スネークウーマン・ショー その2
ep・1 魔界の男子校の悲劇
魔界にも学校はある。
幼稚園から小学校、中学校、高等学校、大学までキッチリ存在し、人間と魔物娘の間に争いごとが起こらぬように、お互いのことをしっかり理解するために創設されており、もちろん基本的に男女共学である。
しかし、何事にも例外が存在する。
魔界に一校だけ、小中高一貫性の男子校が存在するのである。
魔界に男子校が?と疑問に思うこともあるだろう。
むしろその存在自体が怪しいものだが、それは魔王城のすぐそばにあり、なんとかのデルエラ王女誕生を記念して創立された由緒ある男子校なのである。
いやマジで。
教師(サキュバス)
「えー、それでは本日は性行実習を行う」
教壇で弁を取る白衣姿の教師(サキュバス)が教科書を片手にやる気のない声で授業を進めていく。教室の中の生徒たちは全員男子生徒。その目は真剣に……否、鬼気迫るほど血走って食い入るように、気だるそうな教師の姿を凝視している。
教師(サキュバス)
「んじゃ、教科書の33ページを開いて…」
男子生徒(青木)
「はいっ、先生!!」
教師の言葉を遮るように男子生徒の一人が手を挙げた。
もう辛抱たまらん、と目が叫んでいる。
教師(サキュバス)
「何だ、青木。先生の授業の邪魔すると……ブチのめすぞ?」
サキュバスのクセに随分と物騒な教師である。
ブチのめすと言いながら、メリケンサックを鳴れた手付きで右手に装着するサキュバスに、手を挙げた生徒(青木)はビビる様子もなく、むしろブチのめされた方がマシだと言わんばかりに教師を無視して喋り続けた。
男子生徒(青木)
「実習実習って、もう耐えられません!!」
教師(サキュバス)
「あんだよ、せっかくアタシら魔物が気持ち良いセックス教えてやろうってのに……あ、そうか。お前、さてはゲイだな。女の身体より男の身体の方が良いってか?このケダモノめッ!」
男子生徒(青木)
「何その理論!?何を言ってるのかわからないよ先生。俺はゲイじゃありません。信じてくださ………ってお前らまで信じるなよ!!俺はBLには興味がないって、信じてくれよぉぉ……ってそういうこと言いたいんじゃないんですってば。」
急に浮上した青木ゲイ疑惑に、ガタガタと机が移動されていく。
完全に孤立した青木だったが、気分はたった一人の最終決戦。
これを言わねばならない、という使命感が彼を奮い立たせた。
男子生徒(青木)
「いい加減に、ダッチワイフじゃなくて、生身の女の人と犯りたいんです!!」
教師(サキュバス)
「却下」(即答)
男子生徒(青木)
「もう俺たちの欲求不満は限界です!他の学校じゃ不純異性交遊が推奨されてるってのに、何で俺たちだけが強制的に男子寮に入れられて、こうして貞操帯付けられて自慰も出来ずに毎日を悶々として暮らさなきゃならんのですか!!!せめて“エロ魔物娘”って冠が付いてるんだから、先生が俺たちの相手してくださいよッッ!!」
教師(サキュバス)
「ハッ……誰がお前らみたいなケツの青いガキなんかと。アタシは“女教師”って響きがエロいから教師やっているだけであって、男なら誰でも良いって訳でもないんだよ。残念だったな、童貞ども」
男子生徒(青木)
「チクショォォォォォォォォーーーーーーッ!!!!」
青少年の魂の叫びであった。
毎日毎日、刺激的な魔物娘の教師陣をその目に焼き付けながら、自慰することすら許されず、劣悪な寿司詰め状態の男子寮の部屋で悶々と暮らしている生徒たちの唯一のガス抜きは、極上の美女に見守られながらのダッチワイフ相手にセックスの実習の時間だけである。
ちなみに誰も同性愛に走らなかった要因は、そういう特性がありそう、もしくは芽生え出したのを教師たちがいち早く察知し、その手の生徒は“特別アルプ学級”へと送られて、立派な魔物娘に転生するためである。
つまり残りカス、ゲフンゲフン……選抜された男子生徒たちこそ、『エリートの雄』なのである。
あまり嬉しい表現ではないが……。
しかもこのダッチワイフ。
近年の造形技術の向上により、まるで人間のようなシリコン素材の一般的に“ラブドール"と呼ばれているような代物ではなく、とても昭和の香りがプンプンするようなビニール風船にオナホを突っ込んだだけという、魔界とは思えないほどの粗悪品である。
これでは生徒たちも浮かばれまい。
教師(サキュバス)
「それにしても失礼なヤツだな、青木。良いか、お前たちを気持ち良くしてくれるこのダッチワイフ、六代目さとみちゃんはだな、お前たちより15代前の先輩からずっと受け継がれてきた、云わば歴戦のポルノヒロインなんだぞ。このさとみちゃんに性技を習得した先輩たちこそ、今現在魔王軍の中核を成す勇者部隊にいる。その先輩との絆を感じないか?いや、感じるはずだ……な、青木!」
男子生徒(青木)
「感じたくねえしッ!だいたいダッチワイフで15代分の先輩たちと穴兄弟とか、どんな新手のイジメだよチクショウ!!」
教師(サキュバス)
「だって仕方ねえじゃん?魔王様の決めた法律で、うちの生徒は純度100%の童貞であるべしッ!って言ってんだしさ。怨むんなら低偏差値な上に魔界なら人外の女の子とラブラブ出来るじゃんラッキー♪とか安易に考えて、何も考えないでうちの学校選んだ自分の馬鹿さ加減を怨むんだなッ!」
男子生徒(青木)
「早く卒業してぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッ!!!!」
そう、この男子校は“学校”とは名ばかりであり、実際は純度が高く、常に欲求不満の男子を育成する目的で作られた、云わば“人間牧場”なのである。ここで育った男子生徒は徹底的な管理飼育の下、女性へのマナー、日常の礼儀作法、頑丈で壊れない肉体と精神を徹底的に鍛え上げられ、魔王軍近衛兵ですら満足する最高級の松(わん♪)牛に匹敵する“美食”として成長する。
実は魔界に暮らす魔物娘たちにとっては、彼ら男子校の生徒たちは、アイドル的な意味で手の届かない憧れの存在なのだが、本人たちはわざわざ魔法を使ってまで閉鎖された空間で生きているため、自分がモテていることには一切気が付いていないし、完璧に情報がブロックされているので気付く要素もない。
マ ジ 不 憫 www
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 2・クロビネガ的には正しいドラクエB
柴犬
「勇者さま、勇者さま」
Aボタンを連打していると、勇者はうっかりモブキャラっぽい柴犬に話し掛けてしまった。
しまった……と思ったのは後の祭りであり、周囲から“何あの変な人”とか“友達いないのかしらね、きも〜い”とかヒソヒソと囁かれてはいないか、と勇者は周囲を警戒したのだが、さすが御都合主義のRPG世界である。
こんな風に大真面目に犬に話し掛けて、しかも犬があり得ないほど流暢に人間の言葉を喋っているというのにも関わらず、誰一人関心を抱かずにスタスタと歩き続けている。
奇跡的に勇者の世間体は守られたのである。
柴犬
「こんな格好でごめんなさい。実は私は今でこそ可愛い柴犬ですが、本当の姿は美しい王女なのです。悪い魔王に呪いを掛けられてしまい、こんな犬の姿にされてしまいました。勇者さまがこの町にいらしたのも天のお導きでしょう♪」
勇者
「いや……俺はそういうつもりでこの町に訪れた訳じゃないんだが…」(ぼそぼそ)
勇者がこの町にやって来た理由はただ一つ。
回復アイテムである“薬草”がなくなったためである。
この町に来るまでダメージを負ったらそのへんに生えている雑草にマヨネーズと醤油を掛けて食って、空腹とダメージを紛らわせていたのだが、ついに耐え切れなくなり、魔物娘ではないモンスターを一方的に虐殺して金を作って、町に買い物に来たのであった。
こいつ、マジ外道。
柴犬
「イベントアイテムの“真実の鏡”を使えば私も人間の姿に戻れるのですが…」
勇者
「…それはそれとして、人間のあんたが美しい王女だったと証明出来るものはあるか?」
柴犬
「えっ…………えっと、呪われる1時間前に撮ったプリクラで良ければ…」
勇者
「………結構余裕あったんだな」
そう言いながら柴犬から受け取ったプリクラを見てみると、そこにはドラクエで有名な(わん♪)山明的な少々バタ臭い感じはあったものの、巻き髪フワフワの垂れ目のおっとりした美人が映っていた。
勇者
「………んで、あんたの歳は?」
柴犬
「あの………じゅ……19歳です…」
勇者は拳を握って小さくガッツポーズをした。
彼は現在15歳。
どうやら年上のお姉さんはストライクだったようだ。
勇者
「さっきモンスターを虐殺していた時に、鏡を手に入れたのだが…」
柴犬
「そ、それです!それこそがイベントアイテム“真実の鏡”ですよ!!」
嬉しそうに尻尾を振りながら勇者の周りを走り回る柴犬。
しかし勇者は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
この鏡をイベントアイテムと思わないで、道具屋に売り飛ばそうとしたところ『これをうるなんて とんでもない』という決まり文句を言われて、ムカついたので道具屋の店主にフランケン・シュタイナーをかましてきたばかり。
ついさっきの話である。
勇者
「じゃあ、これであんたを映せば人の姿に戻るんだな?」
柴犬
「はい、お願いします」
勇者はプリクラと目の前の柴犬を見比べていた。
精神統一するように目を閉じると、売り飛ばせなかったイベントアイテム“真実の鏡”を道具入れ代わりに使用しているズボンのチャックから取り出した。
柴犬がその光景に嫌な表情を浮かべるが勇者は知ったことではない。
例えイベントアイテムであろうとも、価値を知らないものにとってはゴミなのだから。
そして、勇者は“真実の鏡”を中途半端に使った。
柴犬
「ふえっ!?ふぇぇぇぇーッ!?」
勇者
「よっしゃ、思った通りに決まったぜ!!!」
柴犬は中途半端に戻されて、人間ではなくアヌビスになった。
あまりの可愛らしさに、勇者は喜びのあまり真実の鏡を叩き割った。
柴犬改めアヌビス
「ちょ、なんてことしてくれたんですかー!!」
勇者
「ごめん、俺………実は魔物娘しか愛せない変態で…」
アヌビス
「そういうこと言ってるんじゃなくて、私王女なのにこんな姿じゃ国に帰れない……いや、帰れないどころか退治されちゃうじゃないですか!……って、勇者さま。何をなさっているんですか?」
勇者
「いや、魅力的な肉球をね、プニプニと…」
その後、勇者はアヌビスと化した可愛い年上のお姉さんに正座で怒られた。
もっとも勇者としたら、ストライクゾーンど真ん中の年上の魔物娘のお姉さんに叱られるというご褒美をいただいているつもりなので、正座で怒られていても興奮してハァハァしている始末である。
わざとわかるようにズボンの中でパンパンに勃起して、それを見付かって怒られても彼にとっては“公開羞恥お仕置きプレイ”の一環でしかなく、15歳ながらも恐ろしいほどのスケベな才覚の片鱗を覗かせていた。
勇者の女王さま が 仲間になった
アヌビス
「ちょ、私は女王さまになる気はありませんってばッッ!!!」
勇者
「ハァ……ハァ……じょ、女王さま…!女王さまのあまりのいやらしさと美しさに、街中で人目もはばからずバキバキに勃起してしまう、哀れなわたくしめに何卒、何卒きつい責め苦をお与えくださいませ…!」
アヌビス
「いやあああああああああああああああーーーーーーーーッ!!!!!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 3・モンハンのちょっと良い話
カチカチ……カチカチカチ…
男
「リオレウス、そっち行ったぞ」
ワイバーン
「わかってるって………よし、翼破壊成功…」
今日は世間一般で言うところの休日である。
しかも連休ということもあり、付けっ放しのテレビからは各地の行楽地のニュースが流れているのだが、それなのに良い歳したこの若いカップルは、休日だと言うのに、どこへも行かずに連休中はずっとモンスターハンターをプレイしていた。
連休中、彼女であるワイバーンも彼氏の部屋に泊まり込んでいたのだが、二人とも先日発売されたばかりの新作に心が行ってしまい、恋人らしい夜の営みすら皆無であった。
まあ、このゲーム………面白いから仕方がない。
男
「相変わらず逆鱗とか出ねえよな、こいつ」
ワイバーン
「………ごめん、昨日3つ出た」
男
「マ ジ で !?」
会話にも恋人らしさは感じられない。
それどころか食事も出前だったり、コンビニ弁当だったりと色気がない。
駄目なオタクの巣窟。
その言葉以外に当てはまるものが見当たらない。
ワイバーン
「それにしても、こうして顔合わせるのも久しぶりだね」
男
「そういや3ヶ月ぶり?ここのとこ俺も残業で忙しかったし…」
ワイバーン
「こまめに連絡してくれたのは嬉しかったけど、無理してなかった?」
男
「無茶はしたけど、無理はしてない。大丈夫、問題ないよ」
ワイバーン
「なら………良いけどさ…」
ちょっと痩せたね、とワイバーンは呟いた。
無茶も無理もしているような痩せ方だったが、敢えて彼女はそこを言わなかった。
無茶も無理も愚痴一つ言わずにこなす彼のことが好きだったから。
ちょっと彼氏、体育館裏に来いや?
男
「まあ………ろくなもの食ってなかったから痩せたかもな。ああ、そうだ。俺も逆鱗狙いなんで、今回捕獲しても良い?招きネコの激運発動してるから、今日こそはゲット出来そうなんだわ」
ワイバーン
「うん、良いよ。私も逆鱗は欲しいし、いくつあっても足りないし」
男
「…………じゃあ、罠置くよ」
ワイバーン
「ちょ、タイミングおかしいって。まだクエスト始まったばかりだからレウス全然弱ってないし、部位破壊も翼だけじゃんよぅ♪」
男
「いいや、『限界』だ。……置くね」
コトッ
ワイバーン
「………え、何、この箱?」
男
「…………開けてみて」
ワイバーン
「あ……………………ネックレス……?」
男
「指輪も腕輪もお前のサイズがなかったからネックレスにした。お前がこれを首に下げてくれたなら、俺の3ヶ月に渡るクエストも無事成功。明日にでもお前の両親に挨拶に行って、役所にクエスト達成報告書を提出して終了だッ!」
ワイバーン
「えっと………その……つまり…………」
二人のプレイキャラは、気が付けばリオレウスにボコボコにされてキャンプ送りになっていた。そしてそのまま時間は流れて、制限時間を迎えてしまったがために『クエスト失敗』の文字が無常にも二人の3DSの液晶画面に浮かび上がる。
その後もゲームは放置されたまま、電池がなくなって3DSは強制終了。
メインターゲットの捕獲に成功しました
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 4・雷鳥夫妻の1コマ
その日、俺は仕事が終わるとスキップして家路に着いた。
明日から3連休という金曜日の夜。
俺は魔物娘との新婚なのだから、3連休とは言え休日の過ごし方はもう決まったようなものなのだが、美しくキュートな妻と密着したまま3日間も過ごせるのだ。鼻歌の一つも出ない方が、どうかしていると思う。
マジで。
俺の奥さんはジンオウガもといサンダーバードだ。
どうもあの配色を見るとついつい間違えてしまうのだが、一度だけ彼女の目の前で『ジンオウガ』と口走ってしまったところ、言わなければ良かったと死ぬほど後悔するぐらい殴られ蹴り飛ばされ、終いにはギガデイン……いやギガ・ブレイクみたいな雷撃を落とされた。
よく死ななかったものだと、我ながら感心する。
丈夫に生んでくれた両親に感謝だな、うん。
今夜はスタミナたっぷりの手料理と、気分を変えてコスプレで仕事で疲れた俺を迎えてくれる……と妻は張り切っていたのだが、俺には拭い切れない不安が仕事中も胸の中で渦巻いていた。
何故なら、先日もコスプレをして夜の営みに挑もうとしたのだが、妻が俺のためにしてくれたコスプレは、どこで売っていたのか本当に問い詰めたいのだが、あろうことかフルフルの着ぐるみパジャマだったのだ。
本当にどこで売っていたんだ。
近所の“ドンキ暴帝”か?
それとも、安心の“むらむらファッション”か?
まあ、日々の労働で疲れていたのもあったし、ふかふかしてて抱いてると気持ち良かったから、着ぐるみパジャマを着た妻を抱いたまま、いつもよりも深い眠りに就けたのはありがたかった訳だったりするのだが…。
………っと、そんなことを考えていたら、もう家に帰り着いた。
やはり愛する妻が待っていると思うと、人間は時間も空間も超越出来るようだな。
夫(サラリマン)
「たっだいま〜!」
妻(サンダーバード)
「おかえり〜♪」
台所から飛んできた妻を見て、俺は血の気が引いた。
ええ、そりゃもう全身から『ザザザザザザザ…!』って聞こえるくらい引いたね。
台所から現れた妻はコスプレをしていた。
虎柄のビキニ、虎柄のブラ、そして頭の上にちょんと乗った鬼の角
しかも彼女の地毛は青だ。
やばい、やばい、やばいぞ。
これはもしかしなくてもアレだよな?
いくら何でも他の作家さんだって思い付いたけど、いざやろうとしたら安易過ぎて恥ずかしいからやめるようなあのキャラのコスプレを、俺の可愛い可愛い奥さんがやるはずがない。
だが目の前のコスプレはどう見たってあのキャラだ。
俺は『真実』を見ているのか……いや、俺は今、何かの『間違い』を見ていr
妻(サンダーバード)
「ダーリン、玄関で何ボサッと突っ立ってるっちゃ?」
夫(サラリマン)
「返せ、俺の葛藤を返せー!!」
ラムちゃんじゃねえかよ!!
もう良いよ、ここまで来たら言うしかないだろ!?
大事なことなのでもう一度……ラムちゃんじゃねえかよ!!
妻(サンダーバード)
「ウチ、似合わないっちゃ?」
夫(サラリマン)
「いや、似合ってるんだけどね…」
うちの奥さん、実物のラムちゃんに比べたら胸はペタンコなのよね。
だがそのペタンコ具合がまた色気を誘うというか何というか、グラマラスな女性にはない、ちょっと背徳的なエッセンスを含んでいるのが扇情的で素敵ですごく良いというか何というかね、まあそんな感じなのだわさ……えへへ…♪
妻(サンダーバード)
「似合ってる?んふふ〜、ウチ嬉しいっちゃ〜♪」
夫(サラリマン)
「ああ、似合ってるよ。ところで良い匂いだね。俺、もうお腹減っちゃったよ」
妻(サンダーバード)
「ところで、ダーリン♪」
夫(サラリマン)
「うん、どうした?」
妻(サンダーバード)
「ウチ、ダーリンに言ったっちゃね?」
浮気したら殺すって
周囲の温度が一瞬で氷点下になった気がした。
妻から発せられる何とも言えない黒い波動に、俺は思わず身動き一つ取れなくなった。
訳がわからない。
浮気?いったい何のことなんだ?
身に覚えがない…ッ!
俺が戸惑っていると、妻は一枚の紙を取り出した。
一瞬『離婚届かッ!?』身構えてしまったが、よく見るとそれは俺のクレジットカードの請求書だった。クレジットカードの請求書などの管理は妻に任せているので、彼女が封書を開けても何の問題もない。
それに俺のカードの使用履歴は健全だッ!!
これだけは自信を持って言える。
妻(サンダーバード)
「………この、“○月×日 マモゲー/30000円”って何だっちゃ?」
夫(サラリマン)
「そ、それは……ッ!!!」
マモゲーとは、俺が携帯電話でプレイしているソーシャルゲームの会社だ。
その中で俺は『アイドルモンスター・ヤンデレラガール』という魔物娘をアイドルとしてプロデュースするゲームをプレイしており、俺の部屋にはそれ関連のフィギュアやグッズが綺麗に整頓されている。
30000円というのも、そのアイドルモンスター内で使った課金ガチャの金額だ。
つい一番お気に入りのアイドルの期間限定ガチャがあったので、社会人の経済力をフル活用して、課金ガチャを回し続けた結果、運良くお目当てのアイドルを2枚ゲット出来たので、無事にSR+に進化させてあげることが出来たので内心ホクホクしていた訳である。
ちなみに、妻も同じゲームをしている無課金プレイヤーだ。
妻(サンダーバード)
「……ウチの記憶が確かなら、確かこの時期の限定ガチャには鳥系SRアイドルはいなかったはずだっちゃ。ダーリン、いったいどの娘が目当てでガチャを回したっちゃ?」
夫(サラリマン)
「………ハ、ハーピーの久遠寺さん(スク水ver)を」
バチィッ……バチバチバチッ…
妻(サンダーバード)
「へぇぇ……ダーリンは普通に出回ってるレア・モンスター目当てに3万円も注ぎ込む大馬鹿野郎だったっちゃ?……ダーリン、ダーリンの頬っぺた嘗めてみようか?たぶん、嘘を吐いている味がするはずだっちゃ」
駄目だ、誤魔化せない…ッ!
純粋なる無課金兵だというのに、何故こんなにガチャを把握してるんだ…ッ!?
正直に言うべきか……否、正直に言うべきだ。
それが俺の……俺の妻への愛情なのだから…ッ!!
夫(サラリマン)
「………えっと、その…」
妻(サンダーバード)
「………………………」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ
夫(サラリマン)
「………【深淵の宴】ヤーナ」
そう言って、意を決した俺は携帯の待ち受け画面を妻に見せた。このSRアイドルを手に入れた嬉しさのあまり、画像を保存して待ち受け画面に設定しておいたのである。
ちなみに【深淵の宴】ヤーナとは、今までザコレア・アイドルだったキャラだったのだが、今回このアイドルモンスター稼動以来、初めてSR化したアイドルモンスターであり、ザコレアではあったものの、密かにお気に入りとしていた愛着あるキャラである。
そして種族は“アポピス”。
巨乳で挑発的で一応全年齢向けゲームなのに限りなくアウトに近いセーフなエロいイラストだし、何より本来はファラオの天敵だが鳥である妻の天敵とも言える蛇のアイドルだ。
……………………うん、俺……生き残る要素が見当たらない。
妻(サンダーバード)
「ダーリンの浮気者ぉぉぉぉぉぉぉーーーーーッ!!!」
その夜、町内は真っ白な光に包まれた
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 5・ほんとうにあった怖い魔物娘
投稿者 熊本県在住/沢木 麻衣菜さん(17歳)
私は17歳の稲荷です。
こうして投稿している間も、目の前で起こった出来事が実際に起こった出来事だったのか、今でも信じられずにいます。作り話と受け取られてしまっても構いません。
どうか私の話を聞いてください。
あれは八月の終わり頃の夕方のことでした。
母に頼まれてお隣の家に住むウシオニの大倉さん(仮名)のお宅に、母の友人であるケンタウロスの方からいただいた馬肉をお裾分けに行ったのです。うちは田舎ですので、お隣とは言っても歩いて5分ほど掛かる家なので、どんどん暗くなっていく道を不安になりながら歩いていました。
我が家は少し特別な家庭で、この現代社会でも先祖代々家を継ぐ男は稲荷と人間を妻に娶るしきたりがあるので、私には5つ年上の兄と2つ年下の弟がいます。
兄は社会人として人生経験を積むために家を出てしまっているので、家でゴロゴロしている暇そうな弟でも一緒に連れて来ていれば、きっとあんな怖い思いもしなかったのではないか……と今となってはとても遅い後悔をしています。
暗くなる前に帰らなきゃ……と思っていると、自然と足は早足になっていました。
夜の闇が襲ってくる夕暮れ時、私は馬肉を抱えて大倉さんの家まで走りました。
大倉さんの家の明かり。
私は安堵して走るのをやめると、息を整えて大倉さんの家のインターホンを鳴らしました。
ピンポーン
静かな田舎町に響き渡るような電子音の呼び鈴。
しかし大倉さんが出てくる様子はありません。
留守だろうか……と途方に暮れていると、私は大倉さんの家のリビングの窓から明かりが漏れているのに気が付きました。明かりは閉められたカーテンの隙間から漏れているらしく、耳を澄ませば何やら音も聞こえてきます。
なんだ、大倉さんってば、いるじゃん
と、私は気楽に考えていました。
大倉さんは実にウシオニらしい方で、昼間からお酒を飲んでは、そのまま酔っ払って眠り続けたり、どこかから男女ともに連れ込んでは何日も乱痴気騒ぎをしていたりと、掴み所のない豪放磊落でさっぱりとした性格をした気の良いお姉さんでした。
きっと今の呼び鈴も寝てて気が付かなかったんだな、と思った私は入り口の柵を勝手に開けて、窓から大倉さんを呼ぼうと庭を移動しました。
今思えば、何と軽率だったことか。
明かりの漏れている窓に近付いてみると、何やら音楽が聞こえていました。
この時間に音楽番組とかやっていたかしら、と思っていたのですが、兄の影響でヴィジュアル系バンドが出ない限り音楽番組を見ない私には、考えても考えても答えが出ませんでした。
テレビを付けっ放しとかしょうがないな、と思ってカーテンの隙間から部屋の中を覗いたのですが、その部屋の中で繰り広げられている身の毛もよだつようなおぞましい光景に、私は目を見開いたまま金縛りに遭ってしまいました。
信じられるでしょうか………
大倉さんが………あのウシオニの大倉さんが………
フリフリのレースやリボンがいっぱいのゴスロリを着て…
しかも彼女にもっとも似合わないと思われる
白とピンクの清純な薔薇をイメージしたようなゴスロリを着て
アイドルDVD見ながら、可愛らしいダンスを踊っているなんて……ッ
腰をふりふりさせながら、キラキラした笑顔で歌って踊るウシオニ。
テレビの中のゴスロリ衣装のアイドルの振り付けを完全コピーしながら、普段からは想像も出来ないようなアニメ声でハイテンションで歌うウシオニの大倉さんに、私は言い知れぬ旋律と恐怖を覚えていました。
彼女に気付かれないように、上げそうになった悲鳴をグッと飲み込むのがやっとでした。
リビング・アイドル
そんな言葉が脳内を駆け巡っていました。
私は見てはいけない悪夢を見てしまったのです。
私は物音を立てないようにして、彼女に気付かれないようにその場を立ち去りました。そしてそのまま来た道を、行きと同じように我が家まで走り続けました。少しでも早く、あのおぞましい場所から離れたかったのです。
しかし家に帰り着いても恐怖はなくなりませんでした。
目を閉じれば、あのゴスロリ姿で踊る大倉さんが現れるのです。
私は、あのおぞましい光景を二度と忘れることはないでしょう。
そしてあのどこから出ているのかわからないアニメ声で言った
ウシオニ(大倉さん)
「みんな〜、きょうはぁ〜、みゆりんのライブにきてくれてありがと〜♪キラッ☆」
あの呪詛をきっと忘れないでしょう。
見なければ良かった世界…………それは、意外なところに落ちているのかもしれません。
あ……………馬肉、どこかに置いてきちゃった。
追記
母の尻尾でモフモフしてもらって、ようやくトラウマは晴れそうです。
ところで先日、差出人不明の小包が届きました。
中には“MALICE MIZER”と“Moi dis Mois”のDVDセットが入っていました。
………ゴスロリ系のビジュアル系バンドだけど
まさか…………ね…?
魔界にも学校はある。
幼稚園から小学校、中学校、高等学校、大学までキッチリ存在し、人間と魔物娘の間に争いごとが起こらぬように、お互いのことをしっかり理解するために創設されており、もちろん基本的に男女共学である。
しかし、何事にも例外が存在する。
魔界に一校だけ、小中高一貫性の男子校が存在するのである。
魔界に男子校が?と疑問に思うこともあるだろう。
むしろその存在自体が怪しいものだが、それは魔王城のすぐそばにあり、なんとかのデルエラ王女誕生を記念して創立された由緒ある男子校なのである。
いやマジで。
教師(サキュバス)
「えー、それでは本日は性行実習を行う」
教壇で弁を取る白衣姿の教師(サキュバス)が教科書を片手にやる気のない声で授業を進めていく。教室の中の生徒たちは全員男子生徒。その目は真剣に……否、鬼気迫るほど血走って食い入るように、気だるそうな教師の姿を凝視している。
教師(サキュバス)
「んじゃ、教科書の33ページを開いて…」
男子生徒(青木)
「はいっ、先生!!」
教師の言葉を遮るように男子生徒の一人が手を挙げた。
もう辛抱たまらん、と目が叫んでいる。
教師(サキュバス)
「何だ、青木。先生の授業の邪魔すると……ブチのめすぞ?」
サキュバスのクセに随分と物騒な教師である。
ブチのめすと言いながら、メリケンサックを鳴れた手付きで右手に装着するサキュバスに、手を挙げた生徒(青木)はビビる様子もなく、むしろブチのめされた方がマシだと言わんばかりに教師を無視して喋り続けた。
男子生徒(青木)
「実習実習って、もう耐えられません!!」
教師(サキュバス)
「あんだよ、せっかくアタシら魔物が気持ち良いセックス教えてやろうってのに……あ、そうか。お前、さてはゲイだな。女の身体より男の身体の方が良いってか?このケダモノめッ!」
男子生徒(青木)
「何その理論!?何を言ってるのかわからないよ先生。俺はゲイじゃありません。信じてくださ………ってお前らまで信じるなよ!!俺はBLには興味がないって、信じてくれよぉぉ……ってそういうこと言いたいんじゃないんですってば。」
急に浮上した青木ゲイ疑惑に、ガタガタと机が移動されていく。
完全に孤立した青木だったが、気分はたった一人の最終決戦。
これを言わねばならない、という使命感が彼を奮い立たせた。
男子生徒(青木)
「いい加減に、ダッチワイフじゃなくて、生身の女の人と犯りたいんです!!」
教師(サキュバス)
「却下」(即答)
男子生徒(青木)
「もう俺たちの欲求不満は限界です!他の学校じゃ不純異性交遊が推奨されてるってのに、何で俺たちだけが強制的に男子寮に入れられて、こうして貞操帯付けられて自慰も出来ずに毎日を悶々として暮らさなきゃならんのですか!!!せめて“エロ魔物娘”って冠が付いてるんだから、先生が俺たちの相手してくださいよッッ!!」
教師(サキュバス)
「ハッ……誰がお前らみたいなケツの青いガキなんかと。アタシは“女教師”って響きがエロいから教師やっているだけであって、男なら誰でも良いって訳でもないんだよ。残念だったな、童貞ども」
男子生徒(青木)
「チクショォォォォォォォォーーーーーーッ!!!!」
青少年の魂の叫びであった。
毎日毎日、刺激的な魔物娘の教師陣をその目に焼き付けながら、自慰することすら許されず、劣悪な寿司詰め状態の男子寮の部屋で悶々と暮らしている生徒たちの唯一のガス抜きは、極上の美女に見守られながらのダッチワイフ相手にセックスの実習の時間だけである。
ちなみに誰も同性愛に走らなかった要因は、そういう特性がありそう、もしくは芽生え出したのを教師たちがいち早く察知し、その手の生徒は“特別アルプ学級”へと送られて、立派な魔物娘に転生するためである。
つまり残りカス、ゲフンゲフン……選抜された男子生徒たちこそ、『エリートの雄』なのである。
あまり嬉しい表現ではないが……。
しかもこのダッチワイフ。
近年の造形技術の向上により、まるで人間のようなシリコン素材の一般的に“ラブドール"と呼ばれているような代物ではなく、とても昭和の香りがプンプンするようなビニール風船にオナホを突っ込んだだけという、魔界とは思えないほどの粗悪品である。
これでは生徒たちも浮かばれまい。
教師(サキュバス)
「それにしても失礼なヤツだな、青木。良いか、お前たちを気持ち良くしてくれるこのダッチワイフ、六代目さとみちゃんはだな、お前たちより15代前の先輩からずっと受け継がれてきた、云わば歴戦のポルノヒロインなんだぞ。このさとみちゃんに性技を習得した先輩たちこそ、今現在魔王軍の中核を成す勇者部隊にいる。その先輩との絆を感じないか?いや、感じるはずだ……な、青木!」
男子生徒(青木)
「感じたくねえしッ!だいたいダッチワイフで15代分の先輩たちと穴兄弟とか、どんな新手のイジメだよチクショウ!!」
教師(サキュバス)
「だって仕方ねえじゃん?魔王様の決めた法律で、うちの生徒は純度100%の童貞であるべしッ!って言ってんだしさ。怨むんなら低偏差値な上に魔界なら人外の女の子とラブラブ出来るじゃんラッキー♪とか安易に考えて、何も考えないでうちの学校選んだ自分の馬鹿さ加減を怨むんだなッ!」
男子生徒(青木)
「早く卒業してぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーッ!!!!」
そう、この男子校は“学校”とは名ばかりであり、実際は純度が高く、常に欲求不満の男子を育成する目的で作られた、云わば“人間牧場”なのである。ここで育った男子生徒は徹底的な管理飼育の下、女性へのマナー、日常の礼儀作法、頑丈で壊れない肉体と精神を徹底的に鍛え上げられ、魔王軍近衛兵ですら満足する最高級の松(わん♪)牛に匹敵する“美食”として成長する。
実は魔界に暮らす魔物娘たちにとっては、彼ら男子校の生徒たちは、アイドル的な意味で手の届かない憧れの存在なのだが、本人たちはわざわざ魔法を使ってまで閉鎖された空間で生きているため、自分がモテていることには一切気が付いていないし、完璧に情報がブロックされているので気付く要素もない。
マ ジ 不 憫 www
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 2・クロビネガ的には正しいドラクエB
柴犬
「勇者さま、勇者さま」
Aボタンを連打していると、勇者はうっかりモブキャラっぽい柴犬に話し掛けてしまった。
しまった……と思ったのは後の祭りであり、周囲から“何あの変な人”とか“友達いないのかしらね、きも〜い”とかヒソヒソと囁かれてはいないか、と勇者は周囲を警戒したのだが、さすが御都合主義のRPG世界である。
こんな風に大真面目に犬に話し掛けて、しかも犬があり得ないほど流暢に人間の言葉を喋っているというのにも関わらず、誰一人関心を抱かずにスタスタと歩き続けている。
奇跡的に勇者の世間体は守られたのである。
柴犬
「こんな格好でごめんなさい。実は私は今でこそ可愛い柴犬ですが、本当の姿は美しい王女なのです。悪い魔王に呪いを掛けられてしまい、こんな犬の姿にされてしまいました。勇者さまがこの町にいらしたのも天のお導きでしょう♪」
勇者
「いや……俺はそういうつもりでこの町に訪れた訳じゃないんだが…」(ぼそぼそ)
勇者がこの町にやって来た理由はただ一つ。
回復アイテムである“薬草”がなくなったためである。
この町に来るまでダメージを負ったらそのへんに生えている雑草にマヨネーズと醤油を掛けて食って、空腹とダメージを紛らわせていたのだが、ついに耐え切れなくなり、魔物娘ではないモンスターを一方的に虐殺して金を作って、町に買い物に来たのであった。
こいつ、マジ外道。
柴犬
「イベントアイテムの“真実の鏡”を使えば私も人間の姿に戻れるのですが…」
勇者
「…それはそれとして、人間のあんたが美しい王女だったと証明出来るものはあるか?」
柴犬
「えっ…………えっと、呪われる1時間前に撮ったプリクラで良ければ…」
勇者
「………結構余裕あったんだな」
そう言いながら柴犬から受け取ったプリクラを見てみると、そこにはドラクエで有名な(わん♪)山明的な少々バタ臭い感じはあったものの、巻き髪フワフワの垂れ目のおっとりした美人が映っていた。
勇者
「………んで、あんたの歳は?」
柴犬
「あの………じゅ……19歳です…」
勇者は拳を握って小さくガッツポーズをした。
彼は現在15歳。
どうやら年上のお姉さんはストライクだったようだ。
勇者
「さっきモンスターを虐殺していた時に、鏡を手に入れたのだが…」
柴犬
「そ、それです!それこそがイベントアイテム“真実の鏡”ですよ!!」
嬉しそうに尻尾を振りながら勇者の周りを走り回る柴犬。
しかし勇者は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
この鏡をイベントアイテムと思わないで、道具屋に売り飛ばそうとしたところ『これをうるなんて とんでもない』という決まり文句を言われて、ムカついたので道具屋の店主にフランケン・シュタイナーをかましてきたばかり。
ついさっきの話である。
勇者
「じゃあ、これであんたを映せば人の姿に戻るんだな?」
柴犬
「はい、お願いします」
勇者はプリクラと目の前の柴犬を見比べていた。
精神統一するように目を閉じると、売り飛ばせなかったイベントアイテム“真実の鏡”を道具入れ代わりに使用しているズボンのチャックから取り出した。
柴犬がその光景に嫌な表情を浮かべるが勇者は知ったことではない。
例えイベントアイテムであろうとも、価値を知らないものにとってはゴミなのだから。
そして、勇者は“真実の鏡”を中途半端に使った。
柴犬
「ふえっ!?ふぇぇぇぇーッ!?」
勇者
「よっしゃ、思った通りに決まったぜ!!!」
柴犬は中途半端に戻されて、人間ではなくアヌビスになった。
あまりの可愛らしさに、勇者は喜びのあまり真実の鏡を叩き割った。
柴犬改めアヌビス
「ちょ、なんてことしてくれたんですかー!!」
勇者
「ごめん、俺………実は魔物娘しか愛せない変態で…」
アヌビス
「そういうこと言ってるんじゃなくて、私王女なのにこんな姿じゃ国に帰れない……いや、帰れないどころか退治されちゃうじゃないですか!……って、勇者さま。何をなさっているんですか?」
勇者
「いや、魅力的な肉球をね、プニプニと…」
その後、勇者はアヌビスと化した可愛い年上のお姉さんに正座で怒られた。
もっとも勇者としたら、ストライクゾーンど真ん中の年上の魔物娘のお姉さんに叱られるというご褒美をいただいているつもりなので、正座で怒られていても興奮してハァハァしている始末である。
わざとわかるようにズボンの中でパンパンに勃起して、それを見付かって怒られても彼にとっては“公開羞恥お仕置きプレイ”の一環でしかなく、15歳ながらも恐ろしいほどのスケベな才覚の片鱗を覗かせていた。
勇者の女王さま が 仲間になった
アヌビス
「ちょ、私は女王さまになる気はありませんってばッッ!!!」
勇者
「ハァ……ハァ……じょ、女王さま…!女王さまのあまりのいやらしさと美しさに、街中で人目もはばからずバキバキに勃起してしまう、哀れなわたくしめに何卒、何卒きつい責め苦をお与えくださいませ…!」
アヌビス
「いやあああああああああああああああーーーーーーーーッ!!!!!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 3・モンハンのちょっと良い話
カチカチ……カチカチカチ…
男
「リオレウス、そっち行ったぞ」
ワイバーン
「わかってるって………よし、翼破壊成功…」
今日は世間一般で言うところの休日である。
しかも連休ということもあり、付けっ放しのテレビからは各地の行楽地のニュースが流れているのだが、それなのに良い歳したこの若いカップルは、休日だと言うのに、どこへも行かずに連休中はずっとモンスターハンターをプレイしていた。
連休中、彼女であるワイバーンも彼氏の部屋に泊まり込んでいたのだが、二人とも先日発売されたばかりの新作に心が行ってしまい、恋人らしい夜の営みすら皆無であった。
まあ、このゲーム………面白いから仕方がない。
男
「相変わらず逆鱗とか出ねえよな、こいつ」
ワイバーン
「………ごめん、昨日3つ出た」
男
「マ ジ で !?」
会話にも恋人らしさは感じられない。
それどころか食事も出前だったり、コンビニ弁当だったりと色気がない。
駄目なオタクの巣窟。
その言葉以外に当てはまるものが見当たらない。
ワイバーン
「それにしても、こうして顔合わせるのも久しぶりだね」
男
「そういや3ヶ月ぶり?ここのとこ俺も残業で忙しかったし…」
ワイバーン
「こまめに連絡してくれたのは嬉しかったけど、無理してなかった?」
男
「無茶はしたけど、無理はしてない。大丈夫、問題ないよ」
ワイバーン
「なら………良いけどさ…」
ちょっと痩せたね、とワイバーンは呟いた。
無茶も無理もしているような痩せ方だったが、敢えて彼女はそこを言わなかった。
無茶も無理も愚痴一つ言わずにこなす彼のことが好きだったから。
ちょっと彼氏、体育館裏に来いや?
男
「まあ………ろくなもの食ってなかったから痩せたかもな。ああ、そうだ。俺も逆鱗狙いなんで、今回捕獲しても良い?招きネコの激運発動してるから、今日こそはゲット出来そうなんだわ」
ワイバーン
「うん、良いよ。私も逆鱗は欲しいし、いくつあっても足りないし」
男
「…………じゃあ、罠置くよ」
ワイバーン
「ちょ、タイミングおかしいって。まだクエスト始まったばかりだからレウス全然弱ってないし、部位破壊も翼だけじゃんよぅ♪」
男
「いいや、『限界』だ。……置くね」
コトッ
ワイバーン
「………え、何、この箱?」
男
「…………開けてみて」
ワイバーン
「あ……………………ネックレス……?」
男
「指輪も腕輪もお前のサイズがなかったからネックレスにした。お前がこれを首に下げてくれたなら、俺の3ヶ月に渡るクエストも無事成功。明日にでもお前の両親に挨拶に行って、役所にクエスト達成報告書を提出して終了だッ!」
ワイバーン
「えっと………その……つまり…………」
二人のプレイキャラは、気が付けばリオレウスにボコボコにされてキャンプ送りになっていた。そしてそのまま時間は流れて、制限時間を迎えてしまったがために『クエスト失敗』の文字が無常にも二人の3DSの液晶画面に浮かび上がる。
その後もゲームは放置されたまま、電池がなくなって3DSは強制終了。
メインターゲットの捕獲に成功しました
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 4・雷鳥夫妻の1コマ
その日、俺は仕事が終わるとスキップして家路に着いた。
明日から3連休という金曜日の夜。
俺は魔物娘との新婚なのだから、3連休とは言え休日の過ごし方はもう決まったようなものなのだが、美しくキュートな妻と密着したまま3日間も過ごせるのだ。鼻歌の一つも出ない方が、どうかしていると思う。
マジで。
俺の奥さんはジンオウガもといサンダーバードだ。
どうもあの配色を見るとついつい間違えてしまうのだが、一度だけ彼女の目の前で『ジンオウガ』と口走ってしまったところ、言わなければ良かったと死ぬほど後悔するぐらい殴られ蹴り飛ばされ、終いにはギガデイン……いやギガ・ブレイクみたいな雷撃を落とされた。
よく死ななかったものだと、我ながら感心する。
丈夫に生んでくれた両親に感謝だな、うん。
今夜はスタミナたっぷりの手料理と、気分を変えてコスプレで仕事で疲れた俺を迎えてくれる……と妻は張り切っていたのだが、俺には拭い切れない不安が仕事中も胸の中で渦巻いていた。
何故なら、先日もコスプレをして夜の営みに挑もうとしたのだが、妻が俺のためにしてくれたコスプレは、どこで売っていたのか本当に問い詰めたいのだが、あろうことかフルフルの着ぐるみパジャマだったのだ。
本当にどこで売っていたんだ。
近所の“ドンキ暴帝”か?
それとも、安心の“むらむらファッション”か?
まあ、日々の労働で疲れていたのもあったし、ふかふかしてて抱いてると気持ち良かったから、着ぐるみパジャマを着た妻を抱いたまま、いつもよりも深い眠りに就けたのはありがたかった訳だったりするのだが…。
………っと、そんなことを考えていたら、もう家に帰り着いた。
やはり愛する妻が待っていると思うと、人間は時間も空間も超越出来るようだな。
夫(サラリマン)
「たっだいま〜!」
妻(サンダーバード)
「おかえり〜♪」
台所から飛んできた妻を見て、俺は血の気が引いた。
ええ、そりゃもう全身から『ザザザザザザザ…!』って聞こえるくらい引いたね。
台所から現れた妻はコスプレをしていた。
虎柄のビキニ、虎柄のブラ、そして頭の上にちょんと乗った鬼の角
しかも彼女の地毛は青だ。
やばい、やばい、やばいぞ。
これはもしかしなくてもアレだよな?
いくら何でも他の作家さんだって思い付いたけど、いざやろうとしたら安易過ぎて恥ずかしいからやめるようなあのキャラのコスプレを、俺の可愛い可愛い奥さんがやるはずがない。
だが目の前のコスプレはどう見たってあのキャラだ。
俺は『真実』を見ているのか……いや、俺は今、何かの『間違い』を見ていr
妻(サンダーバード)
「ダーリン、玄関で何ボサッと突っ立ってるっちゃ?」
夫(サラリマン)
「返せ、俺の葛藤を返せー!!」
ラムちゃんじゃねえかよ!!
もう良いよ、ここまで来たら言うしかないだろ!?
大事なことなのでもう一度……ラムちゃんじゃねえかよ!!
妻(サンダーバード)
「ウチ、似合わないっちゃ?」
夫(サラリマン)
「いや、似合ってるんだけどね…」
うちの奥さん、実物のラムちゃんに比べたら胸はペタンコなのよね。
だがそのペタンコ具合がまた色気を誘うというか何というか、グラマラスな女性にはない、ちょっと背徳的なエッセンスを含んでいるのが扇情的で素敵ですごく良いというか何というかね、まあそんな感じなのだわさ……えへへ…♪
妻(サンダーバード)
「似合ってる?んふふ〜、ウチ嬉しいっちゃ〜♪」
夫(サラリマン)
「ああ、似合ってるよ。ところで良い匂いだね。俺、もうお腹減っちゃったよ」
妻(サンダーバード)
「ところで、ダーリン♪」
夫(サラリマン)
「うん、どうした?」
妻(サンダーバード)
「ウチ、ダーリンに言ったっちゃね?」
浮気したら殺すって
周囲の温度が一瞬で氷点下になった気がした。
妻から発せられる何とも言えない黒い波動に、俺は思わず身動き一つ取れなくなった。
訳がわからない。
浮気?いったい何のことなんだ?
身に覚えがない…ッ!
俺が戸惑っていると、妻は一枚の紙を取り出した。
一瞬『離婚届かッ!?』身構えてしまったが、よく見るとそれは俺のクレジットカードの請求書だった。クレジットカードの請求書などの管理は妻に任せているので、彼女が封書を開けても何の問題もない。
それに俺のカードの使用履歴は健全だッ!!
これだけは自信を持って言える。
妻(サンダーバード)
「………この、“○月×日 マモゲー/30000円”って何だっちゃ?」
夫(サラリマン)
「そ、それは……ッ!!!」
マモゲーとは、俺が携帯電話でプレイしているソーシャルゲームの会社だ。
その中で俺は『アイドルモンスター・ヤンデレラガール』という魔物娘をアイドルとしてプロデュースするゲームをプレイしており、俺の部屋にはそれ関連のフィギュアやグッズが綺麗に整頓されている。
30000円というのも、そのアイドルモンスター内で使った課金ガチャの金額だ。
つい一番お気に入りのアイドルの期間限定ガチャがあったので、社会人の経済力をフル活用して、課金ガチャを回し続けた結果、運良くお目当てのアイドルを2枚ゲット出来たので、無事にSR+に進化させてあげることが出来たので内心ホクホクしていた訳である。
ちなみに、妻も同じゲームをしている無課金プレイヤーだ。
妻(サンダーバード)
「……ウチの記憶が確かなら、確かこの時期の限定ガチャには鳥系SRアイドルはいなかったはずだっちゃ。ダーリン、いったいどの娘が目当てでガチャを回したっちゃ?」
夫(サラリマン)
「………ハ、ハーピーの久遠寺さん(スク水ver)を」
バチィッ……バチバチバチッ…
妻(サンダーバード)
「へぇぇ……ダーリンは普通に出回ってるレア・モンスター目当てに3万円も注ぎ込む大馬鹿野郎だったっちゃ?……ダーリン、ダーリンの頬っぺた嘗めてみようか?たぶん、嘘を吐いている味がするはずだっちゃ」
駄目だ、誤魔化せない…ッ!
純粋なる無課金兵だというのに、何故こんなにガチャを把握してるんだ…ッ!?
正直に言うべきか……否、正直に言うべきだ。
それが俺の……俺の妻への愛情なのだから…ッ!!
夫(サラリマン)
「………えっと、その…」
妻(サンダーバード)
「………………………」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ
夫(サラリマン)
「………【深淵の宴】ヤーナ」
そう言って、意を決した俺は携帯の待ち受け画面を妻に見せた。このSRアイドルを手に入れた嬉しさのあまり、画像を保存して待ち受け画面に設定しておいたのである。
ちなみに【深淵の宴】ヤーナとは、今までザコレア・アイドルだったキャラだったのだが、今回このアイドルモンスター稼動以来、初めてSR化したアイドルモンスターであり、ザコレアではあったものの、密かにお気に入りとしていた愛着あるキャラである。
そして種族は“アポピス”。
巨乳で挑発的で一応全年齢向けゲームなのに限りなくアウトに近いセーフなエロいイラストだし、何より本来はファラオの天敵だが鳥である妻の天敵とも言える蛇のアイドルだ。
……………………うん、俺……生き残る要素が見当たらない。
妻(サンダーバード)
「ダーリンの浮気者ぉぉぉぉぉぉぉーーーーーッ!!!」
その夜、町内は真っ白な光に包まれた
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ep 5・ほんとうにあった怖い魔物娘
投稿者 熊本県在住/沢木 麻衣菜さん(17歳)
私は17歳の稲荷です。
こうして投稿している間も、目の前で起こった出来事が実際に起こった出来事だったのか、今でも信じられずにいます。作り話と受け取られてしまっても構いません。
どうか私の話を聞いてください。
あれは八月の終わり頃の夕方のことでした。
母に頼まれてお隣の家に住むウシオニの大倉さん(仮名)のお宅に、母の友人であるケンタウロスの方からいただいた馬肉をお裾分けに行ったのです。うちは田舎ですので、お隣とは言っても歩いて5分ほど掛かる家なので、どんどん暗くなっていく道を不安になりながら歩いていました。
我が家は少し特別な家庭で、この現代社会でも先祖代々家を継ぐ男は稲荷と人間を妻に娶るしきたりがあるので、私には5つ年上の兄と2つ年下の弟がいます。
兄は社会人として人生経験を積むために家を出てしまっているので、家でゴロゴロしている暇そうな弟でも一緒に連れて来ていれば、きっとあんな怖い思いもしなかったのではないか……と今となってはとても遅い後悔をしています。
暗くなる前に帰らなきゃ……と思っていると、自然と足は早足になっていました。
夜の闇が襲ってくる夕暮れ時、私は馬肉を抱えて大倉さんの家まで走りました。
大倉さんの家の明かり。
私は安堵して走るのをやめると、息を整えて大倉さんの家のインターホンを鳴らしました。
ピンポーン
静かな田舎町に響き渡るような電子音の呼び鈴。
しかし大倉さんが出てくる様子はありません。
留守だろうか……と途方に暮れていると、私は大倉さんの家のリビングの窓から明かりが漏れているのに気が付きました。明かりは閉められたカーテンの隙間から漏れているらしく、耳を澄ませば何やら音も聞こえてきます。
なんだ、大倉さんってば、いるじゃん
と、私は気楽に考えていました。
大倉さんは実にウシオニらしい方で、昼間からお酒を飲んでは、そのまま酔っ払って眠り続けたり、どこかから男女ともに連れ込んでは何日も乱痴気騒ぎをしていたりと、掴み所のない豪放磊落でさっぱりとした性格をした気の良いお姉さんでした。
きっと今の呼び鈴も寝てて気が付かなかったんだな、と思った私は入り口の柵を勝手に開けて、窓から大倉さんを呼ぼうと庭を移動しました。
今思えば、何と軽率だったことか。
明かりの漏れている窓に近付いてみると、何やら音楽が聞こえていました。
この時間に音楽番組とかやっていたかしら、と思っていたのですが、兄の影響でヴィジュアル系バンドが出ない限り音楽番組を見ない私には、考えても考えても答えが出ませんでした。
テレビを付けっ放しとかしょうがないな、と思ってカーテンの隙間から部屋の中を覗いたのですが、その部屋の中で繰り広げられている身の毛もよだつようなおぞましい光景に、私は目を見開いたまま金縛りに遭ってしまいました。
信じられるでしょうか………
大倉さんが………あのウシオニの大倉さんが………
フリフリのレースやリボンがいっぱいのゴスロリを着て…
しかも彼女にもっとも似合わないと思われる
白とピンクの清純な薔薇をイメージしたようなゴスロリを着て
アイドルDVD見ながら、可愛らしいダンスを踊っているなんて……ッ
腰をふりふりさせながら、キラキラした笑顔で歌って踊るウシオニ。
テレビの中のゴスロリ衣装のアイドルの振り付けを完全コピーしながら、普段からは想像も出来ないようなアニメ声でハイテンションで歌うウシオニの大倉さんに、私は言い知れぬ旋律と恐怖を覚えていました。
彼女に気付かれないように、上げそうになった悲鳴をグッと飲み込むのがやっとでした。
リビング・アイドル
そんな言葉が脳内を駆け巡っていました。
私は見てはいけない悪夢を見てしまったのです。
私は物音を立てないようにして、彼女に気付かれないようにその場を立ち去りました。そしてそのまま来た道を、行きと同じように我が家まで走り続けました。少しでも早く、あのおぞましい場所から離れたかったのです。
しかし家に帰り着いても恐怖はなくなりませんでした。
目を閉じれば、あのゴスロリ姿で踊る大倉さんが現れるのです。
私は、あのおぞましい光景を二度と忘れることはないでしょう。
そしてあのどこから出ているのかわからないアニメ声で言った
ウシオニ(大倉さん)
「みんな〜、きょうはぁ〜、みゆりんのライブにきてくれてありがと〜♪キラッ☆」
あの呪詛をきっと忘れないでしょう。
見なければ良かった世界…………それは、意外なところに落ちているのかもしれません。
あ……………馬肉、どこかに置いてきちゃった。
追記
母の尻尾でモフモフしてもらって、ようやくトラウマは晴れそうです。
ところで先日、差出人不明の小包が届きました。
中には“MALICE MIZER”と“Moi dis Mois”のDVDセットが入っていました。
………ゴスロリ系のビジュアル系バンドだけど
まさか…………ね…?
13/09/25 00:33更新 / 宿利京祐