連載小説
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異世界での生活
あの日から数日が経った。
この魔物が実在する世界にやって来た私は、ミラと共に共同生活を送っていた。
ネレイスはほぼ大半が海での生活で、正直全然慣れない。
人生で泳ぐ事は少なかったし、さらに海水はしょっぱいし、それ以前に素っ裸だ。
漁の時、ミラは魔法で魚を誘き寄せたりしているのだが、魔法の使い方を知らない私はミラに助けて貰ってばかりだ。
魔物となった今の私にも使えるらしいのだが、魔法なんて概念が存在しなかったのでやり方など知らず、実質使えないのと一緒である。

ここでの生活では大半の事は仕方なく受け入れている。ここでは自給自足をしなければ生きていけないのだから。たまの娯楽も良い。ミラと話していると楽しいし、色々とここでの生活の糧にもなる。
だが、一つだけ解せない事がある。
「ミラ、早く帰りましょう」
「無理さ」
私の催促をミラは断固拒否した。
「何で毎日こんな所に居るのよ?普通に洞窟に戻れば良いじゃない」
「これがどれだけ大事なのか解って言ってるの?」
ミラは私を睨み付けてそう言った。こういう時のミラはかなり真剣なのだが、私にはあまりこの行為に利益と言うものが感じられない。
「今日こそ来てもらいたいんだよ!」
彼女はここで、やって来る男をアンブッシュしているのだ。
この世界の魔物は私が知っている魔物と違う。
まず、全ての魔物は例外なく女性だと言うこと。そして皆どれもが淫乱らしい。
彼女達は人間の男性と夫婦となるのが習性となっており、最終的には子を成し家庭を築くのだが、それがどうにも解せない。何それどこの誰の妄想よ。現実に起きているから妄想じゃ無さそうだけど。
私が知っている魔物の事を話すと、「それは旧世代の魔物だよ」と言われた。どうやら魔王の代替わりでサキュバスが魔王になってしまった為、その魔力が全世界の魔物に影響を及ぼしこんな風になったそうだ。
ネレイスは魔物の中でも好色の方らしい。と言うのも、ネレイスは魔物と化す際、魔力に充てられ身体中が強い快楽と性欲に支配されるらしい。そしてその快楽こそが至上と考える様になるらしい。例によってミラもそうだ。
だが、私がネレイスと化す際、そうなる筈らしかったのだが、私には覚えがないし、ミラも「そんな反応はなかった」と残念そうに言っていた。
単に気絶していたからではないかと思うのだが、ミラ曰く「ここまで性欲が無いのはおかしい」らしい。元々そう言ったものに興味が無かったので良く分からないが。それと先ほどから「らしい」ばかりで申し訳ない。
その後、ミラが「徹底的に調べる」と言いながらセクハラをしてきたのでチョップを食らわせた。
「私は先に帰ってるわよ」
「はいはーい」
ミラは海岸をを見詰めながら手を振る。私はそれを確認して居住地である洞窟へ向かった。


一時間後、ミラは俯きながら帰って来た。
「ただいま〜……」
「あら、お帰りなさい。今日も収穫なしなのね。お疲れ様」
「冷たいねぇ〜」
ミラは不満げに柔らかい土と水草で出来たベッドに移動し、寝転がる。毎日こんななので気にしない。
「アヤカ〜、今日のご飯は?」
「鮭の塩焼きとワカメのサラダ」
全て海産物。それも簡素な物に限る。
ほぼ海で生活を送っているから当たり前なのだが、正直飽きる。久々に牛肉や豚肉が食べたい。
ミラはほとんど魔法を使って生活をしているのだが、火を扱う事は出来ない。だから今まで彼女は生で魚等を食べてきたそうだ。最初に食事を共にした時、生魚を血抜きもせずそのまま食べようとした彼女を慌てて止めたのを覚えている。血みどろな場面は好きじゃないわ。
私がここに住む様になってから、ミラは久々に焼き物を食べたらしい。と言うよりも火の起こし方すら知らなかったらしい。久々に食べたせいか最初は熱がっていたがその内慣れ、今では楽しみにしているくらいだ。
「ハー、何で来ないのかねー?」
「こんな海辺に来る人なんてそうそう居ないわよ。漁業が盛んな国って言っても、この辺りで漁師とかも居る様子はないし、そもそも人里が近くにあるかなんて分からないもの」
沖に出て確かめれば良い話なのだが、残念ながら人間に化ける術を私はまだ持っていない。ミラは人間に変装することが出来るのだが、生憎と服がなく怪しまれるために沖に上がれなかったそうだ。現在は私の服が洞窟の奥に眠っているが、ミラにはサイズが小さいので着れない。特に胸が。何だか腹が立つ。あの胸は絶対Fカップはある。Bに対する私への挑発なのか知らないけど腹が立つわ!
私は出来た料理を皿に盛り、机に運んだ。
「出来たわよ」
「はーい。あら、美味しそうだね?」
ベッドから起き上がったミラは席につき眼を爛々と輝かせた。
「いただきます」
「いただきまーす!」
私達は石を削って作った箸を使って鮭を解体していく。だがミラはまだこの箸を使いこなせず落としてしまう。
「アヤカ、あんた良くこんな棒使いこなせるね?何、新手のテクニシャン?」
「ミラ、もしそれに下ネタが含まれていたとしたら貴女を焼いてステーキにするわよ」
「含まれてないから早く食べようか」
ミラの青い肌がさらに青ざめた。

それから一週間後の夕方、ミラに奇跡が起こった。
「アヤカアヤカアヤカー!アヤアヤアヤカー‼」
興奮仕切ったミラが襲ってくるかの如く迫り来る。
私はそれをヒラリとかわして料理を続ける。勢い余ってミラはベッドに倒れ、頭を壁に強打した。ちょっと危ない音がしたが大丈夫の様だ。
「鬱陶しいわね、どうしたの?」
「男ゲッツ!」
「はぁ?」
聞き間違いかしら?今男ゲッツとか言わなかった?
「いやぁ、本当苦労した甲斐があったモンだよ!」
ミラは一旦外に出て荷物を抱えて戻ってくる。
「……驚いたわ。まさか本当に拐って来たのね」
その荷物は確かに人間の男性だった。身長が高く、体つきはやや細い、短い金髪の若いコーカソイドだ。
「拐ったんじゃないさ。漂流してたのを助けたんだよ」
「意識がないみたいだけど?」
「さっき魔法で水の中でも呼吸出来るようにしたから大丈夫さ。現在はぐっすりおねんねさ」
ミラは男をベッドに寝かせる。直後にムフフと笑みを溢した。
「さぁて、早速いただくとするかね」
「その前にこっちの飯を食べなさい。後、意識もない人を無理矢理レイプするのはどうかと思うわ。それに物事には順序ってものがあると思うのだけど?」
私は料理を盛った皿を差し出し、淡々と意見を述べる。それを聞いたミラはどういうわけか首を傾げた。
「順序って、セックス、告白、結婚だろう?合ってるじゃないか」
「セックスは最後に来るはずでしょう!」
早くても二番目よ!この世界の常識は酷すぎる程下品ね‼
そんな私のツッコミも気にせず、ふと何か思ったのかミラは私の方に顔を向けた。
「それにしても、今さらだけどあんた、変わってるね?」
「貴女に言われたくないわよ!」
「いや、普通意識がないのを見たら、もうちょっと慌てないかい?」
「…………」
……まさかミラからこんな指摘が来るとは思わなかったわ。
確かにそうだ。こんな状況、慌ててもおかしくない。だが、私の心はいたって落ち着いている。
……弟の無感情が移ったのかしら?
「とりあえず食べましょう。彼の事は後回しね」
「後で二人で美味しく食べようか」
「悲しいわ。貴女を焼くことになるなんて」
「やだね、明日の料理の事だよ」
明日を後でだなんて言わないわよ普通。
とりあえず、私達は食事をしつつ、彼が意識を取り戻すのを待った。
15/12/04 22:16更新 / アスク
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■作者メッセージ
ネタを考えているうちにすっかり時間が過ぎた気がします。お待たせして申し訳ございません。
さて、次回はとうとうミラ姉さんが拾ってきた男性が登場するのですが、果たして彼は何者なのか。
詳しくは僕もまだ決めていないので考えておきます。(駄目ですねww)

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