絶望少年と、最愛の妹
「ラクス、街に買い物に行かぬか?」
ある日、唐突にロードにそう誘われた。
「別に良いけど…。なんで?」
「まあまあ、たまには良いじゃろう?」
疑問に思う俺を、有無を言わさず引っ張る。
まあ、別に良いか。ロードと出掛けたくない理由なんてないし。
「ほれ、早く行くぞ!ラクス!」
「判ってるから、そんなはしゃぐなって」
はしゃぐロードと共に、俺は街へと向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「それで、まずどこに行く?」
街に出たものの、特に用事はない。
ロードが誘ったんだから、ロードは何か用事があるんだろうけど。
「とりあえず、プリンを買いに行こう!ストックが切れておった」
「オッケー」
無邪気に笑うロードが愛しくなって、つい頭を撫でる。
最近ロードは俺と二人きりの時に子供っぽい一面を見せる事が多くなった。
俺に心を許してくれた証なのだろうか?
「さ、ゆくぞ!ラクス!」
「うわっ!袖を引っ張るなって……!」
笑顔で走るロードに置いて行かれないよう、俺は急いでロードの後を追った。
はしゃぎながら歩いていた二人は、気付いていなかった。
建物の陰から二人を見つめる存在に。
「あれが、ラクス=グラファイトです」
彼らを見つめる二人の人間は、教団騎士の服装をしており、片方はいかにも騎士然とした好青年だが、もう片方はまだあどけない少女だ。しかしそれでも身のこなしからただ者ではない事が判る。
「間違いないな。手配書と同じ顔だ。隣にいるのはロード=ヴェルベットか。少し厄介だな」
「怖じ気付いたのですか?」
少女の露骨すぎる台詞に、青年はいかにも不快そうな表情をする。
「貴様はバフォメットという魔物を知らぬからそんなことを言える。奴は紛れも無く高位の魔物。半端な戦力では倒せん」
「なら、集められる限りの戦力を集めて下さい」
「…貴様、先程から生意気な口を!自分の立場が判っているのか!?」
少女の口調が気に障った青年は、そう少女を怒鳴り付ける。
「判ってますよ。私はこの任務が終わるまでの命。ラクス=グラファイトを生け捕りにしたら私の様に人体実験。体を弄り終えた私は任務終了後に殺処分。そうでしょう?」
自らの運命を悟ってなお、平然とそう言ってのける少女。その諦めにも近い様子に、青年は何も言えなくなる。
「となると、彼の捕縛は明日、ですか」
「いや、今日行う」
「?」
青年の言葉の真意が理解できない少女。
「私の話を聞いていましたか?出来る限りの戦力を集めて下さいと――」
「もう既に集まっている。この街には、教団騎士が二十人ほど潜んでいる」
少女は疑念を浮かべる。当初の任務はラクス=グラファイトの捕獲だけだったはずだ。何故それほどの人員を――。
「なるほど、私が逃亡しないように。ですか」
納得した少女は嫌みな笑みを浮かべる。教団を嘲笑うかの様な笑みを。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「むふふ〜、プリンが一杯、幸せじゃ〜」
沢山のプリンが詰められた袋を抱えて、ロードはさぞ嬉しそうに笑う。
その様子が可愛かったので、ついまた頭を撫でてしまう。
「ラクスは最近、よく笑うようになったの」
頭を撫でられて、気持ち良さそうにしていたロードが、突然そう言った。
「そう…か?」
「うむ、会ったばかりの頃とは大違いじゃぞ」
そういえば、最近よくサバトの魔女達に『明るくなった』と言われる。
あの事件から俺が立ち直ってきた証拠なんだろうか。
だとすれば――
「そうだとしても、それはお前のおかげだよ」
「ワシは何もしておらんぞ?ただお主を励まして、見守っていただけじゃ」
それが俺には、何より嬉しかったんだよ。判ってるくせに。
「へえ、仲が良いんですね?お二人さん」
前方から、誰かの声がした。
少女だ。まだ10に満たないかというくらいの、幼い少女。
しかしその服装は、俺が憎むべき教団騎士の恰好だった。
顔はフードに隠れて見えないが、そこからは刺すような鋭い嫌悪の視線が滲み出ていた。
「教団騎士か。ワシらに何か用かの?」
「貴女に用はありませんよ。用があるのは、貴方一人」
俺を指差して、そう言い放つ少女。
そんな少女を見て、俺はある違和感を感じていた。
――この少女の声、どこかで聞いたような…。
「反逆者リオン=グラファイトの息子である貴方を教団は異端分子と見て、身柄を拘束する事にしました。ラクス=グラファイト…、いえ、お兄様」
「……ッッ!?」
そう言って少女はフードを脱ぎ捨てた。
そこには、半年前生き別れた妹の顔があった。
「リ、リィナ…?」
「異端分子ラクス=グラファイト。貴方を拘束します」
驚愕する俺を意に介さず、リィナはそう宣言する。
するといつから隠れていたのか、街の至る所から教団騎士が出て来た。
「…フン。少年一人捕らえるのにどれだけの人数を割いとるんじゃ。教団の連中は暇人ばかりじゃのう」
ロードがそう吐き捨てる。
その言葉を聞いてリィナの側にいた騎士が表情を歪める。
「リィナ=グラファイト。貴様はラクス=グラファイトを捕らえろ。あのバフォメットは我々が教団の威信にかけて討ち取る!」
その騎士の言葉を皮切りに、教団騎士達が一斉に襲い掛かってきた。
「ロード…ッッ!」
「心配するな。ワシに任せておけ」
俺に一度笑いかけてから、ロードは詠唱を始めた。
「天光満つる処に我はあり、黄泉の門開く所に汝あり――、」
ロードが練り出す魔力が空に浮かび上がり、巨大な雷雲を形作る。
それを見た先程の騎士が驚嘆の声を上げる。
「バカなっ!街中でこれを使うだと!?」
「出でよ、神の雷!インディグネイション!」
ロードが詠唱を終えると、巨大な雷が轟音と共に地上を貫いた。
それと同時に発生した爆風が、騎士達を吹き飛ばした。
「…すっげえ」
魔法一つで、あれだけの教団騎士を蹴散らした。
「き、貴様…。こんな街中で、やはり、魔物は……」
意識の残っていた騎士が、ロードに向かってそう毒を吐く。
「何か勘違いしておる用じゃな。ワシは街に被害など微塵も与えておらんぞ?」
「馬鹿な!あれほどの落雷、確実に街にも被害が……」
ロードの言う通り、街の建物には傷一つ付いていなかった。
「結構大変なんじゃぞ?魔法を二つ同時に唱えるのは」
おそらく、ロードはインディグネイションを唱えると同時に、街全体に防御魔法もかけたのだろう。
第三者に迷惑をかけず、自分の敵だけを葬る戦い方、やっぱりロードは凄い。
「はぁ、想像を絶する役立たずですね。教団騎士は」
騎士達に侮蔑の視線を浴びせながら、リィナは歩いて来る。
「行け、ラクス」
「え、でも…」
「やんちゃする妹を諌めるのは、兄の役目じゃろう?」
もう戦う気は無いのか、地面に胡座をかいて言うロード。
ロードの言わんとする事は判った。
教団の奴隷としての道を歩くリィナを、俺が引き戻せと言っているのだ。
「行くぞ、リィナ!」
「それは私の台詞です。お兄様」
リィナは懐からナイフを取り出すと、それを全て俺に向かって投げてくる。
右へ大きくステップして、それを躱す。
「スキあり!」
「ぐっ…!」
そこへすかさずリィナが跳び蹴りをお見舞いする。
咄嗟に鎌で受け止めたが、震動が腕に響く。
「はぁッ!」
リィナは空中から続けて踵落としを繰り出す。
それも鎌で受け止めるが、一撃一撃が重く、腕の感覚が鈍くなってくる。
このままではマズい――。
そう思った俺はリィナの攻撃を防ぎつつ詠唱を試みた。
「灼熱の軌跡を以て、野卑なる蛮行を滅せよ…」
「ッッ!させない!」
俺に詠唱をさせまいと、リィナはナイフを投げる。
しかしそれはスピードもなく、軌道も単純。詠唱しながらでも躱す事が出来た。
「くらえ!スパイラルフレア!」
直径数メートルはあろうかという大きさの炎が、渦を巻きながらリィナへと飛んでいく。
「くっ…、アンチマジック…!」
至近距離で撃たれた為回避が間に合わず、咄嗟に防御魔法を使う事で攻撃を凌いだ。
「リィナ、お前…?」
「どうしました?まさか今更戦えないとか世迷い言を言う訳じゃないでしょう」
おかしい、腑に落ちない点が多過ぎる。
目の前の少女は間違いなくリィナだ、少し性格が歪んでいるが、どうせ教団の仕業だろう。
だがリィナのこの強さは何だ?
半年前までリィナは至って普通の少女だった。将来冒険者になりたいと言って剣術を少し習っていたが、格闘技もナイフ投げもリィナは習っていない。そもそも八歳の少女にそんな運動能力がある訳無い。
だとすると――、
「さあ、行きますよ!今度は受け止めきれますか?」
「…ッッ!リィナ!お前教団に何された!?」
再び攻撃を始めたリィナにそう問う。
「大した事はされてませんよ?不気味な魔法陣を身体に刻まれて、変な薬を大量に飲まされただけです」
リィナが自嘲めいた笑いを浮かべながら答える。
確かに、よく見るとリィナの身体には魔術的な紋様が幾つも刻まれている。
「何!?あれは…!」
後ろでロードが驚きの声を上げる。
「ロード!何か知ってるのか!?」
「彼女の身体に刻まれた魔法陣、どれも今魔界では封印された危険な魔術のものばかりじゃ!」
危険な魔術…。そんなものを教団の連中はリィナに…ッッ!!
「ラクス!それ以上長引かせるな!戦えば戦う程魔法陣はリィナの身体を蝕むぞ!」
「くっ…、そ…!」
「そうですね。お兄様を教団へ連行したら私の命は尽きるでしょうね」
リィナはロードの言葉を聞いても、特に驚いた様子を見せない。
そんなリィナを見て、俺は決めた。
――何が何でも、リィナを救うと。
「その御名の許、この穢れた魂に裁きの光を降らせたまえ!ジャッジメント!」
天空から幾百の光が、俺とリィナに降り注ぐ。
「しまっ、これは…!」
逃げ場が無いように、俺とリィナの周りを埋めつくす程の量を降らせた。ジャッジメント程の高位魔法。アンチマジックなどでは防げない。
これならリィナを確実に倒せる。当然ジャッジメントは俺にも降り注ぐが、リィナの為ならそれを厭わない覚悟が出来た。
ジャッジメントの閃光は、俺とリィナを包み込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「う、うぅ…」
身体が動かない。それに節々が痛む。
「目が覚めたかの?」
傍で声がした。不思議と癒される、愛しい人の声。
「ん…、ここは…?」
「ワシの家じゃ。あの後倒れたお主らをワシがここまで運んだのじゃぞ」
そうだ、俺はリィナと戦ってて……。
「リ、リィナ!リィナは!?」
「安心せい。今は別の部屋で安静にしておる」
慌てる俺をロードが宥める。
…てゆーか、
「……何やってんの?」
今の今まで気付かなかったが、ロードは下着姿で俺の上に馬乗りになっていた。
「え、それは…、その…、あの…」
珍しく口ごもるロード。
「先の戦いで大技を使ったじゃろ?それで…、体内の魔力が…」
確か魔物は魔力を人間の『精』で供給するんだよな。…ってことは――、
「要するに、ラクス…。ワシを、抱いてくれ」
顔を真っ赤にさせて、耳元で囁かれる。
好きな女性にこんな事を言われて、その気にならない男なんていないだろう。もちろん、俺もロードを抱きたい。
「ロードが良いなら、俺は…、良いよ」
「ありがとう…、ラクス…」
俺が了承すると、ロードは下着を外した。
「どうかの…?ラクス…、ワシの、身体…」
一糸纏わぬ姿を俺に見せ、ロードは恥ずかしそうに言う。
「綺麗だよ。白くて、胸も可愛くて」
真っ白な肌の上で一際目を引く薄桃色の乳首を口に含む。
「ひゃうんっ!」
それに反応して、声を上げるロード。
その様子が可愛かったので、両方の乳首を口と手で同時に責める。
「んんっ、くうっ!ラ、ラクス……」
快感で喘ぎながら、ロードは何かを訴える。
「下も…、弄ってくれんかの…?」
「うん、判った…」
乳首から口を離し、ロードの秘所に顔を近付ける。
「なんか、良い匂いするな」
「や…、そんな、スーハーしちゃ駄目…じゃ…」
匂いを嗅がれて、恥ずかしそうな声を上げる。
…舐めたら何て言うかな。
…ペロ。
「ひゃっ…!」
突然の感覚に、ロードはさっきよりも大きい喘ぎ声を漏らす。
「ラクス…、ここ…」
「ん…?」
ロードは、自分の秘所にある突起を指差した。
「クリトリス…、そこを責められるのが一番気持ち良いんじゃ…」
つまり、ここを弄って欲しいという事だろう。
クリトリスの先端を舌で少し舐める。
「んあぁっ…!良い…!」
良いらしい。もっと入念に責めてみよう。
膣内に指を入れながら、クリトリスを舌で弄ぶ。
「ひゃっ、ダメ…!イク……ッッ!」
ロードは辛そうな声を漏らした後、
「んあああぁぁッッッッ!」
大きく身体を反らして、ビクビクと震えた。
絶頂が終わると、ロードはこちらに身体を預ける。
「あー…、気持ち良かったぞ。なかなか上手いではないか」
「あ、ありがとう…、で、良いのか?」
「お礼に次はワシがお主を気持ち良くしてやろう」
そう言うとロードは俺のズボンを下ろし、俺のペニスを剥き出しにした。
「ふふ、立派なモノを持っておるのう」
さっきの愛撫の影響で、俺のペニスは既にギンギンになっている。
それをロードは、その小さな口でくわえる。
「はむ…、んじゅっ…、んむっ…」
ロードの唾液でヌルヌルになったペニスを、優しく、されど激しく口内で舐め回す。
「れろ…、はむ…、じゅるっ」
陰茎とカリを入念に舐め上げ、亀頭から滲み出る先走り汁を吸い上げる。
「ひょろひょろ、ひひほうひゃろ?(そろそろ、イキそうじゃの?)」
再びペニスをくわえ、射精に導く為に舌を這い纏わらせる。
そこで俺は、我慢の限界に達した。
「んっ!ロード…っ!出るっ…!」
ロードの口内に、精液を漏らす。
口から溢れ出るそれを、ロードは舐め取り、掬い上げ、全て口に含んだ。
「新鮮なラクスの精、堪能させてもらったぞ」
精液を全て飲み込むと、ロードは満足そうに微笑んでそう言った。
「じゃあ…、次はこっちに出してもらおうかの」
射精の余韻で身体が満足に動かないのを良いことに、ロードは俺を横にさせて騎乗位の体勢をとる。
そしてロードは腰を落とした。
ロードの膣内に俺のペニスがズブズブと侵入していく。
「んっ…、あ、凄い、これ…、大きい…っ」
小柄な彼女の身体に、俺の息子は不釣り合いだったのか、受け入れる容量の大きさにロードはうめき声を上げる。
しかしそれでもロードは腰を上下に動かし、俺に快感を与える。
その時俺は、ロードと俺の結合部から紅い液体が流れるのを見た。
「ロード…ッッ!お前、それ…ッッ!」
「大丈夫じゃ、大した痛みはない。処女だったのじゃから、血が出るのは当然じゃ」
俺が心配するも本人は大して問題はないらしく、腰をグラインドさせ続けた。
「あぐっ…!ロード…ッッ!」
「ふふ、顔が可愛くなってきたぞ?そろそろ出るじゃろ?」
ラストスパートと言わんばかりに、腰の動きを激しくさせるロード。
「ダメだッッ!ロード!出るッッッッ!!」
「良いぞ!出せッッ!ワシの中に、ありったけの精をッッ!!」
「んあああああぁぁぁッッッッ!!」
「ふう、これがセックス…。気持ち良いものじゃな〜」
精を供給できで大満足のロードは、顔を紅くさせて余韻に浸る。
逆に精を搾り取られた側の俺は、ベッドで横になりながらゼーゼーと肩で息をする。
「ロード…。お前、初めてなら初めてって言ってくれよ……」
「別に良いではないか。処女でも非処女でも大して変わらんじゃろう?」
まあ…、後半はリードされっぱなしだったけど。
「ワシの処女はな、将来ワシが兄と認められる男に捧げる予定だったんじゃ」
初めてを兄と認められる男に…?
「え、それ良いのか?俺が貰っちゃったけど…」
「まったく、肝心な所で鈍いのう」
ロードは呆れた表情で、溜め息をつく。
「――お主に、ワシの兄上になってほしいのじゃ。ラクス=グラファイト」
真っ直ぐに、俺の目を見据えて、ロードはそう言った。
「俺…で、良いのか?」
「ああ、ワシはこの半年間、ずっとお主を見ておった。魔物を軽蔑しない優しさ、人の親切を肌で感じる純粋さ、強くありたいと願う向上心、仲間を大切にできる友愛、自分の非を認める誠実さ、家族の為に命を懸ける勇気。その一つ一つが、お主をワシの兄上にしたいとワシに思わせたんじゃ」
優しく微笑みながらロードは言う。普段見せる威厳ある笑みとも、時折見せる無邪気な笑みとも違う。俺を包み込んでくれるような優しい笑みを浮かべて。
「お主こそが、ワシの兄上となるべき人物。今一度言う、ワシの兄上になってくれ」
頭を下げてそう言うロード。その身体は、少し震えていた。
断られないか、心配なのだろう。
俺は、そんな彼女の身体を優しく、力強く抱きしめた。
「俺も、ロードの兄になりたい。ずっと、ロードの傍に居たい」
ロードが顔を上げる。目尻に涙を浮かべており、今にも泣き出しそうな顔だった。
直後ロードは、力一杯俺を抱きしめた。
「嬉しい…!ラクスが兄上になってくれて、嬉しい……!」
「俺も嬉しいよ。ロードの兄になれて」
ロードが顔を上げ、自分の顔を俺の顔に近付ける。
「本当は、エッチよりこれが先なんじゃがな」
照れ臭そうに笑うと、ロードはこう続けた。
「好きじゃ、ラクス」
「俺も好きだ、ロード」
俺とロードは、静かにキスを交わした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「本当に、言っちゃうんだね」
リリカが名残惜しそうに、俺とロードを見る。
あの後、ロードの兄となった俺に、ロードはある頼み事をして来た。
それは、ロードの一つの『夢』だったらしい。
『ワシは、兄上と共に世界中を旅したいのじゃ!』
初めロードにそう言われた時は、本当に驚いた。
でも俺は止めなかった。
ロードがそうしたいと言うなら、俺はそれに付き合うだけだ。
妹の我が儘に付き合うってのも、兄の役目だろう?
「お兄様!寝癖がついてますよ!しゃきっとして下さい!」
サバトの魔女達がロードに別れの言葉を言っている間、俺はずっと少女――リィナに身だしなみを整えられたり、荷物のチェックをされている。
結局、リィナは助かった。
ロードが他のバフォメット達にも協力を仰ぎ、魔法を解く方法を調べたのだ。
薬物の方は、リリカが解決してくれた。リリカは冒険者の頃、薬剤師としての顔も持っていたらしく、すぐに薬の効果を消す薬を作ってくれた。
本当にリリカには世話になった。いつか必ず礼がしたい。
「リリカ、ワシが居ない間は、お主がサバトを引っ張っていくのじゃ」
「うん…、そうだよね。私が居ないとね」
ロードの言葉で、ようやくリリカは元気を出した。
「ロードさん」
「む?」
俺のチェックが終わった後、リィナはロードの方を向いた。
「ウチの兄は、根暗だし、ドジだし、クール振ってるくせにすぐテンパるお調子者ですが、どうか兄をよろしくお願いします!」
俺の事を散々に言った後、ロードに頭を下げる。
「うむ、任せておけ。兄上はワシが守るからの!」
がっちりと固い握手を躱す二人。知らない間に何か変な友情が芽生えた様だ。
「じゃ、そろそろ行くかの?」
「ああ」
俺達は、リィナ達に背を向け、歩き出した。
「二人とも、元気でねーッッ!!」
「リリカもしっかりやるんじゃぞー!」
「リリカやサバトの皆に迷惑かけるなよ!リィナ!」
「はい!お兄様も、ロードさんのお荷物にならないように!」
二人の声援を受け、俺とロードは街を出た。
「まずどこに行く?」
「とりあえずジパングに向かおうかの。あそこの文化はとても独特らしいぞ」
俺の隣でロードは朗らかに笑う。
俺は、両親と今までの日常を失った。
けれど希望は、ロードが与えてくれた。
この愛しい妹が与えてくれる新しい日常を、俺は精一杯駆け抜けたいと思う。
ある日、唐突にロードにそう誘われた。
「別に良いけど…。なんで?」
「まあまあ、たまには良いじゃろう?」
疑問に思う俺を、有無を言わさず引っ張る。
まあ、別に良いか。ロードと出掛けたくない理由なんてないし。
「ほれ、早く行くぞ!ラクス!」
「判ってるから、そんなはしゃぐなって」
はしゃぐロードと共に、俺は街へと向かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「それで、まずどこに行く?」
街に出たものの、特に用事はない。
ロードが誘ったんだから、ロードは何か用事があるんだろうけど。
「とりあえず、プリンを買いに行こう!ストックが切れておった」
「オッケー」
無邪気に笑うロードが愛しくなって、つい頭を撫でる。
最近ロードは俺と二人きりの時に子供っぽい一面を見せる事が多くなった。
俺に心を許してくれた証なのだろうか?
「さ、ゆくぞ!ラクス!」
「うわっ!袖を引っ張るなって……!」
笑顔で走るロードに置いて行かれないよう、俺は急いでロードの後を追った。
はしゃぎながら歩いていた二人は、気付いていなかった。
建物の陰から二人を見つめる存在に。
「あれが、ラクス=グラファイトです」
彼らを見つめる二人の人間は、教団騎士の服装をしており、片方はいかにも騎士然とした好青年だが、もう片方はまだあどけない少女だ。しかしそれでも身のこなしからただ者ではない事が判る。
「間違いないな。手配書と同じ顔だ。隣にいるのはロード=ヴェルベットか。少し厄介だな」
「怖じ気付いたのですか?」
少女の露骨すぎる台詞に、青年はいかにも不快そうな表情をする。
「貴様はバフォメットという魔物を知らぬからそんなことを言える。奴は紛れも無く高位の魔物。半端な戦力では倒せん」
「なら、集められる限りの戦力を集めて下さい」
「…貴様、先程から生意気な口を!自分の立場が判っているのか!?」
少女の口調が気に障った青年は、そう少女を怒鳴り付ける。
「判ってますよ。私はこの任務が終わるまでの命。ラクス=グラファイトを生け捕りにしたら私の様に人体実験。体を弄り終えた私は任務終了後に殺処分。そうでしょう?」
自らの運命を悟ってなお、平然とそう言ってのける少女。その諦めにも近い様子に、青年は何も言えなくなる。
「となると、彼の捕縛は明日、ですか」
「いや、今日行う」
「?」
青年の言葉の真意が理解できない少女。
「私の話を聞いていましたか?出来る限りの戦力を集めて下さいと――」
「もう既に集まっている。この街には、教団騎士が二十人ほど潜んでいる」
少女は疑念を浮かべる。当初の任務はラクス=グラファイトの捕獲だけだったはずだ。何故それほどの人員を――。
「なるほど、私が逃亡しないように。ですか」
納得した少女は嫌みな笑みを浮かべる。教団を嘲笑うかの様な笑みを。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「むふふ〜、プリンが一杯、幸せじゃ〜」
沢山のプリンが詰められた袋を抱えて、ロードはさぞ嬉しそうに笑う。
その様子が可愛かったので、ついまた頭を撫でてしまう。
「ラクスは最近、よく笑うようになったの」
頭を撫でられて、気持ち良さそうにしていたロードが、突然そう言った。
「そう…か?」
「うむ、会ったばかりの頃とは大違いじゃぞ」
そういえば、最近よくサバトの魔女達に『明るくなった』と言われる。
あの事件から俺が立ち直ってきた証拠なんだろうか。
だとすれば――
「そうだとしても、それはお前のおかげだよ」
「ワシは何もしておらんぞ?ただお主を励まして、見守っていただけじゃ」
それが俺には、何より嬉しかったんだよ。判ってるくせに。
「へえ、仲が良いんですね?お二人さん」
前方から、誰かの声がした。
少女だ。まだ10に満たないかというくらいの、幼い少女。
しかしその服装は、俺が憎むべき教団騎士の恰好だった。
顔はフードに隠れて見えないが、そこからは刺すような鋭い嫌悪の視線が滲み出ていた。
「教団騎士か。ワシらに何か用かの?」
「貴女に用はありませんよ。用があるのは、貴方一人」
俺を指差して、そう言い放つ少女。
そんな少女を見て、俺はある違和感を感じていた。
――この少女の声、どこかで聞いたような…。
「反逆者リオン=グラファイトの息子である貴方を教団は異端分子と見て、身柄を拘束する事にしました。ラクス=グラファイト…、いえ、お兄様」
「……ッッ!?」
そう言って少女はフードを脱ぎ捨てた。
そこには、半年前生き別れた妹の顔があった。
「リ、リィナ…?」
「異端分子ラクス=グラファイト。貴方を拘束します」
驚愕する俺を意に介さず、リィナはそう宣言する。
するといつから隠れていたのか、街の至る所から教団騎士が出て来た。
「…フン。少年一人捕らえるのにどれだけの人数を割いとるんじゃ。教団の連中は暇人ばかりじゃのう」
ロードがそう吐き捨てる。
その言葉を聞いてリィナの側にいた騎士が表情を歪める。
「リィナ=グラファイト。貴様はラクス=グラファイトを捕らえろ。あのバフォメットは我々が教団の威信にかけて討ち取る!」
その騎士の言葉を皮切りに、教団騎士達が一斉に襲い掛かってきた。
「ロード…ッッ!」
「心配するな。ワシに任せておけ」
俺に一度笑いかけてから、ロードは詠唱を始めた。
「天光満つる処に我はあり、黄泉の門開く所に汝あり――、」
ロードが練り出す魔力が空に浮かび上がり、巨大な雷雲を形作る。
それを見た先程の騎士が驚嘆の声を上げる。
「バカなっ!街中でこれを使うだと!?」
「出でよ、神の雷!インディグネイション!」
ロードが詠唱を終えると、巨大な雷が轟音と共に地上を貫いた。
それと同時に発生した爆風が、騎士達を吹き飛ばした。
「…すっげえ」
魔法一つで、あれだけの教団騎士を蹴散らした。
「き、貴様…。こんな街中で、やはり、魔物は……」
意識の残っていた騎士が、ロードに向かってそう毒を吐く。
「何か勘違いしておる用じゃな。ワシは街に被害など微塵も与えておらんぞ?」
「馬鹿な!あれほどの落雷、確実に街にも被害が……」
ロードの言う通り、街の建物には傷一つ付いていなかった。
「結構大変なんじゃぞ?魔法を二つ同時に唱えるのは」
おそらく、ロードはインディグネイションを唱えると同時に、街全体に防御魔法もかけたのだろう。
第三者に迷惑をかけず、自分の敵だけを葬る戦い方、やっぱりロードは凄い。
「はぁ、想像を絶する役立たずですね。教団騎士は」
騎士達に侮蔑の視線を浴びせながら、リィナは歩いて来る。
「行け、ラクス」
「え、でも…」
「やんちゃする妹を諌めるのは、兄の役目じゃろう?」
もう戦う気は無いのか、地面に胡座をかいて言うロード。
ロードの言わんとする事は判った。
教団の奴隷としての道を歩くリィナを、俺が引き戻せと言っているのだ。
「行くぞ、リィナ!」
「それは私の台詞です。お兄様」
リィナは懐からナイフを取り出すと、それを全て俺に向かって投げてくる。
右へ大きくステップして、それを躱す。
「スキあり!」
「ぐっ…!」
そこへすかさずリィナが跳び蹴りをお見舞いする。
咄嗟に鎌で受け止めたが、震動が腕に響く。
「はぁッ!」
リィナは空中から続けて踵落としを繰り出す。
それも鎌で受け止めるが、一撃一撃が重く、腕の感覚が鈍くなってくる。
このままではマズい――。
そう思った俺はリィナの攻撃を防ぎつつ詠唱を試みた。
「灼熱の軌跡を以て、野卑なる蛮行を滅せよ…」
「ッッ!させない!」
俺に詠唱をさせまいと、リィナはナイフを投げる。
しかしそれはスピードもなく、軌道も単純。詠唱しながらでも躱す事が出来た。
「くらえ!スパイラルフレア!」
直径数メートルはあろうかという大きさの炎が、渦を巻きながらリィナへと飛んでいく。
「くっ…、アンチマジック…!」
至近距離で撃たれた為回避が間に合わず、咄嗟に防御魔法を使う事で攻撃を凌いだ。
「リィナ、お前…?」
「どうしました?まさか今更戦えないとか世迷い言を言う訳じゃないでしょう」
おかしい、腑に落ちない点が多過ぎる。
目の前の少女は間違いなくリィナだ、少し性格が歪んでいるが、どうせ教団の仕業だろう。
だがリィナのこの強さは何だ?
半年前までリィナは至って普通の少女だった。将来冒険者になりたいと言って剣術を少し習っていたが、格闘技もナイフ投げもリィナは習っていない。そもそも八歳の少女にそんな運動能力がある訳無い。
だとすると――、
「さあ、行きますよ!今度は受け止めきれますか?」
「…ッッ!リィナ!お前教団に何された!?」
再び攻撃を始めたリィナにそう問う。
「大した事はされてませんよ?不気味な魔法陣を身体に刻まれて、変な薬を大量に飲まされただけです」
リィナが自嘲めいた笑いを浮かべながら答える。
確かに、よく見るとリィナの身体には魔術的な紋様が幾つも刻まれている。
「何!?あれは…!」
後ろでロードが驚きの声を上げる。
「ロード!何か知ってるのか!?」
「彼女の身体に刻まれた魔法陣、どれも今魔界では封印された危険な魔術のものばかりじゃ!」
危険な魔術…。そんなものを教団の連中はリィナに…ッッ!!
「ラクス!それ以上長引かせるな!戦えば戦う程魔法陣はリィナの身体を蝕むぞ!」
「くっ…、そ…!」
「そうですね。お兄様を教団へ連行したら私の命は尽きるでしょうね」
リィナはロードの言葉を聞いても、特に驚いた様子を見せない。
そんなリィナを見て、俺は決めた。
――何が何でも、リィナを救うと。
「その御名の許、この穢れた魂に裁きの光を降らせたまえ!ジャッジメント!」
天空から幾百の光が、俺とリィナに降り注ぐ。
「しまっ、これは…!」
逃げ場が無いように、俺とリィナの周りを埋めつくす程の量を降らせた。ジャッジメント程の高位魔法。アンチマジックなどでは防げない。
これならリィナを確実に倒せる。当然ジャッジメントは俺にも降り注ぐが、リィナの為ならそれを厭わない覚悟が出来た。
ジャッジメントの閃光は、俺とリィナを包み込んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「う、うぅ…」
身体が動かない。それに節々が痛む。
「目が覚めたかの?」
傍で声がした。不思議と癒される、愛しい人の声。
「ん…、ここは…?」
「ワシの家じゃ。あの後倒れたお主らをワシがここまで運んだのじゃぞ」
そうだ、俺はリィナと戦ってて……。
「リ、リィナ!リィナは!?」
「安心せい。今は別の部屋で安静にしておる」
慌てる俺をロードが宥める。
…てゆーか、
「……何やってんの?」
今の今まで気付かなかったが、ロードは下着姿で俺の上に馬乗りになっていた。
「え、それは…、その…、あの…」
珍しく口ごもるロード。
「先の戦いで大技を使ったじゃろ?それで…、体内の魔力が…」
確か魔物は魔力を人間の『精』で供給するんだよな。…ってことは――、
「要するに、ラクス…。ワシを、抱いてくれ」
顔を真っ赤にさせて、耳元で囁かれる。
好きな女性にこんな事を言われて、その気にならない男なんていないだろう。もちろん、俺もロードを抱きたい。
「ロードが良いなら、俺は…、良いよ」
「ありがとう…、ラクス…」
俺が了承すると、ロードは下着を外した。
「どうかの…?ラクス…、ワシの、身体…」
一糸纏わぬ姿を俺に見せ、ロードは恥ずかしそうに言う。
「綺麗だよ。白くて、胸も可愛くて」
真っ白な肌の上で一際目を引く薄桃色の乳首を口に含む。
「ひゃうんっ!」
それに反応して、声を上げるロード。
その様子が可愛かったので、両方の乳首を口と手で同時に責める。
「んんっ、くうっ!ラ、ラクス……」
快感で喘ぎながら、ロードは何かを訴える。
「下も…、弄ってくれんかの…?」
「うん、判った…」
乳首から口を離し、ロードの秘所に顔を近付ける。
「なんか、良い匂いするな」
「や…、そんな、スーハーしちゃ駄目…じゃ…」
匂いを嗅がれて、恥ずかしそうな声を上げる。
…舐めたら何て言うかな。
…ペロ。
「ひゃっ…!」
突然の感覚に、ロードはさっきよりも大きい喘ぎ声を漏らす。
「ラクス…、ここ…」
「ん…?」
ロードは、自分の秘所にある突起を指差した。
「クリトリス…、そこを責められるのが一番気持ち良いんじゃ…」
つまり、ここを弄って欲しいという事だろう。
クリトリスの先端を舌で少し舐める。
「んあぁっ…!良い…!」
良いらしい。もっと入念に責めてみよう。
膣内に指を入れながら、クリトリスを舌で弄ぶ。
「ひゃっ、ダメ…!イク……ッッ!」
ロードは辛そうな声を漏らした後、
「んあああぁぁッッッッ!」
大きく身体を反らして、ビクビクと震えた。
絶頂が終わると、ロードはこちらに身体を預ける。
「あー…、気持ち良かったぞ。なかなか上手いではないか」
「あ、ありがとう…、で、良いのか?」
「お礼に次はワシがお主を気持ち良くしてやろう」
そう言うとロードは俺のズボンを下ろし、俺のペニスを剥き出しにした。
「ふふ、立派なモノを持っておるのう」
さっきの愛撫の影響で、俺のペニスは既にギンギンになっている。
それをロードは、その小さな口でくわえる。
「はむ…、んじゅっ…、んむっ…」
ロードの唾液でヌルヌルになったペニスを、優しく、されど激しく口内で舐め回す。
「れろ…、はむ…、じゅるっ」
陰茎とカリを入念に舐め上げ、亀頭から滲み出る先走り汁を吸い上げる。
「ひょろひょろ、ひひほうひゃろ?(そろそろ、イキそうじゃの?)」
再びペニスをくわえ、射精に導く為に舌を這い纏わらせる。
そこで俺は、我慢の限界に達した。
「んっ!ロード…っ!出るっ…!」
ロードの口内に、精液を漏らす。
口から溢れ出るそれを、ロードは舐め取り、掬い上げ、全て口に含んだ。
「新鮮なラクスの精、堪能させてもらったぞ」
精液を全て飲み込むと、ロードは満足そうに微笑んでそう言った。
「じゃあ…、次はこっちに出してもらおうかの」
射精の余韻で身体が満足に動かないのを良いことに、ロードは俺を横にさせて騎乗位の体勢をとる。
そしてロードは腰を落とした。
ロードの膣内に俺のペニスがズブズブと侵入していく。
「んっ…、あ、凄い、これ…、大きい…っ」
小柄な彼女の身体に、俺の息子は不釣り合いだったのか、受け入れる容量の大きさにロードはうめき声を上げる。
しかしそれでもロードは腰を上下に動かし、俺に快感を与える。
その時俺は、ロードと俺の結合部から紅い液体が流れるのを見た。
「ロード…ッッ!お前、それ…ッッ!」
「大丈夫じゃ、大した痛みはない。処女だったのじゃから、血が出るのは当然じゃ」
俺が心配するも本人は大して問題はないらしく、腰をグラインドさせ続けた。
「あぐっ…!ロード…ッッ!」
「ふふ、顔が可愛くなってきたぞ?そろそろ出るじゃろ?」
ラストスパートと言わんばかりに、腰の動きを激しくさせるロード。
「ダメだッッ!ロード!出るッッッッ!!」
「良いぞ!出せッッ!ワシの中に、ありったけの精をッッ!!」
「んあああああぁぁぁッッッッ!!」
「ふう、これがセックス…。気持ち良いものじゃな〜」
精を供給できで大満足のロードは、顔を紅くさせて余韻に浸る。
逆に精を搾り取られた側の俺は、ベッドで横になりながらゼーゼーと肩で息をする。
「ロード…。お前、初めてなら初めてって言ってくれよ……」
「別に良いではないか。処女でも非処女でも大して変わらんじゃろう?」
まあ…、後半はリードされっぱなしだったけど。
「ワシの処女はな、将来ワシが兄と認められる男に捧げる予定だったんじゃ」
初めてを兄と認められる男に…?
「え、それ良いのか?俺が貰っちゃったけど…」
「まったく、肝心な所で鈍いのう」
ロードは呆れた表情で、溜め息をつく。
「――お主に、ワシの兄上になってほしいのじゃ。ラクス=グラファイト」
真っ直ぐに、俺の目を見据えて、ロードはそう言った。
「俺…で、良いのか?」
「ああ、ワシはこの半年間、ずっとお主を見ておった。魔物を軽蔑しない優しさ、人の親切を肌で感じる純粋さ、強くありたいと願う向上心、仲間を大切にできる友愛、自分の非を認める誠実さ、家族の為に命を懸ける勇気。その一つ一つが、お主をワシの兄上にしたいとワシに思わせたんじゃ」
優しく微笑みながらロードは言う。普段見せる威厳ある笑みとも、時折見せる無邪気な笑みとも違う。俺を包み込んでくれるような優しい笑みを浮かべて。
「お主こそが、ワシの兄上となるべき人物。今一度言う、ワシの兄上になってくれ」
頭を下げてそう言うロード。その身体は、少し震えていた。
断られないか、心配なのだろう。
俺は、そんな彼女の身体を優しく、力強く抱きしめた。
「俺も、ロードの兄になりたい。ずっと、ロードの傍に居たい」
ロードが顔を上げる。目尻に涙を浮かべており、今にも泣き出しそうな顔だった。
直後ロードは、力一杯俺を抱きしめた。
「嬉しい…!ラクスが兄上になってくれて、嬉しい……!」
「俺も嬉しいよ。ロードの兄になれて」
ロードが顔を上げ、自分の顔を俺の顔に近付ける。
「本当は、エッチよりこれが先なんじゃがな」
照れ臭そうに笑うと、ロードはこう続けた。
「好きじゃ、ラクス」
「俺も好きだ、ロード」
俺とロードは、静かにキスを交わした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「本当に、言っちゃうんだね」
リリカが名残惜しそうに、俺とロードを見る。
あの後、ロードの兄となった俺に、ロードはある頼み事をして来た。
それは、ロードの一つの『夢』だったらしい。
『ワシは、兄上と共に世界中を旅したいのじゃ!』
初めロードにそう言われた時は、本当に驚いた。
でも俺は止めなかった。
ロードがそうしたいと言うなら、俺はそれに付き合うだけだ。
妹の我が儘に付き合うってのも、兄の役目だろう?
「お兄様!寝癖がついてますよ!しゃきっとして下さい!」
サバトの魔女達がロードに別れの言葉を言っている間、俺はずっと少女――リィナに身だしなみを整えられたり、荷物のチェックをされている。
結局、リィナは助かった。
ロードが他のバフォメット達にも協力を仰ぎ、魔法を解く方法を調べたのだ。
薬物の方は、リリカが解決してくれた。リリカは冒険者の頃、薬剤師としての顔も持っていたらしく、すぐに薬の効果を消す薬を作ってくれた。
本当にリリカには世話になった。いつか必ず礼がしたい。
「リリカ、ワシが居ない間は、お主がサバトを引っ張っていくのじゃ」
「うん…、そうだよね。私が居ないとね」
ロードの言葉で、ようやくリリカは元気を出した。
「ロードさん」
「む?」
俺のチェックが終わった後、リィナはロードの方を向いた。
「ウチの兄は、根暗だし、ドジだし、クール振ってるくせにすぐテンパるお調子者ですが、どうか兄をよろしくお願いします!」
俺の事を散々に言った後、ロードに頭を下げる。
「うむ、任せておけ。兄上はワシが守るからの!」
がっちりと固い握手を躱す二人。知らない間に何か変な友情が芽生えた様だ。
「じゃ、そろそろ行くかの?」
「ああ」
俺達は、リィナ達に背を向け、歩き出した。
「二人とも、元気でねーッッ!!」
「リリカもしっかりやるんじゃぞー!」
「リリカやサバトの皆に迷惑かけるなよ!リィナ!」
「はい!お兄様も、ロードさんのお荷物にならないように!」
二人の声援を受け、俺とロードは街を出た。
「まずどこに行く?」
「とりあえずジパングに向かおうかの。あそこの文化はとても独特らしいぞ」
俺の隣でロードは朗らかに笑う。
俺は、両親と今までの日常を失った。
けれど希望は、ロードが与えてくれた。
この愛しい妹が与えてくれる新しい日常を、俺は精一杯駆け抜けたいと思う。
11/07/23 21:24更新 / ソーマ
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