再会は酔いて痴れる前に
その村は、あの日見た景色より幾分か小さく見えた。そして、それは自分の目線が上がったからだということは、往々にしてそう気付けるものではない。
「おお…おお…！蒼助、蒼助（そうすけ）だな！？」
「村長（むらおさ）！よく俺だとわかったね。ずっとこの村の入り口にいたのかい？」
「お前ぇが帰ってくるってぇ便りが届いてからずっとだとも！この日をどれだけ待ったか！十年だぞ、十年！随分とまあ見違えたなぁ蒼助！ハッハッハッ！！」
「あの時『十年はあっという間だ』なんて言ったのは村長だろうに…。そういやぁ村長、少し老けたね？」
「ああ、お前ぇが行っちまってすぐさ…。これでも最近は止まったんだぞ？」
「すると…アレかい？村長も妖の娘っ子を？」
「ああ、俺っちが夜回りに使ってた提灯があったろう？あれが少し前に付喪神のお嬢ちゃんになってな」
「ッハハハ！夜回りたぁ懐かし言葉だなぁ！そうかい、そんだけ使やぁ提灯様もそりゃご満足だろうさ」
「そういやぁお前ぇ、お父とお母はどうした？お前ぇ一人か？」
「ああ、もう少しあっちに残るらしい。俺もこっちへは約束を果たしに来ただけだからな」
「鴨頭草さんだろう？俺っちも時々様子を見に行ったが、何でもない素振りをしていたが、時折ちょいとばかし寂しそうだった……早く行ってやんな」
「恩に着るよ村長、んじゃあまた後でな！……ツキ姉ぇ、いや、鴨頭草（つきくさ）さん、今日は…今日だけは…違う、今日こそは…」
「あの子、帰ってきたのかしら」
「なんだい？ついに寂しくなっちまったかい？」
「そんな気がしただけよ。風が便りでも運んできたのかな」
「おやおや！えらく感傷的じゃあないのさ？酒でも足りてないんじゃないかい？ホレっ」
「遠慮しとく。再開の時ぐらいは素面で居たいじゃない」
「そうかい？パーッと飲んでパーッとやりゃあいいじゃないのさ！鴨頭草は余計な事考えるねぇ」
「紅唐（べにとう）は吞気すぎよ！まったく相手が居るからって…」
「その相手ってのは酒で捕まえたんだよ？何事もこの酒で進めちまうのが一番さァ！」
「ハァ…あなたはもうちょっと約束の重みを知るべきよ。…………あらあら、やっぱりあの子の気配がしてきたようね」
「なんだいホントにそう思ってたのかい！そんじゃああっちに見えてたりでもすんのかい？」
「言ったでしょ気配って。さ、私も出迎えてあげなくっちゃね」
「そんならあたしゃあアイツんとこ戻るわぁ！再開の時ぐらいゆっくり二人で過ごしな」
「ありがと、じゃあまたね……あら？ホントにあの子？随分と大きくないかしら…？」
十年前、この地を治める旗本は彼らの住む村にある命を出した。一家単位での奉公人が欲しい、と。
流通や交易が富を生むことにいち早く気付いた旗本による販路拡大、及びそれによる繁栄を狙った良き政略であり、地理的に要になるであろうその村に目を付けたのは彼の手腕の良さを物語っていた。
しかし、奉公に来る者は妖怪を近寄らせないように、という条件があった。
そも奉公人を要した理由が、妖怪に嫡子を攫われてしまったからだ。
妖怪とねんごろな者は他の妖怪には狙われにくい、ということを知っていた村は、一家に若きおの子が居ながらも妖怪と仲の良い家、として蒼助の一家を選んだ。
妖怪、つまり魔物娘と仲が良かったがために離れ離れにならなければないけなかった悲劇ではあったが、流通のめどが立つまで、という限られた期間であったが故に、永遠の悲劇とならないことは約束されていた。
それでも、領地の流通網開拓など一朝一夕でできるものではない。早く村に戻るためにも様々な場所へ赴き、交易のため奔走し、両親も顔負けと言える程に励んでいた蒼助であったが、昨年になって突如、奉公が必要でなくなる様な事態が起こる。
九年の時を越えて旗本の嫡子が帰ってきたのだ。
なんでも、嫡子が幼き頃に拾い、可愛がっていた猫がネコマタだったようで、辛抱たまらなくなったネコマタに襲われた結果、冷静になったネコマタは事の重大さに慌て、駆け落ちのように嫡子の手を引いて走り去ってしまったのだとか。
各地を転々としながらも嫡子自身が持っていた人柄の良さ、そしてネコマタの愛想の良さが幸いし、様々な交流と共に生きてくることができた二人だったのだが、先日元服の年を大幅に過ぎている事を思い出した嫡子がこれはまずいと思い立ち、首を横に振るネコマタを引きずって家に戻ることを決めたのだった。
嫡子が無事であったことに安堵した旗本は、妖怪への恐れや憎しみ、警戒心もすっかり無くなり、嫡子とネコマタが居れば奉公人は最早不要と、蒼助の一家は手厚い礼と共に村への帰還を許された。
しかし蒼助は今しばらく旗本の下にいることを選んだ。嫡子たちが歩んできた道を交易に使えると判断したのだ。嫡子の少年にも相談したところ、彼も手を打って同意した。幼き日の旅は、彼からもとより少なかった身分の違いによる差別意識を完全に取り払うことに成功していたのだ。そして、奉公の日々の中で、何より蒼助もまた、たくましく、聡明になっていたのだった。
そうして蒼助は、彼が開拓した地域も嫡子たちに任せることに成功し、他の家臣たちへの助言者として両親に今少し残ってもらいつつ、彼の村まで一度戻ることに相成ったのであった。
（土産の酒は海の底からもらったものだって言ったら、喜んでくれるかな…）
草地が岩場となる岬の近く、そこにある数軒の家のひとつ。目指す場所は目と鼻の先。青い人影はゆっくりと立ち上がったように見えた。
「…………ただいま、鴨頭草さん」
「蒼くん？ホントに蒼くんなのね！？」
十年前、元気いっぱいの笑顔を見せていた小さな少年は、アオオニである彼女にも届かんばかりの背丈、大きくはなくとも確かな強さを感じさせる全身の筋肉、整った顔立ちは若き活力に満ちた、目を見張るほど精悍なる青年となっていた。
「ああ、俺だ、蒼助だよ」
「嘘じゃ…ないのよね？」
「あなたに嘘はつけないことくらい、覚えてるさ」
「十年、たった十年だけでそこまで変わるのね…人間って…」
「たった、と来たか！俺には長い、長い十年だったぞ？」
「私からすれば十年なんてあっという間だもの、わかるでしょ？」
「一日千秋とも言うじゃないか、首を長くして待ってくれていると思ったんだがなぁ」
「ふふ、言うようになったじゃない蒼くん、ホント成長したのね〜」
「ああ、自分で言うのもなんだが、成長したと思うよ。そうだ、まずは礼を言わなきゃな」
「お礼？なんの？」
「俺に他の妖が寄らぬようにしてくれた礼だ。」
「へっ！？あ、アレ！？や、やだちょっともう！恥ずかしいじゃないの〜！」
「ハハ！俺だって恥ずかしい話だが、あれが無ければ俺は他の妖に攫われていたかもしれんからな」
「そ、そういう話はお酒入ってからにして頂戴よ……ああ、顔から火が出そう…」
―――十年前―――
「おれ、大きくなってかえってくるよ、ツキ姉をこえるくらい、こーんなに大きくなってくるからな！」
「っふふ、期待してるわ。そうだ、ちょっとこっちにおいで？」
「なんだ？なにかあるのか？」
「ええ、他の妖怪たちに襲われなくなるおまじないよ」
「あの時突然俺のイチモツをしゃぶられたのは心底驚いたが、射精したのもアレが初めてでな、こんなものが出るのかとそっちにも驚いたモンだ」
「そ、そうしておけば私が手を付けているってわかるからよ……お、『お手付き』の子は他の妖怪たちなら襲わないし…」
「ああ、そうらしい。色々なところに赴いて様々な妖たちに会ったが、襲われることはなかったよ」
「……目移りはしてない、わよね？」
「おいおいここに帰って来た時点で信じてほしかったモンだがなぁ！」
「そうね、蒼くんに限ってそんなことは無いわよね」
「そ、それとその……蒼くんってのはもうよしてくれないか？そりゃあ鴨頭草さんからしたらまだまだちびっ子なのかもしれんが…」
「あら、わざわざ『鴨頭草さん』、なんて呼び方してたのはそのせい？昔の呼び方でもこっちは良かったのよ？」
「俺の格好がつかないじゃないか！勘弁してくれよ！」
「そうね、じゃあちゃんと蒼助君、って呼ぼうかしら」
「それでも君付けは取れないんだなぁ……まあ良しとするか。さぁて！そろそろ土産が欲しくなってきただろう？」
「あら、もしかしてお酒？お酒持ってきてくれたの！？」
「ハハハ！随分な食いつきだなぁ！」
「あ、あらやだ！ごめんなさい私ったら……」
「いや、かまわないさ！その喜ぶ顔が見たくて持って来たんだからな」
「ということは、ホントにお酒なのね！」
「ああ、『都の泡沫』、水底の都からもらった酒さ！」
「水底……まさか、りゅ、竜宮城！？そんなところまで行ってたの！？」
「行けたのは本当に幸運でしかなかったんだがな、何事も挑戦してみるもんだよ」
「すごいわね……そうだ、蒼助君ももう飲めるのよね？」
「ああ、一緒に飲みたいと思ってな」
「やった！おちょこ二つ持ってくるわね！」
「ああいや、瓢箪に分けてもらってるんだ、一つ渡すよ」
「あら、いいわね！それじゃあ……」
「ああうまい、やはりいい酒だなぁコレは」
「飲みはじめはさっぱりしてるんだけど、後から香りがふわっと登って来るくるわね…私このお酒好みかも」
「本来俺はどちらかというと、グッときて後はスッと消えるような酒が好きなんだが、これは後味が良いからそんな俺でも飲めちまう。まさしく海底の都から立ち上る泡のごとく、ふわりと登る香りだよ」
「あらぁ、詩的なこと言うじゃな〜い、…ホント、いい男になっちゃって…」
「おいおい鴨頭草さん！もう回ってきちまったのかい？早いねぇ！」
「あら、まだ頭はしっかり動いてるわよ？それに、酔うのが早いのは……駄目？」
「いや、そんな鴨頭草さんも魅力的だよ」
「……ねえ、あの時、私が蒼くんを染めたあの時も、ちょっとお酒飲んでたでしょ？」
「そうだったなぁ。酒を呷って、スッと立っては真剣な顔で俺を見つめて……」
「私ねぇ……酔っちゃうと、さ。そういうこと、したくなっちゃうんだぁ」
「ああ、そんな気はしてたさ。……そうだな、お互い酒が回りきっちまう前に、ちゃんと伝えなきゃな」
「うん……」
「ッハハ、なんとも、これを伝えるには俺は酒を回したかったモンだが、そりゃあ確かに不誠実かもな！」
瓢箪酒を傾けぐいと飲み、すっくと立って鴨頭草を見つめる蒼助、その姿は奇しくも、あの日のこの場所、その瞬間を逆さになぞる形になっていた。今度は彼の澄んだ瞳が鴨頭草を射る。
「俺があなたを嫁にするか、あなたが俺を婿とするか、それはどっちでも構わない。俺は、あなたとずっと一緒にいたい」
「……うん」
「そのためになにをしなきゃいけないか、今何がしたいか、俺はちゃんとわかってるつもりでいる」
「……うん…！」
「俺は、この蒼助は、鴨頭草さん、あなたを抱きたい。そして、あなたが同じ気持ちでいることを願う。俺と、…おれとまぐわってくれ、鴨頭草さん」
「蒼くん…蒼くん！！」
跳ね飛ばすように抱き着かれ、さしもの蒼助も少し驚く
「蒼くんったら…どうしてそういうこと言っちゃうのよぉ！私…私もう……！」
「ッハハ、呼び方まで戻ってらぁ、よっぽどかい。そりゃあ…そりゃあ良かったよ。……背丈、越せなかったなぁ」
「鬼を越える身の丈なんてそうそうなれるもんじゃないわよ。……さ、祝い酒よ！もっと飲みましょ！」
「おや、まだ我慢が効くのかい？」
「この瞬間、最高の味がすると思うからもう少しだけ飲んでたいなって」
「良いさ、もっと飲もう」
「あっ、ねえ、窓を見て？夜空が奇麗だわ」
いつ頃からだったかもう日は暮れ、星が空を覆い始めていた。
「そうだな…俺たち二人と、この夜空に、乾杯」
「ええ、乾杯」
「…………ホント、ツキは奇麗だな」
「あら、それってどっちの意味？」
「両方、さ。月も、あなたも」
「ふふ、ホント、そういうこと言うようになったわね〜」
数杯を飲みあったのち、ゆるりと彼女は立ち上がる。ほんのわずかに震える脚と、腰布の下、内腿を伝う雫は彼女の我慢の限界を如実に表していた。
それを見た蒼助も流石に冷静とはいかぬ。いきり立つ彼の股座をおさえもせず、寝床の方へ歩いていき、呼びかけた。
「おいで、鴨頭草さん」
「……もう、止まれないからね」
「俺も止まる気はないよ、さあ」
締め上げんほどに力強い抱擁、貪るような口付け、股座に股座を擦り付けるようななまめかしい腰の動きに負けじと、蒼助も動きを返す。
「はぁむっ………………んむふっ、はぁっ、はぁっ！、そう、だよね、蒼くんも我慢できないよね、いいんだよね、私も、私も我慢しなくったって、もういいんだよねっ！」
「俺は逃げやしないさ、もっと……もっとあなたに触れたい、あなたを味わいたい、あなたが…欲しい」
抱き合って口付けを交わしているだけだというのに、最早二人ともあふれ出す快楽に立っていられぬとばかり、どちらともなく膝を落とし、転がるように布団の上に辿り着いた。お互いの体に舌を這わせ、噛みつかんばかりに口を押し付け貪っていたが、蒼助の手が、口が、鴨頭草の乳房に到達した。
「はぁんっ！んっ、んっは、ああぁ……」
恍惚としたように快楽に耽り、身をよじらせてはねだるように乳房を押しつける
「もっと…もっと鴨頭草さんのそんな声、聞きたい…！」
胸の布を押し上げ、応じるかのように押し付けられた乳頭をねぶり、もう片方を指でつまみ上げる
「はぁーっ、はぁーっ、ねぇ、蒼くんの、私にも、しゃぶらせて？」
「じゃあ、俺は鴨頭草さんの一番大事なところを味わおうか」
腰布を取り払い、尻に手を回す。言われなくともとばかり、彼女の脚は蒼助の顔をはさみ、秘所へと押し込んだ。
むわりと広がる雌のニオイ、雫と呼ぶにはいささか量が多すぎるそれを、蒼助はすするように吸い付き、舐め取る。
「んんむぁっ！あっ、ああっ！あむ、んふぅーっ！」
上ずり始めた彼女の嬌声は快楽の果てが押し寄せてきた証であり、彼の怒張もまた、限界を示していた。
「はぁっ！はんむっ！んむっ！んんん！んむううううう！！」
「済まない鴨頭草さん、もう限界だっ出ちまうっ！！」
そうして二人は一度、時を同じくして果てた。
「んむっ！！んんっ……！んっはぁっ……！ふっくぅっ……！」
息を詰まらせ腰を震わせる様はまさしく絶頂と呼べるものだろう
「っっくっ…！吸われ…！」
出しながらも吸い取られ続ける彼の白い熱はさらに彼女を興奮と快楽の渦へと叩き込む
「はっ、はっ、…はぁっ…はぁーっ、……ねえ蒼助君、もう…いいよね」
「ああ、来てくれ、鴨頭草さん」
「さん付けなんてやめて？ツキ姉って呼んでくれてもいいのよ？」
「俺はもう子供じゃないって言ったろう？……そうだな、じゃあ…おいで、ツキ」
秘部にあてがわれたモノが彼女を貫く。星月夜が下ろす夜の帳に覆われて、小さな家の屋根の下、愛の契りがここに成る。
「はぁぁぁぁぁっ…！あぁっコレ、すごっ！」
「溶ける……！俺のイチモツが溶けちまったみたいだ…！」
響く水音、上がる嬌声、肉と肉が打ち鳴らす音さえも、波の音が、他の家の同じ音が、それらを溶かして夜空に流す。
「欲しい……蒼助君もお酒も、もっと……！」
「乾きが癒えるかはわからんが、今はこれが俺たちを動かしてくれる」
「そうねぇ……んっぷぁっ、はぁ、……さ、まだ続けるわよぉ〜」
「もちろんだ、さあこっちへ……」
「ああぁぁぁ……また入って来るぅぅ……！」
「この瞬間は、得も言われんな……！」
幾度となく続く交わり、飲み直し、永久に続かんとばかり繰り返し、夜は更に更けていく。
「のど、かわいた……おさけ……おさけもうひとくち……」
「俺も、まだ飲めそうだな……」
「おいしい……はぁーっ、はぁーっ、蒼くん、ねえ、もっと」
「ああ、おいで」
しかしそんな二人を包む夜の帳は、白みだした東の空が取り払わんとしていた。
「あっ、あっ、ああっ、ああぁっ！んっく！はっはぁっ！あああぁぁぁっ！！」
「ああ！まただ、また出るよっ！」
「来てっ来てぇ！出してっ！全部出してぇ！！」
「っくぅあぁっ！！」
「あっはぁぁっ！！あっ……！かっふっ…！あぁっ……！！」
絶え絶えの息をさらに詰まらせ全身を痙攣させる青き乙女。乱れ切った彼女はなおも艶めかしく、その肢体を彼のもとへとしなだれさせた。
「ああ……日が昇る……」
「昇りゆく太陽も……奇麗ね」
「ツキと一緒なら、色んなものが奇麗に見えるだろうさ」
「うん、えへへぇ……蒼くん、ううん、蒼助君……大好きだよ」
「俺もさ、心から愛してるよ、ツキ」
竜宮城にて行われることとなった二人の婚姻の儀は、紅唐から村の皆を始め旗本やその嫡子までも来場し、賑やかなものとなった。
「ね、ねえ！こんな……こんなところでこんな豪華なのって！よ、良かったの……？」
「えっえと、竜宮城の婚姻の儀は人気なのか、他のところからも様々な方がいらっしゃるので、そ、その、大丈夫ですから、お気になさらないでくださいね？」
「あの時の帰りの水駕籠からこの儀も、ホント何から何までありがとうございます！なんと感謝を申し上げればよいか！」
「いや、キミたちの役に立つことができて何よりだ。あの時は念のためと我が水駕籠を運んだが、想い人と結ばれたようで安心した。それに、こうも人が集まるとは、キミの人柄は余程優れているらしい。さあ、キミたちはこちらへ」
「ええ。さあ、行こうツキ」
「そ、そうね、じゃあ……」
「あ、そうだ、おそらくこの婚姻の儀にはお酒もふるまわれるだろう」
「え？え、ええ……あっ」
「当然近くに泊めさせてもらうことになっている。だから、存分に飲んでくれ、な？」
「も、もう！こんな時にそんな話……！」
「ッハハ！良いじゃないか！さあ、いよいよだ」
―――俺たちが離れた十年が俺ですら短く感じられる程までに、長い、永い未来が二人を待っている―――
「おお…おお…！蒼助、蒼助（そうすけ）だな！？」
「村長（むらおさ）！よく俺だとわかったね。ずっとこの村の入り口にいたのかい？」
「お前ぇが帰ってくるってぇ便りが届いてからずっとだとも！この日をどれだけ待ったか！十年だぞ、十年！随分とまあ見違えたなぁ蒼助！ハッハッハッ！！」
「あの時『十年はあっという間だ』なんて言ったのは村長だろうに…。そういやぁ村長、少し老けたね？」
「ああ、お前ぇが行っちまってすぐさ…。これでも最近は止まったんだぞ？」
「すると…アレかい？村長も妖の娘っ子を？」
「ああ、俺っちが夜回りに使ってた提灯があったろう？あれが少し前に付喪神のお嬢ちゃんになってな」
「ッハハハ！夜回りたぁ懐かし言葉だなぁ！そうかい、そんだけ使やぁ提灯様もそりゃご満足だろうさ」
「そういやぁお前ぇ、お父とお母はどうした？お前ぇ一人か？」
「ああ、もう少しあっちに残るらしい。俺もこっちへは約束を果たしに来ただけだからな」
「鴨頭草さんだろう？俺っちも時々様子を見に行ったが、何でもない素振りをしていたが、時折ちょいとばかし寂しそうだった……早く行ってやんな」
「恩に着るよ村長、んじゃあまた後でな！……ツキ姉ぇ、いや、鴨頭草（つきくさ）さん、今日は…今日だけは…違う、今日こそは…」
「あの子、帰ってきたのかしら」
「なんだい？ついに寂しくなっちまったかい？」
「そんな気がしただけよ。風が便りでも運んできたのかな」
「おやおや！えらく感傷的じゃあないのさ？酒でも足りてないんじゃないかい？ホレっ」
「遠慮しとく。再開の時ぐらいは素面で居たいじゃない」
「そうかい？パーッと飲んでパーッとやりゃあいいじゃないのさ！鴨頭草は余計な事考えるねぇ」
「紅唐（べにとう）は吞気すぎよ！まったく相手が居るからって…」
「その相手ってのは酒で捕まえたんだよ？何事もこの酒で進めちまうのが一番さァ！」
「ハァ…あなたはもうちょっと約束の重みを知るべきよ。…………あらあら、やっぱりあの子の気配がしてきたようね」
「なんだいホントにそう思ってたのかい！そんじゃああっちに見えてたりでもすんのかい？」
「言ったでしょ気配って。さ、私も出迎えてあげなくっちゃね」
「そんならあたしゃあアイツんとこ戻るわぁ！再開の時ぐらいゆっくり二人で過ごしな」
「ありがと、じゃあまたね……あら？ホントにあの子？随分と大きくないかしら…？」
十年前、この地を治める旗本は彼らの住む村にある命を出した。一家単位での奉公人が欲しい、と。
流通や交易が富を生むことにいち早く気付いた旗本による販路拡大、及びそれによる繁栄を狙った良き政略であり、地理的に要になるであろうその村に目を付けたのは彼の手腕の良さを物語っていた。
しかし、奉公に来る者は妖怪を近寄らせないように、という条件があった。
そも奉公人を要した理由が、妖怪に嫡子を攫われてしまったからだ。
妖怪とねんごろな者は他の妖怪には狙われにくい、ということを知っていた村は、一家に若きおの子が居ながらも妖怪と仲の良い家、として蒼助の一家を選んだ。
妖怪、つまり魔物娘と仲が良かったがために離れ離れにならなければないけなかった悲劇ではあったが、流通のめどが立つまで、という限られた期間であったが故に、永遠の悲劇とならないことは約束されていた。
それでも、領地の流通網開拓など一朝一夕でできるものではない。早く村に戻るためにも様々な場所へ赴き、交易のため奔走し、両親も顔負けと言える程に励んでいた蒼助であったが、昨年になって突如、奉公が必要でなくなる様な事態が起こる。
九年の時を越えて旗本の嫡子が帰ってきたのだ。
なんでも、嫡子が幼き頃に拾い、可愛がっていた猫がネコマタだったようで、辛抱たまらなくなったネコマタに襲われた結果、冷静になったネコマタは事の重大さに慌て、駆け落ちのように嫡子の手を引いて走り去ってしまったのだとか。
各地を転々としながらも嫡子自身が持っていた人柄の良さ、そしてネコマタの愛想の良さが幸いし、様々な交流と共に生きてくることができた二人だったのだが、先日元服の年を大幅に過ぎている事を思い出した嫡子がこれはまずいと思い立ち、首を横に振るネコマタを引きずって家に戻ることを決めたのだった。
嫡子が無事であったことに安堵した旗本は、妖怪への恐れや憎しみ、警戒心もすっかり無くなり、嫡子とネコマタが居れば奉公人は最早不要と、蒼助の一家は手厚い礼と共に村への帰還を許された。
しかし蒼助は今しばらく旗本の下にいることを選んだ。嫡子たちが歩んできた道を交易に使えると判断したのだ。嫡子の少年にも相談したところ、彼も手を打って同意した。幼き日の旅は、彼からもとより少なかった身分の違いによる差別意識を完全に取り払うことに成功していたのだ。そして、奉公の日々の中で、何より蒼助もまた、たくましく、聡明になっていたのだった。
そうして蒼助は、彼が開拓した地域も嫡子たちに任せることに成功し、他の家臣たちへの助言者として両親に今少し残ってもらいつつ、彼の村まで一度戻ることに相成ったのであった。
（土産の酒は海の底からもらったものだって言ったら、喜んでくれるかな…）
草地が岩場となる岬の近く、そこにある数軒の家のひとつ。目指す場所は目と鼻の先。青い人影はゆっくりと立ち上がったように見えた。
「…………ただいま、鴨頭草さん」
「蒼くん？ホントに蒼くんなのね！？」
十年前、元気いっぱいの笑顔を見せていた小さな少年は、アオオニである彼女にも届かんばかりの背丈、大きくはなくとも確かな強さを感じさせる全身の筋肉、整った顔立ちは若き活力に満ちた、目を見張るほど精悍なる青年となっていた。
「ああ、俺だ、蒼助だよ」
「嘘じゃ…ないのよね？」
「あなたに嘘はつけないことくらい、覚えてるさ」
「十年、たった十年だけでそこまで変わるのね…人間って…」
「たった、と来たか！俺には長い、長い十年だったぞ？」
「私からすれば十年なんてあっという間だもの、わかるでしょ？」
「一日千秋とも言うじゃないか、首を長くして待ってくれていると思ったんだがなぁ」
「ふふ、言うようになったじゃない蒼くん、ホント成長したのね〜」
「ああ、自分で言うのもなんだが、成長したと思うよ。そうだ、まずは礼を言わなきゃな」
「お礼？なんの？」
「俺に他の妖が寄らぬようにしてくれた礼だ。」
「へっ！？あ、アレ！？や、やだちょっともう！恥ずかしいじゃないの〜！」
「ハハ！俺だって恥ずかしい話だが、あれが無ければ俺は他の妖に攫われていたかもしれんからな」
「そ、そういう話はお酒入ってからにして頂戴よ……ああ、顔から火が出そう…」
―――十年前―――
「おれ、大きくなってかえってくるよ、ツキ姉をこえるくらい、こーんなに大きくなってくるからな！」
「っふふ、期待してるわ。そうだ、ちょっとこっちにおいで？」
「なんだ？なにかあるのか？」
「ええ、他の妖怪たちに襲われなくなるおまじないよ」
「あの時突然俺のイチモツをしゃぶられたのは心底驚いたが、射精したのもアレが初めてでな、こんなものが出るのかとそっちにも驚いたモンだ」
「そ、そうしておけば私が手を付けているってわかるからよ……お、『お手付き』の子は他の妖怪たちなら襲わないし…」
「ああ、そうらしい。色々なところに赴いて様々な妖たちに会ったが、襲われることはなかったよ」
「……目移りはしてない、わよね？」
「おいおいここに帰って来た時点で信じてほしかったモンだがなぁ！」
「そうね、蒼くんに限ってそんなことは無いわよね」
「そ、それとその……蒼くんってのはもうよしてくれないか？そりゃあ鴨頭草さんからしたらまだまだちびっ子なのかもしれんが…」
「あら、わざわざ『鴨頭草さん』、なんて呼び方してたのはそのせい？昔の呼び方でもこっちは良かったのよ？」
「俺の格好がつかないじゃないか！勘弁してくれよ！」
「そうね、じゃあちゃんと蒼助君、って呼ぼうかしら」
「それでも君付けは取れないんだなぁ……まあ良しとするか。さぁて！そろそろ土産が欲しくなってきただろう？」
「あら、もしかしてお酒？お酒持ってきてくれたの！？」
「ハハハ！随分な食いつきだなぁ！」
「あ、あらやだ！ごめんなさい私ったら……」
「いや、かまわないさ！その喜ぶ顔が見たくて持って来たんだからな」
「ということは、ホントにお酒なのね！」
「ああ、『都の泡沫』、水底の都からもらった酒さ！」
「水底……まさか、りゅ、竜宮城！？そんなところまで行ってたの！？」
「行けたのは本当に幸運でしかなかったんだがな、何事も挑戦してみるもんだよ」
「すごいわね……そうだ、蒼助君ももう飲めるのよね？」
「ああ、一緒に飲みたいと思ってな」
「やった！おちょこ二つ持ってくるわね！」
「ああいや、瓢箪に分けてもらってるんだ、一つ渡すよ」
「あら、いいわね！それじゃあ……」
「ああうまい、やはりいい酒だなぁコレは」
「飲みはじめはさっぱりしてるんだけど、後から香りがふわっと登って来るくるわね…私このお酒好みかも」
「本来俺はどちらかというと、グッときて後はスッと消えるような酒が好きなんだが、これは後味が良いからそんな俺でも飲めちまう。まさしく海底の都から立ち上る泡のごとく、ふわりと登る香りだよ」
「あらぁ、詩的なこと言うじゃな〜い、…ホント、いい男になっちゃって…」
「おいおい鴨頭草さん！もう回ってきちまったのかい？早いねぇ！」
「あら、まだ頭はしっかり動いてるわよ？それに、酔うのが早いのは……駄目？」
「いや、そんな鴨頭草さんも魅力的だよ」
「……ねえ、あの時、私が蒼くんを染めたあの時も、ちょっとお酒飲んでたでしょ？」
「そうだったなぁ。酒を呷って、スッと立っては真剣な顔で俺を見つめて……」
「私ねぇ……酔っちゃうと、さ。そういうこと、したくなっちゃうんだぁ」
「ああ、そんな気はしてたさ。……そうだな、お互い酒が回りきっちまう前に、ちゃんと伝えなきゃな」
「うん……」
「ッハハ、なんとも、これを伝えるには俺は酒を回したかったモンだが、そりゃあ確かに不誠実かもな！」
瓢箪酒を傾けぐいと飲み、すっくと立って鴨頭草を見つめる蒼助、その姿は奇しくも、あの日のこの場所、その瞬間を逆さになぞる形になっていた。今度は彼の澄んだ瞳が鴨頭草を射る。
「俺があなたを嫁にするか、あなたが俺を婿とするか、それはどっちでも構わない。俺は、あなたとずっと一緒にいたい」
「……うん」
「そのためになにをしなきゃいけないか、今何がしたいか、俺はちゃんとわかってるつもりでいる」
「……うん…！」
「俺は、この蒼助は、鴨頭草さん、あなたを抱きたい。そして、あなたが同じ気持ちでいることを願う。俺と、…おれとまぐわってくれ、鴨頭草さん」
「蒼くん…蒼くん！！」
跳ね飛ばすように抱き着かれ、さしもの蒼助も少し驚く
「蒼くんったら…どうしてそういうこと言っちゃうのよぉ！私…私もう……！」
「ッハハ、呼び方まで戻ってらぁ、よっぽどかい。そりゃあ…そりゃあ良かったよ。……背丈、越せなかったなぁ」
「鬼を越える身の丈なんてそうそうなれるもんじゃないわよ。……さ、祝い酒よ！もっと飲みましょ！」
「おや、まだ我慢が効くのかい？」
「この瞬間、最高の味がすると思うからもう少しだけ飲んでたいなって」
「良いさ、もっと飲もう」
「あっ、ねえ、窓を見て？夜空が奇麗だわ」
いつ頃からだったかもう日は暮れ、星が空を覆い始めていた。
「そうだな…俺たち二人と、この夜空に、乾杯」
「ええ、乾杯」
「…………ホント、ツキは奇麗だな」
「あら、それってどっちの意味？」
「両方、さ。月も、あなたも」
「ふふ、ホント、そういうこと言うようになったわね〜」
数杯を飲みあったのち、ゆるりと彼女は立ち上がる。ほんのわずかに震える脚と、腰布の下、内腿を伝う雫は彼女の我慢の限界を如実に表していた。
それを見た蒼助も流石に冷静とはいかぬ。いきり立つ彼の股座をおさえもせず、寝床の方へ歩いていき、呼びかけた。
「おいで、鴨頭草さん」
「……もう、止まれないからね」
「俺も止まる気はないよ、さあ」
締め上げんほどに力強い抱擁、貪るような口付け、股座に股座を擦り付けるようななまめかしい腰の動きに負けじと、蒼助も動きを返す。
「はぁむっ………………んむふっ、はぁっ、はぁっ！、そう、だよね、蒼くんも我慢できないよね、いいんだよね、私も、私も我慢しなくったって、もういいんだよねっ！」
「俺は逃げやしないさ、もっと……もっとあなたに触れたい、あなたを味わいたい、あなたが…欲しい」
抱き合って口付けを交わしているだけだというのに、最早二人ともあふれ出す快楽に立っていられぬとばかり、どちらともなく膝を落とし、転がるように布団の上に辿り着いた。お互いの体に舌を這わせ、噛みつかんばかりに口を押し付け貪っていたが、蒼助の手が、口が、鴨頭草の乳房に到達した。
「はぁんっ！んっ、んっは、ああぁ……」
恍惚としたように快楽に耽り、身をよじらせてはねだるように乳房を押しつける
「もっと…もっと鴨頭草さんのそんな声、聞きたい…！」
胸の布を押し上げ、応じるかのように押し付けられた乳頭をねぶり、もう片方を指でつまみ上げる
「はぁーっ、はぁーっ、ねぇ、蒼くんの、私にも、しゃぶらせて？」
「じゃあ、俺は鴨頭草さんの一番大事なところを味わおうか」
腰布を取り払い、尻に手を回す。言われなくともとばかり、彼女の脚は蒼助の顔をはさみ、秘所へと押し込んだ。
むわりと広がる雌のニオイ、雫と呼ぶにはいささか量が多すぎるそれを、蒼助はすするように吸い付き、舐め取る。
「んんむぁっ！あっ、ああっ！あむ、んふぅーっ！」
上ずり始めた彼女の嬌声は快楽の果てが押し寄せてきた証であり、彼の怒張もまた、限界を示していた。
「はぁっ！はんむっ！んむっ！んんん！んむううううう！！」
「済まない鴨頭草さん、もう限界だっ出ちまうっ！！」
そうして二人は一度、時を同じくして果てた。
「んむっ！！んんっ……！んっはぁっ……！ふっくぅっ……！」
息を詰まらせ腰を震わせる様はまさしく絶頂と呼べるものだろう
「っっくっ…！吸われ…！」
出しながらも吸い取られ続ける彼の白い熱はさらに彼女を興奮と快楽の渦へと叩き込む
「はっ、はっ、…はぁっ…はぁーっ、……ねえ蒼助君、もう…いいよね」
「ああ、来てくれ、鴨頭草さん」
「さん付けなんてやめて？ツキ姉って呼んでくれてもいいのよ？」
「俺はもう子供じゃないって言ったろう？……そうだな、じゃあ…おいで、ツキ」
秘部にあてがわれたモノが彼女を貫く。星月夜が下ろす夜の帳に覆われて、小さな家の屋根の下、愛の契りがここに成る。
「はぁぁぁぁぁっ…！あぁっコレ、すごっ！」
「溶ける……！俺のイチモツが溶けちまったみたいだ…！」
響く水音、上がる嬌声、肉と肉が打ち鳴らす音さえも、波の音が、他の家の同じ音が、それらを溶かして夜空に流す。
「欲しい……蒼助君もお酒も、もっと……！」
「乾きが癒えるかはわからんが、今はこれが俺たちを動かしてくれる」
「そうねぇ……んっぷぁっ、はぁ、……さ、まだ続けるわよぉ〜」
「もちろんだ、さあこっちへ……」
「ああぁぁぁ……また入って来るぅぅ……！」
「この瞬間は、得も言われんな……！」
幾度となく続く交わり、飲み直し、永久に続かんとばかり繰り返し、夜は更に更けていく。
「のど、かわいた……おさけ……おさけもうひとくち……」
「俺も、まだ飲めそうだな……」
「おいしい……はぁーっ、はぁーっ、蒼くん、ねえ、もっと」
「ああ、おいで」
しかしそんな二人を包む夜の帳は、白みだした東の空が取り払わんとしていた。
「あっ、あっ、ああっ、ああぁっ！んっく！はっはぁっ！あああぁぁぁっ！！」
「ああ！まただ、また出るよっ！」
「来てっ来てぇ！出してっ！全部出してぇ！！」
「っくぅあぁっ！！」
「あっはぁぁっ！！あっ……！かっふっ…！あぁっ……！！」
絶え絶えの息をさらに詰まらせ全身を痙攣させる青き乙女。乱れ切った彼女はなおも艶めかしく、その肢体を彼のもとへとしなだれさせた。
「ああ……日が昇る……」
「昇りゆく太陽も……奇麗ね」
「ツキと一緒なら、色んなものが奇麗に見えるだろうさ」
「うん、えへへぇ……蒼くん、ううん、蒼助君……大好きだよ」
「俺もさ、心から愛してるよ、ツキ」
竜宮城にて行われることとなった二人の婚姻の儀は、紅唐から村の皆を始め旗本やその嫡子までも来場し、賑やかなものとなった。
「ね、ねえ！こんな……こんなところでこんな豪華なのって！よ、良かったの……？」
「えっえと、竜宮城の婚姻の儀は人気なのか、他のところからも様々な方がいらっしゃるので、そ、その、大丈夫ですから、お気になさらないでくださいね？」
「あの時の帰りの水駕籠からこの儀も、ホント何から何までありがとうございます！なんと感謝を申し上げればよいか！」
「いや、キミたちの役に立つことができて何よりだ。あの時は念のためと我が水駕籠を運んだが、想い人と結ばれたようで安心した。それに、こうも人が集まるとは、キミの人柄は余程優れているらしい。さあ、キミたちはこちらへ」
「ええ。さあ、行こうツキ」
「そ、そうね、じゃあ……」
「あ、そうだ、おそらくこの婚姻の儀にはお酒もふるまわれるだろう」
「え？え、ええ……あっ」
「当然近くに泊めさせてもらうことになっている。だから、存分に飲んでくれ、な？」
「も、もう！こんな時にそんな話……！」
「ッハハ！良いじゃないか！さあ、いよいよだ」
―――俺たちが離れた十年が俺ですら短く感じられる程までに、長い、永い未来が二人を待っている―――
21/12/06 00:04更新 / 海の若葉茶