連載小説
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俺とジパングへの旅立ち?
「あのー、リーナさん。カナメは何をやっているんでしょうか・・・?」
「さあ?」
 昨日は久しぶりにぐっすりと寝ることができ、朝も清清しく目覚めることはできた。できたのだが・・・
「・・・なんであいつはパンツ一枚なんだ・・・?」
 カナメは何故か店の中に入ってこず、酒場の前にある街灯にこちらに背を向けて、パンツ一枚で体育座りをしている。心なしか『ズーン・・・』という効果音が似合いそうだ。
「昨日放置されたからじゃないのか?」
「あ、ヘルさんおはようッス」
放置・・・?そういえば昨日は確かヘルさんの歓迎会のときにはいなかったような。
「完全に忘れてるわね」
「うーん・・・あ!」
そうだ!ヘルさんの入居が決まったときにまだあいつは誤爆した影響で動けなかったんだ。すっかり忘れてた。でも・・・
「忘れていたとはいえ、何であいつはパンツ一枚に・・・?」
謎だ。いったい一晩のうちに何があったのか。
「ちょっと俺行ってきます」
まったく何を考えてるんだカナメは・・・!?
「・・・・・・(グスッ)」
泣いてるー!?しかもこの人、目の周りが真っ赤だよ!?一晩中泣いていたのか!?
「あのー、カナメさん・・・?」
「・・・・・・」
「昨日は悪かった!!」
深く頭を下げて誠心誠意謝罪する俺。まさかここまでメンタルにダメージがいっていたとは・・・
「・・・・・・私なんかほっといてリースリットのとこにいけばいいだろ、友達いっぱいのリア充恭一」
「いや・・・あの・・・」
「・・・リア充なんて死ねばいいんだ・・・」
・・・駄目だこの人。完全に人間不信になってる。まあ、友達と呼べる人がいないのは自業自得なきがするが。
「・・・どうせ私なんてバカでアホで間抜けでどうしようもなく、とりえが顔と呪術だけのクソッたれバカチンなんだ・・・もう放って置いてくれ・・・」
昨日俺が言ったせりふを丸々覚えてるよこの人!相当根にもたれてるじゃん!何かいろいろ被害妄想も膨らんでるけど!
「いや、あれは言葉のあやというか・・・やっちゃったゼ☆」
「・・・・・・」
完全無視だー!いつも自分が言っていることなのに完全無視だ!っていうかどうするのこの人、周囲の視線が凄い痛いんだけど!
「・・・ごはん」
「あ、リューおはよ」
「・・・・・・(コクン)」
「・・・決して恭一から『おはよ』と気軽に声をかけてもらえない、誰も信頼できる仲間がいない惨めで無様な私・・・」
「「・・・・・・」」
なんかどんどん手に負えなくなっている気がする。なんか些細な一言でどんどん心を抉ってるだけのような。いま『死ね!』っていったら確実に死ぬよこの人。
「・・・・・・」
「お、おい!どこに行くんだよ!」
「今更いい人ぶるなよ!このリア充が!」
「別に俺リア充じゃねーし!」
「煩い黙れ!お前なんか大怪我負ったのに仲間に放置された挙句、一晩中スライムに逆レイプされればいいんだ!!」
「朝からなんて単語を大声で言ってるんだお前は!!」
しかもスライム相手なんて冗談じゃない!デビルバグよりましだけどさ!
「・・・お前、昨日一晩中スライムに逆レイ○されたのか・・・?」
コクンとうなずくカナメ。うわぁ・・・なんか気まず過ぎてこいつの顔を直視できない。まさかそんなことになるなんて、それにだからいつもの巫女装束は着てないでパンツ一枚なのか。納得納得。
「お前達は何をやってるんだ・・・」
「リ、リースリット様!?外にでて大丈夫なんですか!?」
「舐めるなよ、全然大丈夫じゃない」
「・・・そうですか」
「ほら、そこのバカ、早く店の中に入れ」
「・・・・・・」
特に反応はしなかったが、おとなしく店に入るカナメ。実は打たれ弱かったり?






五分後、いつもどおりの巫女装束に着替えたカナメを加えて、リースリット様が話し始めた。
「今日来たのはほかでもない、先ずリーナ」
「ん?何かしら」
「ヘルの住居の提供、感謝する」
うんうんさすがリースリット様、そこらのヴァンパイアとは違うな・・・頭はさすがに下げないけど。
「よかったな!ホームレスにならなくて!」
「お前が住居を壊したんだろう!」
カナメの余計な一言で怒声を上げるリースリット様。っていうか復活早いなオイ。
「ちょっと、机壊さないでね?」
「だ、大丈夫だ・・・たぶん」
ギロッとカナメをにらみつけるリースリット様。本当に相性悪いなあ、この二人。
「次に恭一と、この街一の馬鹿に用事がある」
「呼んでるぞ?リュー」
「・・・・・・」
声も出さず鋭い爪でカナメの顔面を引っかくリュー。「うがあぁぁ」とうめき声を上げて転げまわるカナメはなかなか滑稽だ。
「で、何をすればいいんです?」
カナメに構っていたらいつまでたっても話は進まない。こういうのは無視してとっとと進めるのが吉だろう。スルーだって立派な処世術だ。
「昨晩から下水道から奇妙なうめき声が聞こえると、下水道に済むバブルスライムから苦情があってな」
「『お前の体臭の方が迷惑だ!』って言い返してきたと」
「リュー」
「・・・・・・」
リースリット様の一声で再び爪で顔を引っかくリュー。なるほど、こういう風に対処すれば邪魔されずに済む。リースリット様もそこらへんを考えてここにわざわざ来たのだろう。
「恭一には申し訳ないが、下水道に行って、その正体を調べてほしい」
「あれ?そこは『恭一とカナメ』と言うべきじゃないか?」
「・・・・・・」
再びリューに引っかかれ、のた打ち回るカナメ。いや、今の発言は別にいいんじゃないか・・・?
「うーん・・・」
げ、下水道に夜中行くのか・・・カナメじゃないがバブルスライムのニオイはなかなか強烈らしいからなあ・・・
「嫌か?恭一」
「う・・・」
うーん、正直言って嫌だが、リースリット様がじきじきに来られた訳だし・・・
「いーんじゃなーい、別に協力しなくっても」
「カナメ!?」
「だって下水道の地理なんてわからんし、臭いし、臭うし、臭いし・・・断る理由はそれこそ腐るほどあるんだし」
「まともな理由が一個しかないぞ?」
「まっ!自警団にでも任せておけばいいんだよ!」
「おまえなあ!」
自警団でもどうしようもないから来たんだろ!俺は何もできないけどさ!
「はあ・・・もう少し考える時間ってありませんか?」
いくら俺でも、さすがに下水道にもぐるのは躊躇われる。
「―ちなみに成功報酬は『往復のジパング行きの船乗券』だ」
「ジパング・・・」
確かカナメの故郷じゃ・・・
「ジパング!?」
突如櫛で髪をとかし(もともと綺麗だろ・・・)、ばっと立ち上がり、身だしなみを整えるカナメ。
「・・・その話乗った!!」
「勝手に決めるなよ!!」
「おいおい恭一本当にお前ワガママだな、せっかくまだ朝なのにもかかわらず、わざわざヴァンパイアのリースリット公が出張って来てくれたんだぜ?ここは世話になっている身として!きっちり恩返しする場面だぞ?」
「そのセリフをいつものお前に聞かせてやりたいよ!」
何でいきなりモチベーション上がったんだよ!そんなにジパングに帰りたいのかよ!
「そうか、じゃあすまないが今晩、よろしく頼んだぞ」
「イエス!マーム!!」
「はぁ・・・了解ッス・・・」







「ハーハッハッハッハッハ!!一条カナメ、参上!!」
「大声出すなよ!声が響くだろ!」
リースリット様が帰った直後にカナメに首根っこをつかまれ、引きずられてきてしまった・・・。本当にテンション高いなカナメは。
「さて、サクッとおわらせようか」
「終わらせるって、どうする―」
「『カナメビイイィィ』」
「やめろー!!何考えてるんだよ!」
「神はおっしゃいました。『暗雲たる世界に希望の光を』と」
「何でそんな宗教地味たこといってるんだよ!しかもお前がもたらそうとしたのは滅びの光だ!」
「いいじゃないか、聖職者は何をやっても許される」
「許されねえよ!本当に最低だな!」
まったく、コイツの所属している神社は何を考えてるんだろうな。いや、こいつが勝手に巫を名乗っているだけかもしれないけどさ!


そのまましばらく下水道を探査していると少しずつだがうめき声が聞こえるようになってきた。
「なんか・・・女の人の声っぽいな」
「きゃー!恭一クンのえっち!!」
「本当に緊張感とか無いんだなお前は・・・」
はあ、とため息をつきながら曲がり角を曲がろうとし―
「―カナメビイイィィム!!」
「なぜだー!!何でこのタイミングで打つんだよ!しかもここ、一応公共の場だからな!!」
「いや、なんか鎧つけて大剣をもった金髪のリア充っぽい女が視界に入ったから」
「人!?人に撃ったのかよ!」
「安心しな・・・今のはみねうちだゼェ・・・」
「ビームでそれを言っても意味無いから!」
どうしよう・・・まさか死んでるなてことはないよな・・・
「だーいじょうぶだ!っつーにわからん奴だな!」
そのままカナメは角を曲がろうとし―
「死ねええぇぇ!!」
「あぶなー!!」
巨大な剣をもった女性に切りかかられていた。
「な、なにをする!私の肌に傷がついたら妹が泣くだろうが!!」
「先に意味不明な凶悪極まりない威力の光線をぶっ放してきたのはそっちでしょうが!」
「あの、ちょっといいか?」
「「よくない!!」」
・・・うん、こいつら相性最悪だ。女性のほうは綺麗な鎧をつけ、大振りの剣を持ち、マントには近隣の反魔物領の国の紋章が刺繍され―
「うおお!!反魔物の人だ!!」
「だから、カナメビイイィィム!!を撃ったんだよ」
フン、と人を見下した視線を送ってくるカナメ。だからといってカナメビームは使う必要なかったんじゃ・・・?
「痛たた・・・」
その場でうずくまる女性。どうしたんだろうか。
「つ、つわりだ!生まれるぞ!!」
「はぁ!?何言ってんのよ!私まだ処女よ!」
・・・どうやら俺の知り合いには『恥じらい』という感情を持った人がいないようだ。
「・・・下水道に隠れようと思ったら着地に失敗して、足をくじいたのよ」
「でた!ドジッこアピール!」
「ホントにあんたムカつくわね!」
「あのー」
「なによ!!」
この人も見た目が綺麗なだけにこの性格はもったいないなあ・・・と思いつつ―
「―病院まで連れて行ってやろうか?」
「なにいってるんだよ恭一!コイツは私の玉のお肌に傷をつけようとした極悪人だぞ!!」
「男なんだから肌なんて気にするなよ!」
「え、あんた男だったの・・・?」
「・・・・・・」
あ、凹んだ。
「・・・ああ、早く国へかえりてえなあ・・・」
「そんな無駄にいい感じに哀愁漂う背中見せるなよ」
再び漏れるため息。まあ、コイツはいいとして
「・・・病院行くか?」
「当たり前でしょ!バカじゃないの!」
うわ、とばっちりだよ。カナメが怒らせるから。
「じゃ、肩貸すよ」
「・・・ありがと」
「あと、マントは取っておいたほうがいいと思うぞ」
「わかってるわよ!」
耳元で大声出さないでほしいな。・・・まあ、リースリット様の怒声で慣れてるからいいけど。
「甘いぜ!カナメスーパーキック!!」
「危なっ!」
何すんだ!と怒鳴ろうと思ったが、一向に蹴りは来ない。
「おい、何やって―」
『るんだ』と続けようとした俺の真横を、見慣れた黒髪ロングがダッシュで通り過ぎる。
「何なんだよ・・・」
「バブルスライムだよー」
「「・・・・・・」」
俺を含め、金髪少女も黙る。俺たちの後ろにいたのは、下水道を埋め尽くすほどのバブルスライム。
「私たち、もう仲間よね?」
「あは、あはははは・・・」
俺は仲間と思っていた奴に見捨てられたけどね。
「な・か・ま・よ・ね・・・?」
「・・・そう・・・だな」
とりあえず、逃げれるところまで逃げるか。
「あ、まてー」
・・・・・・。
「ちょっと、待ってってば」
・・・・・・。
「おーい」
こいつら動き遅いな!女とはいえ、鎧つけた人に肩貸しながらここまで逃げれると思わなかったよ!
「あいつらノロマね」
「それを言うなよ・・・」
そのまま俺たちは下水道を脱出した―













「何か言うことは?」
「ジパングに早く帰りたい」
「ほかに何か言うことは?」
「早くジパングに帰りたい」
「もう一度聞く、何か言うことは?」
「オラ、早くジパングにけぇりてぇ」
「・・・もういい」
あの後病院に行き、現在あの女の人は医者に見てもらっている。カナメは下水道の入り口で待っており、散々あの女に怒鳴られていた。
「ご苦労だったな」
「リースリット様!?」
「ホラ、報酬のジパング行き往復券。貴重なものだから大事にするんだぞ」
「サンキュウ、産休!」
「・・・・・・」
そのままリースリット様はカナメの鳩尾に手刀を叩き込み、去っていった。
「・・・おまたせ」
「お帰り、どうだった?」
「別に、二三日で治るって言ってたわよ。・・・で、何があったのこいつは?」
「うん、まあ、いろいろ」
「そういえばあんた名前なんていうのよ、折角だから聞いておいてあげるわ」
「霧島恭一、お前は?」
「レイナ。レイナ・レーゲンよ」
「じ・・・ぱ・・・んぐ・・・!」
「わかったわかった」
今度はカナメに肩を貸す番か。本当に世話の焼ける奴だ。
「え、なに、どこに行くのよ」
「乗船所。これからジパングに行くから」
「え!ジパング!?私一度行ってみたかったのよ!」
キャッキャとはしゃぐレイナ。こういう子供っぽいとこもあるのか。
「反魔物領の癖に」
「なによ、別に私自身は反魔物じゃないし。ただ、国の規則でそうしていただけ」
「じゃ、何しに来たんだ?」
カナメの鋭いツッコミが入る。
「・・・別にいいでしょ」
「良くない。お前の目的はなだ?」
「大事なところで噛むなよ・・・」
しまらない奴だ。
「・・・人と魔物が手を取り合って生きている世界を見てみたかったのよ」
どこか遠くを見ながら話すレイナ。
「この街に来て、人と魔物との生活を見て私思ったの。私の居る町と比べて自由で、活気があって、互いに助け合って・・・私の街はぜんぜん。同じ人同士でもケンカして、物を盗んで、人を殺して。魔物派人を食べるって聞いたのに全然、そんなこと無くて。今まで何体も魔物を倒してきて・・・何やってたんだろう、って思ったのよ」
「ほんとバカみたいだな」
「人が真面目に話してるのにバカって何よ!バカって!」
「まあ、まあ、落ち着け、カナメも余計な事言うなよ」
フヘ、と奇妙な笑い方をして更に喋るカナメ。
「お前みたいな奴は、言わば『駒』なわけだ。ただ上からの指示に従って、ただ上からの指示の為に戦って。本当にしょうもないよな」
ケケケと笑うカナメ。反対に若干涙目になっているレイナ。
「ちょっと言いすぎだぞ」
「いいんだよ。コイツは『今その事実を知れた事』自体がもう、幸せなんだから」
「・・・・・・」
まあ、それについては同感だけどさ。
「さ、恭一!夏だ!海だ!ジパングだ!!国に帰るぞ!!」
「あーもう!引っ張るな!っていうかなんだその某CMに使われているようなフレーズは」
「ちょっと!私も行くって!」
「チケットは二枚しかない。残念賞」
「自分の分ぐらい持ってるわよ!」
「チッ!」
そんなに嫌なのかよ。って言うか俺が行くことは決定事項なのか?
「何か着替えとか持っていかなくっていいのか?」
「いいんだよ!グリーンだよ!」
「いちいち著作権を気にしなきゃいけないような発言するな!」
「大丈夫だ、私がついている!」
「ちょっと何私を無視してんのよ!」
「ケッ!この腐れビッチが!お前なんか死んでも我が家の敷居はまたがせん!!」
ギャアギャアわめく二人。結局着いてくるのか。
「何よ、文句あるの」
「いや、別に」
「大いにある!!」
「あーもう、やめやめ!!静かにしろ!」
まったく騒がしい奴らだ。そう思いながら俺たちは乗船所へ向かった―



























「あーこれ、チケットの期限過ぎてるね」
「・・・・・・はい?」
「だから、これ、昨日で期限が過ぎちゃってるんだよ。勿体ないなあ・・・ジパングなんてそう簡単にいけるところじゃないのに」
「・・・・・・期限・・・?」
「そう、この券はもう使えないの。あっそっちの嬢ちゃんのは大丈夫だな」
・・・マジか。って言うか結局こういうオチかよ。
「こ・・・こ・・・こ・・・」
「あー、カナメさん?」
「こんチクショー!!あのくそアマアアァァ!!」

結局ジパング行きは見送られましたとさ  byレイナ
11/12/18 19:36更新 / 突撃ラッパ
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