筋肉導く竜宮旅情
どこにあるのか近くて遠いか、どこの世界かいつの時代か、とある世界のそんな片隅。
暑き陽の射す浜辺は、海を楽しむ人間たちとそんな人々と似ているけれどちょっと違う、美しき女性、魔物娘とが楽しく入り混じった、のどかな様相を呈していた。
そんな浜辺の奥、喧噪もほとんど届かないような場所で、
意味わからんくらい筋骨隆々な二人の男が亀を揺らしていた。
「セイ!」
「ソイ!」
「セイ!」
「ソイ!」
「セェイ!」
「ソォイ!」
「セイヤッサ!」
「ソイヤッサ!」
「どっこいしょお!」
「まだまだ行くぞ!」
「筋肉信じて!」
「筋肉高めて!」
「筋肉魅せては!」
「筋肉たかぶる!」
「ふぁ…ふゃわわわ…」
そんな二人に揺らされる亀、もとい海和尚はなすがまま、というわけでもなくあたふたしながらも勢いに合わせ左右に身を傾けている。
「かなり来たなぁ!」
「もう少しだぞぉ!」
「次で決めるぞ!」
「今だ!体重をあちらへ傾けるがよい!」
「は、はいぃ!」
「「ドッセイソイ!!」」
勢いよく半回転する海和尚の体。
しかし砂浜に叩きつけられないよう、片側の男は甲羅の淵を支え、そっと下ろす。
そんなわけで、砂浜に取られた足がもつれて仰向けに転んでしまった海和尚は助け起こされ、これにてようやく、砂浜の果てで起きた小さな騒動は解決と相成った。
ここで筋肉の塊のような連中に目を向けると、二人の男は兄弟である。
灼熱の太陽が注ぐ熱を映したような赤を身に着けた男が兄、
砂浜の奥にある美しき自然を映したような緑を身に着けた男が弟のようだ。
どちらもピッチピチの水着を履いており、最大限に筋肉を見せつけている。
厳めしくも整った二人の顔立ちは人々の人気を集めるもう一つの要因かもしれない。
兄「流石は吾輩の弟よ、よくぞ受け止めた!」
弟「おなごを勢いのままに転がすなど、我が筋肉が許さぬさ、兄よ!」
海和尚「あ、ありがとうございますぅ、なんとお礼を申せば良いか…」
(魔物娘の私がひっくり返る重さの甲羅をなんで一人で支えられたのぉ…?)
筋肉の可能性は無限大である。
兄「キミを見つけたのは吾輩の弟だ、礼ならば弟に言ってやってくれまいか」
弟「いや、大したことをしたつもりは無いとも、気にしないでくれたまえ」
海和尚「いえいえそんな!本当にありがとうございますぅ!」
兄「ハッハ!筋肉に謙遜は不要!感謝は素直に受け取っておけぃ!」
弟「兄がそういうのなら……ではともあれ、どういたしましてと伝えるとしよう」
海和尚「あ、あの…!こうして助けていただいたのも何かのご縁ですし、折角なのでお礼に竜宮城へお連れしたいと思うのですが、よ、よろしいですかぁ…?」
兄「竜宮城とな!噂には聞いたが実在するとは!」
弟「だが海の底とも聞いている、我らでたどり着けるだろうか?」
海和尚「あ、そこは私が加護を与えて呼吸ができるようにしますし、竜宮城は乙姫様の力で加護が無くても呼吸ができるんです!だ、大丈夫ですよ!」
兄「加護とやらがあれば道中も呼吸ができるのか、それは良いな!」
弟「では憂いは無いな、いざ参ろうか!」
海和尚「で、ではこちらへ…」
かくして海中の旅となった兄弟たちは、水中で呼吸できることに最初こそ戸惑ったものの、問題ないと分かった途端、我先にと言わんばかりに歩を進めた。
香「え、えと…改めまして私は海和尚の『香』(かおる)と申しますぅ、お香(おこう)とお呼びください」
兄「フゥム…良い香りがしそうだな」
弟「海中で香は焚けぬぞ我が兄よ」
兄「ハッハ!わかっておるとも!」
弟「しかし海を生きる者たちとしては確かに珍しい気もする名だな。いやすまぬ、悪く言ってはおらぬぞ?」
香「いえ、乙姫様がこのあだ名をつけてくれたんです、甲羅の『こう』から取ったのと、あともう一つ意味があるんだとか…?」
弟「自分でも理解してはおらぬのか?」
香「はい…乙姫様が秘密だと…」
兄「気を落とすことはないぞ!いつかわかる日も来ようて!ホレ、吾輩の筋肉をみて元気を出すがよい!」
香「ホ、ホントにすごい体ですよねぇお二人とも……!」
弟「我は兄ほどではないがな…兄こそは選ばれし者だ!」
このジパングにおいてはかつてあまり強大な筋肉というのは持て囃されていなかったが、そこに筋肉光明をもたらしたのがこの筋肉兄弟である。必要以上に鍛え上げられた筋肉は見る者たちを老若男女問わず筋肉魅了してきたが、魔物娘の間では評価が分かれているらしい。
人間たちを確実に筋肉魅了できるのは兄のみであり、そこには彼の身に起きた不思議な筋肉事象が関係しているようだ。
兄「鍛え上げられた筋肉を全霊をもって奮わせながら吾輩は誓った、『何者をも魅了する最高に美しき筋肉と成ってみせる』と。その時吾輩の体が目を覆わんばかりに筋肉発光し……それからだな、人々を筋肉魅了できるようになったのは」
弟「我らはあれを筋肉覚醒と呼んでいる。あの時は我も自然と涙を流していた…あまりの肉体美に筋肉感動していたのだ。我はまだその境地に至れてはいないがな、修行が足りぬ…」
香「な、何がどうしてそうなるんですかぁ…?」
兄「弟よ、吾輩と弟の目指す道は全てが同じというわけではない、弟には弟の筋肉道があるだろう?」
弟「そんな大層なものではないさ、我は筋肉に実用性を求めた、ただそれだけのことだ。それは果たして筋肉正解だったのだろうか…」
兄「筋肉道に明確な筋肉正解など無い、弟よ。その歩む道こそが弟の輝きだ!現に彼女を見つけ、助け起こし、支えていたではないか!吾輩はただそれを手伝っただけだとも!」
香「あのぅ……盛り上がっているところ本当にすみませんが、お二人はなんとお呼びすれば…?」
兄「吾輩たちこそが吾輩たちである最大にして最高の筋肉証明!筋肉兄弟という名だけでよいのだよ!」
香「そ、そうですか…ちょっと申し訳ない気もするのですが…。あとなんでお二人とも泳がずに海底を歩いてるんですかぁ…?」
弟「おそらく体脂肪率が極端に少ないせいだろうな。そうだ!お望みとあらば筋肉遊泳をお見せしよう!」
兄「ハッハ!筋肉魅了は吾輩の領分だろうに!弟よ、功を急くでないぞ?」
弟「バレていたか…流石は我が兄だな」
香「そ、そうですよ!無理しなくても、弟さんには本当に助けてもらいましたし、だからどうか…」
香「どうか気を落とさないでください、ね?」
振り返り同じ目線に降りてまで、考え込む弟を心配そうに見つめながら小首をかしげるお香。助け起こす際には筋肉理性で欲を抑えていた弟も、この時ばかりは油断のためうっかり惚れそうになってしまった。
しかしこんなところで節操を無くすものではない。気を紛らわすためにも別のことを筋肉思考する。
弟「兄よ、先ほど言っていた、『道は全てが同じというわけではない』とは?」
兄「その後話した通りだとも。吾輩たちは同じく、等しく、筋肉と共にあるが、吾輩は人々を魅了する筋肉であるのに対し、弟は人々を助ける筋肉だ。吾輩はそのどちらとも等しく尊いものであると思うぞ」
弟「人々を助ける筋肉、か…」
(やはりただ兄と同じ道を行くだけでは筋肉覚醒にたどり着けないのか…?)
香「あ、見てください!石門です!もうそろそろ竜宮城ですねぇ!」
兄「ムン?おお!なんと巨大な!」
弟「待てお香よ!同じ目線で先行すべきではない!」
お香の服装は甲羅こそ少し先が丸くなってはいるが、先の分かれた履物のような形にはできていない、故に目線の高さで泳がれてしまうと後ろがあられもないことになってしまうのだ。
兄「流石吾輩の弟よ、筋肉で頭がいっぱいの吾輩とは違い周りをよく見て気遣いができるな!」
香「あっ!す、すみませんこんな!はしたないですよね!」
弟「い、いや!気にすることはないぞ!それよりも石門だな!我に任せておけ!」
香「そ、そう!石門ですね!えと、その石門は私たち竜宮城に関係するものの許可がなければっ……て、え?」
弟「ヌンッ!!」
人の身長を三つか四つは倍するであろう巨大な石門が海中にすら大きく響くほどの音を立てて開く。
また、弟の照れ隠しがさらに力を込めさせたのは言うまでもないことである。
兄「よくやったぞ弟よ!筋肉助力こそが弟の真価!天晴なり!!」
香「ええ……いやまあ確かに加護を与えた時点で通る資格はありましたが……人の筋力でって……ええ……?」
本来は当然、海和尚や水中駕籠自身、ないしそれを先導する魔物娘の魔力で開くものであり物理的にどうこうするものではない。だがやはり、
筋肉の可能性は無限大なのである。
弟「ウ、ウム…ではお香よ、気を付けて先導してくれ」
香「は、はいぃ…」
恥ずかしさやら驚きやらで目を白黒させるお香と共に、三人は竜宮城下の町を進む。
兄「絢爛であるな!吾輩の筋肉がうずうずしておるぞ!」
香「ひ、人は選ぶかもしれませんけどね…」
こと魅了に関しては、当たり前だが魔物娘の専売特許であるが故に耐性に関してもそちらに軍配が上がり、庇護欲を持つことの多い魔物娘は魅了されないこともあるだろう。現に、そうした魔物娘と関わってきたため彼ら兄弟はいまだ未婚である。
弟「城下の歓楽街というのもあり、多くの魔物娘が泳いでいるな…男児もか」
香「はい、ここは先ほど言いましたように、乙姫様のご加護がありますので、ここの方々の……えと、その…」
弟「ム?」
香「お……お婿さん、に、なれば…その…み、皆さんと同じように泳げるようになります、よ?」
恥ずかし気に言葉を詰まらせ、はにかみながら弟を見やり頬を染める彼女の姿にまたもや不意打ちを食らい、最早弟は彼女に惚れているとしか言えぬだろう。しかし、いまだ彼の筋肉理性は強固で、彼の節操をそのままにしている。
兄「二人ともどうしたというのだ?」
顔から火を噴かんばかりに頬を染めた二人を目の前にしてもなお、兄はどこ吹く風といった様子である。
香「つ、着きました!ここが宮殿です!」
弟「なんと!煌びやかな場所だな!」
兄「吾輩の筋肉のごとく目を奪うものだな!素晴らしい!!」
香「で、では乙姫様のところへご案内しますね…」
広間に入ると、奥にて鎮座していた乙姫が別段重くもない腰を上げ、躍りかかるように三人を迎えた
姫「お香!周りの子たちが客人を連れてきたって言ってたけど、まさかこのお二人が!?すごいわね…!すごいわねぇ!!」
兄「乙姫殿!いやはや、吾輩の筋肉に早速魅せられてらっしゃるようですなぁ!かまいませんぞぉ?存分にご覧になられよ!」
姫「まぁ〜なんて美しき肉体かしら!宴よ!早速宴を始めましょう!皆の衆ー!?準備はできてるわねー!」
パチパチ、と乙姫が手を鳴らせば、次々と広間が宴のための場所へと変わっていく。ここにいる四人分の宴席、踊りのための舞台、魔力を用いているのであろうか、照明すらも、全てここにいる魔物娘たちの手によって変わりゆく
弟「話が早すぎにはございませぬか!?」
姫「美しきものは愛でるべきよ!そこには待つことも遠慮なども必要ないはずなのだわ!」
弟「な、なんと……!」
香「あはは……乙姫様は何かにつけて宴会を開きたがるんです、私に名を与えてくださった日も『命名記念よ!』って…」
兄「賑やかで良いではないか!なあ弟よ!」
弟「ウム…まあ…」
かくして始まった宴はまさしく目を見張る絢爛なものであり、出された料理や酒にも存分に舌鼓を打つものであった。
兄「いやぁ、まさしく豪華絢爛にして美の極み!流石は乙姫殿!極上のおもてなしにございますなぁ!」
姫「さあさお兄さん、ここからは二人の宴よ?わらわのもとにおいでなすって?あちらでわらわの舞を見せたいわ?」
兄「おっ!それは良いですなあ!ではこちらも吾輩とっておきの筋肉舞踊を………」
香「お二人……行っちゃいましたね」
弟(我とてお香と二人きりで愛を伝えたい、だが、お香にその気はあるのだろうか……)
「乙姫殿に無礼があれば済まない、兄も酒で気が大きくなったようだ」
香「い、いえそんな!乙姫様がお連れしていったということはきっと気に入られた証拠でしょうし、私は逆に、この後乙姫様にあのお仕事をするのかなぁって…」
嬉しいような羨ましいような、複雑な感情を言葉と表情に乗せるお香。その顔が赤く染まっているのはきっと、酒のせいだけではないのだろう
弟「仕事とな?案内以外にも何か?」
香「はい、この竜宮城の人たちにおける婚姻の儀を執り行うこともするんです。今までは私たち竜宮城の皆さんをお祝いくださっていた乙姫様もついに結ばれるのかぁって」
弟「フム…含みがあるな」
香「嫌なわけじゃないんですよ?きっと海神様も祝福してくださるはずです!ですがその、私はまだ結ばれたことがないので…」
弟「キミ程の娘がか、にわかには信じがたいな」
香「皆さん押しが強いので、そのまま強引にお婿さんを手に入れちゃうんです。でも私は…そんな勇気無くって……今こそ、この時こそ!……もう少し皆さんみたいな勇気があったらなぁ…」
なぜ自分と二人の時にこんな話をするのか、酒に酔っていたとしてもそれがわからぬ弟ではなく、彼は当然それを良しとした。
弟「盃を出すがよい、酒を注ごう、ありったけな」
香「あなたという人は、お酒も入ってるのにホントに気が回りますね……!そ、それじゃあ、お言葉に甘えちゃって…」
注がれた酒を一息で飲み干し、大きな息をついてお香は彼に正対した
「私の部屋に、来てくれませんか……?」
香「ふぅーっ、はぁーっ」
弟「足元も覚束ぬぞ、この部屋でよいのだな?」
香「はい、どうぞ、案内っ私が、えっと、案内しますので、あっ、ぅあぅっ」
弟「ムッ、危ない!」
彼も、この時ばかりはあのあと自らも酒を呷った事を悔やんだ。部屋へ入りいくつか歩を進めたところで、またもやお香の足がもつれたのだ。お香も振り返り手を伸ばすが彼の差し出した手には届かず、再び彼女は仰向けに転がってしまった。
香「あ、あらら、えへへぇ…」
弟「我としたことが……、しかし何を笑むことがある?」
香「あ、えっと、その、もう私の部屋だし、このままでもいいかなってぇ」
弟「またもあられもない姿になっているぞ?」
香「そう…ですね……こんなところでこんな状況だし、私、何されても抵抗できませんね…」
弟「よ、よしてはくれまいか、そのようなことをわざわざ…!」
香「その、弟さんにはホントに感謝してるんです、色々と、全部、ここに来ることも、来てもらうことも助けてもらっちゃって、だから、私も何かお返ししなきゃって、その、それで、だから!」
香「私にしたいこと、全部しちゃっていいですよ…?」
仰向けに転がったまま、自らの体を撫でながら熱っぽい息と視線を彼へ向ける。
それはまさしく彼にとって最後の一押しになったが、それでも彼は獣となることはなかった。
弟「勇気がないとは何だったのか、キミの言動には恐れ入ったよ。しかし、我は抵抗のできぬキミを、『襲う』ことは、それでもしたくはない!我は我として、キミをキミとして、獣とならずキミを心から全て愛したいのだ!」
香「弟…さん…、嬉しいですぅ、こんな私のことをそこまで…!」
酒の勢いも後押しし、せきを切ったように彼は想いをぶつけた。
弟「出会ったその日にこのようなことを言うべきではないのかもしれぬ、浅い想いと思うならそれでもかまわぬ、それでも!我はキミに惚れている!」
香「えっと…、こんな体制ですみませんが、私もこの想いを、心を、受け取ってほしいです、こんなことしちゃう勇気をくれたのも、やっぱりあなたなんです!あなたに、私の全てを受け止めてほしい…!」
弟「ならばこそ答えは一つ、竜宮城やその周りの人々を、善良なる人々を導き思いやるキミを、その人達ごと愛しよう!キミの全てをキミと共に、我が筋肉の全霊をもって愛してみせよう!」
なおも彼女を襲わず一人で、独力にて助け起こした彼は叫ぶ
「我は今こそ誓う!!我が筋肉の全ては人を、なによりキミを、愛するために使うと!!!」
その瞬間、竜宮城は海底にもう一つの太陽ができたのかと見まがうほどの光に包まれた。そう
筋肉覚醒である。
香「この…光は…」
弟「これは…まさか…」
光が消えてしばらく後、兄と乙姫がやってきた
兄「ついに迎えたのだな、筋肉覚醒の刻を」
姫「お香も素敵な顔よ、流れる涙すら美しいわ!」
香「あ、あれ?私、泣いて…?」
兄「無理もない、筋肉覚醒を間近で見たものは感涙するほどの衝撃だろうからな。兄としてこうも誇らしいことはないぞ!吾輩も今や、何一つ恥じるものなく涙を流している!」
弟「よしてくれ我が兄よ!確かにありがたいことではあるが……」
姫「お香に私たちの婚姻の儀を済ませてもらったら、お二人の儀は私が執り行わせてもらうわね!」
香「あっ、はぇっ!?ぅ…あ、その……!あ、ありがとうございますぅ…」
お香の顔は最早煙を噴かんばかりに赤く、最早お手上げといったところか。
弟「それにしても、これが我が筋肉道、か……」
兄「うむ、先ほど乙姫殿とまぐわいながら話していたのだが、やはり吾輩の筋肉は『美の筋肉』、弟の筋肉は『愛の筋肉』なのだろう」
弟「早速まぐわっていたのか我が兄よ…」
姫「力強い腕に抱かれながらの激しい逢瀬……ああっ!素晴らしいものね!」
兄「その様子だと、二人はまだまぐわっていなかったのだな」
弟「それが然るべきだったと!?」
姫「あら、そうに決まってるじゃない!ここは竜宮城、美と愛と悦びの場所よ?」
弟「フム……乙姫殿がそうおっしゃるならばそのように致しましょう。でしたらその、お二人は…続きに戻られては如何かと」
姫「あらそうね!早速続きをしましょう! ……そうそう、あなたももう、お香の持つもう一つのあだ名の意味、理解したかしら?」
弟「ええ、しましたとも。よくお気づきになられましたな」
姫「しばらく一緒にいるとわかるわよ?あの子ったら、わかりやすくて可愛かったわ〜、では、お二人ともごゆっくり、ね?」
弟「乙姫殿のあの勢いは確かに兄と相性が良いかもしれぬな…」
香「あはは…そこが魅力でもあるので…。えっとその、それで、先ほどの私の『お香』のもう一つの意味って…?」
弟「あまりこういう言い方はしたくなかったのだが…その…キミが欲求を抱いたときだろうか、そういう時は、なんというか…視覚だけでなく嗅覚にも訴えてくるものがあるのだ…それも我が筋肉理性で押さえつけるのも難儀するほどの、その、香りが、な」
香「ふぇっ!?お、乙姫様がそれをご存じだったってことはまさか、あの時やあの時も…!?あ、あわわ、私、はしたないこと考えてたの、バ、バレて、しかも、匂いだなんて…!」
弟「乙姫殿も可愛かったとおっしゃっていたではないか、そういうところも含め、キミは愛おしい」
香「あ、ありがとう…ございますぅ……。あ、えと、その、ということは……今も…?」
弟「ウム、そろそろ筋肉理性も限界がきた頃だ」
香「あ、わわ、え、えっと、じゃあその、あのっ!ど……どうぞ!」
弟「もちろんいきなり襲い掛かりはせぬさ、そう言っただろう?とはいえ我にもなにぶん初めてのことだ、どうなるかはわからぬが……その、失礼するぞ?」
「さて、今夜最後にお見せするのは我らが乙姫様と最も美しき筋肉を持つ男が魅せる最高の舞!」
「二人のゆく先に、真実の愛の先に、海神様のご加護と、筋肉のご加護がありますように…」
ほんのひと時、ジパングを筋肉で賑わせた筋肉兄弟、人知れず姿を消した二人は、海の底、竜宮城にて優雅にに暮らしているそうな
暑き陽の射す浜辺は、海を楽しむ人間たちとそんな人々と似ているけれどちょっと違う、美しき女性、魔物娘とが楽しく入り混じった、のどかな様相を呈していた。
そんな浜辺の奥、喧噪もほとんど届かないような場所で、
意味わからんくらい筋骨隆々な二人の男が亀を揺らしていた。
「セイ!」
「ソイ!」
「セイ!」
「ソイ!」
「セェイ!」
「ソォイ!」
「セイヤッサ!」
「ソイヤッサ!」
「どっこいしょお!」
「まだまだ行くぞ!」
「筋肉信じて!」
「筋肉高めて!」
「筋肉魅せては!」
「筋肉たかぶる!」
「ふぁ…ふゃわわわ…」
そんな二人に揺らされる亀、もとい海和尚はなすがまま、というわけでもなくあたふたしながらも勢いに合わせ左右に身を傾けている。
「かなり来たなぁ!」
「もう少しだぞぉ!」
「次で決めるぞ!」
「今だ!体重をあちらへ傾けるがよい!」
「は、はいぃ!」
「「ドッセイソイ!!」」
勢いよく半回転する海和尚の体。
しかし砂浜に叩きつけられないよう、片側の男は甲羅の淵を支え、そっと下ろす。
そんなわけで、砂浜に取られた足がもつれて仰向けに転んでしまった海和尚は助け起こされ、これにてようやく、砂浜の果てで起きた小さな騒動は解決と相成った。
ここで筋肉の塊のような連中に目を向けると、二人の男は兄弟である。
灼熱の太陽が注ぐ熱を映したような赤を身に着けた男が兄、
砂浜の奥にある美しき自然を映したような緑を身に着けた男が弟のようだ。
どちらもピッチピチの水着を履いており、最大限に筋肉を見せつけている。
厳めしくも整った二人の顔立ちは人々の人気を集めるもう一つの要因かもしれない。
兄「流石は吾輩の弟よ、よくぞ受け止めた!」
弟「おなごを勢いのままに転がすなど、我が筋肉が許さぬさ、兄よ!」
海和尚「あ、ありがとうございますぅ、なんとお礼を申せば良いか…」
(魔物娘の私がひっくり返る重さの甲羅をなんで一人で支えられたのぉ…?)
筋肉の可能性は無限大である。
兄「キミを見つけたのは吾輩の弟だ、礼ならば弟に言ってやってくれまいか」
弟「いや、大したことをしたつもりは無いとも、気にしないでくれたまえ」
海和尚「いえいえそんな!本当にありがとうございますぅ!」
兄「ハッハ!筋肉に謙遜は不要!感謝は素直に受け取っておけぃ!」
弟「兄がそういうのなら……ではともあれ、どういたしましてと伝えるとしよう」
海和尚「あ、あの…!こうして助けていただいたのも何かのご縁ですし、折角なのでお礼に竜宮城へお連れしたいと思うのですが、よ、よろしいですかぁ…?」
兄「竜宮城とな!噂には聞いたが実在するとは!」
弟「だが海の底とも聞いている、我らでたどり着けるだろうか?」
海和尚「あ、そこは私が加護を与えて呼吸ができるようにしますし、竜宮城は乙姫様の力で加護が無くても呼吸ができるんです!だ、大丈夫ですよ!」
兄「加護とやらがあれば道中も呼吸ができるのか、それは良いな!」
弟「では憂いは無いな、いざ参ろうか!」
海和尚「で、ではこちらへ…」
かくして海中の旅となった兄弟たちは、水中で呼吸できることに最初こそ戸惑ったものの、問題ないと分かった途端、我先にと言わんばかりに歩を進めた。
香「え、えと…改めまして私は海和尚の『香』(かおる)と申しますぅ、お香(おこう)とお呼びください」
兄「フゥム…良い香りがしそうだな」
弟「海中で香は焚けぬぞ我が兄よ」
兄「ハッハ!わかっておるとも!」
弟「しかし海を生きる者たちとしては確かに珍しい気もする名だな。いやすまぬ、悪く言ってはおらぬぞ?」
香「いえ、乙姫様がこのあだ名をつけてくれたんです、甲羅の『こう』から取ったのと、あともう一つ意味があるんだとか…?」
弟「自分でも理解してはおらぬのか?」
香「はい…乙姫様が秘密だと…」
兄「気を落とすことはないぞ!いつかわかる日も来ようて!ホレ、吾輩の筋肉をみて元気を出すがよい!」
香「ホ、ホントにすごい体ですよねぇお二人とも……!」
弟「我は兄ほどではないがな…兄こそは選ばれし者だ!」
このジパングにおいてはかつてあまり強大な筋肉というのは持て囃されていなかったが、そこに筋肉光明をもたらしたのがこの筋肉兄弟である。必要以上に鍛え上げられた筋肉は見る者たちを老若男女問わず筋肉魅了してきたが、魔物娘の間では評価が分かれているらしい。
人間たちを確実に筋肉魅了できるのは兄のみであり、そこには彼の身に起きた不思議な筋肉事象が関係しているようだ。
兄「鍛え上げられた筋肉を全霊をもって奮わせながら吾輩は誓った、『何者をも魅了する最高に美しき筋肉と成ってみせる』と。その時吾輩の体が目を覆わんばかりに筋肉発光し……それからだな、人々を筋肉魅了できるようになったのは」
弟「我らはあれを筋肉覚醒と呼んでいる。あの時は我も自然と涙を流していた…あまりの肉体美に筋肉感動していたのだ。我はまだその境地に至れてはいないがな、修行が足りぬ…」
香「な、何がどうしてそうなるんですかぁ…?」
兄「弟よ、吾輩と弟の目指す道は全てが同じというわけではない、弟には弟の筋肉道があるだろう?」
弟「そんな大層なものではないさ、我は筋肉に実用性を求めた、ただそれだけのことだ。それは果たして筋肉正解だったのだろうか…」
兄「筋肉道に明確な筋肉正解など無い、弟よ。その歩む道こそが弟の輝きだ!現に彼女を見つけ、助け起こし、支えていたではないか!吾輩はただそれを手伝っただけだとも!」
香「あのぅ……盛り上がっているところ本当にすみませんが、お二人はなんとお呼びすれば…?」
兄「吾輩たちこそが吾輩たちである最大にして最高の筋肉証明!筋肉兄弟という名だけでよいのだよ!」
香「そ、そうですか…ちょっと申し訳ない気もするのですが…。あとなんでお二人とも泳がずに海底を歩いてるんですかぁ…?」
弟「おそらく体脂肪率が極端に少ないせいだろうな。そうだ!お望みとあらば筋肉遊泳をお見せしよう!」
兄「ハッハ!筋肉魅了は吾輩の領分だろうに!弟よ、功を急くでないぞ?」
弟「バレていたか…流石は我が兄だな」
香「そ、そうですよ!無理しなくても、弟さんには本当に助けてもらいましたし、だからどうか…」
香「どうか気を落とさないでください、ね?」
振り返り同じ目線に降りてまで、考え込む弟を心配そうに見つめながら小首をかしげるお香。助け起こす際には筋肉理性で欲を抑えていた弟も、この時ばかりは油断のためうっかり惚れそうになってしまった。
しかしこんなところで節操を無くすものではない。気を紛らわすためにも別のことを筋肉思考する。
弟「兄よ、先ほど言っていた、『道は全てが同じというわけではない』とは?」
兄「その後話した通りだとも。吾輩たちは同じく、等しく、筋肉と共にあるが、吾輩は人々を魅了する筋肉であるのに対し、弟は人々を助ける筋肉だ。吾輩はそのどちらとも等しく尊いものであると思うぞ」
弟「人々を助ける筋肉、か…」
(やはりただ兄と同じ道を行くだけでは筋肉覚醒にたどり着けないのか…?)
香「あ、見てください!石門です!もうそろそろ竜宮城ですねぇ!」
兄「ムン?おお!なんと巨大な!」
弟「待てお香よ!同じ目線で先行すべきではない!」
お香の服装は甲羅こそ少し先が丸くなってはいるが、先の分かれた履物のような形にはできていない、故に目線の高さで泳がれてしまうと後ろがあられもないことになってしまうのだ。
兄「流石吾輩の弟よ、筋肉で頭がいっぱいの吾輩とは違い周りをよく見て気遣いができるな!」
香「あっ!す、すみませんこんな!はしたないですよね!」
弟「い、いや!気にすることはないぞ!それよりも石門だな!我に任せておけ!」
香「そ、そう!石門ですね!えと、その石門は私たち竜宮城に関係するものの許可がなければっ……て、え?」
弟「ヌンッ!!」
人の身長を三つか四つは倍するであろう巨大な石門が海中にすら大きく響くほどの音を立てて開く。
また、弟の照れ隠しがさらに力を込めさせたのは言うまでもないことである。
兄「よくやったぞ弟よ!筋肉助力こそが弟の真価!天晴なり!!」
香「ええ……いやまあ確かに加護を与えた時点で通る資格はありましたが……人の筋力でって……ええ……?」
本来は当然、海和尚や水中駕籠自身、ないしそれを先導する魔物娘の魔力で開くものであり物理的にどうこうするものではない。だがやはり、
筋肉の可能性は無限大なのである。
弟「ウ、ウム…ではお香よ、気を付けて先導してくれ」
香「は、はいぃ…」
恥ずかしさやら驚きやらで目を白黒させるお香と共に、三人は竜宮城下の町を進む。
兄「絢爛であるな!吾輩の筋肉がうずうずしておるぞ!」
香「ひ、人は選ぶかもしれませんけどね…」
こと魅了に関しては、当たり前だが魔物娘の専売特許であるが故に耐性に関してもそちらに軍配が上がり、庇護欲を持つことの多い魔物娘は魅了されないこともあるだろう。現に、そうした魔物娘と関わってきたため彼ら兄弟はいまだ未婚である。
弟「城下の歓楽街というのもあり、多くの魔物娘が泳いでいるな…男児もか」
香「はい、ここは先ほど言いましたように、乙姫様のご加護がありますので、ここの方々の……えと、その…」
弟「ム?」
香「お……お婿さん、に、なれば…その…み、皆さんと同じように泳げるようになります、よ?」
恥ずかし気に言葉を詰まらせ、はにかみながら弟を見やり頬を染める彼女の姿にまたもや不意打ちを食らい、最早弟は彼女に惚れているとしか言えぬだろう。しかし、いまだ彼の筋肉理性は強固で、彼の節操をそのままにしている。
兄「二人ともどうしたというのだ?」
顔から火を噴かんばかりに頬を染めた二人を目の前にしてもなお、兄はどこ吹く風といった様子である。
香「つ、着きました!ここが宮殿です!」
弟「なんと!煌びやかな場所だな!」
兄「吾輩の筋肉のごとく目を奪うものだな!素晴らしい!!」
香「で、では乙姫様のところへご案内しますね…」
広間に入ると、奥にて鎮座していた乙姫が別段重くもない腰を上げ、躍りかかるように三人を迎えた
姫「お香!周りの子たちが客人を連れてきたって言ってたけど、まさかこのお二人が!?すごいわね…!すごいわねぇ!!」
兄「乙姫殿!いやはや、吾輩の筋肉に早速魅せられてらっしゃるようですなぁ!かまいませんぞぉ?存分にご覧になられよ!」
姫「まぁ〜なんて美しき肉体かしら!宴よ!早速宴を始めましょう!皆の衆ー!?準備はできてるわねー!」
パチパチ、と乙姫が手を鳴らせば、次々と広間が宴のための場所へと変わっていく。ここにいる四人分の宴席、踊りのための舞台、魔力を用いているのであろうか、照明すらも、全てここにいる魔物娘たちの手によって変わりゆく
弟「話が早すぎにはございませぬか!?」
姫「美しきものは愛でるべきよ!そこには待つことも遠慮なども必要ないはずなのだわ!」
弟「な、なんと……!」
香「あはは……乙姫様は何かにつけて宴会を開きたがるんです、私に名を与えてくださった日も『命名記念よ!』って…」
兄「賑やかで良いではないか!なあ弟よ!」
弟「ウム…まあ…」
かくして始まった宴はまさしく目を見張る絢爛なものであり、出された料理や酒にも存分に舌鼓を打つものであった。
兄「いやぁ、まさしく豪華絢爛にして美の極み!流石は乙姫殿!極上のおもてなしにございますなぁ!」
姫「さあさお兄さん、ここからは二人の宴よ?わらわのもとにおいでなすって?あちらでわらわの舞を見せたいわ?」
兄「おっ!それは良いですなあ!ではこちらも吾輩とっておきの筋肉舞踊を………」
香「お二人……行っちゃいましたね」
弟(我とてお香と二人きりで愛を伝えたい、だが、お香にその気はあるのだろうか……)
「乙姫殿に無礼があれば済まない、兄も酒で気が大きくなったようだ」
香「い、いえそんな!乙姫様がお連れしていったということはきっと気に入られた証拠でしょうし、私は逆に、この後乙姫様にあのお仕事をするのかなぁって…」
嬉しいような羨ましいような、複雑な感情を言葉と表情に乗せるお香。その顔が赤く染まっているのはきっと、酒のせいだけではないのだろう
弟「仕事とな?案内以外にも何か?」
香「はい、この竜宮城の人たちにおける婚姻の儀を執り行うこともするんです。今までは私たち竜宮城の皆さんをお祝いくださっていた乙姫様もついに結ばれるのかぁって」
弟「フム…含みがあるな」
香「嫌なわけじゃないんですよ?きっと海神様も祝福してくださるはずです!ですがその、私はまだ結ばれたことがないので…」
弟「キミ程の娘がか、にわかには信じがたいな」
香「皆さん押しが強いので、そのまま強引にお婿さんを手に入れちゃうんです。でも私は…そんな勇気無くって……今こそ、この時こそ!……もう少し皆さんみたいな勇気があったらなぁ…」
なぜ自分と二人の時にこんな話をするのか、酒に酔っていたとしてもそれがわからぬ弟ではなく、彼は当然それを良しとした。
弟「盃を出すがよい、酒を注ごう、ありったけな」
香「あなたという人は、お酒も入ってるのにホントに気が回りますね……!そ、それじゃあ、お言葉に甘えちゃって…」
注がれた酒を一息で飲み干し、大きな息をついてお香は彼に正対した
「私の部屋に、来てくれませんか……?」
香「ふぅーっ、はぁーっ」
弟「足元も覚束ぬぞ、この部屋でよいのだな?」
香「はい、どうぞ、案内っ私が、えっと、案内しますので、あっ、ぅあぅっ」
弟「ムッ、危ない!」
彼も、この時ばかりはあのあと自らも酒を呷った事を悔やんだ。部屋へ入りいくつか歩を進めたところで、またもやお香の足がもつれたのだ。お香も振り返り手を伸ばすが彼の差し出した手には届かず、再び彼女は仰向けに転がってしまった。
香「あ、あらら、えへへぇ…」
弟「我としたことが……、しかし何を笑むことがある?」
香「あ、えっと、その、もう私の部屋だし、このままでもいいかなってぇ」
弟「またもあられもない姿になっているぞ?」
香「そう…ですね……こんなところでこんな状況だし、私、何されても抵抗できませんね…」
弟「よ、よしてはくれまいか、そのようなことをわざわざ…!」
香「その、弟さんにはホントに感謝してるんです、色々と、全部、ここに来ることも、来てもらうことも助けてもらっちゃって、だから、私も何かお返ししなきゃって、その、それで、だから!」
香「私にしたいこと、全部しちゃっていいですよ…?」
仰向けに転がったまま、自らの体を撫でながら熱っぽい息と視線を彼へ向ける。
それはまさしく彼にとって最後の一押しになったが、それでも彼は獣となることはなかった。
弟「勇気がないとは何だったのか、キミの言動には恐れ入ったよ。しかし、我は抵抗のできぬキミを、『襲う』ことは、それでもしたくはない!我は我として、キミをキミとして、獣とならずキミを心から全て愛したいのだ!」
香「弟…さん…、嬉しいですぅ、こんな私のことをそこまで…!」
酒の勢いも後押しし、せきを切ったように彼は想いをぶつけた。
弟「出会ったその日にこのようなことを言うべきではないのかもしれぬ、浅い想いと思うならそれでもかまわぬ、それでも!我はキミに惚れている!」
香「えっと…、こんな体制ですみませんが、私もこの想いを、心を、受け取ってほしいです、こんなことしちゃう勇気をくれたのも、やっぱりあなたなんです!あなたに、私の全てを受け止めてほしい…!」
弟「ならばこそ答えは一つ、竜宮城やその周りの人々を、善良なる人々を導き思いやるキミを、その人達ごと愛しよう!キミの全てをキミと共に、我が筋肉の全霊をもって愛してみせよう!」
なおも彼女を襲わず一人で、独力にて助け起こした彼は叫ぶ
「我は今こそ誓う!!我が筋肉の全ては人を、なによりキミを、愛するために使うと!!!」
その瞬間、竜宮城は海底にもう一つの太陽ができたのかと見まがうほどの光に包まれた。そう
筋肉覚醒である。
香「この…光は…」
弟「これは…まさか…」
光が消えてしばらく後、兄と乙姫がやってきた
兄「ついに迎えたのだな、筋肉覚醒の刻を」
姫「お香も素敵な顔よ、流れる涙すら美しいわ!」
香「あ、あれ?私、泣いて…?」
兄「無理もない、筋肉覚醒を間近で見たものは感涙するほどの衝撃だろうからな。兄としてこうも誇らしいことはないぞ!吾輩も今や、何一つ恥じるものなく涙を流している!」
弟「よしてくれ我が兄よ!確かにありがたいことではあるが……」
姫「お香に私たちの婚姻の儀を済ませてもらったら、お二人の儀は私が執り行わせてもらうわね!」
香「あっ、はぇっ!?ぅ…あ、その……!あ、ありがとうございますぅ…」
お香の顔は最早煙を噴かんばかりに赤く、最早お手上げといったところか。
弟「それにしても、これが我が筋肉道、か……」
兄「うむ、先ほど乙姫殿とまぐわいながら話していたのだが、やはり吾輩の筋肉は『美の筋肉』、弟の筋肉は『愛の筋肉』なのだろう」
弟「早速まぐわっていたのか我が兄よ…」
姫「力強い腕に抱かれながらの激しい逢瀬……ああっ!素晴らしいものね!」
兄「その様子だと、二人はまだまぐわっていなかったのだな」
弟「それが然るべきだったと!?」
姫「あら、そうに決まってるじゃない!ここは竜宮城、美と愛と悦びの場所よ?」
弟「フム……乙姫殿がそうおっしゃるならばそのように致しましょう。でしたらその、お二人は…続きに戻られては如何かと」
姫「あらそうね!早速続きをしましょう! ……そうそう、あなたももう、お香の持つもう一つのあだ名の意味、理解したかしら?」
弟「ええ、しましたとも。よくお気づきになられましたな」
姫「しばらく一緒にいるとわかるわよ?あの子ったら、わかりやすくて可愛かったわ〜、では、お二人ともごゆっくり、ね?」
弟「乙姫殿のあの勢いは確かに兄と相性が良いかもしれぬな…」
香「あはは…そこが魅力でもあるので…。えっとその、それで、先ほどの私の『お香』のもう一つの意味って…?」
弟「あまりこういう言い方はしたくなかったのだが…その…キミが欲求を抱いたときだろうか、そういう時は、なんというか…視覚だけでなく嗅覚にも訴えてくるものがあるのだ…それも我が筋肉理性で押さえつけるのも難儀するほどの、その、香りが、な」
香「ふぇっ!?お、乙姫様がそれをご存じだったってことはまさか、あの時やあの時も…!?あ、あわわ、私、はしたないこと考えてたの、バ、バレて、しかも、匂いだなんて…!」
弟「乙姫殿も可愛かったとおっしゃっていたではないか、そういうところも含め、キミは愛おしい」
香「あ、ありがとう…ございますぅ……。あ、えと、その、ということは……今も…?」
弟「ウム、そろそろ筋肉理性も限界がきた頃だ」
香「あ、わわ、え、えっと、じゃあその、あのっ!ど……どうぞ!」
弟「もちろんいきなり襲い掛かりはせぬさ、そう言っただろう?とはいえ我にもなにぶん初めてのことだ、どうなるかはわからぬが……その、失礼するぞ?」
「さて、今夜最後にお見せするのは我らが乙姫様と最も美しき筋肉を持つ男が魅せる最高の舞!」
「二人のゆく先に、真実の愛の先に、海神様のご加護と、筋肉のご加護がありますように…」
ほんのひと時、ジパングを筋肉で賑わせた筋肉兄弟、人知れず姿を消した二人は、海の底、竜宮城にて優雅にに暮らしているそうな
21/11/20 21:26更新 / 海の若葉茶