病魔の朝食
「うーん......あれ?朝?」
昨日はいつの間にか眠ってしまったようだ。とりあえず上半身を起こした。
しかし何故だ?昨日の夜の記憶があやふやだ。イルネスに不治の病を治してもらって、それから......
「あらシック。ようやく起きたのね。おはよう」
「イルネス...... お、おはよう......」
「と言っても、もうお昼だけど」
まだ目覚めていない頭を強引に動かして思い出そうとしていたら、まさに昨日の出来事の中心にいた病魔が、久しく使っていない暖炉の炎の前で屈んで、首だけを僕の方に向けて、しっとりとした声で朝の挨拶をしてきた。
誰かに“おはよう”なんて言われたのは久しぶりだったから、少し戸惑ってしまった。
それにしても、僕、昼まで寝てたのか......何だか時間を無駄にした気分だ。
「起きてすぐに何考え込んでるの?」
「えっ?」
「難しい顔が出てるわよ?」
「ああ......」
イルネスは穏やかな笑みを浮かべながら、難しい顔をしているらしい僕にそう指摘した。
そういえばそうだった。僕はとにかく顔に出やすいらしく、不治の病に罹る前は友達にそれでよくからかわれた。友達だと思ってた奴らに......
「まあいいわ。ほら、もうすぐ昼ご飯出来るわよ」
「えっ?昼ご飯?」
「私特製のコンソメスープよ」
ああ、さっきから良い匂いがすると思ったらそれか。長いこと使ってない鍋が、これまた長いこと使って暖炉の炎で温められて湯気で出ていた。さらにそこから香る美味しそうなコンソメの匂いが食欲をそそる。
無意識に匂いを堪能していると、突然部屋に重低音が響いた。
「あぁ......!」
「あら?」
食欲に負けたのか、僕の空っぽの胃袋が大きく鳴ってしまった。その音は目の前にいるイルネスにもしっかり聞かれてしまっていて、恥ずかしさから頭が真っ白になって、身体も静止してしまった。
「フフフッ!シックったら可愛い♥」
そんな僕に気を遣う気配もないイルネスは笑いながら僕を揶揄う。
しかし、その笑みは昨夜に見せた魔物らしい妖艶な笑みではなく、穏やかな女性らしい笑みで、少しだけ胸が高鳴ってしまった。
「ほら、さっさとベッドから出る。あなたはもう病人じゃないのよ?」
「あ、ああ......」
とりあえず、イルネスの言う通りにベッドから出ようとする。
すると、昨日までは寝返りすら打てなかったのに、いとも簡単に起き上がれた。身体もとても軽い。
僕は久しく忘れていた健康な状態を確かめるために、手と腕を開いたり閉じたり、その場で小走りしてみたりと、自分の身体を隅々まで動かしてみた。
そして、改めて実感した。
不治の病は治った。もう寝たきりで死を待つ必要もない。生きていけるんだ!
「フフッ、気分はどうかしら?」
いつの間にか、顔だけをこっちに向けて確信めいた笑みを浮かべるイルネスの問いに自信を持って答える。
「最高だ!」
「そう。なら良かったわ」
僕の言葉にイルネスは満足そうに微笑むと、また暖炉と鍋の方に向き直った。
しかし、本当にいい匂いだな。ますます腹が減ってきた。
「あと、どれぐらいで出来る?その......コンソメスープ」
「もう少しよ。座って待ってて」
「ああ、分かった」
イルネスに言われた通り、僕は木材のテーブルの前にある木材の椅子に座った。この椅子とテーブルも長らく使っていない。懐かしい座り心地だ。
そして、テーブルの上には木のスプーンが僕の目の前と向かいの二つ置いてあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕がこの椅子に座って数分が経った。
イルネスは湯気と香りが立つ鍋の中のコンソメスープを木のスプーンですくい上げると、フゥフゥと冷まして口に入れた。
......というか今気付いたが、なんでうちの物を当たり前のように使ってるんだ...... よく見たら包丁とまな板も使われてるし......
「うん!出来たわよ!」
味見のリアクションを見るに、納得のいく味のスープが作れたようだ。
まあ、彼女は命の恩人の訳だし、些細なことか。
それよりも、僕はかなりお腹が空いてる。早く食べたい。
「待ってて、今シックのを用意するわ」
イルネスは美味しそうな匂いが立ち込める鍋の方を向きながら、僕にそう言うと、うちの木のオタマで美味しそうな湯気と匂いが立つコンソメスープをすくいあげ、これまたうちの木の皿に注いだ。
そして、湯気と匂いが立つコンソメスープが入った皿を僕の前のテーブルに置いた。
「はいシック!」
「おお......!」
ちゃんとしたご飯、ましてや誰かに作ってもらうのなんて久しぶりだ......
目の前に出されたコンソメスープは細かく切られた野菜が入っていて、ぱっと見、病人でも食べやすそうなものだった。
ああ、でも僕はもう病人じゃないんだった。
「これも一緒に食べてね」
「これは......バゲット?」
「コンソメスープだけじゃ物足りないでしょ?」
確かにコンソメスープに浸して食べても美味そうだが、うちにバゲットなんてあるはずがない。なぜなら、長いこと外出していないし、仮にうちにパンがあったとしても、カビだらけで食えたものではないはずだ。
「いや、そもそもこれどこで......?」
「パン屋で買ってきたのよ。シックが寝てる間にね」
「えっ!? 買ってきた!?」
「そうよ?なに驚いてるのよ?」
「この街は昔から主神教団の庇護下にあるんだぞ!?」
「ああ、通りで教団の騎士が街を巡回してるわけね」
「奴らが街を巡回してるのは、魔物が街に潜んでいないかどうかの確認と、万が一魔物が潜んでいた場合に即抹殺するためだ!」
「ふーん、典型的な主神教団の在り方ね。魔物をすぐ殺そうとするのを除けば......」
「は?」
彼女は何を言ってるんだ?主神教団は魔物を見境なく殺す。冷酷且つ残虐な集団の筈だろ?
「それってどういう———?」
「続きは食べながら話しましょ?せっかくのスープが冷めちゃうわ。今日はよりを掛けて作ったんだから」
「えっ?ああ......」
目の前のご馳走をすっかり忘れていた。彼女の言う通り、目の前の美味しそうなコンソメスープが冷めたら勿体無い。
聞きたいことは全て、この朝食の間に聞き出そう。
彼女の正体も含めて......
昨日はいつの間にか眠ってしまったようだ。とりあえず上半身を起こした。
しかし何故だ?昨日の夜の記憶があやふやだ。イルネスに不治の病を治してもらって、それから......
「あらシック。ようやく起きたのね。おはよう」
「イルネス...... お、おはよう......」
「と言っても、もうお昼だけど」
まだ目覚めていない頭を強引に動かして思い出そうとしていたら、まさに昨日の出来事の中心にいた病魔が、久しく使っていない暖炉の炎の前で屈んで、首だけを僕の方に向けて、しっとりとした声で朝の挨拶をしてきた。
誰かに“おはよう”なんて言われたのは久しぶりだったから、少し戸惑ってしまった。
それにしても、僕、昼まで寝てたのか......何だか時間を無駄にした気分だ。
「起きてすぐに何考え込んでるの?」
「えっ?」
「難しい顔が出てるわよ?」
「ああ......」
イルネスは穏やかな笑みを浮かべながら、難しい顔をしているらしい僕にそう指摘した。
そういえばそうだった。僕はとにかく顔に出やすいらしく、不治の病に罹る前は友達にそれでよくからかわれた。友達だと思ってた奴らに......
「まあいいわ。ほら、もうすぐ昼ご飯出来るわよ」
「えっ?昼ご飯?」
「私特製のコンソメスープよ」
ああ、さっきから良い匂いがすると思ったらそれか。長いこと使ってない鍋が、これまた長いこと使って暖炉の炎で温められて湯気で出ていた。さらにそこから香る美味しそうなコンソメの匂いが食欲をそそる。
無意識に匂いを堪能していると、突然部屋に重低音が響いた。
「あぁ......!」
「あら?」
食欲に負けたのか、僕の空っぽの胃袋が大きく鳴ってしまった。その音は目の前にいるイルネスにもしっかり聞かれてしまっていて、恥ずかしさから頭が真っ白になって、身体も静止してしまった。
「フフフッ!シックったら可愛い♥」
そんな僕に気を遣う気配もないイルネスは笑いながら僕を揶揄う。
しかし、その笑みは昨夜に見せた魔物らしい妖艶な笑みではなく、穏やかな女性らしい笑みで、少しだけ胸が高鳴ってしまった。
「ほら、さっさとベッドから出る。あなたはもう病人じゃないのよ?」
「あ、ああ......」
とりあえず、イルネスの言う通りにベッドから出ようとする。
すると、昨日までは寝返りすら打てなかったのに、いとも簡単に起き上がれた。身体もとても軽い。
僕は久しく忘れていた健康な状態を確かめるために、手と腕を開いたり閉じたり、その場で小走りしてみたりと、自分の身体を隅々まで動かしてみた。
そして、改めて実感した。
不治の病は治った。もう寝たきりで死を待つ必要もない。生きていけるんだ!
「フフッ、気分はどうかしら?」
いつの間にか、顔だけをこっちに向けて確信めいた笑みを浮かべるイルネスの問いに自信を持って答える。
「最高だ!」
「そう。なら良かったわ」
僕の言葉にイルネスは満足そうに微笑むと、また暖炉と鍋の方に向き直った。
しかし、本当にいい匂いだな。ますます腹が減ってきた。
「あと、どれぐらいで出来る?その......コンソメスープ」
「もう少しよ。座って待ってて」
「ああ、分かった」
イルネスに言われた通り、僕は木材のテーブルの前にある木材の椅子に座った。この椅子とテーブルも長らく使っていない。懐かしい座り心地だ。
そして、テーブルの上には木のスプーンが僕の目の前と向かいの二つ置いてあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕がこの椅子に座って数分が経った。
イルネスは湯気と香りが立つ鍋の中のコンソメスープを木のスプーンですくい上げると、フゥフゥと冷まして口に入れた。
......というか今気付いたが、なんでうちの物を当たり前のように使ってるんだ...... よく見たら包丁とまな板も使われてるし......
「うん!出来たわよ!」
味見のリアクションを見るに、納得のいく味のスープが作れたようだ。
まあ、彼女は命の恩人の訳だし、些細なことか。
それよりも、僕はかなりお腹が空いてる。早く食べたい。
「待ってて、今シックのを用意するわ」
イルネスは美味しそうな匂いが立ち込める鍋の方を向きながら、僕にそう言うと、うちの木のオタマで美味しそうな湯気と匂いが立つコンソメスープをすくいあげ、これまたうちの木の皿に注いだ。
そして、湯気と匂いが立つコンソメスープが入った皿を僕の前のテーブルに置いた。
「はいシック!」
「おお......!」
ちゃんとしたご飯、ましてや誰かに作ってもらうのなんて久しぶりだ......
目の前に出されたコンソメスープは細かく切られた野菜が入っていて、ぱっと見、病人でも食べやすそうなものだった。
ああ、でも僕はもう病人じゃないんだった。
「これも一緒に食べてね」
「これは......バゲット?」
「コンソメスープだけじゃ物足りないでしょ?」
確かにコンソメスープに浸して食べても美味そうだが、うちにバゲットなんてあるはずがない。なぜなら、長いこと外出していないし、仮にうちにパンがあったとしても、カビだらけで食えたものではないはずだ。
「いや、そもそもこれどこで......?」
「パン屋で買ってきたのよ。シックが寝てる間にね」
「えっ!? 買ってきた!?」
「そうよ?なに驚いてるのよ?」
「この街は昔から主神教団の庇護下にあるんだぞ!?」
「ああ、通りで教団の騎士が街を巡回してるわけね」
「奴らが街を巡回してるのは、魔物が街に潜んでいないかどうかの確認と、万が一魔物が潜んでいた場合に即抹殺するためだ!」
「ふーん、典型的な主神教団の在り方ね。魔物をすぐ殺そうとするのを除けば......」
「は?」
彼女は何を言ってるんだ?主神教団は魔物を見境なく殺す。冷酷且つ残虐な集団の筈だろ?
「それってどういう———?」
「続きは食べながら話しましょ?せっかくのスープが冷めちゃうわ。今日はよりを掛けて作ったんだから」
「えっ?ああ......」
目の前のご馳走をすっかり忘れていた。彼女の言う通り、目の前の美味しそうなコンソメスープが冷めたら勿体無い。
聞きたいことは全て、この朝食の間に聞き出そう。
彼女の正体も含めて......
25/11/27 01:25更新 / 魔物娘愛好家
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