きつねねいり
……寝たか?
……寝てるな。
……………………。
……寝てるなら……これから俺の言うことは聞こえないはずだ。
だから俺は、包み隠さず、ありのまま、本音をぶちまけるぞ。
良いか、お前が寝てるから言うんだからな? もし起きてたら絶対に、口が裂けても言わんぞ。
分かってるな? いや、寝てるから分かるはずもないんだが、一応断っておく。
決して目を覚ますなよ。目を覚ましたらそこで話は切り上げだ。
……………………。
……寝てるな?
……よし、寝てるな。
……………………。
……正直に、言うぞ。
……俺は、お前のことが好きだ。
お前のことが大好きだ。
お前のことが心の底から大好きだ。
ガキの頃からずっとずっと、お前のことが大好きだ。
お前のことが好き好きで仕方ないんだ。
気付けばお前のことばっかり考えてて、お前のことでいつも頭がいっぱいなんだ。
お前だけのことしか考えられない超絶シスコン野郎なんだ。
いつだってお前と一緒にいたいし、お前と死ぬほどイチャついてたい。
手を繋いでたい。腕を絡ませたい。抱きしめあいたい。
その尻尾を存分にモフりたい……のは、まあ、これはそれなりにしてるか。
でももっと、恋人らしくキスだってしたいし、それよりもっと深い繋がりだってしたい。
要するに、セックスしたい。アホみたいにお前とヤリまくりたい。
お前のことをグチャグチャに犯したいとさえ思う。
きっとお前がドン引きするぐらいのことだってしたいって考えてる変態だ。
そうやって、めちゃくちゃセックスして……。
……それから、お前に言いたいんだ。
愛してるって……ちゃんと、お前の前で、はっきりと。
こんな風に、お前が寝てる隙に、独り言みたいに言うんじゃなくて。
愛してるって……言ってやりたいんだ。
……だけどさ。
俺は、怖いんだ。
お前とそうやって愛し合って……その結果で、俺が人の親になるっていうことが。
情けないけどさ、怖いんだよ。
俺みたいな奴が親になれるのかって。
……赤ん坊の頃には、俺はもうこの家に引き取られてたんだ。
別に引け目を感じてるだとか、そういうことはない……と、思う。
愛するお前はもちろんのこと、正直言って認めるのは非常にプライドが阻害するが……あの色ボケ夫婦だって、家族だって、残念だけど思ってる。
感謝はしてる。感謝はすごくしてる。
俺のことを引き取ってくれて、ちゃんと神社の跡取りになれるようにって、色んなことを教えてくれたこと。
何より……お前の兄貴だなんて、世界一の幸せ者にしてくれたこと。
返せないぐらいの恩があるのは、分かってる。
……だけど、だから、とにかく……怖いんだ。
今度は俺が、そっちの側になること。
俺が親になって、これから生まれてくる娘と、社の跡取りになる息子を引き取ってきて、その親になるってことが。
俺みたいな奴に……ちゃんと子供の世話してやれるのかなって。
……情けないよな、ホントに。
いつも偉そうに兄貴面して、鉄の意志だ鋼の強さだ、そんなことのたまわってるくせに。
カッコ悪いよ、俺は。
弱くて、臆病で、どうしようもないぐらい見栄っ張りで。
腸が煮えくり返るぐらい癪だけど、あの色ボケ埒外の言うとおりの、ムッツリ助平のチェリーボーイだ。
……思い切りぶん殴ってやりたい。自分と、ついでにあの色ボケ埒外も……。
だから、さ……。
お前にさ、もっと大人になってほしいんだ。
情けない俺が、お前に気兼ねなく甘えられるぐらい。
安心して一緒に、子供を育てられるぐらい。
お前がいるから大丈夫だって、そう思えるぐらい。
もちろん、約束は覚えてる。
俺は絶対にお前のことを幸せにしてみせる。いくら俺が情けない奴でも、それだけは自信持って言える。
な……? だからさ……。
お前がこんなに可愛くて、こんなに俺のことを夢中にさせてるんだから。
……責任取って、責任を取らせてくれよな。
もう大丈夫だって、安心して……。
……………………。
……その時には、しっかりプロポーズもしなきゃな。
もうとっくに、婚姻届だって準備してるんだぞ?
指環だって、あんなおみくじじゃなくて、本物を用意してるんだ。
嫌がってもダメだからな? その薬指にスッポリ嵌めてやる。
泣こうが喚こうが、絶対に逃がしてやらないからな。あっはっは……。
……な? ちゃんと、お前のこと、幸せにしてみせるから。
約束したんだもんな。あの時、結婚するって……。
……………………。
「――にぃ、さまぁ……」
……お?
「おにい、さまぁ……!」
……なんだお前、起きてやがったのか? この妖怪『狐寝入り』め。
「ぐすっ……ちがい、ますぅ……これは、ひっく……ねごと、なんですぅ……!」
そうか、寝言か。じゃあ安心して喋ってられるな。
「おにいさまぁ……! ちゃんと、ウチ……ひくっ……お、おとなに……なりますから……!」
おーおー、やっぱり寝言だな。お前の口からそんな殊勝な言葉が出るんだもの。
「ちゃんとおとなになりますから……っ! だから、おにいさまぁ……っ!」
寝言を言いながら泣くなんて器用なヤツめ。ほれ、頭を撫でてやろう。
「おにいさまぁ……っ! ぅぁ、ぁ、あいしてます……っ! おにいさまぁ……っ!」
……俺も、愛してるよ。
「はいっ……はいっ……!」
さ、寝るかぁ……って、コイツはもう寝てるんだっけ。
「ぐすっ……はぃっ、ウチはもうねてます……ぐっすりです……!」
よしよし、それじゃあもっと良く眠れるように抱きしめてやらないとな。
「おにいさまぁ……」
まったく、まだまだお兄様離れは遠いかな……。
「だいじょうぶです……ウチはちゃんと、りっぱなおよめさんになってみせます……」
……そっか、良かった。それじゃあ――
――おやすみ、キツネ。
「――おやすみなさい、お兄様――」
「――いえ――」
「――おやすみなさい、キョウスケさん――」
――おしまい。
……寝てるな。
……………………。
……寝てるなら……これから俺の言うことは聞こえないはずだ。
だから俺は、包み隠さず、ありのまま、本音をぶちまけるぞ。
良いか、お前が寝てるから言うんだからな? もし起きてたら絶対に、口が裂けても言わんぞ。
分かってるな? いや、寝てるから分かるはずもないんだが、一応断っておく。
決して目を覚ますなよ。目を覚ましたらそこで話は切り上げだ。
……………………。
……寝てるな?
……よし、寝てるな。
……………………。
……正直に、言うぞ。
……俺は、お前のことが好きだ。
お前のことが大好きだ。
お前のことが心の底から大好きだ。
ガキの頃からずっとずっと、お前のことが大好きだ。
お前のことが好き好きで仕方ないんだ。
気付けばお前のことばっかり考えてて、お前のことでいつも頭がいっぱいなんだ。
お前だけのことしか考えられない超絶シスコン野郎なんだ。
いつだってお前と一緒にいたいし、お前と死ぬほどイチャついてたい。
手を繋いでたい。腕を絡ませたい。抱きしめあいたい。
その尻尾を存分にモフりたい……のは、まあ、これはそれなりにしてるか。
でももっと、恋人らしくキスだってしたいし、それよりもっと深い繋がりだってしたい。
要するに、セックスしたい。アホみたいにお前とヤリまくりたい。
お前のことをグチャグチャに犯したいとさえ思う。
きっとお前がドン引きするぐらいのことだってしたいって考えてる変態だ。
そうやって、めちゃくちゃセックスして……。
……それから、お前に言いたいんだ。
愛してるって……ちゃんと、お前の前で、はっきりと。
こんな風に、お前が寝てる隙に、独り言みたいに言うんじゃなくて。
愛してるって……言ってやりたいんだ。
……だけどさ。
俺は、怖いんだ。
お前とそうやって愛し合って……その結果で、俺が人の親になるっていうことが。
情けないけどさ、怖いんだよ。
俺みたいな奴が親になれるのかって。
……赤ん坊の頃には、俺はもうこの家に引き取られてたんだ。
別に引け目を感じてるだとか、そういうことはない……と、思う。
愛するお前はもちろんのこと、正直言って認めるのは非常にプライドが阻害するが……あの色ボケ夫婦だって、家族だって、残念だけど思ってる。
感謝はしてる。感謝はすごくしてる。
俺のことを引き取ってくれて、ちゃんと神社の跡取りになれるようにって、色んなことを教えてくれたこと。
何より……お前の兄貴だなんて、世界一の幸せ者にしてくれたこと。
返せないぐらいの恩があるのは、分かってる。
……だけど、だから、とにかく……怖いんだ。
今度は俺が、そっちの側になること。
俺が親になって、これから生まれてくる娘と、社の跡取りになる息子を引き取ってきて、その親になるってことが。
俺みたいな奴に……ちゃんと子供の世話してやれるのかなって。
……情けないよな、ホントに。
いつも偉そうに兄貴面して、鉄の意志だ鋼の強さだ、そんなことのたまわってるくせに。
カッコ悪いよ、俺は。
弱くて、臆病で、どうしようもないぐらい見栄っ張りで。
腸が煮えくり返るぐらい癪だけど、あの色ボケ埒外の言うとおりの、ムッツリ助平のチェリーボーイだ。
……思い切りぶん殴ってやりたい。自分と、ついでにあの色ボケ埒外も……。
だから、さ……。
お前にさ、もっと大人になってほしいんだ。
情けない俺が、お前に気兼ねなく甘えられるぐらい。
安心して一緒に、子供を育てられるぐらい。
お前がいるから大丈夫だって、そう思えるぐらい。
もちろん、約束は覚えてる。
俺は絶対にお前のことを幸せにしてみせる。いくら俺が情けない奴でも、それだけは自信持って言える。
な……? だからさ……。
お前がこんなに可愛くて、こんなに俺のことを夢中にさせてるんだから。
……責任取って、責任を取らせてくれよな。
もう大丈夫だって、安心して……。
……………………。
……その時には、しっかりプロポーズもしなきゃな。
もうとっくに、婚姻届だって準備してるんだぞ?
指環だって、あんなおみくじじゃなくて、本物を用意してるんだ。
嫌がってもダメだからな? その薬指にスッポリ嵌めてやる。
泣こうが喚こうが、絶対に逃がしてやらないからな。あっはっは……。
……な? ちゃんと、お前のこと、幸せにしてみせるから。
約束したんだもんな。あの時、結婚するって……。
……………………。
「――にぃ、さまぁ……」
……お?
「おにい、さまぁ……!」
……なんだお前、起きてやがったのか? この妖怪『狐寝入り』め。
「ぐすっ……ちがい、ますぅ……これは、ひっく……ねごと、なんですぅ……!」
そうか、寝言か。じゃあ安心して喋ってられるな。
「おにいさまぁ……! ちゃんと、ウチ……ひくっ……お、おとなに……なりますから……!」
おーおー、やっぱり寝言だな。お前の口からそんな殊勝な言葉が出るんだもの。
「ちゃんとおとなになりますから……っ! だから、おにいさまぁ……っ!」
寝言を言いながら泣くなんて器用なヤツめ。ほれ、頭を撫でてやろう。
「おにいさまぁ……っ! ぅぁ、ぁ、あいしてます……っ! おにいさまぁ……っ!」
……俺も、愛してるよ。
「はいっ……はいっ……!」
さ、寝るかぁ……って、コイツはもう寝てるんだっけ。
「ぐすっ……はぃっ、ウチはもうねてます……ぐっすりです……!」
よしよし、それじゃあもっと良く眠れるように抱きしめてやらないとな。
「おにいさまぁ……」
まったく、まだまだお兄様離れは遠いかな……。
「だいじょうぶです……ウチはちゃんと、りっぱなおよめさんになってみせます……」
……そっか、良かった。それじゃあ――
――おやすみ、キツネ。
「――おやすみなさい、お兄様――」
「――いえ――」
「――おやすみなさい、キョウスケさん――」
――おしまい。
18/06/04 20:06更新 / まわりの客