俺と外道な巫
「バカモンがあ!!」 ダンッというデスクを拳で叩きつける音が部屋に響く。ここはこの街の領主であり、ヴァンパイアのリースリット様の執務室だ。ここ一週間俺がこの世界に来てからというものいろいろ世話をしてもらっている。生活にはある一点を除いてまったく問題ない。問題なのが・・・。 「やっちゃったゼ☆」 「『やっちゃったゼ☆』じゃない!!」 さらに怒声を大きくするリースリット様。左を見ると怒られている本人は二カッと爽やかに笑っている。奴の名前は一条カナメ。ジパングという国出身の巫(かんなぎ)であり、一見すると巫女装束を着た黒髪ロングの超絶日本美人だが、あくまでも男らしく、インキュバスであるらしい。凄まじく強力な『呪術』を行使し、尋常じゃない戦闘力を持っているがそれに比例するように尋常じゃないほどいい加減な性格のため、誰も止めることができない最強で最凶で最狂の暴走兵器と言ったところだ。 「おいおい、自室だからってあんまり大声出すと寝ているひとにめいわくだろう」 「貴様が気絶させたんだあああぁぁぁ!!」 勢いよく振り下ろされた拳が遂に執務室のデスクを木っ端微塵にした。いったいこれで何個デスクを壊させてしまったのだろうか・・・。と俺、霧島恭一は天井を仰いだ。 ことの始まりは今朝、リースリット様に呼ばれたことから始まった。知り合いのドラゴンに届けてほしいものがあるとのことで俺たちはそのドラゴンのいる山へと向かった訳だが、到着してみると留守。周囲を探してみると泉で水浴びをしているドラゴンを発見。水浴びが終わるまで待とうという意見に到達した俺だが、バカ(カナメ)が「おーい、ナイスバディなねーちゃーん!」などと大声で呼んだせいでまあ、うん顔を真っ赤にして激昂し、襲われたわけだが、前述の通り尋常じゃない戦闘力のカナメは「カナメビイイィィム!!」と手のひらから光線を発射し、ドラゴンをぶっ飛ばして気絶させてしまったのである。結果、いくらドラゴンでも放置はできないという結論にいたり、連れて来てしまったというわけだ。当然知り合いをぶっ飛ばされたリースリット様は怒りを爆発させ、今に至るというわけだ。 「どうしていつもいつも貴様はバカなことしかできんのだ!!」 「バカっていったな。バカっていったほうがバカなんだぜ。このアーホ、ブース、間抜けー、デーブ」 ビキッとリースリット様のこめかみに青筋が浮かんだ気がした。 「う・・・あ・・・」 そうこうしているうちに件のドラゴンは目を覚ました。生きててよかった。 「大丈夫か、ヘル」 「・・・リースリットか」 知り合いを気遣うなんて・・・やはり、リースリット様はほかのヴァンパイアとは少し違うようだ。 「暇だしそろそろ帰っていい?」 加害者に反省の色なし。これが一番の問題だ。 「お、お前はさっきの・・・!」 一気に凄まじい殺気を放つドラゴン。まあ、覗きをされた上にぶっ飛ばされたんだから、誇り高いドラゴンにとっては致命的な心の傷だろ。 「落ち着け。コイツは後でじっくり灸をすえておくから」 「あ、ああ」 リースリット様の一言で殺気を消すドラゴン。だが、相変わらず視線はカナメのところにいっている。 「・・・お前達もう帰っていいぞ」 「よし帰ろう!」 「早っ!」 帰りたいとは俺も思っていたが、ここまで早くは無いぞ。 「失礼します」 「ばいちゃ!」 俺が最後ぐらいちゃんとしようとしているのにコイツは・・・! 「今回も任務失敗か」 はぁ、とついため息を出してしまう。確かに俺はまだこの世界に来て一週間程度だがそろそろリースリット様の力になりたいところだ。 「ま、今回の失敗は誰のせいって訳でもからしょうがないんじゃない?」 「十中八九あんたのせいだ!」 「おいおい我々はチームだろ?誰のせいだとか言ったら場の空気が悪くなるだろ」 「これ以上悪くならねえよ!」 くっそ、たった数瞬でこれほど突っ込みを入れなければならないとは・・・! 「いちど酒場に戻るか・・・」 「そうだよなあ・・・」 いまの俺たちは街の中心部にある酒場に寝泊りしている。この酒場の主人がリースリット様の知り合いのサキュバスのリーナさんが経営しており、俺たちをここに無償で泊めてくれている優しい人だ。 「あら、早かったわね」 「ただいまッス・・・」 相変わらずきわどいラインの服を着ているなこの人。大きすぎる胸は今にも服を破りそうだし、キュッと締まったウエストは白磁器のような肌が見え、プリッとしたおしりはもうなんともいえない。 「鼻血出てるわよ?」 ハッ!俺としたことが! 「ごめんごめん、ちょっと欲情しちゃったゼ☆」 「お前かああぁぁ!」 カナメかよ!よく観察しちゃったから俺かと思ったよ! 「いや、恭一もでてるわよ」 「なぬぃ!」 「・・・・・・はい」 突如目の前に出される淡い青に染められたハンカチ。これは・・・ 「サンキュ、リュー」 「・・・///」 リューはこの店の近くの川にすむサハギンだ。何故か俺になついており、店にいる間は俺の後をずっとついてくるひよこみたいな奴だ。風呂に現れたときはさすがにビビッたが。 「リュー、体調はどうだ?」 「・・・問題ない」 ・・・そうか、こうしてリューがここで寝泊りできるのも一応はカナメのおかげなんだよな。リューに懐かれて以来ずっと俺の後をくっついてきていたが、本来サハギンは水辺にすむ魔物。すぐに体調を悪くしてしまった。しかしカナメはそのときに呪術をリューに施してくれて、それ以来リューは水に入らなくても大丈夫な体になった。・・・たまに朝起きると布団にもぐりこんでいるときがあるが。 「しっかし・・・」 一週間。俺がこの魔物が女になってしまった世界に来て一週間だ。一週間前までは普通の高校に通い、普通に放課後も友達と駄弁り、普通に毎日の生活を営んでいたんだが。 「どうしてこうなったんだろうな・・・」 この世界に来た記憶がまったくないのだ。いつもどおり十二時ちょい過ぎぐらいに寝て、目が覚めたら、この部屋の俺たちが世話になっている部屋に寝ていたのだ。この一週間はこの世界を知るので精一杯だった。 「そして・・・童貞を卒業できたこと」 「うんうん・・・うん!?」 カナメの奴・・・!個人の回想に侵入するのはいつの文章でもご法度なのに! 「・・・・・・!」 「ちがう!まだ俺は純粋だ!」 リューが涙を目にいっぱい溜め込んでいる。カナメの奴、余計なことばっか言いやがって・・・! 「そうだ恭一、ちょっとお使い行ってきてくれる?」 「ああ、いいッスよ」 「お礼は『今日は裸営業』で!」 「何言ってんだあんた!」 もうヤダ。何なんだよこの色欲魔神。 「そうねえ・・・、いつも頼んでばかりじゃ悪いし・・・」 「いや、俺はいいですよ別に」 「『良い』ですよ」 「違う!!」 何でこんな奴が超絶日本美少女な見た目なんだ・・・! 「じゃ、二人にお願いしようかしら。もしカナメが勝ったら今日『から』裸営業。恭一が勝ったら―」 お、俺が勝ったら・・・? 「ふ・で・お・ろ・し・・・してあげる」 な、なにいいいぃぃぃ!!リーナさんに筆卸してもらえるだと!! 「はい、これがメモ。いい?よーいどん!でスタートよ?」 これは負けられない!別に俺がリーナさんに筆卸をしてほしい・・・じゃなく!リーナさんやリューを裸営業させるわけにはいかない!! 「よーい・・・」 カナメの様子を見る。特に身構えるでもなく普通に突っ立っているだけだ。この勝負捨てるのか・・・? 「どん!!」 よし!いく― 「四散、田楽!」 「がはっ!」 か、体が動かない!? 「さようなら!霧島恭一クン!君の尊い犠牲をボクは買い物から帰ってくるまで忘れない・・・きっと!」 そのまま新しくお札を出し― 「超加速!」 ダンッ!という爆音を響かせ、あっという間にカナメの姿は見えなくなった。・・・ヤバイ! 「何だこれ・・・!どうすれば・・・!」 へんなツタ見たいのが絡み付いて動くことができない! 「・・・・・・」 スバッとつたを切ってくれるリュー。ほんとにいい子だ・・・! 「早く行かないと負けちゃうわよ?」 「ヤベッ!」 そのまま店の扉を開け― ―俺、霧島恭一は外へと駆け出していった― |
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