迷い込んでしまった男、それは私の事だ。
「エアブラシ用のコンプレッサーの買い出しに行ってます……っと」
不思議な体験をした翌朝、私はその時の記憶を反芻しながら趣味である模型制作用の買い出しへと向かっていた。以前から欲しかったエアブラシ用のコンプレッサーをやっと手に入れられるのだ。彼の脳内では「絶好調である!!!」と言う具合に上機嫌な声が響いていた。
秋の初め、残暑の残り香がふわりと香る街中を普段着(オレンジ色の上着に黒のズボン)で歩く。今日は金曜日。大学生特有のかなり長い夏休みも終盤に差し掛かってきた。平日だから必然的に通行人もほとんど居ない。
「(コンプレッサーと塗料と……ドライブラシで汚すのもアリだなぁ。あ!そう言えば旧キットが再販されるのって今日だったか明日だったか……)」
そんな事を考えながら私は目的地の老舗模型屋へと歩みを進めていた。
「(プラ板でオリ機体用の武器をスクラッチするのもやってみよう。実体剣は安定してカッコイイけどここはやっぱり斧……斧だな。ロマン武器is最高!後はジャンクp)」
ふと、私は視線を前に動かした。
ずっと考え事をしていたからか、どうやら私は曲がり角を1つ間違えてしまって見慣れない路地へと迷い込んでしまったようだ。
「(やらかしたやつじゃないのさ……ふーむ……近くにこんな場所があったんだなぁって……)」
彼の歩く道は、先程まで歩いていたイチョウの葉がパラパラと落ちていた普通の歩道とは大きく違う、シックな雰囲気の漂う建物が並び立つ、レンガで舗装された道となっていた。
「折角だしすぐに戻るのもアレ(もったいない)だからちょいとばかり散歩するかな〜。どうせ模型屋が開くまで少し時間があるし……」
私はこの時、第2のやらかしをしてしまっていたらしい。直ぐに来た道を戻ればまだ私は普通で居られたのに。いや、もうあの夜の時点で普通の生活は送れなくなっていたのかもしれないが。
そんなわけで私は宛もなくブラブラとその道を歩き始めてしまった。どうせスマホで地図を見れば余裕のよっちゃんで帰れるだろう。と考えていた。考えてしまっていた。
「(ほーん……近所にこんなオサレな街があるなんて長らく暮らしてたけど知らなかったなぁ……。それにしても2018年とは思えないレベルで中世めいてるなぁ。某映画村に言った時のことを思い出す……あれは中学生のころだったかな?その頃はこんな感じの世界で授業中に冒険していたよなぁ〜)」
とりあえず真っ直ぐ歩いていた(知らない場所は真っ直ぐ歩く事にしている)私は、いつの間にか城下町の様な場所へと迷い込んでいた。
「………そう言えば建物が無い。ビルも無けりゃ電柱も無い。………まーさか昨日の晩の続きだなんて、そんな訳も……」
無い。と言いたかった。だがそのセリフはどうにも吐けなかったのだ。
何故って?
そりゃまあ、居るんですもの。
昨日の夜に覗いてしまった世界に居た様な。
魔物娘が。
「コス合わせって訳でも無いよねぇ……うーん、眉に唾は付けたし頬は抓った。どうにもこれはリアルな出来事なのかな……?」
私は呆然としながらその城下町の様な場所の中を歩いていた。視線に飛び込むのは如何にも中世らしい服装をした男達(これはいつもの世界と変わらない)と多種多様な種族の魔物娘達が仲良く、活気良く生活している風景だった。
頭上をハーピーが飛んで行き、目の前をラミアが横切り、市場では背の低い女性(ゴブリン?)とタヌキっぽい女性がセールストークをかましている。
横を見ながら歩いていたせいか、前を歩いていたシスター服の女性とぶつかってしまった。
「うおっと!すいませんすいません……前方不注意でした!」
「いや、こちらも不注意でしたわ。ごめんなさいね」
「いやはや、すいまs……」
「どうされました?私の顔に何か……?」
「な、何も着いてないですよ……?」
そりゃそうだ。下半身から触手を生やした美女が目の前に居るのだ。確かローパーだったか……が目の前に居るのだ。普通の生活を送っていたらそうそう触手の生えた人間(?)に会うことも無い。会ってたまるか!
「摩訶不思議ってこういう時のために使う言葉なんだねぇ……」
摩訶不思議アドベンチャー、と言う言葉が頭を過ぎった。前方を見上げると(そこそこ大きめな)城がそびえ立っている。
「そう言えばコンプレッサー買いに出たんだった……スマホスマホ。今の位置を出して……ありゃ?」
電波が無い。画面左上では圏外の2文字が私を煽る様にニヤリとしている。
さあ困った。数分前までなら一本道で歩いていれば十分に帰れたのだが。どうやらこの城下町は同じ様な道が何本か伸びていて自分がどこから来たのか皆目検討もつかない。
「自力で帰れないとなると……どうする、困ったぞ……!コンプレッサーどころか家に帰ることすらままならないのは流石にしんどい!」
一刻も早く帰る方法を見つけなければ。もっと時間に余裕があるのなら"昔していた妄想の様に"冒険できたのに。
「さてさてどうするかな……」
悩む私に、後ろから女性の声がかけられた。
「お兄さん、この世界の人じゃ無いでしょ?」
返答に困った私はこの間買ったイカした宇宙蛇の漫画を思い出し、クールな返答が出来ないか模索した。
「ご名答!ミリオネアなら何百万ドルの大勝利だぜ?」
我ながら少しダサい気がした。
不思議な体験をした翌朝、私はその時の記憶を反芻しながら趣味である模型制作用の買い出しへと向かっていた。以前から欲しかったエアブラシ用のコンプレッサーをやっと手に入れられるのだ。彼の脳内では「絶好調である!!!」と言う具合に上機嫌な声が響いていた。
秋の初め、残暑の残り香がふわりと香る街中を普段着(オレンジ色の上着に黒のズボン)で歩く。今日は金曜日。大学生特有のかなり長い夏休みも終盤に差し掛かってきた。平日だから必然的に通行人もほとんど居ない。
「(コンプレッサーと塗料と……ドライブラシで汚すのもアリだなぁ。あ!そう言えば旧キットが再販されるのって今日だったか明日だったか……)」
そんな事を考えながら私は目的地の老舗模型屋へと歩みを進めていた。
「(プラ板でオリ機体用の武器をスクラッチするのもやってみよう。実体剣は安定してカッコイイけどここはやっぱり斧……斧だな。ロマン武器is最高!後はジャンクp)」
ふと、私は視線を前に動かした。
ずっと考え事をしていたからか、どうやら私は曲がり角を1つ間違えてしまって見慣れない路地へと迷い込んでしまったようだ。
「(やらかしたやつじゃないのさ……ふーむ……近くにこんな場所があったんだなぁって……)」
彼の歩く道は、先程まで歩いていたイチョウの葉がパラパラと落ちていた普通の歩道とは大きく違う、シックな雰囲気の漂う建物が並び立つ、レンガで舗装された道となっていた。
「折角だしすぐに戻るのもアレ(もったいない)だからちょいとばかり散歩するかな〜。どうせ模型屋が開くまで少し時間があるし……」
私はこの時、第2のやらかしをしてしまっていたらしい。直ぐに来た道を戻ればまだ私は普通で居られたのに。いや、もうあの夜の時点で普通の生活は送れなくなっていたのかもしれないが。
そんなわけで私は宛もなくブラブラとその道を歩き始めてしまった。どうせスマホで地図を見れば余裕のよっちゃんで帰れるだろう。と考えていた。考えてしまっていた。
「(ほーん……近所にこんなオサレな街があるなんて長らく暮らしてたけど知らなかったなぁ……。それにしても2018年とは思えないレベルで中世めいてるなぁ。某映画村に言った時のことを思い出す……あれは中学生のころだったかな?その頃はこんな感じの世界で授業中に冒険していたよなぁ〜)」
とりあえず真っ直ぐ歩いていた(知らない場所は真っ直ぐ歩く事にしている)私は、いつの間にか城下町の様な場所へと迷い込んでいた。
「………そう言えば建物が無い。ビルも無けりゃ電柱も無い。………まーさか昨日の晩の続きだなんて、そんな訳も……」
無い。と言いたかった。だがそのセリフはどうにも吐けなかったのだ。
何故って?
そりゃまあ、居るんですもの。
昨日の夜に覗いてしまった世界に居た様な。
魔物娘が。
「コス合わせって訳でも無いよねぇ……うーん、眉に唾は付けたし頬は抓った。どうにもこれはリアルな出来事なのかな……?」
私は呆然としながらその城下町の様な場所の中を歩いていた。視線に飛び込むのは如何にも中世らしい服装をした男達(これはいつもの世界と変わらない)と多種多様な種族の魔物娘達が仲良く、活気良く生活している風景だった。
頭上をハーピーが飛んで行き、目の前をラミアが横切り、市場では背の低い女性(ゴブリン?)とタヌキっぽい女性がセールストークをかましている。
横を見ながら歩いていたせいか、前を歩いていたシスター服の女性とぶつかってしまった。
「うおっと!すいませんすいません……前方不注意でした!」
「いや、こちらも不注意でしたわ。ごめんなさいね」
「いやはや、すいまs……」
「どうされました?私の顔に何か……?」
「な、何も着いてないですよ……?」
そりゃそうだ。下半身から触手を生やした美女が目の前に居るのだ。確かローパーだったか……が目の前に居るのだ。普通の生活を送っていたらそうそう触手の生えた人間(?)に会うことも無い。会ってたまるか!
「摩訶不思議ってこういう時のために使う言葉なんだねぇ……」
摩訶不思議アドベンチャー、と言う言葉が頭を過ぎった。前方を見上げると(そこそこ大きめな)城がそびえ立っている。
「そう言えばコンプレッサー買いに出たんだった……スマホスマホ。今の位置を出して……ありゃ?」
電波が無い。画面左上では圏外の2文字が私を煽る様にニヤリとしている。
さあ困った。数分前までなら一本道で歩いていれば十分に帰れたのだが。どうやらこの城下町は同じ様な道が何本か伸びていて自分がどこから来たのか皆目検討もつかない。
「自力で帰れないとなると……どうする、困ったぞ……!コンプレッサーどころか家に帰ることすらままならないのは流石にしんどい!」
一刻も早く帰る方法を見つけなければ。もっと時間に余裕があるのなら"昔していた妄想の様に"冒険できたのに。
「さてさてどうするかな……」
悩む私に、後ろから女性の声がかけられた。
「お兄さん、この世界の人じゃ無いでしょ?」
返答に困った私はこの間買ったイカした宇宙蛇の漫画を思い出し、クールな返答が出来ないか模索した。
「ご名答!ミリオネアなら何百万ドルの大勝利だぜ?」
我ながら少しダサい気がした。
18/09/07 10:42更新 / 回り続けるO(オー)
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