長い夜が終わり、朝がやって来る。 この街の周辺を囲む山々の間から、朝日が優しく差し込んでくる。
俺の名はトージア。農家をやってる実家を出て、もう3年になるが、幼少の頃から身に付いてきた早起きの習慣は、もはや体質に近い形で今も身に染み付いている。
まだ街は眠っているが、周辺でも比較的大きな街であるここ、トラクアドルは昼間には数え切れないほどの人や物で溢れかえる、流通の本拠地だ。 珍しい食べ物から怪しげな曰く付きアイテムまで、計り知れない数の流通品が、今日も人と共に流れることだろう。 それだけの人や物が流れれば、当然トラブルが起こる。 この街で会えるはずの人に会えなかったり、この街を離れようとしたのに出発できなかったり。 そんなトラブルを解決して、生計を立てるのが俺のような冒険家の生き方なんだが…
「なんじゃこりゃ…」
中には想像もつかない珍事もある。
「いやぁ、参っちまったよ。まさか荷馬車の中の荷物じゃなくて、車輪を盗まれるとは思いもしなかったもんで。」
そう言って苦笑いを浮かべる商団のリーダー。 昨日の夜にこの街に着いて、一泊してからまた出発する予定だったらしいのだが、朝起きてみればこの有り様。 荷馬車は無傷にも関わらず、車輪だけが忽然と姿を消している。荷物に何ら異変はないとのことだが、なぜ車輪なんぞを好き好んで盗んだのか。
商団のリーダーが、この街の役所に勤める役人の友人で、加えてそもそも有名な商団だったため、この珍事は瞬く間に知れ渡り、街の速報にも載ったほどだ。
そして犯人は意外にも、商団のリーダーの一人息子であることがわかり、更に話題となった。
なんでも息子は昨晩この街に着いてすぐに酒場に入り、その酒場の看板娘に一目惚れをしたそうで、どうしてもこの街に滞在する時間を引き伸ばしたかったらしい。
後にこの息子は犯行直前まで酒場を梯子していたこともわかり、酒場に入る度に女を口説いて回っていたことが、同行していた商団員の証言で明らかになった。 父親にタコ殴りにされ、口説いた女からはビンタのフルコースをくらい、最後には縛り上げられて荷台に積まれた。 同行していたのに息子の愚行を止めなかったとして、見張りをつけると言う名目のもと、同行していた商団員も荷台に一緒に詰め込まれていた。
特に解決に関して大した貢献はしていないが、リーダーは気前がよく、巻き込んじまったと苦い顔で笑いながら、積み荷の香辛料を少し分けてくれた。 遥か遠方でしか手に入らないため、この街でも珍しい香辛料らしい。
こんなのらりくらりとした毎日を送っている。
さて、明日はどんな依頼が舞い込んでくるのか。
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