私の知らない世界
目の前に広がっている石造りの壁、城壁を見て彼女はオレに訊ねてくる。
「マスター。これは教会に対してのものですか?」
「それと魔物に対してだよ」
オレの答えに彼女は首を傾げる。
「何故ですか?魔物は危険な生物ではないのでしょう」
「確かにそうなんだけどさ」
城壁の入り口に向かって歩きながら、オレは彼女に話す。
「人間と一緒に暮らすために街中に移り住んだり、自分の技術を試すために出てきたり、商売のためだったりと様々な理由があってね」
検問所の列に並ぶと、背負っていたもの(彼女によるとコンテナの表層版というらしい)を手荷物とともに衛兵に渡す。衛兵たちの質問にオレは『遺跡で見つけたお宝』と説明しながら、検査の終了を待つ間に話を付け足す。
「ただ、全部が全部ってわけじゃないんだ」
「つまり、強盗や犯罪者もいると」
「それに群れるのがヤで洞窟や山の中に籠るのもいたりするんだ」
検査を終えた手荷物と『お宝』を受け取ると、オレは『お宝』を背負い手荷物を提げながら街に入る。オレの後に彼女も続いて城壁をくぐり街に入る。
「それに単純に暴れたいだけって困ったヤツもいてね。ま、そんなヤツらが徒党を組んで襲い掛かってきても平気な様にこういった備えがあるのさ」
彼女は「なるほど」と頷くと、寂しそうな顔をする。
「如何したんだ?」
「いえ。何時の時代でも全ての人々が理解し合うのは、難しいことだと思いまして」
「なーに、心配いらないよ。そのうちそんな日が来るって」
カラカラと笑いながら話すオレに彼女はキツい目を向ける。
「マスター、もう少し考えて話してくれませんか。そのようなことでは、マスターの知恵の無さを指摘されるだけです。私のマスターである以上節度ある行動を」
「はい、そこまで」
オレの言葉に彼女は黙ってしまう。
「オレの言ったこと、覚えてる?」
「もちろんです、マスター」
「なら、変だよね?どうして、そんな風に話すのかな?」
オレの指摘に彼女は慌てて謝り出す。
「も、申し訳ありません!マスターにお仕えする身でありながら」
「覚えてるんならいいんだよ」
オレは笑いながら答えると、ある建物の入り口で立ち止まる。
「この建物は何ですか?」
「サバトといってね。魔術の研究と発展のために日夜バフォメットや魔女たちが色んな実験をしているところなんだ」
「つまり互いの発展のため、ひいては悠久の平和のために努力されている方たちがいらっしゃるのですね!さぞや、立派な方たちがいらっしゃるのでしょう。ぜひ、ご挨拶したいですマスター!」
感動に浸っている彼女を見て、オレは笑いを堪えながらドアノブに手を掛ける。
「さ、それじゃ入るぞ。それとゴーレムだからっていうのは解るけど、前にも言ったようにオレに敬語は使わなくていいんだぞアンテ」
「了解しま、わ、解ったわベルツ」
慌てて言い直す彼女、ゴーレムのアンテにオレは苦笑いしながら扉を開けた。
「いらっしゃいませ、ようこそサバトへ♪入信希望の方でしたらこちらの7番窓口に、魔術修得をご希望されるのでしたら9番窓口に、アイテムを所望されるのでしたら1番窓口へお並び下さい」
「・・・マスター!ここの責任者はどちらにいらっしゃるのですか?」
背負っていた『お宝』を床に降ろして一息ついていたオレにアンテが質問してくる。
「責任者?さて、何所にいるのかな?」
そんなオレの言葉に、アンテは怒りながら詰め寄る。
「なぜ、ここではこんな子供たちを働かせているのですか!責任者に問い質さなければいけません!労働基準法を著しく逸脱しています!即刻、改善させなければいけません!」
きっぱりと断言するアンテに対して、目の前の人物、子供と言われた案内係の魔女は猛抗議を始める。
「いきなり現れて、何を言いだすの!かってに人を子供扱いしないでちょうだい!」
その魔女の態度にも、アンテは笑顔で対応する。
「だめですよ。お父さんかお母さんの真似をしたい気持ちは理解できますけど、もっと大きくなってからにしませんと。さ、早く着替えてお家に帰られるのです。そうすればご両親もきっと笑って許してくれますよ」
「あのですね。こう見えても私はちゃんとした」
「はい、早く大人になりたいのですね。その気持ちはよく解ります。ですが、そのようにして背伸びをされても良いことなどありませんよ」
「だ、だからね。私はこのサバトの構成員で」
「いけませんよ、そのようにダダを捏ねては。素直にしませんと立派な大人になれませんよ」
「貴女ね、私の話を聞くつもりあるの?」
「はい、もちろんですよ。私はおチビちゃんの味方ですから」
魔女の抗議に対して、アンテは笑顔で答える。わざわざしゃがみ込んで魔女の目線に自分の視線を合わせ、頭を優しく撫でながら。
それは見ているには微笑ましい光景で、事実周りで見ている人達はみな笑顔で見つめている。なかには「ナでナでして」と甘え始めるカップルや、休憩してくると言って席を立つ人も出てきている。
オレも可笑しいのを通り越して微笑ましく思えてくる。そうやって眺めていると、アンテがオレに話しかけてくる。
「マスター!何故眺めているだけなのですか?早く責任者を探してください。この子のためにも厳しく厳重注意しなければなりません」
「・・・なあ、アンテ。アンテってさ、子守りもできるのか?」
「子守りだけではありません。家事全般、完璧に行うことが出来ます」
それを聞いたオレはこう答えた。
「そっか。なら良いお嫁さんになれるな」
「お、お嫁さん?!」
オレの発言にアンテは盛大に驚く。
「ど、ドウしてソのようなは・発・・言がでりゅのデすきゃ?」
「別に、ただそんな風に思っただけだけど」
「私にゃゴーレムなのですきゃらその・・あたりみゃえでしゅ」
変な口調になってしまったアンテは、そのまま横を向いてしまうがその頬は赤くなっている。
「顔が赤くなっているのはどうしてなんだ?」
オレの質問にアンテはこちらを向かずに答える。
「気のせいです!赤くなってなどいません!」
「でもさ、頬が赤くなっているだろ」
「マスターの気のせいです!ベルツの勘違いです!」
「でもさどう見ても赤いけど」
「日焼けです!」
オレの質問にアンテは否定を続ける。だが、その顔はますます赤くなっていく。オレがそのことを指摘するとアンテは、ムキになって否定してくる。そんな(オレだけが)楽しいことをしていると怒りを滲ませた声が聞こえてくる。
「アンタたち!いい度胸しているわね!」
声が聞こえてきた方を見ると怒り心頭といった魔女がこちらを睨みつけていた。顔を真っ赤にして睨みつけているのを見て、アンテがオレに抗議してくる。
「ほ、ほら!ベルツのせいでおチビちゃんが怒ったじゃないですか!」
「オレのせいなのか?アンテが悪いんだろ」
「そんなことはありません!悪いのはベルツのせいです」
そう言うとアンテは又、横を向いてしまう。
それに対してオレは当然抗議を始める。
「オレは何も言ってないだろ」
「いいえ、言ったんです!ベルツが悪いんです」
「アンテとは話をしたけど、そこの魔女とはしてないんだけど」
「違います!私はちゃんとおチビちゃんの話し相手になっていました。だからベルツのせいなんです。そうでしょう、おチビちゃん?」
アンテの質問に魔女はオレとアンテを指さしてはっきりと答えた。
「あんた達二人よ!!!」
「「何で??」」
「何でじゃないでしょ!」
「どうして?ちゃんと話し相手になってあげてたのに」
「子供扱いなんてしてないぞ、オレは」
オレとアンテの反論に魔女は増々怒り出す。
「煩い、煩い!黙っていればそっちの会話だけで盛り上がって!」
「アレはそんな訳では」
「確かに少し面白かったな」
「しかも私をダシにして、お嫁さん宣言!それってアレですか?お兄ちゃんのいない私に対する当てつけですか!」
「そ、そんなつもりじゃないから。ね、少し落ち着いて」
「じゃあ、どういうつもりですか!」
詰め寄る魔女にアンテは、口篭もってしまう。
「えっとね、その・・・」
「答えてください!」
「なあ、ここはひと」
「貴男が答えてくれるのですか!」
「いや、その」
「さあ、答えてください!」
「のう、魔女よ。その辺で終わりにしてやるがよい」
「いいえ、出来ません!」
「しかしのう、いい加減にせんと。ほれ、他の者たちが困っておるじゃろ」
「そうそう、ここは一先ず」
「落ち着いて」
「そうじゃぞ。その二人の言う通りにのう」
「いくらバフォメット様のお言葉でもこればかりはって・・・バフォメット様!ドウシテここに?」
「なに、受付が騒がしくてな。ちと様子を見に来たまでじゃよ」
そう言いながら魔女の横に現れた人物を見て、アンテはオレに訊ねる。
「ベルツ、こちらのコスプレしたお子様は?」
「・・・初対面じゃのに無礼なヤツじゃの。ま、良い。どうやら何処かの田舎から出てきたばかりの様じゃから特別に許そう」
突然現れたコスプレしたお子様は、鷹揚に頷くと持っていた杖を高々と掲げて宣言する。
「儂こそ、このサバトオアシス支部の支部長にして魔界の名門『アスランド』の次期当主、キルクル=アスランドであるぞ!」
「・・・・・・は?」
「む、聞こえんかったか?儂がこのサバトの責任者だと言っておるのじゃよ」
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉にアンテは、油の切れたロボットの様に首を動かすとオレに訊ねてくる。
「マ、マすたー?このお子さんはにゃにおをッしゃってルノねすか?」
「アンテ。よーく落ち着いて聞けばいいんだ」
「そ、そうです。落ち着かなければ・・・自己診断プログラム作動・・・脈拍及び脳波等に興奮状態の値を確認、30秒後に平常値に戻ります。平常値に戻りました。続いて先ほど記録されました音声を分析します。・・・分析終了。目の前の人物はサバトの責任者であると発言しておりました。・・・マスター?」
オレはアンテに大きく頷くと、それが事実であることを伝える。
「彼女がこのサバトの責任者、つまりバフォメットということなんだな」
アンテはゆっくりとコスプレしたお子様、バフォメットに顔を向ける。
「どうじゃ、理解出来たか?儂のことは気軽にキルクルと呼んでくれてかまわんぞ」
にぱっと笑顔を見せるバフォメット、キルクルをみたアンテはその場で固まると奇妙な発言を始める。
「・・・精神に重大なダメージを確認。機体保持のため一時的にシステムダウンします。なお、再起動はただいまから二時間後となります」
そしてアンテは動かなくなってしまった。
その行動にキルクルが驚く。
「な、何じゃ?突然停まりおって。気でも失ったのか?」
「・・・発言からして、たぶんそんなとこだと思うよ」
「そうか。それにしても、不思議なゴーレムじゃのう」
立ったまま動かないアンテを見て、キルクルは興味を持ったらしく色々と触り始める。その行動に釣られるように他の魔女たちも集まってくると、一緒にアンテを触り始める。
その様子を見ながらオレは思った。
(図鑑を見せなかったのは成功だな)
「マスター。これは教会に対してのものですか?」
「それと魔物に対してだよ」
オレの答えに彼女は首を傾げる。
「何故ですか?魔物は危険な生物ではないのでしょう」
「確かにそうなんだけどさ」
城壁の入り口に向かって歩きながら、オレは彼女に話す。
「人間と一緒に暮らすために街中に移り住んだり、自分の技術を試すために出てきたり、商売のためだったりと様々な理由があってね」
検問所の列に並ぶと、背負っていたもの(彼女によるとコンテナの表層版というらしい)を手荷物とともに衛兵に渡す。衛兵たちの質問にオレは『遺跡で見つけたお宝』と説明しながら、検査の終了を待つ間に話を付け足す。
「ただ、全部が全部ってわけじゃないんだ」
「つまり、強盗や犯罪者もいると」
「それに群れるのがヤで洞窟や山の中に籠るのもいたりするんだ」
検査を終えた手荷物と『お宝』を受け取ると、オレは『お宝』を背負い手荷物を提げながら街に入る。オレの後に彼女も続いて城壁をくぐり街に入る。
「それに単純に暴れたいだけって困ったヤツもいてね。ま、そんなヤツらが徒党を組んで襲い掛かってきても平気な様にこういった備えがあるのさ」
彼女は「なるほど」と頷くと、寂しそうな顔をする。
「如何したんだ?」
「いえ。何時の時代でも全ての人々が理解し合うのは、難しいことだと思いまして」
「なーに、心配いらないよ。そのうちそんな日が来るって」
カラカラと笑いながら話すオレに彼女はキツい目を向ける。
「マスター、もう少し考えて話してくれませんか。そのようなことでは、マスターの知恵の無さを指摘されるだけです。私のマスターである以上節度ある行動を」
「はい、そこまで」
オレの言葉に彼女は黙ってしまう。
「オレの言ったこと、覚えてる?」
「もちろんです、マスター」
「なら、変だよね?どうして、そんな風に話すのかな?」
オレの指摘に彼女は慌てて謝り出す。
「も、申し訳ありません!マスターにお仕えする身でありながら」
「覚えてるんならいいんだよ」
オレは笑いながら答えると、ある建物の入り口で立ち止まる。
「この建物は何ですか?」
「サバトといってね。魔術の研究と発展のために日夜バフォメットや魔女たちが色んな実験をしているところなんだ」
「つまり互いの発展のため、ひいては悠久の平和のために努力されている方たちがいらっしゃるのですね!さぞや、立派な方たちがいらっしゃるのでしょう。ぜひ、ご挨拶したいですマスター!」
感動に浸っている彼女を見て、オレは笑いを堪えながらドアノブに手を掛ける。
「さ、それじゃ入るぞ。それとゴーレムだからっていうのは解るけど、前にも言ったようにオレに敬語は使わなくていいんだぞアンテ」
「了解しま、わ、解ったわベルツ」
慌てて言い直す彼女、ゴーレムのアンテにオレは苦笑いしながら扉を開けた。
「いらっしゃいませ、ようこそサバトへ♪入信希望の方でしたらこちらの7番窓口に、魔術修得をご希望されるのでしたら9番窓口に、アイテムを所望されるのでしたら1番窓口へお並び下さい」
「・・・マスター!ここの責任者はどちらにいらっしゃるのですか?」
背負っていた『お宝』を床に降ろして一息ついていたオレにアンテが質問してくる。
「責任者?さて、何所にいるのかな?」
そんなオレの言葉に、アンテは怒りながら詰め寄る。
「なぜ、ここではこんな子供たちを働かせているのですか!責任者に問い質さなければいけません!労働基準法を著しく逸脱しています!即刻、改善させなければいけません!」
きっぱりと断言するアンテに対して、目の前の人物、子供と言われた案内係の魔女は猛抗議を始める。
「いきなり現れて、何を言いだすの!かってに人を子供扱いしないでちょうだい!」
その魔女の態度にも、アンテは笑顔で対応する。
「だめですよ。お父さんかお母さんの真似をしたい気持ちは理解できますけど、もっと大きくなってからにしませんと。さ、早く着替えてお家に帰られるのです。そうすればご両親もきっと笑って許してくれますよ」
「あのですね。こう見えても私はちゃんとした」
「はい、早く大人になりたいのですね。その気持ちはよく解ります。ですが、そのようにして背伸びをされても良いことなどありませんよ」
「だ、だからね。私はこのサバトの構成員で」
「いけませんよ、そのようにダダを捏ねては。素直にしませんと立派な大人になれませんよ」
「貴女ね、私の話を聞くつもりあるの?」
「はい、もちろんですよ。私はおチビちゃんの味方ですから」
魔女の抗議に対して、アンテは笑顔で答える。わざわざしゃがみ込んで魔女の目線に自分の視線を合わせ、頭を優しく撫でながら。
それは見ているには微笑ましい光景で、事実周りで見ている人達はみな笑顔で見つめている。なかには「ナでナでして」と甘え始めるカップルや、休憩してくると言って席を立つ人も出てきている。
オレも可笑しいのを通り越して微笑ましく思えてくる。そうやって眺めていると、アンテがオレに話しかけてくる。
「マスター!何故眺めているだけなのですか?早く責任者を探してください。この子のためにも厳しく厳重注意しなければなりません」
「・・・なあ、アンテ。アンテってさ、子守りもできるのか?」
「子守りだけではありません。家事全般、完璧に行うことが出来ます」
それを聞いたオレはこう答えた。
「そっか。なら良いお嫁さんになれるな」
「お、お嫁さん?!」
オレの発言にアンテは盛大に驚く。
「ど、ドウしてソのようなは・発・・言がでりゅのデすきゃ?」
「別に、ただそんな風に思っただけだけど」
「私にゃゴーレムなのですきゃらその・・あたりみゃえでしゅ」
変な口調になってしまったアンテは、そのまま横を向いてしまうがその頬は赤くなっている。
「顔が赤くなっているのはどうしてなんだ?」
オレの質問にアンテはこちらを向かずに答える。
「気のせいです!赤くなってなどいません!」
「でもさ、頬が赤くなっているだろ」
「マスターの気のせいです!ベルツの勘違いです!」
「でもさどう見ても赤いけど」
「日焼けです!」
オレの質問にアンテは否定を続ける。だが、その顔はますます赤くなっていく。オレがそのことを指摘するとアンテは、ムキになって否定してくる。そんな(オレだけが)楽しいことをしていると怒りを滲ませた声が聞こえてくる。
「アンタたち!いい度胸しているわね!」
声が聞こえてきた方を見ると怒り心頭といった魔女がこちらを睨みつけていた。顔を真っ赤にして睨みつけているのを見て、アンテがオレに抗議してくる。
「ほ、ほら!ベルツのせいでおチビちゃんが怒ったじゃないですか!」
「オレのせいなのか?アンテが悪いんだろ」
「そんなことはありません!悪いのはベルツのせいです」
そう言うとアンテは又、横を向いてしまう。
それに対してオレは当然抗議を始める。
「オレは何も言ってないだろ」
「いいえ、言ったんです!ベルツが悪いんです」
「アンテとは話をしたけど、そこの魔女とはしてないんだけど」
「違います!私はちゃんとおチビちゃんの話し相手になっていました。だからベルツのせいなんです。そうでしょう、おチビちゃん?」
アンテの質問に魔女はオレとアンテを指さしてはっきりと答えた。
「あんた達二人よ!!!」
「「何で??」」
「何でじゃないでしょ!」
「どうして?ちゃんと話し相手になってあげてたのに」
「子供扱いなんてしてないぞ、オレは」
オレとアンテの反論に魔女は増々怒り出す。
「煩い、煩い!黙っていればそっちの会話だけで盛り上がって!」
「アレはそんな訳では」
「確かに少し面白かったな」
「しかも私をダシにして、お嫁さん宣言!それってアレですか?お兄ちゃんのいない私に対する当てつけですか!」
「そ、そんなつもりじゃないから。ね、少し落ち着いて」
「じゃあ、どういうつもりですか!」
詰め寄る魔女にアンテは、口篭もってしまう。
「えっとね、その・・・」
「答えてください!」
「なあ、ここはひと」
「貴男が答えてくれるのですか!」
「いや、その」
「さあ、答えてください!」
「のう、魔女よ。その辺で終わりにしてやるがよい」
「いいえ、出来ません!」
「しかしのう、いい加減にせんと。ほれ、他の者たちが困っておるじゃろ」
「そうそう、ここは一先ず」
「落ち着いて」
「そうじゃぞ。その二人の言う通りにのう」
「いくらバフォメット様のお言葉でもこればかりはって・・・バフォメット様!ドウシテここに?」
「なに、受付が騒がしくてな。ちと様子を見に来たまでじゃよ」
そう言いながら魔女の横に現れた人物を見て、アンテはオレに訊ねる。
「ベルツ、こちらのコスプレしたお子様は?」
「・・・初対面じゃのに無礼なヤツじゃの。ま、良い。どうやら何処かの田舎から出てきたばかりの様じゃから特別に許そう」
突然現れたコスプレしたお子様は、鷹揚に頷くと持っていた杖を高々と掲げて宣言する。
「儂こそ、このサバトオアシス支部の支部長にして魔界の名門『アスランド』の次期当主、キルクル=アスランドであるぞ!」
「・・・・・・は?」
「む、聞こえんかったか?儂がこのサバトの責任者だと言っておるのじゃよ」
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉にアンテは、油の切れたロボットの様に首を動かすとオレに訊ねてくる。
「マ、マすたー?このお子さんはにゃにおをッしゃってルノねすか?」
「アンテ。よーく落ち着いて聞けばいいんだ」
「そ、そうです。落ち着かなければ・・・自己診断プログラム作動・・・脈拍及び脳波等に興奮状態の値を確認、30秒後に平常値に戻ります。平常値に戻りました。続いて先ほど記録されました音声を分析します。・・・分析終了。目の前の人物はサバトの責任者であると発言しておりました。・・・マスター?」
オレはアンテに大きく頷くと、それが事実であることを伝える。
「彼女がこのサバトの責任者、つまりバフォメットということなんだな」
アンテはゆっくりとコスプレしたお子様、バフォメットに顔を向ける。
「どうじゃ、理解出来たか?儂のことは気軽にキルクルと呼んでくれてかまわんぞ」
にぱっと笑顔を見せるバフォメット、キルクルをみたアンテはその場で固まると奇妙な発言を始める。
「・・・精神に重大なダメージを確認。機体保持のため一時的にシステムダウンします。なお、再起動はただいまから二時間後となります」
そしてアンテは動かなくなってしまった。
その行動にキルクルが驚く。
「な、何じゃ?突然停まりおって。気でも失ったのか?」
「・・・発言からして、たぶんそんなとこだと思うよ」
「そうか。それにしても、不思議なゴーレムじゃのう」
立ったまま動かないアンテを見て、キルクルは興味を持ったらしく色々と触り始める。その行動に釣られるように他の魔女たちも集まってくると、一緒にアンテを触り始める。
その様子を見ながらオレは思った。
(図鑑を見せなかったのは成功だな)
11/11/29 04:51更新 / 名無しの旅人
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