突然の事故
弟が、突然姿を消した。一枚の置き手紙を残して。
どうやら恋人が出来たらしい。無感情で動くだけの人形みたいなあの弟がだ。
彼はその恋人の所へ婿入りするらしい。
姉として、少し嬉しく思った。でも、同時に寂しくもあった。
私は外岡綾香。ファッションデザイナーをしている。自分で言うのもどうかと思うけど、世界でかなり有名な方だ。その為に毎日忙しい。たまに取れる休暇はほぼ寝ている。それか、本当にたまにだが実家に帰ったりもする。正直自分でも理由は分からない。弟、零次には「気まぐれ」だと答えている。でも、今になってその理由が分かった気がする。
ただ、零次の顔を見たかっただけだ。
私は両親とはとても仲が悪かった。私のやること成すこと全て否定してくる親が嫌いだった。だから両親が亡くなったって聞いてもこれっぽっちも悲しくなかった。そこまでに私達の関係は冷えていた。
でも、弟は違った。無表情で必要な事以外喋らないから反応に戸惑って素っ気ない態度を取っていたけど、それでも彼の事は好きだった。
でも、もう弟はいない。恐らく、もう会うこともないだろう。
今私は飛行機でパリに向かっている。パリで行われるファッションショーの為だ。
着くにはまだ十時間も掛かるらしい。こう言った飛行機旅行はもう慣れているがそれでも若干退屈だ。もう少しゆっくり寝ているとしよーーーー
突然、飛行機が大きく揺れた。
「な、何!?」
『トラブルが発生しました!この機体はまもなく墜落します!』
機内の乗客がざわめいた。「嘘だろ?」と疑う者も居た。
だが、直後に酸素マスクが出て来る。そして揺れも強まり、急降下した。
マスクをつける暇もなく、乗客は悲鳴を上げた。CAが指示を出すが、パニックで聞く耳を持てない者も数名。
「嘘でしょ、こんな大事な時に‼」
私は緊急時の姿勢を取り、無事に命が有ることを祈った。
真下は海の様だった。不時着する様子がない。もしかするとエンジンが故障したのだろうか?
飛行機は墜落する。
頭の片隅で、一人の少年の顔が浮かんだ。
「零次……!」
体が冷たかった。
機体が割れたのか、海に放り出されていた。
息が出来ない。意識が朦朧としてきた。
何か、黒い影がこっちに向かって来ている。魚だろうか?
そこで私は、意識を失った。
「ん………」
気が付くと青い空が目に映った。
どうやら岩に横たわって居たようだ。
近くに海岸が見える。
「ここは?」
周りを見渡そうとした時、不意に女性の声がした。
「あら、気付いたかい?」
「ん?………な!?」
そちらに振り向くと、女性が居た。だが、その女性は普通ではなかった。
一言で言えば、人外だ。
光沢があり、艶やかな青い肌。頭には角が数本あり、耳も尖っている。髪も艶やかで、吸い込まれる様に黒い。腰からは尻尾の様な尾びれが付いている。魅力的な体型をしており、豊満な胸を持っている。顔もこれでもかと言うほど整っており、普段美しいモデルと顔を合わせる事が多いが、これ程美しい女性は見たことがない。さらに全裸だ。
「な、なんなの貴女……?」
その女性は、私の反応を見て笑う。
「あっはははは!あんた、魔物を見るのは初めてかい?」
「ま、魔物!?」
「ああ、そうだよ。あたしはネレイスって言う奴さ。まぁ、今じゃあんたもだけどね」
「え……?」
私は自分の体を見下ろした。そして直後に絶叫した。
私の体は、目の前の人外と同じ姿だったのだ。
ネレイスはギリシャ神話に登場する海神ネレウスの娘達の総称で、複数形でネレイデスとも呼ばれる。
そして目の前のネレイスはミラ・ナイナーと名乗った。
彼女は海に沈んでいた私を助けてくれたらしい。
「でも嘘でしょ?魔物が実在するなんて……。しかも私までネレイスになるなんて……」
私は頭を抱えた。彼女の説明だと、飛行機が突然現れ、そこから乗客が放り出されていた。彼女はそこから私を助けたが、人間のままだと非常に危険な状態だったために私をネレイスに変えたらしい。
「あたしは見たこともない鉄屑が突然出てきたから驚いたよ。そこから大人数の人間が出て来たから他の魔物達が皆拐って行ったんだ」
「他の魔物達」。つまり、ここには大勢の魔物が居ると言うことだ。
しかし信じられない。そんなに大勢の魔物が居るのならなぜ発見されなかったのだろう?
だが、それは良い。今は現在地を確かめてせめて警察か何かに保護してもらわないと。
「ねぇ、ここってどこかしら?出来ればどこの国かくらいは知りたいのだけど」
ミラに問いかけると、彼女は間も開けずに答えた。
「ヘレイナって国さ」
…………ヘレイナ?
「どこそこ?」
「聞いた事無いかい?海沿いで栄えてて漁業が盛んな国さ」
全くもって知らない。
「ごめんなさい。そんな国地図でも見たことが無いわ」
アフリカの小国だろうか?それともまた別の大陸なのか?
「そんな事無いだろう?普通に地図に載ってるさ」
でも実際、そんな国は一回も聞いた事がないし見たこともない。
「見せてあげようか?地図」
え、あるの?
「ああ。この前拾ってね。魔法で濡れない様にして持ち歩いているんだ」
は?
「え、今何て?」
「だからこの前拾ったのさ」
「その後よ」
「魔法で濡れない様に?」
「そうよ。それよ」
魔法?嘘だ。魔法なんて存在するわけがない。百歩譲って魔物が居る事は信じてもそんな物が実在したら今頃世界は魔法で満ち溢れている。
「って何してるの?」
ミラは手を大海原に向けて差し出していた。
「あたしの魔法が見たいんだろ?見せてあげるよ」
ミラは笑ってその手を上に振り上げた。
直後、目の前の海水が不自然に、かつ勢いよく浮き上がった。
「な、嘘……!」
海水はミラの手に合わせ、まるで生き物の様に空中を動き回る。
「どうだい?あたしの魔法は?スゴいだろ?」
後になって、私は地図を見させてもらった。私の記憶とはかけ離れた世界地図を。
魔物、魔法、地図、そして変わり果てた私の姿。
信じたくはないが、私は悟ってしまった。
私は、異世界に来てしまったのだ。
どうやら恋人が出来たらしい。無感情で動くだけの人形みたいなあの弟がだ。
彼はその恋人の所へ婿入りするらしい。
姉として、少し嬉しく思った。でも、同時に寂しくもあった。
私は外岡綾香。ファッションデザイナーをしている。自分で言うのもどうかと思うけど、世界でかなり有名な方だ。その為に毎日忙しい。たまに取れる休暇はほぼ寝ている。それか、本当にたまにだが実家に帰ったりもする。正直自分でも理由は分からない。弟、零次には「気まぐれ」だと答えている。でも、今になってその理由が分かった気がする。
ただ、零次の顔を見たかっただけだ。
私は両親とはとても仲が悪かった。私のやること成すこと全て否定してくる親が嫌いだった。だから両親が亡くなったって聞いてもこれっぽっちも悲しくなかった。そこまでに私達の関係は冷えていた。
でも、弟は違った。無表情で必要な事以外喋らないから反応に戸惑って素っ気ない態度を取っていたけど、それでも彼の事は好きだった。
でも、もう弟はいない。恐らく、もう会うこともないだろう。
今私は飛行機でパリに向かっている。パリで行われるファッションショーの為だ。
着くにはまだ十時間も掛かるらしい。こう言った飛行機旅行はもう慣れているがそれでも若干退屈だ。もう少しゆっくり寝ているとしよーーーー
突然、飛行機が大きく揺れた。
「な、何!?」
『トラブルが発生しました!この機体はまもなく墜落します!』
機内の乗客がざわめいた。「嘘だろ?」と疑う者も居た。
だが、直後に酸素マスクが出て来る。そして揺れも強まり、急降下した。
マスクをつける暇もなく、乗客は悲鳴を上げた。CAが指示を出すが、パニックで聞く耳を持てない者も数名。
「嘘でしょ、こんな大事な時に‼」
私は緊急時の姿勢を取り、無事に命が有ることを祈った。
真下は海の様だった。不時着する様子がない。もしかするとエンジンが故障したのだろうか?
飛行機は墜落する。
頭の片隅で、一人の少年の顔が浮かんだ。
「零次……!」
体が冷たかった。
機体が割れたのか、海に放り出されていた。
息が出来ない。意識が朦朧としてきた。
何か、黒い影がこっちに向かって来ている。魚だろうか?
そこで私は、意識を失った。
「ん………」
気が付くと青い空が目に映った。
どうやら岩に横たわって居たようだ。
近くに海岸が見える。
「ここは?」
周りを見渡そうとした時、不意に女性の声がした。
「あら、気付いたかい?」
「ん?………な!?」
そちらに振り向くと、女性が居た。だが、その女性は普通ではなかった。
一言で言えば、人外だ。
光沢があり、艶やかな青い肌。頭には角が数本あり、耳も尖っている。髪も艶やかで、吸い込まれる様に黒い。腰からは尻尾の様な尾びれが付いている。魅力的な体型をしており、豊満な胸を持っている。顔もこれでもかと言うほど整っており、普段美しいモデルと顔を合わせる事が多いが、これ程美しい女性は見たことがない。さらに全裸だ。
「な、なんなの貴女……?」
その女性は、私の反応を見て笑う。
「あっはははは!あんた、魔物を見るのは初めてかい?」
「ま、魔物!?」
「ああ、そうだよ。あたしはネレイスって言う奴さ。まぁ、今じゃあんたもだけどね」
「え……?」
私は自分の体を見下ろした。そして直後に絶叫した。
私の体は、目の前の人外と同じ姿だったのだ。
ネレイスはギリシャ神話に登場する海神ネレウスの娘達の総称で、複数形でネレイデスとも呼ばれる。
そして目の前のネレイスはミラ・ナイナーと名乗った。
彼女は海に沈んでいた私を助けてくれたらしい。
「でも嘘でしょ?魔物が実在するなんて……。しかも私までネレイスになるなんて……」
私は頭を抱えた。彼女の説明だと、飛行機が突然現れ、そこから乗客が放り出されていた。彼女はそこから私を助けたが、人間のままだと非常に危険な状態だったために私をネレイスに変えたらしい。
「あたしは見たこともない鉄屑が突然出てきたから驚いたよ。そこから大人数の人間が出て来たから他の魔物達が皆拐って行ったんだ」
「他の魔物達」。つまり、ここには大勢の魔物が居ると言うことだ。
しかし信じられない。そんなに大勢の魔物が居るのならなぜ発見されなかったのだろう?
だが、それは良い。今は現在地を確かめてせめて警察か何かに保護してもらわないと。
「ねぇ、ここってどこかしら?出来ればどこの国かくらいは知りたいのだけど」
ミラに問いかけると、彼女は間も開けずに答えた。
「ヘレイナって国さ」
…………ヘレイナ?
「どこそこ?」
「聞いた事無いかい?海沿いで栄えてて漁業が盛んな国さ」
全くもって知らない。
「ごめんなさい。そんな国地図でも見たことが無いわ」
アフリカの小国だろうか?それともまた別の大陸なのか?
「そんな事無いだろう?普通に地図に載ってるさ」
でも実際、そんな国は一回も聞いた事がないし見たこともない。
「見せてあげようか?地図」
え、あるの?
「ああ。この前拾ってね。魔法で濡れない様にして持ち歩いているんだ」
は?
「え、今何て?」
「だからこの前拾ったのさ」
「その後よ」
「魔法で濡れない様に?」
「そうよ。それよ」
魔法?嘘だ。魔法なんて存在するわけがない。百歩譲って魔物が居る事は信じてもそんな物が実在したら今頃世界は魔法で満ち溢れている。
「って何してるの?」
ミラは手を大海原に向けて差し出していた。
「あたしの魔法が見たいんだろ?見せてあげるよ」
ミラは笑ってその手を上に振り上げた。
直後、目の前の海水が不自然に、かつ勢いよく浮き上がった。
「な、嘘……!」
海水はミラの手に合わせ、まるで生き物の様に空中を動き回る。
「どうだい?あたしの魔法は?スゴいだろ?」
後になって、私は地図を見させてもらった。私の記憶とはかけ離れた世界地図を。
魔物、魔法、地図、そして変わり果てた私の姿。
信じたくはないが、私は悟ってしまった。
私は、異世界に来てしまったのだ。
15/11/12 12:26更新 / アスク
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