連載小説
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エイプリルフールおまけ または男は如何にして妻の体にほくろがないことを知ったか
「はい、お母さん。」
「ありがとう、美緒。よくできたわね。」
「うん。お母さんに教えてもらった通りできたよ。」
「美緒が手伝ってくれてお母さん、助かるし嬉しいわ。」
「これからもお手伝い頑張るね!」
台所から聞こえてくる母娘の声。
その平凡で、しかし安藤祐介にとって何物にも代えがたい幸せが夕食後の満足感と相まって一日の疲れをじんわりと癒してくれる。懸命に母を助けるために努力する美緒の健気さ、妖艶で官能的なだけではなく母性で柔らかく微笑む恭子のなんと魅力溢れることか。

「ねえ、父さん。」
一人幸せを噛みしめていると、長女の咲がなにやら声を潜めて話しかけてきた。
「どうしたんだい、咲。」
「ちょっとお昼に気になったことがあったから父さんに聞いてみたくって。」
「うん?そんな気になることがお昼にあったのかい。」
尋ねると、頷きながらちらりと恭子に視線を向けた咲が、より声量を落として話し始めた。
「実は今日のお昼に、母さんと話していたらエイプリルフールの話題になってね。それで母さんが父さんについたエイプリールの内容、あのほくろができたって話をしてくれたの。」

愛娘の言葉で瞬時にその当時のことを思い出す。
常に優しく、誰よりも誠実に祐介と接してくれる恭子が、例えエイプリルフールであっても嘘をつくと想像もしていなかったので、まさに青天の霹靂、情けないほど動揺してしまったものだった。改めてその時を思い出し僅かに赤面しつつ、そのことのなにが気になるのか尋ねる。
「聞いた時にすぐ気になったわけではなかったんだけど、時間が経ってふと思ったの。」
「ふんふん。」
「父さんって母さんの体にほくろがないって把握しているんだなって。まあ勿論愛し合ってお互いの裸を毎日見ているから把握していてなんの不思議もないけど、エイプリルフールの嘘を言われてすぐに病院で検査をってなるくらい父さんの中で母さんの体にほくろがないってことがインプットされているのがちょっと気になっちゃって。」
「ああ、なるほど。」
すると咲は好色な笑顔を浮かべ両手をわきわきと動かしながら楽しそうに言葉を続ける。
「もうお前は俺の女、お前の躰の全てを調べつくしてやるぜぐへへぇなんてことが二人の間であったのかなあなんて。」
「こら、あんまり下品だとお母さんに怒られちゃうよ。」
「冗談冗談。」
「ただまあ…」
少しだけ言葉を切り、愛する妻の姿を眺めながら口を開く。

「近からずも遠からずと、言えないこともないのかなあ。」
「え、本当に?」
可愛らしい双眸をまんまるに開き驚いている娘が可笑しくて笑いながら真意を伝える。
「ただし、逆なんだけれどね。」
「え、逆?」

そう、事実は逆なのだ。






……………






愛妻の膣へ埋めていた男根に限界が迫る。
噛みしめる奥歯に力を入れ、下半身に意識を集中させて今宵数度となる射精へ向け全身を滾らせる。
「あぁ旦那様♡旦那様ぁ♡」
妻はこちらの限界を瞬時に察知し、蕩けきった表情に満面の気色を浮かべ、よりいっそう膣を淫猥に蠢かす。

キュ♡ぐちゅぅ…♡
膣口は喰いつくように男根の根元へ吸い付き、膣内の襞はより一層の蠕動を開始する。
一層粘度の高い愛液が膣奥からごぽりごぽりと滴ると同時に、僅かに入り込んだ空気が膣の蠢きではしたない水音共に結合部から吐き出される。僅かの隙間もなく、まるでペニスとヴァギナの境界が亡くなったかと錯覚してしまうような状態で、我慢が続くはずもない。頭はぼんやりと霞み、法悦の火花がばちばちと弾け食いしばった口から低いうめき声と共に射精を継げる唸り声として漏れでる。
「恭子、で…っ射精る!!」
「ふぅ♡はぅっ♡…うぅ♡」
亀頭がパンパンに膨らみ、楔のように愛妻の子宮口へ突き刺さる。

ビュるるぅ…ドクっドクン
目の端に涙を浮かべながら、恭子はエクスタシーに身を震わせ喘ぎ声を上げる。
鈴口を全開に開き、数度目と思えない濃い精液を吐き出していると、まるで赤ん坊がおねだりするように子宮口が亀頭の先端を甘噛みした。たまらず輸精管の限界に挑むようにザーメンを大量に注ぎ込む。
ドプ…ドポォ、ドプゥ♡
「おうぅ…おぁ♡」
男の欲望を全身で受け止め、子宮を精液で満たされていく快楽に恭子は懊悩の言葉を漏らし、すがるように祐介の体をかき抱き、美しい鱗に覆われた下半身で一切の隙間も許さないと言わんばかりに抱き付いてきた。


長い射精を終え、汗で額に張り付いた綺麗な銀髪の前髪を整えると共に恭子の頭をそっと撫でていると、幾何かの理性をその瞳に蘇らせた恭子が甘く囁く。
「ふぅ…とっても素敵でしたぁ旦那様♡」
「とっても気持ちよかったよ。恭子はどうだった?」
「最高です♡」
そう言って笑顔を浮かべたかと思うと、恭子は祐介の首元に顔を埋め熱心にキスを施した。
「ねえ、恭子。」
「んちゅっ…なんですか、旦那様♡」
「前から気になっていたんだけど、恭子って時々そうやって首元にキスしてくるけど…何か意味でもあるの?」
「ああ、それは…」
恭子はまるで幼い子供が悪戯をとがめられたように頬を染めて微笑むと、祐介の首筋を手で撫でながら口を開いた。

「旦那様の首元にほくろがあるでしょう?それがとってもセクシーで、セックスの合間に、こうして抱き合っていると無性に吸い付きたくなっちゃうんです♡」

「え、ほくろ…セクシー?」
「ええ。私は種族なのか家系なのかほくろがないんです。だからこそ自分にはない、大好きな旦那様の体にあるほくろってとっても魅力的に感じるんです。不思議に思うかもしれませんが、私にとっては堪らなくセクシーなんです。うふふ、旦那様のどこにほくろがあるか全部把握していますよ。例えば」
そこで一拍空け、その瞳に熱を宿しながら左手をそろそろと祐介の体を這わせ

「右の脇腹のここ。」

右手を愛おし気に背中をなでながら

「左の肩甲骨の辺りのここ。」

そうやって楽し気に、恭子は祐介のほくろを指摘していった。

一連の行動からは、深い愛情とこれ以上ないほど強い祐介への執着が溢れている。
その愛情や執着の深さは、彼女の白蛇という種族だからこそなのかどうかは分からない。それでもそうやって思ってもらえることが純粋に嬉しかった。だからある意味、深く愛し合った先ほどまでの性行為よりも思いもしなかった彼女のフェチリズムと共に鮮明に祐介の記憶に焼き付いて離れないものとなったのだった。




……………




「とまあ、そんなことがあってね。」
「…………。」
「お前の躰を調べつくしてやるぜぐへへぇと行動していたのはお母さんであったわけさ。で、その時の記憶とほくろが体にないってお母さんの言葉が強くインプットされたんだろうなあ。だからこそエイプリルフールでああいう風に言われたときにあんなに反応しちゃったんだ。」
想像もしていなかったのか、呆然としている咲に優しく語り掛ける。
「今の咲には完全に理解できないかもしれないけれど、覚えておいて。きっと咲が誰かと愛し合い、結ばれたならばきっとお母さんの気持ちも…分かる時が来るさ。」

「二人で楽しそうに何を話しているんですか。」
「何を話しているの?」
そこへ片づけを終えた二人がやってきた。
「いやあ、いかに恭子が愛してくれているか咲に話していただけだよ。」
「ちょ、ちょっと旦那様!?」
「わぁお父さんとお母さんはラブラブなんだねぇ!」
「そうだよ、お父さんとお母さんは世界一ラブラブなんだ。」

こうして今日も安藤家は平和に過ぎていく。



20/05/31 11:30更新 / 松崎 ノス
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■作者メッセージ
前回のエイプリルフールで考えてはいたんですが、読むテンポが悪くなっちゃいそうなので書かなかった部分を仕上げてみました。

人間でもそうですが、自分にない部分を好きになるというのは魔物娘さんも変わりはないのはなかろうかと、そして嫉妬深い白蛇さんであればそういうところにも執着しそうだなあと思いこのような形になりました。

ほくろを指し示す恭子さんの目にハイライトがなければちょっとした案件になりそうですが、あくまでカップルが事後にいちゃついていると思ってもらえると嬉しいです(笑)。

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