エピローグ 新たな戦いへ
一週間後。
エドは酒場で、マクナイトとイラリアの二人とテーブルを囲んでいた。
六日間に渡る交尾漬けの日々の後、他の五大老が去った今、サバト支部に残っているのはイラリアだけである。
「悪かったな、騙してしまって」
エドがビールを飲みながら、マクナイトに謝った。
最終的に丸く収まったとはいえ、策略にはめたのは事実だ。
「いや、もう気にしてねえよ。こいつに出会えたしな」
そう言って、マクナイトはビールを飲みながら、イラリアの頭を撫でた。
「んん……ご主人様……」
イラリアが気持ちよさそうに笑みを浮かべるのを見ながら、エドは聞いた。
「隊長たちは何をしてるんだ?」
「ああ、これまでと変わらねえよ。戦場に出て戦ってるのさ。違うのは、ここの為に戦ってるってことだな」
「戦いを止める戦いってわけか」
「エムリス君とパスティナちゃんは、グレイリア・サバトの魔物病院で働いているよ。すっかり医療魔法をマスターしたって、あっちのサバトの子がびっくりしてた」
イラリアがはちみつ酒を飲みながら、嬉しそうに報告する。
「そして俺とイラリアは、隊長との連絡役兼サバトの書類仕事担当ってわけだ。めんどくせえ」
マクナイトはぼやくが、マクナイトの仕事は早くて丁寧だとサバト内で評判だ。
エドは、ふと気になったことを聞いた。
「そういや、故郷はどうだった?」
「ああ、住人が魔物になってただけだ」
マクナイトの故郷は魔物に侵略された。
マクナイトはそこから命からがら逃げてきたのだが、実際は魔物たちは極めて友好的で、侵略ではなく親魔物国家への移り変わりというのが真実であった。
「ババアだった母ちゃんが、今はぴちぴちのサキュバスになって親父と仲良くやってるって、考えられるか?おい」
「それで自分は、キキーモラと婚約しましたって?びっくりしてひっくり返るだろうな」
「イラリアはその、婚約者というか、主従というか……」
「ご主人様、私がお嫌いですか?」
イラリアがマクナイトの手を握ると、マクナイトは顔を真っ赤にした。
「き、嫌いなわけあるか!」
「頭が上がらないな」
「うっせえ、他になんかあるか?」
「いや、もう無い」
エドは空になったビールのグラスを持って立ち上がる。
「それじゃ、あとは二人でゆっくりとな」
「おう。また後でな」
「じゃあね、エド君」
エドはカウンターに向かい、空グラス置き場にグラスを置いた。
「エド」
カウンター越しに声をかけてきたのはナイアスだ。
「ナイアスさん、どうしました?」
「グリンバルトから、これを預かっていてね」
そう言って取り出したのは、鎧に縫い付ける記章だった。
剣を背負ったバフォメットが刺繍されている。
「これは?」
「ザッハーグ調停戦団だってさ。参加するのかい?」
「いや、まあ……」
エドは記章を見ながら過去を思う。
鋼鉄羊団の一人として、戦場を駆けた日々を。
戦う事しか知らず、それ以外の生き方なんて考えられなかった、あの頃の日々を。
「気が向いたら、顔を出してみます」
記章を明かりにかざしながら、グリンバルトの新しい戦場での奮闘を、エドは頭に思い描いた。
「盛大だな」
グリンバルトは彼方を眺めて、にやりと笑った。
二つの巨大な軍勢が、荒野を挟んで向かい合っている。
サバトの情報によれば、主神教団の軍勢と親魔物国家の軍勢がぶつかり合う寸前の状態らしい。
「主神教団が四万に対し、親魔物国家が五千か」
「荷が重いかの?」
グリンバルトの肩に座るザッハーグが、からかうように聞いた。
「馬鹿言え、このくらいが一番面白いんだよ」
グリンバルトは、一見重厚そうに見えるがこの上なく動きやすい全身鎧に、魔界銀製の厚い刃の大剣を背負った出で立ちだ。
その装備全てがサバトの装備開発班の特注品であり、インキュバスになったグリンバルトの戦闘力と合わさって、凄まじい戦力となっている。
「今なら、百万を相手にしても勝てそうだ。なあ、ライル」
グリンバルトは空から降りてきたレッドドラゴンに呼びかけた。
「おう、隊長!やってやろうぜ!」
ライルはガルニアにまたがり、魔界銀製の槍を手にしている。
「ライル、調子に乗るんじゃないぞ。我に乗っての戦は初めてだろう」
「大丈夫だって、ガルニアとならどんな奴が相手でも負けねえよ」
「ふん、当然だな」
ガルニアは機嫌よさそうに、鼻息を吐いた。
「オイラたち、準備できたぞ」
グリンバルトの後ろから報告したのはダムドだ。
魔界銀製の大槌を担ぎ、その巨体にはボローニャが巻き付いている。
「おい、ダムド。ボローニャは大丈夫なのか?」
「心配しないで、魔法にはちょっと自信があるから」
そう言うと、ボローニャは一瞬で魔法障壁を空中に展開してみせる。
「隊長。オイラが殴り、ボローニャが守る」
「分かった。期待してるぜ」
そして、グリンバルトは背後に控える一万の魔物娘たちを見渡した。
オーク、ホブゴブリンとゴブリン、ハーピー、ワイバーン、サキュバス、その他もろもろ。
誰もかれもが独身の、男を求めて戦場に来た者たちである。
そのどこか牧歌的な理由に苦笑しながら、グリンバルトは大剣を抜いた。
「いいか!まず、俺たちが敵に斬りこむ!その後にお前たちが好きにする!わかったか!」
魔物娘たちの歓声が沸き上がる。溢れかえる熱気を全身に浴びながら、グリンバルトは肩の上のザッハーグに言う。
「さて、出撃だな」
「うむ。おぬしの力、とくと見せてもらおう」
「ハッ!激しすぎてチビるんじゃねえぞ」
グリンバルトとザッハーグ、ライルとガルニア、ダムドとボローニャ。
彼らは、主神教団の軍勢に向かって進軍を開始する。
戦いを無くすための、果てしなき戦い。その新たな一戦が今始まろうとしていた。
「ザッハーグ調停戦団!出撃だ!」
グリンバルトは大剣を掲げ、魔物娘の軍団を率いて走り出した。
エドは酒場で、マクナイトとイラリアの二人とテーブルを囲んでいた。
六日間に渡る交尾漬けの日々の後、他の五大老が去った今、サバト支部に残っているのはイラリアだけである。
「悪かったな、騙してしまって」
エドがビールを飲みながら、マクナイトに謝った。
最終的に丸く収まったとはいえ、策略にはめたのは事実だ。
「いや、もう気にしてねえよ。こいつに出会えたしな」
そう言って、マクナイトはビールを飲みながら、イラリアの頭を撫でた。
「んん……ご主人様……」
イラリアが気持ちよさそうに笑みを浮かべるのを見ながら、エドは聞いた。
「隊長たちは何をしてるんだ?」
「ああ、これまでと変わらねえよ。戦場に出て戦ってるのさ。違うのは、ここの為に戦ってるってことだな」
「戦いを止める戦いってわけか」
「エムリス君とパスティナちゃんは、グレイリア・サバトの魔物病院で働いているよ。すっかり医療魔法をマスターしたって、あっちのサバトの子がびっくりしてた」
イラリアがはちみつ酒を飲みながら、嬉しそうに報告する。
「そして俺とイラリアは、隊長との連絡役兼サバトの書類仕事担当ってわけだ。めんどくせえ」
マクナイトはぼやくが、マクナイトの仕事は早くて丁寧だとサバト内で評判だ。
エドは、ふと気になったことを聞いた。
「そういや、故郷はどうだった?」
「ああ、住人が魔物になってただけだ」
マクナイトの故郷は魔物に侵略された。
マクナイトはそこから命からがら逃げてきたのだが、実際は魔物たちは極めて友好的で、侵略ではなく親魔物国家への移り変わりというのが真実であった。
「ババアだった母ちゃんが、今はぴちぴちのサキュバスになって親父と仲良くやってるって、考えられるか?おい」
「それで自分は、キキーモラと婚約しましたって?びっくりしてひっくり返るだろうな」
「イラリアはその、婚約者というか、主従というか……」
「ご主人様、私がお嫌いですか?」
イラリアがマクナイトの手を握ると、マクナイトは顔を真っ赤にした。
「き、嫌いなわけあるか!」
「頭が上がらないな」
「うっせえ、他になんかあるか?」
「いや、もう無い」
エドは空になったビールのグラスを持って立ち上がる。
「それじゃ、あとは二人でゆっくりとな」
「おう。また後でな」
「じゃあね、エド君」
エドはカウンターに向かい、空グラス置き場にグラスを置いた。
「エド」
カウンター越しに声をかけてきたのはナイアスだ。
「ナイアスさん、どうしました?」
「グリンバルトから、これを預かっていてね」
そう言って取り出したのは、鎧に縫い付ける記章だった。
剣を背負ったバフォメットが刺繍されている。
「これは?」
「ザッハーグ調停戦団だってさ。参加するのかい?」
「いや、まあ……」
エドは記章を見ながら過去を思う。
鋼鉄羊団の一人として、戦場を駆けた日々を。
戦う事しか知らず、それ以外の生き方なんて考えられなかった、あの頃の日々を。
「気が向いたら、顔を出してみます」
記章を明かりにかざしながら、グリンバルトの新しい戦場での奮闘を、エドは頭に思い描いた。
「盛大だな」
グリンバルトは彼方を眺めて、にやりと笑った。
二つの巨大な軍勢が、荒野を挟んで向かい合っている。
サバトの情報によれば、主神教団の軍勢と親魔物国家の軍勢がぶつかり合う寸前の状態らしい。
「主神教団が四万に対し、親魔物国家が五千か」
「荷が重いかの?」
グリンバルトの肩に座るザッハーグが、からかうように聞いた。
「馬鹿言え、このくらいが一番面白いんだよ」
グリンバルトは、一見重厚そうに見えるがこの上なく動きやすい全身鎧に、魔界銀製の厚い刃の大剣を背負った出で立ちだ。
その装備全てがサバトの装備開発班の特注品であり、インキュバスになったグリンバルトの戦闘力と合わさって、凄まじい戦力となっている。
「今なら、百万を相手にしても勝てそうだ。なあ、ライル」
グリンバルトは空から降りてきたレッドドラゴンに呼びかけた。
「おう、隊長!やってやろうぜ!」
ライルはガルニアにまたがり、魔界銀製の槍を手にしている。
「ライル、調子に乗るんじゃないぞ。我に乗っての戦は初めてだろう」
「大丈夫だって、ガルニアとならどんな奴が相手でも負けねえよ」
「ふん、当然だな」
ガルニアは機嫌よさそうに、鼻息を吐いた。
「オイラたち、準備できたぞ」
グリンバルトの後ろから報告したのはダムドだ。
魔界銀製の大槌を担ぎ、その巨体にはボローニャが巻き付いている。
「おい、ダムド。ボローニャは大丈夫なのか?」
「心配しないで、魔法にはちょっと自信があるから」
そう言うと、ボローニャは一瞬で魔法障壁を空中に展開してみせる。
「隊長。オイラが殴り、ボローニャが守る」
「分かった。期待してるぜ」
そして、グリンバルトは背後に控える一万の魔物娘たちを見渡した。
オーク、ホブゴブリンとゴブリン、ハーピー、ワイバーン、サキュバス、その他もろもろ。
誰もかれもが独身の、男を求めて戦場に来た者たちである。
そのどこか牧歌的な理由に苦笑しながら、グリンバルトは大剣を抜いた。
「いいか!まず、俺たちが敵に斬りこむ!その後にお前たちが好きにする!わかったか!」
魔物娘たちの歓声が沸き上がる。溢れかえる熱気を全身に浴びながら、グリンバルトは肩の上のザッハーグに言う。
「さて、出撃だな」
「うむ。おぬしの力、とくと見せてもらおう」
「ハッ!激しすぎてチビるんじゃねえぞ」
グリンバルトとザッハーグ、ライルとガルニア、ダムドとボローニャ。
彼らは、主神教団の軍勢に向かって進軍を開始する。
戦いを無くすための、果てしなき戦い。その新たな一戦が今始まろうとしていた。
「ザッハーグ調停戦団!出撃だ!」
グリンバルトは大剣を掲げ、魔物娘の軍団を率いて走り出した。
20/06/09 01:19更新 / KSニンジャ
戻る
次へ