とある村に住む、幼い男の子と、隣の家に住む双子の女の子。
　仲良しの三人はいつも一緒です。
　今日も真ん中に男の子、その右手と左手をそれぞれつないで、双子は楽しそうにしています。

　ですが、ふと男の子の左右にいる双子は顔を見合わせ、お互いの顔をじっと見つめました。
　それからふんと顔をそらすと、右手側の女の子が男の子に声をかけます。

「ねえねえ、今日はわたしといっしょにおままごとしましょう？」
「ちがうわ。わたしとおえかきするのよ」

　男の子が答える前に、左手側の女の子が唇を尖らせてそう言いました。
　それに右手側の女の子は眉をしかめ、左手側の女の子も同じような顔をします。

「なによ」
「なによ」

　やがて双子は男の子を間に挟んだまま、にらみ合いを始めてしまいました。
　男の子は困った顔をして、それぞれ左右の女の子に視線をさまよわせるしかありません。

　双子は男の子のことが大好きなのですが、大好きすぎて自分とだけ遊んでほしいと、いつもけんかばかりです。
男の子は双子のことはどちらも大好きなのですが、けんかばかりで少し困っていました。

「もう、けんかはやめようよう」

　男の子としては、みんなでなかよく遊びたいのです。
　ですが、双子は何度言ってもけんかをやめてくれません。
　その時は仲直りしても、また遊ぶときになると、男の子を取り合ってけんかをはじめてしまうのです。



　そんなある日、三人は裏山で不思議な花を見つけました。
　見たことのない花でしたが、とてもきれいな花でした。

「もってかえろう」
「うん」
「そうね」

　花には少しかわいそうな気もしましたが、あまりにきれいなので三人は我慢できませんでした。
　確かに、それだけきれいな花だったのです。
　花を傷めないよう、周囲の土ごとそっと掬い、大事に大事に持って帰ります。

　さて、無事家まで花を持って帰った三人でしたが、
そこでまた問題が起きてしまいました。
またしても双子の姉妹はどちらがその花の持ち主になるかでけんかを始めてしまったのです。

「これはわたしのよ！」
「いいえ、わたしのです！」

「ふたりのものにすればいいのに……」

　男の子が必死でなだめ、仲裁し、結局は二人のものとして部屋に飾ることで決着がついたのですが、姉妹は不満げでした。

　男の子は大きな溜息をつきます。
　こんなことなら、花を持って帰るんじゃなかった、とも思いました。

「ああ、どうしてみんなで仲良くできないのかなあ」

　その瞬間、彼の言葉に応えるように、双子の手に握られた花が揺れましたが、彼らの誰もそれに気づくことはありませんでした。



　その夜のことです。
　双子の寝室。二人がそれぞれ眠るベッドの真ん中。机の上に置かれた花の鉢植えが、不意にぼんやりと光りだしました。
　けれども、ぐっすりと眠る二人はまるで気づく様子はありません。
　それが分かったのか、風もなく揺れる花はゆっくりと自身の根を土から引き抜くと、音もなく床に降り立ちました。

「くぅ、くぅ……」
「すぅ、すぅ……」

　幸せそうに眠る双子。花は根っこを使い、器用にベッドへと歩いていきます。
　足に根を絡ませ、ベッドの上によじ登ると、いきなりその花が大きく膨らみました。
　人間をゆうに呑みこむほど大きく開いた花弁の中心からはおしべが伸び、まるで蔓のように女の子の身体に絡みつきます。

「ん……、すぅ……すぅ……」

　それだけのことをされているのにもかかわらず、女の子に目を覚ます様子はありません。
　くすぐったそうに少し身をよじっただけで、安らかな寝顔のまま、花に身を任せています。
　それに花は満足げに揺れ、ゆっくりと彼女の身体を自身の中へと導いていきました。
　いつの間にかあふれ出した黄金色の蜜が、女の子の身体を濡らします。

「あ……ん……」

　それにぴく、ぴくと彼女は震え、小さな声を漏らしました。
　やがて甘い臭いが部屋の中を満たすころには、女の子の小柄な身体はすっぽりと花の中に収まってしまいました。
　同時に、大きく膨らんでいた花は元の大きさに戻ります。

「んっ、んふぅ……ん……」

　ぐちゅ、ぐちゅという音と共に、時折、気持ちよさそうな声が響いてきます。
　その間にベッドを降りた花は、花弁の中に女の子を包んだまま、もう一つのベッドへと近づいていきました。
　先ほどと同じくベッドをよじ登ると、再び大きく花を広げます。
　溢れ出る蜜がシーツに垂れる中、するりと伸びためしべはもう一人の女の子を優しく絡みとると、花弁の中へと引き込んでいきます。
　やはり彼女も目を覚ます様子はなく、気持ちよさそうな声を漏らしながら、花の中に包み込まれてしまいました。

　双子を包み込んだ花は目的は果たしたといわんばかりに、その大きさはそのままに、ゆっくりとその花弁を閉じていきます。
　その様子はまるで時を逆戻し、つぼみになっていくように見えました。

「ふぁ……あ……ん……」
「くふぅ……ん……ふ……」

　二人の女の子を呑みこんだ花からは蜜が溢れ、ぬちゅ、ぬちゅという音が絶え間なく響きます。
　その音に混じって、時折気持ちよさそうな双子の声が漏れ、静かな闇の中に消えていきました。


　風もない部屋の中で揺れる、大きなつぼみ。
　不意に雲が切れ、その合間から月明かりが差し込みます。
　幻想的な青白い光に照らされ、輝く花の中には、人の影が浮かび上がっていました。

　抱き合い、絡み合う幼い影。
　やがて月の光をたっぷり浴びた花は、ゆっくりと開き始めます。

　純白の花弁がほどけ、黄金の蜜が溢れます。
　その中から、一つの影……いいえ、抱き合う二人がゆっくりと姿を現しました。

「くすくす……」
「うふふ……」

　お互いを慈しむように、その腕で包む二人の女の子。
　その顔は、先ほどまで眠っていた双子の女の子たち、そのままでした。

　けれど、彼女たちの顔には幼さと裏腹の妖しげな魅力が満ち、
　その瞳には夜闇の中でもはっきりとわかるほどの淫らな光が揺らめいています。

　それだけではありません。

　彼女たちの肌は、みずみずしい若葉を思わせる色へと変わり、身体には細い緑の紐が巻き付いています。
　いえ、それは紐ではありませんでした。ところどころから楕円の葉を生やす　それは、茎、もしくは蔓といえるものでした。
　さらに、首や腕、太ももは花のがくを思わせるものが、チョーカーや手袋のように覆い、飾っています。
　そして二人おそろいの明るい赤毛は薄桃色へと染まっており、その髪から尖がった耳が覗き、頭には花が飾りのように可愛らしく咲いていました。

　微笑みながら抱き合う双子。彼女たちに絡む蔓がするすると伸び、小さな花が咲くと、そこからも蜜が溢れます。
　彼女たちはその蜜を手に受けると、嬉しそうに互いの身体に塗りたくり始めました。
　腕、太もも、背中、お腹、胸、頬。
　はじめは手で、やがて全身が蜜まみれになると、抱き合った体をさらに密着させ、互いの肌へと蜜を擦り込んでいきます。

　花の双子は互いに互いを求め合い、嬉しそうに、幸せそうに、悦びを分かち合い、与えあいます。

　そしていつしか窓の外が白みだした頃、彼女たちはどちらからともなく顔を見合わせ、頷きました。

「リィリ」
「ラァラ」

　愛しげに、片割れの名を呼ぶ双子。
　それ以上の言葉は、必要ありませんでした。

　二人はゆっくりと、窓の外を見つめます。
　その向こうには彼女たちの大好きな男の子の部屋がありました。まだ夜明け前の時間。男の子は眠っているでしょう。
　こんな時間に押し掛けたら、迷惑がられるかもしれません。

　ですが、もう彼女たちは我慢できませんでした。

　どちらからともなく頷いた二人は、ゆっくりとその根を使い、歩き出しました。
　そっとドアを開け、両親が眠る寝室の前を通り、階段を下りていきます。

　もう、双子がけんかをすることはありませんでした。だって、二人の想いは一緒で、少しも違えることなどなかったのですから。

　自分たちの中に、大好きな彼を入れてあげたい。
　自分たちの中で、大好きな彼にいっぱい気持ちよくなってほしい。気持ちよくしてほしい。

　そして、自分たちと一緒に、ずっといてほしい。

「くす」

　二人の声が重なり、一つの笑みがこぼれます。
　男の子は驚くでしょうか。でも、きっと喜んでくれるはず。
　だって、双子はとっても仲良しになれたのですから。

　そして、男の子もまた、今まで以上に双子と仲良くなれるはずです。
　そう考えると、花の双子は、胸の高まりと頬の熱さを止めることはできませんでした。

　いつの間にか辿りついた男の子の部屋。そのドアを二人で伸ばした手が、そっと押し開けます。

　ベッドの上には、穏やかな寝息を立てる大好きな男の子の姿。
　しばしじっとその寝顔を見つめ、それから双子は見つめ合い、
ゆっくりと自分たちの中に、男の子を包み込んでいくのでした。


　おわり