連載小説
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拾いました、如何しましょう
「え〜〜っと、確かこの辺りなんだけど」
 ガサガサと地図を広げると周りの光景と見比べながら、考え込む。
 そんなオレを見ると、隣に立つゴーレムのアンテは眉間に指を当ててため息を吐く。
「だから私が言ったとおり、先ほどの道を左に曲がるべきだったのです。衛星によるナビは出来ませんが、街からの距離、方向、時間で目的地はあちらの方向にあったと確認していました。それをベルツ、貴男がこちらだと」
「う〜ん。そうなんだけど、何となくこっちの方が面白そうな予感がしたからさ。何があるかな〜と思ってさ」
 のほほんと答えるオレにアンテは、腰に手を当てて睨みつける。
「それで!森の中の一本道を逸れて!森の中に分け入って!何か見つかりましたか!」
「そりゃ〜もちろんだよ・・・ほら、あれだよ」
 オレが自信を持って指さす先を見たアンテは盛大なため息を吐く。オレが指さす先にはポツンとこれ見よがしにりんごが一つ、切り株の上に置いてある。いかにも取って下さいと云わんばかりのその光景を見て嬉々としているオレにアンテが更に噛み付いてくる。
「アレが面白いモノですか?!」
「そうだよ。面白いだろ〜、あんなことするなんてさ」
「・・・確かにそうですね。ある意味、貴重です。この様な低レベルの、罠としても機能しない、もはや罠の意味がないことを平気でする方がいるとは」
 額に人差し指を当てるとアンテは切り株の向こう側にあたる茂みを見遣って感心した様に呟く。
「さしずめ、あちらに潜んでいる方たちの仕業ですね」
   「「「ギクッ!!!」」」
 指摘を受けた茂みがガサリと音を立てて揺れる。そのまま黙って見ているとヒソヒソと話し合っている声が聞こえてくる。
「ど、如何するの?!ばれてるよ!」
「・・・オカシイ。タシカコレデヨカッタハズ」
「ここは、木の実にするべきだったんだよ!」
 三者三様の声で話し合っているのだが、声が大きすぎるため隠れている意味が全く無い。そこでアンテにそっと近づく様に伝えるとその茂みに近づいて行く。もちろん切り株の上に置いてあるりんごも回収しておく。因みに罠は上から網が落ちてくるモノで、その網も丸見えの状態だった。
 そのまま茂みを覗いてみるとお揃いで色違いの服を着たアラクネの子供が三人、顔を突き合わせて話し合っている最中だった。

「どこで間違ってたんだろ〜な」
「ウウン、コレデアッテイル」
「お母さんがお父さんを捕まえた方法だったのよ!間違いないって・・・ていうか、その喋り方いい加減止めない?」
「デモコセイヲダスノニハ」
「疲れない、それ?」
 赤い服を着たアラクネの指摘に言われた黄の服を着たアラクネは首を縦に振ると、肩の力を抜いて蜘蛛の下半身を地面に下ろす。
「う〜〜ん、キャラじゃ無いのよね〜。こっちの方が落ち着く」
「それで如何するのミミカお姉ちゃん、リサお姉ちゃん」
 青の服を着たアラクネに訊ねられた二人のアラクネは頭を抱え込んでしまう。
「如何しましょう?ねえ、リサは何かいい案ある?」
 赤い服のアラクネに聞かれた黄の服のアラクネ、リサは掌を上に上げて首を横に振る。それを見た赤い服のアラクネは青い服のアラクネに視線を向ける。
「キナ、貴女はどう?いいアイデアはない?」
「ううん、キナも全然ダメ。ミミカお姉ちゃんがダメなのにキナに出来る訳無いでしょ」
「あのねキナ。いつも言ってるでしょ。もっと自分で考えないといけないって」
 赤い服のアラクネ、ミミカに窘められた青い服のアラクネ、キナはむうっと頬を膨らませる。
「じゃあ、ミミカお姉ちゃん!何かある?」
「そうね〜〜。あ、そうだ!リサ、貴女は何かないかしら?」
「全然無いわよ。て言うか私に振らないでよ!」
 キッ!と睨みつけられたミミカはそのまま縮こまってしまう。そこへリサが追い打ちをかける。
「だいたいこの罠にしようって言ったのミミカお姉ちゃんでしょ!責任持って別の案を出しなさい!」
「で、でもこれでお母さんはちゃんとお父さんを捕まえたのよ!だ、だから・・・それに二人も賛成したでしょ!」
 泣きそうな声で反論するミミカにリサとキナは目を逸らす。

 茂みの向こう側で座り込んで聞き耳を立てていたオレは成程と頷く。隣りで座り込んでいるアンテは、ふ〜むと人差し指を頬に当てて感心している。
「そうですか。見たところアラクネの姉妹の様ですね。話の内容から察するに相手を探しているみたいですね・・・それにしても何故この様な罠を」
「ま、そりゃ聞けば解るだろ」
 ナイフでりんごを八等分するとうさぎにして、大き目の葉っぱの上に並べて、彼女達に差し出す。
「ほら、これでも食べて落ち着けよ」
「すみません」
「サンキュ〜」
「あ、ありがとうお兄ちゃん」
 三者三様に答えながら手を伸ばすとりんごを食べ始める。オレとアンテも一緒に食べながら、話に入り込む。
「でさ、こんな罠を仕掛けるなんて今どき珍しすぎるんだけど」
「やっぱり!ミミカお姉ちゃんが悪いんだ」
「ミミカお姉ちゃんのドジ〜〜」
 オレの指摘にアラクネ姉妹の二人が揃って抗議を始めると残ったアラクネは涙目になりながら声を絞り出す。
「で、でも・・・この方法で・・・グスッ、お母さんは・・・ちゃ、ちゃんと捕まえた・・のですよ・・・」
「落ち着いてください。え〜と、ミミカさんで宜しいのでしょうか?初めまして。私はゴーレムのアンテと申します。あちらは私のマスターでベルツと申します」
 自己紹介されたのでオレが頭を下げるとアラクネ姉妹もぺこりと揃って頭を下げる。
「初めまして、長女のミミカと申します」
「次女のリサよ」
「キナだよ〜〜」
 それから暫くして差し出されたうさぎリンゴを食べ終えたころにオレ達に気づき声を上げる。
「あ〜〜〜〜!!!ちょっとちょっと、どうしてアンタたちがここに入るの!!!!」
「あら〜〜、どうしましょう?」
「ねえねえ、なんでボクたちの隠れている場所判ったの?」
 三人の質問にオレとアンテは正直に答える。
「いや、なんでって言われても・・・」
「声が漏れてましたし、丸判りでしたよ」
「それに声が大き過ぎて丸聴こえだったぞ」
 指摘を受けて姉妹たちはうそっと顔を見合わせる。更にオレが追い打ちを掛けると、しゅんと落ち込んでしまう。
「それとさ、罠を仕掛けるにしてもせめて見えない様にしないと。網が丸見えだったよ・・・まあ網自体が強力なんだろうけどさ、もう少し考えた方がな」
「そもそもこの様な罠に如何して皆さんのお父様は引っ掛かったのですか?」
 アンテの質問にミミカが首を捻りながら考え込み、リサは目を瞑り、キナにいたってはえへへ〜っと笑っている。暫くしてリサがそうそうと思い出した様に手を打ち全員を見まわす。それに釣られて全員が彼女に視線を集中すると、自信に満ちた顔付でその理由を語り出す。
「確かさ〜〜、お腹がすいていたんだよ。・・・うん、そうだよ!」
「確かそうでしたね〜」
「道に迷っていたんだよね〜〜」
「道に迷っていたのか?」
 オレの言葉にキナが嬉しそうに頷く。その横でアンテが成程と頷くと、キナが笑いながら付け足す。
「つまり、余りにも空腹であったため周囲の警戒を怠ってしまったということですね。それならばあの罠で捕まったのも頷けます」
「すっごいお腹すいてたらしいんだよ。罠から逃げ出すよりその場でりんごを夢中になって食べてたんだから」
 妹の言葉にリサが笑顔で答えるのに合わせてミミカも笑い出す。
「それでさ家に来ればもっと美味しい御馳走があるわよって」
「そうしてめでたくゴールイン!でしたわね〜」
「んで、私たち三姉妹が生まれたんだよ!」
 可愛らしく話すキナに二人の姉はうんうんと頷くと
「実際うち等の両親がさ〜、すんご〜〜〜く仲が良くってさ、どうやって父さんを捕まえたのか聞いてみたんだ。そしたら」
「この方法で捕まえたと教わりまして」
「それで実行したと・・・・」
 胸を張って自慢げに語る三人のアラクネ姉妹に、アンテは額の中央に人差し指を当てると盛大な溜息を吐く。それを見た彼女達は、直ぐに近づき心配な顔付で覗き込んでくる。
「あの〜〜大丈夫ですか〜〜?」
「何言ってんだよ、姉さん!ゴーレムのお姉さんがこんな疲れた顔するんだから、大丈夫な訳無いだろ!きっと何かの悪い病気とか」
「ええ〜〜!!お姉さん、病気なの?!」
 ぐいぐいと押し寄せてくるアラクネ姉妹に対して、アンテは両手を突き出して落ち着いて下さいと宥めながら押しとどめる。
「ほほら、もう大丈夫ですから」
「ええ〜〜!でもお姉さん、すごい顔してるよ。ほんとに大丈夫?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「じゃあ如何してあんな顔してたの?なんかさ、こう苦い木の実を食べたみたいな顔してたよ?」
「それはですね・・・・・・」
 引き攣った笑みを見せながら話すアンテを、キナがじっと心配そうに見つめているのでオレは、助け舟を出してやることにする。
「ああ、大丈夫だよ。実はな、キミ達に男の捕まえ方を教えるために考えているんだよ」
「なっ!!!!!」
 オレの突然の出まかせにアンテが目を見開くが、次の瞬間には文字通り次女のリサと末っ子のキナが期待に満ちた瞳どころか血走った瞳で鼻息も荒くしてアンテを押し倒していた。その素早さたるや、草原を走るワーウルフにも劣らない程だ。
「ほんと!ほんと!ほんと!」
「教えて!!教えて!!!って言うか教えろ!!!教えろ!!!!!」
「お、落ち着いて下さい!そんなに興奮しないで少しは・・・・だから落ち着きなさいと言っているのです!少しは落ち着いて下さい!ベルツ!!手を貸してください!って何で笑いながら眺めてるのですか?!」」
 圧し掛かってくる二人に対して、声を張り上げて宥めようとするが興奮しているため何の意味も無くオレに助けを求めてくるが、当のオレは笑顔で眺めているだけ。当然、猛抗議を上げていると、
「ほらほら、二人ともいい加減にしなさい。アンテさんが困っているでしょ。まずは落ち着きなさい」
 やんわりと話しながらミミカが妹達の襟首を掴んで引き剥がしたので大声を出す必要が無くなったアンテはキッとオレを睨みつけてくる。それに対してオレは指で耳を塞いだまま、横を向いてとぼけてみせる。
「ピピッピ、ピピピ〜〜〜〜」
「!!!!!!!!!」
 口笛ではなく声に出してみせると案の定アンテは顔を赤くして立ち上がる。そしてそこから歩き出そうとして一歩踏み出したところで、前のめりに倒れ込んでしまう。打ち付けて赤くした鼻を押さえながら足元を見ると何時の間にか白い糸が足首に縛り付けられていた。
 その糸を持ったミミカが
「ドチラヘ行かれるのですか、お姉様」
「お、お姉様?」
 ミミカのその言葉に驚くアンテに対してミミカはニッコリと笑って答える。
「はい。男性の捕まえ方をお教えして下さるのですから、そうお呼びするのが当たり前です。あ、それともご主人様とお呼びしたほうがよろしいですか?私はどちらでも構いません。どうぞお好きな呼び方を教えてください」
「はあ????」
 そのあまりの変わりっぷりにアンテが戸惑っているなか、オレはこっそりとリサとキナに近寄り声を掛けて質問してみる。
「なあ。アレどういうこと?」
「あ、あれはさ〜〜、え〜〜と、何ていうかさ〜〜」
「癖なんだよね〜〜」
「く、癖〜〜〜??!!」
 二人の答えにオレが驚くと、二人でその理由を説明してくれた。
「うん。お父さんみたいな男の人を捕まえるために家にいたころ、沢山の本を読んでたんだけど。そんなかにお姉ちゃんがすんごく気に入っていた小説があってね。その小説の主人公の親友なんだよね、ミミカお姉ちゃんのお気に入りなのは」
「ああ、そうそう。確か主人公にお仕えするメイドだったんだよな」
「それでお姉ちゃん。すっかりその役にはまりこんで」
「お父さん相手にして、よくお母さんと競争していたっけ」
「ふ〜〜ん、それで」
「その小説の中でそのメイドさんが片思いの相手に告白するシーンがあるんだけど、その前日に主人公に相談したら」
「その主人公がこう言ったんだ。『まかせなさい!私が絶対成功する方法を教えてあげるから』って」
「で、成功した」
「うん、もちろんだよ」
「ま、小説だからな」
「だからこうなったと」
 オレの答えにふたりはうんうんと頷く。そうして視線を目の前に向ければアンテとミミカは未だ不毛な会話を続けていた。
「さあ、決めてください」
「その様な呼び方で呼ぶことは出来ません」
「では如何様な呼び方でしたら宜しいのですか」
「ですから初対面の方に対してそんな呼び方など出来ません」
「いえ、私がお願いしていますから何の問題もありません。さあ、決めてください」
「しかしですね・・・・」
「ですから・・・・・」
 そんな会話にならない会話を続けていたアンテがオレに顔を向けて何とかしてくださいと視線で訴えてくる。なのでオレも視線で答えてやることにする。
(ベルツ!何とかしてください!)
(何とかって?)
(惚けてないで彼女を如何にかしてください!)
(けどさ、彼女はアンテに言ってるんだろ♪だったらアンテがしないと♪)
(私では対応しきれませんので助けを求めているのです。見て分かりませんか)
(ええ〜〜、愉しそうに見えるんだけどな〜〜♪♪)
(それは貴方だけです!早くしてください!!!!)
(でもさ〜〜)
(ーーー。解りました、先程の事は問い詰めたりしません。ですから)
 漸くアンテから了解を得たオレはミミカに近寄ると肩を叩き、
「お姉ちゃん❤って言いながら擦り寄ればいいんだよ」
「そうでしたか!」
「如何してそうなるのですか!」
「話を先に進めるため」
 両者の言葉に対して一言、しれっと答えるオレにアンテは固まってしまう。そんなアンテにミミカが「お姉ちゃん、お姉ちゃん、アンテお姉ちゃん。ミミカに教えて」と最速擦り寄り甘えだす。
「教えてくれよ、アンテお姉ちゃん」
「アンテお姉ちゃんってば〜〜」
 更に何時の間にかリサとキナも加わってアンテに擦り寄っていく。三姉妹揃ってアンテに擦り寄る光景は中々に羨ましいモノがある。
 一方アンテはそのままされるがままの状態で、オレとしては少々拍子抜けしてしまう。
(・・・・もしかして)
 あることを思いついたのでアンテの側に近づくと目の前でパン!と手を打ち鳴らす。その途端アンテは、ガクンとして動き出す。
「緊急システム作動、自己保全のため強制起動します。システム再起動します。・・・・・はっ!私はどこ?ここは誰?何も思い出せない・・・等といえばいいのですか?ベルツ!」
「そうそう、分かってるじゃん♪」
 オレの嬉しげな顔にアンテは睨みつけてくるが、三姉妹が未だに擦り寄っているため、怖い姿には全然見えず相変わらず羨ましい光景のままだ。思わず笑い出すと、アンテは頬を膨らませて睨みつけてくる。その光景を十分堪能したので、オレは三姉妹の肩を叩くと引き剥がしにかかる。
「ほらほら、そんなに近いからお姉ちゃんが困ってるだろ。離れて離れて。そしたらお姉ちゃんが教えてくれるからさ。さあ一列に並んでならんで」
「「「はーーい!!!」」」
 元気良く返事をすると、直ぐに離れてアンテの前にきちんと座り込む。ピシッ!と背すじを伸ばして期待の眼差しで見つめている。それを見たアンテは文句を言うことも出来ず黙り込んでしまうだけとなる。そのまま又黙り込んでしまったアンテは目を瞑ると漸くして観念したのか口を開く。
「・・・・いいですか;男性とお付き合いするための方法で一番確実な方法をお伝えします。それは・・・・」
「「「それは・・・・・」」」






      −−−−−三週間後ーーーーー


「おっ!手紙だぞ。あの三姉妹からだ。何々・・・・・・。喜べ、アンテ。無事三人共素敵な旦那と結婚できたぞ。今揃ってハネムーンだそうだ」
「そうですか。良かったです」
 手紙を読み終えたオレの言葉にアンテは顔を綻ばせる。
「な、オレの言った通りだろ」
「言っていませんが助かったのは確かですね」
 向こうを向いたまま答えるアンテにオレは笑いながらコーヒーを飲む。アンテもジュースを飲みながら呟く。
「好きです、付き合ってください!これだけで十分なのです」
13/01/14 23:18更新 / 名無しの旅人
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■作者メッセージ
おひさしぶりです。
このたび墓守になりました。
可愛いゴーストちゃんに出会えるのか楽しみです。

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