連載小説
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母様
「……母、様?」

間違いない。母様だ。
『ギリーエル様!?それにフェルメル様まで!!』
ユニッセも現れた人物がだれなのか解ったようだ。
でも、なんで、母様がここに?
「……」
母様は何も喋らず、私(の頭)に振りかえった。
「…あ、…」
母様が近づいてきて、母様の足しか見えなくなると、剣を地面に突き刺し、私は母様に持ち上げられた。
久しぶりに正面から見た母様の顔は、いつもの様にどこか堅い顔だった。
私は何て言ったら良いか判らず、ただ母様を見つめていた。
「………」
母様は無言のままだった。

そう、だね。
こんな私に掛ける言葉なんてないよね。
剣も振れなくて、
勝手に魔界から飛び出して、
キズだらけになって、
守ってくれたコトラも守れなくて、
挙句死にそうになって。
ごめんなさい。
母様の娘なのに、
何も出来ない私。
まったく、落ちこぼれな、私。
最後まで、駄目なデュラハン。









「…………………よ…よく、頑張った、な」




…え?



「よく…戦った、な」


うそ…

母様が、笑っ…て……――









「……」
言えた。
遂にイルティネに、娘に言う事が出来た。
今まで目を逸らしてきてしまったツケは大きかったようだ。
自らの娘と話すのに鎧を着てまで気合を入れなければならないとは情けないにも程がある。
思えば、何時から娘の顔をしっかり見ていなかっただろう。
自らの娘に勝手に幻滅してしまっていたのは何故だ?
前魔王様の時代から剣を振い、元々淫魔では無かった私は娘と言う存在がいまいち解らなかった。
しかし、イルティネが大切な存在だと言う事には気付いていたただろう?
だから私はここでの会話を魔法を使ってまで聞き、娘の危機にこうして駆けつけたのだろう?
大切な存在だと言うのに、何故突き放してしまった?
あの時、倒れる娘に何故駆け寄ってやれなかった?
騎士としてではなく、戦士としてではなく、母として、何故抱きしめてやれな
かった?
何故、目を逸らしてしまった?背を向けてしまった?
確かに、私の様に立ちはだかる敵を薙ぎ倒す事は出来ないかもしれない。
しかし、こんなにぼろぼろになりながら娘は、戦っていたではないか。
剣を持たずとも、常に戦っていたではないか。

…?

イルティネ?



「た、たたたたたたたいへんだ!!!イイイイイ、イルティネが動かないぞ!!!!!イルティネ!!!おいっ!!!どうした!!!返事しろ!!!あ、わ、あ、あ、う、え!??」
「ギリー、落ち着いてぇ」
「イルティネぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」
「落ち着けぇい」

――ゴスッ

「ぐうっ、フェルメル!?何をする!!」
私をここまでドラゴンの姿で運んできてくれたフェルメルが、宙に浮きつつ尻尾で私の脳天に一撃を入れてきた。
「取りあえずイルちゃんの頭ぶんぶんするのやめたげてぇ。気絶してるだけだからぁ」
「な!?ほ、本当か!??」
目映い光を放ちながらフェルメルはヒト型に戻ると私の目の前に降りてきた。
「うん。ギリーが来たから、気が緩んだんじゃないかなぁ。…ほら」
見ればイルティネは息をしていた。
「良かった………」
私は安堵の溜め息をついた。
「ほら。イルちゃんは私が何とかするから、ギリーはそっちどうにかしなよぉ」
『そっち』とは、先程から後方に感じる殺意の事だろうか。
振り返ると、女がイルティネの血の付いた剣を構えている。
女はその明確な殺意を私に投げつけたままで、イルティネの体の方には何もしていないようだ。
まあ、何かしようとしてもさせないが。
「お前は逃げないのか?」
奴の部下らしき男共は私とドラゴン姿のフェルメルが現れた時にさっさと逃げた。
「彼らにはもしもの時逃げるように言い聞かせてありますから…私には魔物に背を向けて逃げる理由などありません」
女が睨んでくる。
「勝てない相手に剣を向けるのは愚か者のする事だ。素直に逃げたらどうだ?下手な矜持や意地は身を滅ぼすぞ」
忠告してやったにもかかわらず、女からの殺気が増した。
それでも少しの間待ってみたが、剣を収める気は無い様だ。
剣を地面から抜き、右手一本で女にまっすぐ切先を向ける。
「なら、ここは戦場だ。私に剣を向けた以上、生きて…少なくとも、五体満足で帰れると思うな」

魔物は全て淫魔になった?
男は大事なパートナー?
女は犯して仲間にする?
知るか。

殺すぞ。

女が私に切りかかって来て、そして、




















「おろ?まだ生きてるじゃぁん」
「………腕が鈍った」
女は私の足元で腹から血を流しながら倒れている。死んではいないが意識が無い上に虫の息で、何もしなければもうすぐ失血死するだろう。
本当なら一太刀で上半身と下半身に分けてやろうと思ったのだが、寸での所でかわされてしまった。
鈍っていたとはいえ直撃を免れたとは、やはり中々のやり手だったか。
「止めはぁ?刺さないの?」
「気絶した相手に止めを刺しても意味が無い」
剣を構えない者に剣を突き立てては騎士の名が廃る。戦いはもう終わったのだ。
…先程は宣言したが、死んでもいないし四肢欠損も無い。もっと精進せねば。
「じゃあ、これちょうだい」
言うが早いかフェルメルは治癒魔法で女に手当てを施し始めた。
魔物にでもするつもりだろうか?
腕は立つが、魔物に対する憎悪がかなり強いと見える。そのまま身体を変えただけでは精神が壊れたり、更に憎悪の炎を燃え上がらせたりしかねない。心まで解き解すのは難しいと思うのだが。
「まあ、好きにしろ。ここまで乗せて来て貰った礼だ」
そう言って、ここに来た目的を思い出した。
「そうだっ!イ、イルティネは!??」
大怪我を負っていたイルティネの存在を忘れていたとは、やはり私は母親として失格なのだろうか。
「ぬかりないよぅ」
フェルメルの指し示す方には首の付いたイルティネが横たわっていた。
「ぶんぶんしないでねぇ。寝てるだけだから」
イルティネに駆け寄り肩を揺すろうとしていた私に釘を刺さしたフェルメルは上手くやってくれてた様で、イルティネの出血も止まっていた。
落ち着いて、改めて娘の顔を見る。私によく似た顔が静かに寝息を立てていた。
女の返り血の付いた魔力で象った鎧を分解し、イルティネの頬に手を当てる。
『あ、あのギリーエル様が笑っている…っ』
驚愕した声が聞こえる。そう言えばユニッセが居たのだった。
「私だって、笑う位するさ……ユニッセ」
『は、はいっ!』
緊張した声が聞こえる。
「イルティネの為に、有難う」
『…あのギリーエル様がありがとうって言った…っ。って、あ、いえ。当然ですよ。友達ですから』
再び驚愕した声が聞こえた。私は一体どう思われているのだ。
『あ、あと、お礼ならそっちのヒトにお願いします』
顔を横に向けると、人間の少年―コトラだったか?―が私を見ていた。
「ああ、申し遅れた。私はギリーエルと言う。…この通りデュラハンだ。イルティネを守ってくれた事に感謝する。ありがとう」
首を一瞬外して見せた。
「え、いや、あ、コ、コトラ・セン、です……」
何やらコトラから焦げた臭いがする。
「?……背中が焼かれているではないか」
覗きこむようにコトラを見回すと、背中に火傷を負っていた。
「フェルメル」
呼んだだけで用件は伝わったようだが、フェルメルは未だに女に治癒魔法を掛けている。
「ちょっと待ってぇ。ギリーが深くやっちゃうから戦利品がしんじゃいそうぅ」
「殺すつもりだったからな」
結果、殺せなかった訳だが。
「……あなたは」
コトラが恐怖と怒りを混ぜ合わせたような顔を浮かべながら私を見つめる。
いや、睨む…か?
「なんで、殺そうとしたんですか」
「……」
「あなたぐらい、つ、強いんだったら…」
「言おうとしている事は分かる」
殺したり、瀕死の状態にしたりしなくとも勝敗は付けられたのでは、と言いたいのだろう。
もしかしたら違うかもしれないが、一番は何故殺そうとしたのか、と言う事だろう。
「だが、あの女は力の差を承知の上で、明確な殺意と共に私に剣を向けたんだ。手を抜けば私が死ぬかも知れない。私が死ねばフェルメルが死ぬかも知れない。私が死ねばイルティネが死ぬかも知れない。私が死ねば、魔物に手を貸したお前を殺すかも知れない」
コトラは何か言おうとするが上手く言葉に出来ないようだ。
「生きるためには少なからず他を殺すことになる。動物を狩り糧を得るお前なら分かっているだろう」
当たり前の事を言ったが、コトラが何も言わないので更に続ける。
「まして、やつは騎士だ。同じ騎士として、命のやり取りに手を抜いたとあれば相手に対して失礼だ」
私としてはイルティネを殺そうとしたと言う事も加味して貰いたい所だがな。
「…………は、い」
コトラは眠るイルティネを見て、弱々しく首肯した。

「お前は私が嫌いか?魔物が嫌いになったか?」
不意に発した私の言葉にコトラが顔を向けた。
「え?」
質問が行き成り過ぎて付いて来て居ないようだ。
「私は、昔から多くの人間を殺してきた。お前と同じ位の年頃の者も殺した事もある。同族を手に掛けた事もある。魔王様が代替わりなさって、身体は一回り小さくなり、見て呉れは人間の女の様になった。力は全体的に落ちたがその代わり知性は高くなった。昔の私とは似ても似つかない。しかし、私には昔から変わらない部分がある。人間も魔物も、必要とあれば殺すだろう。…私個人の事はどう思ってくれても構わない。しかし、全ての魔物が私と同じだとは思わないで欲しい」
コトラがイルティネを見やる。
「殺す者も、愛する者も嫌う者も、お前と同じ様に身を呈して人間を守ろうとする魔物もいると言う事を、覚えていてくれ」
「はい…」



「よーし、これで大丈夫だよぉ」
「あ、ありがとうございます」
「完全に治ったって訳じゃないからぁ、えーと、こんな形の草わかるぅ?」
「あ、はい。たしか、その辺に沢山生えていると思います」
「ほんとぉ?じゃあ、あたしも少し取っていこうかなぁー。で、その草を…」
フェルメルはコトラの治療を終え、そのまま話しながらコトラと森に入って行った。
ユニッセはどうやら魔力が尽きたようで、声は聞こえてこない。
…スライム種はこんな事が出来たのか…。相当魔力を喰うだろうが、緊急時の遠距離通信に使えそうだな。
そう言えば、焦って魔界から飛び出すのではなく、イルティネの使っていた魔法陣を使えば一瞬だったな。やってしまった。
危なかったが、まあ、間に会って良かった。
当のイルティネは死んだように眠っている。…あれ?死んでないよな?
…息をしていた助かった。
まったく、とんでもない心配を掛けて、誰に似たんだか。
顔は私とそっくりだが。
本当に、誰に似たんだろうな…。
お前は私の様なやつになるなよ。
さて、イルティネをこんな所にいつまでも寝かせておくわけにはいかないな。
「フェルメル。そろそろ帰るぞ」
両手に草の葉を満載して戻って来たフェルメルに声を掛ける。
「はいよぉ」
フェルメルの身体から光が溢れ出て、その光が治まった時、フェルメルは大きなドラゴンの姿になっていた。
屈んで低くなったフェルメルの背にイルティネを乗せる。
すると、フェルメルの変身を見てか、コトラも戻って来た。
「帰るんですか…?」
「ああ、さっさと帰ってイルティネを休ませたいからな」
フェルメルが言うので仕方なしに女も背に載せながらコトラに返事をした。
「ギリー、草もおねがいねぇ…あと、最後言わなくて良いのぉ?」
何の事かと、フェルメルの採って来た草を女の物と思われるマントを使い纏めて背に乗せている間考えていたが思い出した。
改めてコトラに向かい合った。
「一つ、頼みたい事がある」
「え!?」
コトラが一瞬ビクつく。
「お前とイルティネの此処での会話は全て、聞かせて貰っていた」
「えっ…?」
少し驚いた顔には?が浮かんでいた。確かに文としてはおかしいな。
「それは前置きなのだが…まあ、その、お前は、『ヒトには色々ある』と言っていただろう?」
コトラの視線が斜め上を向いた。思い出しているようだ。
「…言いました、けど、それが…」
「恥ずかしい話だが、イルティネの『色々』の原因の一端は私にある。…原因の私が何を言っているんだと思うかもしれない。けれど、先程の話ではないが、もしお前が、魔物を恐れる事無く、それでいてイルティネの事を友人と…大切と思ってくれているのならば、ときどきで良い。娘の、相手をしてやってはくれないだろうか?」
「それは…俺なんかで良ければ全然!」
一瞬目を見開いた後、コトラはどこか嬉しそうに答えてくれた。
「ありがとう」
そう遠くない未来には、この顔が私の新しい家族になるのだろうな。

特に忘れ物が無いかどうかだけ軽く確認し、私達を乗せたフェルメルが大地を離れる。
「じゃあ、ちゃんと草すり潰して背中塗ってねぇ」
「はい。ありがとうございました」
高度が揚がって行く中、私は礼と挨拶を言った。
「コトラよ、ありがとう。また会おう!」
聞こえたかどうかは知らないが、小さくなって行くコトラは手を振り続けているようだ。


「コトラ、だっけぇ?イイ子だねぇ」
「確かに、な。ひやひやもしたが」
「イルちゃんも気に入っているようだしぃ。いいのぉ?」
「私の娘が気に入ったんだ。私が口を出す問題では無いだろう。…もっとも、口を出してやれたことすら、殆ど無かったがな…」
「まーた落ち込んでるぅ。落ち込むぐらいなら話せば良いのにぃ」
「そう、だな。…娘で無ければ、こんなにも容易く言葉を交わす事が出来ると言うのに」
「さらに落ち込んだぁ。そんなに難しく考えなくて良いんだよぉ。自分の娘なんだからぁ」
「…そう言えば、お前にも子がいたな。あのやんちゃ娘」
「放任主義だからねぇ。基本不干渉でやってるぅ」
「良いのか?」
「それを言ったらギリーだって似たような物じゃないぃ?」
「ううっ」
「親が居なくても子は育つけど、親からしか学べないものとか、親からしか与えられないものもあるからねぇ」
「私は血生臭い戦い方位しか、教えるものが無いんだ…やはり私は親として失格か」
「まだ早いよぉ。今からでも遅くないってぇ」
「そうだろうか」
「ギリー、イルちゃんの事は好きぃ?」
「好きだとも」
「大切ぅ?」
「大切だ!」
「大切なのにぃ?」
「っ!…………大切だからこそ、娘が地面に倒れる姿を見たくなかった。強くなれば、倒れる事も無い。強ければ、傷を負う事も無い。私自身そうしてきた。私にはそれだけだった。だからこそ、どうして良いか分からなかった。私と違うイルティネに、どうしたらいいか解らなかった」
「便利な言い訳だねぇ」
「そうだ。これは私の勝手な、都合の良い言い訳だ。こんなもので自分をだまさなければならないほどに、私は、弱くて、イルティネを…傷つけてしまった」
「……」
「鎧をつけて気合を入れるなんてふざけ過ぎている。イルティネの顔を目を正面から見る機会なんて腐るほどあったんだ。本当は自分に幻滅していたんだ。元々淫魔では無かったから子のことなど良く解らないなんていうのも汚い言い訳だ。逸らしてしまったよ。娘から目を逸らしてしまったんだ。突き放してしまったんだ!抱き起こすことも出来なかったんだ!!でも!……でも!!」
「でもぉ?」
「でも……たいせつ、なんだ、よ…」
「ギリー…」
「イルティネ…こんな、こんなに弱い私を許してくれ…!!」
「大丈夫だよぉ」
「ううっ、…フェルメル……」
「そうやってイルちゃんに申し訳ないって思って泣けるなら、だいじょぶだよぉ。……まだ、時間あるじゃぁん。遅くないってさっき言ったでしょぉ?」
「今、から…でも、やり直せるのか…?」
「始まっても無いくせにぃ…」
「そう、だな…」
「それに、今回の事でイルちゃんにもギリーの気持ち伝わってるってぇ……ね?」

フェルメル様の最後の言葉は母様では無く、私に向けられたものだった。…私が起きてるの気付いていたんだ。
きっと、私が起きてるってわかったから、母様の本音を言わせる様な事をしたんだろう。
ちょっとお節介な気もしたが、嬉しかった。
母様の気持ちを聞く事が出来た。
私も、自分の気持ちに気付く事が出来た。
私も、自分の気持ちから目を逸らしていたんだ。

私は、痛かった。
胸が、心が、張り裂けそうなほど痛かった。
剣が振れなかった時も
魔法が使えなかった時も
痛くて、痛くてたまらなかった。
母様に追いつけなくて。
母様の期待に答えられなくて。
部屋に閉じこもってからも、
窓から外を見ている時も、
どうしようもない程に。
母様に見捨てられたと思って。母様と一緒に居られなくて。

「……イルティネ?…イルティネが泣いている」
あれ?…本当だ。涙出ちゃってる。
「どうした…何でお前が泣くんだ…」
母様が私の涙をぬぐっていく。
涙として流れだした痛みを、母様が受け止めてくれる。
「夢でも見ているんじゃなぁい?ぎゅっ、てしてあげなよぉ」
「あ、ああ…」
母様が私を抱きしめている。
今まで隠れていたキズが、母様のぬくもりで癒されていく。

本当ならここで目を開けて、私も自分の気持ちを言うべきなのかもしれないけれど、私は寝ているフリを続けた。
さっきのはフェルメル様に向けて言った言葉だったから。
今度は私に向かって、目を見て、もう一度言って貰おう。
その時は私の気持ちもしっかり伝えよう。
きっと、きっと母様と普通に話せるようになる。
だから、もうしばらくは、このまま抱きしめていてください。





















「はい!じゃあ、この書類は?」
「ええと、射撃指導員のクーヌさんにサインを貰って、ソノンさんを通した後母さ…じゃない、ギ、ギリーエルさんの所に持って行く」
「…よろしい」
私はあの後、ユニッセ達クイーンスライムの仕事の見習いをしている。
引きこもりから脱却するため何かしようと思って、ユニッセに相談したらこうなった。
今まで部屋の中で暇を持て余した分、あくせくして働かなければならない。
事務仕事以外にも、掃除や洗濯、食堂で料理の見習い等もしている。
剣は振れないが、鍋なら私でも振る事が出来たのだ。
一部の魔物達からはまだ陰口をたたかれるが、この前彼女らが美味しいと言って食べていた料理は私が作ったものだ。ざまあみろ。
コトラも、村では弓を使って狩りをするがどうしても弓が上手く扱えず、それで剣を使っているのだとか。

同じ道から母様の背中は支えられないけれど、違う所からでも、母様を支えられる様になりたい。
私は、私なりの場所で戦えばいいのだと。母様は教えてくれた。
でも、その言葉はフェルメル様が母様に教えたものと言う事を私は知っている。
別にその事は構わないのだけど。

「でも、別にギリーエル様の事『母様』でも良いじゃないですか」
「え?ああ、なんか、…ギリーエルさんが、呼び方を変えたら、こう、なんか違う感じですぐに普通になるとかなんとか…なんか私も良く解らないんだけどね」
「…名前でなくても『おかあさん』とかじゃダメなんですか?」
「『おかあさん』!?何その心地良い響きは!」
「知らなかったんですか?」
「『おかあさん』、『おかあさん』…いいな。今度からおかあさんって呼ぼう」
「ま、名前じゃなんだか他人行儀ですしね」
「…あ、ユニッセ。今日はもう終わり」
「ええ!?イルティネさん!さっき始めたばかりじゃないですか!」
「続きは後でやるから、今日は約束が…」
「なんですか。今日もコトラさんとでぇとですか」
「でぇとって…と言うより、前から言ってあったわよね?」
「そうでしたっけ?まあ約束なら仕方無いですが…。まったく、いつになったら正式にコトラさんを魔界へお迎えする事やら」
「お、おおお迎えって、そ、そんな…」
「イルティネさん結構ウブですよね。もう食べちゃいたいくらいカ・ワ・イ・イ☆」
「……ほら、魔法陣早く」
「無視ですか……しょせんまほうじんのためだけのそんざい…」
「面倒くさいこと言わないでよ」


――ヴゥン

11/05/20 01:57更新 / チトセミドリ
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■作者メッセージ
「『おかあさん』…だと…っ!?…なんだその素敵な響きは!」
「母親を指す言葉だねぇ」
「『おかあさん』、『おかあさん』…いいな。是非イルティネに呼ばれてみたい」
「顔がヒドイ事になってるよぉ」
「失礼します…。書類、持ってきました。お、おお、おかあ、さん」
「!!!!」
「…顔がヒドイ事になってるよぉ」



なんとか完成させましたが、旨くまとめられた気があまりしませんorz
ストーリー考えた時はここまで長くなるとは思わなかったんですが…。
駄文ながらもここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!

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