「サウナ？」
「はい、そうです。広告がここにあるんで見てもらえますか、旦那様。」
昼食を終え、ほっと一息をついた午後の一時。
妻の春代が差し出してきたのは、新聞に挟まれていたという家庭用サウナの広告だった。空間魔術を使用したスペースを必要としないサウナが主流らしく、使用後の片付けも楽、火を使わずに魔物娘の魔力で器具を稼働させ適切に温度や湿度をコントロールするということで安全、アフターケアもばっちり、そしてなにより価格もお手頃ということで堅実な出荷数と人気を獲得しているようだ。
「サウナかあ。」
数度しかサウナを利用したことがないが、悪い印象はない。
広告に書かれている説明によると、青い猫型ロボットのどこにでもいけるドアのようなものを壁に設置し、開くとそこに使用者の体格に合った空間のサウナが生成されるようだ。確かに秘密で便利な道具のようだが、販売しているのはどうやら商売上手のタヌキさんらしい。
「サウナはデトックスできて健康にええっていいますし、このサウナなら体の大きいラミアのうちでも旦那様と一緒に楽しめるんやないかなあって思いまして。」
朗らかに笑う春代の笑顔に頷いて答える。
「じゃあこの、大きな奥様と一緒にっていうタイプを購入してみようか。」
「はい。じゃあ今から電話して、注文して来ましょう。」
「よろしくね。」
「はい。」
尻尾の先を機嫌よさそうに振りながら携帯を取り出し、春代はにっこりと笑ったのだった。


そんな会話から数日後。
家に帰宅し着替えをするために風呂場に向かうと、脱衣所の壁に、朝にはなかった真新しい扉が設置されていることに気が付いた。
「あれ、これって…」
後からついてきた春代が利一の言葉に応える。
「注文していたあのサウナですよ。」
「へえ、届いたんだね。」
「はい。設置も僅か数分で済んで、すぐにでも使えるって業者さんがゆうてました。稼働はまださせていないんやけど、試しにうちが入っても十分余裕があって、窮屈さを全く感じませんでしたよ。」
「それは、一緒に入るのが楽しみだ。」
そう言うと、妻は利一の耳元へ顔を寄せて囁いた。
「なら…さっそくサウナを楽しみましょうか。うちがサウナの準備をしておくんで、旦那様はシャワーを浴びてきてください♡」
春代はどこか淫らな雰囲気を醸し出す笑みを浮かべ、提案したのだった。




シャワーを浴びている時も、サウナの扉に手をかけた時だって利一は想像もしていなかった。

ただ春代とサウナを楽しむ、その程度にしか考えていなかったのだ。

そう、準備ができたサウナの扉を開けるまでは。




扉を開くと同時に、サウナ独特のむわっとした熱い空気が頬を打つ。
その瞬間、利一は思わずごくりと息を飲んでしまう。湿気を多く含んだ室内の暑い空気は、ただの空気ではなかったからだ。それは明らかに今まで利用してきたサウナと決定的に違っていた。

「さあ、旦那様こっちへどうぞ♡」
サウナの中心に置かれた大きいベンチに、全裸で腰掛けた春代が手招きする。

蒸気でうっすらと桃色に染まり汗ばんだ珠の肌
美しい髪が肌に張り付く艶姿
結露によっててらてらと光り輝く真っ白な蛇の鱗

そして熱に潤んだ切れ長の眼がこちらをまっすぐに見据え放さない。

そんな妻がいるサウナには一般的に充満する檜や薬草の香りの代わりに、愛する彼女から発する甘い体臭、この世で唯一利一を狂わせる魔力がサウナの室内に充満しているのだ。しかもサウナの熱い水蒸気と合わさり、一息吸うだけでむせ返るほど妻の芳醇な匂いが肺の中へ浸み込んでくる。普通のサウナでさえ多少息苦しくなるものだが、これはレベルが違う。もはやサウナに入るというより、強烈なまでに刺激的で濃縮された匂いの塊の中に入るような錯覚を起こしてしまうほどだ。もう数えきれないほど身を重ね合い、既にぬぐえぬほど春代の体臭や魔力が浸み込んでいる我が身とはいえ、これだけ濃密で圧縮された空間に踏み込めば、今まで以上に強くこの身にその存在を刻み込まれてしまうことになりそうだ。

「旦那様、温度が下がってしまうんで、扉を閉めて早くこっちへ来てくださいな♡」
想像もしていなかった驚きに身を固め、入り口で立ち尽くしている利一を春代が優しく中へと誘う。
「あ、ああ…」
その言葉になんとか応え、利一は室内へ入り扉を…閉める。

ムワァァ

「う、ぁ」
外気を遮断した室内は、強烈だった。
咽返るほど濃厚で、利一の愛するただ一人のメスのにおい。充満する気体に逃げ場はどこにもなく、空気も水蒸気も、なにもかもが春代によって染め上げられ、一息一息、外気を吸うごとにインキュバスの体を甘く切なく苛んでいく。そして体の余分なものが半ば追い出されるようにして汗となり噴き出していくのが分かる。これはもはやデトックスなどという生易しいものではない。匂いだけでギンギンに勃起したペニスに歩きにくさを感じながら、誘蛾灯に誘われる哀れな虫のようにふらふらと春代の元へと近寄っていく。
「ふふふ、いらっしゃいませぇ♡」
「は、春代…」
「一緒に、サウナを楽しみましょうねぇ♡」
近寄ってきた利一をその細腕で受け止め、後ろから絡みつくように春代が抱き付いてくる。
「ちょ、ちょっと待って」
「待ちません、いや、逃がしませんよ♡」
そしてあっという間に春代自慢の蛇体でぐるぐる巻きにされ自由を奪われた。
部屋に充満する匂いの発生源である彼女からはどこよりも甘ったるく濃い匂いが香りたち、背中に押し付けられる豊満な胸のぷりぷりとした感触が屹立した一物をさらに固くさせ、だらだらと先走り汁を垂れ流してしまう。
「あら、まだ何もしていないのに…もうこんなに♡」
「う、それは…」
「それはぁ？」
「しょ、しょうがないじゃないか…は、春代の匂いをこれだけ嗅いで平静でいるなんて…無理だよ。」
息を吸うごとに動悸が早まり、性的な欲望が身を震わせる。
「うふふ、それなら妻としてぇ…旦那様の期待に応えなきゃいけませんが」
そこで言葉をいったん切ったかと思うと、背中から首、そして耳元へと舌を這わせ、終いにはじゅるじゅると耳たぶをしゃぶりあげてくる。
「んふぅ…旦那様の汗、しょっぱくて美味しぃ♡」
「んひぃ、いぃ！！」
「サウナの温度設定は安全のため一番低温にしてはいますが、サウナの中で激しい運動は禁物。」
そう言うと、春代の細く美しい腕がするすると利一の体を撫でまわしながら股間へと延び、そっと包み込むようにペニスを握りしめる。

「だからうちの手コキで、ゆぅくり、じっくりお相手しますねえ。」

「そ、そんな、ひゃぅ。」
「うふ…気持ちよくなってくださいね、旦那様♡」
限界まで硬くなり、快楽を求めているペニスに甘い刺激が走った。
春代は利一の反応に機嫌を良くしたように耳元で息を吐きながら手の動きを徐々に早めていく。

しゅ、っしゅ…ズリ、ズリュゥ、もみもみ♡

右手の指でリングを作り、優しく締め付け絞るように上下させつつ、左手でじゅくじゅくと精液を滾らせる睾丸を癒すように揉みしだく。
「あぁ…あっひぃ…うう！」
ゾクゾクとした痺れが背中を走り、腰がガクガクと快楽を求め勝手に震えそうになってしまうが、それを妻のスベスベとした蛇体が許すことはない。
「いくらインキュバスの旦那様でも、サウナで暴れちゃ、危ないので駄目です♡」
「あぁぁっ、春代！」
「分かっていますよ、旦那様♡もっと気持ちよくなりましょうね〜。」
それまで愛おしそうに精巣を刺激していた左手をペニスの先端にかぶせ、カウパーを潤滑油のように纏わせながら亀頭を撫でまわし、右手はぱんぱんに膨れ上がった竿を先ほどよりも強い力で握り扱き上げる。
「はぁっ、くう…ああっ」
半開きに開けた口からだらだらと涎が出るのを止めることができない。
息をすれば匂い自体が快楽なのではと思うほど濃い香りが体を侵食し、それを加速させるように春代の愛撫が全身を襲う。もう何年も行っていない自慰とはまるで次元の違う、底なし沼にずぶずぶとはまっていくような春代の手淫に、ただただ快楽のことしか考えられなくなっていく。

「受け止めるので、いーっぱい出してくださいねえ、はむぅ♡」
耳たぶを口に含みながら、春代が本気で搾精へと移行する。
チュクチュク、ぐっちゅぐっちゅ、じゅくじゅく♡
指に痛くならない絶妙な強さを込め、射精へ向けて容赦なく絞られる。
自身の先走りや汗、春代の汗とが一体となり、室内に淫猥な水音が響き渡り、より一層気分を高揚させ本能を刺激する。
「も、ダメ…で、でる、でちゃう。」
限界まで傘を広げた亀頭を激しくこすりあげられ、射精の体制に入った睾丸を優しく揉み上げられてしまい、あっという間に限界が訪れる。

ドグドグッ、ビュグゥッ…ビグビグッ
「すごい、たぁくさん出てる、出てますよ旦那様♡」
インキュバス特有の大量ザーメンを尻尾の先と手の平で器用に受け止めながら嬉しそうに春代が声をあげる。
「う、くぅ…で、でる、まだ…でる！」
一方利一は荒く息をつくたびに体に入ってくる空気に肺胞の隅々を犯しつくされ、思考を真っ白にし、ただただ射精をするのが精いっぱい。肩で息をしながら最後まで吐精していく。

だがその一回で魔物娘の妻が止まるはずもなく、口移しによる水分補給を受けつつ何度も何度も射精するまで利一はサウナから出ることはできなかった。





……………………




「はぁはぁ…う、出る！」
「ああ、旦那様♡」
子宮を押し上げるように奥まで突き刺さったペニスから精液が迸る。
サウナを出て、焦らしに焦らされた利一の欲求はもはや抑えることのできない段階に至っており、押し倒すように春代を床へ組み伏せ、濡れた女性器へといきり立った男根を挿入した。そして獣のように荒々しく腰をふりたくり、吐き出される精液の『純度』の高さに春代は感激と共に絶頂した。

春代が何故サウナを求めたのか。

二人で健康に、より良い生活を送りたいという気持ちも当たり前のようにはあるが、それが全てでは、ない。

それは利一の射精、夥しく吐き出されている精液がその答えだった。
たまたま新聞の折り込みでサウナの広告を目にした時に、自身の持つ強力な水の魔力でサウナ内の蒸気を満たし、旦那様の体から余計なものをデトックスよろしく吐き出すことができれば、よりよい射精、まっさらで綺麗な精液をこの身に受けることができるのではなかろうかと偶然に思いついてしまったのだ。

結果は見事に成功。
これまでも堪らなく蠱惑的であったザーメンが、より洗練されて我が身を孕まさんと吐き出される快感は筆舌に尽くしがたいものとなった。

勿論、やり過ぎて旦那様の身に何かがあってはいけないので節度をもった回数でなければいけないが、この快楽を知ってしまってはどうもやめられそうにはない。

そんな魔物娘らしい享楽と、旦那様を心配する良心に揺られながらたっぷりと胎内に吐き出される精液の刺激に半ば意識を失いながら、次はいつ二人でサウナを楽しもうか春代は考えつつ再び絶頂へと向かって子宮からの甘い刺激にその身を震わせたのだった。

■作者メッセージ
久々にサウナを利用して思いついたネタです。

サウナは数回しか利用したことがありませんし、ざっくりとしか調べられていませんので何か間違いがあるかもしれませんが、たぬき印の特別製品と思っていただけると助かります。

そんな一発ネタの今作でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございました！！