act7・リザードマンマイア
3…
2…
1……きゅー!
(画面の前のお友達も一緒に歌おう)
『リザードマンマイアのうた』
ギリギリまで頑張って
ギリギリまで踏ん張って
いつでもサクラにピンチの連続
そんな時、リザードマンが欲しい
愛さえ知らずに育ったバフォメット
叫びはお前の涙なのか…
力任せの邪悪な願い
サクリストからこの街を守るため
ここから一歩も下がらない
ギリギリまで頑張って
ギリギリまで踏ん張って
いつでもいつでもピンチの連続
そんな時、リザードマンが欲しい
リザードマンマイア!
ギリギリまで頑張って(Come on!Come on!Come on!)
ギリギリまで踏ん張って(Wow!Wow!Maia!)
ギリギリまで頑張って(Come on!Come on!Come on!)
ギリギリまで踏ん張って(Wow!Wow!Maia!)
なかなか出番ない…
ピンチの連続!
そんな時、リザードマンが欲しい
リザードマンマイア!
―――――――――――――――――――――
「諸君、職務ご苦労じゃ。」
「アーッ!」
ここはセラエノ学園科学実験室。
秘密結社サクリストの科学実験室でもあるのじゃ。
ちなみに本部はセラエノ学園購買部の売店とその奥の六畳一間の控え室なのじゃ。
……ワシが言うのも何じゃけど、アヌビスも学園長殿も何故気が付かないのじゃろ?
「バフォメット将軍、例の実験薬が完成致しました。」
覆面にフンドシ姿の戦闘員。
科学班はそれに白衣を羽織ることを許可されている。
「今度のは、大丈夫なんじゃろうな?」
「もちろんです。先日製造した、メカ=フレイヤはあまりの酷さに我々も涙を飲みましたが、今回のは万全です。昭和風に言うとバッチグーな出来になっています。」
「わざわざ昭和風に言い換える必要性を感じないが、それならば良い。まったく……、おかげでワシは大目玉じゃった……。ヴァル=フレイヤの人気にあやかって、メカ=フレイヤ作戦で町中を恐怖と混乱に叩き落す計画じゃったというに……、何故出来上がったものがカツラを被った『先行者』なのじゃ!?せめてそこは『ロボ・カイ』くらいの出来まで持っていくのが科学者の使命じゃろう!!」
「お言葉ですが、バフォメット将軍。あの時、我々はギリギリだったのです。予算も頂けず、時間もわずか3日しか頂けず、終いにはダンボールに『メカ=フレイヤ』と書いた鎧を誰かが着るという最悪な案が飛び出したくらいです。しかしそれを『先行者』レベルまで持っていった、我々科学班のプライドをお褒め頂きたいのです。」
「それはわかっておる。ワシだってあの後、ワシは大首領に怒られて鎧通しを喰らったり、無理矢理異次元の狭間を彷徨って、英雄墓場で没キャラや、死んだ英雄の再利用を考えさせられたり……、ワシはおかげで娼館でおねーちゃんの乳も揉めず、エロゲを進めることも出来ず、苦渋を舐めたのじゃ!」
思い出しても涙が溢れる…。
「しかし、それも終わりじゃ!その実験薬があれば、ワシ自身のパワーアップが超可能!ワシの人気も鰻登りじゃぁ〜!!!」
「アーッ!」
クックック……、おっと。
学園長殿のようなスカッと爽やか&ザマミロ的なわる〜い笑いが溢れて溢れて止まらぬのう。
これで、あやつらに…、あやつらの人気に圧されることもないのじゃ。
ワシだって……、超人気者街道まっしぐらじゃぁぁぁー!!!
アンケートその1・アヌビスの場合
「え、人気の秘訣ですか?え〜〜〜っと……、私特別なことはしていませんよ。あ、強いて言えば…、恋をしている…、くらいですかね?好きな人に見てもらいたくていつも綺麗にしていたい…、ですね。髪の毛も(わんわん♪)さんがジパングの人なので、黒髪に香油をほのかに塗ったり、尻尾のブラッシングも欠かせませんし、肉球の柔らかさを保つためにお手入れいたり……。あ、そうそう体型維持のダイエットやエクササイズも欠かせませんよ。私、結構胸がありますから、筋肉が衰えるとすぐに垂れちゃいそうですし……、それにお腹が元々少しぽっこりしてますから、そういう意味でもエクササイズは欠かせませんね。あ、イチゴ先生、もう良いんですか?あの…、私思うんですけど…、人気云々よりも先生の場合は食生活と生活習慣を見直せば良いと思いますよ?」
アンケートその2・ダオラの場合
「ふむ……、我の人気…?そのようなもの考えたことはないな。我はただ我のままあるがままに生きておる故……ん?何じゃ、我のプロポーションをどう保っておるか…だと?それも考えたことはない。我らドラゴン種は戦闘に特化した身体であるから、自堕落しても太ることも、歳を取って身体が衰え醜くなることはほぼない。寿命が尽きれば、この戦うのに適した身体のまま天へ還る。……は?その割にはでかい乳しとるやないけ?ああ、それは簡単なこと。我は子を生んだからな。子を生むとな、やはり女らしい身体付きになるというものだな。もう少し……、母親らしいことをしてやれなかったのが悔やまれる……、がな?って、こ、こら、何を触って……、何?この細い腰はどこで手に入れた?いや、別に何もしておらぬぞ。………疑り深い少女よな。まぁ、我は普段は学園の警備員をしておるし、低年齢の生徒とよく遊んでおるから、絶えず動き回っておるし、アヌビスの言うエクササイズというものになっておるやもしれぬ。おっと、子供たちの助けを呼ぶ声が聞こえるのでこの辺でな。変身!!」
アンケートその3・宗近
「………こんなことをしている暇があなたにあるのですか…?え、これが組織の戦力拡大に繋がる…?仕方がありませんね。で、私の人気?新参者の私に人気の秘訣、と聞かれましても……。まぁ、良い女には良い女のオーラが自然と出てくるものですよ。先日も、居酒屋で飲んでいたら初々しい男の子が私に声をかけて来ましてね。ナンパって言うのですか?町で私を見かけて、勇気を振り絞って声をかけたみたいでしたよ。初めてのナンパで、ガチガチに緊張したその子が可愛くて……、つい、お宿に連れ込んでパクっと♪………イチゴ、私の歳の話はしないでください。…え、……結局男は乳がでかくて、腰が細くて、尻がムッチリしてれば何でも良いんだろですって?それは間違いですよ、イチゴ。私はこう見えても日の本では人気がなかったのですよ。日の本では着物の似合う女性こそが美しいのです。ですから、あなたのような幼児体型で、寸胴のようにくびれのない身体こそが理想的…、あら?イチゴ〜、泣きながらどこへ行くのですか〜?」
アンケートその4・アスティア
「………で、結局私に泣き付いて来た、という訳か。だが私も人気がある訳じゃないから、君に助言が出来る訳じゃないんだがね。…………お互いペタン同士、共通する悩みがあるじゃないか…だって?バフォメット、あまりそんなことばかり言ってると、ネフィーに言って君のボーナスどころか月給も大幅カットしても良いんだよ。……………ふぅ、まったく。君もあまり気にしないことだよ。私は………、まぁロウガが胸がなくても私のことを愛してくれるから…、ね…?君もその身体を自分の武器にすれば………え?最近、ロクな男がいない?そういえば君の理想の男性像って、どんな人なんだい?……ふむふむ、…………背が高くて、お金持ちで、若くて、お金持ちで、イケメンで、お金持ちで、夜にガンガンやっても壊れないくらいタフで、お金持ちで、どれだけエロゲやゲームし続けても許してくれる程心が広くて、お金持ちで…ってもう良いよ。まったく……、だいたい君も黙っていれば可愛いんだから、少しは言動と生活態度を改めれば…、良い男が寄って……あ、バフォメット!泣きながらどこへ行くんだ!!」
これさえあれば…!
アンケートを参考に作り上げたこの薬さえあれば!!
ワシはまさに無敵…!
業界初、お色気満点、ボンキュッボンのむちぷりんな八頭身バフォメットに大変身じゃ!
「いざ!」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、ごきゅっ!!
瓶に入った紫色の液体を一気飲みする。
もちろん腰に手を当てるなど初歩の初歩じゃ。
「ああ、バフォメット将軍!これは原液を20倍に薄めないと…!!」
「ふっふっふ、ワシの身体は特別製じゃ。この程度の原液、どうとい……うこと………は……………!?」
ドックン……、ドックン…、ドックン…
おおおお?
か、身体が……、あ、熱い………!?
「バ、バフォメット将軍の様子が…、おかしいぞ!」
「総員、退避!退避ィィィーッ!!!」
こ、これが、ないすばでーになる反動か…。
何か……、違うような…?
ら……、らめぇ……、身体が…、火照って………!
「逃げろぉぉぉぉぉーっ!!!!」
「ばふぉぼんびぃぃぃーーっ!!!!!」
―――――――――――――――――――――
う〜〜〜〜〜、カンカンカンカン
『怪獣警報、怪獣警報!近隣住民の皆様ぁ、慌てず焦らず避難してください。』
ずし〜〜〜ん……、ずし〜〜〜〜ん……
『んあんぎゃーっ!!!』
身長40m、体重4万t。
頭身がさらに低くなり、3頭身の巨大バフォメット、イチゴが町を歩く。
見た目には可愛いが、やっているのはゴジラそのもの。
もちろん、日本版、本家本元の方である。
やっぱ、マグロ食ってるのは駄目だな。
「………で、何なんだ?この有様は?」
ルナがハーピーたちと空を飛び、警報を鳴らしている中、サクラと共に出稽古から帰ってきたロウガは呆れて、宗近に問いただした。
「うちの将軍が実験の失敗で、巨大化しちゃったのです。」
「しちゃったのです、じゃねえよ。迷惑かけねえって言ったからうちの購買部と化学実験室を貸し出したのに……。学園どころか町中に迷惑かけているじゃねえか…。」
珍しく、宗近は尻尾と耳が下がり、シュンとした顔をしている。
「面目ありません。こうなったら…!」
「こうなったら…?」
「お詫びに脱ぎます!!」
スパーン
「脱ぐな!」
どこから取り出したのか、トイレスリッパでロウガは宗近を叩く。
軽く、小気味の良い音が響く。
「上総乃丞、痛いじゃないですか。」
「うるせぇ!綾乃の裸ならともかく、ババアの裸なんぞ見てだれがよろこ」
「えい♪」
ズゴンッ
本家本元の鎧通しがロウガの腹に突き刺さる。
彼の鎧通しとは比べ物にならない威力で、ロウガは完全に沈黙する。
「嗚呼、なんといふことでせふか…。私の監督不行き届けのために町が破壊され、私の大事な弟子が疲労で倒れてしまひました…。おお、上総乃丞よ。死んでしまふとは情けない……………って、え?」
うじゅる、うじゅる、うじゅる……
巨大バフォメットの足下から無数のスライムのような何かが這い出てくる。
ナメクジのような下半身に、イチゴの上半身がくっ付いたようなデザインのそれは、形が定着すると人々を、主に男を襲い始めた。
『おとこーっ!』
「た、助けてー!!」
「……………うちの組織って一応世界征服するつもりですけど、こんな方法で世界征服するつもりじゃなかったのですが……、ま、良いや♪イチゴぉ〜、もっと張り切っちゃいなさ〜〜い♪」
『んあんぎゃー!!!』
――――――――――――――――――――――
『おとこぉーーーっ!!!』
「た、助けてー!」
スライムっぽい謎の生物に襲われる町の住人、というより男たち。
「うわっ!」
そんな中で逃げ惑う少年が一人、石に躓き転んだ。
膝を擦り剥き、涙目になりながらも必死になって耐えている。
美少年アルバムを持つアヌビスがその光景を見れば、ご飯3杯は軽くいけるであろう。
だが、現実は甘くない。
追いかけてきたのはイチゴもどきのスライムっぽいナマモノである。
『お〜と〜こ〜♪』
もはや男であれば何でも良いらしい。
謎のナマモノは少年を性的な意味で捕食せんと、身体を大きく広げて捕食態勢に入る。
嗚呼、哀れ少年はよくわからない謎のナマモノの餌食に……。
「大丈夫、頭を低くして……。ヒィィート…、エンドォォォーッ!!!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!』
ならなかった。
少年の目の前に燃え盛る右腕を持つ背中が立ち塞がり、ナマモノを焼き尽くす。
「……ふぅ、大丈夫?」
少年に笑顔を向けたのはサクラだった。
小さく頷く少年にサクラは頭を撫でて、励ます。
「大丈夫。ここは僕が食い止めるから、君は逃げるんだよ。町の外れに避難所があるから、頑張って、決して振り返らず走るんだ。」
「お兄ちゃんは……?」
「大丈夫、お兄ちゃんはここで戦う。ここで君たちを守る。それが……、僕の出来ること。僕にとって決して裏切ってはいけない、僕の道標だから。」
サクラに促されて、少年は走る。
そして走りながら思ったのだった。
いつか……、あんな背中の男になりたいと……。
このシリーズはギャグだということも忘れて…。
「サクラ、無事か!貞操は特に大丈夫か!?」
「サイガ、君も大丈夫だったの?」
「舐めんなよ、セラエノ学園きっての槍使いの俺がそう簡単に犯られてたまるかってんだ……とは言っても、スライムみたいな敵じゃ、さすがにやばいかな…?」
そう言ってサイガは槍の穂先を僕に見せた。
穂先が黒く変色し、腐食している。
「こういう時って、真空何とか〜とか旋風何とか〜みたいな飛び道具系の必殺技持っていないと辛いよね。」
「まったくだ…。お互い直接殴るか、蹴るか、斬るかっていうリアル嗜好の技しか持っていないもんな。サクラ、お前も思わせぶりな右腕持っているんだからさ、灼熱云々とか覇王云々みたいな奥義持っていないのか?」
「ロウガさんの鎧通しも使えないのに無理だよ…。」
「まったくだ…、来たぞ!!」
うじゅる、うじゅる、うじゅる……
「「ふ、増えてる…!?」」
そこに現れたスライムみたいな生物はどんどん増殖していた。
「サクラ……、こりゃあ………、覚悟を決めなきゃな。お前、まだ童貞だってマイアがボヤいていたけど…、いくら何でも初めてがあんなよくわからない生物じゃ、嫌だろ!」
「当たり前だよ!」
サイガと二人で前に出る。
僕たちに出来ることなんかたった一つしかない。
ただ前に出る。
何度倒されても何度でも起き上がって、前に出て戦う。
それ以外に……、僕らの知る戦い方はない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!!!」
サイガが疾る。
滑りながら槍を振り回し、的確に急所らしき核(?)に槍を突き刺す。
『ああん♪』
『あふん♪』
嫌な喘ぎ声を残して、よくわからない生物がドロドロに溶けていく。
というより、溶け方がグロテスクだ…。
「サクラ!前!」
「わかってる!」
右正拳突きを叩き付け、引き金を引くように炎を爆発させる。
サイガのように点を突くことが出来ないから、面の攻撃でよくわからない生物を吹き飛ばす。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
よくわからない生物が完全に消滅する。
サイガが2匹倒す間に、僕は1匹。
せっかくロウガさんに稽古を付けてもらっても、スピードに難あり…か…。
ダオラさんに勝てたのも…、運が良かっただけだよ…、ほんと。
「ひゅ〜♪だいぶ強くなったじゃないか。また今度力比べでもしてみるか。」
「勘弁してよ…。あの時は勝ったけど…、完全に奇襲だったし、次はお互い手の内がわかっているから、僕の完敗は間違いないよ…。」
「あっはっは…、さて、俺たちも避難所に行こう。俺の槍もそろそろ限界だ。」
穂先が刃こぼれと腐食でボロボロになった槍を見ながらサイガは言った。
僕の右腕も魔力が尽きようとしている。
確かに退き時だ。
「そうだね、じゃあそろそろ…。」
「ああ……!?サクラ!!後ろだ!!」
サイガに言われ、振り向くと捕食態勢で覆い被さろうとする謎の生物が、視界いっぱいに広がっていた。
『おっとこ〜〜〜♪』
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「サ、サクラァァァァァァ!!!!」
謎の生物が僕を包み込もうとする。
その時だった…。
『ジェアァァッ!!!!』
ズズンッ……
目の前に現れた緑色の柱が謎の生物を押し潰していた。
ゆっくりと柱が上に上がっていく。
いや……、柱じゃない…!
これは……、巨大な腕だ!!
見上げるとそこにいたのは緑色の巨人。
…………むしろ、巨大なマイアさん。
「マ、マイアさん………、なの!?」
『…………………。』
ゆっくりとマイアさんが首を縦に振る。
そしてゆっくりと立ち上がると、マイアさんは巨大バフォメット先生に向かって、ゆったりとした力強い動作で構えを取る。
『あんぎゃ〜!!やんのかごるぁ〜〜!!!』
『………ジェアッ!!!』
―――――――――――――――――――――
「母上、話って一体何?」
早く町の人々の下へ行かないと被害が拡大する。
そう焦る気持ちと裏腹に母上は落ち着いた声で私に話しかけた。
「マイア…、この町を守りたいかい?」
「当たり前だ!例え、この話がギャグSSだとしても町を…、大事な人たちを守らなくて、何がリザードマンなんだ!私は自分一人助かるために逃げるような臆病者じゃない!!」
あそこにはサクラがいる。
彼はこの危機の中、逃げるような男じゃない。
彼はきっと真正面から、町の人々を守るために戦っているはず…!
「……そうか。どうやらその魂の煌きは本物のようだね。では、今こそお前の封印を解こう。」
「………………そんな設定、本編にないよね?」
「もちろん、予定すらされてないよ。さぁ、これを受け取るんだ。」
母上の手の中にあるのは、赤いゴーグル。
むしろウルトラ・アイ…。
「……デザインが何か違うよね?」
「これは平成版Xの方で使われたやつだよ。作者のお気に入りの宝物……というのは余談だけど、お前はこれで変身するんだ。私の血を受け継ぎ、私の能力を受け継ぐ戦士……、リザードマンマイアに変身するんだ!」
ズガーン
「な、何だって…!?私が…、私がリザードマン!?私がリザード…、リザ………ん?って母上、変身も何も私たち元々リザードマンじゃないか。驚いて損したよ。」
「確かに私たちはリザードマンだ。だが、本当に守りたいものがある時、リザードマンはその真の力を発揮して戦うんだ。身長40m、体重1万5千トンの超人、リザードマンに今こそ、マイア……、お前は変身して戦うんだ!!」
しっかりと私の手の中にウルトラ・アイを握らせる母上。
……って。
「母上の力を受け継ぎ…って言うけど母上、変身出来るの?」
「ああ、出来るよ。でも戦いに次ぐ戦いによって私の能力は限界を超えているんだよ…。見ててくれ。」
そう言って母上は懐から旧デザインのウルトラ・アイを取り出し、顔の前で合わせる。
しかし、いつまで経っても変身出来ない。
それどころか…。
ボンッ
「うわっ!?」
「……やはり限界だったのか。そういうことだ。私はもう戦えない。これからはお前一人が…、たった一人で地球を…、サクリストの魔の手から守っていかなければならない。」
「………アヌビス先生とかダオラさんもいるよ?」
そう、私一人頑張らなくても強力な二人がいる…。
「馬鹿者ォーッ!!!」
ベキィッ
「えひゃい!?」
グーで思いっ切り殴られた。
「その顔は何だ!その負け犬のような目は……、その涙は何だ!!お前のその涙で……、出番が増えると思っているのか!!!」
「隊長…、いや、母上!私が間違っていた…。出番は与えられるものじゃない…!出番は……、奪い取ってでも獲得するものなんだ!!!」
母上から授けられたウルトラ・アイXを目の前にかざす。
「征きます、母上!私は私だけの正義を貫く!!」
私は勇気を胸にウルトラ・アイXを目に当てた。
―――――――――――――――――――
『あんぎゃぁぁぁぁ〜!!!』
『ジェアッ!!』
巨大怪獣バフォメットとリザードマンマイアが激しくぶつかり合う。
頭身が低くなり、腕や足が異常に太くなったバフォメットの一撃は重く、リザードマンマイアはガードし切れずに吹っ飛ばされる。
『ジェアァァ!?』
ズズゥーン…
倒れた振動で地面が爆ぜ、土や建物が宙に舞う。
わかる人はわかるだろうが、これはガイア仕様の演出である。
マイアはすぐに身体を起こすと、バフォメットに向かい全力でダッシュする。
『あんぎゃぁぁーっ!!!』
バフォメットが手をかざすと空中に魔方陣が現れる。
その中心部からデタラメな出力の魔力のビームがマイアを狙って放たれた。
『ジェアァァァッ!!!!』
マイアは止まらない。
魔力のビームの中を、腕でガードしながら走り続ける。
そしてビームが途切れた瞬間、マイアは空高く飛び上がった。
『ダアァァァッ!!!』
重力と、超人の力の合わせ技の踵落しがバフォメットの頭に炸裂する。
『あんぎゃぁぁぁ!!』
ずどぉぉん…
バフォメットが前のめりに倒れる。
人々は誰もがマイアの勝利を確信した。
しかし、そこに罠が待っていたのだ。
地面に魔方陣が現れ、バフォメットがその中に沈んで消える。
『ヘアッ!?』
バフォメットを見失ったマイアは慌てて、駆け寄るもすでに時遅く。
マイアの背後に巨大な魔方陣が出現し、中から巨大な鎌が出現し、マイアの背中を切り裂いた。
『ジェアァァァァァーッ!!!』
バフォメットの鎌がマイアを切り裂き、火花が飛び散る。
何故か斬られているのに血が出ないのは、よいこのお約束だ。
ピコン、ピコン、ピコン……
マイアの胸に付いたエナジータイマーが点滅し始める。
リザードマンマイアの太陽エネルギーは地球上では2分30秒しか持たない。
しかも今日は一日中どんよりとした曇り空で、充電のバッチリ終わっていない状態だったので、わずか1分ちょっとしか持たないのである。
もしもこの太陽エネルギーがなくなってしまうとリザードマンマイアは二度と立ち上がれなくなるくらい身体に倦怠感が残るのである。
リザードマンマイアは自分が守るべき人々を思い浮かべ、最後の力を振り絞り、大怪獣バフォメットに立ち向かう。
頑張れ、リザードマンマイア!
(画面の前のお友達も歌ってみよう)
『リザードマンマイア 挿入歌』
遠く輝く夜空の星に
僕らの願いが届くかな?
平行世界 遥かに超えて
嫉妬と共にやってくる
今だ
変身!
マイアが一人…
戦え 戦え リザードマンマイア
僕らのマイア
大地を飛んで流星キック
バフォの頭を叩き割る
サクリストの魔の手が伸びて
フンドシどもが大登場
今だ
変身!
出番が欲しい!
いざ征け いざ征け リザードマンマイア
学園最強
マイアのチョップが炸裂する。
マイアのキックがバフォメットを怯ませる。
エナジータイマーが点滅を早め、エネルギーの終わりが近いことを知らせる。
しかし、マイアは諦めない。
守るべき人々がそこにいるから…。
守るべき町がここにあるから…。
ガシッ
『あ、あんぎゃ!?』
マイアがバフォメットを担ぎ挙げる。
『リザードハリケェーン!!!』
担ぎ上げたまま、マイアは大空へバフォメットを大回転させながら放り投げる。
『あんぎゃぁぁぁぁ〜〜〜!?』
『ジェアァァァァァーッ!!!!』
マイアが腕を十字に組む。
そして放たれた必殺技、スベリウム光線が大空で大回転し続けるバフォメットを直撃する。
『あ、あんぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!』
チュドドドドドドドォォォォーン
大爆発を起こして、バフォメットは木っ端微塵になる。
それを見届けて、マイアはやっと構えを解いた。
ピコンピコンピコンピコン…
早まるエナジータイマーを確認し、マイアは空を見る。
『ジェアッチ!!』
大きく手を伸ばし、マイアは大空へ帰っていく。
その姿を見ながら人々は手を振った。
ありがとう、リザードマン。
ありがとう、リザードマンマイア。
――――――――――――――――――――
「まったく酷い目にあったのじゃ…。」
病院のベッドの上でマミーのように包帯で包まれたバフォメット。
「ほんと、運の良い話ですよね。あの木っ端微塵の破片の中にイチゴ先生の本体がいたなんて…。」
アヌビスは梨を剥き、爪楊枝を刺してはバフォメットに差し出す。
「ほんとじゃ…。まったく学園長殿の胸なし娘が頑張ったおかげで町は壊滅を免れたのじゃ…。だが、ワシは野望を達成出来ぬまま…、実験は失敗……。おかげで大首領にまたお説教じゃ……。」
「いえ、そうでもないんですよ。宗近さんが言っていましたけど…、あの失敗は完全な失敗じゃなかったらしいんです。何でもイチゴ先生…、あの薬を服用した後、身長+2cm、バスト+1cm、ウエスト−1cm、ヒップ+2cmという脅威の成長をしたらしいですよ?」
「な、何じゃと…!?ワ、ワシ…、ついに完全体に近付きつつあるのか!?」
「何を以って完全体と言っているのかわかりませんが……、少しだけ成長するみたいですね。多大な犠牲を払わなきゃいけないみたいですけど…。」
バフォメットはにやりと笑って空を見る。
「ふっふっふ……、あれが最後のワシとは限らんぞ。いずれ究極の美しさを手に入れんと第二、第三のワシがいつ現れんとも限らんからのう…!」
「………懲りてませんね。やっぱり宗近さんに突き出しましょう。」
「こ、これがバスト+1cmの薬…!?」
「マイア…、これがあれば…!!」
「うん、もう二人して貧乳だとかペタン星人だとか言われなくて済むよ。母上!」
危機は…………
いつでもあなたのすぐ隣に……………。
――――――――――――――――――――
次回予告
違和感はすぐに危機感に変わった。
サクラは身に覚えのない恐怖に涙する。
サクラを襲おうとしたダオラも、
同じくダオラの手からサクラを守ろうとしたマイアも驚愕する。
彼を救う手立ては残されているのか…!?
次回、『風雲!セラエノ学園』第8話!
『にょたいか!?』
学園に嵐が吹き荒れる…。
「でも……、サクラ。違和感…、まったくないよ?」
2…
1……きゅー!
(画面の前のお友達も一緒に歌おう)
『リザードマンマイアのうた』
ギリギリまで頑張って
ギリギリまで踏ん張って
いつでもサクラにピンチの連続
そんな時、リザードマンが欲しい
愛さえ知らずに育ったバフォメット
叫びはお前の涙なのか…
力任せの邪悪な願い
サクリストからこの街を守るため
ここから一歩も下がらない
ギリギリまで頑張って
ギリギリまで踏ん張って
いつでもいつでもピンチの連続
そんな時、リザードマンが欲しい
リザードマンマイア!
ギリギリまで頑張って(Come on!Come on!Come on!)
ギリギリまで踏ん張って(Wow!Wow!Maia!)
ギリギリまで頑張って(Come on!Come on!Come on!)
ギリギリまで踏ん張って(Wow!Wow!Maia!)
なかなか出番ない…
ピンチの連続!
そんな時、リザードマンが欲しい
リザードマンマイア!
―――――――――――――――――――――
「諸君、職務ご苦労じゃ。」
「アーッ!」
ここはセラエノ学園科学実験室。
秘密結社サクリストの科学実験室でもあるのじゃ。
ちなみに本部はセラエノ学園購買部の売店とその奥の六畳一間の控え室なのじゃ。
……ワシが言うのも何じゃけど、アヌビスも学園長殿も何故気が付かないのじゃろ?
「バフォメット将軍、例の実験薬が完成致しました。」
覆面にフンドシ姿の戦闘員。
科学班はそれに白衣を羽織ることを許可されている。
「今度のは、大丈夫なんじゃろうな?」
「もちろんです。先日製造した、メカ=フレイヤはあまりの酷さに我々も涙を飲みましたが、今回のは万全です。昭和風に言うとバッチグーな出来になっています。」
「わざわざ昭和風に言い換える必要性を感じないが、それならば良い。まったく……、おかげでワシは大目玉じゃった……。ヴァル=フレイヤの人気にあやかって、メカ=フレイヤ作戦で町中を恐怖と混乱に叩き落す計画じゃったというに……、何故出来上がったものがカツラを被った『先行者』なのじゃ!?せめてそこは『ロボ・カイ』くらいの出来まで持っていくのが科学者の使命じゃろう!!」
「お言葉ですが、バフォメット将軍。あの時、我々はギリギリだったのです。予算も頂けず、時間もわずか3日しか頂けず、終いにはダンボールに『メカ=フレイヤ』と書いた鎧を誰かが着るという最悪な案が飛び出したくらいです。しかしそれを『先行者』レベルまで持っていった、我々科学班のプライドをお褒め頂きたいのです。」
「それはわかっておる。ワシだってあの後、ワシは大首領に怒られて鎧通しを喰らったり、無理矢理異次元の狭間を彷徨って、英雄墓場で没キャラや、死んだ英雄の再利用を考えさせられたり……、ワシはおかげで娼館でおねーちゃんの乳も揉めず、エロゲを進めることも出来ず、苦渋を舐めたのじゃ!」
思い出しても涙が溢れる…。
「しかし、それも終わりじゃ!その実験薬があれば、ワシ自身のパワーアップが超可能!ワシの人気も鰻登りじゃぁ〜!!!」
「アーッ!」
クックック……、おっと。
学園長殿のようなスカッと爽やか&ザマミロ的なわる〜い笑いが溢れて溢れて止まらぬのう。
これで、あやつらに…、あやつらの人気に圧されることもないのじゃ。
ワシだって……、超人気者街道まっしぐらじゃぁぁぁー!!!
アンケートその1・アヌビスの場合
「え、人気の秘訣ですか?え〜〜〜っと……、私特別なことはしていませんよ。あ、強いて言えば…、恋をしている…、くらいですかね?好きな人に見てもらいたくていつも綺麗にしていたい…、ですね。髪の毛も(わんわん♪)さんがジパングの人なので、黒髪に香油をほのかに塗ったり、尻尾のブラッシングも欠かせませんし、肉球の柔らかさを保つためにお手入れいたり……。あ、そうそう体型維持のダイエットやエクササイズも欠かせませんよ。私、結構胸がありますから、筋肉が衰えるとすぐに垂れちゃいそうですし……、それにお腹が元々少しぽっこりしてますから、そういう意味でもエクササイズは欠かせませんね。あ、イチゴ先生、もう良いんですか?あの…、私思うんですけど…、人気云々よりも先生の場合は食生活と生活習慣を見直せば良いと思いますよ?」
アンケートその2・ダオラの場合
「ふむ……、我の人気…?そのようなもの考えたことはないな。我はただ我のままあるがままに生きておる故……ん?何じゃ、我のプロポーションをどう保っておるか…だと?それも考えたことはない。我らドラゴン種は戦闘に特化した身体であるから、自堕落しても太ることも、歳を取って身体が衰え醜くなることはほぼない。寿命が尽きれば、この戦うのに適した身体のまま天へ還る。……は?その割にはでかい乳しとるやないけ?ああ、それは簡単なこと。我は子を生んだからな。子を生むとな、やはり女らしい身体付きになるというものだな。もう少し……、母親らしいことをしてやれなかったのが悔やまれる……、がな?って、こ、こら、何を触って……、何?この細い腰はどこで手に入れた?いや、別に何もしておらぬぞ。………疑り深い少女よな。まぁ、我は普段は学園の警備員をしておるし、低年齢の生徒とよく遊んでおるから、絶えず動き回っておるし、アヌビスの言うエクササイズというものになっておるやもしれぬ。おっと、子供たちの助けを呼ぶ声が聞こえるのでこの辺でな。変身!!」
アンケートその3・宗近
「………こんなことをしている暇があなたにあるのですか…?え、これが組織の戦力拡大に繋がる…?仕方がありませんね。で、私の人気?新参者の私に人気の秘訣、と聞かれましても……。まぁ、良い女には良い女のオーラが自然と出てくるものですよ。先日も、居酒屋で飲んでいたら初々しい男の子が私に声をかけて来ましてね。ナンパって言うのですか?町で私を見かけて、勇気を振り絞って声をかけたみたいでしたよ。初めてのナンパで、ガチガチに緊張したその子が可愛くて……、つい、お宿に連れ込んでパクっと♪………イチゴ、私の歳の話はしないでください。…え、……結局男は乳がでかくて、腰が細くて、尻がムッチリしてれば何でも良いんだろですって?それは間違いですよ、イチゴ。私はこう見えても日の本では人気がなかったのですよ。日の本では着物の似合う女性こそが美しいのです。ですから、あなたのような幼児体型で、寸胴のようにくびれのない身体こそが理想的…、あら?イチゴ〜、泣きながらどこへ行くのですか〜?」
アンケートその4・アスティア
「………で、結局私に泣き付いて来た、という訳か。だが私も人気がある訳じゃないから、君に助言が出来る訳じゃないんだがね。…………お互いペタン同士、共通する悩みがあるじゃないか…だって?バフォメット、あまりそんなことばかり言ってると、ネフィーに言って君のボーナスどころか月給も大幅カットしても良いんだよ。……………ふぅ、まったく。君もあまり気にしないことだよ。私は………、まぁロウガが胸がなくても私のことを愛してくれるから…、ね…?君もその身体を自分の武器にすれば………え?最近、ロクな男がいない?そういえば君の理想の男性像って、どんな人なんだい?……ふむふむ、…………背が高くて、お金持ちで、若くて、お金持ちで、イケメンで、お金持ちで、夜にガンガンやっても壊れないくらいタフで、お金持ちで、どれだけエロゲやゲームし続けても許してくれる程心が広くて、お金持ちで…ってもう良いよ。まったく……、だいたい君も黙っていれば可愛いんだから、少しは言動と生活態度を改めれば…、良い男が寄って……あ、バフォメット!泣きながらどこへ行くんだ!!」
これさえあれば…!
アンケートを参考に作り上げたこの薬さえあれば!!
ワシはまさに無敵…!
業界初、お色気満点、ボンキュッボンのむちぷりんな八頭身バフォメットに大変身じゃ!
「いざ!」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、ごきゅっ!!
瓶に入った紫色の液体を一気飲みする。
もちろん腰に手を当てるなど初歩の初歩じゃ。
「ああ、バフォメット将軍!これは原液を20倍に薄めないと…!!」
「ふっふっふ、ワシの身体は特別製じゃ。この程度の原液、どうとい……うこと………は……………!?」
ドックン……、ドックン…、ドックン…
おおおお?
か、身体が……、あ、熱い………!?
「バ、バフォメット将軍の様子が…、おかしいぞ!」
「総員、退避!退避ィィィーッ!!!」
こ、これが、ないすばでーになる反動か…。
何か……、違うような…?
ら……、らめぇ……、身体が…、火照って………!
「逃げろぉぉぉぉぉーっ!!!!」
「ばふぉぼんびぃぃぃーーっ!!!!!」
―――――――――――――――――――――
う〜〜〜〜〜、カンカンカンカン
『怪獣警報、怪獣警報!近隣住民の皆様ぁ、慌てず焦らず避難してください。』
ずし〜〜〜ん……、ずし〜〜〜〜ん……
『んあんぎゃーっ!!!』
身長40m、体重4万t。
頭身がさらに低くなり、3頭身の巨大バフォメット、イチゴが町を歩く。
見た目には可愛いが、やっているのはゴジラそのもの。
もちろん、日本版、本家本元の方である。
やっぱ、マグロ食ってるのは駄目だな。
「………で、何なんだ?この有様は?」
ルナがハーピーたちと空を飛び、警報を鳴らしている中、サクラと共に出稽古から帰ってきたロウガは呆れて、宗近に問いただした。
「うちの将軍が実験の失敗で、巨大化しちゃったのです。」
「しちゃったのです、じゃねえよ。迷惑かけねえって言ったからうちの購買部と化学実験室を貸し出したのに……。学園どころか町中に迷惑かけているじゃねえか…。」
珍しく、宗近は尻尾と耳が下がり、シュンとした顔をしている。
「面目ありません。こうなったら…!」
「こうなったら…?」
「お詫びに脱ぎます!!」
スパーン
「脱ぐな!」
どこから取り出したのか、トイレスリッパでロウガは宗近を叩く。
軽く、小気味の良い音が響く。
「上総乃丞、痛いじゃないですか。」
「うるせぇ!綾乃の裸ならともかく、ババアの裸なんぞ見てだれがよろこ」
「えい♪」
ズゴンッ
本家本元の鎧通しがロウガの腹に突き刺さる。
彼の鎧通しとは比べ物にならない威力で、ロウガは完全に沈黙する。
「嗚呼、なんといふことでせふか…。私の監督不行き届けのために町が破壊され、私の大事な弟子が疲労で倒れてしまひました…。おお、上総乃丞よ。死んでしまふとは情けない……………って、え?」
うじゅる、うじゅる、うじゅる……
巨大バフォメットの足下から無数のスライムのような何かが這い出てくる。
ナメクジのような下半身に、イチゴの上半身がくっ付いたようなデザインのそれは、形が定着すると人々を、主に男を襲い始めた。
『おとこーっ!』
「た、助けてー!!」
「……………うちの組織って一応世界征服するつもりですけど、こんな方法で世界征服するつもりじゃなかったのですが……、ま、良いや♪イチゴぉ〜、もっと張り切っちゃいなさ〜〜い♪」
『んあんぎゃー!!!』
――――――――――――――――――――――
『おとこぉーーーっ!!!』
「た、助けてー!」
スライムっぽい謎の生物に襲われる町の住人、というより男たち。
「うわっ!」
そんな中で逃げ惑う少年が一人、石に躓き転んだ。
膝を擦り剥き、涙目になりながらも必死になって耐えている。
美少年アルバムを持つアヌビスがその光景を見れば、ご飯3杯は軽くいけるであろう。
だが、現実は甘くない。
追いかけてきたのはイチゴもどきのスライムっぽいナマモノである。
『お〜と〜こ〜♪』
もはや男であれば何でも良いらしい。
謎のナマモノは少年を性的な意味で捕食せんと、身体を大きく広げて捕食態勢に入る。
嗚呼、哀れ少年はよくわからない謎のナマモノの餌食に……。
「大丈夫、頭を低くして……。ヒィィート…、エンドォォォーッ!!!」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!』
ならなかった。
少年の目の前に燃え盛る右腕を持つ背中が立ち塞がり、ナマモノを焼き尽くす。
「……ふぅ、大丈夫?」
少年に笑顔を向けたのはサクラだった。
小さく頷く少年にサクラは頭を撫でて、励ます。
「大丈夫。ここは僕が食い止めるから、君は逃げるんだよ。町の外れに避難所があるから、頑張って、決して振り返らず走るんだ。」
「お兄ちゃんは……?」
「大丈夫、お兄ちゃんはここで戦う。ここで君たちを守る。それが……、僕の出来ること。僕にとって決して裏切ってはいけない、僕の道標だから。」
サクラに促されて、少年は走る。
そして走りながら思ったのだった。
いつか……、あんな背中の男になりたいと……。
このシリーズはギャグだということも忘れて…。
「サクラ、無事か!貞操は特に大丈夫か!?」
「サイガ、君も大丈夫だったの?」
「舐めんなよ、セラエノ学園きっての槍使いの俺がそう簡単に犯られてたまるかってんだ……とは言っても、スライムみたいな敵じゃ、さすがにやばいかな…?」
そう言ってサイガは槍の穂先を僕に見せた。
穂先が黒く変色し、腐食している。
「こういう時って、真空何とか〜とか旋風何とか〜みたいな飛び道具系の必殺技持っていないと辛いよね。」
「まったくだ…。お互い直接殴るか、蹴るか、斬るかっていうリアル嗜好の技しか持っていないもんな。サクラ、お前も思わせぶりな右腕持っているんだからさ、灼熱云々とか覇王云々みたいな奥義持っていないのか?」
「ロウガさんの鎧通しも使えないのに無理だよ…。」
「まったくだ…、来たぞ!!」
うじゅる、うじゅる、うじゅる……
「「ふ、増えてる…!?」」
そこに現れたスライムみたいな生物はどんどん増殖していた。
「サクラ……、こりゃあ………、覚悟を決めなきゃな。お前、まだ童貞だってマイアがボヤいていたけど…、いくら何でも初めてがあんなよくわからない生物じゃ、嫌だろ!」
「当たり前だよ!」
サイガと二人で前に出る。
僕たちに出来ることなんかたった一つしかない。
ただ前に出る。
何度倒されても何度でも起き上がって、前に出て戦う。
それ以外に……、僕らの知る戦い方はない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!!!」
サイガが疾る。
滑りながら槍を振り回し、的確に急所らしき核(?)に槍を突き刺す。
『ああん♪』
『あふん♪』
嫌な喘ぎ声を残して、よくわからない生物がドロドロに溶けていく。
というより、溶け方がグロテスクだ…。
「サクラ!前!」
「わかってる!」
右正拳突きを叩き付け、引き金を引くように炎を爆発させる。
サイガのように点を突くことが出来ないから、面の攻撃でよくわからない生物を吹き飛ばす。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
よくわからない生物が完全に消滅する。
サイガが2匹倒す間に、僕は1匹。
せっかくロウガさんに稽古を付けてもらっても、スピードに難あり…か…。
ダオラさんに勝てたのも…、運が良かっただけだよ…、ほんと。
「ひゅ〜♪だいぶ強くなったじゃないか。また今度力比べでもしてみるか。」
「勘弁してよ…。あの時は勝ったけど…、完全に奇襲だったし、次はお互い手の内がわかっているから、僕の完敗は間違いないよ…。」
「あっはっは…、さて、俺たちも避難所に行こう。俺の槍もそろそろ限界だ。」
穂先が刃こぼれと腐食でボロボロになった槍を見ながらサイガは言った。
僕の右腕も魔力が尽きようとしている。
確かに退き時だ。
「そうだね、じゃあそろそろ…。」
「ああ……!?サクラ!!後ろだ!!」
サイガに言われ、振り向くと捕食態勢で覆い被さろうとする謎の生物が、視界いっぱいに広がっていた。
『おっとこ〜〜〜♪』
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「サ、サクラァァァァァァ!!!!」
謎の生物が僕を包み込もうとする。
その時だった…。
『ジェアァァッ!!!!』
ズズンッ……
目の前に現れた緑色の柱が謎の生物を押し潰していた。
ゆっくりと柱が上に上がっていく。
いや……、柱じゃない…!
これは……、巨大な腕だ!!
見上げるとそこにいたのは緑色の巨人。
…………むしろ、巨大なマイアさん。
「マ、マイアさん………、なの!?」
『…………………。』
ゆっくりとマイアさんが首を縦に振る。
そしてゆっくりと立ち上がると、マイアさんは巨大バフォメット先生に向かって、ゆったりとした力強い動作で構えを取る。
『あんぎゃ〜!!やんのかごるぁ〜〜!!!』
『………ジェアッ!!!』
―――――――――――――――――――――
「母上、話って一体何?」
早く町の人々の下へ行かないと被害が拡大する。
そう焦る気持ちと裏腹に母上は落ち着いた声で私に話しかけた。
「マイア…、この町を守りたいかい?」
「当たり前だ!例え、この話がギャグSSだとしても町を…、大事な人たちを守らなくて、何がリザードマンなんだ!私は自分一人助かるために逃げるような臆病者じゃない!!」
あそこにはサクラがいる。
彼はこの危機の中、逃げるような男じゃない。
彼はきっと真正面から、町の人々を守るために戦っているはず…!
「……そうか。どうやらその魂の煌きは本物のようだね。では、今こそお前の封印を解こう。」
「………………そんな設定、本編にないよね?」
「もちろん、予定すらされてないよ。さぁ、これを受け取るんだ。」
母上の手の中にあるのは、赤いゴーグル。
むしろウルトラ・アイ…。
「……デザインが何か違うよね?」
「これは平成版Xの方で使われたやつだよ。作者のお気に入りの宝物……というのは余談だけど、お前はこれで変身するんだ。私の血を受け継ぎ、私の能力を受け継ぐ戦士……、リザードマンマイアに変身するんだ!」
ズガーン
「な、何だって…!?私が…、私がリザードマン!?私がリザード…、リザ………ん?って母上、変身も何も私たち元々リザードマンじゃないか。驚いて損したよ。」
「確かに私たちはリザードマンだ。だが、本当に守りたいものがある時、リザードマンはその真の力を発揮して戦うんだ。身長40m、体重1万5千トンの超人、リザードマンに今こそ、マイア……、お前は変身して戦うんだ!!」
しっかりと私の手の中にウルトラ・アイを握らせる母上。
……って。
「母上の力を受け継ぎ…って言うけど母上、変身出来るの?」
「ああ、出来るよ。でも戦いに次ぐ戦いによって私の能力は限界を超えているんだよ…。見ててくれ。」
そう言って母上は懐から旧デザインのウルトラ・アイを取り出し、顔の前で合わせる。
しかし、いつまで経っても変身出来ない。
それどころか…。
ボンッ
「うわっ!?」
「……やはり限界だったのか。そういうことだ。私はもう戦えない。これからはお前一人が…、たった一人で地球を…、サクリストの魔の手から守っていかなければならない。」
「………アヌビス先生とかダオラさんもいるよ?」
そう、私一人頑張らなくても強力な二人がいる…。
「馬鹿者ォーッ!!!」
ベキィッ
「えひゃい!?」
グーで思いっ切り殴られた。
「その顔は何だ!その負け犬のような目は……、その涙は何だ!!お前のその涙で……、出番が増えると思っているのか!!!」
「隊長…、いや、母上!私が間違っていた…。出番は与えられるものじゃない…!出番は……、奪い取ってでも獲得するものなんだ!!!」
母上から授けられたウルトラ・アイXを目の前にかざす。
「征きます、母上!私は私だけの正義を貫く!!」
私は勇気を胸にウルトラ・アイXを目に当てた。
―――――――――――――――――――
『あんぎゃぁぁぁぁ〜!!!』
『ジェアッ!!』
巨大怪獣バフォメットとリザードマンマイアが激しくぶつかり合う。
頭身が低くなり、腕や足が異常に太くなったバフォメットの一撃は重く、リザードマンマイアはガードし切れずに吹っ飛ばされる。
『ジェアァァ!?』
ズズゥーン…
倒れた振動で地面が爆ぜ、土や建物が宙に舞う。
わかる人はわかるだろうが、これはガイア仕様の演出である。
マイアはすぐに身体を起こすと、バフォメットに向かい全力でダッシュする。
『あんぎゃぁぁーっ!!!』
バフォメットが手をかざすと空中に魔方陣が現れる。
その中心部からデタラメな出力の魔力のビームがマイアを狙って放たれた。
『ジェアァァァッ!!!!』
マイアは止まらない。
魔力のビームの中を、腕でガードしながら走り続ける。
そしてビームが途切れた瞬間、マイアは空高く飛び上がった。
『ダアァァァッ!!!』
重力と、超人の力の合わせ技の踵落しがバフォメットの頭に炸裂する。
『あんぎゃぁぁぁ!!』
ずどぉぉん…
バフォメットが前のめりに倒れる。
人々は誰もがマイアの勝利を確信した。
しかし、そこに罠が待っていたのだ。
地面に魔方陣が現れ、バフォメットがその中に沈んで消える。
『ヘアッ!?』
バフォメットを見失ったマイアは慌てて、駆け寄るもすでに時遅く。
マイアの背後に巨大な魔方陣が出現し、中から巨大な鎌が出現し、マイアの背中を切り裂いた。
『ジェアァァァァァーッ!!!』
バフォメットの鎌がマイアを切り裂き、火花が飛び散る。
何故か斬られているのに血が出ないのは、よいこのお約束だ。
ピコン、ピコン、ピコン……
マイアの胸に付いたエナジータイマーが点滅し始める。
リザードマンマイアの太陽エネルギーは地球上では2分30秒しか持たない。
しかも今日は一日中どんよりとした曇り空で、充電のバッチリ終わっていない状態だったので、わずか1分ちょっとしか持たないのである。
もしもこの太陽エネルギーがなくなってしまうとリザードマンマイアは二度と立ち上がれなくなるくらい身体に倦怠感が残るのである。
リザードマンマイアは自分が守るべき人々を思い浮かべ、最後の力を振り絞り、大怪獣バフォメットに立ち向かう。
頑張れ、リザードマンマイア!
(画面の前のお友達も歌ってみよう)
『リザードマンマイア 挿入歌』
遠く輝く夜空の星に
僕らの願いが届くかな?
平行世界 遥かに超えて
嫉妬と共にやってくる
今だ
変身!
マイアが一人…
戦え 戦え リザードマンマイア
僕らのマイア
大地を飛んで流星キック
バフォの頭を叩き割る
サクリストの魔の手が伸びて
フンドシどもが大登場
今だ
変身!
出番が欲しい!
いざ征け いざ征け リザードマンマイア
学園最強
マイアのチョップが炸裂する。
マイアのキックがバフォメットを怯ませる。
エナジータイマーが点滅を早め、エネルギーの終わりが近いことを知らせる。
しかし、マイアは諦めない。
守るべき人々がそこにいるから…。
守るべき町がここにあるから…。
ガシッ
『あ、あんぎゃ!?』
マイアがバフォメットを担ぎ挙げる。
『リザードハリケェーン!!!』
担ぎ上げたまま、マイアは大空へバフォメットを大回転させながら放り投げる。
『あんぎゃぁぁぁぁ〜〜〜!?』
『ジェアァァァァァーッ!!!!』
マイアが腕を十字に組む。
そして放たれた必殺技、スベリウム光線が大空で大回転し続けるバフォメットを直撃する。
『あ、あんぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!』
チュドドドドドドドォォォォーン
大爆発を起こして、バフォメットは木っ端微塵になる。
それを見届けて、マイアはやっと構えを解いた。
ピコンピコンピコンピコン…
早まるエナジータイマーを確認し、マイアは空を見る。
『ジェアッチ!!』
大きく手を伸ばし、マイアは大空へ帰っていく。
その姿を見ながら人々は手を振った。
ありがとう、リザードマン。
ありがとう、リザードマンマイア。
――――――――――――――――――――
「まったく酷い目にあったのじゃ…。」
病院のベッドの上でマミーのように包帯で包まれたバフォメット。
「ほんと、運の良い話ですよね。あの木っ端微塵の破片の中にイチゴ先生の本体がいたなんて…。」
アヌビスは梨を剥き、爪楊枝を刺してはバフォメットに差し出す。
「ほんとじゃ…。まったく学園長殿の胸なし娘が頑張ったおかげで町は壊滅を免れたのじゃ…。だが、ワシは野望を達成出来ぬまま…、実験は失敗……。おかげで大首領にまたお説教じゃ……。」
「いえ、そうでもないんですよ。宗近さんが言っていましたけど…、あの失敗は完全な失敗じゃなかったらしいんです。何でもイチゴ先生…、あの薬を服用した後、身長+2cm、バスト+1cm、ウエスト−1cm、ヒップ+2cmという脅威の成長をしたらしいですよ?」
「な、何じゃと…!?ワ、ワシ…、ついに完全体に近付きつつあるのか!?」
「何を以って完全体と言っているのかわかりませんが……、少しだけ成長するみたいですね。多大な犠牲を払わなきゃいけないみたいですけど…。」
バフォメットはにやりと笑って空を見る。
「ふっふっふ……、あれが最後のワシとは限らんぞ。いずれ究極の美しさを手に入れんと第二、第三のワシがいつ現れんとも限らんからのう…!」
「………懲りてませんね。やっぱり宗近さんに突き出しましょう。」
「こ、これがバスト+1cmの薬…!?」
「マイア…、これがあれば…!!」
「うん、もう二人して貧乳だとかペタン星人だとか言われなくて済むよ。母上!」
危機は…………
いつでもあなたのすぐ隣に……………。
――――――――――――――――――――
次回予告
違和感はすぐに危機感に変わった。
サクラは身に覚えのない恐怖に涙する。
サクラを襲おうとしたダオラも、
同じくダオラの手からサクラを守ろうとしたマイアも驚愕する。
彼を救う手立ては残されているのか…!?
次回、『風雲!セラエノ学園』第8話!
『にょたいか!?』
学園に嵐が吹き荒れる…。
「でも……、サクラ。違和感…、まったくないよ?」
10/12/07 00:05更新 / 宿利京祐
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