自慢の息子
出発から六時間。
太陽はちょうど真上に上がり、気温も暖まってきたころ、港町アーカムまでたどり着いた。
「やっと着いたわね」
「疲れた〜」
「……」
こまめに休憩を入れながらここまで歩いてきたが、流石に疲労が貯まっていた。トニーは疲れきっているのか先程から一言も発していない。
だが、本題はここからだ。疲れている暇はない。
「トニー、どうする?」
「……ん?」
「休憩してから会いに行くか、それとも今会いに行くか」
「……今だ」
そういうと、トニーは疲れも忘れて走り出した。
結果から言うと、トニーはお父さんと再会できた。
そして、私達が駆け付けた時には既に口げんかに突入していた。
「ふざけんな‼人を突き落としといて謝りもしねぇのか‼」
「ふん、家を出たいっ言ってただろう!そうしたまでだ!むしろ感謝してもらいてぇな」
「こっちは危うく死にかけたんだぞ‼」
「生きてるから良いじゃねえか」
「良くねぇよ‼」
「……お邪魔しまーす」
トニー宅に着くと、ミラが戸を開く。
すると、口げんかがピタリと止まり、二人の視線が私達に向いた。
「……おい、この嬢ちゃん達誰だ?」
……………………
「そうか。あんたらがうちの息子をな……」
トニーのお父さん、トーマスさんは先程とは一変、落ち着いた様子で私の話を聞いていた。
ここには私とトーマスさんの二人きりだ。トニーは口げんかのせいか家を出ていってしまった。ミラはそれに付いて行っている。
「家に顔を出したのは私がそうする様に言ったからなの。貴方がトニーを突き落としたのを後悔してるんじゃないかって」
トーマスさんは顎を撫でため息を吐く。
「そうか。あいつ反対しただろう?」
「ええ、最初は」
「はは」
トーマスさんは小さく笑う。
だが、すぐに顔を俯かせた。
「ありがとな。連れて来てくれて」
「……やっぱり後悔を?」
「しない訳ない。あいつは自慢の息子だからな」
「……?」
言っている事と態度が一致しない。
「トニーには何であんな態度を?」
「あいつ、やれば何でもできんだ。家事にしたって料理にしたって、音楽、絵画、何でもこい。母親に似て見た目も良いし、極めつけは女にモテる」
確かにモテる。
「だが、昔な、あいつが『漁師になりてぇ』って言ってきたんだ。その時以来俺はあいつを立派な漁師に育てる事を誓ったんだ」
「それが、あの態度の理由?」
「ああ。それが一番良いやり方だった。少しダメ出しすりゃ、すぐ直して来やがる。その度に嬉しくてな。褒めてもやりたかったが、それでももっと上を目指して欲しかった。だから俺はあいつにダメ出しし続けた」
……。
「だが、この前突き落としたのは失敗だった。いや、その前の一言が問題か」
「一言?」
「『お前には向いてない』ってな」
「…………ぁ……」
「あの一言を言っちまったせいで本気であいつを怒らせちまった。あの一言のせいで口げんかになって、俺もとうとうキレちまって……、突き落とした‼」
トーマスさんは頭を抱えた。
「…………」
「俺は後悔したんだ。やり方を間違えたんじゃないかって、もっと優しくした方が良かったんじゃないかって、そうすりゃ、あいつを突き落とさなくて良かったんじゃないかって、これ以上ないくらい後悔したんだ‼」
トーマスさんは泣き出した。自分のした事を後悔して。
「…………」
私は何も言えなかった。慰める言葉も思い付かず、ただトーマスさんを見詰めていた。
「…………ッ!」
胸が、締め付けられる。
少しして、トーマスさんは泣き止んだ。
赤くなった目をこすり、彼は私を見る。
「ありがとな、あいつを助けてくれて」
トーマスさんは笑顔を造る。
「もしあんたらがうちの息子を助けてくれなかったら、俺はもうすぐ自殺する所だった」
「……!」
「ありがとう、あいつの顔をもう一度見れて、本当に良かった……‼」
トーマスさんは笑いながら、また泣き出した。
……………………
「……クソッ!」
その頃、トニーは自宅の前で泣いていた。漏れた話し声を耳にして、ミラに優しく見守られながら。
「良い親父さんじゃないか」
「……ふざけんな…………、クソッ………!」
暫くして夕方、トニー達が戻ってきた。
四人でテーブルを囲み、沈黙を守ったまま食事をする。
私達はテーブルに並べられた料理を黙々と食べている。
だが、最後までは続かなかった。
「親父」
トニーが沈黙を破った。
トーマスさんは返事をする。
「……何だ」
「俺、家を出る」
「…………」
再び沈黙が戻ってきた。
私とミラは何も言わない。これは二人の問題だ。
少しして、トーマスさんが口を開いた。
「勝手に出ていけ、クソボウズ」
トーマスさんは笑う。
「分かったよ、クソ親父」
トニーは食事を終えると玄関から出ていった。
「さて、私達も失礼するわ」
「ああ、息子を宜しく頼む」
「任せなよ、一杯楽しんで、一杯エッチして幸せな人生を過ごさせてあげるからさ」
「まったく、ミラは……」
「はは、あいつも良い女を手に入れたもんだ」
「お邪魔したわ」
私は玄関から出ようとした時、トーマスに呼び止められる。
「なぁ、ひとつ良いか?」
私は足を止め、振り返る。
「何かしら?」
「あいつに、伝えてやってくれねぇか?『お前はもう、立派な漁師だ』ってな」
「……分かったわ」
トーマスはニカっと笑い、私達は外へ出た。
トニーと合流し、洞窟に戻るとすっかり日は沈みきっていた。
「正直、アーカムで宿をとっても良かったと思うのだけど?」
「あそこの宿は高過ぎるから駄目だ」
「金もないもんねぇ」
ッグ!それもそうだった。
「でも夕方から六時間も歩きたくなかったわ」
今の時間帯、恐らくもう十一時くらいだろう。
「過ぎた事は気にすんな!さあ、寝るぞ‼」
言いたい事が色々あったが、今日は流石に疲れた。
私達は一斉にベッドに飛び込む。
私は微睡みに浸り、眼を閉じた。
…………眠れない。
疲れている筈なのに、眼が冴えていた。
「…………風に当たろうかしら」
私はベッドから降り、洞窟から出た。
洞窟の真上の崖で、私は腰を降ろした。
見渡せば月明かりに照らされた広大な海。心地良い風も相まって自然と落ち着く。
「……はぁ」
ため息を吐き、今日の事を振り返って見る。
トーマスさんは、トニーに厳しく接していた。
だが、それはトニーへの応援で、背中を押す行為だった。
否定することで、反発させて、向上させる。
それが、一番良い育て方。
「…………まさかね」
一瞬、両親の顔が浮かんだ。
やることなすこと全てを否定してきた両親。夢を叶えても認めてくれなかった両親。反発して努力を積み重ねてきた私。
「…………」
思えば、私はいつも両親に認めてられようとしていた。
『夢を叶えられるのはごく僅かの人間だけ』。そのごく僅かに入ろうと努力し、見事叶えた私。
夢を叶えても認めてくれなかった両親。認めてもらえる様に有名になった私。
「…………何で」
私が夢を掴んだのは、両親が私の背中を押してくれたから?
「……何で今更……!」
何で今更になって、涙が出る。
冷めきった想いが、今更になって暖かみを帯びていく。
「何で……‼」
二人が亡くなったと知っても何も思わなかったのに。
「……何で…………」
こんなに悲しいのだろう?
「風邪ひくぞ」
突然、背中から何かが被さった。
いつの間にかトニーが後ろにいた。
被せられたのはミラが朝使っていた大きな布だ。
「こんな所でなに泣いてるんだ?」
トニーは隣に座り、海原を眺める。
「眠れなくなったから、泣いているだけよ」
「意味わかんねえよ」
トニーはケラケラ笑う。正直、自分でも訳の分からない事を言っている気がする。
「親御さんの事だろ?」
「……!」
「お前の親御さん、うちの親父みたいに態度酷かったんだろ?」
「……もしかして、話聞いてた?」
「耳に入ったんだよ」
それを聞いていたと言う。
「……トニー」
「何だよ?」
「私達って、本当に似てるわよね」
「そうだな」
「貴方をお父さんに会わせたのは、私みたいに最低な関係で終わらせたくなかったから。私みたいになって欲しくなかったから」
「言ってたな」
「でも、良いわね。貴方は」
「何が?」
「お父さんに認めてもらえたから」
「…………」
トニーは押し黙った。
「私は最後まで認めてもらえなかった。お父さんもお母さんも死んで、こんな異世界にまで来ちゃって」
「アヤカ……」
視界が滲む。喉に何か溢れだしそうな感覚がある。
「私はただ、お父さん達に認めてもらいたかっただけだった!夢を叶えた私を、『頑張ったね』って褒めてもらいたかっただけだった!でももうその言葉は聞けない!だってもう二度と会えないもの!」
「うるせえ」
トニーに抱き寄せられた。
「泣くならグダグダ言わずに泣けよ。胸貸してやるから」
「…………ぅ………ぁあ…………‼」
私は泣き出した。トニーの胸に顔を埋め、ひたすら泣いた。
「ねえ、トニー」
「何だ?」
泣いた後と言うのは、思いの外スッキリするものだ。でも私の気持ちはどう言うわけかまだ晴々としてはいなかった。
「私、貴方と居ると、凄く胸が締め付けられる」
「何だそれ、俺と居るのは嫌か?」
「嫌じゃない」
「……じゃあ、どう言う事だよ?」
「それは……」
私は口ごもる。この感情を何と表現すれば良いのだろう?
「なんだか胸が高鳴って、身体も熱くなって、でも不快じゃない」
「そっか。まぁ、不快じゃないなら良いんじゃないか?」
「そうね。でも、なんだかもどかしいわ」
不快ではない。だが、何かもの足りない。
少なくとも今は。
この気持ちは何だろう?
トニーと居ると緊張して、でも矛盾する様に落ち着いて。
「ねえ、トニー」
私はまた呼び掛ける。
「何だ?」
ふと気になった事を聴いてみる。
「貴方は私とミラの事をどう思う?」
「な、何聴いてんだ‼」
「どうなの?」
「ど、どうって言われてもな……!」
トニーはあわてふためく。何だかその様子がおかしく、ーー愛しい。
「ーーーー」
……愛しい、か。
それが答かも知れない。
私は、トニーの事が好きなのだ。この感情も、そのせいだ。
私の中で何かが動き出した。
「私は、貴方が好き」
「ーーは?」
「貴方を愛してる」
「おいおい、ちょっと待てよ」
私はトニーの腕から抜け出し、身を乗り出した。
「トニー、私を慰めて?」
「アヤーーんん!」
湧き出る衝動に身を任せ、私はトニーの唇を奪った。
舌を伸ばし、彼の口の中に滑り込ませる。
「ん、はぁ、…………んむ、チュ」
口の中とはこんなに甘いものだったか?抑えがますます効かなくなる。
ーーーーとその時、後ろから服を掴まれ、トニーから引っぺがされる。
強引に離された舌は、艶かしく糸を引く。
「まったく、あたしを置いて抜け駆けなんて良くないよ?」
その人物は、不機嫌な顔をしたミラだった。
「ミラ……」
だが彼女はすぐに微笑んだ。
「あたしも交ぜなよ」
「ん、チュ、…………ふっム……」
ミラは舌を潜り込ませ、トニーを貪るようにキスする。
「はぁ、チュ…………、じゅる、ん」
一方私は、初めて見る男性器ーー勿論弟以外でだーーを、戸惑いながらも舐めていた。
「ん、は、二人とも……ック!ちょっ、ンム、………ま、待てよ」
トニーは抵抗しようとするが、力では魔物に勝てず、口内と性器から快楽を受け続けていた。
「アヤカッ……、止めろ!も、う…………出っから!」
「良いわ。そのまま出して」
こう言う行為に関しては何もかもとんと素人の私だが、トニーがここまで感じてくれるのは嬉しい。
もっと悦ばせたい。
熱く硬い彼の性器を根元から先端にかけて舌で包む様に舐め、そしてくわえた。
「ーーッ!」
口の中に、熱く、苦いどろどろしたものが注ぎ込まれる。だが不快ではない。むしろその逆だ。
口の中に充満する匂いが、頭を溶かしていく。
「はは、アヤカ、やけに積極的だね?」
「トニー、気持ち良かった?」
「…………やばすぎだろ……」
トニーの恍惚とした表情が、私を興奮させる。
「トニー……」
私は腰を上げトニーの男性器に私の膣口を押し当てる。
「アヤカ、早すぎじゃないかい?」
「我慢、出来ない……。ーーーーーーーー!」
私は勢い良く腰を下ろす。
「ん、ーーーーァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
私はそれだけでイッてしまった。初めての挿入は痛い筈なのに、今は快楽しか感じられない。
「大丈夫かアヤカ!?」
トニーが心配して声をかける。私はそんな彼に唇を重ねた。
「ーー、トニー……好きぃ」
駄目だ。今の頭だとトニーの事しか考えられない。
「……ッ!」
トニーは面を食らう。今のは彼にとって不意討ち以外の何物でもない。
今の私はどんな表情をしているのだろうか?だがそんな事すら考えられない。
「ねえトニー、あたしもキモチヨクしておくれよ」
今度はミラが彼の手を掴み、自分の秘部にあてがう。彼女のそれは既に濡れ、だらしなく愛液が滴っていた。
「あんたの指であたしのマンコをぐちゃぐちゃに掻き回してよ」
「二人して、反則だろ!」
トニーは指ミラの膣に入れ、出し入れさせる。
ついでに胸も掴み、揉み始めた。
「あ、んは、アア!」
ミラは身体を縮めたかと思えば、勢い良く仰け反らせる。
……私も感じたい。
私は腰を上下に振った。同時にまた甘美な快楽が私を襲う。入れれば奥に刺さり、出せばカリ首が膣口に引っ掛かる。その度に何とも言えない気持ち良さが身体を支配した。
「んぁア!トニー!」
「トニー!アン‼もっ、とグチョグチョしてェェ‼」
「お前ら、俺、もう限界だ‼」
「クァ、!あたしもだよっ‼」
ミラは気持ち良さに顔をしかめ、身体を強張らせる。
「トニー、ンン‼今度はぁ、中でぇ‼」
私ももう弾ける寸前だった。
私は事の最後に想いの丈をぶちまけた。
「トニー!あ、愛してる‼」
「アヤカ、ーー俺もだ‼」
「ーーーー‼」
その瞬間、私達三人は絶頂に至った。
「くぅぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「ふぁああああああああああああああ!!!!」
「ハッ、ーーーーッ‼」
「……ごめんなさい」
もう何度目になるか分からない謝罪を私は繰り返した。
「気にすんなって」
「気にするわよ!どうかしてたとはいえ、無理矢理貴方をレイプしたんだから‼」
「アヤカ、あんたが悪い訳じゃないんだから。魔物ってのはそう言う生き物何だよ」
ミラは私を慰めようとしてくれているが、正直聞く気になれない。
「そうね。全ては私を魔物にした貴女が悪いのよね」
「酷いよ!それにそうしなきゃあんた死んでたからね!?」
ミラは抗議するが、私はいつもの様にスルーしてため息を吐いた。
「アヤカ、それにミラも」
ふとトニーが私の肩に手を置く。
「何よ……?」
「何だい?」
顔を上げると、彼は優しく微笑んだ。
「二人とも、愛してる」
直後、私とミラの胸をトニーが貫いた。
太陽はちょうど真上に上がり、気温も暖まってきたころ、港町アーカムまでたどり着いた。
「やっと着いたわね」
「疲れた〜」
「……」
こまめに休憩を入れながらここまで歩いてきたが、流石に疲労が貯まっていた。トニーは疲れきっているのか先程から一言も発していない。
だが、本題はここからだ。疲れている暇はない。
「トニー、どうする?」
「……ん?」
「休憩してから会いに行くか、それとも今会いに行くか」
「……今だ」
そういうと、トニーは疲れも忘れて走り出した。
結果から言うと、トニーはお父さんと再会できた。
そして、私達が駆け付けた時には既に口げんかに突入していた。
「ふざけんな‼人を突き落としといて謝りもしねぇのか‼」
「ふん、家を出たいっ言ってただろう!そうしたまでだ!むしろ感謝してもらいてぇな」
「こっちは危うく死にかけたんだぞ‼」
「生きてるから良いじゃねえか」
「良くねぇよ‼」
「……お邪魔しまーす」
トニー宅に着くと、ミラが戸を開く。
すると、口げんかがピタリと止まり、二人の視線が私達に向いた。
「……おい、この嬢ちゃん達誰だ?」
……………………
「そうか。あんたらがうちの息子をな……」
トニーのお父さん、トーマスさんは先程とは一変、落ち着いた様子で私の話を聞いていた。
ここには私とトーマスさんの二人きりだ。トニーは口げんかのせいか家を出ていってしまった。ミラはそれに付いて行っている。
「家に顔を出したのは私がそうする様に言ったからなの。貴方がトニーを突き落としたのを後悔してるんじゃないかって」
トーマスさんは顎を撫でため息を吐く。
「そうか。あいつ反対しただろう?」
「ええ、最初は」
「はは」
トーマスさんは小さく笑う。
だが、すぐに顔を俯かせた。
「ありがとな。連れて来てくれて」
「……やっぱり後悔を?」
「しない訳ない。あいつは自慢の息子だからな」
「……?」
言っている事と態度が一致しない。
「トニーには何であんな態度を?」
「あいつ、やれば何でもできんだ。家事にしたって料理にしたって、音楽、絵画、何でもこい。母親に似て見た目も良いし、極めつけは女にモテる」
確かにモテる。
「だが、昔な、あいつが『漁師になりてぇ』って言ってきたんだ。その時以来俺はあいつを立派な漁師に育てる事を誓ったんだ」
「それが、あの態度の理由?」
「ああ。それが一番良いやり方だった。少しダメ出しすりゃ、すぐ直して来やがる。その度に嬉しくてな。褒めてもやりたかったが、それでももっと上を目指して欲しかった。だから俺はあいつにダメ出しし続けた」
……。
「だが、この前突き落としたのは失敗だった。いや、その前の一言が問題か」
「一言?」
「『お前には向いてない』ってな」
「…………ぁ……」
「あの一言を言っちまったせいで本気であいつを怒らせちまった。あの一言のせいで口げんかになって、俺もとうとうキレちまって……、突き落とした‼」
トーマスさんは頭を抱えた。
「…………」
「俺は後悔したんだ。やり方を間違えたんじゃないかって、もっと優しくした方が良かったんじゃないかって、そうすりゃ、あいつを突き落とさなくて良かったんじゃないかって、これ以上ないくらい後悔したんだ‼」
トーマスさんは泣き出した。自分のした事を後悔して。
「…………」
私は何も言えなかった。慰める言葉も思い付かず、ただトーマスさんを見詰めていた。
「…………ッ!」
胸が、締め付けられる。
少しして、トーマスさんは泣き止んだ。
赤くなった目をこすり、彼は私を見る。
「ありがとな、あいつを助けてくれて」
トーマスさんは笑顔を造る。
「もしあんたらがうちの息子を助けてくれなかったら、俺はもうすぐ自殺する所だった」
「……!」
「ありがとう、あいつの顔をもう一度見れて、本当に良かった……‼」
トーマスさんは笑いながら、また泣き出した。
……………………
「……クソッ!」
その頃、トニーは自宅の前で泣いていた。漏れた話し声を耳にして、ミラに優しく見守られながら。
「良い親父さんじゃないか」
「……ふざけんな…………、クソッ………!」
暫くして夕方、トニー達が戻ってきた。
四人でテーブルを囲み、沈黙を守ったまま食事をする。
私達はテーブルに並べられた料理を黙々と食べている。
だが、最後までは続かなかった。
「親父」
トニーが沈黙を破った。
トーマスさんは返事をする。
「……何だ」
「俺、家を出る」
「…………」
再び沈黙が戻ってきた。
私とミラは何も言わない。これは二人の問題だ。
少しして、トーマスさんが口を開いた。
「勝手に出ていけ、クソボウズ」
トーマスさんは笑う。
「分かったよ、クソ親父」
トニーは食事を終えると玄関から出ていった。
「さて、私達も失礼するわ」
「ああ、息子を宜しく頼む」
「任せなよ、一杯楽しんで、一杯エッチして幸せな人生を過ごさせてあげるからさ」
「まったく、ミラは……」
「はは、あいつも良い女を手に入れたもんだ」
「お邪魔したわ」
私は玄関から出ようとした時、トーマスに呼び止められる。
「なぁ、ひとつ良いか?」
私は足を止め、振り返る。
「何かしら?」
「あいつに、伝えてやってくれねぇか?『お前はもう、立派な漁師だ』ってな」
「……分かったわ」
トーマスはニカっと笑い、私達は外へ出た。
トニーと合流し、洞窟に戻るとすっかり日は沈みきっていた。
「正直、アーカムで宿をとっても良かったと思うのだけど?」
「あそこの宿は高過ぎるから駄目だ」
「金もないもんねぇ」
ッグ!それもそうだった。
「でも夕方から六時間も歩きたくなかったわ」
今の時間帯、恐らくもう十一時くらいだろう。
「過ぎた事は気にすんな!さあ、寝るぞ‼」
言いたい事が色々あったが、今日は流石に疲れた。
私達は一斉にベッドに飛び込む。
私は微睡みに浸り、眼を閉じた。
…………眠れない。
疲れている筈なのに、眼が冴えていた。
「…………風に当たろうかしら」
私はベッドから降り、洞窟から出た。
洞窟の真上の崖で、私は腰を降ろした。
見渡せば月明かりに照らされた広大な海。心地良い風も相まって自然と落ち着く。
「……はぁ」
ため息を吐き、今日の事を振り返って見る。
トーマスさんは、トニーに厳しく接していた。
だが、それはトニーへの応援で、背中を押す行為だった。
否定することで、反発させて、向上させる。
それが、一番良い育て方。
「…………まさかね」
一瞬、両親の顔が浮かんだ。
やることなすこと全てを否定してきた両親。夢を叶えても認めてくれなかった両親。反発して努力を積み重ねてきた私。
「…………」
思えば、私はいつも両親に認めてられようとしていた。
『夢を叶えられるのはごく僅かの人間だけ』。そのごく僅かに入ろうと努力し、見事叶えた私。
夢を叶えても認めてくれなかった両親。認めてもらえる様に有名になった私。
「…………何で」
私が夢を掴んだのは、両親が私の背中を押してくれたから?
「……何で今更……!」
何で今更になって、涙が出る。
冷めきった想いが、今更になって暖かみを帯びていく。
「何で……‼」
二人が亡くなったと知っても何も思わなかったのに。
「……何で…………」
こんなに悲しいのだろう?
「風邪ひくぞ」
突然、背中から何かが被さった。
いつの間にかトニーが後ろにいた。
被せられたのはミラが朝使っていた大きな布だ。
「こんな所でなに泣いてるんだ?」
トニーは隣に座り、海原を眺める。
「眠れなくなったから、泣いているだけよ」
「意味わかんねえよ」
トニーはケラケラ笑う。正直、自分でも訳の分からない事を言っている気がする。
「親御さんの事だろ?」
「……!」
「お前の親御さん、うちの親父みたいに態度酷かったんだろ?」
「……もしかして、話聞いてた?」
「耳に入ったんだよ」
それを聞いていたと言う。
「……トニー」
「何だよ?」
「私達って、本当に似てるわよね」
「そうだな」
「貴方をお父さんに会わせたのは、私みたいに最低な関係で終わらせたくなかったから。私みたいになって欲しくなかったから」
「言ってたな」
「でも、良いわね。貴方は」
「何が?」
「お父さんに認めてもらえたから」
「…………」
トニーは押し黙った。
「私は最後まで認めてもらえなかった。お父さんもお母さんも死んで、こんな異世界にまで来ちゃって」
「アヤカ……」
視界が滲む。喉に何か溢れだしそうな感覚がある。
「私はただ、お父さん達に認めてもらいたかっただけだった!夢を叶えた私を、『頑張ったね』って褒めてもらいたかっただけだった!でももうその言葉は聞けない!だってもう二度と会えないもの!」
「うるせえ」
トニーに抱き寄せられた。
「泣くならグダグダ言わずに泣けよ。胸貸してやるから」
「…………ぅ………ぁあ…………‼」
私は泣き出した。トニーの胸に顔を埋め、ひたすら泣いた。
「ねえ、トニー」
「何だ?」
泣いた後と言うのは、思いの外スッキリするものだ。でも私の気持ちはどう言うわけかまだ晴々としてはいなかった。
「私、貴方と居ると、凄く胸が締め付けられる」
「何だそれ、俺と居るのは嫌か?」
「嫌じゃない」
「……じゃあ、どう言う事だよ?」
「それは……」
私は口ごもる。この感情を何と表現すれば良いのだろう?
「なんだか胸が高鳴って、身体も熱くなって、でも不快じゃない」
「そっか。まぁ、不快じゃないなら良いんじゃないか?」
「そうね。でも、なんだかもどかしいわ」
不快ではない。だが、何かもの足りない。
少なくとも今は。
この気持ちは何だろう?
トニーと居ると緊張して、でも矛盾する様に落ち着いて。
「ねえ、トニー」
私はまた呼び掛ける。
「何だ?」
ふと気になった事を聴いてみる。
「貴方は私とミラの事をどう思う?」
「な、何聴いてんだ‼」
「どうなの?」
「ど、どうって言われてもな……!」
トニーはあわてふためく。何だかその様子がおかしく、ーー愛しい。
「ーーーー」
……愛しい、か。
それが答かも知れない。
私は、トニーの事が好きなのだ。この感情も、そのせいだ。
私の中で何かが動き出した。
「私は、貴方が好き」
「ーーは?」
「貴方を愛してる」
「おいおい、ちょっと待てよ」
私はトニーの腕から抜け出し、身を乗り出した。
「トニー、私を慰めて?」
「アヤーーんん!」
湧き出る衝動に身を任せ、私はトニーの唇を奪った。
舌を伸ばし、彼の口の中に滑り込ませる。
「ん、はぁ、…………んむ、チュ」
口の中とはこんなに甘いものだったか?抑えがますます効かなくなる。
ーーーーとその時、後ろから服を掴まれ、トニーから引っぺがされる。
強引に離された舌は、艶かしく糸を引く。
「まったく、あたしを置いて抜け駆けなんて良くないよ?」
その人物は、不機嫌な顔をしたミラだった。
「ミラ……」
だが彼女はすぐに微笑んだ。
「あたしも交ぜなよ」
「ん、チュ、…………ふっム……」
ミラは舌を潜り込ませ、トニーを貪るようにキスする。
「はぁ、チュ…………、じゅる、ん」
一方私は、初めて見る男性器ーー勿論弟以外でだーーを、戸惑いながらも舐めていた。
「ん、は、二人とも……ック!ちょっ、ンム、………ま、待てよ」
トニーは抵抗しようとするが、力では魔物に勝てず、口内と性器から快楽を受け続けていた。
「アヤカッ……、止めろ!も、う…………出っから!」
「良いわ。そのまま出して」
こう言う行為に関しては何もかもとんと素人の私だが、トニーがここまで感じてくれるのは嬉しい。
もっと悦ばせたい。
熱く硬い彼の性器を根元から先端にかけて舌で包む様に舐め、そしてくわえた。
「ーーッ!」
口の中に、熱く、苦いどろどろしたものが注ぎ込まれる。だが不快ではない。むしろその逆だ。
口の中に充満する匂いが、頭を溶かしていく。
「はは、アヤカ、やけに積極的だね?」
「トニー、気持ち良かった?」
「…………やばすぎだろ……」
トニーの恍惚とした表情が、私を興奮させる。
「トニー……」
私は腰を上げトニーの男性器に私の膣口を押し当てる。
「アヤカ、早すぎじゃないかい?」
「我慢、出来ない……。ーーーーーーーー!」
私は勢い良く腰を下ろす。
「ん、ーーーーァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
私はそれだけでイッてしまった。初めての挿入は痛い筈なのに、今は快楽しか感じられない。
「大丈夫かアヤカ!?」
トニーが心配して声をかける。私はそんな彼に唇を重ねた。
「ーー、トニー……好きぃ」
駄目だ。今の頭だとトニーの事しか考えられない。
「……ッ!」
トニーは面を食らう。今のは彼にとって不意討ち以外の何物でもない。
今の私はどんな表情をしているのだろうか?だがそんな事すら考えられない。
「ねえトニー、あたしもキモチヨクしておくれよ」
今度はミラが彼の手を掴み、自分の秘部にあてがう。彼女のそれは既に濡れ、だらしなく愛液が滴っていた。
「あんたの指であたしのマンコをぐちゃぐちゃに掻き回してよ」
「二人して、反則だろ!」
トニーは指ミラの膣に入れ、出し入れさせる。
ついでに胸も掴み、揉み始めた。
「あ、んは、アア!」
ミラは身体を縮めたかと思えば、勢い良く仰け反らせる。
……私も感じたい。
私は腰を上下に振った。同時にまた甘美な快楽が私を襲う。入れれば奥に刺さり、出せばカリ首が膣口に引っ掛かる。その度に何とも言えない気持ち良さが身体を支配した。
「んぁア!トニー!」
「トニー!アン‼もっ、とグチョグチョしてェェ‼」
「お前ら、俺、もう限界だ‼」
「クァ、!あたしもだよっ‼」
ミラは気持ち良さに顔をしかめ、身体を強張らせる。
「トニー、ンン‼今度はぁ、中でぇ‼」
私ももう弾ける寸前だった。
私は事の最後に想いの丈をぶちまけた。
「トニー!あ、愛してる‼」
「アヤカ、ーー俺もだ‼」
「ーーーー‼」
その瞬間、私達三人は絶頂に至った。
「くぅぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「ふぁああああああああああああああ!!!!」
「ハッ、ーーーーッ‼」
「……ごめんなさい」
もう何度目になるか分からない謝罪を私は繰り返した。
「気にすんなって」
「気にするわよ!どうかしてたとはいえ、無理矢理貴方をレイプしたんだから‼」
「アヤカ、あんたが悪い訳じゃないんだから。魔物ってのはそう言う生き物何だよ」
ミラは私を慰めようとしてくれているが、正直聞く気になれない。
「そうね。全ては私を魔物にした貴女が悪いのよね」
「酷いよ!それにそうしなきゃあんた死んでたからね!?」
ミラは抗議するが、私はいつもの様にスルーしてため息を吐いた。
「アヤカ、それにミラも」
ふとトニーが私の肩に手を置く。
「何よ……?」
「何だい?」
顔を上げると、彼は優しく微笑んだ。
「二人とも、愛してる」
直後、私とミラの胸をトニーが貫いた。
15/11/28 00:07更新 / アスク
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