後日談:結婚式とメイドとその後
結婚式と言うのはやはり華やかなものだ。
式場に入場する新婦、それを心待ちにする新郎、進行を務める牧師にそれを見届ける招待客。
沢山の方々が訪れる。
そう。沢山の方々が訪れる。私達を祝う為に……。
「……………………………………」
まずい。体の震えが止まらない。
「リリィ、余り緊張してたら折角のお嫁さん衣装が台無しよ？」
「お、奥様ぁ、わ、私やっぱり無理ですぅ……！」
鏡の前で涙目になる私に奥様が優しく微笑み掛ける。
「そうそう。式をあげるんだから、緊張で倒れたら示しがつかないよ？」
ニヒヒと笑って肩に手を置くアンジェラお嬢様。
「そう言って宣誓句を度忘れしたのは誰だったかしら？」
「なんの事かな〜？」
「……フフ」
お嬢様のやりとりを視て思わず口元が綻ぶ。
すると、後ろからもう一人鏡を覗き込む女性が現れる。
「良いね〜。私達も結婚式あげたかったよリリィ〜」
「ひゃああ！」
ミラお嬢様は項垂れる様に私に抱き付き胸を揉む。
「それにしても相変わらず良いおっぱいだね〜。揉んで良い？」
「もう揉んでるじゃないですかー‼」
さらに揉み方が凄くやらしい。
「ちょっとミラ、ウェディングドレスがダメになるかも知れないんだから止めなさい」
「はーい」
奥様の注意でミラお嬢様はすっと離れる。
「それにしても、本当に綺麗よね」
「ホント羨ましいね。今度アヤカに頼もうかな？」
「似合ってるよ、リリィ」
「そ、そうですか？」
三者それぞれの感想に私は鏡に映る自分の姿を見る。
純白の艶やかなシルクに、フリルなどの装飾品の付いたドレス。
それが今私の着ている格好。
自分でも見とれる程綺麗で、こんな姿に自分がなるとは思いもよらなかった。
でも、こんな格好を色んな人に見られるんですか……。
「…………………………………」
ああ、こんな時に地震でも起きているのだろうか。
「リリィ、だから緊張しないでって！」
「なんか振動がこっちにまで伝わってるよ！」
「リリィ、深呼吸、深呼吸！」
どうやら私が震えていただけらしい。深呼吸を二、三度繰り返す。
「スー、ハー……」
深呼吸が終わると、奥様から声が掛かる。
「リリィ、もうすぐルディが来る筈だから、もう少し待ってましょう？」
「はい」
もうすぐルドガー様が来る。その時にお互いの晴れ姿がお披露目される。
「なんだか恥ずかしいです」
紅葉する顔を気持ち隠す様に頬に手を添える。
「裸を見せあった仲なんだから大丈夫でしょう？」
「ふぇ！？」
だが、奥様から不意に言葉の打撃を受ける。
「その上お互いのを舐めあったって聴いてるし」
「はひ！？」
続いてアンジェラお嬢様。
「どうせフェラして出たのを飲んで『美味しい』とか言ったんだろう？リリィみたいなのは吹っ切れると大胆になりそうだし」
「ふぃぁああ！」
そしてミラお嬢様の的を射た止め。
「ご主人様、ご奉仕させて頂きます」
ニヤニヤ
「ああ、たっぷり出してやるからな。全部飲み込めよ？」
ケラケラ
「は、はい！」
ワラワラ
「そ、それ以上は止めて下さいぃ‼」
更なるお嬢様達による追い討ちが私を襲い、心が折れそうになった。
「二人とも、それくらいになさい。リリィが泣きそうじゃない」
「「だって可愛いんだもん！」」
「何で皆そう言って私を苛めるんですかぁああ！」
もはや「可愛い」と言えば何でも許されると思っているのだろうか。
騒がしい空気の中、コンコン、と扉が叩かれる。
「リリィ、良いか？」
「あら、愛しの花婿様が来たみたいよ」
「ど、どうぞ！」
「入るぞ」
扉が開き、奥からグレーのスーツを身に纏った銀髪の青年が現れる。
「……ぁ……」
「………………」
目線が合った途端、まるでそこに自分達しか居ないかのように見つめあっていた。
「……熱いね〜、この部屋暖房利きすぎてないかい？」
「僕らが居ること絶対忘れてるよね」
「う〜ん、初々しいわ〜」
三人は二人を式間近まで眺めた後、正気に戻し式場に向かわせた。
その後、入場の際に極度の緊張で気絶したことは言わずもがなである。
それから数ヶ月。
結婚してからの私達はと言うと、余り変わった所はない。
だが徐々に変わりつつあった。
「随分大きくなったな」
ルドガー様が私のお腹を擦る。
そのお腹は頭一つ分大きく膨らんでいた。
そう。妊娠したのだ。
「そうですね」
「……こうなるともうリリィ一人じゃ無理があるな」
妊娠してここまで大きくなると、仕事にも支障をきたす。
「悔しいですけど、そうですね」
「と言う訳でナイル夫人からもう一人メイドを借りて来ました」
「ふぇ、もうですか！？」
ルドガー様からの突然の報告。私は当然驚いた。
「コレットって言う人なんだが、知ってるか？」
「コレットさん！？」
その名前を聴いてさらに驚く。
コレット・フィリップス。私と同じ旦那様と奥様に仕えるメイドで、種族はショゴス。
はっきり言って、私は彼女が苦手である。
「何故コレットさんなんですか！？」
「向こうが決めた事だから何とも言えない。嫌いなのか？」
「……そうではないのですが、あの人、いつも無表情で、よく私にちょっかいを掛けて来るので苦手なんです」
「ちょっかい？」
ルドガー様は首を傾げる。
「ティータイム中に躓いたふりをしてわざと私にミルクを掛けたり、休憩中私の胸を揉んできたり、食事中に自分で作った食器を私に使わせて『セクハラだ』って言うんですよ！？」
「ん？ああ、ショゴスって言ってたな。ってか魔物がセクハラなんて言うのか」
「絶対コレットさんは私の事が嫌いなんです‼」
「そうとは限らないと思うけどな……」
私は知らなかった。この時ルドガー様が心の奥底でニヤリと笑っていた事を。
「もう今日中には来るって話だったし、この際和解したらどうだ？」
「うぅ、ルドガー様がそう仰るのなら」
私は知らなかった。この時ルドガー様が心の奥底で不吉な計画を練っていた事を。
数時間後の夕暮れ時。
ビルフォート邸にとうとうコレットさんが到着した。
私とルドガー様は揃ってコレットさんを出迎えた。
「お初にお目にかかります。メイドのコレット・フィリップスと申します。本日からルドガー様、並びにリリィ様のお世話をさせて頂きます。よろしくお願いいたします」
常時構えた鉄仮面のような表情でお辞儀をするコレットさん。
「ああ、こちらこそよろしく」
「……お久し振りです。コレットさん」
「ええ、お久し振りです。リリィ様」
「今まで通り『リリィ』で良いですよ」
「そうですか。ではリリィ……」
コレットさんは言葉を切ると、私をじーっと見つめてきた。正確には私のお腹を。
「…………」
……こう無表情で見詰められると困る。
「……太りました？」
「ふぇｰｰッ！？」
コレットさんの一言で、私は大きなショックを受けた。私達の子供がただの脂肪と言われるなんて！
「にゃ、にゃんて事言うんでしゅか！？」
「冗談です。結婚並びに妊娠、おめでとうございます」
「……うぅ」
そうだ。こうやってからかうのがコレットさんだ。終始無表情なので嘘と本当の区別が着きずらく、ルドガー様より質が悪い。
そして、時間も時間なので私達は夕食を取った。
妊娠しているとは言っても何も出来ないわけではないので、今日は私が料理した。
コレットさんはルドガー様の言いつけで一緒に食べている。
正直私はルドガー様と二人きりで食事したかったが、コレットさんが側で待機しているのはメイドとして落ち着かず、それにコレットさんとは階下で衣食住を共にした仲。一緒に食事した方が落ち着くので反対しなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
だが食事中、一言も会話がなかった。
積もる話もあったのだが、一言も会話がないとかなり空気が重い。
そして、ルドガー様は最後の一口を食べ終わり、食器を置く。
「ご馳走さま」
ルドガー様は席を立つ。
ふと気付くと、彼の口元に食べかすが付いていた。
「はい。ルドガー様。……あ、口元に食べかすが」
「お、悪いなｰｰ」
ルドガー手でそれを取ろうとするが、その前にコレットさんがルドガー様に近付き、
「取って差し上げます」
食べかすを舐めとり、そのままルドガー様の唇を奪った。
………………え？
「ふぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ！！！！！？？？？？」
「おい、ちょっ、まっｰｰ！」
ルドガー様は離れようとするがコレットさんはそれを許さず触手で引き寄せ、舌を絡ませる。
「コレットしゃん！？にゃにしてりゅんれしゅひゃ！？」
コレットさんは唇を離し私の質問に答える。
「ｰｰ舌を絡ませるキス、フレンチ・キス、ディープキス、あるいはベロチューと呼ばれるものです」
「ベロッ！ｰｰいいえ、そう言うことではなく何故ルドガー様にキスするんですか！？」
「すみません、つい」
コレットさんは頬に手を添え目を逸らす。
「無表情で何可愛い子ぶってるんですか！『つい』でやらないで下さい‼」
彼女と話していると本当に何を考えているか分からない。
「リリィは可愛い子ぶらなくても充分可愛いですよ」
「にゃ、話をそらさないで下さい‼」
「では続けますか？」
コレットさんは目線を私ではなくルドガー様に向けた。
……私はコレットさんとのやりとりで怒りが爆発しそうだった。
「いや、俺に聞かれても、じゃねぇや」
何で言い直す様な言葉が先に出るんですか！？
「この辺でｰｰ」
「ああ、もう！」
私はとうとう怒りを露にする。
「早く私のルドガー様から離れてください‼」
……だが、直後に訪れたのは沈黙だった。
「……は？」
何故か目を見開くルドガー様。
「今なんと？」
眉をあげ聞き直すコレットさん。
「だから私のルドガー…………！……様から…………」
……ちょっと待った。私は今なんと口にした？
『私のルドガー様から離れてください‼』
『私の』？
「あ、あう、あうあうあ……！」
私は後悔した。何て事を言ってしまったのだ、私！
「聴きましたか、ご主人様」
「……ああ、聴いた」
コレットさんとルドガー様はこちらを見たまま口を動かす。
「私の聞き間違いでなければリリィは今『私の』と言いましたよね？」
「ああ、確かに『私の』って言ってた」
「や、止めて下さい！」
なんだか不吉な予感がする。
「リリィ、もう一度聞きたいのですが？」
真剣な目で頼むコレットさん。
「言いません‼」
「『お前の』ルドガーからも是非聞きたいんだが？」
真面目な顔で頼み込むルドガー様。
「絶対駄目ですぅ‼」
「そうですか……」
「そうか……」
二人はお互い視線を合わせる。そして二人揃って「仕方ない」と呟いた。
「もう一度キスしますか」
「そうだな」
「止めて下さああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい！！！！！」
私は二人の接吻を全力で阻止しにかかった。勿論お腹の赤ちゃんに気をつけて。
数ヶ月後、娘のミリアが産まれ、少人数ながら騒がしいビルフォート家は平和な毎日を送っていた。
やがて時が経ち、娘も物心が付き始める年頃になる。
そして、ある日の深夜。
ビルフォート邸の一部屋で、ルドガーとコレットが向かい合って座っていた。
「ご主人様。本日もお相手、よろしく御願いします」
「ああ、こっちも頼む」
そして二人は真剣な雰囲気で寄り合い、
懐から何枚もの写真を取り出した。
「では、まずは私から」
「どうぞ」
コレットは手元の写真から一枚選び、ルドガーに見せる。
「これは一昨日撮影した、ミリアお嬢様に尻尾を鷲掴みされた時のリリィの写真です」
それは、少しばかりヤンチャな娘と母の写真。イタズラ心溢れるミリアにリリィが翻弄されていた。
「……良い」
ルドガーは親指を立てて頷く。
「じゃあ次は俺だな」
今度はルドガーが写真を差し出す。
「昨日、あいつに顔射した時の写真だ」
「……普段なら恥ずかしがるリリィもスイッチが入ればこんな恍惚な表情をするのですか。やはり夜のリリィは別格ですね。……ズルいです」
コレットは無表情ながらも悔しそうに言った。
「今日は俺が優勢か？」
「いえ、私には取って置きの物があります」
と一枚の写真を取り出す。
ルドガーは目を光らせた。
「な、これは……！」
「酔った時のリリィの写真です」
リリィは普段、酒を飲まない。飲ませようとしても断固拒否するのだ。
だが、ここにはどういうわけか顔を赤くし、酔った勢いで前主人の娘であるアンジェラ・ナイルにキスしていた。
「先日ナイル家に帰省させて頂いた際、リリィにお酒を飲ませました」
「な、どうやって！？」
今まで自分に出来なかった事をやってのけたコレットに驚愕と怪訝の眼差しを向ける。
「リリィの食事にアルコール度の高いワインをぶっかけました」
「お前…………やるな！」
ルドガーは感心してサムズアップした。
「恐縮です」
「で、どうだった？酔った時のリリィは？」
「……凄かったです。引っ込んでいた性格の反動か言動が異常なまでにはっちゃけていました。……普段とはまた違う可愛さでしたね」
心なしか弾んだ声で状況を述べるコレット。ルドガーはそれに興味津々だった。
「具体的には何て？」
「ごほん、あーあー。『おじょおしゃま〜、ルドガ〜しゃまったらひどいんですよ〜！エッチのときにコレットしゃんをよんで、あたしのちたいをかめらでとって、わじゃわじゃそれをあたしにみしぇるんですよ〜！はじゅかしいってちゃんといってるのに〜！』と、こんな感じで愚痴をこぼしていました」
コレットは発声練習をしたあと、リリィに似せて声まねをした。
コレットは人の声まねが上手い。声だけなら本人と聞き分けが着かない程だ。さらに当時の状況をそのまま演技しているせいで余計場面が想像出来てしまう。
だからこそ、ルドガーは苦笑いを浮かべた。
「それ、かなり酷い状態じゃないか？」
いくらなんでも酔いすぎではなかろうか。
コレットはコクリと頷く。
「写真を撮った時はもう末期でした。『ンフフ〜、ルドガ〜しゃま〜、あいしてましゅよ〜』と言いながらアンジェラお嬢様のお口にチューです。そのまま次の段階に移ろうとした所をレイジ様に気絶させられ止まりました」
「相等危険じゃねえか……。ってか気絶って！」
「手套で首筋を軽く。本人は素人だと仰ってましたが、その動きはまるで達人でしたね。安心してください、怪我はありませんよ」
「そうか。なら良い」
ルドガーは安堵の溜め息を吐く。
「にしても、その場面には立ち会いたかったな」
「そうですね。また彼女の食事にワインをぶっかけますか」
「おう、よろしく頼む……」
「……何が『よろしく』ですか？」
「「………………」」
突如現れた第三者の声。二人は身を固くした。
「コレット。俺の聞き間違いでなければ俺の可愛い愛しのお嫁さんの声が聞こえた気がしたんだが」
「ええ。確かに私の可愛い愛しの弄り人形の声が聴こえました」
二人は二人はおそるおそる後ろを振り向いた。
するとそこには、ニッコリと恐ろしい笑顔を浮かべたリリィがピクピクと眉を痙攣させていた。
「夜遅く眼が覚めたと思ったらルドガー様が居ませんし、お手洗いかと思っていたらやたらと規則的に居なくなってますし、気になって探しに来たらこんな所でコレットさんと一緒に私の恥ずかしい写真を並べてますし、ナイル邸の夕食後の記憶がないと思ったらお酒を飲まされていたなんて……」
「あ、あの、リリィ？」
「……これはだな？」
二人は冷や汗を掻く。
「いい加減にしてくださああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい！！！！！！」
その後、二人は朝まで寝かせてもらえなかった。
ある日の昼。
ルドガーとリリィはある書類に目を通していた。
「え、人類種の住民を移住させるんですか？」
「ああ、最近だとここもすっかり魔界だからな」
二人が結婚してから早十数年。
クォートの街もすっかり魔界と化し、住民の何人かも自然と魔物娘となりつつある。
その事を危惧し、人類種を対象に大掛かりな『引っ越し』の案が出ていた。
「えっと、それで一体何処へ？」
「どうも人類種の保護施設が建設されているらしくてな。もうすぐ完成するらしい。確か『クレイドル』って言ってたかな。ここからだと結構離れてるな」
「『クレイドル』ですか」
人類種の保護施設か……。
「私達もそちらに移るのですか？」
「移らねぇよ。俺はもうインキュバスなんだ。これは人類種が対象の引っ越しで、魔物は対象外。それにこの街が無くなる訳じゃないから、これからも変わらずこの街を治めなくちゃいけない」
「あ、そうですね」
人類種だけの引っ越し。そう思うと少しばかり寂しい気持ちになる。
「街のほとんどの人たちとお別れするんですね……」
「ああ、バリーや肉屋のオッサンにオバサンともお別れだ。長年付き合って来た分、余計寂しくなる」
「おや、ご主人様は以前『リリィを弄れば寂しくない！』と仰っていた記憶が」
「ピャアア！」
リリィ達の会話に気配もなく割り込んできたコレット。
「それはそれ、これはこれだ。あと、声を俺に似せないでくれ。妙な気分になる」
「失礼致しました」
コレットは深く頭を下げる。
「クレイドルは魔物と人類種を大幅に隔離する。何かしらの業務に着かない限り魔物は入る事が出来ないし、人間は外に出ることも許されない。つまり、本当にお別れする訳だ」
「…………」
リリィは当初この街に訪れた時の事を思い出した。
食材調達でお世話になった精肉店の夫婦。最初のクォート祭でお手伝いをして頂いたバリー。他にも婚活イベントにも人間の方が居て、話をしたり。
「皆居なくなるんですね」
「……ああ、皆居なくなる」
暫く、沈黙が続いた。
「……よし、出発前にパーティーでもやるか！」
「そうですね」
「では、日程を調整しましょう。今の内に決めて置けばお偉い様が来ない限り狂う事はありません」
「よし、じゃあ、街を回って挨拶しようぜ。リリィ、準備だ！」
この時、リリィはルドガーと会った当時の彼の事を考えていた。
リリィは思った。ルドガーは最初から寂しい人間ではなかったのだと。
過去を振り返り、親しかった人を思い返し、『お別れだ』と寂しがっていたのに、今まで孤独だった訳がないのだと。
「リリィ？」
「はい」
「どうした、ボーッとして？さっさと行こうぜ」
ルドガーはニッと笑い、リリィの手を引いた。
「ひゃわっ！……フフ」
リリィは少し驚きながらも、彼に笑い返した。
「はい、ルドガー！」
そして二人は、事務室を後にした。
式場に入場する新婦、それを心待ちにする新郎、進行を務める牧師にそれを見届ける招待客。
沢山の方々が訪れる。
そう。沢山の方々が訪れる。私達を祝う為に……。
「……………………………………」
まずい。体の震えが止まらない。
「リリィ、余り緊張してたら折角のお嫁さん衣装が台無しよ？」
「お、奥様ぁ、わ、私やっぱり無理ですぅ……！」
鏡の前で涙目になる私に奥様が優しく微笑み掛ける。
「そうそう。式をあげるんだから、緊張で倒れたら示しがつかないよ？」
ニヒヒと笑って肩に手を置くアンジェラお嬢様。
「そう言って宣誓句を度忘れしたのは誰だったかしら？」
「なんの事かな〜？」
「……フフ」
お嬢様のやりとりを視て思わず口元が綻ぶ。
すると、後ろからもう一人鏡を覗き込む女性が現れる。
「良いね〜。私達も結婚式あげたかったよリリィ〜」
「ひゃああ！」
ミラお嬢様は項垂れる様に私に抱き付き胸を揉む。
「それにしても相変わらず良いおっぱいだね〜。揉んで良い？」
「もう揉んでるじゃないですかー‼」
さらに揉み方が凄くやらしい。
「ちょっとミラ、ウェディングドレスがダメになるかも知れないんだから止めなさい」
「はーい」
奥様の注意でミラお嬢様はすっと離れる。
「それにしても、本当に綺麗よね」
「ホント羨ましいね。今度アヤカに頼もうかな？」
「似合ってるよ、リリィ」
「そ、そうですか？」
三者それぞれの感想に私は鏡に映る自分の姿を見る。
純白の艶やかなシルクに、フリルなどの装飾品の付いたドレス。
それが今私の着ている格好。
自分でも見とれる程綺麗で、こんな姿に自分がなるとは思いもよらなかった。
でも、こんな格好を色んな人に見られるんですか……。
「…………………………………」
ああ、こんな時に地震でも起きているのだろうか。
「リリィ、だから緊張しないでって！」
「なんか振動がこっちにまで伝わってるよ！」
「リリィ、深呼吸、深呼吸！」
どうやら私が震えていただけらしい。深呼吸を二、三度繰り返す。
「スー、ハー……」
深呼吸が終わると、奥様から声が掛かる。
「リリィ、もうすぐルディが来る筈だから、もう少し待ってましょう？」
「はい」
もうすぐルドガー様が来る。その時にお互いの晴れ姿がお披露目される。
「なんだか恥ずかしいです」
紅葉する顔を気持ち隠す様に頬に手を添える。
「裸を見せあった仲なんだから大丈夫でしょう？」
「ふぇ！？」
だが、奥様から不意に言葉の打撃を受ける。
「その上お互いのを舐めあったって聴いてるし」
「はひ！？」
続いてアンジェラお嬢様。
「どうせフェラして出たのを飲んで『美味しい』とか言ったんだろう？リリィみたいなのは吹っ切れると大胆になりそうだし」
「ふぃぁああ！」
そしてミラお嬢様の的を射た止め。
「ご主人様、ご奉仕させて頂きます」
ニヤニヤ
「ああ、たっぷり出してやるからな。全部飲み込めよ？」
ケラケラ
「は、はい！」
ワラワラ
「そ、それ以上は止めて下さいぃ‼」
更なるお嬢様達による追い討ちが私を襲い、心が折れそうになった。
「二人とも、それくらいになさい。リリィが泣きそうじゃない」
「「だって可愛いんだもん！」」
「何で皆そう言って私を苛めるんですかぁああ！」
もはや「可愛い」と言えば何でも許されると思っているのだろうか。
騒がしい空気の中、コンコン、と扉が叩かれる。
「リリィ、良いか？」
「あら、愛しの花婿様が来たみたいよ」
「ど、どうぞ！」
「入るぞ」
扉が開き、奥からグレーのスーツを身に纏った銀髪の青年が現れる。
「……ぁ……」
「………………」
目線が合った途端、まるでそこに自分達しか居ないかのように見つめあっていた。
「……熱いね〜、この部屋暖房利きすぎてないかい？」
「僕らが居ること絶対忘れてるよね」
「う〜ん、初々しいわ〜」
三人は二人を式間近まで眺めた後、正気に戻し式場に向かわせた。
その後、入場の際に極度の緊張で気絶したことは言わずもがなである。
それから数ヶ月。
結婚してからの私達はと言うと、余り変わった所はない。
だが徐々に変わりつつあった。
「随分大きくなったな」
ルドガー様が私のお腹を擦る。
そのお腹は頭一つ分大きく膨らんでいた。
そう。妊娠したのだ。
「そうですね」
「……こうなるともうリリィ一人じゃ無理があるな」
妊娠してここまで大きくなると、仕事にも支障をきたす。
「悔しいですけど、そうですね」
「と言う訳でナイル夫人からもう一人メイドを借りて来ました」
「ふぇ、もうですか！？」
ルドガー様からの突然の報告。私は当然驚いた。
「コレットって言う人なんだが、知ってるか？」
「コレットさん！？」
その名前を聴いてさらに驚く。
コレット・フィリップス。私と同じ旦那様と奥様に仕えるメイドで、種族はショゴス。
はっきり言って、私は彼女が苦手である。
「何故コレットさんなんですか！？」
「向こうが決めた事だから何とも言えない。嫌いなのか？」
「……そうではないのですが、あの人、いつも無表情で、よく私にちょっかいを掛けて来るので苦手なんです」
「ちょっかい？」
ルドガー様は首を傾げる。
「ティータイム中に躓いたふりをしてわざと私にミルクを掛けたり、休憩中私の胸を揉んできたり、食事中に自分で作った食器を私に使わせて『セクハラだ』って言うんですよ！？」
「ん？ああ、ショゴスって言ってたな。ってか魔物がセクハラなんて言うのか」
「絶対コレットさんは私の事が嫌いなんです‼」
「そうとは限らないと思うけどな……」
私は知らなかった。この時ルドガー様が心の奥底でニヤリと笑っていた事を。
「もう今日中には来るって話だったし、この際和解したらどうだ？」
「うぅ、ルドガー様がそう仰るのなら」
私は知らなかった。この時ルドガー様が心の奥底で不吉な計画を練っていた事を。
数時間後の夕暮れ時。
ビルフォート邸にとうとうコレットさんが到着した。
私とルドガー様は揃ってコレットさんを出迎えた。
「お初にお目にかかります。メイドのコレット・フィリップスと申します。本日からルドガー様、並びにリリィ様のお世話をさせて頂きます。よろしくお願いいたします」
常時構えた鉄仮面のような表情でお辞儀をするコレットさん。
「ああ、こちらこそよろしく」
「……お久し振りです。コレットさん」
「ええ、お久し振りです。リリィ様」
「今まで通り『リリィ』で良いですよ」
「そうですか。ではリリィ……」
コレットさんは言葉を切ると、私をじーっと見つめてきた。正確には私のお腹を。
「…………」
……こう無表情で見詰められると困る。
「……太りました？」
「ふぇｰｰッ！？」
コレットさんの一言で、私は大きなショックを受けた。私達の子供がただの脂肪と言われるなんて！
「にゃ、にゃんて事言うんでしゅか！？」
「冗談です。結婚並びに妊娠、おめでとうございます」
「……うぅ」
そうだ。こうやってからかうのがコレットさんだ。終始無表情なので嘘と本当の区別が着きずらく、ルドガー様より質が悪い。
そして、時間も時間なので私達は夕食を取った。
妊娠しているとは言っても何も出来ないわけではないので、今日は私が料理した。
コレットさんはルドガー様の言いつけで一緒に食べている。
正直私はルドガー様と二人きりで食事したかったが、コレットさんが側で待機しているのはメイドとして落ち着かず、それにコレットさんとは階下で衣食住を共にした仲。一緒に食事した方が落ち着くので反対しなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
だが食事中、一言も会話がなかった。
積もる話もあったのだが、一言も会話がないとかなり空気が重い。
そして、ルドガー様は最後の一口を食べ終わり、食器を置く。
「ご馳走さま」
ルドガー様は席を立つ。
ふと気付くと、彼の口元に食べかすが付いていた。
「はい。ルドガー様。……あ、口元に食べかすが」
「お、悪いなｰｰ」
ルドガー手でそれを取ろうとするが、その前にコレットさんがルドガー様に近付き、
「取って差し上げます」
食べかすを舐めとり、そのままルドガー様の唇を奪った。
………………え？
「ふぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ！！！！！？？？？？」
「おい、ちょっ、まっｰｰ！」
ルドガー様は離れようとするがコレットさんはそれを許さず触手で引き寄せ、舌を絡ませる。
「コレットしゃん！？にゃにしてりゅんれしゅひゃ！？」
コレットさんは唇を離し私の質問に答える。
「ｰｰ舌を絡ませるキス、フレンチ・キス、ディープキス、あるいはベロチューと呼ばれるものです」
「ベロッ！ｰｰいいえ、そう言うことではなく何故ルドガー様にキスするんですか！？」
「すみません、つい」
コレットさんは頬に手を添え目を逸らす。
「無表情で何可愛い子ぶってるんですか！『つい』でやらないで下さい‼」
彼女と話していると本当に何を考えているか分からない。
「リリィは可愛い子ぶらなくても充分可愛いですよ」
「にゃ、話をそらさないで下さい‼」
「では続けますか？」
コレットさんは目線を私ではなくルドガー様に向けた。
……私はコレットさんとのやりとりで怒りが爆発しそうだった。
「いや、俺に聞かれても、じゃねぇや」
何で言い直す様な言葉が先に出るんですか！？
「この辺でｰｰ」
「ああ、もう！」
私はとうとう怒りを露にする。
「早く私のルドガー様から離れてください‼」
……だが、直後に訪れたのは沈黙だった。
「……は？」
何故か目を見開くルドガー様。
「今なんと？」
眉をあげ聞き直すコレットさん。
「だから私のルドガー…………！……様から…………」
……ちょっと待った。私は今なんと口にした？
『私のルドガー様から離れてください‼』
『私の』？
「あ、あう、あうあうあ……！」
私は後悔した。何て事を言ってしまったのだ、私！
「聴きましたか、ご主人様」
「……ああ、聴いた」
コレットさんとルドガー様はこちらを見たまま口を動かす。
「私の聞き間違いでなければリリィは今『私の』と言いましたよね？」
「ああ、確かに『私の』って言ってた」
「や、止めて下さい！」
なんだか不吉な予感がする。
「リリィ、もう一度聞きたいのですが？」
真剣な目で頼むコレットさん。
「言いません‼」
「『お前の』ルドガーからも是非聞きたいんだが？」
真面目な顔で頼み込むルドガー様。
「絶対駄目ですぅ‼」
「そうですか……」
「そうか……」
二人はお互い視線を合わせる。そして二人揃って「仕方ない」と呟いた。
「もう一度キスしますか」
「そうだな」
「止めて下さああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい！！！！！」
私は二人の接吻を全力で阻止しにかかった。勿論お腹の赤ちゃんに気をつけて。
数ヶ月後、娘のミリアが産まれ、少人数ながら騒がしいビルフォート家は平和な毎日を送っていた。
やがて時が経ち、娘も物心が付き始める年頃になる。
そして、ある日の深夜。
ビルフォート邸の一部屋で、ルドガーとコレットが向かい合って座っていた。
「ご主人様。本日もお相手、よろしく御願いします」
「ああ、こっちも頼む」
そして二人は真剣な雰囲気で寄り合い、
懐から何枚もの写真を取り出した。
「では、まずは私から」
「どうぞ」
コレットは手元の写真から一枚選び、ルドガーに見せる。
「これは一昨日撮影した、ミリアお嬢様に尻尾を鷲掴みされた時のリリィの写真です」
それは、少しばかりヤンチャな娘と母の写真。イタズラ心溢れるミリアにリリィが翻弄されていた。
「……良い」
ルドガーは親指を立てて頷く。
「じゃあ次は俺だな」
今度はルドガーが写真を差し出す。
「昨日、あいつに顔射した時の写真だ」
「……普段なら恥ずかしがるリリィもスイッチが入ればこんな恍惚な表情をするのですか。やはり夜のリリィは別格ですね。……ズルいです」
コレットは無表情ながらも悔しそうに言った。
「今日は俺が優勢か？」
「いえ、私には取って置きの物があります」
と一枚の写真を取り出す。
ルドガーは目を光らせた。
「な、これは……！」
「酔った時のリリィの写真です」
リリィは普段、酒を飲まない。飲ませようとしても断固拒否するのだ。
だが、ここにはどういうわけか顔を赤くし、酔った勢いで前主人の娘であるアンジェラ・ナイルにキスしていた。
「先日ナイル家に帰省させて頂いた際、リリィにお酒を飲ませました」
「な、どうやって！？」
今まで自分に出来なかった事をやってのけたコレットに驚愕と怪訝の眼差しを向ける。
「リリィの食事にアルコール度の高いワインをぶっかけました」
「お前…………やるな！」
ルドガーは感心してサムズアップした。
「恐縮です」
「で、どうだった？酔った時のリリィは？」
「……凄かったです。引っ込んでいた性格の反動か言動が異常なまでにはっちゃけていました。……普段とはまた違う可愛さでしたね」
心なしか弾んだ声で状況を述べるコレット。ルドガーはそれに興味津々だった。
「具体的には何て？」
「ごほん、あーあー。『おじょおしゃま〜、ルドガ〜しゃまったらひどいんですよ〜！エッチのときにコレットしゃんをよんで、あたしのちたいをかめらでとって、わじゃわじゃそれをあたしにみしぇるんですよ〜！はじゅかしいってちゃんといってるのに〜！』と、こんな感じで愚痴をこぼしていました」
コレットは発声練習をしたあと、リリィに似せて声まねをした。
コレットは人の声まねが上手い。声だけなら本人と聞き分けが着かない程だ。さらに当時の状況をそのまま演技しているせいで余計場面が想像出来てしまう。
だからこそ、ルドガーは苦笑いを浮かべた。
「それ、かなり酷い状態じゃないか？」
いくらなんでも酔いすぎではなかろうか。
コレットはコクリと頷く。
「写真を撮った時はもう末期でした。『ンフフ〜、ルドガ〜しゃま〜、あいしてましゅよ〜』と言いながらアンジェラお嬢様のお口にチューです。そのまま次の段階に移ろうとした所をレイジ様に気絶させられ止まりました」
「相等危険じゃねえか……。ってか気絶って！」
「手套で首筋を軽く。本人は素人だと仰ってましたが、その動きはまるで達人でしたね。安心してください、怪我はありませんよ」
「そうか。なら良い」
ルドガーは安堵の溜め息を吐く。
「にしても、その場面には立ち会いたかったな」
「そうですね。また彼女の食事にワインをぶっかけますか」
「おう、よろしく頼む……」
「……何が『よろしく』ですか？」
「「………………」」
突如現れた第三者の声。二人は身を固くした。
「コレット。俺の聞き間違いでなければ俺の可愛い愛しのお嫁さんの声が聞こえた気がしたんだが」
「ええ。確かに私の可愛い愛しの弄り人形の声が聴こえました」
二人は二人はおそるおそる後ろを振り向いた。
するとそこには、ニッコリと恐ろしい笑顔を浮かべたリリィがピクピクと眉を痙攣させていた。
「夜遅く眼が覚めたと思ったらルドガー様が居ませんし、お手洗いかと思っていたらやたらと規則的に居なくなってますし、気になって探しに来たらこんな所でコレットさんと一緒に私の恥ずかしい写真を並べてますし、ナイル邸の夕食後の記憶がないと思ったらお酒を飲まされていたなんて……」
「あ、あの、リリィ？」
「……これはだな？」
二人は冷や汗を掻く。
「いい加減にしてくださああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい！！！！！！」
その後、二人は朝まで寝かせてもらえなかった。
ある日の昼。
ルドガーとリリィはある書類に目を通していた。
「え、人類種の住民を移住させるんですか？」
「ああ、最近だとここもすっかり魔界だからな」
二人が結婚してから早十数年。
クォートの街もすっかり魔界と化し、住民の何人かも自然と魔物娘となりつつある。
その事を危惧し、人類種を対象に大掛かりな『引っ越し』の案が出ていた。
「えっと、それで一体何処へ？」
「どうも人類種の保護施設が建設されているらしくてな。もうすぐ完成するらしい。確か『クレイドル』って言ってたかな。ここからだと結構離れてるな」
「『クレイドル』ですか」
人類種の保護施設か……。
「私達もそちらに移るのですか？」
「移らねぇよ。俺はもうインキュバスなんだ。これは人類種が対象の引っ越しで、魔物は対象外。それにこの街が無くなる訳じゃないから、これからも変わらずこの街を治めなくちゃいけない」
「あ、そうですね」
人類種だけの引っ越し。そう思うと少しばかり寂しい気持ちになる。
「街のほとんどの人たちとお別れするんですね……」
「ああ、バリーや肉屋のオッサンにオバサンともお別れだ。長年付き合って来た分、余計寂しくなる」
「おや、ご主人様は以前『リリィを弄れば寂しくない！』と仰っていた記憶が」
「ピャアア！」
リリィ達の会話に気配もなく割り込んできたコレット。
「それはそれ、これはこれだ。あと、声を俺に似せないでくれ。妙な気分になる」
「失礼致しました」
コレットは深く頭を下げる。
「クレイドルは魔物と人類種を大幅に隔離する。何かしらの業務に着かない限り魔物は入る事が出来ないし、人間は外に出ることも許されない。つまり、本当にお別れする訳だ」
「…………」
リリィは当初この街に訪れた時の事を思い出した。
食材調達でお世話になった精肉店の夫婦。最初のクォート祭でお手伝いをして頂いたバリー。他にも婚活イベントにも人間の方が居て、話をしたり。
「皆居なくなるんですね」
「……ああ、皆居なくなる」
暫く、沈黙が続いた。
「……よし、出発前にパーティーでもやるか！」
「そうですね」
「では、日程を調整しましょう。今の内に決めて置けばお偉い様が来ない限り狂う事はありません」
「よし、じゃあ、街を回って挨拶しようぜ。リリィ、準備だ！」
この時、リリィはルドガーと会った当時の彼の事を考えていた。
リリィは思った。ルドガーは最初から寂しい人間ではなかったのだと。
過去を振り返り、親しかった人を思い返し、『お別れだ』と寂しがっていたのに、今まで孤独だった訳がないのだと。
「リリィ？」
「はい」
「どうした、ボーッとして？さっさと行こうぜ」
ルドガーはニッと笑い、リリィの手を引いた。
「ひゃわっ！……フフ」
リリィは少し驚きながらも、彼に笑い返した。
「はい、ルドガー！」
そして二人は、事務室を後にした。
16/02/28 01:32更新 / アスク
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