連載小説
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閑話 旅立ちの時!

 シイせんぱいへ、お元気ですか? 私は元気で、とても幸せです!

 シイせんぱいはいかがお過ごしでしょうか? シイせんぱいくらいすごければ、とっても良い男の人を捕まえているのかもしれませんね。でも、私の旦那様もそれに負けないくらいすごいんですよ!
 なんたって、
(ノロケ話のため流し読み)
 というわけなんです!

 あ、そうそう。私のミルクはとても質が良いってご近所でも評判になって、近くの町から買い付けに来る商人さんも出来たんですよ! おかげで旦那様のお母様のお薬も買えて、みんなで仲良く暮らしています。

 シイせんぱいにも、おいしいって言ってもらえたら嬉しいなあ。この手紙が届いてるってことは、私のミルクも届いてるよね?
 一度、私達が住んでいるタミル村にも来てみてください! 精一杯かんげいします!

 モモより。


 迷宮都市イシュルの魔物娘エリア、そのさらに端っこにある宿屋の狭い部屋に、インプのシイは寝泊まりしている。
 小さな顔には丸く大きな金色の瞳と形の整った柳眉、果実のように色づきぷっくりとした唇、肩口あたりまで伸びた滑らかな蒼紫の髪、などなど、シイはどこからどう見ても紛うことなき美少女である。・・・・美少女なのではあるが、魔物娘達はみな美しい容姿をしているので、ぶっちゃけまぁ普通なのが悲しいところ。
 そんなシイはミルクを片手でグイグイ飲みながら、可愛らしい文字で書かれた手紙を読み終えた。

「アイツも、なかなか幸せそーね」

 ミルク瓶とセットにして手紙を小包で送ってきたのは、以前この迷宮都市でシイが世話をしてやったホルスタウロスの少女だった。

 手紙を開けたときに、そういやいたっけなこの子、と薄情なことを考えたのは胸の奥にしまっておくとして。
 手紙によると、出来た旦那とはどうやらよろしくやっているらしい。
 あれから月日はいくらか経ったので、当時彼女に抱いた微妙な気持ちは吹っ切れている。今度村に行ってたらふくミルクをご馳走してもらうことにシイは決めた。

「待てよ・・・・。そもそも今度じゃなくて、今行けばいいじゃない!」

 パーティーメンバーであるチノ、キサラと別れてもう一ヶ月あまり。シイは別れ際の決意もさっぱり忘れ、以前にも増して自堕落な生活をしていた。

「最近だらだらしすぎてたしなぁー」

 やる気がなければだらだらして、なんか寂しいときは武器屋の店番オークに会いに行き、夫が欲しくなればちょっとした日雇い仕事をこなしダンジョンに入る。まさしく計画性の欠片もない日々。

 最近特にやることもなかったので、今回のことはちょうどいいように思えたのだった。

「よぉーし、いっくぞー! タミル村!」

 シイは拳を突き上げて、気合いを入れる。そんな拳に合わせるように、頭のアホ毛がピンと立ち上がったのだった!


 

「ふえ〜ん! 迷ったぁ〜・・・・」

 迷宮都市イシュルを離れて早二日。シイは迷子になっていた。
 ダンジョンギルドにてタミル村までの地図を買ったのだが、全然着く気配がない。地図とにらめっこしながら遠くまできたが、ここがどこかすらもわからなくなっていた。

「うう、寒いよう・・・・」

 思い返すのは街を出る前のこと。シイは地図と食料以外、これといって大した旅支度をしていなかった。季節は冬だけど行くのは南だから防寒対策しなくていいよね! とか考えた二日前の自分を叱りつけたくなる。

 この寒さに対して何かいい方法はないか、と考えて少し。てれれってってー、とシイの頭の中にどこか馴染みのある音楽が流れると同時に妙案がひらめいた。

「・・・・そうだ! 防寒着がないなら、防寒魔法を唱えればいいじゃない!」

 魔力で身体能力を上げることが得意な魔物娘であれば、体中に魔力を循環させるだけでも充分な防寒効果が期待できる。魔力操作が得意な魔物娘であれば、自身の周りの気温だけを上げることも出来るだろう。とてつもない魔力量の持ち主であれば、自身の周囲だけとはいわず地域一帯を暖かくすることだって可能だ。
 もちろん、シイに前述したことをできるわけがない。シイが出来るのは自身に流れる魔力を指先に集めて小さな火を作り出し、寒い部分に近づける程度である。

「あったかーい! ・・・・あちちっ! ふーふー!」

 近づけすぎて軽い火傷をするのもよくあること。

 そうして暖を取りつつ歩いていると、突然人間の叫び声が森に響いた。

 うわぁああああ!! 助けてくれー!!

「絹を裂くような男の悲鳴!?」

 シイが声が聞こえた方向に急いで向かうと、

「手こずらせてくれたわね。でも、これで貴方は丸腰同然。げへへ・・・・」
「ひぃ! 誰か助けてくれー!」

 そこにはラミア属の魔物娘に襲われそうになっている男が!

「なんだー、心配して損したー」

 まぁ特にこれといって大変な状況ではなかった。人間が崖から落ちそうになってるとか、怪我して動けなくなってるとか、そういった素敵な出会いの予感がする展開ではなかった。シイは肩を落として、あーあ、と小さくぼやく。

これがもしバイコーンであったならば、「ぐへへ、姉貴。私も混ぜてくださいよ」などと揉み手しながら近づいていくのだが、ラミア属では欠片も期待できない。

 ここにいても意味はなし、さっさと去ろうと思ったのだが、よくよく考えてみれば自分は迷子であった。シイはラミアに道を尋ねることにする。

「あのー、すみませーん」
「何よ、やる気?」

 舌を出して威嚇するラミア。長い蛇の胴体は男に絡みつき、決して放さないという意志が見て取れる。シイは手を左右に振りながら否定した。

「違うよー、道を聞きたかっただけ。タミル村ってどっちにある?」
「・・・・タミル村ってあんた、遠いわよ。地図はある?」
「うん」

 シイが手持ちの地図を見せると、

「・・・・うっわ、ずいぶん大雑把な地図ね。安モノでしょこれ」
「うん、一番安い銅貨5枚だった」
「せめて最低でも銀貨1枚はするのを買いなさい。こんなんじゃ迷うの当たり前だわ。・・・・えーと、今はこの辺で」

 ラミアが魔力で地図に目印をつけていく。

「ここからあっちの一本道の、近場にあるガルセアってところに寄って、新しく地図を買いなさい。いいわね?」
「はーい、ありがとねー。んじゃ、ごゆっくり〜」
「もう。とんだ邪魔が入ったもんだわ」

 シイはラミアに背を向けて歩き始める。すぐに後ろから人間の悲鳴が聞こえたが、シイは振り返るような野暮なことはしないのである。


 道がわかったこともあって、シイの足取りは軽い。鼻歌交じりで歩き、感じる寒さもなんのその。
「いやー、助かった!」
 親切なラミアで良かった。これが気難しい子だと一筋縄ではいかなかったりするのだ。
「ふんふふふーん。そういえば距離聞いてなかったけど、近場って言ってたしもうちょっとで着くよね!」
 もうちょっとが全然もうちょっとじゃなかったのに気づくのは、もうちょっと後の話であった。


 どっかに続く!


 宅配物
 ダンジョンギルドをいったん経由し、当魔物娘の元へと届けられる。種族と名前さえわかれば結構届いたりする。
15/06/13 03:38更新 / 涼織
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■作者メッセージ
短い! 閑話だもの!

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