第二十二話・男たちの挽歌
「はっはっは、娘をよろしく頼むぜ!喰らえ、ハリケーンミ○サー!!!」
「ありがっ!!とござまっす!!!お義母ざん!!!!」
サイガとコルトも無事ご両親の了解を得て、晴れて夫婦になった。
もっともサイガはしばらく入院生活が続きそうだけど…。
コルトのお母さんって、コルトにそっくりだな。
それにしても何て恐ろしい技だろう。
僕とサイガの決闘から一週間。
さすがに砕けた骨はまだ治り切っていない。
まだ左腕は三角巾で吊ってるし、右腕だって自分の炎で大火傷だ。
後3日はこのままだろう。
「性欲を持て余す。」
「さすがに入院中だとそうなるよね。」
そんな訳で僕はサイガの見舞いに来ている。
彼の好きなお菓子の詰め合わせも持ってきたが、コルトに全部食べられてしまった。そして食べた本人はつわりがあるのに、無理して食べたおかげでトイレで全部吐きに行っている。
何のために持ってきたのか…。
「まぁな。さすがに看護婦に手を出す程、命知らずじゃないし…。」
「手を出したら、命がないだろうねぇ。」
だってコルトだもん。
「…なあ、サクラ。またいつかやろうや。今度はこんな感じじゃなくて、もっと楽しいんでやろうぜ。」
「…うん!」
「さぁ、次はマイアか…。アイツの強さは俺以上だぞ。何か手があるのか?」
「……僕は真正面から行くよ。そうじゃないと、例え勝っても僕はあの人に一生顔を背けて生きなきゃいけなくなる。」
「面倒な女に惚れたもんだな、お前も。」
頑張れよ、と言ってサイガは笑う。
「僕はそろそろ帰るよ。また今日から学園長にしごかれることになってるから…。」
「…ほんと、怪我人に容赦ないな。あの人。」
「人じゃないよ…、悪魔だよ…。」
じゃあね、と言ってサイガの病室を出る。
まだ僕、腕を吊ってるんだけどなぁ…。
僕は大変な人に恋をしたけど、それ以上に大変な人に目を付けられたんだなぁ…。
――――――――――
「学園長、こんに…。」
「飛燕疾○脚!!!」
ゲシッ、バシッ(2hit
「うげはっ!!」
「暫○拳!!!」
ドガガガガガガガガガガガ(11hit
「あばばばばばばばば。」
「ビルドア○パー!!!」
スパーン(空中追い討ち
「ぐっはぁ!!」
ズダーン(倒
「む、いかん。気力が切れたか…。1の仕様ではこんなものか。」
こんなものか、じゃないよ…。
1の仕様だったら当たり具合によっては今ので死んでるよ!
「が、学園長…。一体何を…!?」
「いやな、何だか俺の知らないところで貶されたような気がしてな。」
…下手なことは言えない。
「ところで、出かけるぞ!」
「え…、今日も特訓だと聞いていたんですが…?」
「特訓だぞ。だから出かけるぞ!」
付いて来い、学園長は家を出る。
「ま、待ってくださいよー!!」
「…と、言う訳で、飲め!!!」
僕の目の前には大ジョッキに並々と注がれたテキーラ。
「とりあえずイッキな?」
「殺す気ですか?」
それに僕、まだ未成年です。
「今日鍛えるのは肝臓だ。酒をガンガン飲んでどんなレバーブローにも耐えろ!」
「用途が違います!!」
学園長の家を出て、やってきたのは居酒屋『フラン軒』。
肝臓の特訓と称して、無理矢理飲まされそうになっている。
「…で、本題は何ですか。」
「…娘がなぁ、最近口を利いてくれないんだよ。」
「マイアさんが?一体何をしたんですか…。」
グイッと学園長は大ジョッキを空にする。
今の…、テキーラだったよね?
「…大したことはしてないはずなんだよ。ただ、この間インプと結婚した八百屋の親父と貧乳談義しているのを聞かれたり、うっかり娘が学校から帰っているのに気が付かなくてアスティアと夫婦の愛情を深めていたり、娘の本棚から小説と間違ってうっかり日記を開いて読んでしまったくらいなんだが、心当たりがあまりない。」
「それは死んで詫びるべきですね。」
ベキッ(殴
「やっぱ娘に頭下げた方が良いかなぁ。」
「…思いっ切り殴っておいて言うことはそれですか!?」
見えなかった…。
「で、マイアさんとアスティアさんはどうしたんですか?」
「ああ、今日は二人で夜まで買い物だ。だからな、たまには男同士、気心の知れた者同士で飲もうと思ってな。えっと、新人君。どぶろく頼む。ところで、今日のおすすめは何かね?」
「カユ、ウマ!」
「なるほど、マタンゴ産キノコの雑炊か。それを一つ、取り皿二つで。」
「カシコマリマッター。」
最近入ったという珍しい男性のゾンビ。
…きっと生前は大変だったろうなぁ。
あんな体格で玉がないなんて…。
それより、よくあれだけで言葉が通じるよ。
「奢りだ、今日は食って飲め。」
「それで自棄酒なんですね。でも僕が言うのも何ですけど、あまりそういうことは口に出さない方が良いと思いますよ?」
「あん?」
学園長はホルモンの串焼きを咥える。
うん、こうして見ると歳相応のおじさんだ。
「前回も僕たち、油断して外でそういうことを口に出したら…、どうなったか覚えていますよね?僕が回復し切れなかったんですよ…。学園長はその後で穴埋めでさらに死に掛けた…、忘れた訳じゃないですよね?」
「……、そうだったな。黙って飲もう。」
「それが良いと思いますよ。」
「オマッセシマッター!」
「ああ、ありがとう。空いたジョッキ、下げてくれ。」
「あ、すみません。僕、冷えた牛乳ください。」
「カシコマリマッター。」
とりあえず、かんぱーい…。
――――――――――
「もう一軒行くぞー!!」
「当ったり前っすよ、ししょー!!」
あー、気分がいい。
僕、牛乳しか飲んでなかったはずなのに、何か酔っ払っちゃったぁ〜。
何だか途中から牛乳の甘さより、刺激的な味だったような気もするな〜。
あはははは、気分いい〜♪
「クックック…、小僧…、いや、サクラ。おめえ、結構イケるクチだな。」
「ししょーほどじゃないれすってば〜。」
「飲んだ、食った!と、くれば次はここしかあるまい!!」
「あれ〜、ここって〜?」
見覚えがある〜…。
ああ、ここって…。
「俺の友人、ルゥ夫婦の営む娼館『テンダー』!!!サクラ、突撃するぞ!!!!」
「で、でも〜。僕、心の準備が〜。それよりマイアさんが好きですし〜。」
「大丈夫!最近、運良くリザードマンをスカウト出来たと聞いておる!!娘の方が数万倍美人だろうが、娘のつもりで予行練習して来い!!!!」
人の話を聞かない人だなぁ〜。
でも…、僕も興味がない訳じゃない。
「学校で堂々と自慰出来たくらいだ!このくらい朝飯前だろ!!」
「堂々としてませんって!」
カラン
「何かしら騒々し…、あら。ロウガさん。」
扉が開いて出てきたのは綺麗なサキュバスのお姉さん。
「おっす!」
「随分とご無沙汰でしたわね。」
「ししょー、この人ししょーの愛人?」
「ふふ、残念だけど違うわ、ボウヤ。私はこのろくでなしさんの奥さんの幼馴染。ただの友達よ。」
うわぁ…、綺麗な人だなぁ。
マイアさんも綺麗だし、アスティアさんも綺麗だけど、別種の綺麗だよ。
「ところで今日はどうしました?またアスティアに追い出されて部屋を借りに来たんですか?」
「クックック…、今日はな、女を買いに来た!」
ズギャン
何だろう。
突然ししょーの後ろにそんな文字が浮かんだような気がした。
「珍しいですね。どうします?もうお店が終わる時間なので、女の子は上がりだしているんですが…。」
「スカウトのパッソールに聞いたんだが、リザードマン入ったんだって?」
「え、ああ、また居酒屋で会ったんですね?そうですよ、運良くスカウトに成功したので今研修期間中なんですよ。…もしかしてロウガさん、浮気?」
「俺じゃない。」
ししょーが僕をネコみたいに服の襟を持って摘まみ上げる。
「こいつ。俺の娘に惚れてるんだがな、悲しいことに童貞なんだ。」
「まぁ、童貞が許されるのは小学生までですからねぇ。それは一大事。」
それは、どこの世界基準だろう。
「そんな訳で、予行演習と思ってな。」
「そういうことでしたら…。あら、アスティアじゃない。」
「「な、何だってぇー!?」」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(マイア
ドドドドドドドドドド(アスティア
「久し振りだな、ルゥ。最近仕事が忙しくて、なかなか顔を出せなくてすまん。」
「お久し振りです、ルゥおば様。いつも父と母がお世話になっております。」
落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ!
素数はいつだって1と自分でしか割れない孤独な数字。
いつだって僕に勇気を与えてくれる!
2、4、6、8、10、12…、しまった!
これは偶数だ!!
「ところで、ロウガ?どうしたんだい?ひどい冷や汗じゃないか?」
「ソ、ソンナコトハナイデゴザイマス、ハイ!」
敬礼をするししょー。
「まぁ、君も男だからね…。私ばかりでは飽きることもあるだろうが…、こんないたいけな少年をこんな場所に引っ張ってくるのは感心しないね。」
「お、俺はお前に飽きたりしないぞ!」
「父上…、サクラを…、私の弟分を悪の道に引き摺り込むのはやめていただきたい。」
僕を庇うようにマイアさんが僕を抱きしめる。
ああ、いい匂い…。
香水…、かな?
「それじゃあ、母上。私は先にサクラを家に送って帰ります。ごめんなさい、ルゥおば様。そういうことですので、この子の分はキャンセルしていただけます?」
「はい、わかりました。マイアちゃん。彼、まだ酔っているようですので、夜道には十分気を付けて帰るのですよ。」
礼儀正しく頭を下げて、マイアさんは僕を引っ張って帰っていく。
「ああ、ほらこんなに飲まされて…。父上、帰ってきたら覚えていろよ。」
「あ、あの、僕…!」
「良いから、サクラは悪くない。悪いのはうちのクソ親父だ。」
可哀想に…、と言って頭を撫でられる。
ごめんなさい…、ししょー。
僕は黙って口を閉じます。
だって…、好きな人に撫でられるって、気持ち良いんですから。
「さて、ロウガ。入ろうか。」
「え、え、ええ!?」
アスティアが俺の袖を引っ張って、娼館の中にズカズカと入る。
「何を驚く。お前は今、私に飽きたりしていない、と言ったばかりじゃないか。ルゥ、一部屋借りるぞ。ご宿泊で。」
「ふふふ、はい♪じゃあ、最上階の宿泊客専用最高級スイートルームを通常料金から、さらに割り引いてタダ同然で貸してあげますね。」
にやり、とアスティアが笑う。
「ロウガ、お仕置きを込めて、今夜は本気で寝かさないからな…!」
「ちょっと、待て!俺、前回みたいに死に掛けるの!?」
「殺しはしないさ。ただ、干乾びてもらう。」
「あ、後でドリンク剤を1ダース持って行ってあげるわね〜♪」
それは…、俺への死刑宣告かよ。
そしてエレベーターへ俺は引き摺られる。
エレベーターが、マジで絞首台の十三階段に見えた。
結局、俺たちが家に帰り着いたのは午前様どころか日暮れ様だった…。
もちろん仕事を無断で休んで干乾びてしまったため、
アヌビスに死ぬ程怒られたのは言うまでもない。
ちなみに…、
ドリンク剤は2ダース飲んだ…。
(ちゃんちゃん)
「ありがっ!!とござまっす!!!お義母ざん!!!!」
サイガとコルトも無事ご両親の了解を得て、晴れて夫婦になった。
もっともサイガはしばらく入院生活が続きそうだけど…。
コルトのお母さんって、コルトにそっくりだな。
それにしても何て恐ろしい技だろう。
僕とサイガの決闘から一週間。
さすがに砕けた骨はまだ治り切っていない。
まだ左腕は三角巾で吊ってるし、右腕だって自分の炎で大火傷だ。
後3日はこのままだろう。
「性欲を持て余す。」
「さすがに入院中だとそうなるよね。」
そんな訳で僕はサイガの見舞いに来ている。
彼の好きなお菓子の詰め合わせも持ってきたが、コルトに全部食べられてしまった。そして食べた本人はつわりがあるのに、無理して食べたおかげでトイレで全部吐きに行っている。
何のために持ってきたのか…。
「まぁな。さすがに看護婦に手を出す程、命知らずじゃないし…。」
「手を出したら、命がないだろうねぇ。」
だってコルトだもん。
「…なあ、サクラ。またいつかやろうや。今度はこんな感じじゃなくて、もっと楽しいんでやろうぜ。」
「…うん!」
「さぁ、次はマイアか…。アイツの強さは俺以上だぞ。何か手があるのか?」
「……僕は真正面から行くよ。そうじゃないと、例え勝っても僕はあの人に一生顔を背けて生きなきゃいけなくなる。」
「面倒な女に惚れたもんだな、お前も。」
頑張れよ、と言ってサイガは笑う。
「僕はそろそろ帰るよ。また今日から学園長にしごかれることになってるから…。」
「…ほんと、怪我人に容赦ないな。あの人。」
「人じゃないよ…、悪魔だよ…。」
じゃあね、と言ってサイガの病室を出る。
まだ僕、腕を吊ってるんだけどなぁ…。
僕は大変な人に恋をしたけど、それ以上に大変な人に目を付けられたんだなぁ…。
――――――――――
「学園長、こんに…。」
「飛燕疾○脚!!!」
ゲシッ、バシッ(2hit
「うげはっ!!」
「暫○拳!!!」
ドガガガガガガガガガガガ(11hit
「あばばばばばばばば。」
「ビルドア○パー!!!」
スパーン(空中追い討ち
「ぐっはぁ!!」
ズダーン(倒
「む、いかん。気力が切れたか…。1の仕様ではこんなものか。」
こんなものか、じゃないよ…。
1の仕様だったら当たり具合によっては今ので死んでるよ!
「が、学園長…。一体何を…!?」
「いやな、何だか俺の知らないところで貶されたような気がしてな。」
…下手なことは言えない。
「ところで、出かけるぞ!」
「え…、今日も特訓だと聞いていたんですが…?」
「特訓だぞ。だから出かけるぞ!」
付いて来い、学園長は家を出る。
「ま、待ってくださいよー!!」
「…と、言う訳で、飲め!!!」
僕の目の前には大ジョッキに並々と注がれたテキーラ。
「とりあえずイッキな?」
「殺す気ですか?」
それに僕、まだ未成年です。
「今日鍛えるのは肝臓だ。酒をガンガン飲んでどんなレバーブローにも耐えろ!」
「用途が違います!!」
学園長の家を出て、やってきたのは居酒屋『フラン軒』。
肝臓の特訓と称して、無理矢理飲まされそうになっている。
「…で、本題は何ですか。」
「…娘がなぁ、最近口を利いてくれないんだよ。」
「マイアさんが?一体何をしたんですか…。」
グイッと学園長は大ジョッキを空にする。
今の…、テキーラだったよね?
「…大したことはしてないはずなんだよ。ただ、この間インプと結婚した八百屋の親父と貧乳談義しているのを聞かれたり、うっかり娘が学校から帰っているのに気が付かなくてアスティアと夫婦の愛情を深めていたり、娘の本棚から小説と間違ってうっかり日記を開いて読んでしまったくらいなんだが、心当たりがあまりない。」
「それは死んで詫びるべきですね。」
ベキッ(殴
「やっぱ娘に頭下げた方が良いかなぁ。」
「…思いっ切り殴っておいて言うことはそれですか!?」
見えなかった…。
「で、マイアさんとアスティアさんはどうしたんですか?」
「ああ、今日は二人で夜まで買い物だ。だからな、たまには男同士、気心の知れた者同士で飲もうと思ってな。えっと、新人君。どぶろく頼む。ところで、今日のおすすめは何かね?」
「カユ、ウマ!」
「なるほど、マタンゴ産キノコの雑炊か。それを一つ、取り皿二つで。」
「カシコマリマッター。」
最近入ったという珍しい男性のゾンビ。
…きっと生前は大変だったろうなぁ。
あんな体格で玉がないなんて…。
それより、よくあれだけで言葉が通じるよ。
「奢りだ、今日は食って飲め。」
「それで自棄酒なんですね。でも僕が言うのも何ですけど、あまりそういうことは口に出さない方が良いと思いますよ?」
「あん?」
学園長はホルモンの串焼きを咥える。
うん、こうして見ると歳相応のおじさんだ。
「前回も僕たち、油断して外でそういうことを口に出したら…、どうなったか覚えていますよね?僕が回復し切れなかったんですよ…。学園長はその後で穴埋めでさらに死に掛けた…、忘れた訳じゃないですよね?」
「……、そうだったな。黙って飲もう。」
「それが良いと思いますよ。」
「オマッセシマッター!」
「ああ、ありがとう。空いたジョッキ、下げてくれ。」
「あ、すみません。僕、冷えた牛乳ください。」
「カシコマリマッター。」
とりあえず、かんぱーい…。
――――――――――
「もう一軒行くぞー!!」
「当ったり前っすよ、ししょー!!」
あー、気分がいい。
僕、牛乳しか飲んでなかったはずなのに、何か酔っ払っちゃったぁ〜。
何だか途中から牛乳の甘さより、刺激的な味だったような気もするな〜。
あはははは、気分いい〜♪
「クックック…、小僧…、いや、サクラ。おめえ、結構イケるクチだな。」
「ししょーほどじゃないれすってば〜。」
「飲んだ、食った!と、くれば次はここしかあるまい!!」
「あれ〜、ここって〜?」
見覚えがある〜…。
ああ、ここって…。
「俺の友人、ルゥ夫婦の営む娼館『テンダー』!!!サクラ、突撃するぞ!!!!」
「で、でも〜。僕、心の準備が〜。それよりマイアさんが好きですし〜。」
「大丈夫!最近、運良くリザードマンをスカウト出来たと聞いておる!!娘の方が数万倍美人だろうが、娘のつもりで予行練習して来い!!!!」
人の話を聞かない人だなぁ〜。
でも…、僕も興味がない訳じゃない。
「学校で堂々と自慰出来たくらいだ!このくらい朝飯前だろ!!」
「堂々としてませんって!」
カラン
「何かしら騒々し…、あら。ロウガさん。」
扉が開いて出てきたのは綺麗なサキュバスのお姉さん。
「おっす!」
「随分とご無沙汰でしたわね。」
「ししょー、この人ししょーの愛人?」
「ふふ、残念だけど違うわ、ボウヤ。私はこのろくでなしさんの奥さんの幼馴染。ただの友達よ。」
うわぁ…、綺麗な人だなぁ。
マイアさんも綺麗だし、アスティアさんも綺麗だけど、別種の綺麗だよ。
「ところで今日はどうしました?またアスティアに追い出されて部屋を借りに来たんですか?」
「クックック…、今日はな、女を買いに来た!」
ズギャン
何だろう。
突然ししょーの後ろにそんな文字が浮かんだような気がした。
「珍しいですね。どうします?もうお店が終わる時間なので、女の子は上がりだしているんですが…。」
「スカウトのパッソールに聞いたんだが、リザードマン入ったんだって?」
「え、ああ、また居酒屋で会ったんですね?そうですよ、運良くスカウトに成功したので今研修期間中なんですよ。…もしかしてロウガさん、浮気?」
「俺じゃない。」
ししょーが僕をネコみたいに服の襟を持って摘まみ上げる。
「こいつ。俺の娘に惚れてるんだがな、悲しいことに童貞なんだ。」
「まぁ、童貞が許されるのは小学生までですからねぇ。それは一大事。」
それは、どこの世界基準だろう。
「そんな訳で、予行演習と思ってな。」
「そういうことでしたら…。あら、アスティアじゃない。」
「「な、何だってぇー!?」」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ(マイア
ドドドドドドドドドド(アスティア
「久し振りだな、ルゥ。最近仕事が忙しくて、なかなか顔を出せなくてすまん。」
「お久し振りです、ルゥおば様。いつも父と母がお世話になっております。」
落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ!
素数はいつだって1と自分でしか割れない孤独な数字。
いつだって僕に勇気を与えてくれる!
2、4、6、8、10、12…、しまった!
これは偶数だ!!
「ところで、ロウガ?どうしたんだい?ひどい冷や汗じゃないか?」
「ソ、ソンナコトハナイデゴザイマス、ハイ!」
敬礼をするししょー。
「まぁ、君も男だからね…。私ばかりでは飽きることもあるだろうが…、こんないたいけな少年をこんな場所に引っ張ってくるのは感心しないね。」
「お、俺はお前に飽きたりしないぞ!」
「父上…、サクラを…、私の弟分を悪の道に引き摺り込むのはやめていただきたい。」
僕を庇うようにマイアさんが僕を抱きしめる。
ああ、いい匂い…。
香水…、かな?
「それじゃあ、母上。私は先にサクラを家に送って帰ります。ごめんなさい、ルゥおば様。そういうことですので、この子の分はキャンセルしていただけます?」
「はい、わかりました。マイアちゃん。彼、まだ酔っているようですので、夜道には十分気を付けて帰るのですよ。」
礼儀正しく頭を下げて、マイアさんは僕を引っ張って帰っていく。
「ああ、ほらこんなに飲まされて…。父上、帰ってきたら覚えていろよ。」
「あ、あの、僕…!」
「良いから、サクラは悪くない。悪いのはうちのクソ親父だ。」
可哀想に…、と言って頭を撫でられる。
ごめんなさい…、ししょー。
僕は黙って口を閉じます。
だって…、好きな人に撫でられるって、気持ち良いんですから。
「さて、ロウガ。入ろうか。」
「え、え、ええ!?」
アスティアが俺の袖を引っ張って、娼館の中にズカズカと入る。
「何を驚く。お前は今、私に飽きたりしていない、と言ったばかりじゃないか。ルゥ、一部屋借りるぞ。ご宿泊で。」
「ふふふ、はい♪じゃあ、最上階の宿泊客専用最高級スイートルームを通常料金から、さらに割り引いてタダ同然で貸してあげますね。」
にやり、とアスティアが笑う。
「ロウガ、お仕置きを込めて、今夜は本気で寝かさないからな…!」
「ちょっと、待て!俺、前回みたいに死に掛けるの!?」
「殺しはしないさ。ただ、干乾びてもらう。」
「あ、後でドリンク剤を1ダース持って行ってあげるわね〜♪」
それは…、俺への死刑宣告かよ。
そしてエレベーターへ俺は引き摺られる。
エレベーターが、マジで絞首台の十三階段に見えた。
結局、俺たちが家に帰り着いたのは午前様どころか日暮れ様だった…。
もちろん仕事を無断で休んで干乾びてしまったため、
アヌビスに死ぬ程怒られたのは言うまでもない。
ちなみに…、
ドリンク剤は2ダース飲んだ…。
(ちゃんちゃん)
10/10/27 00:12更新 / 宿利京祐
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