連載小説
[TOP][目次]
本当の事後と宣告
今朝、遂に本当の事後を迎えてしまった。
目覚めればご主人様の寝顔が近くにあって、シャンプーの香りが仄かに鼻を刺激して、さらに抱き枕状態で、二人共全裸で汗だくで妙にイカ臭くてよく見ればシーツにも染みが付いていておまけにアソコがベタベタで。
「……ああ、これが事後ですか」
まるで夢みたいな一時を過ごした。
何だか幸せな時間だった。
ご主人様とこんな事になるなんて。

ご主人様とこんな事になるなんて…………。

「ふぃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


それから何日か経過し、ご主人様からお呼びだしを受けた。
ご主人様と顔を合わせると、先日の情事の記憶が浮上し、結局ご主人様を避ける様になってしまった。
次の日の朝も全裸だと言うのに構わず逃げ出してしまい、結局構って悲鳴を上げたのはまだ記憶に新しい。
私は深呼吸を一回し、覚悟を決め、コンコンとノックする。
「失礼します……」
「ああ、入れ」
領主部屋に入室すると、そこには神妙な顔をしたご主人様がいた。
「あの、ご主人様……」
「リリィ、先日の件で話があってな」
「ひゃう!」
また浮かんでしまったあの情景。
最近、あれ以外に目立った事案がないので簡単にたどり着く。
絡み合う身体混じり合う体温。与え合う快楽。
心臓が大きく脈打った。
「あ、ああ、あの、それで…………?」
「あの件がどういうわけかナイル夫人に知られてな」
「奥様に!?」
ご主人様は少し気まずいとばかりに頭を掻く。
「ああ。そのせいでお前のメイド人生が危機に直面している。『主人と関係を持ったメイドをうちには置いておけない』らしい」
「そ、そんな!」
私リリィ、メイド歴=年齢の純メイド。
そんな私がメイドを失業してしまったら、何も無くなってしまう。
「今、何とか交渉してるんだが、……ちょっと厳しいな」
「奥様はどの様に?」
「『考えさせてくれ』だそうだ。後で電話をかけ直すって言ってた」
ご主人様の表情から雲行きは怪しい。
うう、まさか奥様がそんな……。
まるで信頼を裏切られたかのように沈む心。
……いや、違う。
裏切ったのは私だ。
こうなるのも無理はない。
胸中で反省していると、突如電話が鳴る。
ご主人様はすぐに受話器を取り、耳に当てる。
「はい。ビルフォートです」
ご主人様は電話の相手に対し相槌を打ち、神妙な顔をする。
聴こえなくても分かる。相手は奥様だ。
「分かりました。申し訳ございません。……ではその様に」
電話が終わり、受話器を置く。
「あの、ご主人様?」
嫌な予感が、私の脳裏を過る。
「…………クビ、だそうだ」
そして、ご主人様の申し訳なさそうな表情が、私を絶望させた。
「……そんな、何でですか……?」
目元が熱を持ち、視界が滲む。胸は何かがわき上がったかの様に締め付けられ、嗚咽が溢れ、涙が頬を伝った。
「リリィ……」
ご主人様は腰を浮かせ、私に近寄る。
「私の何が悪かったんですか?…………ご主人様と関係を持ったからって、何故……メイドを辞めなければいけないのですか?」
悲鳴の様に溢れ出す感情が、止めどなく口から溢れる。
「私は…………、メイドとして育って来たんです!私にはメイド以外に道などないんです!こんなのって‼」
物心つく前、両親が他界して、身寄りの無かった私は奥様に拾われた。
キキーモラだった事もありメイドとして育てられ、お嬢様達とも、姉妹の様な主従の関係を築いてきた。からかわれる事も多かったけど、幸せだった。
でも、それが今、崩壊した。
ご主人様にしがみつく。そうしていないと、辛かった。苦しかった。
「あぅ、……ぁああ……!」
ご主人様の胸に顔を埋め、泣いた。今までにないくらいに泣き出した。
「……ごめん」
ご主人様の優しい抱擁。
だが、それだけで傷付いた心がほんの少し和らいだ気がした。


「……落ち着いたか?」
「…………はい」
あのまま抱き合い、いつの間にか一時間も経っていた。
私はご主人様から離れ、空元気で笑ってみせる。
「……こんな泣き虫な私にお付き合い頂き、ありがとうございます」
「…………ごめん」
ご主人様は一層申し訳なさそうな表情をする。
「ご主人様?」
ご主人様は私から眼を反らした。

「……流石にやり過ぎたな」

ご主人様は私に聞こえない程小さく呟いた。
「ふぇ?」
「あー、その、まことに言いずらいんだが、再就職の話なんだけどさ」
「……あ」
『再就職』。その言葉が一瞬、私の胸を締め付ける。
そうだ。私はもう、職を追われたのだ。その事も考えねば。
「……はい」
「ナイル夫人と話をして、さっき就職先の件も話がついたんだ」
「え、どう言う事ですか?」
さっきの電話の応答だと、内容は私のクビの一件だけの様に聴こえたのだが。
「えっと、あー、つまりだな……」
ご主人様は懐に手を突っ込み、小さな小箱を取り出した。
あれ、これって……?

「……うちで、働いてくれないか?専属のメイドとして、あと、…………俺の妻として」

ご主人様はひざまづき、差し出す様に小箱を開く。
そこには、結婚指輪があった。

「…………ふぇ?」
混乱が私を襲う。奥様からクビを切られ、再就職でメイドで、…………妻?
「ふぇ、へ?あの、それ、つまり……?」
「結婚、してくれないか?」
「あ、はぇ?け、結婚……?ふぇ!?」
あれ、結婚って、あれ、でもメイドって、え?
混乱の進行が進む。頭の中を整理出来る状態ではなかった。
「あの、パニックになってるのは分かるんだが、返事してくれないか?この体勢何気にツラい。膝痛いし、二の腕もキツイ……」
ご主人様の体が若干震えている。
「あ、申し訳ございません!ぁぁ、あの、えっとそのっ!……はぁ、ふうー…………」
深呼吸して、あたふたする頭を、一旦落ち着かせる。
「えっと、その、こんな私で宜しければ、……おにぇがいしましゅ‼」
……か、噛んだ。
深呼吸の効果は無かった様だ。
「あ、あぅ……」
「相変わらず締まらねぇな」
「……ぁ」

ご主人様は私の手を引き、唇を重ねた。


「ふぇええ!?」
「いやー、すまん。正直あそこまで泣き出すとは思わなくてな」
「で、でもあんな言い方しなくても良かったじゃないですかぁ‼」
「サプライズのつもりだったんだよ」
結局の所、クビと言うのはご主人様の嘘で、正確にはビルフォート家への正式な転勤である。
きっかけはやはり先日の性交渉。
あの後ご主人様が奥様に私の転勤と結婚の申請を上げていたらしい。
「こう言う大事なのは、思い出に残したいしさ」
「……うう」
そう素で言われると、反論に困る。
「ずるいです」
「ははは、すまん」
申し訳なさそうにご主人様は笑う
だが、確かにサプライズにはなった。
落ち込んだ分、嬉しくあったし、何より、またメイドとしてご主人様に……。
「……そっか。もう『メイドとして』ではありませんね」
「ん?」
「これからはメイドとしてではなく妻として、一人の女としてご主人様を支えます」
私はご主人様に微笑む。
すると、ご主人様は少しだけ目を見開いた。
「…………」
「ご主人様?」
「……可愛い」
「ふぇ!?」
ご主人様の突然の一言にドクリと心臓が脈打つ。
「リリィ」
「え、あの、ごしゅじムーー!」
慌てふためく私にご主人様は優しく、然れど熱烈なキスをする。
「ん、ふ、チュッ……ごしゅじ……さま……!」
「ごめん。がまんできねぇわ」
舌が絡み、口内を舐め回す度に快感が頭を刺激し、思考を鈍らせる。
こんなの、ダメーーッ!

「……フ、ンンーー!」

沸き上がった快楽が口から全身に広がり、溶ける。
ご主人様が私の様子に気付き、唇を離す。
「……ん、ハァア……」
「……ハッ、もしかして、キスだけでイッたのか?」
「ハァ、ぁ……」
ご主人様の目に、今の私はどう映っているのだろう?
顔の筋肉にまるで力が入らなかった。
「はは、蕩けきった顔してやがる」
「ぁ……はぇ……?」
「鏡で良く視てみろよ」
ご主人様は手で私の顎をクイッと壁に掛かった鏡に向ける。
「……っ!」
そこに居たのは、眼が潤み、力なく開いた口からだらしなく涎を垂らし、顔を熱らせ恍惚とした表情を浮かべた一人の女だった。
「すっげぇ、エロいぜ。リリィ。……んーー」
「……ぁ、ンムーー!」
また舌が絡み合い、淫靡な音が部屋で響く。
鏡に映る私達が、貪る様に唇を重ね合う。
「……ム、……クチュッ……チュッ…………ン……」
「…………フ、ンン……ム……チュッ……、ーーんみゃンン!」
キスの最中、ご主人様が私の秘部に触れる。
「…………ッはぁ、下が凄く濡れてるぞ?リリィ」
「アン、……あ、ご主人様ぁ、ダメッ、ですぅ……!」
「何がだ?」
ご主人様はイタズラっぽく笑い、指を動かし濡れる陰核を愛撫する。
「んぁ!はん!ぁあ、はああ!」
「こんな気持ち良さそうにして何がダメなんだ?」
「ハンッーーーー!」
快感が電気の様に身体中を走る中、鏡の中でご主人様の愛撫に良い様にされている自分が眼に入る。
「かがみ、ふぁ!……を、……見せない、ンン!……で、下さいぃ。…………恥ずかしいですぅ!」
ご主人様の愛撫で途切れ途切れになるが、なんとかご主人様に訴える。
だがそう言った瞬間、ご主人様は愛撫する手を止めた。
「なら、止めるか?」
途端に、身体中の快感が抜け、切なさを感じた。
「……うぅ、………………いじわるしないでください」
涙目になりご主人様を睨む。
ご主人様はそれを視てうろたえる。
「ぅっ!…………悪かったよ」
まるで子供のように唇を尖らせた。
「今度はちゃんと抱いてやる」


「ハア!アン、ァア!んぁ、ひゃん!」
「はぁ、はぁ……!リリィ」
ご主人様の部屋で、私達は身体を重ね合い交わり合う。
お互いに腰を打ち付け、キスをし、それでも足りないと抱き締め合い、まるで獣の様に快感を求める。
「ご、ご主人、……さま……!」
「……ッルドガーだ……!呼び捨てで良い、ルドガーって……呼んでくれ!」
「ふぇ!?ああ!……そ、そんな……!?」
主を呼び捨てにするなど、流石にそれは。
だが、ご主人様は続ける。
「メイドとか、そう言うのじゃなく、……俺の、妻として!……呼んでくれ」

メイドとしてではなく妻として……。

そうだ。さっき言ったではないか。『メイドとしてではなく、妻として、女として』と。
「……あっ!……ん、ふぁ!ル、ルド……ガー……!」
私はご主人様、もといルドガーを抱き締め、真っ白になりそうな頭で、ルドガーを呼ぶ。
「ーーッルド、ガー……、ルドガー、ルドガー、ルドガー!!!」
もうすぐ絶頂する私の様子を察してか、ご主人様は返答する。
「ああ、俺もだ。一緒に……!」

「ん、んぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ーーッ、クッッ‼」

達した私の頬に、ルドガーの唇が触れた。


ーーーーーーーーーーー


その後、眼を覚ましたのは、起きるにはまだまだ早い午前四時。
ベッドで横たわる私にルドガー様が抱き付いた。
「ーーッ!」
横を見れば彼の寝顔。心地良さそうに寝息を立てていた。
「………スー………リリィ…………」
「……フフ」
彼の寝顔を見ていると、自然と口元が綻んでしまう。
「……まだ当分、『様』は抜けそうにないですね」
私はルドガー様の額にキスをし、再び微睡みに浸った。
16/02/19 14:15更新 / アスク
戻る 次へ

■作者メッセージ
さて、ようやくの告白回です。この物語も終盤ですね。
最後に後日談的なものをやって終わらせようと思います。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33