恋の病の治し方。
時刻は、日もすっかり西へと傾いた夕暮れ時。
「じゃあ、また明日っ! バイバイ、ワンダちゃん!」
「うん、また明日、リリィちゃん!」
学校が放課を迎えて、歩き慣れた通学路を下校している最中のわたしは、学習鞄をブンブンと頭の上で振り回しながら元気に別れの挨拶を送ってくる友達に、小さく手を振り返しました。
“アリス”であるわたしと、“サキュバス”であるリリィちゃん。
種族的に近しくて、また同じクラスで席も隣同士なわたしたち二人は、普段からとても仲良しです。帰り道も途中まで同じなので、学校が終わるとよくこうして一緒に下校したり、近くの公園に遊びに行ったりしています。
わたしはあまり体力が無いので、元気いっぱいのリリィちゃんと遊ぶのは少し疲れます。けれども、いつも楽しそうなリリィちゃんを見ているとこっちまで楽しくなってくるので、一緒にいて飽きることはありません。
リリィちゃんの背中を見送ったあと、さぁわたしも帰ろうと、自分の行く道に歩を進めます。
「……あ、そだ! あのね、ワンダちゃん!」
「え、なあに?」
そのとき、なにやら思い出した様子のリリィちゃんの声が、わたしの足を引き留めました。
びっくりして振り向いたわたしにパタパタと駆け寄ってきた彼女は、内緒話をするように、そっとわたしの長い耳に唇を寄せて。
「今日教えたげたアレの感想、あとで聞かせてね……♪」
「……えっ!? あ、う、うん……やってみる……」
「わたしもマサヒコがお仕事でいないときに、マサヒコのことを考えて“そうなっちゃった”ときは、いっつも一人でシちゃってるの。……だから、効果は実証済み、だよ♪」
リリィちゃんの言う“マサヒコ”さんというのは、リリィちゃんの恋人さんです。
以前リリィちゃんがここからずっとずっと遠い国で迷子になったときに助けてくれた人らしくて、今では彼女が大人になったら結婚する約束をしているくらいラブラブなんだそうです。なんだかおとぎ話に出てくる騎士様と王女様みたいで、少し憧れます。
ぴょんと一歩離れたリリィちゃんは、にひひと悪戯げに笑って。
「だから、ワンダちゃんが“お兄ちゃん”のことを考えて、“オカシク”なっちゃったときも……ね?♥」
「わ、わっ。言っちゃダメだよぅ……!」
「むぐぅ」
リリィちゃんの口から飛び出た言葉に、わたしはなんだか急に恥ずかしくなって、リリィちゃんの口を慌てて塞ぎました。
わたしの顔はたぶん、真っ赤っかになっちゃってると思います。西の空で同じように燃えてる夕日が、ほっぺの色を隠してくれてるといいんだけど。
「ぷはっ、まぁ、話はそれだけ! じゃ、今度こそバイバイっ♪」
「ば、ばいばーい……」
リリィちゃんは元気いっぱいにぶんぶんと手を振りながら、跳ねるように道の上を駆けていき、すぐに並木の陰に入って見えなくなりました。
マサヒコさんに会うのが楽しみで仕方がないのでしょう、翼と尻尾がハタハタと揺れて、今にもお空に飛び上がりそうになっていたのが、彼女を見送ったわたしの瞳にいつまでも焼き付いていました。
なんとなく、後ろ髪を引っ張られているように感じながら、帰り道を数歩歩いて。
「……もしかして」
ふと、一つの考えが頭をよぎりました。
「……わたしも、お兄ちゃんに会いに行くときは、あんな風に見えてるのかなぁ……」
これから行く場所を想い、ハタハタとエプロンドレスのスカートを揺らしていた自分の翼と尻尾に気が付いて、ほっぺがより熱くなっていくのを感じました。
「……こんにちは。ランドお兄ちゃん、いる?」
いつものように、合い鍵を使ってお家の中に入ったわたしは、廊下の奥に向かって声を上げました。帰宅したときの挨拶が“ただいま”じゃなくて“こんにちは”なのは、ここがわたしの本当のお家ではないからです。
「ん、はーい」
廊下の突き当たり、リビングとキッチンに続くドアの向こうから声が届きました。
しばらくして、わたしより一回り年上の男の人がエプロン姿で現れます。
この人がわたしの、“お兄ちゃん”。
「おかえりなさい、ワンダ。今日も、リリィちゃんと一緒に帰ってきたのかい?」
お兄ちゃんの柔らかな表情を見て、優しげな声を聞いた、その瞬間。
心臓がトクンと跳ね上がり、ぶるぶるとした震えが足のつま先から頭のてっぺんまでを一気に駆け上がりました。それは決して、身体が凍えてしまったからではありません。イヤな感覚でももちろんありません。
それは、温かなお風呂に肩までじっくりと浸かったときのような、とても心安らぐもの。
じんわりと、身体の芯まで暖かくしてくれるもの。
「……うん」
「そっか。いつも仲が良いようでなによりだよ。……今日も確か、叔父さんたちの帰りが遅い日だったよね? しばらくしたら夕ご飯もできるから、待っててね」
「はぁい」
「あとで家まで送ってく? それとも、今日は泊まってくかい?」
「お外も暗くなってきちゃうだろうから、泊まってく。……いつもありがとね、お兄ちゃん」
「どういたしまして。昔からの誼(よしみ)なんだから、いつでも頼ってくれて構わないよ」
いつもお決まりの、他愛ない言葉のやり取りが、ほんのりと暖かい。
お兄ちゃんはにっこり笑うと、ゆったりとした足取りでリビングの明かりの中に戻っていきました。お兄ちゃんの朗らかな笑顔と声が頭から離れず、わたしはついぽーっと立ち尽くしてしまいます。
「……ワンダ? どうしたの?」
「……あっ、ごめんなさい、今行くっ!」
顔だけひょっこりと覗かせたお兄ちゃんの声ではっと我に返ったわたしは、頭をブンブンと左右に振って、ピンク色になった気持ちを散らします。
ぼさぼさになってしまったブロンドの髪の毛をさっとまとめて、お気に入りの赤い靴の底についた土を慌てて落として。わたしは、お兄ちゃんのあとを追いかけました。
ランドお兄ちゃんは、わたしの従兄にあたる人です。
わたしのお父さんとお母さんは、商業地区の中心にある大きなお店の偉い人をしています。
毎日とても忙しいらしくて、そのためどうしてもお家に居る時間が少なくなってしまうので、わたしは小さいころから親しい伯父さんと伯母さんのお家……ランドお兄ちゃんのお家に預けられることが多かったのでした。
今でこそ、お屋敷――お父さんもお母さんも前よりもっと偉くなったので、数年前に引っ越しました――にはお手伝いさんが何人も住み込むようになり、一人でお屋敷でお留守番していても大丈夫にはなりました。
……けれど、わたしにとってのもう一つの家族が暮らしているこのお家は、わたしがこの世で最も安心できる居場所の一つであることに変わりはありません。今日みたいに学校が終わるといつも……いえ、たとえ休みの日であっても関係なく毎日のように、わたしはこのお家に遊びに来たり、泊まりに来たりしているのでした。
……はっきり、言ってしまえば。
ランドお兄ちゃんに、会いに。
小さいころからわたしといっぱい遊んでくれて、寂しくなったときはいつも一緒にいてくれて、風邪を引いたときには一晩中看病もしてくれた。
わたしの本当の兄妹のように、いつだって優しい笑顔と言葉を与えてくれた、大好きなお兄ちゃん。
……そんなお兄ちゃんへの「好き」の意味が、言葉としてはほんのちょっぴり、けれどもわたしの中ではとっても大きく変わってしまったのは……今から、ほんの一ヶ月前のことだったでしょうか。
靴底の汚れを落とすのに手間取って、少し遅れてリビングのドアを抜けると、お兄ちゃんは台所に立ってお料理をしている真っ最中でした。リビングを見渡せるダイニングキッチンの向こう側で、お兄ちゃんはせっせと動き回っています。
「ん〜〜っ! 美味しそうなにおい!」
リビングに入った途端、ヨダレが垂れ落ちそうなくらい良い香りが、肺をいっぱいに満たしてきました。
「今日の夕飯は、ワンダの好きなものを作ってみたんだ。いったい何だと思う? ……もし正解したら、とっておきのデザートをプレゼント」
「ホントっ!? えっとね、うーんとぉ……」
わたしはアゴに手を添えながら、キッチンから聞こえる音に耳を澄まします。
トントントンと包丁でまな板を叩く音、ザクザクザクとお野菜が切られる音、グツグツグツとお鍋が煮える音が、辺りに響いています。嗅ぎ慣れたコンソメスープの香りが部屋中に漂っているのを考えると……たぶんお鍋の中身は、お野菜のスープでしょうか。
以前リリィちゃんに話したときは渋い顔をされたけれど、お野菜の歯ごたえのある食感と、お菓子とはまた違う甘さがわたしは好きです。
「お野菜のスープ! キャベツとニンジンとトマトの入ったやつ!」
「おお、正解っ! すごいな、具材まで当てるとは、いったいどんな魔法を使ったんだい?」
「だって、そこの台の上に置いてあるもん」
「……しまった」
わたしの立っている場所からも見えるところに置いてあるトレーの中身を指差すと、お兄ちゃんはイタズラがバレた子供みたいに苦い顔をしました。
なんでもテキパキとこなすいつものお兄ちゃんも格好いいけれど、たまにこうして抜けたところを見せるお兄ちゃんも、ちょっぴり可愛いです。
「それで、とっておきのデザートって、なあに?♪」
「むむむ、まぁ正解は正解だから仕方ない……さて、冷蔵庫からお目見え致しますは……」
「仕方ない」なんて言ってるけども、仮にわたしが答えを間違っていたとしても、なんだかんだでお目見えさせるつもりだったんだろうなぁ……なんてことを考えながら、わたしはワクワクした気持ちでデザートの登場を待ちます。
リビングの真ん中に置かれたソファに飛び乗って、背もたれから身を乗り出しながら、両足と翼と尻尾をパタパタ。待ち遠しくて、ついつい身体が揺れてしまいます。
「……じゃん! 母さんお手製の、チョコレートプリン!」
「わぁ……!」
わたしは思わず、喜びの声を上げました。
お兄ちゃんが冷蔵庫から取り出したのは、ガラスの容器の中でプルプルと震える焦げ茶色のプリンでした。おばさんの作るチョコレートプリンはとびきり甘くて美味しくて、舌の上でトロリととろける、小さいころからのわたしの大好物です。
「ばっちり正解したワンダには、こっちの一回り大きいプリンを進呈しよう!」
「やったぁ! ……あれ? そういえば」
ふと疑問に思うことがあって、お兄ちゃんに尋ねます。
「おじさんとおばさんは? お家の中にはいないみたいだけど」
「父さんと母さんは、『ポローヴェ』まで旅行してくるって、朝早くに出かけていったよ」
「え、そんな話してたっけ?」
「『言うのすっかり忘れてた』、だってさ。全く、相変わらずのほほんとしてると言うかマイペースと言うか……」
「あはは、おじさんたちらしいね」
「お詫びにおみやげ、買ってくるってさ。楽しみだね」
「うんっ!」
「あと少ししたら夕飯できるから、もうちょっと待っててな」
「はーいっ!」
そのままお料理に戻るお兄ちゃん。
フンフンと小さく鼻歌を歌いながら、着々とお料理の仕上げを終えていきます。
その姿を、わたしはソファの背もたれの上で腕枕をしつつ、じぃっと眺めていました。
(……あぁ、もう)
楽しそうなお兄ちゃんの顔を、ぼんやりと見つめていると。
(楽しいなぁ……)
わたしも、同じ気持ちになってきます。
お兄ちゃんと一緒にいると、必ずそう思えてきます。
(格好いいなぁ。優しいなぁ。素敵だなぁ)
必ず、そう思えます。
(……好き、だなぁ……)
必ず、そう、思えるんです。
(好き、好き。大好き)
頭の中が、「好き」の気持ちだけでいっぱいに埋まっていきます。
息苦しいくらい胸の真ん中が締め付けられて、けれどもそれが、なんだか心地いい。
まぶたがトロンと落ちてきて、お兄ちゃんの顔から目が離せません。
ほっぺが勝手に熱くなってきて、頭のてっぺんまで茹で上がりそうです。
身体の力がだんだんと抜けてきて、自然とため息が漏れてしまいます。
心臓の鼓動が耳の奥でトクントクンと鳴り響いて、周りの音がなんにも聞こえなくなってきます。
お鍋の煮える音も、食器洗いをする音も、お兄ちゃんの鼻歌も。
そして。
(……あーあ。また、こうなっちゃった)
いったい、どうしてなのか。
こんな風にお兄ちゃんのことばかりを考えていると、決まっておヘソの下の辺り、おしっこをするところの上の辺りが、キュンキュンとしたナニカで疼き出してしまうのです。……わたしの身体が“オカシク”、なってしまうのです。
(どうして、こんな風になっちゃうんだろ……)
せつないような、もどかしいような。
それでいて全然イヤな感じじゃあない、不思議な感覚。
あんまりもどかしいものだから、わたしは太ももの内側をもじもじと擦り合わせます。……そんなことしても、それで治まったことなんて一度も無いんだけれど。
一度こうなってしまうと、身体も顔も余計に熱くなって、風邪を引いたときみたいに頭がボーッとして、お兄ちゃんのこと以外が頭に入らなくなって。お勉強や宿題に身が入らなくなったり、夜もなかなか寝付けなくなることがしょっちゅうあります。
もう一度言うと、それは決してイヤな感覚ではありません。
お兄ちゃんのことばかり考えてしまうのも、もちろん、イヤなわけはないのです。
……けれども、学校のお勉強や生活に支障が出てしまうのは、少し考え物です。
わたしの身体がこんな風にオカシクなっちゃった原因は、なんとなく想像がついています。
それは、一ヶ月前のあのとき。
お兄ちゃんと……
(お兄ちゃんと、恋人どうしになりたいと思っちゃったから……?)
また、キュンと、おへその下が疼きました。
『今日教えたげたアレの感想、あとで聞かせてね……♪』
ふと、帰り道でのリリィちゃんの言葉が頭に浮かびました。
一仕事終えたらしいお兄ちゃんが、わたしに目を向けます。
お兄ちゃんとぼんやり見つめ合いながら、わたしは膝立ちになっている両脚をほんの少しだけ広げました。
『“そうなっちゃった”ときは、いっつも一人でシちゃってるの。……だから、効果は実証済み、だよ♪』
わたしに“それ”を教えてくれた、先輩であるリリィちゃんがそう言うのだから、きっと効果ばつぐんに違いありません。
お兄ちゃんが何か声をかけてきます。耳奥で鳴り響く心臓の音と混ざり合って、何を言っているのかはよくわかりません。
わたしは右手を下半身に伸ばして、スカートの中に潜り込ませました。初めてすることへの不安と緊張からか、ふぅふぅと勝手に息が荒くなってきます。
『だから、ワンダちゃんがお兄ちゃんのことを考えて、“オカシク”なっちゃったときも……ね?♥』
パンツの上から、そっとおまたに指先を触れさせます。
リリィちゃんに教えてもらった“それ”は、大好きな人のことを考えて、ドキドキやキュンキュンが止まらなくなっちゃったときにするマッサージ。
“おなにー”って、言うらしいです。
「……ワンダっ!」
「ひゃっ!?」
突然、お兄ちゃんが大きな声でわたしを呼びました。
思わずびくりと肩を跳ね上げたわたしは、咄嗟にスカートから手を引き抜いて、脚をぴたりと閉じ合わせます。
「な、なあに? お兄ちゃん」
もしかして、おなにーしようとしてたのが、バレちゃった?
さっきとは別の意味で、心臓がドキドキと跳ね続けています。
別に、悪いコトをしようとしていたわけではありません。
ただ、友達に教えてもらったマッサージを少し試そうと思っただけ。
……それなのに、とてもイケナイコトをした気分になってしまったわたしは、こちらに足早に歩いてくるお兄ちゃんの顔を呆然と見上げているしかありませんでした。……お兄ちゃんの声が、いつになく強い口調だったから。
「……ワンダ。もしかして」
「……っ!」
お兄ちゃんの手のひらが、わたしの顔に迫ります。
もしかしたら、怒られちゃうのかも。叱られちゃうのかも。
わたしは怖くなって、大好きなお兄ちゃんに叱られてしまうのが怖くなって、ぎゅっと目を瞑りました。
ぴたり、と。
「んぅっ……?」
何かひんやりとしたものが、わたしのおでこに当てられました。
熱くなった顔が冷やされて、気持ちいい。
おそるおそる目を開けると、そのひんやりとした何かは、水仕事ですっかり冷たくなったお兄ちゃんの手のひらでした。腕越しに見えたお兄ちゃんの顔は、心配そうな色に染まっています。
「……なんだか様子がおかしいと思ったら、ちょっと熱っぽいじゃないか……」
「……ふぇっ?」
お兄ちゃんはその場に片膝をつくと、きょとんとするわたしの顔を真っ直ぐに見つめてきます。
どうやらお兄ちゃんは、わたしが風邪を引いてしまったのだと勘違いしているみたいでした。
おなにーしようとしていたのがバレたわけではなさそうです。
わたしのことを心配してくれているなか、とても不謹慎だとは思いますが、ついつい心の中でほっと溜め息をついてしまいます。
「ここ最近、どうも反応がぎこちないなと思ってたけど……もしかしたら、ずっと調子が悪かったんじゃないのかい?」
「…………」
一ヶ月前からのわたしの“変化”は、お兄ちゃんにはお見通しだったみたいです。
もちろん、身体の調子は悪くありません。それどころか、気分も体調も絶好調です。
……けれど、わたしの身体が別の意味でオカシクなってしまっていたのは、本当のことです。
お兄ちゃんの推測が間違ってるとも、その通りだとも言い切れず、わたしはただ黙っていることしかできませんでした。わたし自身、自分の身体についてどう説明していいか分からないのもあります。
思わずお兄ちゃんから目を逸らして、顔を俯けてしまいます。
カッチコッチ、カッチコッチ。
壁に掛けられた時計の針の音と、針が進むたびに沈んでいく気まずい空気。
それだけが、わたしたち二人のあいだを通り抜けていきました。
「……ふぅ」
しばらくして。お兄ちゃんは一つ、溜め息をつきました。
もしかしたらゲンメツされちゃったのかもしれない。そう思って慌てて顔を上げたわたしの頭を、厚くて大きな手のひらがフワフワと撫で付けました。髪の毛が乱れないように、引っ張られて痛くならないように気を遣った、優しい撫で方。
「……ごめん。責めるような言い方になっちゃったね」
困った顔でそう言うお兄ちゃん。
「……そんなこと、ない」
本当に、そんなことはありません。お兄ちゃんは心配してくれただけ。
悪いのは、オカシクなった身体のことをリリィちゃん以外に相談できなかった、わたしのほう。
身近な人に話すのは恥ずかしいから、迷惑をかけたくないからといって何も話さず、結局はこうしてお兄ちゃんを困らせることになってしまった、わたしのほう。
それが分かっているのに、いまだにお兄ちゃんに打ち明けようという気にはなれないわたし自身が、今はとってももどかしい。
……お兄ちゃんのことが好きすぎて、身体がなんだかオカシクなりました、なんて。
恥ずかしくって、とてもじゃないけど本人には言えません。
「幸い、そこまで熱はないみたいだけど……念のため、自分の部屋で休んできたほうがいい。あとで夕飯と、温かい飲み物を持って行ってあげるから」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
わたしは全然大丈夫。……って、本当は言いたかったけど。
これ以上お兄ちゃんを困らせてしまうのがイヤで、わたしは素直に頷きました。
ソファからストンと降りて、先ほど入ってきたリビングの出入り口へと歩いていきます。
わたしがこのお家に泊まるときに使っているお部屋は二階にあります。
二階に向かう階段は、リビングを出た先の廊下の途中です。
リビングから出るとき、わたしはちらりと後ろを振り返りました。
笑顔ではありますが、明らかに心配そうなお兄ちゃんの視線がわたしを見つめていました。
……これ以上、心配をかけたくありません。
早く、おヘソの下の“オカシイ”を、どうにかしなきゃ。
……早く、治さなきゃ。
階段を上りきって、二階の廊下の突き当たりにある自分のお部屋に向かっていたわたしは、廊下の途中にある別のお部屋の前で立ち止まりました。足が勝手に止まった、と言ってもいいかもしれません。
そこは、ランドお兄ちゃんのお部屋。
わたしの足が、独りでに動き出しました。
まるで吸い込まれるようにふらふらと、お兄ちゃんのお部屋に近づいていきます。
わたしの理性は、早く自分の部屋に行くべきだと必死に囁いています。……けれども、相変わらず熱に浮かされてボーッとした頭には、その囁きを聞き入れる余裕なんてどこにもありませんでした。
ついには腕と手までもが勝手に動き出して、しっかりとドアノブを握ってしまいます。もはや、身体は言うことを聞いてくれません。音を立てないようにそっとドアを開けると、わたしの身体は滑り込むようにお部屋の中に入って行ってしまいました。
「何やってるんだろう、わたし……」
ドアを閉めたわたしは力なく呟きながら、お兄ちゃんのお部屋の中を見回します。
物で溢れてはいるけれど、それぞれが綺麗に整理整頓されたまとまりのあるお部屋。
本棚、クローゼット、机と椅子に、お兄ちゃんがいつも寝ているベッド。わたしがお部屋に遊びにきた用の可愛らしいウサギのクッション。窓から差し込むオレンジ色の夕日。
足がまた、独りでに動き出します。
お仕事で使う資料や趣味の小説で埋め尽くされた本棚に、おじさんおばさんが旅行先で買ってきたおみやげが等間隔で並べられた棚の前を通り過ぎて。
わたしの身体は真っ直ぐ、お兄ちゃんのベッドへ倒れ込みました。
逸る気持ちのままに靴を脱ぎ散らかして、真っ白なシーツの上に横になります。
(……何、やってるんだろう……)
もう一度、そんなことを考えてしまいます。
それも当然の話です。わたしは風邪を引いていることになっていて、自分のお部屋で休むことになっていて、後でお兄ちゃんがお食事を持ってきてくれることになっていて。
わたしは、このお部屋にいるべきでは、ありません。
(でも。だって)
お兄ちゃんのことで、頭がいっぱいになった今のわたしは。
おへその下が疼いて疼いて、仕方のなくなった今のわたしは。
(ちょっとだけ、ちょっとだけ……)
お兄ちゃんがお食事を持って二階に上がってくるまで、どのくらい掛かるでしょうか。
三十分くらいかも。もしかしたら、十分くらいで来ちゃうかも。
でも、大丈夫です。すぐに終わらせるから。お兄ちゃんが来る前に全部終わらせるつもりだから。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけです。たぶん、五分か六分くらい。
わたしは横になったまま、ベッドの上のほうを見上げます。
そこには、お兄ちゃんがいつも使っている枕がありました。
わたしはそれを引き寄せて、ぎゅうっと顔に押しつけて……
「……すぅ〜〜……♪」
思いっきり、息を吸い込みました。
女の子の匂いとは全然違う、男の人特有の濃い匂いが、わたしの肺をいっぱいに満たしていきます。同時に、とても大きな充足感がわたしの身体の隅々まで駆け巡っていきました。
お兄ちゃんの匂いを嗅いでいると、お兄ちゃんに抱き締められてるみたいでとても落ち着きます。昔、わたしが泣いちゃったときはよくそうして慰めてもらったっけ。
ヒトの物を勝手に使うのは本当はいけないことなのでお兄ちゃんには秘密にしていますが、イヤなことがあったり寂しくなったりしたときは、たまに内緒で、お兄ちゃんの枕に顔を埋めていたりします。
つまりは、お兄ちゃんの匂いが、おへその下の疼きを落ち着かせる手助けになるかなぁって。
いっそのこと、治まってくれないかなぁって。そんな期待に想いを寄せていました。
わたしは息が苦しくなるまで、お兄ちゃんの匂いを吸い込み続けて。
「……ふはぁ〜〜……っ♪」
名残惜しさを感じながら、ゆっくり、ゆっくりと息を吐きました。
そのときです。
(あ……っ?)
ジュン、と。
おまたの真ん中あたりに、小さな水気を感じました。
(あ、あ、うそ。……また、やっちゃった……?)
わたしはエプロンドレスのスカートをおそるおそる捲り上げます。
丸見えになったパンツ――可愛いピンク色のリボンが付いた、わたしのお気に入りです――の中心に触れると、案の定、クロッチのあたりが小さく濡れていました。
指にくっついた液体を擦り合わせると、かすかにヌルヌルとしています。指と指とを離していくと、液体はヨダレのように小さく糸を引きました。それはおしっこと違って色は付いておらず、無色透明に窓からのオレンジを反射しています。
わたしの身体はオカシクなるとたまに、この液体が出てきてしまうのです。
(お兄ちゃんの匂いを嗅いだだけなのに……)
けれど、お兄ちゃんの匂いを嗅いだときに出てきたのは、これが初めてでした。
嗅ぐと気持ちが落ち着く匂いだから、オカシクなった身体の方も落ち着いてくれると思っていたのに。
それどころか、さっきよりも余計にドキドキやキュンキュンが強くなってきている気がします。
もしかしたらオカシクなっているときにお兄ちゃんの匂いを嗅ぐのは、逆効果だったのかもしれません。期待はあえなく、早々に潰えてしまいました。
(おしっこを漏らしちゃったわけじゃないのは、分かってるんだけど……)
初めてパンツを濡らしちゃったときは、まさか中学年にもなっておしっこを漏らしてしまったんじゃないかと、とても慌てたものです。
臭いもしないし色も付いていないから、なんとなくおしっことは違うらしいということは分かったけれど、なにやらヌルヌルした得体の知れないものがおまたから出てくるなんて、何かの病気になったのかもしれないと不安になりました。
それが、お父さんやお母さん、そしてお兄ちゃんになかなか相談できなかった、大きな理由でもあります。
……けれど今日、学校でリリィちゃんに聞いたところによれば。
『それはおしっこでもなければ、病気でもないよ。好きな人のことを考えてると、自然と出てきちゃうものなの。わたしもマサヒコのこと考えてるとよくそうなるから、ダイジョーブ♪』
と、いうことらしいです。
おしっこでもなく、病気でもないと分かって少し安心しました。
……けれど、それでも自分にとってよく分からないものがパンツに染み付いてしまうのは、流石にちょっと抵抗があります。下手に汚しちゃって、お母さんに怒られるのもイヤだし。
……だからといって、お兄ちゃんのことを考えるのを、止められるわけないのだけれど。
(……それもこれも……)
お兄ちゃんに、あんなことをされちゃったから。
わたしの身体がこんな風になってしまった原因だろう出来事を思い浮かべて、わたしはほぅと溜め息をつきました。
(お兄ちゃんが、わたしに、キスしちゃったから……)
一ヶ月前のある日の朝、わたしはお兄ちゃんに、キスをされてしまったのでした。
それも、おでこやほっぺにするキスではなく、恋人どうしがするような唇と唇を合わせるキス。
とはいえ、そのことをお兄ちゃんは覚えていないと思います。
お兄ちゃんはとても朝が弱く、起き抜けはいつも寝ぼけています。
そして寝ぼけているときのことは、さっぱり覚えていないのです。
つまりはその日の朝も、お兄ちゃんは明らかに寝ぼけていたのでした。
わたしがこのお家にお泊まりをする場合、寝坊助なお兄ちゃんを起こしてあげるのはわたしの役目です。
その日も、わたしはいつものようにお兄ちゃんのお部屋にこっそり忍び込んで、お兄ちゃんの可愛らしい寝顔をじっくりと観察したあと、さぁいざ起こそうと、お兄ちゃんの身体を揺さぶるためにそばに近づいて。
突然、ベッドの中から伸びてきた腕にぐぃっと抱き寄せられて、キスをされてしまいました。
びっくりして、目を白黒させて固まるわたしから、そっと唇を離したお兄ちゃんは。
『……おはよう、僕のワンダ』
……なんて言って!
そのままお兄ちゃんはゆっくりと目を閉じ、再び安らかな寝息を立て始めました。
……わたしはといえば、心配して様子を見に来たおばさんに声を掛けられるまで、長風呂しすぎたスキュラさんのように顔中を真っ赤に染め上げながら、その場にぺたりと座り込んでいたのでした。
その日以来、お兄ちゃんに対する「好き」の意味は、大きく変わってしまいました。
それまでは、お風呂上がりに裸でリビングをうろついているところをお兄ちゃんに見られても、何とも思わなかったのに。お兄ちゃんがベランダに干してあったわたしの服や下着を取り込んでいても、何とも思わなかったのに。……嬉しいときや楽しいときに、大好きなお兄ちゃんの身体にぎゅうって抱き付いても、何とも思わなかったのに。
お兄ちゃんにキスをされてから、お兄ちゃんと恋人どうしになりたいと思うようになってから……
わたしの裸や下着を見られてしまうのはもちろん、お兄ちゃんに抱きついてゴロゴロと甘えることすらも、恥ずかしいと思うようになってしまいました。
わたしの身体がオカシクなってしまったのも、このときからです。
(……はやく、治さなきゃ)
いつまでもこの調子では、また今日みたいに迷惑をかけてしまうかもしれません。心配させてしまうかもしれません。……それどころか、オカシクなったわたしに愛想を尽かしてしまうかも。
……お兄ちゃんに嫌われてしまうことだけは、絶対に、絶対に。
避けなければいけないのです。
ドアの方を見て、耳を澄まします。
お兄ちゃんが二階に上がってくる気配は、まだありません。
わたしはリリィちゃんの言葉を必死に思い返します。
リリィちゃんは何も分からないわたしに、おなにーのやり方を親身になって伝授してくれました。
『お兄ちゃんのことを考えて、おへその下がキュンってしたり、パンツが濡れてきちゃったりしたときは……おまん、ゴホン、おまたのところを優しく揉んであげるといいよ♥ 身体の力を抜いてリラックスしながら、ゆっくりと、ね?♥』
「本当に、こんなことして良くなるのかなぁ……」
思わず、疑問が口をついてしまいます。
教えてもらっておきながら失礼な話だとは思いますが、正直なところ、リリィちゃんの言うことには半信半疑でした。おまたをマッサージするだけで、オカシクなった身体が良くなるなんて。
実際、トイレでおしっこを拭くたびにおまたには触れるけども、それで特別何かが起きたことはありません。
しかしそれでも、何もしないよりマシであることには違いありません。
わたしは床に置かれていたウサギのクッションをベッドの上まで引っ張ってきて、そこにゆったりと背中を預けました。身体の力を抜いて、リラックス。
(確か、おしっこが出るところより、少し上のほう……最初はパンツの上から、優しく……)
スカートは捲り上げたまま、両脚を少し広げて。
リリィちゃんに教えてもらったやり方の通りに、右手の指をパンツの上へ導いていきます。
(このへん、かな……せーの、えいっ!)
わたしは大体の場所に狙いを定めて、指先にぐっと力を込めました。
「――――ひゃっ!?♥♥」
ビクン、と。
小さな悲鳴とともに、わたしの下半身が勝手に跳ね上がりました。
指先で押し潰した部分……おしっこが出るところの上あたりにある小さな突起を中心に、雷に打たれたかのようなビリビリとした衝撃が身体中に走り抜けていきます。
けれどその衝撃は、真冬に金属製のドアノブをうっかり触ってしまったときのような、痛みを伴うものとは違います。それはとても刺激的で荒々しいけど、胸の奥がジーンと暖かくなるくらい、どこか安らぎを得られるもの。
衝撃のせいか、カクカクと小刻みに震えている足腰を見つめながら、わたしは目をぱちくりと瞬かせて、しばらく呆然としてしまいました。
「な……なにこれぇ……♥」
一体、何が起きたというのでしょうか。
今のたった一瞬で、近所をひとっ走りしてきたように息がはぁはぁと荒んでいます。
「も、もう一回……」
わたしは今起きたことを確かめるために、おっかなびっくりさっきの場所に指を伸ばします。
あまりに強い衝撃だったので、もう一度触れるのは少し怖いのが本音です。
……けれど、怖いけれども。わたしの心の奥底から急激に湧き上がってくる、今起きたことへの好奇心。それを追い求めることのほうが、どうしてだかとても大事なことのように思えました。
覚悟を決めたわたしは、ジンジンと急速に熱を持ち始めた気がするそこに、今度はそっと触れて。
「ん、んんんぅ……っ♥」
突起をくにくにといじくると、さっきより少し弱めの電流がおまたを痺れさせました。
それは、まるで砂糖と蜂蜜をふんだんに使ったお菓子のように甘い甘い痺れで、指で突起を押し潰すたびに、水面の波紋みたいに全身へじんわりと広がっていきます。わたしの考えてることとは関係なしに、細い両脚がピクピク跳ねているのが、なんだか面白いです。
「すごい……こんなの、知らないよぉ……っ!?♥」
生まれて始めての、未知の感覚。
おまたのマッサージを続けながら、この不思議な感覚は一体何なのだろうと考えます。
ビリビリするけど、痛くはありません。マッサージを続けるごとにどんどん身体中が熱くなっていき、少しずつ汗ばんでいきます。心臓が今までとは比べものにならないくらいドキドキしてきて、身体の力が入ったり抜けたりを繰り返しています。頭がだんだんフワフワとしてきて、まるでお兄ちゃんに抱き締められてるときみたいに気持ちいい。
(あ、そっか……)
そこまで考えて、わたしはこの感覚の正体に気が付きました。
「気持ちいい……キモチイイんだ、これ……♥ ふわ、ぁああ……!♥♥」
それを理解した途端、キモチイイのが倍になったような気がしました。
それと同時に、パンツの湿り気がさっきよりも広がっていることに気が付きました。今ではクロッチ部分全体が、わたしのおまたから出てきたヌルヌルでしっとりと湿っています。ここまでパンツが濡れてしまったことは、今までありませんでした。
マッサージをすれば止まると思ってたのに、どうして?
もしかして、おなにーをしているあいだはずっとこんな感じ?
なんにせよ、このままパンツを汚し続けていたら、あとで本当にお母さんに怒られてしまいます。
……けれども、そうは思いながらも、わたしの指はおなにーしたまま止まることはありませんでした。
「ゆび、勝手に動いちゃ……っ♥ 止まらない、止まらないよう……!♥」
止めなくちゃ、とは頭のどこかで思っています。
思っていますが、わたしの想いとは無関係に、わたしの指は勝手に動き続けてしまいます。
小さな突起をこねこねと指先で揉んでいけばいくほど、パンツの汚れなんてどうでもいいと思えるくらいの気持ちよさが頭の中身をぐるぐると掻き混ぜて、止めなくちゃという想いを消し去っていくのです。
(止めたく……ないよぅ……っ♥)
体力のないわたしの腕と手は、だんだんと疲れてきます。
けれども、このままクタクタに疲れ果てちゃったとしても止めようと思えないくらい、この僅かなあいだにすっかりわたしは、おなにーというマッサージに夢中になっていました。
こんなにキモチイイコトがこの世界にあっただなんて、なんで誰も教えてくれなかったんだろう。
そう不満に思い、けれどもすぐにどうでもよくなったわたしは、疲れてきた指の動きを緩めて休み休み、けれども決して指自体の動きは止めることなく、ねちねちとパンツ越しのおなにーを続けていきます。
(……あ、そうだ。まだ、続きがあるって言ってたっけ……)
ふと、キモチイイのが少し弱まったことで、他のことを考える余裕が生まれました。
確か、リリィちゃんに教えてもらったおなにーのやり方には、まだ続きがあったはずです。
(どうするんだっけ、リリィちゃん……?)
わたしは記憶の中のリリィちゃんに問いかけます。
こんなにキモチイイコトのさらに続きだなんて、いったいどんなマッサージなのでしょう。
わたしはそれを一刻も早く知りたくて、うずうずしながらリリィちゃんの記憶のカケラを探し集めました。
リリィちゃんはくすくすと笑って、こそこそとわたしに耳打ちします。
『パンツの上から触るのに慣れてきたらぁ……パンツの中に手を入れて、今度は直接、おまたを触ってみるんだよ♥』
「……ちょくせつ……♥」
心臓がトクトクとリズムを刻み、それに乗って心が嬉しそうにダンスを躍り出しました。
パンツ越しにおなにーするだけでもこんなに気持ちがいいのに、直接マッサージしたのなら、一体どれだけ。ごくりと唾を飲み込んだわたしは、いそいそとパンツの中に手を滑り込ませました。
ヌルヌルの液体でべっちょりになったパンツが、ひんやりと手の甲を濡らします。
お母さん、汚しちゃってごめんなさい。でも、止められないんです。止めたくないんです。
『おまたのヌルヌルを指にたっぷり付けて、それをちっちゃい突起……クリちゃんって言うんだけど。まずはクリちゃんに、ヌルヌルをいっぱいいっぱい、塗り込んであげるの……♥』
リリィちゃんの言葉に従って、おまたとパンツをべちょべちょにしているヌルヌルを指にたっぷりなすりつけます。
『たぶん、オナニーしてるうちにクリちゃんがコリコリって固くなってきてるはずだから……ヌルヌルにした指で、優しく、たっくさん、揉みほぐしてあげてね……♥』
わたしはそっと小さい突起……クリちゃんに指を添えます。
パンツの上からじゃ気が付かなかったけど、直に触ってみれば確かにクリちゃんが固くなっているように思えました。
わたしの身体に、こんな不思議な部分があっただなんて。
わたしは少し感動しながら、リリィちゃんの言うとおりにクリちゃんを揉みほぐし始めます。
お仕事で疲れて帰ってきたお兄ちゃんの肩のコリを、優しくほぐしてあげるみたいに。
「んひゃぅ!♥ ……ん、ん、んんぅ〜〜……っ!♥」
ヌルヌルした指と指のあいだを、コリコリのクリちゃんが滑り、キモチイイのが生まれます。
自分でも聞いたことがない甲高くて奇妙な声が、なぜだか勝手に口から出てきてしまいます。
くちくち、くちゅくちゅという粘っこい水音がおまたからいっぱい聞こえてきて、そのたびに、パンツ越しよりもっとキモチイイのが頭のてっぺんや足のつま先までぶわっと一気に広がっていき、全身がぶるぶると小刻みに震え上がってしまいます。
まるでキモチイイのが身体の内側をいっぱいにして、フワフワと風船みたいにお空へ浮かび上がらせているような心地。
このまま本当にどこかへ飛んでいってしまいそうな気がして、わたしは翼をひっしと畳み、尻尾の先をベッドの柵にくくり付け、足の指でぎゅっとシーツを鷲掴みました。けれど、それでも、このままベッドごと飛び上がりそうな気がしてならないくらいに、おなにーの効果は無限にわたしの身体を埋め尽くしていきます。
オカシクなったわたしの身体を、治すためのマッサージ。
そんなの、絶対ウソです。リリィちゃんがわたしをからかったに違いありません。
「うそつきっ♥ リリィちゃんの、うそつきぃ……っ!♥」
思わずわたしは、記憶の中のリリィちゃんにひどいことを言ってしまいます。
だって、ウソに決まってます。おなにーしても、オカシクなった身体が治るわけありません。
だって。
「どんどん、ひどくなってくるもんっ♥ おヘソの下、キモチイイばっかで全然良くならないもんっ♥ リリィちゃんの、ばかぁ!♥ うそつきぃ!♥」
おなにーを続けて、キモチイイのが強くなってくるたびに。
心臓のドキドキが耳の奥で打楽器みたいに鳴り響いて、おまたの水音とわたしの声以外の音が入ってこなくなります。おヘソの下もわたしの顔も、それ以外も全部ぜんぶが熱病にかかったみたいに熱くって、おなにーすることだけしか考えられなくなっていきます。
どうして、リリィちゃんの言うことが本当だと思えるでしょう。
でも、だからといって。
(リリィちゃん、次は……次はどうすればいいの……?)
わたしにはリリィちゃんを頼る以外、方法はありませんでした。
たとえリリィちゃんに教えてもらったことがデタラメだったとしても、わたしにはオカシクなった身体を治す他の方法が思い付かなかったし……なにより、今さらおなにーを止めようとは……こんなにキモチイくて素敵なコトをこんなところで止めてしまおうとは、到底思えなかったのです。
もっとしたい。もっと、キモチイくなりたい。
そう切に願うわたしに、ニマニマ顔のリリィちゃんは悪戯げな笑みを浮かべると、そっと口を開きました。
『お兄ちゃんのことを、考えてみて♥ ……大好きなお兄ちゃんの手で、ワンダちゃんのクリちゃんをマッサージしてもらってるところを、想像してみるんだよ……♥』
学校でやり方を聞いたときはそういうものかと軽く流し、今考えればとんでもないことを囁いていたリリィちゃんの言葉を思い出したわたしは……
「……あはぁっ♥♥」
無意識に、嬉しそうな声を上げてしまいました。
……もう、嘘とか、デタラメとか。どうでもいいやっ♥
「お兄ちゃんっ♥ ランドおにいちゃぁんっ♥」
わたしはお兄ちゃんの名前を何度も何度も呟きました。
お兄ちゃんの柔らかい顔つきや、優しい言葉や、男の人の匂い。
わたしの頭を撫でてくれる大きな手のひらに、わたしをすっぽりと包み込めるくらい大きな身体。
これまで一緒に暮らしてきたあいだに手に入れた、甘くて幸せな、大好きなお兄ちゃんとの大好きな記憶すべてが、次から次へと蘇ってきます。
わたしは自分の子供っぽい小さな手に、お兄ちゃんの大人の手を重ね合わせます。
お兄ちゃんの手の大きさも、手の形も、ちょっとゴツゴツした肌触りも、目をつむれば記憶の中から簡単に思い起こせる。わたしの手そのものが、お兄ちゃんの手になっちゃう想像を繰り広げながら……
「わたしにいっぱい、おなにーしてください……っ♥」
そのまま、いっぱい、いっぱいおなにーしていきます。
お兄ちゃんの、大きくて、ゴツゴツして、ザラザラした手のひらが、わたしのおまたを、クリちゃんを、優しく、愛おしげに、揉みほぐしてる……!
「お兄ちゃぁん♥ キモチイイよぉ、おにいちゃぁん……っ♥♥ もっとコリコリしてぇ……っ♥♥」
大きな大きな幸福感が、わたしの身体を包み込みます。
お兄ちゃんにおなにーしてもらってるって想像するだけで、今までのマッサージがウソに思えるくらいの甘ったるいビリビリが身体中を襲います。もはや甲高くて奇妙な声も、くちゅくちゅとした水音も、ヌルヌルの液体が出てくるのも、全く止まる気配がありません。それどころか、気持ちよくなるに従ってそれらは大きくなるばかりでした。
(……そういえば)
ふと、わたしはお兄ちゃんのことを思い浮かべたことで、今の自分が置かれている状況を思い出しました。
わたしは風邪を引いてるはずで、ここはお兄ちゃんのお部屋で、おなにーを始めてから結構な時間が経っていて。このままじゃ、お兄ちゃんにおなにーしてるところを見られちゃうかも。
けれど。
見られたから、どうしたというのでしょう。
わたしは別に、悪いコトをしているわけではありません。
お兄ちゃんのことを考えているだけです。お兄ちゃんのことを考えて、キモチイくなっているだけです。お兄ちゃんのことを考えたせいでオカシクなった身体を、治そうとしているだけです。わたしはただ、友達に教えてもらったマッサージを試しているだけなのです。
だから。
(見られたって、別にいいもん……っ♥)
だから、お兄ちゃんに見られたって、別に問題ないのです。
パンツやおまたを見られるのはちょっと恥ずかしいけれど、今はおなにーするのが一番大事。
いっそのこと、お兄ちゃんにおなにーを手伝ってもらって、オカシクなった身体を一緒に治してもらうのもアリかもしれない。
(あ。わたしすごい。それ、名案かも……♥)
そう考えれば。
(……早く)
早くお兄ちゃん、二階に上がってこないかなぁ、なんて思っちゃったりして。
リリィちゃんの声が聞こえます。
『オナニーをしばらく続けてると、おヘソの下からものすごくキモチイイのが上ってくると思うの』
リリィちゃんの言うとおりです。
おヘソの下のオカシクなってるあたりから、なにかとてつもなく大きなナニカがせり上がってくる感じがします。それはどんどんどんどんお腹の内側を張り詰めさせていて、このままでは爆発してしまいそうな予感すらしました。
『もしかしたら、それはちょっと怖い感覚かもしれないけど……怖がらず、全身で受け入れてあげて? それさえ乗り越えれば、きっと……』
確かに、怖くて怖くてたまりません。
このまま頭がパーになっちゃいそうなくらい、わたしの身体はオカシクなっています。
このまますべてを受け入れたら、どうなるのか。なにもかもが初めてだらけで、次になにが起こるのかがさっぱり分かりません。
けれども。
『きっと、良くなるはずだから……♥』
このまま続けるべきだと、おヘソの下のナニカが語りかけてきます。
そのナニカは、たぶんわたしの味方で、正直者なのだと、今ようやく理解しました。
だってもし悪者だったら、わたしのことをここまでキモチイくなんてしてくれません。
だからきっと、大丈夫。リリィちゃんの、言うとおり。
わたしの指が……お兄ちゃんの指が。
優しく、それでいて力強く、クリちゃんを激しい動きでコリコリと押し潰しました。
「――――っきゃぁあんっ!♥♥♥」
身体が内側から、パァンと弾けた気がしました。
仰向けのまま大きく全身が跳ね上がって、ベッドがぎしりと軋みます。
頭と目の前が一瞬真っ白になって、お部屋の中にチカチカと瞬く大量の星が散りばめられました。
信じられないほどキモチイイ波が、短いテンポで何度も何度も押し寄せてきて、そのたびに足腰が好き勝手にビクビクと跳ね続けます。
気分はまるで、お空の雲をポンポン飛び跳ねてるみたい。
尻尾と足で、一生懸命ベッドでふんばってるはずなのに。
「んぐぅ……んんぅうう〜〜……っ!♥」
叫びたくなるくらいの幸福感を、ぎゅうっとシーツを握り締めて受け止めます。
一度でも気を抜いてしまったら、二度とお空から戻ってこれない、そんな予感がして。
十秒経っても、二十秒経っても、わたしはお空から戻ってくることができません。
三十秒くらい経ってようやく地面まで降りてこれましたが、足が生まれたての子鹿みたいにずっとカクカクしているせいで、上手く力が入りません。
五十秒くらい経ったあたりでようやくわたしは、自分がまともに呼吸できていないことに気が付きました。大きく息を吸い込んで、深呼吸。
落ち着いて、足にしっかりと力を込めて。
「――はぁぁああっ♥ きもち……よかったぁ……っ♥♥」
ようやく意識を立ち上げたわたしは、雲の上から無事帰ってこれたことに心の底から安堵して、けれども、ほんの少しのあいだの素敵な空中散歩に、大満足の溜め息をもらしました。
ぜぇぜぇと、校庭を全力でマラソンした後みたいに呼吸を整えていると、おなにーしている最中は全然気が付かなかった、身体のいろいろな部分の様子に気が付きます。
エプロンドレスはシーツと擦れて、あちこちがシワだらけのくちゃくちゃ。髪の毛から足のつま先まで、身体中が汗でぐっしょり。特にパンツなんて、このまま穿いていられないくらいヌルヌルのベトベトになっちゃってます。
「……絶対、怒られちゃう……」
こんなになるならパンツを脱いでおけば良かった。
今さらそんなことを思いますが、それも後の祭りというものでした。
「……まぁ、いっかぁ……♥ 気持ち良かったし……♥」
自分でもびっくりするくらい、気楽な言葉が口をつきます。なんだかとても、心が軽いです。
お兄ちゃんに内緒でパンツを洗って自分のお部屋に干しておけば、明日には乾くでしょう。たぶん。
(……あれ? そういえば)
お兄ちゃん、というフレーズで、わたしは大事なことに気が付きました。
おなにーするのが気持ち良すぎて本題を忘れかけていましたが、あれだけおヘソの下で疼いていたナニカは、いつの間にか気にならなくなっていました。頭と身体はとてもすっきりと冴え渡っています。心が軽くなったのも含めて、これがおそらく、おなにーというマッサージの効果なのでしょう。
「ほんとう、だったんだ……」
オカシクなった身体が治るなんてウソ、と断言していた自分が、急に恥ずかしくなりました。
「……ひどいこと言ってごめんなさい、リリィちゃん……」
友達を信頼しきれなかったことに、罪悪感が胸を締め付けます。
記憶の中のリリィちゃんに、精一杯のごめんなさいとありがとうを言いつつ。
わたしはいまだに力の入らない身体に鞭を打って、ベッドから足を下ろしました。
オカシクなった身体が治ったのですから、お兄ちゃんが来る前に自分のお部屋に戻らなきゃ。
足腰に力が入らないのでゆっくりと、けれどできるだけ急いで立ち上がろうとします。
そのとき。
カチャン、と。
「……っ!?」
なにか固いものどうしがぶつかる甲高い音がドアの向こう側から聞こえてきて、わたしは全身をぴしりと硬直させました。ドアの向こうに、誰かいる?
いったい誰。そう叫ぼうとしたわたしは、当たり前の事実に思い至ります。
おじさんとおばさんがポローヴェに旅行中の今、このお家に居るのはわたしを除けば一人しかいません。
「ランドお兄ちゃん……?」
その人の名前を呼び、けれど、返事は返ってきませんでした。
それでも、そこに誰かがいる気配を感じるのは確かでした。
ふと、ドアを注意深く見てみれば、ドアがほんの少しだけ開いていることに気が付きました。
そういえばわたしがお部屋に入るとき、きちんと閉めたか確認するのを忘れていたかもしれません。
そしてもう一つ。
そのドアの隙間から、わたしの好物であるお野菜のスープの濃厚な匂いが漏れ出ていて、わたしのいるベッドまで漂ってきていることにも気が付きました。
(もしかして……)
約束通り、わたしのお部屋までお食事を持っていこうとしたお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんは、少しだけ開いたドアの隙間からスープの匂いが漏れ出てくるまで、ずいぶんと前から“そこ”にいたに違いありません。
つまりは、わたしがおなにーをしているあいだ、ずっと。
(見られちゃって……た……♥)
心臓がトクンと、楽しそうにリズムを刻みます。
そして、おへその下、おしっこをするところの上の辺りが、キュゥンと、また。
「……おにいちゃぁん……?♥」
春先のワーキャットさんみたいな甘い声音が、わたしの口から零れました。
なにやら慌てている気配が、ドアの向こうから伝わってきます。
「こっち、きてぇ……?」
お兄ちゃんをお部屋に招き、それきり沈黙が流れます。
十秒でしょうか、二十秒でしょうか。もしかしたら一分くらい経ったかもしれません。
やがて、心臓の鼓動だけに支配されていた静けさは、ドアの蝶番が立てるキィという音によって、簡単に破られました。
いくつかの食器の乗ったお盆を持った、バツの悪そうな顔をしたお兄ちゃんが、お部屋の中に入ってきました。
「……えっと、これは、その……そ、そうだよね、ワンダにだってあ、あるよねっ! ワンダも一人の女の子なんだから、こういうことも当然! だ、大丈夫! ワンダのしてたソレは決して身体に悪いことじゃないからっ、実際僕だってワンダのこと考えてよくゴフッゲフン! …………えっとね、その、ワンダの部屋に料理を持って行こうとしたら、僕の部屋が開いてて、そしたらワンダの声が聞こえてきて、中を覗いたら、その……」
わたしがなにも聞いてないのに、お兄ちゃんはペラペラとまくし立てます。
ここまで慌ててるお兄ちゃんは、初めて見たかも。ちょっと面白くて、心の中でくすりと笑います。
「えっと、ともかく、その、ワンダ。……ご、ごめ」
「お兄ちゃん」
聞きたくない言葉が聞こえてきて、最後まで言い切る前にお兄ちゃんの言葉を遮りました。
ごめんなさいなんて、聞きたくない。だって、お兄ちゃんは何も悪いことをしていないんだから。悪いのは完璧に、わたしのほう。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。わたし、身体がずぅっとオカシクなってて……でも恥ずかしくって、お兄ちゃんには黙ってた。……迷惑、かけちゃってたよね」
「え? あ、いやいやいや、そんなことないよ。迷惑なんて僕はこれっぽっちも」
「でも、もうわたしは大丈夫。ねぇねぇ、すごいんだよ? おなにーって。ここ最近お兄ちゃんのことを考えると、おヘソの下がずぅっとキュンキュンして仕方がなかったんだけど、おなにーっていうマッサージをしたらスゥーッて、キュンキュンするのが治まったの。それもこれも、リリィちゃんのおかげ」
「そ、そうか、オナニーね。……ん、リリィちゃん? あ、うん、そっか……うん? いや、そ、そっかぁ。……それは、うん、良かったよ。それで、ワン」
「でも、ね? お兄ちゃん……」
わたしは何度も、お兄ちゃんの言葉を遮ってしまいます。
悪いコトだとは思います。お兄ちゃんをもう困らせたくないとも、もちろん思っています。
けれど。
お兄ちゃんに、おなにーを見られてしまったと知ったわたしは。
もう我慢、できなくなってしまいました。
お兄ちゃんに、マッサージ、してもらいたくて……♥
「わたしのココ、またキュンキュンして、オカシクなっちゃったの……♥」
そう言いながらわたしは、お兄ちゃんに向けて両脚を大きく開きます。
お兄ちゃんは驚いたようにハッと息を呑みながら、わたしのおまたを凝視しました。
おまたから出てきたヌルヌルでびっしょびしょになったパンツを、お兄ちゃんはまじまじと見つめています。
顔から火が出そうなくらい、すごく、恥ずかしい。
恥ずかしいけれど、それ以上に、お兄ちゃんにおなにーされたいと、キモチイイことをされたいと、わたしの心は強く叫んでいました。
目を閉じれば簡単に思い出せる、あの大きくてゴツゴツした手のひらが、今は目の前にある。
大好きな人の手で、わたしのクリちゃんを、コリコリって……♥
「おにいちゃぁん……♥ おねがぁい……♥」
小さな子供みたいに両腕を前に掲げて、抱っこをせがむようにお兄ちゃんへ向けると、お兄ちゃんはお盆を机にそっと置き、一歩、また一歩とこちらに向かって歩いてきます。
そんなお兄ちゃんに、わたしは。
精一杯の、おねだりをしました。
「お兄ちゃんに、わたしのおまたをいーっぱい、マッサージしてほしいの……♥ お兄ちゃんの大きい手でたっくさんいじいじして、ビクンビクンッてなるまで、いっぱいいっぱい気持ちよくしてほしいの……♥」
目の前まで迫ったお兄ちゃんの顔を見上げて。
「大好きなお兄ちゃんの手で……わたしのこと、おなにー、してください……っ♥♥」
「……っ! ワンダ……っ!!」
切羽詰まった声でお兄ちゃんはわたしを呼んで、その大きな身体でわたしに覆い被さりました。
優しくベッドに押し倒されたわたしの上で、お兄ちゃんの目はギンギンに血走り、フゥフゥと鼻息荒くわたしのことを見つめています。
今まで見たことのないお兄ちゃんのそんな表情を見て、わたしは少しだけ怖くなり……同時に、とても嬉しくなりました。
「もし嫌なら、嫌だと言ってくれ。怖くて言葉が出ないなら、僕を思いっきり突き飛ばしてくれ。頼む……!」
よく分からないことを言うお兄ちゃん。
わたしはもちろんなにも言わず、指一本動くことはありません。
お兄ちゃんにされて嫌なことなんて、なにもありはしないのですから。
お兄ちゃんの指が、わたしのおまたに迫ります。
頭が破裂しそうなくらい心臓がドクドクと跳ね上がり、
お腹を搔きむしりたいくらいおヘソの下をキュゥンと疼かせて、
おしっこが漏れたみたいにパンツをびっしょり湿らせながら、
わたしはじぃっと、期待を込めて、お兄ちゃんを待ち受けます。
お兄ちゃんの指が、そぉっと、おまたに触れて――
そこで、わたしの記憶は途切れました。
16/12/08 10:41更新 / 気紛れな旅人