛ける用事があったんだ!」 「言い訳なんて聞き無くないわ!!!!」 そう喚き散らして僕を大きく揺さぶる。一応手加減はしているのだろうが、相手はドラゴンだ。やっぱり痛い。 実際彼女にこうやってどやされるのはこれが初めてではない。今はTシャツの下に隠れて見えないが、彼女の腕力はやっぱり恐ろしいものがあり、僕の胸には彼女に数分間胸倉を掴まれていた間に出来た、痣が付いているのだ。 「祐樹・・・何度も言っただろう?お前は私のものだ。常に私の手の届くところに居るべきなんだよ!!!それでも、お前が『自由が無い』などと言うから、せめて館の中くらいは自由に歩かせてやろうと思って取り決めをしたというのに・・・お前はどうしてそれがわからない?私はお前が憎いからここに閉じ込めているわけじゃないんだ。お前が大切だから、お前が私の大切な宝物だから、こうして一緒に居ようとしているんだぞ?なのにどうしてお前は逃げ出すようにこそこそと外出しようとするんだ?」 「ごめんなざい・・・ごめ、なざい・・・許してくだざぃ・・・」 彼女がひとたび怒り出すと、何を言っても聞く耳を持ってくれない。 それは彼女の種族のドラゴンとしての本能なのだろう。僕は彼女に気に入られ、この館に招待された。ある理由をつけて。 「いいや、許さん。今日という今日は私がお前の主であるということを身体にも心にもきっちり叩き込んでやる!ベッドの上でな!」 そう言いながら彼女は僕を引きずって歩き出す。そう、ベッドの上という名の、僕の調教場所へ。 「ま、待ってよイリィ!話をちゃんと聞いて…」 「ああ、聞いてやるとも。いい声で啼いてもらうぞ?」 僕は必死で後ろ襟を掴んで引きずる彼女『イリィ』に弁解の言葉を投げかけるが、彼女はやっぱり聞く耳を持たず、ベッドルームの扉が近づいてきた。 これから自分が落とされる快楽の地獄を前に、僕は涙で滲んだ視界に、まだ知り合って間もなかった頃のイリィとのことを思い浮かべた。 ずっと同じシリーズのことばかり考えていたので、息抜きもかねて割りと短めの物語を作ってみました。前々から頭の中にその影を落としていた物語だったのですが、いざ文章を打ってみると、やっぱり難しいものですね。そう簡単には捕まえられませんでしたwwまぁ、2作目になるのでしょうが、相変わらずgdgdでめちゃくちゃな駄文に、お付き合いいただけたら嬉しいです。 前編:回想メイン。ラブコメ(?)的要素含む。 中編:回想の続き。初エロシーンあり。(フレンチかつマニアックな感じ?) 後編:最終編。イリィ母登場。それでも君を、愛してる。 |
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