読切小説
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果肉の誘惑
魔物娘は持つ能力の大部分は人間男を捕まえるために費やしていると言えるだろう。そのため、人間はよほど用心深くなければ瞬く間に捕らえられてしまうのは確実である。物理的な拘束だけではない。彼女たちの魅力に無関心でいるのは困難なことだ。

 少年がそれを見つけたのは偶然出会った。薬草が見つからず当てもなく歩いていた時、見たことも無いふわふわとした綿が頬にあたったのだ。それは、村人たちは勿論役人や村長でさえこんな肌触りをもった衣服は持ってないだろうというくらいに柔らかいものだった。
 こんな荒野のどこにこんな綿があるか少年も疑問に思ったがこの綿のようなものを集めればきっといいことがあるだろうと誘惑が優った。こんな荒野では綿を探すのは困難かと思われたが、少年の探索を助けるかのように綿がこちらに風に乗って吹いてくる。自然と足取りは早くなりまだ見ぬ目的地へと足を動かす。少年は何時しかその綿の元の「匂い」がわかることに気づいていた。甘ったるい匂
いが鼻孔をくすぐる。自分を誘うかのように漂う香りが強くなるたび、自分に運が向いてきたという想いを強くする。
 きっとそこには果物もあるに違いない。歩き続けでおなかもすいているからちょうどいい。少年は年齢相応の楽観的な思考でバラ色の未来を想像しながら歩く。下半身の疼きがいつの間にか強くなっていることに気付かぬまま。

目的地にたどり着いた少年は、足を止める。顔は紅潮し、股間が固くなり呼吸は荒い。少年はそこで得体のしれない違和感を感じたが、目的のものを発見した。だが、それは見たこともない動物ー植物だった。羊の姿をした果実である。少年は御世辞にも知識が豊富とはいえなかったがそれでも目の前の「生き物」を異様であると感じていた。

「えへへ、ようやくきたんだあ…」

 突然目の前の「生き物」から話しかけられて少年の鼓動は早くなる。羊ではなく、羊の獣人であった。上半身を覆う巻き毛勝ちのわたに包まれた幼い少女の姿をしている。下半身はゼリー状のぶるるんとした果実に埋まっているが、傷一つない褐色の肌は隠しきれていない。少年の基準からすれば裸も同然なのだが、彼女は見られても平気どころかその視線を感じてもっとその美しい肌を見せようとしているくらいだ。

「魔物!」

ようやく目の前の存在がなんであるかを知りおもわずへたりこんでしまう。今まで魔物娘の存在など安息日で聞く説法でしか聞いたことがなかった。あどけなく笑う目の前の少女が浮かべる花の咲く笑顔も、恐怖を煽る。そもそも人間の方が本体であるという確証など無いのだ。

「そうだよ〜でも、痛いことなんてしないよ。だってぇ」

「君は私に会うためはるばるここまで来たんだから」

植物の茎のような腕を組んで自慢げに胸を張る少女。少年は誘い込まれたのだとしか思えなくなっていた。それは、少年の村にもある教会組織の説法だけではない、明らかに人間でない彼女たちを恐れる人間としてのある種の本能からでもあるだろう。かわいらしく頭から生えた丸まった角も、胸につけているブローチも下半身を包むおいしそうなゼリーも恐ろしかった。同時に、下半身を情欲が支配しつつあった。それに気づいたのか、羊のような耳をぴょこぴょこと動かす。

「ふふふー、まずはお近づきの印にぃ、このゼリーをあげるよぉ。絶品の甘味でぇお友達も大喜びなんだよぉ」

その甘ったるい声にも少年は何も答えず怪訝な顔で答えを返す。本来は逃げなくてはいけないのだが、座ったままだ。

「それからぁ、この綿もあげる。すっごいフカフカで刑部狸ちゃんたちも大喜びだよぉ。君もこれが欲しくてここまで来たんでしょう?」

警戒心が解けたわけではないが、確かに綿は欲しかった。少しでも収入は欲しいし、目の前の魔物娘は足も速くなさそうだ。それに、少年は欲望に対し我慢強いわけではなかった。
 少女の金色の目に見詰められながら近づく。恐る恐る顔を寄せると、果実を嘗めた。

「甘くて…おいしい!」

ぱっと笑顔になる。ただ嘗めただけなのに、そのとろけるような甘味はこの世のどんなものもかなわないように思われた。もっとなめさせてくれないだろうかー期待を込めた表情で魔物娘を見上げる。魔物娘は目が合うと、もっと食べてもいいとうなづいてくる。

「本当、良かったぁ。もっとこっちにきてもいいよ♪

少年はさすがに戸惑いを感じた。懐に入り込んで捕獲される可能性もあるからだ。だが、この果実をもっと頬張りたいという気持ちも強い。

(大丈夫、すぐ逃げればいいんだ)

さらに近寄り、ゼリー状の果実を齧る。その瞬間、芳醇な甘みが広がる。その味わいは期待にたがわず、柔らかで弾力があった。無言で食べ続け、咀嚼音だけが響く。

かぷっ

「あんっ」

魔物娘は喘ぎ声を上げる。少年は魔物娘の足?を間違って噛んでしまったのだ。魔物娘はむしろ嬉しそうな声を上げたのだが、少年は魔物娘の期限を損ねたのではないかと青ざめて後ずさる。天国から地獄。少年はおびえて顔を向けるが、そこで信じられない光景を見た。先ほどむさぼっていた果実は少しずつ元に戻っていくのだ。外見の異様さにたがわぬ光景に少年は息をのむ。

「もう、そんなあわてなくても私たちバロメッツの果肉はなくなったりしないよぉ。」

「そ、そうなんだ」

少なくとも魔物娘、いやバロメッツ?は機嫌を損ねた様子はない。

 「果物もいいけどぉ、一番おいしいのは私の体についている三つなんだよぉ。あじわってみて?」

「そんなこと言われても…」

女性から自分の体を嘗めろと言われても「はい、そうですね」と答えられる男はそういないだろう。まして、バロメッツへの警戒は解けていないのだから。彼女の体に触れようとすれば、密着するほど近づかなけれならないのだ。

「君は僕より大きいから、君の果肉を踏んでいかないといけないじゃないか」

 「でもぉ、君はこの綿を取りに来たんでしょお?」

確かにその通りだった。 ここまで時間をかけたのだからどうしてもふかふかの綿は持ち帰りたかった。バロメッツは少年の沈黙を肯定と受け取り、自らの葉身(ようしん)を少年の手に向ける。

「私はバロメッツのポリー。あなたの名前を聞かせて?」

 合って一日のポリーに名前を教えていいのか迷ったが、主神の洗礼を受けた聖書由来のだから大丈夫だろうと根拠もなく考える。それに、ここまでしてくれたのだから名乗ってもいいはずだ。

「ティム…みんなははずれ小屋のティムっていうよ」

何の変哲もない名前だ。しかしポリーはそうは思わなかったようでうれしそうにうなずく。ティムは差し出された葉身に手を伸ばす。握手らしきものを交わした後、ゆっくりと果肉の中に足を踏み入れた。果肉が崩れないかと思ったがぶるぶると振るえはするものの、つぶれる気配はない。これなら大丈夫だろう。密着するほど近づいたため、温かみのある褐色の肌がどうしても目に入ってしまう。その時。

ズルッ

「うわぁあっ」

足を滑らせ、こけそうになる。思わずポリーにしがみつくが、油断したすきに一気に果肉に体が沈んでしまう。ぬるりと一気に下半身が果肉に埋め込まれる。

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫…」

腰を上げて抜け出そうとするが、何かが引かかったのかのように抜け出せない。
ブルンっ

「出られない?」

弾力がある果実は柔らかいが決してティムを話そうとしない。もがけばもがくほどプルンと締め付け押し戻されてしまう。

「なんだこれっ、動けないっ…」

足を抜こうとするがぐにっと邪魔されて果たせなかった。

「にがさないよ〜 私のゼリーがギュッと固めちゃうから」

 言葉の通り、果肉がティムの足をしっかりと拘束し放さない。

「放せっまさか食べる気か!」

ティムは自由になる上半身で暴れる。バロメッツも人間の部分は体格は華奢なので押さえつけられずにいた。
少しの時間が過ぎた頃、しびれを切らしたポリーは蔦を伸ばし後ろでに縛り付けてもゼリーに飲み込ませてしまう。

「もう、照れちゃってかわいいんだからぁ。大丈夫、気持ちよくていたいことなんてないから」

「私の「体」はぁ、どんな体より甘いんだよぉ」

ポリーは動けないティムにそう語りかけると、腰を上げる。薔薇の蕾のような秘所がティムの陰部を飲み込んだ。

「うわぁっうう…」

思わず声を漏らすティム。今まで感じたことのない快感に戸惑いを隠せない。思わず腰を引こうとするが果肉に拘束され動けない。どころか弾力に弾かれて何度も打ち付ける始末である。
そして、股間のものを放つのに時間はかからなかった。

甘味というのは個人の差はあれ中毒性があるとされる。故に古今東西嗜好品の代表であり時には歴史を動かすことも稀ではなかった。
魔物娘はそのような点において、まさに禁断の果実と言えるのではないだろうか?

彼女の肉体は絹よりも柔らかく、さわりが良かった。体から滴る果汁は先ほど食べた果物よりも甘かった。

「もう、くすぐったいよぉティムぅ」

ティムはポリーのチョコレートのような光沢のある肌を隅々まで嘗め回していた。まるでそれ以外の事などすべて忘れてしまったかのように。

「ポリィ…キス…」

「いいよぉ、私ティムの唇大好き」

ティムはいい終わらぬうちにポリーの口をむさぼっていた。二人は濃厚なキスで一秒一秒を惜しむように身を寄せ合う。
肉体は拘束から解き放たれていたが、気付いた時にはティムの魂も体もポリーに捧げきっていた。もう片時も離れたくない。

ティムの村では行方不明者のことで動揺が広まっていた。ここでは教団と魔物娘との戦いも無縁であったからだ。まずは、家族が地主や村の教会に訴え、主だった者たちは領主へ訴え出た。しかし領主は村の新婦や地主の訴えに腰を上げるのを躊躇していた。辺鄙な地方なので避ける人員も、魔物娘を退ける自信もなかったからだ。

 「あそこがティムが住んでいる村?」

「うん、そうだよ。何もない場所だけどね。」

 村の混乱をよそに、ティムから村の位置を聞いた魔物娘達は集まりつつあった。種子を飛ばすためにも魔物娘たちが安心して住めるようになる必要があったし、新しい伴侶を得たい魔物娘の希望が合致したのだ。

「私たちの子供の新居を作るのにもぴったりだねぇ」

ポリーは嬉しそうにティムを抱きしめる。
魔物娘たちはやがてぞろぞろと村へ近づいて行った。

そして、この村が魔界化するのに時間はさほどかからなかった。

15/02/15 22:45更新 / 武蔵

■作者メッセージ
初めての方はこんにちわ。知っている方はお久しぶりです、武蔵です。
 遅れながらバロメッツさんの小説です。ちっこいけど淫らさなバロメッツさんの魅力が少しでも再現できてれば幸いです。

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