読切小説
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Last songをもう一度
俺が愛する種族。
それは言うまでもなくリザードマンだ。
あのエロとは無縁のような凛とした空気、鍛えられてしなやかに発達した身体でも女性らしさを失っていないという矛盾との共存。
彼女たちを構成するすべてが俺は好きだ!
……え、じゃあドラゴンは、だと?
ん〜〜〜、彼女たちも美しいとは思うけどリザ子程心を惹き付けられるものはないなぁ。
似たような要素は持ってても、あれは別物だよ、べ・つ・も・の。
やっぱリザ子良いよね。
リザ子最高!
ジーク、リザ子ぉぉーっ!!


……。
そんな時代も俺にはありました。
あの頃は俺も若かった。
リザ子が好きすぎて、そのせいで好きになってしまった人がいたのに辛い失恋もした…。
好きになってしまった人のために作った大金を使って投資したり、事業を起こしたり、この町の現在の最高権力者で通称、人の皮を被った悪魔だと陰口を叩かれる男と町を大きくするために我武者羅に働いた。
俺は、今でもリザードマンが好きだ。
愛している、と声を大にして言える。
そう、好きな種族は…、という話。
俺が好きになった人は、リザードマンではない。
俺が好きになった人は、サキュバス。
当時はまだレッサーサキュバスだったけど、その美しさは群を抜いていた。
美しかっただけじゃない。
うまく言い表せないけど、俺はたまたま行った娼館で彼女にやさしく抱かれ、一人に疲れた俺の心ごと暖かな手で抱きしめてくれた。
その時から彼女に魅了されていたのだけど、彼女はサキュバスの魅了の魔法に俺はかかっているんだと言って、俺の恋心を否定した。
否定されて当然だったと40を前にして俺は理解する。
俺はただ彼女が好きだった。
勢いで身請けしたいと口走った若造に、俺よりも深く人生を刻み付けてきて生きた彼女が、簡単にそんな若造とくっ付くはずもない。
年齢を重ねた今なら言える。
彼女は、そんな軽い人じゃない。
身分がなかったからとか、そんな軽い理由じゃない。
彼女は……、そのやさしさの奥で、誰かが自分の心に居付いてしまうのを拒絶している。
きっとそれは話してくれない彼女の過去がそうさせるのかもしれない。
それでも自分は彼女が、ディオーレさんが好きだ。
拒絶しても良いんだ。
俺がずっと、勝手に好きになってしまったんだから…。
だから、今でも良い友人として、良い彼女のお客として、それなりの距離を開けたお付き合いをしている。
でも、俺と一緒にいてくれる時に見せてくれるその笑顔に、若い頃に抱いた恋心が何度も俺に越えてはいけない一線を、彼女の気持ちなど考えずに踏み越えろと命令し続ける。
愛らしくて、懐かしくて、娼婦という仕事から解放されたような無垢な笑顔に、いつも喉元まであの言葉が俺の意思と関係なく飛び出ようとしている。
「俺と……、ずっと一緒にいてください。」
それは言ってはいけない言葉。
俺はあくまで………。
彼女の…………。
何なんだろうね…。
ずっと渡せずにポケットにしまったままの指輪が、
今日はやけに冷たい…。


―――――――――――――――――――――――


カーテンから漏れる朝日を浴びて目が覚めた。
今日は…、少しだけ我侭を言ってあの人の来る時間だけの出勤。
ジャックさんもルゥさんも快く了解してくれたというのに、目が覚める時はいつもこんなものだ。
あの人が傍にいない朝は、いつも眠りが浅い。
都合の良い女。
一度彼を拒絶しておいて、彼の…、フランさんの傍を離れられない。
お店の外で友達として、お店に来てくれる時はお客と割り切って身体を重ねて。
そうやっていこうって自分で決めたのに…。
いつだって、彼が帰る時にその袖を引き止めたい。
いつだって、今日は帰らないでって、絶対言わないと決めた言葉を飲み込まなきゃいけない。
いつも彼に好かれたいと思う私がいる。
わかっているよ。
私は、あの人が好き。
あの人の気持ちを弄んでいる私に科した私だけの罰。
娼婦に徹して、サキュバスとして弄んだ何人もの男の一人として彼を見なくてはいけない。
だからずっとこの仕事も続けてきた。
だからずっとこの仕事でbPでい続けた。
同期の子がいなくなって、どんどん人が変わっていくのに私だけまるで時間が止まったように『娼館テンダー』でお客を満足させ続けた。
それなのに……、最近、仕事に身が入らなくなってきた。
いつも気だるい。
いつも憂鬱になる。
そしていつもあの人が来てくれる時間だけ…、娼婦として、ディオーレに戻れる。
いつもあの人がいてくれる時間だけ、娼婦ではない本当の私に戻っている。
だから、終わりにしよう。
あの人が私を拒絶したら、この町を出て……、どこかに行こう。
でももし、あの人が受け入れてくれるなら…。
今でも私を愛してくれるなら……。
「フランさん……。」
返事はない。
それでもいつか、彼の上着から見付けた指輪が私宛だと勘違いしたい。
いつも私を抱きしめるその暖かい手が、私だけに向けられていてほしい。
そんな思いを今日程強く感じたことはなかった。


―――――――――――――――――――――――


「あの……、フランさん。この後、二人だけで飲みに行きませんか?私、これでお仕事終わりですし…、その………、お時間さえよろしければ…。」
いつものようにプレイが終わって娼館を後にしようとする俺に、彼女は何か思い詰めたような顔で、俺の袖を引き、俯いたまま消えそうな声で俺を誘った。
誘いに乗りたい。
君ともっと一緒にいたい。
でも彼女は、ただの女性ではないのだ。
彼女はこの店のbP。
俺みたいなおじさんと一緒にいるところを何度も見られるようなことがあったら、それは即彼女の人気に響くんだと自分に言い聞かせて、喜びたいのを必死になって抑え込む。
これも、あの男と座禅というものをやった成果だな。
「嬉しいけど、良いのかい。いつも俺を誘ってくれて嬉しいんだけど…、俺みたいに30過ぎて、もうすぐ40になろうかとしているおじさんより…、もっと若いやつの方が良いんじゃ……。もしもそれを誰かに見られたら、君の人気にも傷が付いちゃうよ。………そんなこと言うと、俺も勘違いしてしまうよ。」
心から心にもないことを言う俺に嫌気が刺す。
勘違いでも良い。
俺はあなたに思われたいんだ。
僅か数センチの隙間が、ひどく虚ろで、もどかしく感じる。
「男の人に……、年齢なんて関係ありません…。」
ディオーレさんが、袖から手を放し、その細い指を俺の指に絡めてくる。
たったそれだけなのに、まるで十代の少年のように俺の心臓は高鳴った。
「それが…………、心から好きになった人だったら、年齢なんて……。」
「ディオーレさん……、その言葉は…。」
言わないで、とは言えない。
俺が望んでいないのに、心にもない言葉をこれ以上は重ねることが出来ない。
「あなたの心から愛する種族は理解していますけど……、それでも私……、私……!」
限界、だった。
普段、彼女の前では紳士ぶっているというのに、力一杯彼女を引き寄せ、彼女の身体がスッポリと隠れるくらいに抱きしめた。
腕の中で彼女が小さな悲鳴を上げる。
「それはいつもの営業トークですか…。もしそうでないのなら……、勘違いさせてください。俺に、あなたをずっと愛させてください。あの時からあなたに振られても…、ずっと今でもあなたを思い続けてきた。ディオーレさんのいない人生は…、もう考えられないんです。俺はあなたのお客でも良かった。あなたの友人でも良かった。ただ傍にいられたら、何だって良かった…!」
「………営業トークなんて、一度もしたことがありません。私は…、あなたには絶対にしませんよ。ねぇ、フランさん。お願いがあるんです。」
「………………はい。」
「もっと……、壊れてしまうくらい強く抱き締めてください。」
喜んで、と言って俺は彼女を強く抱き締める。
そして少しだけ力を緩めると、俯いていた彼女の顔が俺を見上げていた。
いつもお客として彼女を抱いているというのに、俺は潤んだその瞳に、艶やかな唇に釘付けになり、息をするのを忘れてしまったように緊張している。
声のない声で、唇が動く。
「ねぇ、して…。」
理性が焼き切れるかと思った
さっきプレイの時に何度もキスしたというのに、比べ物にならない程興奮してディオーレさんの唇を奪う。
真っ赤になった彼女も目を閉じ、俺から離れないように首に腕を強く回して、今までのプレイでは見せたことがないくらいに、情熱的に貪るように荒い息で唇を重ね、舌を絡める。
このまま、時間が止まったら良いのに。
そんなことを思ったのは、きっとこれが最初で最後。
頭がぼんやりとしている。
夢の続き、まるで現実と夢の区別が付かない心地…。
ああ、そうだ…。
「あのさ………、ずっと…、渡せなかった物があるんだけど…。」
「それは…、そのポケットの中の物ですか?」
「知ってたの?」
「ふふ…、もう10年以上のお付き合いがあるんですよ。あなたが何を考えているのか、あなたが何か隠しているとか、そういうのも大体わかっちゃうんですから♪」
サキュバスらしからぬ、無邪気な笑顔。
今なら…、良いよな…。
ずっと渡せなくて色褪せた指輪の箱。
だけど色褪せなかった思いを渡しても…。
「では……、受け取って…、いただけますか?」
その返事は、もう聞くまでもない。
彼女も返事をする必要はない。
お互いに思いは一つ。
もう一度強く抱き締め、軽い触れるだけのキスをすると俺たちはもう一度エレベーターに乗って、ロビーを後にした。
今度は、お客じゃない。
もう、偽りはない。
ただの恋人として。
重ね続けた思いを解き放つように、二人は夜が明けても繋がり、求め続けていた。
























「ルゥさん。スカウトのパッソールさんから報告ですよ。」
「あら………、どれどれ。『良い人見付かった。』ですか。良かった…。」
ジャックは店が閉まった後、掃除を終えて妻の仕事場である書斎にスカウトの送ってきた報告書と共に戻ってきた。
「やっぱり、ディオーレさん。お店辞めちゃうんですよねぇ。」
「正確には辞めちゃうんじゃないの。」
「え、どういうことですか?」
「さっき、オーナー権限で今日付けで解雇しちゃった♪」
笑顔で言うルゥにジャックは飲みかけた紅茶を噴出しそうになった。
「か、解雇!?」
「そ。だから、もうあの子には身請けとかお店のしがらみとか何もないの。今夜から彼女は、晴れて無職の身。だからきっとしばらくしたら彼女、マンションも引き払って行くトコがなくなっちゃうわね。」
「……そんな訳ないじゃないですか、もう。ああ、そうなるとお店の上客だったフーさんも来なくなっちゃいますね。少し寂しいなぁ。」
「良いことよ。お店の方は最近上位ナンバーの娘がどんどん寿退職しちゃったから苦しいけど、パッソールちゃんが新しく見付けて来てくれた娘に期待しましょう♪あの子って人を見る目が確かだから、お店でbQでいてくれていた時よりも、本当にスカウトに転向してくれてありがたいわ〜。」
ジャックは、ふと考える。
「今日付けで解雇って…、退職金を計算しておかなきゃ。かれこれ……、20年はお店に貢献してくれてますし、解雇扱いだからって出さないのは僕としても心苦しいですし…。」
「だぁめ。退職金は出さなくて良いわ。」
「そ、そんな…、ルゥさん!?」
「出すなら、お祝い金よ。20年うちで頑張ってくれて、やっと自分に素直になって幸せになれるんだから……、目一杯色付けておいてね。あ・な・た♪」
「いえす、まむ!!」
ロウガのようにニヤリと笑うルゥに、ジャックは敬礼をする。
これから経営が大変だな、と思う一方で誰かが幸せになるという喜びを最愛の人と噛み締めながら。


―――――――――――――――――――――――



からん

「いらっしゃいませー。」
数年後、町外れにあった廃屋を改築して小さな珈琲喫茶が開店した。。
如何にも趣味の良い佇まいに、シックで落ち着いた店内には、いつもジャズのレコードの懐かしい音が、挽きたての珈琲の香りと共に道行く人々を誘っている。
店を切り盛りするのは40代のマスターと、サキュバスの奥さん。
珈琲喫茶は、大繁盛という言葉とは遠いものの、地味に人が絶えない。
客のほとんどがセラエノ学園の教師なのだが、平日も教師たちは授業の時間帯でも居座るので、すでに有名隠れ家的サボりスポットになりつつあるのだが、最高責任者がチョクチョク利用しているので、マスターも苦笑いで出迎える。
「あー、その…、ディオーレ……、さん。もうお客もいないし、休んでも良いんだよ?」
「何じゃ、この店は客を拒否するのかー?」
「珈琲一杯で何時間も粘る人は、お客って言わないんですよ。そんな訳でフランさん。同じ名前のよしみで梅昆布茶一つ♪」
学園最強不良教師と居酒屋経営者を無視して、マスターは妻を気遣う。
彼女が疲れただろう、という思いだけではない。
「さん付けはやめてって言いましたよ。それに大丈夫よ、あなた。もう安定期に入ったし、お医者様も少しは動いた方が良いって仰っていたもの。心配性なパパだよね♪」
彼女は少し大きくなったお腹をさすって微笑んだ。
もうすぐ、新しい家族が増える。
諦めかけた思いは、どこかで繋がっていたらしいとフランは、未経験の幸せにそっと微笑んでいた。





今でも私を愛してくれるなら……。

その時は、彼の胸に飛び込もう。

ずっと変わらないでいてくれた、あの人のために踏み出そう。

だから、夢を叶えてくれたあなたへ。

ありがとう。

ずっと愛してくれて。

11/01/22 00:08更新 / 宿利京祐

■作者メッセージ
アンサー完了?
もしかして書きすぎたかな、と思っている宿利です。
今回は本編を飛び出し、スピンオフ!
飛び出したのは、何とディオーレと紳士F。
予告していたから、何と…ではないですねw
楽しんでいただけたでしょうか。
え、話がよくわからない?
そんなあなたにはこれ。
腐乱死巣様執筆の『君に送る・・・・・ 』や『無題 』を
処方致します。
素晴らしいSSなので是非どうぞ!

では最後になりましたが
本日もここまで読んでいただき、ありがとうございました。

さて、さっき届いた図鑑を読もう…w。

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