連載小説
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知ってしまったこと(知らない方がよかった)
 案内の魔女が扉を開けるとそのまま中に入らず、脇に避けてどうぞと一礼をする。
 バフォメットのキルクルは頷くと、オレとアンテに入るように告げる。
「ほれ、遠慮せずに入るがよい。それから、オヤツセットも忘れずにな」
「はい、いつものですね」
 指示を受けた魔女は、アンテを一度睨みつけるとすぐに支部長室を出てゆく。
「仕方ないヤツじゃのー。ま、とり合えずそこのソファーにでも座ってくれ」
「申し訳ございません。私のせいであの方に不愉快な思いをさせてしまいました」
 頭を下げて謝るアンテにキルクルは、フサフサの毛に覆われた手をヒラヒラさせながら答える。
「気にせんでもよい。アヤツは少し怒りやすいからの。そのせいで兄様を見つけられないのだから、自業自得じゃ」
「しかしあの方に不愉快な思いをさせてしまったのは、私の不始末です」
「そうそう、そりゃお前が悪い」
 その言葉にアンテがオレに向き直る。
「ベルツ!もとをただせば貴男がいけないんですよ!」
「へ?オレのせい?」
 ソファーに座っていたオレは、自分を指さして訊ねる。当然アンテはオレに対して抗議してくる。
「当たり前です!何故教えてくださらなかったのですか?」
「聞かれなかったから」
 シレっと答えるオレにアンテは更に質問する。
「本当にそれだけですか?」
「どんな反応するか、見たかったし。ぶっちゃけ、面白そうだったから」
「・・・・・楽しかったですか?」
「もちろん!」
 静かに聞いてくるアンテにオレは笑顔で頷くと、右手を握り親指を立ててこう答える。
「グッジョブ!」
「・・・・私は、今ほどこの身がゴーレムであることを悔やんだことはありません」
 ブルブルと身体を震わせるアンテを見てオレは逆に訊ねる。
「どうしてだ?別にオレは怒っても構わないんだぞ」
「マスター登録されているため、私の行動には制限がかかるんです!」
 右腕のレンガ模様をオレの目の前に翳してみせると、その部分を剥して見せる。
「右上腕部のパーツを取り外します。パスワード入力・・・パーツ解除」
 模様だったレンガの一つが外れる。その中に、ルーン文字が刻まれているのが眼につく。
「オレ、そんなとこ触ったりした覚えないんだけど」
「ベルツをマスター登録した際、自動的にされていますから」
 その説明になるほどと頷く。
「んで、これが如何したんだ?ただの登録証明みたいなモノだろ」
「・・・問題なのは、この部分です」
 アンテが示した部分を見てみるが、ルーンの意味を知らないオレにはよく解らない。困ったな、と思っていると隣から声を掛けられる。
「どれ、儂に見せてみるがよい」
 オレの隣りに座っていたキルクルが手招きをしているので、アンテに屈ませるとその部分を見せてみる。
「ふむふむ。・・・マスターの命令に忠実であれ!マスターを傷つけるな!その命令内で自分を守れ!と、書いてあるな」
「さすが、バフォメット。・・・にしても、変なこと書いてあるんだな」
 オレの言葉にアンテが驚く。
「変なことですって!ゴーレムとして当然のことですよ!」
「でもなー。ここじゃ、自分で登録されているマスターの書き換えをするゴーレムがいるし」
「まさか?!そんなことが出来るはずが」
「いや、本当のことじゃよ」
 オレの話にキルクルが頷くと、テーブルの反対側にあるソファーに腰を降ろす。すると、タイミングよく魔女が失礼しますとドアを開けて入ってくる。魔術で浮かせたトレイの上にオヤツセットが一人分ずつ、カモの親子の様に続いてくるとテーブルの上に降りてゆく。それでは、と一礼する魔女にキルクルはごくろうじゃったな、と労いの言葉を掛ける。そうして、ティーカップを手に取るとゆっくり紅茶を飲みながら話を続ける。
「何しろのう。そのせいで浮気しただの、されただの、挙句の果てにはゴーレムのストーカーまで出る始末じゃからな。お蔭で、我がサバトも一時は大忙しじゃったんじゃよ」
 キルクルの話にアンテは衝撃を受けてしまう。
「マスターの登録を自らの手で書き直すなんて・・」
 考え込むアンテを見てキルクルがオレに訊ねてくる。
「ふーむ。このゴーレム、どこで拾ったんじゃ?」
「ちょっと待って下さい。私は犬か猫ですか?」
「ここから3日程、北に行った遺跡で」
「訂正してください」
「確か、この前見つかったばかりの遺跡じゃな。そんな場所で何をしていたんじゃ?」
「無視しないでください!」
「さて、変な箱に入っていたからな」
「聞いてください!」
「箱に入っていたじゃと?それはもしかしてプレイの一環か?それともオシオキの最中か?」
「何故そうなるのですか!」
「いや、引き籠っていたのか?あるいは隠れん坊していたとか?」
「如何してそんな話が出るのですか!」
「なるほどのう。それで見つけてもらえず・・・寂しい人生、いやゴーレム生だったんじゃな」
「納得しないでください!」
「それでな、ついお姉さんぶるんだよ。寂しくなんかないですよ!って具合に」
「何時私がそんなことをしましたか!」
 アンテが騒いでいるのを横目にオレとキルクルの語らいは尚も続く。
「そうじゃろうな。女とはそういう生き物じゃからな」
「・・・しみじみ話さないでください」
「辛いのに。何も話さないで耐えしのんで」
「だからですね」
「ゴーレムなら尚更じゃからな」
「あのですね、ベルツ、それにキルクル様?」
「悲しいな、そうまでして耐え忍ぶなんて」
「お二人共、私の・・・もういいです」
「うむ、それがゴーレムとしての宿命なんじゃよ」
 その言葉に、オレはキルクルの手を握り熱く語る。
「ゴーレムとは何て悲しい種族なんでしょう!」
「・・・ええ、そうですね」
「女とは何て寂しい生き物なんじゃ!」
「はいはい、そうですよ〜。私は悲しくて寂しいゴーレムですよ〜」
「「・・・・・」」
「私は引き籠りですよ〜だ、隠れん坊すると視つけて貰えませんよ〜だ」
 観れば、オレとキルクルの横で座り込んだアンテは床にのの字を書きまくっている。
 オレは座り込んでいるアンテに近づくと優しく語りかける。
「と、まあ冗談はここまでとして」
「ええ、冗談はここまでにしますよ〜・・・・冗談ですって?!」
 オレの発言にアンテが勢いよく立ち上がると、怖い顔をして詰め寄る。
「ベ〜ル〜ツ〜!!!本当ですか!!!」
「面白かったから、つい」
 オレの言葉にアンテは再度訊ねる。
「本当に冗談なのですね?」
「儂のことをお子ちゃま扱いしたからじゃ!」
 キルクルがしてやったりといった表情をすると、アンテはその場に腰を落としてしまう。
「アンテ、どうしたんだ?」
「いえ、なんかほっとしたら急に力が抜けて」
 確かにアンテの表情からも力が抜けている。その顔を見た途端、罪悪感に苛まれる。オレは立ち上がると、アンテの前に歩み寄る。
「ベルツ?」
 座り込んでいるアンテを立ち上がらせると、オレは頭を下げた。
「ごめん、アンテ。からかいすぎた」
「ベルツ?!」
 突然のオレの謝罪にアンテが、驚く。
「いきなりさ、何百年も眠っていました、世界は変わりました、なんて言われてさ。普通なら戸惑うよな」
「それはそうですね」
 その言葉にオレは先を続ける。
「右も左も解らない、自分独りしかいない。だからさ、少しでも寂しさが紛らわせることが出来たらなって思ってしたんだけど。それで不安がらせたらよくないよな」
 一度話を区切ると、オレは再びアンテに謝る。
「だから、ごめん。アンテを不安がらせて」
「・・・儂もやり過ぎた。ゴメンじゃ」
 オレとキルクル、二人に謝られてアンテは驚き、それから笑顔を浮かべる。
「ベルツもキルクルも、二人とも変ですよ。ゴーレムの私に謝るなんて」
「悪いことをしたら、謝るのは当然だろ」
「お主の生まれた世界がどのような場所か知らんが、少なくともここではこれが当たり前なのじゃ」
「当たり前・・・・」
 それにな、とキルクルが笑いながら話す。
「一人の主を取りあうゴーレムたちもいるくらいじゃぞ。儂らだけを変人扱いするでない」
「確かにそうですね。お子さまみたいな人でも働いているんですから」
「一言余計じゃ!」
 キルクルの言葉にオレとアンテは一緒になって笑い声を上げ、その様子を見ていたキルクルも釣られて笑い出すのだった。


 オレがアンテと出会った事の顛末を話し終えると、キルクルはなるほど、と頷く。
「それで、アンテが入っていたその箱、コンテナと言うものじゃが。他にはなかったか分からんか?」
「オレが歩き回った場所には、アンテのだけだったな」
「私も詳しく調べてないので」
「なら、調査団を派遣して詳しく調べるしかないのう」
 オレの手書きの地図を見ながら、キルクルは呟く。
「ところで、お主が持ち込んだ物じゃが」
「ああ、あの『お宝』ね。如何だい、文字通りの掘り出し物だろ」
 自信満々のオレに対して、キルクルは渋い顔をする。
「いやな。確かにと言いたいところ何じゃが、生憎とな儂のサバトでは正直使い道が無いんじゃよ」
「と言うことは、買い取りは無理と」
「儂のサバトでは、と言う話じゃ」
 結論付けるオレにキルクルは、左手の指を一本だけ立てるとチッチッと横に振る。
「今、他のサバトに連絡をしておる。儂の所でなくとも他の支部で必要があるかもしれんからの。じゃがその連絡がくるのに、少し時間が掛かるのじゃよ。早くても二日後じゃな」
「二日後か。で、その間オレたちは如何したらいいんだ?宿代だってそんなにある訳じゃないんだけど」
「でしたら、私は宿に泊まらず」
 アンテの提案をオレは却下して訊ねる。
 その言葉にキルクルが笑みを浮かべると、いとも簡単に答える。
「ここに泊まればよいんじゃよ。ほれ、アンテ。お主にも先ほどの詫びをしたいからのう」
 笑顔で話すキルクルに対してアンテは戸惑ってしまい、オレに助けを求めてくる。
「あのベルツ、この場合如何したらよろしいのでしょう?」
 困っているアンテに、オレは助け舟を出してやることにする。
「丁度良いじゃないか。金が節約出来るなら、それに越したことは無いだろ」
「そうですね。それではご厚意に甘えることにしましょう」
 安心したように答えるアンテを見て、キルクルは頬を不満そうに膨らませて呟く。
「本当はお主自身に答えてもらいたかったんじゃがの。ま、仕方ないかの」
 キルクルはそう呟くと、テーブルの上に置いてある猫の置物に手を伸ばす。そして猫が咥えている魚を手に取ると、魚の頭を耳に当て尻尾を口元に寄せて話し始める。
「すまんが、客室を一部屋用意してくれんか?うん、誰が泊まるのかじゃと?ほれ、受付で騒いでいた二人組じゃよ。そうじゃ、夫婦漫才を始めたあの二人じゃよ。うむ。ぜひ、この二人には我がサバトに入信してもらいたいからのう。・・・そうそう・・・・そうじゃ・・・・・よし、ではロリィコースを準備するのじゃぞ」
 話し終えるとキルクルは持っていた魚を放り投げる。魚は綺麗な放物線を描くと猫の目の前を飛んでゆく。そして魚が目の前に来た瞬間、置物の猫が口を開いて見事に魚を咥える。
 一連の行動を見ていたアンテがオレに質問してくる。
「ベルツ、あの猫は置物ですよね?動いたように見えたのは、私の気のせいですか?」
「いや、オレも動くのを見たぞ」
 手を伸ばして触ってみるが間違いなく猫の置物だ。不思議がるオレたちにキルクルは、薄い胸を張って自慢してみせる。
「それは儂の魔力で動くからのう。儂以外では動かないんじゃよ。便利じゃぞ」
「これもサバトの研究の一つですか?」
「遊びで儂が作ったものじゃ。サバトの研究はこれより素晴らしく、世界に名だたる物であり、この世を作り変えるシロモノじゃぞ」
 薄い胸を反らして断言するキルクルにアンテは尊敬の眼差しを向ける。
「そんなにも凄いものなのですか?」
「むろんじゃ!お主たちに用意したロリィコースもその一つなんじゃからな」
 感激の眼差しで見つめられたサバトの責任者は、ソファーの上に立ち上がって鼻息も荒々しく答える。
「ど、どんな内容なのですか!ぜひ、教えてください!」
「それは・・・むう・・・本当は秘密なのじゃが・・・よし、特別じゃぞ」
「有り難うございます、キルクルさん」
 熱い視線で見つめられ続けたキルクルは、もったいぶったしかし嬉しそうな口調でそのロリィコースを語り始める。内心では、話したくてウズウズしていたのだろう。
「最初は、魔女たちによる『お兄ちゃんいらっしゃいませ、お姉ちゃんロリッてください!』コーラスのお出迎えじゃ!」
「はい?」
「次は、我がサバトが開発した『ロリィ促進砂風呂』じゃ」
「促進?」
「うむ!この砂風呂に埋まると汗と共に邪念が流れだし、幼児への興味と依存が高まるのじゃ」
「は、はー」
「そこにじゃ!更なる変化を促すために行うのが『魔女たちと一緒にエクササイズ!』じゃ」
「何の意味があるのですか?」
「砂風呂で邪念が抜け、気分が高揚しているからの。更に畳みかける訳じゃ!水着姿の魔女たちと一緒に戯れるのじゃから、効果は抜群じゃな」(ジュル)
「抜群ですか?」
「抜群じゃ!こうして幼児に興味を持ち始めたお兄ちゃんと幼児への変身願望を持ち始めたお姉ちゃんに提供するのが、我が支部自慢のスタミナ料理『ロリックス55』じゃ」
「・・・・・」
「これを食べれば最早幼児しか目に入らなくなり、幼児にしか萌えなくなり、幼児に戻ることしか考えられなくなるんじゃ!」
「・・・このままですとシステムエラーを起こしてしまいますので、この件に関するデーターを記憶データーより削除します」
「そうして最後に来るのがお部屋でクンズホグレツの『朝までしっぽり昇天ファイナル』じゃ!」
「・・・理解不能・・・理解不能・・・データー削除・・・削除完了。なお今後の円滑な行動を行うため一部の単語のみ記憶します・・・システム再起動します」
「こうして幼児の素晴らしさを理解した者たちは次々とサバトに入信してゆき世界は平和になる、というわけじゃ!解ったじゃろ?」
「・・・余りにも崇高過ぎる思想に私では理解できませんでした」
「なんと!お主でも解らぬとは!!儂の叡智の恐ろしさを実感してしまうの」
 感動に震えているサバトの責任者の元を離れたアンテは、青い顔でずっと黙っていたオレに訊ねてくる。
「・・・サバトとは・・・まさかこ、この様な・・・?」
 オレは大きく首を縦に振ると肯定する。
「簡潔に言えば『ロリコン至上主義』の集団だよ。もちろん、実力や実積もちゃんとあるけど」
 夢の研究所の正体にアンテは衝撃を受けて倒れそうになるが、何とか持ち堪えている様なのでそのまま訊ねる。
「どうする、逃げ出すか?」
 だが、オレの言葉にアンテは悲しく答える。
「申し訳ありません。残存エネルギー量が後一時間位しかありません」
「・・・今から宿屋は、無理だな」
 悲しい表情でいるアンテにオレは、その事実を話す。
「今夜はここに泊まるしかないな」
11/12/03 09:20更新 / 名無しの旅人
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■作者メッセージ
ロボット三原則を自分流にアレンジしました。
次回は、初のエロに挑戦です。
あまり期待しないでください。
タイトルのカッコ内は、アンテの感想です。

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