絶望少年と、成長(?)の日々
「はぁッ!!」
俺は高く掲げた鎌を振り下ろす。
「おっと。まだまだ構えにムダが多いよ?それっ!」
しかし、対峙している魔女はそれをたやすく躱し、杖を俺の腰に叩き付けた。
「ぐっ……」
腰に激痛が走る。
しかし、それをぐっと堪え、鎌を今度は横に薙ぎ払う。
「うわわわっ!なーんてね♪」
魔女は慌てて紙一重で躱した……様に見えたのだが、どうやらそれは演技であったらしく、身体を大きく海老反りにした、いわゆるマト〇ックスの体勢からバク宙をして、空中に飛び上がった。
「さあ、ちゃんと防ぎなよ!バーンストライク!」
魔女の背後から、大きな火の玉が流星の如く接近してくる。。
それに対して俺は、鎌を地面につけたまま、静かに詠唱を開始した。
「彼の者達に抗う力を…、アンチマジック!」
俺の前方に半透明の壁が現れ、それが火の玉を弾いた。
「よしッ!」
「危ないよー」
彼女の攻撃を防ぎ、安堵した所に彼女がそんな言葉をかけてくる。
危ない…?目の前の炎は防いだ。他に攻撃らしきものは見当たらない。前も、左右も、後ろも上も。
――って事は、
「下かッ――!」
「怒りを矛先に変え、前途を阻む障害を貫け!ロックブレイク!」
床から岩が十本ほど生え、俺の身動きを封じた。
「チェックメイト♪足元を掬われたね、みたいな?」
そう言って、俺と応対している魔女――リリカは微笑んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ…、また負けた…」
「お疲れ様じゃ、ラクス」
訓練を終えた俺に、ロードが冷たい飲み物を渡してくれる。
「あそこでラクスが詠唱破棄をしたらヤバかったね。ロックブレイクを唱える隙が無くなってたから」
リリカも同様にロードから飲み物を受け取り、先程の戦闘をおさらいする。
「ふむ、しかしリリカよ。あの場面、ラクスがフォースフィールドを唱えていたら、追い詰められていたのはお主ではないかの?」
「あー、その手があったか」
話し合いにロードも参加し、先程の戦闘について三者三様の意見を述べる。
あの後、俺はロードが率いるサバトに入会した。
ロードのサバトは、他に比べるとかなり規模が小さい。まずバフォメットのロード。魔女がリリカ含め四人。そして俺の計六人だ。
もっと人数を増やすべきだとは思うが、ロードはこの人数で十分だと言う。理由は『大勢の魔女を率いるより、数人の仲間と遊ぶ方が楽しいから』とのこと。
おそらくロードは元々人の上に立つタイプではないのだろう。ロードはバフォメットにしては驚くほどに謙虚だ。
「しかし、ラクスも成長したのう。つい二ヶ月前はその鎌も満足に握れなかったと言うのに」
いつの間にか、話題が変わっていた様だ。急にロードが俺の成長を振り返って感慨深げにする。
「まさか私と互角に張り合える程になるとはねー」
リリカもうんうん、と頷く。
リリカはこのサバトでロードの次に強い。サバトに入り魔女となる前は名うての冒険者だったらしい。容姿は完全にロリだが実年齢は「ラ〜ク〜ス〜?今とっても失礼な事考えてたでしょ?」
「め、滅相もない」
「やめておけ、ラクス。いかに永遠に若いワシらとは言え年齢は気になるものじゃ」
俺の心情を読み取ったのかリリカが般若の形相で俺に迫る。ロードはその様子を見て苦笑いしている。
…てゆーか、なんでロードまで俺が年齢について考えてたのが判るんだ?この二人は本当に謎だ。
「さて、そろそろワシは黒ミサの準備の為、席を外させてもらうとしよう」
「ああ、後でな」
「大丈夫?知らない人に付いて行っちゃダメだよ?」
「ここはワシの家じゃしそんな子供ではない!」
リリカの冗談にしっかり反応しつつ、ロードは部屋から出て行った。
「でも、本当に強くなったよね」
ロードが退席し、二人きりになるとリリカは急に近くに寄ってきた。
隣に座り、顔も数センチの距離になる。
「ま、まぁ。リリカやロードが鍛えてくれてるから」
「それってやっぱり、ロードちゃんの為?」
「えっと、それは…」
リリカに指摘され、口ごもる。おそらく顔も赤くなっていることだろう。
確かにリリカの言う通り、俺はロードに惚れている。
命の恩人だし、いろいろと面倒見てもらっているから意識するのも無理はない……はずだ。そうだと信じたい。決して俺がロリコンとか惚れっぽいとかじゃない。
「ロードちゃんも、ラクスちゃんが大好きだもんね。早くくっついちゃえば良いのに」
リリカは、プライベートな場面では俺とロードを『ちゃん』付けする。ロードが嫌がるので本人の前ではしないが。
「まだまだだよ。今の俺じゃ全然ロードに相応しくない」
「もー。ロードちゃんもラクスちゃんもお固いんだから」
横でリリカが呆れた様な声を上げる。
俺はともかく、確かにロードは魔物にしてはやや無欲だ。
魔物というのは、常に脳内がピンク色で、自らの欲望に忠実なイメージがある。種族による違いはあれど、そこは余り変わらない。
しかしロードは性に奔放という様子もなく、無駄に魔力を消費しないよう一日の大半を読書に費やしている。本当にバフォメットなのかと疑いたくなるくらいだ。
「早くロードちゃんが兄と認めてくれる男にならないとね♪」
「ああ、まぁ…頑張るよ」
リリカの期待に応えるべく、また、ロードの兄になるという自らの目標の為、俺はまだまだ強くならなければならない。
「さ、休憩終わり!リリカ、もう一回頼む!」
「オッケー♪次も負けないからね!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、こうなったと」
「ゴメン、ロード……」
「申し訳ない……」
額に青筋を浮かべるロードに、俺とリリカは土下座する。
理由は簡単、あの後も戦闘を繰り返していたら、部屋が見るも無残に崩壊していた。
どのくらい無残かと言うと天井に穴が開いている。そしてここは地下だ。
ロードが憤るのも無理はないだろう。
「罰としてお主らは部屋の修繕と晩飯抜きじゃ」
「了解…」
「うう…、お昼も食べてないのに……」
隣でリリカは悲痛な声を上げている。もとはと言えば俺のせいだし、何かお詫びを考えておかないとな。
「部屋の修繕って言うけどさ、私達にそんなのできるわけないよね〜」
「まあ、そうだな」
今、俺達は街を歩いている。
当然だがデートとかではない。
ジャイアントアントに部屋を直してもらうよう頼みに行く為だ。
「あ、着いた着いた。ごめんくださーい♪」
話している間に目的地に着いたらしい。
この街ではジャイアントアント達が大工として働いている。
ジャイアントアントが巣を作らず人間社会に溶け込むと言うのもやはり不思議な話だ。
先に入ったリリカに続いて、俺も店の扉を開く。
「こんにちは」
「よう、ラクス。なんだ、お前さんはリリカのお守りかい?」
入った途端、豪快な口調のジャイアントアントが挨拶をしてくる。
彼女はユリア。この街に来る前は巣の女王アリだったらしい。
巣の近くの街が反魔物領になり、仕方なくこの街に移住してきたものの、巣を作るのに適した森が近くになく、こうして大工として働く道を選んだらしい。
ちなみに以前より男性との出会いが多いので働きアリは満足だそうだ。
「ちょ、ユリア姐!まるで私が子供みたいじゃん!」
「子供だろ?こんなちっこい身長して」
「うるさいうるさいうるさーい!」
子供扱いが不服なリリカはユリアに抗議するも、ユリアは当然受け入れない。
そしてこの子供扱いで気分を害したリリカはロードを弄ると。なんという負のスパイラル。
「それで?今日は一体どうしたんだい?」
「あー、それがね…」
リリカはユリアに事情を説明する。
「なるほど、なら近いうちにウチの連中を何人かやるから、代金は後払いで、これだけな」
「うわ、私の給料三ヶ月分……。せっかくバイトしたのに…」
ユリアに請求された金額を見てリリカは顔を引き攣らせる。
「リリカ、だから半分俺が払うって…」
「ダメダメ!壊したのは私だし、先輩としてこれくらい立て替えてあげないと」
給料三ヶ月分払ってまで先輩の威厳が大切なのか……?俺にはよく判らない。
「じゃあね、ユリア!」
「おう、ラクスも元気でやれよ!」
「どうも…」
俺達は、店を後にした。
「そうだ、ロードちゃんにお土産買って帰ろうよ」
帰り道、リリカが唐突にそんなことを言い出した。
「お土産…って?」
「勿論、プリン♪」
「だろうな」
ロードは、殊の外プリンに目がない。
プリンを見ると、あのロードも子供の様に目を輝かせる。
その様がとてつもなく可愛いので、魔女達は事あるごとにロードにプリンをプレゼントする。
「もしかしたら機嫌を直して晩御飯くれるかも♪そうと決まれば善は急げッ!」
「あ、おいリリカ!待て!」
はしゃぐリリカを追い掛ける俺も、ロードの喜ぶ顔が見れると思うと、自然と顔がニヤけてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
コン、コン。
部屋の扉をノックする。
「入ってよいぞー」
中からそんなロードの声が聴こえてきた。
ガチャリ、と扉を開ける。
「む、ラクスか。お帰り」
ロードはもう怒っていない様だった。
「えっと、これ…」
「む?」
後ろに持っていた紙袋を差し出す。
「なんじゃそれは?」
「ロードの大好きな、プリン…」
「なんとッ!?」
ガタッ、とロードは立ち上がって瞳を輝かせた。
「アレのお詫びって事で、リリカと俺から…」
「嬉しいのう!ありがたく頂くぞ」
無邪気な笑顔を浮かべてロードはプリンを受け取る。
ああ、やっぱり可愛いなあ。
「ありがとうな、ラクス。リリカにも伝えておいてくれ」
「あ、あぁ…」
「む?どうした?」
「いや、なんでもない…」
言えるかっての…。
ちょっと見惚れてたなんて……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふふ、ラクスの奴、以前に比べるとかなり頼もしくなったのう」
ラクスに貰ったプリンを食べながら、ロードは未来の兄の成長を振り返り、満足げにニヤニヤと笑みを浮かべた。
途中、部屋に入って来た魔女が不気味がっていたが、本人は全く気にしていない。
「ラクスは順調に育っておるし、サバトの皆も昔より随分と立派になった。あとは、これだけじゃな…」
ロードは懐から一枚の手配書を取り出した。
数日前にリリカが連れてきた冒険者が持っていたもので、教団が反魔物領で配っているものらしい。
その手配書には、こう書かれていた。
「――教団が捕らえていた魔物を何匹も逃がし、教団に盾突いた穢らわしき反逆者リオン=グラファイトの息子、ラクス=グラファイト。生け捕りにした者には50000ドル。か」
文面を読み終えたロードは、忌まわしげにその手配書を破り捨てた。
俺は高く掲げた鎌を振り下ろす。
「おっと。まだまだ構えにムダが多いよ?それっ!」
しかし、対峙している魔女はそれをたやすく躱し、杖を俺の腰に叩き付けた。
「ぐっ……」
腰に激痛が走る。
しかし、それをぐっと堪え、鎌を今度は横に薙ぎ払う。
「うわわわっ!なーんてね♪」
魔女は慌てて紙一重で躱した……様に見えたのだが、どうやらそれは演技であったらしく、身体を大きく海老反りにした、いわゆるマト〇ックスの体勢からバク宙をして、空中に飛び上がった。
「さあ、ちゃんと防ぎなよ!バーンストライク!」
魔女の背後から、大きな火の玉が流星の如く接近してくる。。
それに対して俺は、鎌を地面につけたまま、静かに詠唱を開始した。
「彼の者達に抗う力を…、アンチマジック!」
俺の前方に半透明の壁が現れ、それが火の玉を弾いた。
「よしッ!」
「危ないよー」
彼女の攻撃を防ぎ、安堵した所に彼女がそんな言葉をかけてくる。
危ない…?目の前の炎は防いだ。他に攻撃らしきものは見当たらない。前も、左右も、後ろも上も。
――って事は、
「下かッ――!」
「怒りを矛先に変え、前途を阻む障害を貫け!ロックブレイク!」
床から岩が十本ほど生え、俺の身動きを封じた。
「チェックメイト♪足元を掬われたね、みたいな?」
そう言って、俺と応対している魔女――リリカは微笑んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ…、また負けた…」
「お疲れ様じゃ、ラクス」
訓練を終えた俺に、ロードが冷たい飲み物を渡してくれる。
「あそこでラクスが詠唱破棄をしたらヤバかったね。ロックブレイクを唱える隙が無くなってたから」
リリカも同様にロードから飲み物を受け取り、先程の戦闘をおさらいする。
「ふむ、しかしリリカよ。あの場面、ラクスがフォースフィールドを唱えていたら、追い詰められていたのはお主ではないかの?」
「あー、その手があったか」
話し合いにロードも参加し、先程の戦闘について三者三様の意見を述べる。
あの後、俺はロードが率いるサバトに入会した。
ロードのサバトは、他に比べるとかなり規模が小さい。まずバフォメットのロード。魔女がリリカ含め四人。そして俺の計六人だ。
もっと人数を増やすべきだとは思うが、ロードはこの人数で十分だと言う。理由は『大勢の魔女を率いるより、数人の仲間と遊ぶ方が楽しいから』とのこと。
おそらくロードは元々人の上に立つタイプではないのだろう。ロードはバフォメットにしては驚くほどに謙虚だ。
「しかし、ラクスも成長したのう。つい二ヶ月前はその鎌も満足に握れなかったと言うのに」
いつの間にか、話題が変わっていた様だ。急にロードが俺の成長を振り返って感慨深げにする。
「まさか私と互角に張り合える程になるとはねー」
リリカもうんうん、と頷く。
リリカはこのサバトでロードの次に強い。サバトに入り魔女となる前は名うての冒険者だったらしい。容姿は完全にロリだが実年齢は「ラ〜ク〜ス〜?今とっても失礼な事考えてたでしょ?」
「め、滅相もない」
「やめておけ、ラクス。いかに永遠に若いワシらとは言え年齢は気になるものじゃ」
俺の心情を読み取ったのかリリカが般若の形相で俺に迫る。ロードはその様子を見て苦笑いしている。
…てゆーか、なんでロードまで俺が年齢について考えてたのが判るんだ?この二人は本当に謎だ。
「さて、そろそろワシは黒ミサの準備の為、席を外させてもらうとしよう」
「ああ、後でな」
「大丈夫?知らない人に付いて行っちゃダメだよ?」
「ここはワシの家じゃしそんな子供ではない!」
リリカの冗談にしっかり反応しつつ、ロードは部屋から出て行った。
「でも、本当に強くなったよね」
ロードが退席し、二人きりになるとリリカは急に近くに寄ってきた。
隣に座り、顔も数センチの距離になる。
「ま、まぁ。リリカやロードが鍛えてくれてるから」
「それってやっぱり、ロードちゃんの為?」
「えっと、それは…」
リリカに指摘され、口ごもる。おそらく顔も赤くなっていることだろう。
確かにリリカの言う通り、俺はロードに惚れている。
命の恩人だし、いろいろと面倒見てもらっているから意識するのも無理はない……はずだ。そうだと信じたい。決して俺がロリコンとか惚れっぽいとかじゃない。
「ロードちゃんも、ラクスちゃんが大好きだもんね。早くくっついちゃえば良いのに」
リリカは、プライベートな場面では俺とロードを『ちゃん』付けする。ロードが嫌がるので本人の前ではしないが。
「まだまだだよ。今の俺じゃ全然ロードに相応しくない」
「もー。ロードちゃんもラクスちゃんもお固いんだから」
横でリリカが呆れた様な声を上げる。
俺はともかく、確かにロードは魔物にしてはやや無欲だ。
魔物というのは、常に脳内がピンク色で、自らの欲望に忠実なイメージがある。種族による違いはあれど、そこは余り変わらない。
しかしロードは性に奔放という様子もなく、無駄に魔力を消費しないよう一日の大半を読書に費やしている。本当にバフォメットなのかと疑いたくなるくらいだ。
「早くロードちゃんが兄と認めてくれる男にならないとね♪」
「ああ、まぁ…頑張るよ」
リリカの期待に応えるべく、また、ロードの兄になるという自らの目標の為、俺はまだまだ強くならなければならない。
「さ、休憩終わり!リリカ、もう一回頼む!」
「オッケー♪次も負けないからね!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、こうなったと」
「ゴメン、ロード……」
「申し訳ない……」
額に青筋を浮かべるロードに、俺とリリカは土下座する。
理由は簡単、あの後も戦闘を繰り返していたら、部屋が見るも無残に崩壊していた。
どのくらい無残かと言うと天井に穴が開いている。そしてここは地下だ。
ロードが憤るのも無理はないだろう。
「罰としてお主らは部屋の修繕と晩飯抜きじゃ」
「了解…」
「うう…、お昼も食べてないのに……」
隣でリリカは悲痛な声を上げている。もとはと言えば俺のせいだし、何かお詫びを考えておかないとな。
「部屋の修繕って言うけどさ、私達にそんなのできるわけないよね〜」
「まあ、そうだな」
今、俺達は街を歩いている。
当然だがデートとかではない。
ジャイアントアントに部屋を直してもらうよう頼みに行く為だ。
「あ、着いた着いた。ごめんくださーい♪」
話している間に目的地に着いたらしい。
この街ではジャイアントアント達が大工として働いている。
ジャイアントアントが巣を作らず人間社会に溶け込むと言うのもやはり不思議な話だ。
先に入ったリリカに続いて、俺も店の扉を開く。
「こんにちは」
「よう、ラクス。なんだ、お前さんはリリカのお守りかい?」
入った途端、豪快な口調のジャイアントアントが挨拶をしてくる。
彼女はユリア。この街に来る前は巣の女王アリだったらしい。
巣の近くの街が反魔物領になり、仕方なくこの街に移住してきたものの、巣を作るのに適した森が近くになく、こうして大工として働く道を選んだらしい。
ちなみに以前より男性との出会いが多いので働きアリは満足だそうだ。
「ちょ、ユリア姐!まるで私が子供みたいじゃん!」
「子供だろ?こんなちっこい身長して」
「うるさいうるさいうるさーい!」
子供扱いが不服なリリカはユリアに抗議するも、ユリアは当然受け入れない。
そしてこの子供扱いで気分を害したリリカはロードを弄ると。なんという負のスパイラル。
「それで?今日は一体どうしたんだい?」
「あー、それがね…」
リリカはユリアに事情を説明する。
「なるほど、なら近いうちにウチの連中を何人かやるから、代金は後払いで、これだけな」
「うわ、私の給料三ヶ月分……。せっかくバイトしたのに…」
ユリアに請求された金額を見てリリカは顔を引き攣らせる。
「リリカ、だから半分俺が払うって…」
「ダメダメ!壊したのは私だし、先輩としてこれくらい立て替えてあげないと」
給料三ヶ月分払ってまで先輩の威厳が大切なのか……?俺にはよく判らない。
「じゃあね、ユリア!」
「おう、ラクスも元気でやれよ!」
「どうも…」
俺達は、店を後にした。
「そうだ、ロードちゃんにお土産買って帰ろうよ」
帰り道、リリカが唐突にそんなことを言い出した。
「お土産…って?」
「勿論、プリン♪」
「だろうな」
ロードは、殊の外プリンに目がない。
プリンを見ると、あのロードも子供の様に目を輝かせる。
その様がとてつもなく可愛いので、魔女達は事あるごとにロードにプリンをプレゼントする。
「もしかしたら機嫌を直して晩御飯くれるかも♪そうと決まれば善は急げッ!」
「あ、おいリリカ!待て!」
はしゃぐリリカを追い掛ける俺も、ロードの喜ぶ顔が見れると思うと、自然と顔がニヤけてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
コン、コン。
部屋の扉をノックする。
「入ってよいぞー」
中からそんなロードの声が聴こえてきた。
ガチャリ、と扉を開ける。
「む、ラクスか。お帰り」
ロードはもう怒っていない様だった。
「えっと、これ…」
「む?」
後ろに持っていた紙袋を差し出す。
「なんじゃそれは?」
「ロードの大好きな、プリン…」
「なんとッ!?」
ガタッ、とロードは立ち上がって瞳を輝かせた。
「アレのお詫びって事で、リリカと俺から…」
「嬉しいのう!ありがたく頂くぞ」
無邪気な笑顔を浮かべてロードはプリンを受け取る。
ああ、やっぱり可愛いなあ。
「ありがとうな、ラクス。リリカにも伝えておいてくれ」
「あ、あぁ…」
「む?どうした?」
「いや、なんでもない…」
言えるかっての…。
ちょっと見惚れてたなんて……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふふ、ラクスの奴、以前に比べるとかなり頼もしくなったのう」
ラクスに貰ったプリンを食べながら、ロードは未来の兄の成長を振り返り、満足げにニヤニヤと笑みを浮かべた。
途中、部屋に入って来た魔女が不気味がっていたが、本人は全く気にしていない。
「ラクスは順調に育っておるし、サバトの皆も昔より随分と立派になった。あとは、これだけじゃな…」
ロードは懐から一枚の手配書を取り出した。
数日前にリリカが連れてきた冒険者が持っていたもので、教団が反魔物領で配っているものらしい。
その手配書には、こう書かれていた。
「――教団が捕らえていた魔物を何匹も逃がし、教団に盾突いた穢らわしき反逆者リオン=グラファイトの息子、ラクス=グラファイト。生け捕りにした者には50000ドル。か」
文面を読み終えたロードは、忌まわしげにその手配書を破り捨てた。
11/07/20 19:40更新 / ソーマ
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