act5・悪魔、遠方より来たるべし
「おはよざーっす。」
「おはようございます、ではないですよ!バフォメット先生、今何時と思っているんですか!!」
「……11時56分。」
「後4分でお昼休みです!一体連絡もなしに、どうして遅れて来たんですか!!」
「そう大きな声を出さんでくれ、アヌビス…。オヌシの職務も重々理解しておるが、ワシにもそれなりの理由があって、ベッドから起き上がれなかったのじゃ…。」
「……え、あ、もしかして…。」
アヌビスが思い浮かべたのは女性特有のアレである。
アレが酷い女性とっては、アレが始まるとまさに日常が地獄と化す。
わかりやすい例を作者は、ある女友達から聞いた。
一日中、それも休みなく、き○○まに真昇竜拳の如き重い一撃を喰らい続けるようなもの。
これを聞いた時、作者は思わず縮み上がったものである。
「それは…、ごめんなさい……。校医のマロウ先生がよく効く薬を持っていましたけど……。」
「ワシは休む訳にはいかんのじゃ。ワシには………、可愛い可愛い48人のヒロインと100以上のシナリオが待っておるのじゃ!」
「…………………は?」
「アヌビス、お前は信じられるか!?今月、ワシの要チェックしておった新作エロゲが9本も同時発売して、しかも1週間後には発売延期していた名作ゲーが予告なしに発売決定じゃ!それに加えて今朝やっと2本目のCGコンプしたと思ったら隠しシナリオが解放されたのじゃ!!これらすべてを今月中にやり終わるためには……、仕事中にもやらねばならん!!!来月にはさらに5本発売……、もはやワシには金も時間も足りない…。だからワシは休む(寝る)暇も惜しんでクリックし続けなければならないのじゃぁぁぁぁ!!!!」
かつて作者もそんな経験がある。
大学の授業に出るのを忘れる程『Kan○n』をプレイしていて、水○秋子のルートを2時間探し続けて、友人たちから顰蹙を買った覚えがある。
「………………………つまり、遅れたのは生理でなく、時間の感覚がなくなる程ゲームしていた訳ですね…?」
「当たり前じゃ!例え生理が来ても、ワシの鋼の子宮がその程度でへこたれてたまるか!見よ、わざわざ職場でも仕事のフリしてプレイ出来るように、ノートパソコンにセーブデータごとインストールして来てやったわ!!」
「バフォメット先生!そこに座りなさい!お説教です、没収です、ボーナスカットです!!」
「何じゃと!?そんなことをされたらワシはおまん○食い上げじゃ!!!」
「最後は『ま』でしょ!!!わざわざ伏字にしないでください!!!」
セラエノ学園魔術担当臨時教諭、魔界貴族バフォメット。
学園内においてロウガと並んでもっともクセのある教師であると同時に、悪の秘密結社サクリスト幹部、地獄将軍バフォメットととして堂々と副業を営むまさに悪のカリスマロリっ娘。
そんな彼女に、とんでもない恐怖が忍び寄っていた。
――――――――――――――――――――
「あの〜、バフォメット先生はいますか………ひぃぃぃ!?」
「あ、あら、サクラ君。どうしました?」
返り血を浴びていながらアヌビスは生き生きとした笑顔で、手に持っていた一本鞭を後ろ手に隠す。そのアヌビスの後ろ側ではバフォメットが『この者不届き者』という面紙を貼られて抱き石の刑に遭っていた。
すでに石の畳が3つ乗せられていた。
「あ、あのバフォメット先生は大丈夫なんですか!?」
「…お、おお、サクラか……。何やら新しい性癖の扉が開きそうじゃ。」
転んでもただでは起きない女、それがバフォメットクオリティ。
「遅刻のお説教を言葉責めに変換し、反省の色が見えないのでこういう手段に訴えたのですが、『嗚呼、ワシ魔女っ娘わんわんにお仕置きされちゃう♪』って頭の中でものすごくいやらしい方向に変換しちゃってお仕置きにならなかったんですよ…。で、サクラ君。どうしたんですか、彼女に何か用だったのではないのですか?」
「あ、そうです。バフォメット先生にお客様です。」
「ワシに客?ああ、そういえばアモゾン・ドット・コメで通販していたモンスターハンティングP3の配達じゃろう?ワシ、何か通販する時は、学園に配達するように設定しておるし。」
「それはすでにロウガさんが勝手に受け取って、勝手に始めちゃっているんですが………、別の人です。」
「別の人……って学園長殿が勝手に始めておるとな!?わ、わ、ワシの初めてが学園長殿に奪われたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バフォメットはサクラの証言を聞いて、石の畳を砕いて立ち上がった。
そして面紙を引き千切ると、その下には悪鬼の如き表情がサクラを睨む。
「サクラ……、貴様…、ワシという師匠への思いやりが足りぬようじゃのう?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「そそそそそういうつもりじゃないんですよ!!それより、お客さんなんですが、どうしても名前を名乗らなくて、ただこの学園のバフォメットを出してくださいって、今応接室で待っています!先生と同じバフォメット種ですよ!!」
「ワシと同じ……じゃと……?」
「はい、同じ…というかまったく同じ顔でして、若干髪型が違うくらいにしか違うとこがありませんでした。ああ、そうだ。ジパングの……、アスティア先生の国語の授業で習った『ゲンジ物語』に出てきた服を着て……。」
「フン!!!!」
ズガァーン
サクラがそこまで言うとバフォメットは魔法で壁を爆破し、大穴を開けた。
「すまぬ、アヌビス。お仕置きはこれまでじゃ。ワシは逃げる…!!」
「え、バフォメット先生…、お客さんは…?」
「お客ではない!あれはバフォメットの皮を被った悪魔じゃ!!」
バフォメットが飛ぶ。
自由を掴むために!
まるで煙突から飛び立つアンパ○マンのように。
バシャァァァ
「ギャァァァァァァッ!?」
突然、水の柱がバフォメットを弾き飛ばし、天高く放り投げる。
「誰がバフォメットの皮を被った悪魔じゃ?」
水柱の上に立つ十二単を着たバフォメット。
まるで東方不敗のように力強く腕を組み、バフォメット先生の飛んでいった空を睨む。
その姿を見てアヌビスと桜は声を揃えて驚いた。
「「バフォメット先生が二人!?」」
「おお、初めましてじゃな。いつも妹がお世話になっております。」
「「い、妹!?」」
―――――――――――――――――――
「そういえばお姉さんがいるとは聞いていましたが…。」
私は応接室でバフォメット先生のお姉さんをもてなしていた。
でもまさかここまでよく似てて、こんなにジパング趣味を持った人だとは思いませんでした。
キモノはロウガさんで見慣れていたけど、ジュウニヒトエを見るのは初めてだ。
お姉さんはジパングの玉露を、逃亡防止に簀巻きにされたバフォメット先生には缶ビールを渡す。
「うむ、最近妹が実家に帰ってこんと聞いてのう。わらわの兄様……、いや失敬、夫を見せ付けてやろうかとついでに寄った訳なんじゃが……。あの部屋は何じゃ?仮にも魔界の名族と知られたバフォメット家の跡取り娘の住まいとして、高級マンションに住むのは良かろう。だが、あの部屋の中身は何なのじゃ?」
「ま、まさか入ったのか!姉上!!!」
「おお、入ったぞ。鍵がかかっていたから、兄様にドアを破壊してもらってな。一人暮らしが長い故、さぞ荒れた暮らしをしていると予想しておったが、予想以上の荒れっぷりで少々引いたぞ…。積み上げられたエロゲーの山、床が抜けそうな程蓄積されたエロ同人誌。それに加えてアニメやゲーム、漫画の設定集にイラスト集……。グッズにフィギュア……、各種ハード取り揃えたゲーム……。カップ麺の容器だけが散乱してどんな食生活を送っておったのじゃ。まったく…、一人暮らしの大学一年生男子以上に酸っぱい暮らしをしおって…。化粧品すら持っておらんとは…、お前も一応女としての自覚を持ったらどうじゃ、イチゴ。」
「イ、イチゴ!?え、バフォメット先生のお名前って…、確か履歴書にはバフォメット7世ってありましたが、本名じゃなかったんですか!?」
「………アヌビス殿、良い情報をかたじけない。こやつせっかく可愛い名前があるというに、まさか名を偽っておったとは…。しかも御家の称号を本名のように偽り、その名を汚した自堕落な生活…。わらわは恥ずかしいぞ…。」
「あ、姉上だって……!」
「ん〜〜〜?何のことかの?」
「な、名前…。」
「わらわはお姉さん。あいあむゆあしすたー。おけ?」
「……お………、おけ………。」
私は笑いを堪えるのに必死だった。
こんなバフォメット先生…、いえ、イチゴ先生見たことがない♪
「あ、あの〜、お姉さんとバフォ…ぷふ♪いえいえ、イチゴ先生ってお顔がそっくりですけど、もしかして双子なんですか?」
「………違う。ワシは六つ子なのじゃ…。姉上は六つ子の長女で、実はワシらの他にも妹が7人もおるのじゃ。本当は家も姉上が継ぐはずだったのじゃがさっさと良い男見付けて家を出て行くし…、次女も早々と家を出て自分の勢力を作り、立場が微妙じゃった三女のワシに何もかも押し付けて……。それがなければワシは今頃、悠々自適なパラサイトニートを決め込んでエロゲ買う金にも困らぬ生活だったというのに…!家なんぞ継いでしまったせいで我が家の家訓『働かざる者喰うべからず』を守らされるわ、母上や父上には帰省するたびに見合いの話や、良い人まだ見付からないのかとかなじられるわ…。ワシの人生土砂降りじゃぁぁー!!!」
お姉さんの判断、正しかったと思う。
「イチゴ、おぬしのビールをわらわの魔法でただの水に変えることも出来るのじゃが、試すか?」
「申し訳ありません、お姉様。」
駄目だ、笑いたい。
アヌビスとして人前で大笑いするのは、種のプライドが許さないけど……
笑いたい♪
とりあえず、トイレに行って笑おう。
「申し訳ありませんが、少々席を外させていただきます。後は御姉妹でどうぞごゆっくり。お茶のお代わりでしたら、声をかけていただければ廊下の外に誰か立たせておきますので、お気軽に声をかけてください。」
「それはかたじけないのう。では、お茶汲みにはさっきわらわを案内(あない)してくれたあの少年を所望する。目の保養じゃ。」
「姉上、旦那が起こるぞ。」
「ふっふっふ…、大丈夫じゃ。わらわの魅力にかかれば兄様は海より深く、宇宙よりも大きな心でどんなことでも許してくれようぞ。」
ドドドドドドォォォォォ……
その時、突然窓の外が光って轟音が轟いた。
何が何だかわからずに窓の外を見ると、運動場の方で煙が上がっている。
まさか、サクリストが前回の報復に打って出た!?
お姉さんが、驚いた顔で口を開いた。
「こ、これは……、兄様の雷撃!?」
―――――――――――――――――――
「ほう、魔王軍第六師団中将殿ですか。」
「ええ、学園長殿。しかし名前は聞かないでいただきたい。」
「何故?」
「…はっはっは、私にも私の事情がありまして…ね?」
俺はこの時すぐにわかった。
ああ、名前が…、ない人なんだな。
「して当学園には如何なる御用でしたかな?」
「妻の妹がこの学園にいると聞きましてね、挨拶がてらに寄らせてもらいました。」
「それはそれは……。ああ、どうぞ。うちの学園名物のオリハルコン煎餅です。材料は普通の煎餅と一緒なんですが、極限まで硬く焼いているので、入れ歯ではまず噛めないという代物です。なんせうちで居候しているドラゴンがいるのですが、彼女でも噛み切るのに苦労するくらいです。如何かな、中将殿もお一つ。なうなヤングに馬鹿受けですぞ?」
「なるほど、里帰りした時に面白い土産物になりそうですな、学園長殿。」
「クックック…。」
「ふっふっふ…。」
「「ふ…、ふはははははははははははははははっ!!!」」
学園長室に俺たちの笑い声が響く。
「悪い悪い。俺らしくもなかった、中将。」
「こっちもだ。いやいや、取り繕うのも楽じゃないな。失礼だが、学園長…。」
「ロウガで構わんさ。」
「ではロウガ、すごい傷だな。それも事故の傷じゃない。すべて戦闘で付いた傷だな。」
「おう、ガキの頃から戦場にいたり、妻を娶るのに必要な代償よ。右目と右腕で人外の女、それも極上の天使を娶ったと思えばこれ以上に安い駄賃はないものよ。」
「それは……、言えてるな。」
中将は俺の入れた玉露を飲む。
さっきチラリと見たが、なるほど。
あのチビっ娘が妻なだけに日の本のお茶は抵抗なく飲めるようだ。
「で、俺のとこに来たのは、ただ喋りに来た……って訳じゃないよな?」
「初めはそのつもりだったが……、あんたと対じすると駄目だな。あんたの強さに興味が出てくる。」
「クックック……、若いな。」
「そうでもないだろ。あんただってその気なんだろ?」
「では………、もう始まっているかな?」
「始まっていますとも♪」
テーブルが蹴飛ばされ俺の目を覆う壁に変わる。
俺はにやりと笑ったまま椅子に足を組んで、深く腰掛けたまま動かない。
「雷双剣……、アスカロン!」
テーブルが目の前で真っ二つになっていく。
中将の手の中に雷が集まり、二つ剣の形を成し、刃が俺に降りかかる。
魔力を形にする者か……。
実に面白い!
「クックック…、ふはははははははっ!長生きはするもんだぜ!!」
座ったままの姿勢で左の拳を突き出す。
狙いは中将の剣の持つ指。
「なっ!?」
中将は狙いを感じ取ったのか、片方の剣を放し、間一髪で直撃を避ける。
手から放れた剣は再び雷に戻り、空中で消えていく。
「良い勘をしてるな。さすが中将までなっただけはある。」
「あんた本当に人間か!?本気で斬りかかったのにさ、避けるとか剣を受け止めるとかせずに、躊躇なく俺の指を狙ってくるなんてさ!」
「人間さ。人よりちょっとばかり修羅場に身を置きすぎた老いぼれた学園長の成れの果てさ。さて、お前さんがマジで来てくれるなら、俺も立ち上がらなければ……な。ここじゃ狭かろう?外に出ないか?」
「…………そうだな。実に楽しい旅行になりそうだ。」
――――――――――――――――――
アヌビスたちが運動場に出て来た時、運動場は信じられない程抉れていた。
「間違いなく兄様の雷撃!しかもこの威力は……、二極まで使っておるじゃと!?」
「二極…?あの、一体どういう意味なんですか?」
「……兄様の雷撃の強さを表す単位じゃ。兄様は雷を武器に変換出来るのじゃが、その変換した武器を元の雷撃に兄様の意思で戻すと、武器の数だけ爆発力が上がるのじゃ。一本ならただ、雷迎。二本なら二極雷迎という風にな。一本でもかなりの威力じゃが……、二本ではこの通りクレーターが出来る。兄様は一体どんな化け物と戦っておるのじゃ!?」
化け物、という単語にアヌビスはその人物を予想した。
こんなクレーターを作らせる化け物がいるとすれば、サクリスト大首領にしてセラエノ学園長の師匠で稲荷の宗近か、その学園長本人しかいなかった。
しかし、今回は間違いなく宗近ではない。
「ああ、なんてこと……!アスティアさんもマイアさんもダオラさんも…、最後の手段の宗近さんと綾乃さんも…、みんな一緒に観劇に出かけているのに!!」
「兄様も頭に血が上ると周りが見えなくなるからのう…。」
「私が変身しても…、あの人たちを止められない…。」
やがれ煙が晴れて、二人の姿が見える。
ロウガも中将も無傷。
ロウガは構えらしい構えもせず悠然と立ち、中将も雷で作った槍、雷槍オベリスクを肩に担ぎ、悠々と無造作に間合いを詰めてくる。
「そうだ、サクラ君がいます!彼なら止められるかも…!」
「……サクラとは、さっきの少年か?それなら…、ほれ。」
バフォメット姉が指を指す方を見ると、そこに黒焦げのサクラが倒れていた。
どうやら真っ先に止めようとして、ロウガに鎧通し(左全力)を喰らわされ、中将の雷撃に巻き込まれたらしい。
サクラ、撃沈。
この瞬間、アヌビスの抑止策が完全に詰みとなった。
中将は笑っていた。
全力を出しても良さそうな相手に巡り合えた。
それも魔物ではなく、ただの人間相手で。
「楽しいか、若人。」
「楽しいぜ。しかも相手はおっさんで左手一本で俺を捻じ伏せようって馬鹿なやつなら尚更楽しいな。それに…、俺も全力を出しても良さそうだぜ!」
中将はを槍地面に突き刺し、さらに雷を双剣を変換し同じように突き刺す。
そして彼は巨大なハンマー、雷槌ミョルニルを形成する。
「ま、不味い…!兄様が四極まで出す気じゃ!?」
「あの…、どうなるんですか…?」
「まず間違いなく、この町とこのあたり一帯が消し飛ぶぞ!!」
「えぇぇぇ!!!」
中将はにやりと笑う。
「おい、ロウガ。お前はこの一撃、受ける勇気があるか?」
「クックック……、受けいでか!!」
ロウガの赤い瞳の潰れた右目が開く。
それと同時に彼の中の魔力が一斉に活性化し、右腕に魔力が漲る。
黒い雷が右腕を覆っていた。
「お前…、邪眼の持ち主か!?」
「知らん。俺の身体は魔力が蓄積されているらしくてな、その日の調子如何で、出力が変わるんだが……、今日は絶好調らしい。俺もここまで魔力が上がったのは見たことがない。」
「なら遠慮はいらない…よな?」
「遠慮する程、余裕があるのなら。」
二人はにやりと邪悪に笑う。
ロウガが疾り、中将の間合いに侵入する。
中将がミョルニルを振り上げる。
「四極雷迎……、弾けろ、ミョルニル!!!」
「滅殺ッ!貫鎧掌ォォ!!!」
まさに二大怪獣大激突。
だがその瞬間、
「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」
バフォメット姉の水魔法で大雨が矢のように降った。
「飲み込め、水龍!その顎(あぎと)で二人の馬鹿を飲み込め!!!」
降った雨がまるで龍のようにうねり、ロウガと中将を飲み込んだ。
突然のことで何が起こったかわからないまま、二人は溺れる。
そして中将の雷で作られた武器が彼の意志から放れ、再び元の雷になった時、悲劇が起こった。
バリバリバリバリバリバリ
「「ゴボボボボボボボボッ!!!」」
水の中を膨大な雷が一斉に駆け巡る。
「まったく……、旅先で他所様の町を滅ぼすつもりか馬鹿兄様!!!」
「あ、あの〜。」
「すまぬ、アヌビス殿。わらわの監督不行き届きで…。」
「いえ、あの水の龍の中に………、サクラ君が………。」
「………………え?」
水の中でもがき苦しむ二人の傍を、力なく漂うサクラがいた。
意識はなさそうである。
「………………………てへ♪」
アヌビスは確信した。
どんなに性格は違っていても、間違いなくこの人はあのバフォメット先生、いやイチゴ先生の姉妹である、と。
――――――――――――――――――――
俺たちはロウガたちに侘びを入れ、町を離れた。
俺のバフォメットは少しご機嫌斜めのご様子。
「もう少し、妹とのんびりしたかったのじゃ。」
「悪かったな。でも妹さんも帰れ帰れって言っていたぜ?」
「昔は素直な良い子だったのにのう……。触手系エロゲがお好きなようじゃったから、ちょっとお仕置きにリアル触手を置いてきた。」
「……ま、まさか触手の森産(くびなし様作・触手の森参考)のアレか!?」
「そのまさかじゃ。あれなら妹も喜ぼう。」
……俺は義理の妹に同情した。
自堕落な生活が災いしたとは言え……、
あんなものを部屋に置かれたら、まず寝れない。
こりゃエロゲどころではなさそうだな…。
「兄様、そういえば仕事は無事終わったのか?」
「お前に邪魔されてしまったけど…、無事終わりだ。」
今回、俺たちがあの町に行ったのは何もこいつの妹のためだけじゃない。
俺は魔王軍第六師団中将としての職務で来ていたのだ。
「あのロウガって男を見て何とも思わなかったか?」
「………不思議な感じじゃ。さすがリザードマンの女房が惚れるだけある。ただ人間のクセに大胆不敵で、妙な魅力があって、しかも敵なのか味方なのか、そんな次元を通り越してしまったような男じゃの。」
「そこまで言って気が付かないか?」
「何を?」
「俺たちの知ってる……、つーか俺にこの仕事を押し付けたやつとそっくりだろ。顔といい、喋り方といい、考え方といい、お前の言った印象といい…、あの女に似すぎだ。」
「…………あっ。」
「もしかして………、いや、よそう。そこからは俺たちの仕事じゃない。」
もう会うことはないのだろう。
だが、次会うことがあったなら…
その時は誰の目も気にせず、全力でやろうか。
「兄様、何を笑っているのじゃ。」
「……何、今夜はお前を寝かさない。そう思っていたんだ。」
「あ、兄様!まさかこんな荷馬車の中でする気かえ…!?でも……、たまには違ったシチュエーションも良いかもしれんの……。」
「ついでにもう一人の妹のとこにも寄ろうか。土産にもらったオリハルコン煎餅を持っていってやろう。」
「兄様……。」
「何だ?」
「またこの町に来てみたいな。居心地が、実に良い。」
「…………ああ、また来ような。」
その頃、バフォメット先生ことイチゴ先生は……
「あひぃ!らめ、そんなとこグリグリしないれぇ〜!」
実の姉にたった一人で学園の運動場の修理をさせられ、
クタクタになって自室に帰ってきたところに
実の姉の残した触手に襲われていた。
「ら、らめぇぇぇぇ〜!!」
翌日、バフォメットは再び遅刻しただけじゃ飽き足らず、
その自分を襲った触手を自分の受け持つ魔術の授業で使用し、
アヌビスにお仕置きされたというのは、言うまでもない。
―――――――――――――――――
やはり私が傍にいると君の魔力は格段に跳ね上がるのだね。
実に興味深い。
さすが、君は私。
私の欠片、私のなり損ない。
「あの……、陛下?」
「何かな、ヴルトーム。」
「シリアスに決めているところ申し訳ないのですが…、何でわざわざ、名もなき町の銭湯に来ているのですか?お城にもお風呂はありますのに。ってゆーか私たちいつの間にこんなとこに来ちゃっているんですか!?」
「ヴルトーム、君は大衆浴場は嫌いかい?」
「いえ、嫌いではないのですが……。」
「ああ、首を外したくても外せない…という訳か。すまないね、それは私のミスだ。だが君も外伝、というかお祭り話に出たいなんて言っていたじゃないか?」
「確かに言いましたが陛下自らお出にならなくとも…。」
「何を言うんだい。こっちの世界では本編に登場したキャラなら全員出て来れるんだよ。私は名前こそ出していないが、立派に本編登場しているし、君もちょっとだけ出ているから出る資格があるのだよ。」
「それを言うとハインケルやその他の英雄も出てきちゃいますよ。」
「……彼らはシリアス向けだからね。ギャグに出れるのは私のように洗練された者の仕事だよ。」
「でも陛下………、今回、バトルシーンがありますが……?」
「…………………ヴルトーム、こっちにおいで?私が君の首を持ってあげるから、君の背中を洗ってあげよう。性的な意味で。」
「ちょっと陛下、こ、こんなとこで!?」
「こんなとこじゃなきゃ良いのかい?」
「え、あ、そ、そんな訳じゃありま…、どこ触って…んはぁ…、らめぇ…あ、ああん…。らめ…れすってばぁ……!」
――――――――――――――――――
次回予告
マジでやっちゃう気?
マジでやっちゃう気!
なんと『風雲!セラエノ学園』のあの二人が
電波ジャックでラジオ放送!
メインパーソナリティーに
魔女っ娘わんわん☆ねふぇるてぃーた、ことネフェルティータと
あぶない魔術学臨時講師、バフォメットことイチゴ先生が
ちょっとあぶない暴露話やガールズトークで
あなたの日常のテンションを盛り下げる!
お送りするコーナーは
・ふつおたのコーナー
・お悩み相談
・フリートークコーナー
・占いのコーナー
・二人の小芝居
作者の気分次第でゲストが出たり出なかったり!
ちなみにホントにふつおた、お悩みを募集します。
どちらかのコーナーで採用してほしいかを明記して感想板に
書き込んでください。
二人が色々答えてくれます。
締め切りは12月3日、夜9時まで^^。
ラジオのチューナーはSM放送072でセット!
「ワシ……、足りない子じゃないぞ?」
「おはようございます、ではないですよ!バフォメット先生、今何時と思っているんですか!!」
「……11時56分。」
「後4分でお昼休みです!一体連絡もなしに、どうして遅れて来たんですか!!」
「そう大きな声を出さんでくれ、アヌビス…。オヌシの職務も重々理解しておるが、ワシにもそれなりの理由があって、ベッドから起き上がれなかったのじゃ…。」
「……え、あ、もしかして…。」
アヌビスが思い浮かべたのは女性特有のアレである。
アレが酷い女性とっては、アレが始まるとまさに日常が地獄と化す。
わかりやすい例を作者は、ある女友達から聞いた。
一日中、それも休みなく、き○○まに真昇竜拳の如き重い一撃を喰らい続けるようなもの。
これを聞いた時、作者は思わず縮み上がったものである。
「それは…、ごめんなさい……。校医のマロウ先生がよく効く薬を持っていましたけど……。」
「ワシは休む訳にはいかんのじゃ。ワシには………、可愛い可愛い48人のヒロインと100以上のシナリオが待っておるのじゃ!」
「…………………は?」
「アヌビス、お前は信じられるか!?今月、ワシの要チェックしておった新作エロゲが9本も同時発売して、しかも1週間後には発売延期していた名作ゲーが予告なしに発売決定じゃ!それに加えて今朝やっと2本目のCGコンプしたと思ったら隠しシナリオが解放されたのじゃ!!これらすべてを今月中にやり終わるためには……、仕事中にもやらねばならん!!!来月にはさらに5本発売……、もはやワシには金も時間も足りない…。だからワシは休む(寝る)暇も惜しんでクリックし続けなければならないのじゃぁぁぁぁ!!!!」
かつて作者もそんな経験がある。
大学の授業に出るのを忘れる程『Kan○n』をプレイしていて、水○秋子のルートを2時間探し続けて、友人たちから顰蹙を買った覚えがある。
「………………………つまり、遅れたのは生理でなく、時間の感覚がなくなる程ゲームしていた訳ですね…?」
「当たり前じゃ!例え生理が来ても、ワシの鋼の子宮がその程度でへこたれてたまるか!見よ、わざわざ職場でも仕事のフリしてプレイ出来るように、ノートパソコンにセーブデータごとインストールして来てやったわ!!」
「バフォメット先生!そこに座りなさい!お説教です、没収です、ボーナスカットです!!」
「何じゃと!?そんなことをされたらワシはおまん○食い上げじゃ!!!」
「最後は『ま』でしょ!!!わざわざ伏字にしないでください!!!」
セラエノ学園魔術担当臨時教諭、魔界貴族バフォメット。
学園内においてロウガと並んでもっともクセのある教師であると同時に、悪の秘密結社サクリスト幹部、地獄将軍バフォメットととして堂々と副業を営むまさに悪のカリスマロリっ娘。
そんな彼女に、とんでもない恐怖が忍び寄っていた。
――――――――――――――――――――
「あの〜、バフォメット先生はいますか………ひぃぃぃ!?」
「あ、あら、サクラ君。どうしました?」
返り血を浴びていながらアヌビスは生き生きとした笑顔で、手に持っていた一本鞭を後ろ手に隠す。そのアヌビスの後ろ側ではバフォメットが『この者不届き者』という面紙を貼られて抱き石の刑に遭っていた。
すでに石の畳が3つ乗せられていた。
「あ、あのバフォメット先生は大丈夫なんですか!?」
「…お、おお、サクラか……。何やら新しい性癖の扉が開きそうじゃ。」
転んでもただでは起きない女、それがバフォメットクオリティ。
「遅刻のお説教を言葉責めに変換し、反省の色が見えないのでこういう手段に訴えたのですが、『嗚呼、ワシ魔女っ娘わんわんにお仕置きされちゃう♪』って頭の中でものすごくいやらしい方向に変換しちゃってお仕置きにならなかったんですよ…。で、サクラ君。どうしたんですか、彼女に何か用だったのではないのですか?」
「あ、そうです。バフォメット先生にお客様です。」
「ワシに客?ああ、そういえばアモゾン・ドット・コメで通販していたモンスターハンティングP3の配達じゃろう?ワシ、何か通販する時は、学園に配達するように設定しておるし。」
「それはすでにロウガさんが勝手に受け取って、勝手に始めちゃっているんですが………、別の人です。」
「別の人……って学園長殿が勝手に始めておるとな!?わ、わ、ワシの初めてが学園長殿に奪われたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バフォメットはサクラの証言を聞いて、石の畳を砕いて立ち上がった。
そして面紙を引き千切ると、その下には悪鬼の如き表情がサクラを睨む。
「サクラ……、貴様…、ワシという師匠への思いやりが足りぬようじゃのう?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「そそそそそういうつもりじゃないんですよ!!それより、お客さんなんですが、どうしても名前を名乗らなくて、ただこの学園のバフォメットを出してくださいって、今応接室で待っています!先生と同じバフォメット種ですよ!!」
「ワシと同じ……じゃと……?」
「はい、同じ…というかまったく同じ顔でして、若干髪型が違うくらいにしか違うとこがありませんでした。ああ、そうだ。ジパングの……、アスティア先生の国語の授業で習った『ゲンジ物語』に出てきた服を着て……。」
「フン!!!!」
ズガァーン
サクラがそこまで言うとバフォメットは魔法で壁を爆破し、大穴を開けた。
「すまぬ、アヌビス。お仕置きはこれまでじゃ。ワシは逃げる…!!」
「え、バフォメット先生…、お客さんは…?」
「お客ではない!あれはバフォメットの皮を被った悪魔じゃ!!」
バフォメットが飛ぶ。
自由を掴むために!
まるで煙突から飛び立つアンパ○マンのように。
バシャァァァ
「ギャァァァァァァッ!?」
突然、水の柱がバフォメットを弾き飛ばし、天高く放り投げる。
「誰がバフォメットの皮を被った悪魔じゃ?」
水柱の上に立つ十二単を着たバフォメット。
まるで東方不敗のように力強く腕を組み、バフォメット先生の飛んでいった空を睨む。
その姿を見てアヌビスと桜は声を揃えて驚いた。
「「バフォメット先生が二人!?」」
「おお、初めましてじゃな。いつも妹がお世話になっております。」
「「い、妹!?」」
―――――――――――――――――――
「そういえばお姉さんがいるとは聞いていましたが…。」
私は応接室でバフォメット先生のお姉さんをもてなしていた。
でもまさかここまでよく似てて、こんなにジパング趣味を持った人だとは思いませんでした。
キモノはロウガさんで見慣れていたけど、ジュウニヒトエを見るのは初めてだ。
お姉さんはジパングの玉露を、逃亡防止に簀巻きにされたバフォメット先生には缶ビールを渡す。
「うむ、最近妹が実家に帰ってこんと聞いてのう。わらわの兄様……、いや失敬、夫を見せ付けてやろうかとついでに寄った訳なんじゃが……。あの部屋は何じゃ?仮にも魔界の名族と知られたバフォメット家の跡取り娘の住まいとして、高級マンションに住むのは良かろう。だが、あの部屋の中身は何なのじゃ?」
「ま、まさか入ったのか!姉上!!!」
「おお、入ったぞ。鍵がかかっていたから、兄様にドアを破壊してもらってな。一人暮らしが長い故、さぞ荒れた暮らしをしていると予想しておったが、予想以上の荒れっぷりで少々引いたぞ…。積み上げられたエロゲーの山、床が抜けそうな程蓄積されたエロ同人誌。それに加えてアニメやゲーム、漫画の設定集にイラスト集……。グッズにフィギュア……、各種ハード取り揃えたゲーム……。カップ麺の容器だけが散乱してどんな食生活を送っておったのじゃ。まったく…、一人暮らしの大学一年生男子以上に酸っぱい暮らしをしおって…。化粧品すら持っておらんとは…、お前も一応女としての自覚を持ったらどうじゃ、イチゴ。」
「イ、イチゴ!?え、バフォメット先生のお名前って…、確か履歴書にはバフォメット7世ってありましたが、本名じゃなかったんですか!?」
「………アヌビス殿、良い情報をかたじけない。こやつせっかく可愛い名前があるというに、まさか名を偽っておったとは…。しかも御家の称号を本名のように偽り、その名を汚した自堕落な生活…。わらわは恥ずかしいぞ…。」
「あ、姉上だって……!」
「ん〜〜〜?何のことかの?」
「な、名前…。」
「わらわはお姉さん。あいあむゆあしすたー。おけ?」
「……お………、おけ………。」
私は笑いを堪えるのに必死だった。
こんなバフォメット先生…、いえ、イチゴ先生見たことがない♪
「あ、あの〜、お姉さんとバフォ…ぷふ♪いえいえ、イチゴ先生ってお顔がそっくりですけど、もしかして双子なんですか?」
「………違う。ワシは六つ子なのじゃ…。姉上は六つ子の長女で、実はワシらの他にも妹が7人もおるのじゃ。本当は家も姉上が継ぐはずだったのじゃがさっさと良い男見付けて家を出て行くし…、次女も早々と家を出て自分の勢力を作り、立場が微妙じゃった三女のワシに何もかも押し付けて……。それがなければワシは今頃、悠々自適なパラサイトニートを決め込んでエロゲ買う金にも困らぬ生活だったというのに…!家なんぞ継いでしまったせいで我が家の家訓『働かざる者喰うべからず』を守らされるわ、母上や父上には帰省するたびに見合いの話や、良い人まだ見付からないのかとかなじられるわ…。ワシの人生土砂降りじゃぁぁー!!!」
お姉さんの判断、正しかったと思う。
「イチゴ、おぬしのビールをわらわの魔法でただの水に変えることも出来るのじゃが、試すか?」
「申し訳ありません、お姉様。」
駄目だ、笑いたい。
アヌビスとして人前で大笑いするのは、種のプライドが許さないけど……
笑いたい♪
とりあえず、トイレに行って笑おう。
「申し訳ありませんが、少々席を外させていただきます。後は御姉妹でどうぞごゆっくり。お茶のお代わりでしたら、声をかけていただければ廊下の外に誰か立たせておきますので、お気軽に声をかけてください。」
「それはかたじけないのう。では、お茶汲みにはさっきわらわを案内(あない)してくれたあの少年を所望する。目の保養じゃ。」
「姉上、旦那が起こるぞ。」
「ふっふっふ…、大丈夫じゃ。わらわの魅力にかかれば兄様は海より深く、宇宙よりも大きな心でどんなことでも許してくれようぞ。」
ドドドドドドォォォォォ……
その時、突然窓の外が光って轟音が轟いた。
何が何だかわからずに窓の外を見ると、運動場の方で煙が上がっている。
まさか、サクリストが前回の報復に打って出た!?
お姉さんが、驚いた顔で口を開いた。
「こ、これは……、兄様の雷撃!?」
―――――――――――――――――――
「ほう、魔王軍第六師団中将殿ですか。」
「ええ、学園長殿。しかし名前は聞かないでいただきたい。」
「何故?」
「…はっはっは、私にも私の事情がありまして…ね?」
俺はこの時すぐにわかった。
ああ、名前が…、ない人なんだな。
「して当学園には如何なる御用でしたかな?」
「妻の妹がこの学園にいると聞きましてね、挨拶がてらに寄らせてもらいました。」
「それはそれは……。ああ、どうぞ。うちの学園名物のオリハルコン煎餅です。材料は普通の煎餅と一緒なんですが、極限まで硬く焼いているので、入れ歯ではまず噛めないという代物です。なんせうちで居候しているドラゴンがいるのですが、彼女でも噛み切るのに苦労するくらいです。如何かな、中将殿もお一つ。なうなヤングに馬鹿受けですぞ?」
「なるほど、里帰りした時に面白い土産物になりそうですな、学園長殿。」
「クックック…。」
「ふっふっふ…。」
「「ふ…、ふはははははははははははははははっ!!!」」
学園長室に俺たちの笑い声が響く。
「悪い悪い。俺らしくもなかった、中将。」
「こっちもだ。いやいや、取り繕うのも楽じゃないな。失礼だが、学園長…。」
「ロウガで構わんさ。」
「ではロウガ、すごい傷だな。それも事故の傷じゃない。すべて戦闘で付いた傷だな。」
「おう、ガキの頃から戦場にいたり、妻を娶るのに必要な代償よ。右目と右腕で人外の女、それも極上の天使を娶ったと思えばこれ以上に安い駄賃はないものよ。」
「それは……、言えてるな。」
中将は俺の入れた玉露を飲む。
さっきチラリと見たが、なるほど。
あのチビっ娘が妻なだけに日の本のお茶は抵抗なく飲めるようだ。
「で、俺のとこに来たのは、ただ喋りに来た……って訳じゃないよな?」
「初めはそのつもりだったが……、あんたと対じすると駄目だな。あんたの強さに興味が出てくる。」
「クックック……、若いな。」
「そうでもないだろ。あんただってその気なんだろ?」
「では………、もう始まっているかな?」
「始まっていますとも♪」
テーブルが蹴飛ばされ俺の目を覆う壁に変わる。
俺はにやりと笑ったまま椅子に足を組んで、深く腰掛けたまま動かない。
「雷双剣……、アスカロン!」
テーブルが目の前で真っ二つになっていく。
中将の手の中に雷が集まり、二つ剣の形を成し、刃が俺に降りかかる。
魔力を形にする者か……。
実に面白い!
「クックック…、ふはははははははっ!長生きはするもんだぜ!!」
座ったままの姿勢で左の拳を突き出す。
狙いは中将の剣の持つ指。
「なっ!?」
中将は狙いを感じ取ったのか、片方の剣を放し、間一髪で直撃を避ける。
手から放れた剣は再び雷に戻り、空中で消えていく。
「良い勘をしてるな。さすが中将までなっただけはある。」
「あんた本当に人間か!?本気で斬りかかったのにさ、避けるとか剣を受け止めるとかせずに、躊躇なく俺の指を狙ってくるなんてさ!」
「人間さ。人よりちょっとばかり修羅場に身を置きすぎた老いぼれた学園長の成れの果てさ。さて、お前さんがマジで来てくれるなら、俺も立ち上がらなければ……な。ここじゃ狭かろう?外に出ないか?」
「…………そうだな。実に楽しい旅行になりそうだ。」
――――――――――――――――――
アヌビスたちが運動場に出て来た時、運動場は信じられない程抉れていた。
「間違いなく兄様の雷撃!しかもこの威力は……、二極まで使っておるじゃと!?」
「二極…?あの、一体どういう意味なんですか?」
「……兄様の雷撃の強さを表す単位じゃ。兄様は雷を武器に変換出来るのじゃが、その変換した武器を元の雷撃に兄様の意思で戻すと、武器の数だけ爆発力が上がるのじゃ。一本ならただ、雷迎。二本なら二極雷迎という風にな。一本でもかなりの威力じゃが……、二本ではこの通りクレーターが出来る。兄様は一体どんな化け物と戦っておるのじゃ!?」
化け物、という単語にアヌビスはその人物を予想した。
こんなクレーターを作らせる化け物がいるとすれば、サクリスト大首領にしてセラエノ学園長の師匠で稲荷の宗近か、その学園長本人しかいなかった。
しかし、今回は間違いなく宗近ではない。
「ああ、なんてこと……!アスティアさんもマイアさんもダオラさんも…、最後の手段の宗近さんと綾乃さんも…、みんな一緒に観劇に出かけているのに!!」
「兄様も頭に血が上ると周りが見えなくなるからのう…。」
「私が変身しても…、あの人たちを止められない…。」
やがれ煙が晴れて、二人の姿が見える。
ロウガも中将も無傷。
ロウガは構えらしい構えもせず悠然と立ち、中将も雷で作った槍、雷槍オベリスクを肩に担ぎ、悠々と無造作に間合いを詰めてくる。
「そうだ、サクラ君がいます!彼なら止められるかも…!」
「……サクラとは、さっきの少年か?それなら…、ほれ。」
バフォメット姉が指を指す方を見ると、そこに黒焦げのサクラが倒れていた。
どうやら真っ先に止めようとして、ロウガに鎧通し(左全力)を喰らわされ、中将の雷撃に巻き込まれたらしい。
サクラ、撃沈。
この瞬間、アヌビスの抑止策が完全に詰みとなった。
中将は笑っていた。
全力を出しても良さそうな相手に巡り合えた。
それも魔物ではなく、ただの人間相手で。
「楽しいか、若人。」
「楽しいぜ。しかも相手はおっさんで左手一本で俺を捻じ伏せようって馬鹿なやつなら尚更楽しいな。それに…、俺も全力を出しても良さそうだぜ!」
中将はを槍地面に突き刺し、さらに雷を双剣を変換し同じように突き刺す。
そして彼は巨大なハンマー、雷槌ミョルニルを形成する。
「ま、不味い…!兄様が四極まで出す気じゃ!?」
「あの…、どうなるんですか…?」
「まず間違いなく、この町とこのあたり一帯が消し飛ぶぞ!!」
「えぇぇぇ!!!」
中将はにやりと笑う。
「おい、ロウガ。お前はこの一撃、受ける勇気があるか?」
「クックック……、受けいでか!!」
ロウガの赤い瞳の潰れた右目が開く。
それと同時に彼の中の魔力が一斉に活性化し、右腕に魔力が漲る。
黒い雷が右腕を覆っていた。
「お前…、邪眼の持ち主か!?」
「知らん。俺の身体は魔力が蓄積されているらしくてな、その日の調子如何で、出力が変わるんだが……、今日は絶好調らしい。俺もここまで魔力が上がったのは見たことがない。」
「なら遠慮はいらない…よな?」
「遠慮する程、余裕があるのなら。」
二人はにやりと邪悪に笑う。
ロウガが疾り、中将の間合いに侵入する。
中将がミョルニルを振り上げる。
「四極雷迎……、弾けろ、ミョルニル!!!」
「滅殺ッ!貫鎧掌ォォ!!!」
まさに二大怪獣大激突。
だがその瞬間、
「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」
バフォメット姉の水魔法で大雨が矢のように降った。
「飲み込め、水龍!その顎(あぎと)で二人の馬鹿を飲み込め!!!」
降った雨がまるで龍のようにうねり、ロウガと中将を飲み込んだ。
突然のことで何が起こったかわからないまま、二人は溺れる。
そして中将の雷で作られた武器が彼の意志から放れ、再び元の雷になった時、悲劇が起こった。
バリバリバリバリバリバリ
「「ゴボボボボボボボボッ!!!」」
水の中を膨大な雷が一斉に駆け巡る。
「まったく……、旅先で他所様の町を滅ぼすつもりか馬鹿兄様!!!」
「あ、あの〜。」
「すまぬ、アヌビス殿。わらわの監督不行き届きで…。」
「いえ、あの水の龍の中に………、サクラ君が………。」
「………………え?」
水の中でもがき苦しむ二人の傍を、力なく漂うサクラがいた。
意識はなさそうである。
「………………………てへ♪」
アヌビスは確信した。
どんなに性格は違っていても、間違いなくこの人はあのバフォメット先生、いやイチゴ先生の姉妹である、と。
――――――――――――――――――――
俺たちはロウガたちに侘びを入れ、町を離れた。
俺のバフォメットは少しご機嫌斜めのご様子。
「もう少し、妹とのんびりしたかったのじゃ。」
「悪かったな。でも妹さんも帰れ帰れって言っていたぜ?」
「昔は素直な良い子だったのにのう……。触手系エロゲがお好きなようじゃったから、ちょっとお仕置きにリアル触手を置いてきた。」
「……ま、まさか触手の森産(くびなし様作・触手の森参考)のアレか!?」
「そのまさかじゃ。あれなら妹も喜ぼう。」
……俺は義理の妹に同情した。
自堕落な生活が災いしたとは言え……、
あんなものを部屋に置かれたら、まず寝れない。
こりゃエロゲどころではなさそうだな…。
「兄様、そういえば仕事は無事終わったのか?」
「お前に邪魔されてしまったけど…、無事終わりだ。」
今回、俺たちがあの町に行ったのは何もこいつの妹のためだけじゃない。
俺は魔王軍第六師団中将としての職務で来ていたのだ。
「あのロウガって男を見て何とも思わなかったか?」
「………不思議な感じじゃ。さすがリザードマンの女房が惚れるだけある。ただ人間のクセに大胆不敵で、妙な魅力があって、しかも敵なのか味方なのか、そんな次元を通り越してしまったような男じゃの。」
「そこまで言って気が付かないか?」
「何を?」
「俺たちの知ってる……、つーか俺にこの仕事を押し付けたやつとそっくりだろ。顔といい、喋り方といい、考え方といい、お前の言った印象といい…、あの女に似すぎだ。」
「…………あっ。」
「もしかして………、いや、よそう。そこからは俺たちの仕事じゃない。」
もう会うことはないのだろう。
だが、次会うことがあったなら…
その時は誰の目も気にせず、全力でやろうか。
「兄様、何を笑っているのじゃ。」
「……何、今夜はお前を寝かさない。そう思っていたんだ。」
「あ、兄様!まさかこんな荷馬車の中でする気かえ…!?でも……、たまには違ったシチュエーションも良いかもしれんの……。」
「ついでにもう一人の妹のとこにも寄ろうか。土産にもらったオリハルコン煎餅を持っていってやろう。」
「兄様……。」
「何だ?」
「またこの町に来てみたいな。居心地が、実に良い。」
「…………ああ、また来ような。」
その頃、バフォメット先生ことイチゴ先生は……
「あひぃ!らめ、そんなとこグリグリしないれぇ〜!」
実の姉にたった一人で学園の運動場の修理をさせられ、
クタクタになって自室に帰ってきたところに
実の姉の残した触手に襲われていた。
「ら、らめぇぇぇぇ〜!!」
翌日、バフォメットは再び遅刻しただけじゃ飽き足らず、
その自分を襲った触手を自分の受け持つ魔術の授業で使用し、
アヌビスにお仕置きされたというのは、言うまでもない。
―――――――――――――――――
やはり私が傍にいると君の魔力は格段に跳ね上がるのだね。
実に興味深い。
さすが、君は私。
私の欠片、私のなり損ない。
「あの……、陛下?」
「何かな、ヴルトーム。」
「シリアスに決めているところ申し訳ないのですが…、何でわざわざ、名もなき町の銭湯に来ているのですか?お城にもお風呂はありますのに。ってゆーか私たちいつの間にこんなとこに来ちゃっているんですか!?」
「ヴルトーム、君は大衆浴場は嫌いかい?」
「いえ、嫌いではないのですが……。」
「ああ、首を外したくても外せない…という訳か。すまないね、それは私のミスだ。だが君も外伝、というかお祭り話に出たいなんて言っていたじゃないか?」
「確かに言いましたが陛下自らお出にならなくとも…。」
「何を言うんだい。こっちの世界では本編に登場したキャラなら全員出て来れるんだよ。私は名前こそ出していないが、立派に本編登場しているし、君もちょっとだけ出ているから出る資格があるのだよ。」
「それを言うとハインケルやその他の英雄も出てきちゃいますよ。」
「……彼らはシリアス向けだからね。ギャグに出れるのは私のように洗練された者の仕事だよ。」
「でも陛下………、今回、バトルシーンがありますが……?」
「…………………ヴルトーム、こっちにおいで?私が君の首を持ってあげるから、君の背中を洗ってあげよう。性的な意味で。」
「ちょっと陛下、こ、こんなとこで!?」
「こんなとこじゃなきゃ良いのかい?」
「え、あ、そ、そんな訳じゃありま…、どこ触って…んはぁ…、らめぇ…あ、ああん…。らめ…れすってばぁ……!」
――――――――――――――――――
次回予告
マジでやっちゃう気?
マジでやっちゃう気!
なんと『風雲!セラエノ学園』のあの二人が
電波ジャックでラジオ放送!
メインパーソナリティーに
魔女っ娘わんわん☆ねふぇるてぃーた、ことネフェルティータと
あぶない魔術学臨時講師、バフォメットことイチゴ先生が
ちょっとあぶない暴露話やガールズトークで
あなたの日常のテンションを盛り下げる!
お送りするコーナーは
・ふつおたのコーナー
・お悩み相談
・フリートークコーナー
・占いのコーナー
・二人の小芝居
作者の気分次第でゲストが出たり出なかったり!
ちなみにホントにふつおた、お悩みを募集します。
どちらかのコーナーで採用してほしいかを明記して感想板に
書き込んでください。
二人が色々答えてくれます。
締め切りは12月3日、夜9時まで^^。
ラジオのチューナーはSM放送072でセット!
「ワシ……、足りない子じゃないぞ?」
10/12/03 00:02更新 / 宿利京祐
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