僕は今から、魔物と取引をする。この取引に応じれば、僕を蝕む不治の病を治すことが出来る......かもしれないからだ。

　取引相手はイルネスというペイルライダー。病魔だ。病気を治すために病魔と取引をする。変な話だとは思うが、無理に理屈を付けるなら、目に目を、歯には歯を、病気には病気を。と言った所か。


「それじゃあシック。早速あなたを蝕む不治の病を取り込ませてもらうわね」
「あ、ああ......」
「そんなに緊張しないで、痛みは全くないわ」

　ベッドの右側で寝たきりの僕を立って見下ろすイルネスは安心させるような声と笑みで僕の質問に答えた。

「それじゃあ始めるわね」

　イルネスはそう言うと、ゆっくりと目を瞑りながら、顔を近づけてきた。これはまさか！

「ちょっと待て！」
「んもー、なによー？やっぱり死にたくなったの？」

　重病人に対して不謹慎極まりないことをさらっと言いながら、イルネスは渋々僕に迫る顔を止めた。今彼女の顔は僕の顔の超至近距離にある。この距離で見ると嫌でもイルネスは美人だと思う。病魔であることを差し引いても。

　そして、男女でここまで顔を近づけてすることといえば一つしかない。

「いや、その、このやり方しかないのか？」
「ええ、もしかして初めて&heart;？」
「それは......まあ......寝たきりだったし」

　というか、病人とキスしたら感染の危険性があるし、それ以前に街の奴らには忌み嫌われてるし。

「そう、可哀想に」
「ほっとけ」

　小悪魔のような笑みで揶揄うイルネスに僕はわずかなイラつきを抑えて言い返す。

「でも、私たちは夫婦になるんだから、些細なことよ」
「そう......だったな」

　そうだ、僕は不治の病を治してもらう代わりに、イルネスを伴侶にするんだった。会ったばかりでどんな人かも知らずに結婚する。冷静になって考えてみれば、圧倒的にこっちが不利な取引だ。

「フフッ&heart; それじゃあ、治療開始♪」
「っ！」

　そして、僕は今、魔物に唇を奪われた。分かってたとはいえ、僕の頭は真っ白になった。これが魔物の、イルネスの唇......！すごく柔らかい......

「......っはぁ」

　人生初めての濃密なキスが十秒ほど続くと、イルネスの唇が離れた。少しだけ名残り惜しい。

「うーん、あなたの不治の病はかなり厄介ね、中々取り込めないわ」
「なら、取引は無しか？」
「分かってるわよ、こうなったら本気でいくまでよ」

　すると、今度は僕の身体の上に乗っかってきた。彼女の豊満な胸が満遍なく当たって、思わず気がいってしまう。

「あら？フフフッ、気になる&heart;？」

　僕の視線に目ざとく気付いたイルネスは僕を妖艶に揶揄う。

「......別に」
「誤魔化さなくてもいいわ。何なら後で触らせてあげましょうか？♥」
「揶揄うな」
「本気よ？それじゃあ治療再開♪」
「っん！」

　僕はまたイルネスに唇を奪われた。しかも、さっきよりも激しく、うねるように舌を入れられた。所謂ディープキスだ。

「ん......っん......ん...はぁ......っん......」

　イルネスの舌が僕の舌に纏わりついてくる...... すごく息苦しい筈だが、イルネスの柔らかい唇と蛇のようにうねる舌が、堪らなく気持ちいい......！

　ってあれ！？身体が徐々に軽くなっていくのを感じる。まさか、イルネスが病を取り込めているからか！

「っん...んんっ！......ちゅっ！...んっ......んんっ」

　だが、身体が軽くなるのと比例してイルネスのキスはどんどん激しくなっていく。呼吸が、しにくい......！

「んんんっ！...んっ！ちゅっ！！じゅるるる！......じゅる......！」

　ねばっこい水音が激しく下品に鳴り響く。ヤバい！アソコが勃って...... ってあれ？　勃ってきてる！？

　僕は不治の病になって以来、朝勃ちもしなくなってしまった。本当に......治ってきてるのか！？

　僕は......生きられるのか！？

　死を待つだけの人生で初めての期待と喜び。これらが僕の心を満たしていった。

　すると、激しかったイルネスのキスが徐々に落ち着いていき、やがて、イルネスの唇が離れた。その時、僕とイルネスの混ざり合った唾液が糸を引いていた。

「ハァ......治療完了♪あなたを蝕んでいた不治の病は完全に取り込めたわよ」
「ハァ...ハァ... それじゃあ」
「フフッ、自分で確かめてみたら？」

　言われた通り、僕は寝たきりで動く筈のない身体を起こそうとした。すると、衝撃だった！

「驚いた、身体がすごく軽い！」

　僕はベッドのうえで上半身だけ起こし、腕や足を動かしてみる。というか動く！

　さっきまで指先一つピクリとも動かなかった僕の身体は、今普通に動いている！僕の思う通りに！！

「フフッ、良かったわね♪」
「ああ！イルネス、なんと言えばいいか......」
「お礼なら取引の通りのものを頂くわよ、“あなた”をね」

　イルネスは大人の女性さながらの余裕の笑みを浮かべつつ、期待の篭った眼差しで僕を見つめてる。

「ああ......分かってる......」
「そんな嫌そう顔しないでよー、こっちは命を助けてあげたのよ？」

　そうは言ってもイルネスは魔物だ。魔物と結婚している人は地域によってはそう珍しい存在ではないが、この街は反魔物の思想を掲げてる。そんなこの街で魔物と、ましてや病魔なんか結婚すれば、僕はいよいよこの街にいられなくなるだろう。

　そもそもイルネスはどうやってこの街に入り込んだんだ？

「それにしても......&heart;」
「ん？」
「ここが一番元気になったわね&heart;」
「イ、イルネス...... ああ.......」

　僕の大きく勃起したイチモツをイルネスがズボンの上からなぞる。僕は戸惑いつつも数年ぶりの勃起に嬉しくもあった。

「フフッ&heart; ちょうどいいわ。病み上がりで悪いけど」
「イルネス！？」

　イルネスが黒い鎧を全て脱いだ......

「結婚初夜♥ 楽しみましょ♥」

■作者メッセージ
大変長らくお待たせ致しました！😅🙇
1話の反響が良かった分、2話目でスランプ気味になっちゃいまして......😅
どうにかスランプ乗り越えます！👍
良ければコメント書いてください！🙇