第二話 桜色プロローグ その2
「やっとお会いできました。遅くなってしまいましたが、このサクラ・スプリングフィールド、冬真様との約束を果たしに戻ってきました」
「…………は?」
日を追うごとに段々と冷え込みが厳しくなってきた年の暮れ。
そんな季節に似合わない満開の桜の木の前で、優雅にお辞儀をするメイド服の少女の言葉に、ついそんな声を出してしまった。
真冬に満開の桜、メイド服を着た少女、しかも何故か俺の名前を知っている……駄目だ、頭の処理が追い付かない。あれか、「あ、君どこかで会ったことあるよね。うんうん、どっかであった、どこだかは思い出せないけど!」って言いつつ、最終的には壺か胡散臭い本買わされる奴か、そうかそうか、きっとそうに違いない。
「ということで今日から早速冬真様の身の回りのお世話をさせていただきますね!」
「さようなら」
宗教勧誘より関わってはいけないタイプだった。
こういう時はさっさと距離を取るに越したことはない。古事記にだってそう書かれているに違いない。やってられるか俺は家に帰らせてもらうと、CM明けには死体となって発見されそうなことを脳内で言いながら、後ろに方向転換しようとしてーー
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
目を離した瞬間に距離を詰められ袖をつかまれていた。どうやらこれからノーカットでひどい目に合うらしい。
「お、覚えてないんですか!?」
「無い」
「即答!!!」
ほぼ9割がた反射神経で発した言葉にやや涙目になる少女。頼むからコートの裾を掴まないでほしい。
「……というか、なんで俺の名前を知ってるんだ」
「うぅ、本当に忘れちゃったんですね……分かりました思い出すまで、私とご主人様の馴れ初めをじっくりとですね!」
「いや、いいです」
「少しは興味を持って下さいよぉ!」
「いや、話長そうだなって。「長くないですよぉ!」……まぁ、手短にな。あと手を放して」
俺の言葉に、途端に花が咲いたように笑顔になる少女。
「了解です、えっとどこから話しましょうか……」
話をまとめようとしているのか、少し考えこむ少女。しばらくして
「あ、やっぱり話長くなりそうです、すみません」
その口からどんな話が飛び出すのかと、恐々とした面持ちで待っていたが、開口一番出てきたのは間の抜けたような言葉だけで。シリアスな雰囲気に入りかけていた俺が馬鹿らしくなってきた。……って、やっぱ話長くなるんじゃないか。そんなのことを思いつつ、仕方がなく彼女の話に耳を傾けるのであった。
※※※
「……と、私の居た世界の話はこんな感じでしょうか」
「神に勇者に、サキュバスの魔王ねぇ……」
メイド服の少女……サクラの世界の話が終わり、すっかり頭や肩に積もってしまった桜の花びらを払う。
よほど俺が怪訝そうな顔つきだったのか、途中で証拠を見せますと息巻いてスカートをめくり、下半身を見せつけて来た時は驚いたが、太もも付近まで覆われた鳥の鱗のような皮膚を見たらさすがに信じるしかなかった。だから最初に見せてくれた犬耳をよく出来たコスプレって言ったことは怒らないでほしい。
「えっとですね、私たちの世界では神様がいて、魔物を含むすべての生物を作ったのはお話ししましたね」
「あぁ、サキュバス種の現魔王に代替わりしたってやつだろ」
「えぇ、そうです。それまで人間たちの捕食者だった魔物という種族は一転し、現魔王様と同じく人間を愛し、愛されることを至上とする存在に変わったのですが……ここで問題が一つ、はいご主人様!」
「生まれてくる子供は魔物しか生まれず、しかも性別は女固定。あとご主人様はやめて」
「正解ですご主人様!サクラちゃんポイント1点あげちゃいます」
なんだこの茶番。後サラッとまたご主人様呼びしてるじゃん。
「ちなみに10点溜まると豪華賞品が!」
笑〇かよ、というツッコミをどうにか飲み込んで……というか、ツッコんでも無駄だと思いスルーを決め込んだ。
「あぁ、すみません話がすっかり脱線してしまいましたね」
「まぁ、なんでそんな別世界の私が冬真様のことを知っているかといいますと――」
ざぁっと、柔らかな風が積もった花びらと粉雪をふわりと舞い上げ運んで来た。そんな普通であれば、心奪われるような景色の中
「へ……っくっしょん」
「大丈夫ですか?」
「……まだまだ長くなりそうだし、とりあえず家に行こうか」
突然出てしまったくしゃみに張りつめていたものが無くなり、照れ隠しにそんなことを口走ってしまっていて。失敗したと思ったが満面の笑みを浮かべて喜ぶサクラの姿を見て警戒するのもなんだか馬鹿らしくなってしまい、ため息と共に家に向かってきた道を引き返し始めた。
あぁ、温かいコーヒーと、こたつが恋しい。吐き出された白い息を横目に見ながら心の底からそう思うのであった。
「…………は?」
日を追うごとに段々と冷え込みが厳しくなってきた年の暮れ。
そんな季節に似合わない満開の桜の木の前で、優雅にお辞儀をするメイド服の少女の言葉に、ついそんな声を出してしまった。
真冬に満開の桜、メイド服を着た少女、しかも何故か俺の名前を知っている……駄目だ、頭の処理が追い付かない。あれか、「あ、君どこかで会ったことあるよね。うんうん、どっかであった、どこだかは思い出せないけど!」って言いつつ、最終的には壺か胡散臭い本買わされる奴か、そうかそうか、きっとそうに違いない。
「ということで今日から早速冬真様の身の回りのお世話をさせていただきますね!」
「さようなら」
宗教勧誘より関わってはいけないタイプだった。
こういう時はさっさと距離を取るに越したことはない。古事記にだってそう書かれているに違いない。やってられるか俺は家に帰らせてもらうと、CM明けには死体となって発見されそうなことを脳内で言いながら、後ろに方向転換しようとしてーー
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
目を離した瞬間に距離を詰められ袖をつかまれていた。どうやらこれからノーカットでひどい目に合うらしい。
「お、覚えてないんですか!?」
「無い」
「即答!!!」
ほぼ9割がた反射神経で発した言葉にやや涙目になる少女。頼むからコートの裾を掴まないでほしい。
「……というか、なんで俺の名前を知ってるんだ」
「うぅ、本当に忘れちゃったんですね……分かりました思い出すまで、私とご主人様の馴れ初めをじっくりとですね!」
「いや、いいです」
「少しは興味を持って下さいよぉ!」
「いや、話長そうだなって。「長くないですよぉ!」……まぁ、手短にな。あと手を放して」
俺の言葉に、途端に花が咲いたように笑顔になる少女。
「了解です、えっとどこから話しましょうか……」
話をまとめようとしているのか、少し考えこむ少女。しばらくして
「あ、やっぱり話長くなりそうです、すみません」
その口からどんな話が飛び出すのかと、恐々とした面持ちで待っていたが、開口一番出てきたのは間の抜けたような言葉だけで。シリアスな雰囲気に入りかけていた俺が馬鹿らしくなってきた。……って、やっぱ話長くなるんじゃないか。そんなのことを思いつつ、仕方がなく彼女の話に耳を傾けるのであった。
※※※
「……と、私の居た世界の話はこんな感じでしょうか」
「神に勇者に、サキュバスの魔王ねぇ……」
メイド服の少女……サクラの世界の話が終わり、すっかり頭や肩に積もってしまった桜の花びらを払う。
よほど俺が怪訝そうな顔つきだったのか、途中で証拠を見せますと息巻いてスカートをめくり、下半身を見せつけて来た時は驚いたが、太もも付近まで覆われた鳥の鱗のような皮膚を見たらさすがに信じるしかなかった。だから最初に見せてくれた犬耳をよく出来たコスプレって言ったことは怒らないでほしい。
「えっとですね、私たちの世界では神様がいて、魔物を含むすべての生物を作ったのはお話ししましたね」
「あぁ、サキュバス種の現魔王に代替わりしたってやつだろ」
「えぇ、そうです。それまで人間たちの捕食者だった魔物という種族は一転し、現魔王様と同じく人間を愛し、愛されることを至上とする存在に変わったのですが……ここで問題が一つ、はいご主人様!」
「生まれてくる子供は魔物しか生まれず、しかも性別は女固定。あとご主人様はやめて」
「正解ですご主人様!サクラちゃんポイント1点あげちゃいます」
なんだこの茶番。後サラッとまたご主人様呼びしてるじゃん。
「ちなみに10点溜まると豪華賞品が!」
笑〇かよ、というツッコミをどうにか飲み込んで……というか、ツッコんでも無駄だと思いスルーを決め込んだ。
「あぁ、すみません話がすっかり脱線してしまいましたね」
「まぁ、なんでそんな別世界の私が冬真様のことを知っているかといいますと――」
ざぁっと、柔らかな風が積もった花びらと粉雪をふわりと舞い上げ運んで来た。そんな普通であれば、心奪われるような景色の中
「へ……っくっしょん」
「大丈夫ですか?」
「……まだまだ長くなりそうだし、とりあえず家に行こうか」
突然出てしまったくしゃみに張りつめていたものが無くなり、照れ隠しにそんなことを口走ってしまっていて。失敗したと思ったが満面の笑みを浮かべて喜ぶサクラの姿を見て警戒するのもなんだか馬鹿らしくなってしまい、ため息と共に家に向かってきた道を引き返し始めた。
あぁ、温かいコーヒーと、こたつが恋しい。吐き出された白い息を横目に見ながら心の底からそう思うのであった。
20/03/30 00:33更新 / ツキシマ
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