連載小説
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『どうぶつ鬼装纏鎧 -VSスフィンクス-』
「それで、アタシのお相手はお兄さんでいいのかにゃ」
「ああ、それとも俺が相手じゃ不満かい?」

そう言いながら俺は拳を握り締め、意識を目前の標的に固定する。
アヌビスをナオヤに任せた以上、俺の相手はこのスフィンクスだ。

「にゃはは、そんなことないのにゃ。 あ、お兄さんのお名前を聞いてもいいかにゃ?」
「名乗りが必要か? ここは別に決闘場ってわけじゃあないだろう?」
「まぁ、そうカタいこと言わないで欲しいにゃ。 因みに、私の名前はエレナっていうのにゃ」
「………ジャット、それが俺の名だ。 さて、自己紹介も済んだことだしそろそろ始めないか?」

俺は握り締めた拳を構え、同時に魔力を用いて肉体に一時的な強化を施す。
そして、エレナと名乗ったスフィンクスと対峙した。

「んー………出来ればお兄さんにはこのまま帰って貰いたいんだけどにゃー」
「あいにく、戦いもせずに逃げるなんて選択肢は持ち合わせていないんでね。
 ………戦う気がないのならこのまま退いてくれないか?」
「残念ながら、そーゆーわけにもいかないのにゃ。
 ………というわけで、お兄さんには力づくで退場して貰うことにするにゃ」
「そうかい?それは残念だ」
「にゃはは、それじゃあ始めるとしますかにゃ。
 ──────────『焔装:鬼装纏鎧《キソウテンガイ》』!!」

スフィンクス拳を構えて声を上げる、すると彼女を中心に遺跡内部を熱波が襲った。
そして熱が納まるとそこには四肢に紅蓮を纏い、揺れる髪を炎のように朱く染めたスフィンクスが存在した。

「──────────焔装、完了にゃ」
「………魔術武装か。 噂に聞いたことはあるが、実際に目にするのはこれが初めてだな」
「それじゃあ、準備はよろしいかにゃ?」
「ああ、いつでも構わんぞ。それとも合図が必要か?」
「にゃはは、合図なんて必要ない───────────────にゃッ!!」

スフィンクスが跳躍し俺に目掛けて空中を疾走する!!
それを見て、俺は即座に魔力を練り、迎撃の為の術を行使した。

「行けッ!!『アクアシュート』!!」

詠唱の完了と共に放たれた三つの水球が放たれる。
放たれた水球は空中に蒼い軌跡を描きながらスフィンクスに目掛けて飛翔し──────────

「無駄にゃ!この炎はそんな水なんかじゃ消せないのにゃ!!」

その声と共に振るわれた彼女の腕に薙ぎ払われ蒸発し、霧散した。
くっ、炎には水だなんて安直な考えは通用しないか!

「ならこれでどうだッ!!『ボルケーノキャノン』!!」

顕現したのは炎を纏った巨大な岩石。
火焔を武装する相手に本来の威力は望めないが、これならば炎に消される心配はない。

「喰らえッ!!シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォッッッ!!!」

俺は燃える岩石に拳を叩きこみ、スフィンクスへと向けて射出する。
───────────────足止めくらいの効果はあるはずだ!!

「にゃッ!?なんか飛んでくるにゃッ!!でも、そんなものアタシには効かないのにゃ!!!」

スフィンクスはそう言うと、その場に足を止めて迎撃の態勢をとる。

「にゃああああああああああああああああああああッ!!!」

スフィンクスが吼える、するとその四肢に纏う紅蓮が灼熱に燃え上がった。
そして、振り上げられたその拳が迫り来る岩石へと命中すると───────────────

「粉ッ!!砕ッ!!! でにゃああああああああああああああああああ!!!」

振り上げられた拳によって、炎に包まれた岩石は粉々に打ち砕かれた。
───────────────しかし、それも想定内の出来事だ。

「足を………止めたなッ!!!」

打ち砕かれた岩石の向こうに拳を振り上げた姿勢で静止する標的が見えた。
俺はすかさず魔力を行使し、照準を標的に固定する。
詠唱は既に完了している、後は練り上げた魔力をただ解き放つだけでいい。

「炎でコイツが止められるかッ!!『ライトニングブラスター』!!!」
「にゃッ!? ぎにゃあああああああああああああああああ!!!」

刹那───────────────放たれた紫電がスフィンクスの身体を撃ち貫いた。
………どうだ?これで倒せたのか?

「にゃ、にゃあ〜〜〜。 し、痺れるにゃ〜〜〜〜〜」

しかし、そんな俺の思いとは裏腹にスフィンクスはふらつきながらも無事のようだ。
やれやれ、流石は魔物ってところか。 一撃当てたくらいじゃあ打倒には至らないか………

「なら、もう一度………今度はでかいのを当ててやるまでだ」

俺はそう言い放ち、スフィンクスへ向けて再び構えをとる。
どうやら電撃で痺れている様子だが、回復を待つつもりはない。

「行けッ!!『サンダーシュート』!!!」

俺が呪文を詠唱しながら腕を振るうと、スフィンクスに目掛けて雷球が発射される。
電撃は防御できない、そいつは既に証明済みだ。

「にゃッ!?また電撃が来たにゃッ!! 痺れるのはもうイヤなのにゃ〜〜〜〜〜!!!」

スフィンクスはそう言うと遺跡の中を駆け、雷球を回避する。
くっ………流石に速い、回避に専念されると闇雲に撃つだけでは当たらんな。

「にゃ〜〜〜!!お兄さんばっかり攻撃してきてずるいのにゃ!!!」
「だったら、そっちも勝手に仕掛けてくればいいッ!!!」
「そうさせてもらうとするの───────────────にゃッ!!!」
「───────────────なッ!!!」

スフィンクスが疾走し、俺に目掛けて駆けてきた。
当然、俺は魔術を行使し迎撃を試みるが───────────────

「にゃはははは、無駄なのにゃ」
「くっ………ちょこまかと小賢しいッ!!!」

おそらく、先程の出来事で学習したのだろう。
その軌道は最初の時と同じ直線的なものでなく、遺跡内部を縦横無尽に駆け巡るものだった。
当然照準の固定は容易ではなく、迎撃の為に放たれる雷球は全てあさっての方向へと消えてゆく。
そして、遂には───────────────

「にゃはは、ようやく辿りついたのにゃ♪」

スフィンクスの接近を許してしまう結果となった。
まずいッ、この位置はスフィンクスの射程内だ!!

「それじゃあ、いくにゃよッ!!!」
「くっ───────────────『プロテクション』!!!」

俺は咄嗟に魔術障壁を展開し身を守る。
同時にスフィンクスは四肢の紅蓮を肥大させ、彼女を中心に遺跡内部を熱風が吹き荒れた。

「紅蓮!!猛撃烈破ッ!!!」

そして遂に振るわれた灼熱を纏うその拳は、俺の魔術障壁を容易く撃ち破り、
───────────────正確に俺の鳩尾へと捻じ込まれた。

「ぐあ………かはっ………」
「にゃはは、これで決まりかにゃ?」
「あ………」
「あ?何か言い残すことがあるのかにゃ?」
「足を………止め、たな……………」

意識がふらつき、視界が点滅する。
だが………あと一撃、そのくらいは打ち込ませて貰う!!!

『───────────────装填 《雷・雷・雷》』

思い描くのは最強の雷撃、それを詰め込んだ弾丸を俺の心の中にある弾倉へと………
一つ一つ、正確に捻じ込んで行く。

『───────────────装填、完了』

握力などとうに失せたその腕で………
俺はしっかりと標的に触れ、照準を固定する。

「こいつが………俺のとっておきだ。 ただで済むとは思うなよ………」
「にゃッ!?離せッ、離すのにゃッ!!!」
「行くぜ………『トライエクストリィィィィィィィィィィム』ッッッ!!!」

その俺の宣言と共に……… たった今、俺の心の中で撃鉄が振り落とされた!!!

「にゃッ!?にゃあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

顕現したのは雷の三重奏、スフィンクスに触れたその手から意識を刈り取る暴虐が彼女の体内へと侵入する。
スフィンクスはその身体から紫電を迸らせながら痙攣し、やがて───────────────

「ま、まいったのにゃあ〜〜〜〜〜」

その身体を石造りの床へと沈めた。
やれやれ………なんとか、勝利………したかな?
あ、もう駄目だな………意識が、沈む…………

「ジャット!!!今、治療するからッ!!!」

あ………だれかこっちに来る……………
この、声は………

「す、スイか………?」
「喋らないで!!!すぐに、治療するから!!!」

ははは……… 普段はなに考えてるのかわかんないような顔してるくせに…………
そんなに、必死になるなんてさ………
………このくらいのこと、冒険者には付き物だろう? でもさ………

「ああ………あとは、頼むぜ………」
「うん!!わかったから、ジャットはじっとしていて!!!」

………こんな時くらい、こいつに任せても構わないよな?
あ………もう、意識が持たないな……………
スイ………あとは任せた、ぞ……………


11/03/27 20:43更新 / 植木鉢
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■作者メッセージ
………というわけで、ジャットVSスフィンクスでした。
ジャットはJoker!さんから戴いたキャラなのですが、Joker!さん、如何でしたか?

さて、次回でアヌビス戦を完結できればいいんですけど………
んー………どうなるかなぁ?
ま、それはそれとして………皆さん、次回も是非見てくださいね。

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