連載小説
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み〜〜っけた
 木々が立ち並び、木漏れ日が足下に光の輪を作り、そよ風が頬を撫でて優しく吹き抜けてゆく。心安らぐ光景にオレは目を細めて呟く。
「〜〜〜〜❤気持ちいい風だな。そう思わないか」
「ええ、そうですね。・・・・ですけどあそこにいらっしゃる方々はその様なことで職務放棄はしない様ですね」
 視線を目の前に見据えながら答えるアンテにオレも目の前を見詰める。ゴーレムのアンテより落ちる視力だがそれでも、大きく口を開けて来る者を今か今かと待ち受けている洞窟とその入口の両脇に門番として控えているラージマウス達は見間違え様が無く、二人ともご丁寧に槍と盾で武装までしている。
 距離があるのと風下にいるためまだ気付かれてはいないが、このままでいることは出来ない。なぜならラージマウス達が守っている洞窟こそがオレ達の目的地だからだ。
「それで如何するのですか?あの洞窟に入るには彼女たちが邪魔ですが何か方法があるのですかベルツ」
 その言葉にオレはしゃがみ込むと腰に付けていたポーチからある物を取り出しアンテの前に差し出す。
「?これを如何するのですか?」
「これとアレを組み合わせるのさ」
 オレがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて答えると、アンテは目をパチクリさせた後思い出した様に呆れかえった顔をしてオレを見詰めてくる。
「仮にも魔物娘であるラージマウスの彼女達がこんなことで如何にかなると本気で思っているのですか?それよりももっと現実的且つ的確な方法を考えるべきですよ」
 アンテの呆れ顔にオレは「やるだけやってみるべきだろ」と言いながら目的のモノを作り始める。それを見てアンテも渋々手伝いを始める。やがて目的のモノであるアレを作り上げると彼女達に注意しながら用意をしてゆく。
 程なくして準備を終えると、アンテと共に近くの茂みに潜り込む。
 それから待つこと5分・・・・
 バッチーーーーーーン!!!!!!
「「ヂューーーーーーーッ!!!!!!」」
 森の中に響く金属音と二人分のラージマウスの悲鳴!!!
 直ぐに茂みから出たオレ達の目の前には人間代の大きさに作られたネズミ取りに挟まれてジタバタと身動きするラージマウス達がいた。
「こらーーー!誰だ、こんな悪質な罠をしかけたヤツは!!!」
「はずせーー!これをはずしてそのチーズを渡せーーー!!!!」
「ほらな、上手くいったろ」
「・・・・まさにネズミにはチーズなんですね。葉っぱで隠すとかすらしてないのに引っ掛かるなんて」
 オレが胸を張っている傍らでアンテは可哀そうなモノを見る目で見つめるなか、ラージマウス達は叫び続けていた。

 
 オレとアンテは捕らえたラージマウス達をロープでぐるぐる巻きに縛り上げると、漸くその場に腰を降ろした。その間もラージマウス達は口喧しくヂューヂューと喚いて五月蠅いことなかったが何とか我慢できたのは良かったことだと思う。
「さーて質問タイムといこうか」
「ふん!!誰が答えてやるもんか!!」
「さっさとこのロープを解けよ!!」
 オレの言葉にすぐさま怒りながら反論してきたが目の前にチーズを出して見せるとすぐさま跳びかかってくるのだが、ロープの端を持っているアンテに押さえ込まれてしまう。それでも必死になってチーズに向かってくるのにはアンテだけでなくオレも驚いてしまう。
「そんなにこのチーズが欲しいのか?」
「「チーズ!!チーズ!!!チーズ!!!!」」
「す、凄いパワーですよ。私が少し強くしないと押さえ込めないのですから。チーズへの執念恐るべしですね」
 ロープの端を持ちながら答えるアンテにオレはピン!と閃く。
「そうか。よ〜〜〜し、待て!」
 ピタッ!!
「お座り!」
 サッ!!
「番号!」
「1!2!」
 チーズを目の前にしての指示は効果抜群で思わず「取って来い!」と言おうとしたところでアンテに睨み付けられてしまったので、コホンと軽く咳払いをすると改めて質問を始める。
「あの洞窟の中には誰が何人いるんだい?」
「あたし達ラージマウスがあと6人います」
「それとミノタウロスの姐御がいます」
「洞窟を根城にしたのは何時ごろからだ?」
「大体4ヶ月位前だよな」
「そうそう、やっと見つけたんで記念パーティをしたんだから憶えてるよ。確かそん位なはずだよ」
「因みに姐御はどんな奴なんだ?」
「あたし達を大事にしてくれる魔物娘だよ」
「ちょっと胸が小さい事を気にしているけど、ホントに良い姐御なんだよ」
 その答えにオレは考え込む。その間もチーズを右に左に動かしてみせると、二人共つられて顔を右に左に動かす。ついでに左回りにぐるぐる動かしてみせると同じように顔をぐるぐる回し始める。そうして程よく目を回したところで肝心な質問を始める。
「洞窟の中で何か見つけたか?嘘を吐くとチーズをあげないぞ〜」
「な〜〜んも見つけてません〜〜〜〜」(グルグル〜〜〜)
「なかったよ〜〜〜〜」(グルグル〜〜〜)
「それで〜〜如何する〜〜〜のですか〜〜〜?」(グルグル〜〜〜)
 何故か一緒に目を回しているアンテは取り敢えず置いといてラージマウス達に口を大きく開ける様に言っておくと、ポーチの中から取り出した粉をチーズに振り掛けて「ほらご褒美だよ」と放り込んであげる。
 放り込まれたチーズを満面の笑みを浮かべて頬張ったラージマウス達は途端に大きな口を開けて欠伸を始めると直ぐに眠り込んでしまう。
「へ〜〜〜、良く効く睡眠薬だなこれ。ほらアンテ、次の準備をするぞ」
「了解です〜〜〜〜」(グルグル〜〜〜)


 準備を終えるとアンテを隣りに立たせて洞窟の入り口に立ったオレは息を吸い込んで大声で叫んだ。
「ここにいる!牛のくせに貧乳〜〜〜!!聞こえたら出てこ〜〜〜い!!」
 その途端ドドドドッッ!!!と地響きをたてて鼻息も荒々しくミノタウロスが現れた。
「テメェッ〜〜!!いい度胸してるじゃねえか〜〜〜!!!」
 血走った目をギラつかせ、こめかみをヒクヒクと痙攣させて現れたミノタウロスがズガン!!と持っていた棍棒を地面に叩きつけて睨み付ける。
「事実なんだからしょうがないなだろ」
「確かにホルスタウロスと比べると劣りますね」
 目の前で仁王立ちしているミノタウロスはAカップ確定の胸を是でもかと見せ付けていた。
 オレの言葉とアンテの憐みを含んだ眼差しにミノタウロスはブルブルと身体を震わせる。自分より胸のあるアンテ(Bカップはあるのは確認済)に可哀そうな目で言われては屈辱だろう。
 そんな時洞窟を見遣るとラージマウス達が入り口付近の壁に隠れながらこちらを見ているのに気が付いた。アンテも気付いた様で、
「みなさん、そんなところで見ていないで出てきたら如何ですか?」
「「「「「「エンリョします!!!!!!」」」」」」
 全員がブンブンと勢いよく顔と両手を左右に振って参加しないことを伝えてくると、ミノタウロスは犬歯を覗かせた笑顔で頷く。
「そうそう、判ってるじゃね〜〜か。オマエ達はそこで大人しく観ていな。良い子にしていたら、このバカをアタシの次に味わわせてやるよ」
「「「「「「頑張ってください、姐御!!!!!!」」」」」」
 声援を受けてこちらに振り向いたミノタウロスは地面に突き刺していた棍棒を引き抜くと、怒りの形相で怒鳴りつけてくる。
「さあ!!!オメェら!!!覚悟は出来てんだろな!!!叩きのめして、インキュバスでも泣き言を言う位搾り取ってやるよ!!!!そっちのゴーレムは壁に縛り付けて一生魅せ付けてやるよ!!!!」
「そいつは味わってみたい気もするが遠慮するよ」
 そう言いながら仕舞い込んでいたナイフをアンテに渡すと後ろに下がらせるのに、ミノタウロスは驚く。
「ほう。このアタシに一人で、しかも素手で挑むとはね。気に入ったよ!!アタシはアルガス!アンタの主人の名前だ!よーーく覚えときな!!」
「オレはベルツ。トレジャーハンターだ」
 お互いに名乗り合い身構える。
 そして、闘いが始まった。

   −−戦闘開始します。盗賊の頭アルガスが挑んできたーー
   
 アルガスの行動!棍棒を真横に振るってきた!
 ミス!ベルツはしゃがみ込んでかわした。

 ベルツの行動!ベルツはその場から離れて距離を取った。

 ベルツの行動!ベルツは受け流す体勢を取った。

 アルガスの行動!棍棒を縦に勢いよく振り下ろした!
 ベルツは攻撃を受け流した。すかさず反撃!
 ベルツの右拳がアルガスに当たった。あまり効いてないみたいだ。
 「ふん!そんな攻撃、痛くも痒くもないよ!」

 アルガスの行動!棍棒を構えるとガムシャラに突き出してきた!
 「ほらほら!喰らいな!!」
 ミス!ミス!直撃!直撃!ミス!直撃!
 ベルツは後方へ突き跳ばされた。

 すかさずアルガスの追撃!体勢を低くすると突進してきた!
 地響きと供に二本の角が襲い掛かる!
 「うおりゃーーー!!!」
 ミス!ベルツは地面を転がりながら横に避けて攻撃をかわした。
 「ちっ!!」

 ベルツの行動!立ち上がると両手をダラリと下げ両足を肩幅に広げて身構えた。
 「今度はオレから行くぜ!」

 アルガスの行動!棍棒を両手で握り締めるとフルスイングの構えをした。
 「きな!返り討ちにしてやるよ!」

 ベルツの行動!アルガスの向かって走り出した。
 「てやーーー!!」

 アルガスの行動!棍棒の先を揺らしてタイミングを計っている。

 アルガスの行動!叫び声と共に棍棒をフルスイングした!
 「一発逆転のさよならホームランだ!」
 ミス!アルガスの目の前でベルツはしゃがみ込んだため空振りした!
 「なんだと!!!」

 ベルツの行動!しゃがみ込んだ体勢から飛び上がり右膝蹴りを繰り出した。
 直撃!アルガスの下顎に炸裂した!大きく身体を仰け反らせる!
 続けざまのベルツの行動!両手でアルガスの角を掴むと力任せに地面に向けて振り下ろした。
 「うおりゃーーーー!!!」
 アルガスは頭から地面に叩きつけられた。
 「ぐはっ!!!」
 そしてベルツの更なる追撃!そのまま空中で一回転すると右足でアルガスの背中を踏みつけた!
 「ぐふっ!!!!」
 直撃!確かな足応えを感じた。アルガスは動かない。
 うつ伏せになっているアルガスを転がしてみる。アルガスは目を回して気を失っている。
 「獣拳!(じゅうけん)兎跳!(とちょう)そして熊掌!(ゆうしょう)さらに蹄圧!(ていあつ)」
 ベルツが深く息を吐き出しながら呟く。
 盗賊の頭アルガスを倒した。
 闘いに勝利した。

   −−戦闘を終了しますーー

 
「「「「「「姐御ーーーー!!!!!」」」」」」
 気を失っているアルガスに向かってラージマウス達が素早く駆け寄ると、彼女を庇うように槍や小剣を構えてオレを睨み付けてくる。
「よくも姐御を!!」「許さないからな!!」「八つ裂きにしてやる!ってこの場合は言うべきかな」「兎に角姐御の敵討ちだ!」「覚悟しろよ!!」「カクゴしろーーー!!」
 武器を構えて睨み付けてくるラージマウス達に対して後ろに控えていたアンテが前に進み出ると
「皆さん。武器を捨てて大人しく投降してください」
「「「「「「誰がすると思う!!!!!!」」」」」」
「それではこの普通の牛乳を材料にして普通のカビを使い普通に作り上げたこの普通のブルーチーズがどうなってもいいのですか?」
「「「「「「降参します!!!!!!」」」」」」
 武器を地面に置いて両手を高く揚げるラージマウス達にアンテはポツリと呟いた。
「何でしょう、この虚しい感じは・・・・」
「イイじゃないか、無用な戦闘は避けるにかぎるだろ」
 その言葉にアンテは更に深いため息をつくのだった。

 その後気を失っていたアルガスが目を覚まし眠り込んでいたラージマウス達の目を覚まさせると、彼女達を引き連れて洞窟の中に入り込んだ。
「ところで何であんた達はこの洞窟に来たんだ。ここには何にも無いぜ、ここをアジトにしていたアタイ達が言うんだから間違いないんだからよ。それよりさ、アタイ達とイイコトしようよ」
「「「「「「「「そうだよ、そうだよ」」」」」」」」
「取り敢えずそれは却下な」
 オレの言葉にアルガス達が不満気な顔をするなか、アンテが安心した顔をしているのが目に付いたのでアルガス達の口説き文句を避けながら鼻歌交じりに先に行くことにした。
 そのまま暫く歩き続けると洞窟のある場所に辿り着く。
「この辺りのはずだけど・・・アンテ、どうだろう?」
「少々お待ちください。暗視モード起動、周囲をサーチします。・・・・分析終了。ドワーフさんのお話してくれた場所と一致します。ここで間違いありません」
 アンテの解答にオレは頷くと洞窟の壁に手を付けて綿密に調べ始める。オレの行動にアルガス達が興味津々で見つめてくる。暫くしてオレの足首辺りの岩を取り除くと丸く開いた穴が現れる。「そんなところに」とか「なんだなんだそれ」とか声が上がるなか、オレはその穴の中に手を入れると中にある輪っかを掴んで力一杯引き上げる。
 ガラガラと音を立てて目の前の壁が横に動き、隠し部屋への入り口が姿を現す。その光景にアルガス達が「おお〜〜〜!!!」と驚嘆の声を上げるなかオレは引き上げ続けると、ガキンと音がして扉が開ききり輪に繋がっていた鎖も止まる。どうやら完全に動かなくなっているみたいだ。
「さ、入ってみようぜ」
「な、なあ。アタイ達も入っていいか?」
「ああ、いいぜ」
 オレの軽い言葉に「「「「「「「「おじゃましまーす」」」」」」」」とアルガス達が我先にと入り込んでゆく。オレとアンテも後からゆっくりと中に入っていく。そしてそこにあったモノは・・・・
「おいおい何だよこれは、ただの石ころだらけじゃないか」
「姐御〜〜〜。何処もかしこも石ころと折れた剣や槍だけですよ」
「ガラクタばっかりでお宝なんて有りません〜〜〜」
 部下たちの言葉にアルガスががっくりと肩を落とす。
「ナンだよ〜〜〜。こんな隠し部屋に置いてあるから金銀財宝が有ると思ったのに〜〜〜」
 視線の先に在る自分の握り拳程の大きさの石を見てはあ〜〜〜っ!とため息を吐くと入り込んできたオレ達に残念だったなと目だけで語る。それにかまわず、オレはその石を手に取ると調べ始める。更にアンテにも渡して確認する様に指示する。周囲の視線を一身に集めるなか、鑑定を終えたアンテが口にした言葉にオレ以外が驚きに目を向いてしまう。
「鑑定結果を申し上げます。純度99.9%の魔界銀に間違いありません。更に申し上げますと、この隠し部屋に在るもの内石ころが同じものです。折れた剣と槍は其々が高純度の鉄鉱石と隕鉄により作成されています」
「ちょっと待てよ!それってつまり・・・・」
「「「「「「「「お宝だーー!!!!!!!!」」」」」」」」
 アンテの答えに先程までの落胆は何所へやら、俄然色めき立つ一同にオレが一つの提案をすると直ぐに了解が返ってくる。
「ここで取引したいんだけど。ここに在るお宝をこれから街まで運ぶのを手伝ってもらいたいんだが、もちろんお礼に山盛りチーズとサバト特製の豊胸薬を用意して」
「「「「「「「「「直ぐ運びます」」」」」」」」」
 それからが凄まじかった。洞窟の中に置いてある樽や箱にお宝を全て仕舞い込むと、森の中に入り込んで木を切り倒し瞬く間に荷車を3台作り上げてしまう。それらの作業を半日と待たずに行ってしまったのだ。もちろんその間オレとアンテはただ見ているだけだったのは言うまでもない。
「「「「「「「「「準備出来ました」」」」」」」」」
 全ての準備を終えて声を掛けられたオレはアンテと荷車に乗ると意気揚々と号令を掛けた。
「それでは出発進行ーーー!!」
「「「「「「「「「了解ーーー!!!!!!!!!」」」」」」」」」
 こうしてオレ達は街へ帰ったのだった。
 
 
 
13/06/10 18:11更新 / 名無しの旅人
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■作者メッセージ
街の門番「はい、そこで停まってください。これから検査をしますので大人しくしてくださいね」
アスガル「早くしてくれよな!アタシの一大事に関わることなんだからな」
ラージマウス達「チーズ!チーズ!チーズ!チーズ!」
アンテ「あの洞窟から僅か1日で着くなんて。恐るべき執念ですね」

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