連載小説
[TOP][目次]
過去の話
女性達からトニーをひっぺがし、村を出発して一時間程経った頃、
「そう言えばアヤカは異世界から来たって言ってたよな?」
「ええ。そうよ」
「その異世界ってどんな所なんだ?」
と歩きながら聞いてきた。
そう言えばトニーは私の世界に興味を抱いていたのを思い出した。
私はここに来る前の事を思い出し答える。
「ここより文明的に発達している世界よ」
「基本的にどんな風にだよ?」
「私の世界は電気エネルギーを代表とした科学で成り立っていて、遠くの人と話す事が出来る電話や、移動するときに便利な車や電車が良い例ね。話だけだと想像できないと思うけど」
「それだったらこっちにも念話とか転移魔法があるよ」
私の話にミラが口を挟む。
「魔法って使ってみて分かったけど、使える人使えない人といるでしょ?向こうは物さえあれば誰でも出来るのよ」
「……それは凄いね」
「私の世界は魔法がないから自然現象や科学原理を利用して生活しているの。こっちの様に魔法があればそれだけで便利ではあるけど」
へ〜、とトニーとミラは感嘆する。
「そう言えば魔物が居ないのは本当なのかい?」
「本当よ。と言っても、魔法も同じだけど魔物って言う概念自体は存在してる」
「なんだいそれ?」
「話や伝承には存在してるけど実際には居ないの。天使や神もそう。架空の存在ね」
トニーとミラは唖然とする。特にミラにとっては存在を否定されているのだ。さぞショックだろう。
「ずいぶんドライだね?」
「信じている人も居るには居るけどね。科学が発達していると物の原理とかも段々分かってくるから魔法と信じられて来たものも見識が変わってくるのよ」
「ドライだな」
今度はトニーから発せられる。
「同じ事言わなくて良いわよ」
私は一度一息吐く。
「まぁでも、世界の全てが発達している訳じゃないわ。国や土地、文化で様々出し、本当に原始的な部族も居ない訳じゃないの」
「じゃあ、アヤカが住んでたのはどんな所だい?」
「私は色々な国を転々としてきたからあれだけど、元々住んでいたのは日本って国ね」
「ニホン?」
「世界地図だと極東に位置してる国よ。最近だと経済的にも技術的にも発達してる国だけど、何て言ったら良いかしら、昔は世界的に変わった歴史や文化が栄えた風情ある国ね」
「へ〜、なんだかジパングみたいな国だね?」
今、ミラの口からどこかで聞き覚えのある単語が現れた気がした。
「……黄金の国?」
「何だいそれ?」
「何でもないわ」
どうやらこちらの世界にマルコ・ポーロの様な人物は居ないらしい。
「大まかな説明は以上かしら。何か質問は?」
「はーい」
どこぞの園児みたくミラが手を上げる。
「何かしら、ミラ?」
「アヤカは元の世界じゃ何をしていたんだい?」
「えっと、仕事の事かしら?」
そう言えばミラにはまだ何をやっていたか言っていなかった。
「ああ」
ミラは興味津々に頷く。
「ファッションデザイナーよ」
「何だそれ?」
トニーは頭に疑問符を浮かべる。
「服を造る仕事よ。要するに仕立屋ね。特に見た目を重視した服を造っていたわ。……本当はミラの服も仕立ててあげたかったけど、最低限針と糸と布がないと出来ないから仕立てられなかったわ」
私はため息を吐いた。
その様子を見たミラが一言発する。
「好きなんだね。その仕事」
いつになく優しい声に私は驚きつつも頷いた。
「……子供の頃からの夢でね。洋服が大好きでいつか自分だけの洋服を造りたいって思ってた」
「じゃあ夢が叶ったんだ」
「そう。でも、私の両親は猛反対だった。『その夢を叶えられるのはごく僅かの人間だけだ』って。その時、私は腸が煮えくり返る様な怒りを覚えたわ。両親は私をその『ごく僅か』に入れてない。入れるつもりもない。端から無理だって言われてる様なものだから、そのまま口げんかに突入したわ。家も飛び出して、私はファッションデザイナーになった」
「「…………」」
「それから親とはすっかり関係が冷めきったわ。夢を叶えて有名になっても認めてくれないし、たまに帰っても口げんかばかり。だから……」
私はトニーに視線を向ける。
「……何だよ?」
訝しげな表情を浮かべるトニーに告げた。
「私は両親が死んでも何とも思わなかった」
「「…………!」」
二人は驚愕し、押し黙った。
「トニー、私と貴方は似ているわ。でも、貴方は私とは違う。お父さんが死んだら悲しむ筈よ。私みたいに冷めてはいない筈よ。私は、貴方に悲しんで欲しくないの」
「アヤカ……」
……ふと気付いた。空気が重い。
「ごめんなさい。こんな重い話をして」
「いや、逆に感謝したいくらいだ」
トニーは自然な笑顔を私に向けた。

「そんなに俺の事を想ってくれてたんだな」

「……っ!」
今、何かに貫かれた様な感覚があった。
「あ、いえ、私はただ……」
「おやぁ、これは初な反応だね」
「貴女は黙ってなさい!」
「……どうした?」
「何でもないわ‼」
私は逃げる様に早足で前に出た。
なんとなくトニーがモテる理由が分かった気がした。


今のは何だったのだろう?
今の笑顔を思い出す度に胸が締め付けられる感覚に襲われる。
こんな感覚は過去に経験がない。

これは…………。
15/11/18 22:44更新 / アスク
戻る 次へ

■作者メッセージ
今回は少し短めですが、重要なフラグポイントになります。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33