読切小説
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アルラウネ越冬中



 冬の訪れ。すっかり葉が枯れ、丸裸になった木々がひしめく森の中。
 しんしんと雪が降り積もる白銀の世界に、ぬめるもの同士を擦り合わせる粘っこい水音と、断続的に繰り返される荒々しい息遣いが絶え間無く響いていた。動く者無く、それ故にどこまでも澄み切った雰囲気を保つ空間に唯一響き渡るそれらは、知らぬ者が見たならばそのあまりの巨大さに誰もが驚愕するに違いないであろう、人間大ほどもある花の蕾から聞こえてくるようだった。

 無数の雪の結晶で、氷菓子のようにデコレーションされた、それは。
 「アルラウネ」と呼ばれる妖花、その、冬の姿だった。

 植物型の魔物であるアルラウネは、今では寒々しい姿を晒す周囲の木々と同様、寒さに弱い生物だ。そのため冬が訪れると厳しい寒さを凌ぐために越冬をし、春を待つ。この時、越冬の際に彼女達が取る行動は二つに分かれていて……それは「番い」となる「人間の男性」を手に入れているかどうかで、大きく変わってくる。

 一つ。「番い」を得ていない場合は、「冬眠」。
 気温が低くなってくると、彼女達は自らの身体の一部である花弁を閉じて蕾となり、美しい女性の姿をした本体を内に包み込む。そしてそのまま、地中から吸収し蓄えた養分でもって、新緑が芽吹き始める春になるまで休眠する。

 そして、もう一つ。「番い」を得ている場合。
 花弁を閉じ、蓄えた養分を使って越冬しようとするところまでは、普通に冬眠する場合と変わらない。しかし「番い」となる男性……「最愛なる夫」を得ている場合のアルラウネは、冬の間も休眠することはない。

 夫をも花弁の内に取り込んだアルラウネは、自らの子を成すために越冬の間ずっと、夫とまぐわい続けるのだ。子作り、および夫を生かすために必要な、例年より多くの養分を地中から吸い上げた彼女達はその魅力的に過ぎる女体でもって、男性の精力・活力を促す自身の魔力と、狂おしいまでの愛情・快楽を夫へと捧げる。そうしてアルラウネにとっての赤子である「種子」を身篭るために必要な「精」……精液を、自身の子宮へたっぷりと注いでもらうのだ。

 大好きな夫と日々一日中まぐわい合い、注がれ続ける愛情と子種を余すことなく受け入れ、その結晶を孕む。死をも伴にするだろう生涯の伴侶を手に入れた彼女達は、春を迎えるまでの間、ただそれだけに、終始する。

 このアルラウネはどうやら、その伴侶を手に入れている個体であるようだった。

「……ちゅぱぁっ♪ キス、素敵ぃ……きもちぃですぅ……っ♪」

 今この瞬間にも、愛する人へ向けた熱っぽく、それでいて鈴を転がすような可憐な声が一つ。それは花弁の内側から雪林へと溶け込み、静かに降り積もる白色の奥底にまで染み渡っていく。

「キスぅっ♪ もっとキス、くださいぃっ……♪」

 それは接吻を強く求める、極めて率直かつ、情熱的な言葉。懇願と言い換えてもよいだろう。愛し愛される、強い絆で結ばれた間柄だからこそ許される、どこまでも甘ったるい言葉だ。

「まだ、足りな、んむぅっ♪」

 それが唐突に途切れた次の瞬間から、一時的に鳴りを潜めていた淫靡な水音が再び、響き始める。桃色に薄らと色付く巨大な蕾、その内部では、一糸纏わぬ裸の男女が解答不可能な知恵の輪の如く固く絡み合い、口元が滴る唾液に塗れてなお熱いベーゼを交わす、そんな、見ている方が熱にあてられ蕩けてしまいそうな光景が、延々と繰り広げられていた。

 激しさを増していく水音の中心で立ったままひしと抱き合うのは、中肉中背の青年と、透き通るような新緑色に肌と髪を染める美しい女性。件の番いと、アルラウネの本体だ。

 青年は、アルラウネの流線形にくびれた腰元を掻き抱くように抱き寄せて。アルラウネは青年の首から背にかけて両腕を回しつつ、自身の身体の一部である長い蔓を彼の胴体にぐるぐると巻き付けて、二人の身体が密着するように引き寄せている。青年の胸板の上で押し潰れた豊満な乳房が、その抱擁の強さを物語っていた。

「っぷぁ、あなひゃの顔、もっと、よぉく……見へて、くらはい……っ♪ ……格好良くへっ、はむっ♪ ……りりひいかおぉっ♪」

 外界から完全に遮断されている蕾の中はしかし、アルラウネの身体から溢れ出す高密度の魔力が淡い光を放ち、存外に明るい。熱いキスを交わす二人は、どこか幻想的な明かりに照らされながら、間に何も有りはしない零距離で見つめ合う。互いの瞳にそれぞれ映り込むのは、凛々しく整った青年の顔と、幼さと大人っぽさが同居したような童顔を、紅に濃く染めた女性の顔。

 見つめ合う視線の熱さと同様に、人二人が収まるのがやっとの狭苦しいそこは雪が舞い散る外側とは一変、むんとした熱気と湿気で満たされていた。花弁の内壁には大粒の結露が無数に張り付いている。「激しい運動」をしたのだろう、過度の興奮によって高まった体温、全身に玉となって浮かんだ多量の汗、洩れ続ける熱い吐息が、このサウナ状とも言える高温多湿の空間を生み出していた。

 どうやら、既に一戦……どころか、数戦交えた後であるらしい。アルラウネの秘所、膣口からは、一体何回出されたのか分からない量の白濁液が溢れ出して、内股を伝い。アルラウネの下腹部に押し当てられている青年の剛直には、彼女の愛液と彼の精液とが混ぜ合わされたカクテルがべっとりとこびり付いていた。

「んっ♪ キしゅ、上手すぎるぅ……っ♪ ……もぉ、なんりぇあにゃたはそんな、ちゅぅ♪ ……素敵なんれふかぁっ♪ ……もっともっと、好きになりゅ……っ♪ 好きしゅぎて、ちゅむっ♪ ……ダメになりゅうぅ……っ♪♪」

 二人の男女は、うだるような蕾の中の暑さにはのぼせる事なく、互いの存在のみにのぼせ上がる。しつこく、ねっとりと何度も繰り返されるディープキスの応酬は、互いの思考と理性をどろどろに蕩かし尽くし、ただただ、性欲と情欲のみを増幅させ、双方の存在を強く求めさせた。何度も何度も交わり続けているにも関わらず、愛する伴侶を求める欲望は留まることを知らない。

 次第に激化していくこの戦況をリードしているのは、主に青年の方だ。巧みな舌技でもってアルラウネの口腔を遠慮無しに侵略する青年の舌は、快感のあまりに動きが鈍くなっている彼女の舌を、執拗に舐り回していく。舌先で軽く突つき合い、からかうように舌裏を擽り、ざらざらとした表面同士をたっぷりと擦り付けて絡ませ合う。時折、並びの良い歯や歯茎を優しく撫ぜてやれば、その度に小刻みな痙攣が彼女の全身を巡り、触れ合う身体越しに青年へと伝播した。伝わってくる彼女の悦びに応えるように、力任せではない絶妙な力加減の舌技を、青年は幾度となく繰り出していく。

 その合間合間で青年は、彼女の唾液腺から分泌されゆくトロリとした唾液を、溢れ出る端から舌で絡み取り、夢中になって飲み干していった。アルラウネの唾液はまるで蜂蜜のような琥珀色に煌めいていて、まさしくそれそのものであるかのように、甘ったるい匂いを発している。それは味と匂い共に、彼を虜にしてやまないようだった。

(もっと……もっとぉ……っ!♪♪)

 アルラウネの舌の動きにも、次第に熱が篭ってくる。弱々しいながらも一生懸命に、青年の舌の動きに合わせられるよう努力する。夫との、抗い難い口付けへの欲望に突き動かされているのもさることながら、夫のやることに付き添い従うことこそが妻としての本懐、そうとでも言いたげに、力の入らない身体にムチを打つ。

 と。青年はそこで、あえて舌を引っ込めた。かねてより頃合いを見計らっていたらしい、アルラウネがより積極的になり始めた、その矢先のタイミングだった。

「っぷゃ!? ま、待って……っ!」

 思わず声を上げる、森緑の美女。何故か自分から逃げていこうとする夫の舌に焦り、咄嗟に舌を伸ばす。そうして追ってきた小振りで可愛らしい舌を、青年は自身の唇ではしと捕まえた。突然のことに目をぱちくりと瞬かせるアルラウネ。そんな彼女に構うことなく、唇で柔く食んだ舌を、扱くように、根元から引き抜くかの如く吸い上げれば。

「へ、ぇぇぁあ゛あ゛あ゛〜〜〜〜っ!♪♪」

 まるで、魂すらも根刮ぎ持っていかれてしまいそうな。そんな、喪失感を伴うほどの快感に、アルラウネは襲われるのだった。青年に抱き締められる肉付きの良い身体が、ビクビクと波打つ。そのままゆっくり、ゆっくりと舌肉を味わい尽されて。ちゅるんと音を立てたのち、ようやっと彼女の舌は解放された。

 それと同時に離れていく、愛しい人の唇。互いの舌と舌を繋いだ銀色の糸も、すぐに千切れる。アルラウネの胸中に先ほどとは別の喪失感が生まれて、しかしそれは、彼女の全身を包み込む多幸感によって容易く塗り潰された。青年とのキスだけで、アルラウネは軽く達してしまったのだ。強く扱かれピリピリと痺れる舌先は、だらしなく突き出されたまま。荒い吐息を繰り返すその表情はドロドロに蕩け切り、一先ずの終わりを告げた長い長いキスの余韻にどっぷりと浸り続けていた。

「……くふ、すごく、激しいぃ……♪ 私との、キスぅ、ホントに好きなんですねぇ……♪ それとも……そんなに私のヨダレ、美味しいんですかぁ……?♪」

 はあはあと、息も絶え絶えにそう囁く。
 声音と匂い、二重の意味で甘ったるい吐息が、青年の鼓膜を撫ぜるように震わせる。

 先ほどまで青年が一心不乱に飲み干していたアルラウネの唾液は、一般に「アルラウネの蜜」と呼ばれる、強力な誘引・催淫作用を合わせ持つ一種の媚薬だ。彼女達の身体から滲み出る体液はそのほぼ全てが極上に甘い「蜜」であり、少しでも口にしようものなら、男であれば陰茎を瞬く間に勃起させるほどに発情させ、女体を求めてやまなくさせてしまう。故に。

「もう、何ていうか……最高」
「……あはっ♪」

 今まで無言で妻の唇を貪っていた青年は、アルラウネの言葉にそう、満足げに呟くのだった。アルラウネと同様、恍惚に満ちた表情で荒く息をつく。そんな彼の様子を見て、琥珀色の涎を口の両端に垂らしながら、彼女は心底嬉しそうに、微笑った。

「……ねぇ、あなた……?」
「――あぁ……」

 アルラウネは、青年を上目遣いで見つめる。悩ましげな色に染まるその瞳は、夫よりの愛欲を求める切なる願いを揺蕩えていた。辛抱堪らない。もう一度、シたい。青年の全身に絡ませた蔓を優しく、それでいて強く引き締めて。まるで縋るように、彼の首と背に回している細腕に力を込める。仕上げとばかりに後頭部をそっと撫でられてしまった頃には、青年の脳裏にはもう、彼女のお願いを断るという考えは皆無だった。勿論それでなくとも、愛する妻の要求を無下にすることなど、とうの昔に彼女の虜となってしまっている青年には出来ようはずも無いのだが。
 
「……また、子作りっ♪ しちゃいましょうねぇ……っ♪」

 否応なしに情欲をもたげさせる、蕩けに蕩けた淫靡な微笑み。男狂いの娼婦が見せるようなそれを、しかし夫狂いであるところのアルラウネは青年のみへと捧げる。同時、待ちきれないと言わんばかりに彼女の腰が艶かしく蠢き、女性らしい適度な脂肪に覆われた下腹部によって、押し当てられた剛直がやんわりと、緩い性感に包まれた。そんな、理性をぐずぐずに崩してくる耐え難い誘惑に、青年の喉元からはゴクリと生唾を飲み込む音。陰茎も素直な反応を見せる。聴こえて、感じて、アルラウネはますます笑みを深めた。

 上半身は依然ぴたりと密着させたまま、青年は腰だけを引き、妻の下腹部の上に埋まっていた剛直を解放する。媚薬成分、そして愛する者の淫靡な誘惑を受けたことにより大きく怒張したそれを、片手で支え、軽く膝を折ると、赤黒く腫れ上がる亀頭を彼女の秘所へ宛てがった。もう幾度となく場数をこなしているのだろう、手探りにも関わらず数秒の内に膣口の位置を探り当てると、愛液を馴染ませるように数度、鈴口でその場を掻き混ぜた。その拍子に亀頭が半分ほど、蜜壷の中に埋まる。

 アルラウネの心臓が期待に高鳴るのが、豊満な乳房越しに青年へと伝わってくる。確認するように、青年は今一度妻の瞳を覗き込む。水晶球の如く透き通るそれは薄紫色に輝き、青年の目を真っ直ぐに見つめ返していた。ふと、その瞼が軽く閉じられた瞬間、啄むようなキスが一つ、青年の唇に触れる。言葉は交わさない、交わさなくても理解できる、愛らしい了承の合図。照れくさそうに口元を緩めた青年は、意地悪そうな顔を浮かべる目の前の相手に何かを言われてしまう前に、改めて腰に力を込め。ヒクヒクといやらしく蠢いている蜜壷の奥底へと、自らの分身を埋没させていった。

「ふ、わ、ぁ、ぁああああぁぁ……っ♪♪」

 太く、硬く、熱いモノが膣内を掻き分けてくる感触と快感に、アルラウネは陶然とした表情を浮かべる。大好きな人と一つになれる悦び。今までにも何百何千と繰り返している行為だったが、これだけは死ぬその時まで飽きることは無いだろうと、こうして行為に耽るたびに彼女はそう確信する。肉ヒダを亀頭が擦り上げる痺れにも似た快楽、太い陰茎が狭い膣を隙間無く満たしていく充足感。そして全ての魔物が膣に備える吸精器官が伝えてくる、陰茎に染み付いた極上の「精」の味。既に夫色に染め上げられている彼女は今、抽迭もまだな現状ですら、途方も無い幸福の渦に呑まれていた。

 青年もまた、妻の肉体が与えてくる飽きることの無い快楽にその身を震わせていた。分身を少しづつ蜜溜まりに沈めていくだけで、肉ヒダと柔突起が敏感な亀頭にねっとりと絡み付き、きゅうきゅうに締め付けてくる膣圧は陰茎全体を包み込むように迎え入れ、高温の体内温度が心地良い温もりを与えてくれる。尚且つ、膣内に分泌される愛液――これもまた例外ではない「アルラウネの蜜」は、彼女の体液の中で最も成分が濃縮された「蜜」だ。常に陰茎に染み込んでくる媚薬成分は更なる勃起と興奮を促し、うかつに腰を動かせば射精してしまいかねないほどに、彼の脳髄を痺れさせた。

 しばらくして。数十秒もの時間をかけて、亀頭の先端は蜜壷の最奥まで辿り着き、二人は恍惚の溜息をついた。あるべき場所に収まった。みっちりと埋め尽くし埋め尽くされ、歓喜に震える自身の性器の様子を感じて、二人は同じことを思う。

「あふ、ぅ……♪ ……全部、入りました、ね……♪」
「……ごめん、もう、無理……っ。動いて、いいか……っ?」
「……っ♪」

 アルラウネが感じる余韻を無視するように、青年は余裕の無い声を上げる。アルラウネの唾液を多量に飲み干した後であるうえ、彼の陰茎そのものが、濃厚な媚薬の中に浸かっているのだ。今すぐにでも妻の女体を貪りたくなるのも無理はない。とはいえ、ともすれば自分本位と言えなくもない青年の言動に、しかしアルラウネは嬉しさと愛しさに目を細めた。自らの肉体で愛する夫が悦んでくれる、それこそが魔物である彼女にとっての本願、その一つなのだ。

 アルラウネは再び、青年へとキスを捧げる。今度は啄むようなものではない、舌と舌を絡ませ合う情熱的なもの。同時に腰を軽く捻り、子宮の入口と亀頭の先端とを数度触れ合わせ、蜜壷の最奥においても淫らなキスを交わす。

 愛くるしいにもほどがある妻の反応に、青年は同じように目を細め。その次の瞬間には、心の奥底から湧き上がってくる本能と欲望に突き動かされるままに、抽迭を開始するのだった。

「ん、んっ♪ ……んぅっ♪」

 小刻みなピストン運動。身体を密着させているためどうしても、大きく動くことは出来ない。が、それでも、粘膜同士の摩擦が生む快楽と興奮は、互いの官能を高めていくには十分だった。激しいディープキスも、官能の高まりを助長する。短いスパンでコツコツと何度も小突かれていく子宮口、そこから生まれる快感は、生まれ出る端から深い幸福へと変換されていき、アルラウネの全身、ひいては手足の指先から脳細胞の一つ一つに至るまでじんわりと染み渡っていく。幸せそうに跳ねる肢体。何物にも代えがたい至福の時の中で、愛する夫にされるがまま、その身全てを委ねていた。

「ん、ん、ぷぁっ♪ あ、むちゅ、ふ、んっ♪」

 上と下、鳴り止む気配の無い卑猥な水音は、特に示し合わせた様子も無く、自然と早まっていく。急激な高まりを見せる蕾の中の気温と体温は、身体中を溢れ出る汗水でヌルヌルにしていくが、それすらも興奮を促す材料にして、二人は互いの行為のみに没頭する。いつしかアルラウネの腰も能動的に動き始め、二人は一緒になって、快楽の高みへと上り詰めていった。

 止めるものは誰も居らず、このままいつまでも終わらなそうにも思えた、二人の行為。しかし、こうして性交に及ぶ前から高められてきた二人の官能は、既に頂点に達しつつある。故に両者の限界は、行為に及んでからものの数分もしない内に、訪れた。

「ふぁ、ごめんなさっ、も、もうっ♪ イく、イっちゃうぅっ♪♪」

 じわじわと襲い来る快楽の波に、アルラウネがギュッと目を瞑った直後。
 亀頭が子宮の入口を、強めに小突いた瞬間。

「イっ……グぅっ!♪♪」
「ぐ、ぅ……」

 一際大きく身体を痙攣させて、彼女は絶頂へと達した。身が弾けるような快感と同時、精液を搾り取るかの如く膣内がキツく収縮する。まるで別個の生き物のようにうねりくねる膣の動きには当然耐え切れず、青年もまた達し、アルラウネの内に精を放った。魔物であるアルラウネとの交わりによってとうの昔にインキュバスへとその身を変質させている青年、その陰嚢は夥しい量の精液を蓄えていて、その全てが、脈動する亀頭の先端から胎内へと注ぎ込まれた。

「ふ、ああ……っ♪♪ おい、しいぃぃ……すて、きぃ……っ♪♪」

 アルラウネにとってこの世で最も甘美だと思えるご馳走、そして大切な我が子の素が子宮内を白濁に彩っていく感覚に、彼女はその瞳を涙で滲ませる。ふにゃりとふやけた妻の表情を、青年は心地良い疲労感に霞みゆく視界の中、どこかぼんやりと眺めていた。絶頂の余韻を甘受する二人は、行為中はそれぞれ小さな動作だったにも関わらず疲れ果てた様子で息を荒げていた。

「気持ち、良かった、か……?」

 息を整えつつの青年の言葉に、アルラウネはコクコクと頷いて返す。
 余韻に惚けるその姿は、まるで首の座らない赤子のようだ。

「さいこぉ……ですぅ……っ♪」

 首どころか全身に力が入らないらしく、青年の肩に顎を乗せ、寄り掛かるようにして身体を預けるアルラウネ。そのふわりとした重みに妻からの確かな信頼を感じ取った青年は内心密かに喜び、しかしそれとは裏腹、若干申し訳無さそうな表情で彼女の身体を支えた。

「でも、ごめん、我慢できなかった……早かったろ?」

 自身の都合で事を急いたうえ、思った以上に早く達してしまった。もしかしたら妻を満足させ切れなかったかもしれないという、罪悪感からだった。

「だい、じょぶ……私も、イっちゃい、ましたし……っ♪」

 反省する青年に対してアルラウネは、自分も同罪、といった風に告げる。それでも何処か納得行かない雰囲気を漂わせている青年に、彼女は唇を彼の耳元へ寄せ、甘く囁いた。

「それ、にぃ……♪」
「ん? ……う、あ」

 悪戯をする子供のような声音。直後、気持ち良さそうな声を上げて、青年が悶えた。アルラウネによって随意的に狭められた膣壁が、固く勃起している陰茎を締め付けていた。青年のそれは、既に一発精液を吐き出したにも関わらず、未だ興奮冷めやらぬ様子でその身を猛々しく震わせていたのだった。目の前の女をまだまだ犯し足りない。そんな欲望に、満ちている。

 そしてそれは、アルラウネも同様だった。

「まだまだ、出来ますよね……?♪」
「……」

 アルラウネは脱力していた身体をかろうじて起こすと、閉口してしまった青年に再度目を向ける。仕方がないなぁと言う風に、手のかかる愛息子を見るような困った顔で、アルラウネは微笑んでいた。それを見て、そんな顔をされる筋合いは無いと、こちらは恨みがましい目をして口をへの字に曲げる青年。その表情も大概子供っぽいという事実には気づかない彼に、アルラウネは含み笑いに肩を震わせた。

 と、アルラウネは青年からゆっくりと上半身を離す。胸板の上で押し潰れていた二つの柔らかな弾力が遠のいていく。何故、これからまたまぐわい合うというのに離れていくのかと、青年は焦った。下半身は未だ繋がっているとはいえ、何の前触れも無く突然身体の前面に生まれた空虚な感覚に思わず手を伸ばしかけて……何処か意味有りげな笑みを浮かべる妻の顔が目に入り、彼女に何か思惑があることを悟った青年は、伸ばそうとした手を留めた。

 次の瞬間、青年とアルラウネの足元から長く太い蔓が何十本も伸びてきた。蕾の底の部分にはアルラウネの体液が多量に溜まり、膝下まで浸かるほどの蜜溜まりとなっている。その中からにょきにょきと飛び出してくる蔓は今も青年の胴体に巻き付いている蔓と同じものであり、それらはアルラウネの全身にも瞬く間に巻き付いていく。

 しばらくして。

「さ……召し上がれ……?♪」

 蔓がその動きを止めたのち。そう言いながら真っ赤な顔で微笑む妻を、青年は血走った目で凝視していた。そうなるのも無理からぬことだ。アルラウネの身体は、自分自身に巻き付けた蔓によって、正常位に近い形で中空に固定されていた。両手は頭上で蔓に縛られ、両脚はM字に大きく開脚されている。さながら全身をロープで緊縛されたかの如きその姿に、青年は酷く興奮を覚えていた。勿論、アルラウネを拘束しているのは彼女自身の蔓であるから、拘束自体は彼女の意思一つでどうにでもなってしまうものではあるのだが……「自ら拘束した姿を相手に晒す」というその行為は、「自分の身体を好きにして欲しい」というアルラウネの願望の現れであることを、暗に示していた。

 青年は無言で、妻の腰を鷲掴む。荒い呼吸に合わせて上下する豊満な乳房、肉付きの良い肢体は性感に火照って艶かしく汗ばみ、膣壁は激しい抽迭を催促するかのように脈動する。非の打ち所の無い、男なら誰もがむしゃぶり付きたくなるだろう魅惑的な女体を自分の好きに出来るとあらば、誰であろうと理性を失うというものだ。

 青年はそのまま、自身の腰をゆっくり、ゆっくりと引いていき。

「ふ、う、ぅうううん……っ♪」

 エラ張ったカリ首で肉ヒダや柔突起を引っ掻きながら、膣から抜け出る寸前まで剛直を露わにしていく。決して離したくは無いのだろう、陰茎に吸い付くように纏わり付く膣の締め付けは凄まじく、徐々に抜け出ていく陰茎に合わせて、充血した膣肉の一部が外側へと捲れ上がっていた。卑猥に過ぎるその光景に、青年は今すぐにでも、愛する妻の蜜壷をその奥底まで乱暴に掻き混ぜてやりたい欲求に駆られる。そして当然、既に人としての理性を無くし、ひたすらに雌の身体を追い求める獣と化した青年にはその欲求に抗う術は皆無だった。

「あ、や、ぬけちゃ……ふきゃぅッ!♪♪」

 あと数ミリ腰を引けば完全に露わになってしまうほどに引き抜かれた剛直は、しかし次の瞬間、膣壁をじっくりとこそがれた快感に細かく痙攣する膣の奥、今も夫の精液を渇望して止まない子宮の入口へと、一息に突き入れられた。潤滑液代わりの蜜に塗れた互いの性器は一切の摩擦を生むことが無く。強烈な衝撃と快楽を伴って、アルラウネの奥底が勢い良く叩かれる。堪らず上がった甲高い嬌声と肉と肉がぶつかり合う湿っぽい音とが重なり合い、淫猥な協和音となって蕾の内側に木霊した。

「きゃあッ♪ きゃうぅッ!♪ はきゃぁぁあッッ!♪♪ おくッ!♪ おくぅううッ!♪♪」

 そうして反響する音が鳴り止まぬ内に、青年は激しい抽迭を繰り出していく。剛直の先端付近から根元まで、深く長いストロークで前後されるそれは膣肉を容赦無く責め立て、子宮口にゴツゴツと亀頭をめり込ませる熾烈なものだ。膣内に溢れ、カリ首によってプチュプチュと卑猥な音を立てて掻き出されていく琥珀色の蜜がきめ細やかな尻肉の表面を伝い、足元の蜜溜まりに滴り落ちる。先ほどの浅く小刻みな性行為とは比べ物にならないほどの激しい快感に、青年もアルラウネも、視界の中に溢れんばかりの火花を散らした。

「あ、ゃあッ!♪ すごッおッ!♪ あ、アタマ、イカレ、ちゃうぅッ!♪♪」

 今日一番の激しい快楽に翻弄されるアルラウネ。極上の悦びに、全ての思考が桃色に塗り潰されていく。あでやかな髪の先までどっぷりとその身を蕩かす彼女だったが、しかしそれでも、ただ身を捩り、嬌声を上げ続けるだけの受身な女に留まらなかった。抽迭に合わせて淫らに腰を振り、捻り。夫への献身と、自らの性欲に突き動かされるまま、更なる行為を貪欲に求めていく。

 そんな妻の痴態に興奮し、青年も尚更に挿抜を早めた。

「あ、あはッ!♪ も、イき、そ……ッ!♪」

 性感が高まるにつれて、背筋を大きく弓なりに仰け反らせていく。狂おしいほどの快感からなる愉悦、自身の肉体を好き放題にされているという被虐心、夫に愛される幸せ。それら全てを全身で噛み締めるアルラウネは、早々に絶頂感に呑まれていき。

「き、ひいぃぃッ!♪♪」

 一際強く、膣奥を抉るように小突かれた瞬間、あえなく、達した。ガクンと背を跳ねさせたアルラウネは、歯を必死に食い縛って襲い来る絶頂の波を堪えようとする。

 が、しかし。

「あ、きゃッ!♪♪ まって、まってぇぇええッッ!♪♪」

 絶頂の中、依然止まらない挿抜の連続に耐えられず、咄嗟に悲鳴を上げた。
 それも当然の話だ、絶頂に達したのはアルラウネだけで、青年の方の絶頂はまだ遠いところにあるのだった。過度の興奮状態にあるとはいえ、一度射精した男性は次の絶頂に至るまで時間が掛かる。今や性欲に支配されたただの獣でしかない青年は、妻が上げる悲鳴には構うこと無く、どころか心身を否応なしに昂ぶらせるスパイスにして、敏感極まる女体をひたすらに貪り続けていた。絶頂を受けて握り潰さんばかりの締め付けを見せる膣肉を無理矢理に掻き分け、そのあまりの気持ち良さに必死の形相になりつつも突き上げていく。

「ダメぇッ!♪ おまんこ、こわれぇッ、あひ、ひいぃッ!?♪♪」

 快楽に快楽を上塗りされて、アルラウネは堪らず静止の声を上げる。が、しかしそれを黙らせるかのように、青年は攻め方を変えた。今までは我武者羅に挿抜させるだけだった亀頭の動きを整え、膣壁のお腹側を中心に擦り立てる。するとアルラウネは一度だけ甲高く叫んだかと思うと、目を見開き、パクパクと開閉させる口から声無き声を漏らすばかりとなった。

 一部分がコリコリとしたシコリになっているそこは、アルラウネの身体で最も敏感な箇所の一つ、Gスポットだ。弱点を的確に、かつ執拗に何度も何度も責め立てられて、彼女はただただ、暴力的な快楽の嵐に震えるしかない。妻の口から静止の声だけでなく嬌声すらも奪われたのを確認した青年は、そのまま、Gスポットへの責めを主とした抽迭を繰り出していく。

「はひッ!♪ あへぇッ、はへえぇぇ……ッ!♪」

 腰に腰を打ち付ける音、結合部からの粘着質な水音、間延びするだけの声音、荒ぶる息遣い。股間から全身へと駆け巡る快感、身体中を滴る玉の汗、熱すぎる体温。蕾の中に充満するむせ返るほどの甘い匂い。口の中に残る甘美な後味。衝撃に波打つ女体、跳ね続ける肢体、お互いだけを見つめる虚ろな視線、淫らに張り付いた悦びの表情。

 五感全てで、相手を感じる。ここまで来れば、互いのことを考える以外、想うことなど無い。自らの伴侶のことだけを想い合える素晴らしく幸せなこの時間は、たかが数分。けれどもそれは二人にとって、永遠にも等しい。

「や、ぁ、ら、め……ッ♪ しゅごいの、きひゃ……ッ!♪♪」

 呂律も回らず、息も絶え絶えに、アルラウネは喘ぐ。対する青年にも、ついに限界が訪れようとしていた。あれからずっと小刻みに絶頂し続けていたのだろう、痙攣を伴う延々としたうねりに、数割増しの締め付け、そして溢れ続ける媚薬の海のなかに身を置く陰茎が、そうそう耐え切れるはずも無いのだった。

 何処にそんな体力を残していたのか、それとも既に限界すらも超えているのか。腰の動きを更に早く、そして猛々しく変化させて、青年はラストスパートをかける。合わせて、アルラウネの方も一時は止めてしまっていた腰振りを無意識に再開させていた。打ち付けられる腰はアルラウネの新緑色の尻肉を紅葉色に染め上げ、彼女の身体を激しく上下に揺さぶっている。子宮口に至っては激しく叩かれ過ぎて、もはや亀頭の先端がずっぽりと侵入するほどにこじ開けられてしまっていた。

 いつしか無言で、息をするのも忘れて行為に没頭する二人は、来る絶頂の時に備えてギリと歯を食い縛り、全身をガチガチに硬直させて。

「きゃぁああッ!!♪♪」
「う、はあッ!」

 身も心も弾けるような出鱈目な快楽を受け、両者共に絶叫した。限界まで仰け反らせた背中が、その衝撃の強さを物語っている。濃縮され過ぎて塊のようになった精液の奔流が剛直の中を駆け上がり、すっかり開き切った子宮の入口から、子宮の壁に向かってビシャビシャと直接浴びせかけられた。灼熱のようにも感じられる多量の粘液が子宮を浸し、押し広げていく感覚に、アルラウネはひたすらに全身を痙攣させ、自身が現在感じている溢れんばかりの幸福を無意識の内に表出させていた。

 そんな、妻が快楽を、子種を必死に受け止めている姿を見て、青年は。

「かふ……っ!!?♪♪」

 ……あろうことか。再びの、欲情を見せた。
 現在進行形で精液を吐き出している陰茎、その身を絶頂に大きく震わせたまま、力強く腰を振り始める。感度が最大にまで高まった亀頭が、苦痛すら伴う快感を青年の脳髄に伝え、これ以上の強引な性行為が引き起こす危険性、理性と人間性の完全なる崩壊を訴えてくる。……が、しかし。今や愛する妻のことしか意識にない、それ以外眼中にない、その全てに狂ってしまっている青年にとってその程度の危険性など、もはや興奮を促す材料にしかならないのだった。目の前の女を愛し、犯し、孕ませるためなら、例え身も心も壊れてしまっても構わない。

 Gスポットを擦られるたびに透明色の潮を尿道から吹き散らし、玉になった汗粒が肌を伝うだけで敏感に過ぎた肉体は勝手に跳ね上がり、蕩ける嬌声も言葉として全く意味を成さないただの音となって喉奥から搾り出される。青年と同様に壊れていくアルラウネには、自分の身体が今どんな状態になっているのかが分からない。自分の意思ではもう、愛する夫に陥落し切った肉体を制御することなど、出来はしない。

 そんな彼女の崩壊していく心も、たった一つだけ、残る想いがあった。それは彼と彼女が愛を育んだ先にある、二人だけの営みを続ける先に必ずや訪れる、確定的な未来。その結晶。制御の効かない肉体の中で唯一動く口から、その想いを精一杯、青年に向けて絞り出した。

「あかちゃ……ほしぃ……よお……ッ♪♪」
「……ッッ!!」

 壊れかけた自我の中にあって、それでも青年との子を孕むことを望む、妻の健気さ。

 ブチリと、青年の脳内で、何かが音を立てる。
 青年の理性が完全に崩壊した、その瞬間だった。





 暖かな春が訪れ。新たな生命が芽吹くその時まで、あと、数ヶ月。
 
 子を成すためのまぐわいは、まだまだ、続く。
14/06/19 19:00更新 / 気紛れな旅人

■作者メッセージ
 世間がリリラウネ一色に染まってるなか、アルラウネSSを投稿する勇気ッ!! ……まさかアルラウネの亜種が居るとは思わなんだ。まぁこのSS書くのに一ヶ月半も掛かってた自分がいけないんですけどね。遅筆とかいうレベルじゃない。

 タイトル通り、越冬中のアルラウネ、そしてその番いとのまぐわいを描いた作品となりました。三人称視点のエロシーンって、何気に難易度高いですね。結構な難産となってしまいました。一万字くらい、もっとささっと書けるようになりたいですねぇ……要練習、です。後半の方は「表現のネタ切れ」を起こして若干失速気味。やや荒削りとなっているかもしれないです……

 いつもコメントでお褒めの声を頂ける方々、誠にありがとうございます。毎度嬉しい限りです。もしよろしければ、「ここはこうした方が良い」「ここの表現、文章はおかしい」等の指摘・疑問がありましたら、遠慮無くコメントしてください。次回以降の作品に活かしていこうと思います。
(誹謗中傷の類はご遠慮願います。あしからず)

 ではまた次回。次は息抜きに数千字程度の簡単なSSを書きたいですね。それを連載形式でまとめる感じになるかも。もちろん未定。



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