『旅立ちアンバランス』
本日は快晴なり。
見上げれば蒼天に輝くまばゆい太陽が、実に心地の良い陽光を浴びせてきます。
まさに、絶好の冒険日和といったところですね。
さて、出発前に荷物の確認でもしましょうか。
数日分の飲用水と食料に、万が一に備えての薬の数々。
そして、俺の武器である教鞭も予備を含めて三本確保しました。
これらは全てバフォ様から戴いた不思議な袋の中に納められています。 あ、装備は別ですよ。
なんでも袋の中は魔術で展開された特殊な空間に通じているとか。
ちなみに、この袋はバフォ様とお揃いです。
バフォ様の袋には様々な魔術道具がたくさん入っているそうです。
他に何か気になる事は………ああ、そういえば。
食堂の皆さんが俺が冒険に行くことに対して猛烈な抗議をしてきましたね、
曰く、マヨネーズがなくなると暴動が起こる可能性があるとか。
サバトへのマヨネーズの影響力が半端ないです、ハイ。
これに対しては、料理長にマヨネーズのレシピを教えることで一応の解決としました。
「ナオヤよ、準備の方は大丈夫かの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「……何故じゃろうな? 旅の直前でそれを言われると、もの凄く不安になるのじゃ」
うん、言ってて俺も不安になった。 ……本当に大丈夫だよね?
でもしょうがないんですよ、一個人には抗えない流れというものがあるんです。
『大丈夫か?』と聞かれたらこう答えるのがお約束なんです。
「まぁ、それはそれとして……… バフォ様、行き先は決めてあるんですか?」
「うむ、もちろんじゃとも。今回は初回じゃし、この近くにある遺跡に行こうかと思っているのじゃ」
「へぇ……遺跡ですか」
なんだかRPGな感じがしてワクワクしますね。
でも勝手に遺跡に入るのって盗掘じゃないのかな?
むしろ、魔物が住みついてることを考慮すると強盗じゃね?
……いや、考えるのやめようか。
バフォ様がいいって言ってるんだし問題ないでしょ、たぶん。
「さぁ、まずは遺跡の手前にある街を目指すとするのじゃ。
何事もなければ日が沈む前には辿り着くじゃろ」
「はい、バフォ様。それでは出発といきましょうか」
サバトを後にして、しばらく………
時間にすると二時間ほどが経過したでしょうか?
俺とバフォ様は森を貫くように敷かれた街道を歩いていた。
それにしても………
「エンカウントしませんねぇ………」
「えんかうんと? ……なんじゃそれは?」
「……平和だってことですよ、バフォ様」
同時に退屈だということでもありますけどね。
いや、まぁ、冒険に危険は付き物といっても実際はこんなものでしょうけどね。
RPGのように少し歩くだけでエンカウントしてたら、とてもじゃないけど身が持ちませんしね。
でも、遺跡《ダンジョン》攻略の前に少しでも経験値は積んでおきたいよなぁ。
そんな時、不意に街道の脇の茂みがガサリと揺れる。
何事かと気になりそちらに目を向けると、巨大な猪が飛び出して来るのが見えた。
「おお、でかいなー。 バフォ様、あれはなんでしょうか?」
「あれはワイルドボアじゃな。 主に森や山に生息する巨大な猪じゃよ。
ふむ……ちょうどよいな。 ナオヤよ、あれで主の術を試してみてはどうじゃ?」
「了解でーす」
俺は意気揚々と、ポケットから畳まれた教鞭を取り出し振るうことで展開した。
因みに、この教鞭は以前バフォ様から戴いた物を改良した物で、魔力を込めて振るだけで展開できるようになっている。
「では、いきますよ」
「うむ、やってしまうがよいのじゃ♪」
「ぶもぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「うわ、なんかこっちに来ましたよ」
「むぅ、やかましいのぅ………」
俺が戦闘態勢に入ったのを理解したのか、猪は突如として雄叫びを上げながら突進してきた。
おお、以外にも動きが機敏だ。 ……しかし、それだけだな。
「疾ッ───────!!」
俺はすぐさまに風の結界を展開し、爆走する猪の軌道を強引に修正する。
体勢を崩した猪は速度はそのままに足をもつれさせて、転がるように疾走する。
そして、疾走する先にそびえ立つ立派な巨木に衝突してようやく静止した。
「ふむ、風の制御は完璧じゃな。 覚えてまだ数日じゃというのに、既に熟練の域ではないか」
「きっと、バフォ様の教え方がお上手だからですよ」
「うむ、それならば当然じゃな。 このわしが直々に指導しておるのじゃしな」
「では、とどめといきましょうか」
ふらふらと立ち上がろうとする猪に向けて俺は教鞭を翳して相対する。
イメージするのは高速で回転する空気の輪環。
それを極限にまで研ぎ澄ませ、質量を持つほどに圧縮した風の戦輪を俺の周囲に顕現させる。
はい、どう見ても某道士の技のパクリです。本当にありがとうございました。
「いきますよ!!『打風輪』!!!」
俺の掛け声と共に完成した魔術が、猪へと向けて解き放つ。
解き放たれた風の刃は分厚い毛皮に覆われた猪の肉を切り裂き、血飛沫の華を咲かせた。
うわぁ……… 自分でやっておいてなんだけど、凄い光景だな………
元の世界で同じことをすると動物愛護団体とかが煩そうだ。
まぁ、とりあえず………
「終わりましたよ、バフォ様」
「うむ、そのようじゃな」
あの状態なら、流石にもう生きてはないでしょう。
血溜まりに沈む猪に、ほんのちょっぴりだけ罪悪感を感じつつ、俺はバフォ様に報告した。
こういうことにも慣れていかないとダメなんだろうなぁ………
「それではナオヤよ、さっそくあの猪を解体するのじゃ」
「はい?解体ですか?」
「うむ、ワイルドボアからは肉と牙と毛皮が獲れるのじゃ。 街で売れば金にもなるしの」
「……どうしてもやらないとダメですか?」
「なにを言っとるんじゃ?
せっかく仕留めた獲物を、街道のど真ん中に野晒しにするわけにもいかんじゃろ?」
「それはまぁ、そうですけどね………」
理解はできるんだけど、現代人としてはどうにも抵抗感が抜けきらないと言いますか………
はぁ…… まぁ、こういったことにも慣れていかないとダメかなぁ………
俺は諦めて、バフォ様に命ぜられるままに解体に取りかかろうとする。
その時だ───────────────
「ああーーーーー!!俺達の昼飯があああああああああああ!!!!!」
「…………………お昼ご飯」
猪が出てきた茂みを掻い潜り、一組の男女が現れた。
男の方はゆったりとした赤いローブを纏った逞しい体格の青年で、女の方はスク水を着た幼女だった。
………えと、状況を整理しようか。
突如として目の前に、スク水姿の幼女を連れて歩く怪しげな男が現れた。
「えっと、野生の変態さんですか?」
俺は男にそう尋ねた。 ……だって、そうでしょう?
スク水姿の幼女を外に連れて歩くなんて、変態以外の何者でもないですよ。
ねぇ、俺ってまちがってませんよね?
「待て…… 訂正してくれないか、俺は変態じゃあないぞ」
「そうじゃぞ、ナオヤよ。
こやつは立派なロリコンじゃ、変態などと同列に語るでない」
「そうですか……… では訂正しますね、ロリコンさん」
「俺はロリコンじゃない………いや、もう好きにしてくれ……………」
男はどこか諦めたかのようにそう呟くと、何かを堪えるように空を見上げた。
もしかして泣いているのでしょうか? ……いや気のせいでしょう、きっと。
「それで、えっと………お昼ご飯ですか? よかったら、あの猪の肉を差し上げましょうか?」
「いや、気遣いはいらんよ。 確かに腹は減っているが我慢できない程じゃあないんでな。
それに、あれはアンタ達の獲物だろう?」
「あの…… そうは言われましても、あの人が……………」
「……………お腹、空きました」
「………スマンな、気にしないでくれ。 ほらスイ、いくぞ!!」
俺の視線の先には、よだれを口から垂らしながら猪を見る幼女がいた。
スイというのは彼女の名前のことでしょうか?
ともかく、このままでは少々かわいそうですね。
「バフォ様。 この幼女に猪の肉を食わしてやりたいんですが、構いませんね!!」
「うむ、構わぬぞ。 そもそも、この状況で見捨てるなどという選択肢はあるまいて」
「……というわけですが、どうしますか?」
「そうか、それじゃあ御言葉に甘えるとするよ」
「ご飯♪ご飯♪」
こうして、俺とバフォ様は道中で出会ったロリコンさん達と一緒に食事をすることになりました。
見上げれば蒼天に輝くまばゆい太陽が、実に心地の良い陽光を浴びせてきます。
まさに、絶好の冒険日和といったところですね。
さて、出発前に荷物の確認でもしましょうか。
数日分の飲用水と食料に、万が一に備えての薬の数々。
そして、俺の武器である教鞭も予備を含めて三本確保しました。
これらは全てバフォ様から戴いた不思議な袋の中に納められています。 あ、装備は別ですよ。
なんでも袋の中は魔術で展開された特殊な空間に通じているとか。
ちなみに、この袋はバフォ様とお揃いです。
バフォ様の袋には様々な魔術道具がたくさん入っているそうです。
他に何か気になる事は………ああ、そういえば。
食堂の皆さんが俺が冒険に行くことに対して猛烈な抗議をしてきましたね、
曰く、マヨネーズがなくなると暴動が起こる可能性があるとか。
サバトへのマヨネーズの影響力が半端ないです、ハイ。
これに対しては、料理長にマヨネーズのレシピを教えることで一応の解決としました。
「ナオヤよ、準備の方は大丈夫かの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「……何故じゃろうな? 旅の直前でそれを言われると、もの凄く不安になるのじゃ」
うん、言ってて俺も不安になった。 ……本当に大丈夫だよね?
でもしょうがないんですよ、一個人には抗えない流れというものがあるんです。
『大丈夫か?』と聞かれたらこう答えるのがお約束なんです。
「まぁ、それはそれとして……… バフォ様、行き先は決めてあるんですか?」
「うむ、もちろんじゃとも。今回は初回じゃし、この近くにある遺跡に行こうかと思っているのじゃ」
「へぇ……遺跡ですか」
なんだかRPGな感じがしてワクワクしますね。
でも勝手に遺跡に入るのって盗掘じゃないのかな?
むしろ、魔物が住みついてることを考慮すると強盗じゃね?
……いや、考えるのやめようか。
バフォ様がいいって言ってるんだし問題ないでしょ、たぶん。
「さぁ、まずは遺跡の手前にある街を目指すとするのじゃ。
何事もなければ日が沈む前には辿り着くじゃろ」
「はい、バフォ様。それでは出発といきましょうか」
サバトを後にして、しばらく………
時間にすると二時間ほどが経過したでしょうか?
俺とバフォ様は森を貫くように敷かれた街道を歩いていた。
それにしても………
「エンカウントしませんねぇ………」
「えんかうんと? ……なんじゃそれは?」
「……平和だってことですよ、バフォ様」
同時に退屈だということでもありますけどね。
いや、まぁ、冒険に危険は付き物といっても実際はこんなものでしょうけどね。
RPGのように少し歩くだけでエンカウントしてたら、とてもじゃないけど身が持ちませんしね。
でも、遺跡《ダンジョン》攻略の前に少しでも経験値は積んでおきたいよなぁ。
そんな時、不意に街道の脇の茂みがガサリと揺れる。
何事かと気になりそちらに目を向けると、巨大な猪が飛び出して来るのが見えた。
「おお、でかいなー。 バフォ様、あれはなんでしょうか?」
「あれはワイルドボアじゃな。 主に森や山に生息する巨大な猪じゃよ。
ふむ……ちょうどよいな。 ナオヤよ、あれで主の術を試してみてはどうじゃ?」
「了解でーす」
俺は意気揚々と、ポケットから畳まれた教鞭を取り出し振るうことで展開した。
因みに、この教鞭は以前バフォ様から戴いた物を改良した物で、魔力を込めて振るだけで展開できるようになっている。
「では、いきますよ」
「うむ、やってしまうがよいのじゃ♪」
「ぶもぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「うわ、なんかこっちに来ましたよ」
「むぅ、やかましいのぅ………」
俺が戦闘態勢に入ったのを理解したのか、猪は突如として雄叫びを上げながら突進してきた。
おお、以外にも動きが機敏だ。 ……しかし、それだけだな。
「疾ッ───────!!」
俺はすぐさまに風の結界を展開し、爆走する猪の軌道を強引に修正する。
体勢を崩した猪は速度はそのままに足をもつれさせて、転がるように疾走する。
そして、疾走する先にそびえ立つ立派な巨木に衝突してようやく静止した。
「ふむ、風の制御は完璧じゃな。 覚えてまだ数日じゃというのに、既に熟練の域ではないか」
「きっと、バフォ様の教え方がお上手だからですよ」
「うむ、それならば当然じゃな。 このわしが直々に指導しておるのじゃしな」
「では、とどめといきましょうか」
ふらふらと立ち上がろうとする猪に向けて俺は教鞭を翳して相対する。
イメージするのは高速で回転する空気の輪環。
それを極限にまで研ぎ澄ませ、質量を持つほどに圧縮した風の戦輪を俺の周囲に顕現させる。
はい、どう見ても某道士の技のパクリです。本当にありがとうございました。
「いきますよ!!『打風輪』!!!」
俺の掛け声と共に完成した魔術が、猪へと向けて解き放つ。
解き放たれた風の刃は分厚い毛皮に覆われた猪の肉を切り裂き、血飛沫の華を咲かせた。
うわぁ……… 自分でやっておいてなんだけど、凄い光景だな………
元の世界で同じことをすると動物愛護団体とかが煩そうだ。
まぁ、とりあえず………
「終わりましたよ、バフォ様」
「うむ、そのようじゃな」
あの状態なら、流石にもう生きてはないでしょう。
血溜まりに沈む猪に、ほんのちょっぴりだけ罪悪感を感じつつ、俺はバフォ様に報告した。
こういうことにも慣れていかないとダメなんだろうなぁ………
「それではナオヤよ、さっそくあの猪を解体するのじゃ」
「はい?解体ですか?」
「うむ、ワイルドボアからは肉と牙と毛皮が獲れるのじゃ。 街で売れば金にもなるしの」
「……どうしてもやらないとダメですか?」
「なにを言っとるんじゃ?
せっかく仕留めた獲物を、街道のど真ん中に野晒しにするわけにもいかんじゃろ?」
「それはまぁ、そうですけどね………」
理解はできるんだけど、現代人としてはどうにも抵抗感が抜けきらないと言いますか………
はぁ…… まぁ、こういったことにも慣れていかないとダメかなぁ………
俺は諦めて、バフォ様に命ぜられるままに解体に取りかかろうとする。
その時だ───────────────
「ああーーーーー!!俺達の昼飯があああああああああああ!!!!!」
「…………………お昼ご飯」
猪が出てきた茂みを掻い潜り、一組の男女が現れた。
男の方はゆったりとした赤いローブを纏った逞しい体格の青年で、女の方はスク水を着た幼女だった。
………えと、状況を整理しようか。
突如として目の前に、スク水姿の幼女を連れて歩く怪しげな男が現れた。
「えっと、野生の変態さんですか?」
俺は男にそう尋ねた。 ……だって、そうでしょう?
スク水姿の幼女を外に連れて歩くなんて、変態以外の何者でもないですよ。
ねぇ、俺ってまちがってませんよね?
「待て…… 訂正してくれないか、俺は変態じゃあないぞ」
「そうじゃぞ、ナオヤよ。
こやつは立派なロリコンじゃ、変態などと同列に語るでない」
「そうですか……… では訂正しますね、ロリコンさん」
「俺はロリコンじゃない………いや、もう好きにしてくれ……………」
男はどこか諦めたかのようにそう呟くと、何かを堪えるように空を見上げた。
もしかして泣いているのでしょうか? ……いや気のせいでしょう、きっと。
「それで、えっと………お昼ご飯ですか? よかったら、あの猪の肉を差し上げましょうか?」
「いや、気遣いはいらんよ。 確かに腹は減っているが我慢できない程じゃあないんでな。
それに、あれはアンタ達の獲物だろう?」
「あの…… そうは言われましても、あの人が……………」
「……………お腹、空きました」
「………スマンな、気にしないでくれ。 ほらスイ、いくぞ!!」
俺の視線の先には、よだれを口から垂らしながら猪を見る幼女がいた。
スイというのは彼女の名前のことでしょうか?
ともかく、このままでは少々かわいそうですね。
「バフォ様。 この幼女に猪の肉を食わしてやりたいんですが、構いませんね!!」
「うむ、構わぬぞ。 そもそも、この状況で見捨てるなどという選択肢はあるまいて」
「……というわけですが、どうしますか?」
「そうか、それじゃあ御言葉に甘えるとするよ」
「ご飯♪ご飯♪」
こうして、俺とバフォ様は道中で出会ったロリコンさん達と一緒に食事をすることになりました。
11/02/05 22:43更新 / 植木鉢
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